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金融政策決定会合議事要旨

(2004年 5月19、20日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年6月25日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 6月30日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年5月19日(14:00~15:56)
5月20日( 9:00~11:59)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦 (総裁)
  • 武藤敏郎 (副総裁)
  • 岩田一政 (副総裁)
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (審議委員)
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞 (審議委員)
  • 春 英彦 (審議委員)
  • 福間年勝 (審議委員)
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官
  • 内閣府 大守  隆 大臣官房審議官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室調査役内田眞一
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室調査役村上憲司
  • 企画室調査役加藤 毅
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(4月28日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は概ね31~33兆円台で推移した。こうした調節の下で、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30~35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、短期金利は総じて低位で安定的に推移している。

 株価は、米国金利の先高観の高まりなどを背景とした利益確定売りが嵩む中、大きく下落し、10千円台後半で推移している。

 長期金利は、米国長期金利が上昇する一方、株価が下落したことから、前回会合時と概ね同水準の1.5%前後となっている。この間、民間債流通利回りの対国債スプレッドは、総じて安定的に推移している。

 為替市場でも、円の対米ドル相場が、米国金利の先高観の高まりや海外投資家による日本株売却などから下落し、最近では112~114円台となっている。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、バランスのとれた成長を続けている。2004年1~3月期の実質GDP速報値は、前期比年率+4.2%と引き続き堅調な伸びとなった。個人消費や設備投資が着実に増加するもとで、生産も増加傾向を辿っている。雇用についても改善がより明確になっている。この間、物価面では、エネルギー価格や生産者物価指数の原材料・中間財が大幅に上昇しているほか、消費者物価指数(除く食料品・エネルギー)も緩やかに上昇している。

 ユーロエリアでは、ユーロ高の一服もあって企業コンフィデンスにやや明るさがみられつつあるが、生産の回復が滞り気味となっており、企業部門の持ち直しが足踏みしている。また、家計部門の支出も依然低調であり、回復のモメンタムはなお弱い。この間、英国経済は着実に成長している。

 東アジアでは、景気回復の足取りは引き続き力強い。中国では、内外需ともに力強い拡大が続く中、当局による投資過熱抑制策が講じられている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、IT関連財を中心に輸出・生産が増加傾向を辿っている。物価面では、食料品値上がり等から消費者物価指数の前年比が緩やかながら上昇している。

 米欧の金融市場をみると、米国の利上げ早期化観測が強まるもとで、長期金利が上昇した。また、地政学的リスクの高まりや原油価格高も加わり、株価は下落した。ただし、社債の対国債スプレッドや株価のボラティリティは低い水準にあり、投資家のリスク回避姿勢は、これまでのところ落ち着いた状態が続いている。

 エマージング金融市場では、米欧の金利上昇のほか、政局不透明感や地政学的リスクの高まりなどの影響から、多くの国・地域で株価・為替相場が下落し、エマージング債の対米国債スプレッドが拡大している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、米国や東アジアを中心とした海外経済の拡大を背景に、10~12月に前期比+6.4%と大幅に増加した後、1~3月も+4.1%と高い伸びとなった。地域別にみると、東アジア向けが高い伸びを続けているほか、米国向けも10~12月に続いて増加し、EU向けも高い伸びとなった。財別には、情報関連財や半導体製造装置などの資本財・部品が増勢を続けているほか、中間財(化学、鉄鋼)もかなりの増加となった。

 輸入も、東アジア域内を中心とする国際分業が進んでいる情報関連財や資本財・部品等を中心に、増加を続けている。

 設備投資は、回復を続けている。実質GDPベースの設備投資は10~12月の高い伸びの後、1~3月も引き続き増加した。また、資本財出荷(除く輸送機械)も、1~3月は減速しつつも、半導体製造装置を中心に増加を続けた。この間、先行指標の一つである機械受注(船舶・電力を除く民需)は、10~12月に大幅増加した後、1~3月は減少したが、均してみれば増加傾向にある。4~6月の見通し調査も、製造業では着実な増加が見込まれており、内外需要や企業収益の増加、生産の動向を踏まえると、先行きの設備投資も製造業を中心に増加が続くと予想される。

 家計部門の動向をみると、賃金面は、なおはっきりした下げ止まりを確認できない状態が続いている。一方、雇用面をみると、失業率や有効求人倍率などの労働需給に関連する指標は改善傾向を続けており、労働力調査の雇用者数は前年を幾分上回って推移しているほか、毎勤統計の常用労働者数も前年比マイナス幅が縮小傾向にある。雇用者所得全体では徐々に下げ止まってきている。

 個人消費についてみると、実質GDPベースの消費支出は1~3月も前期並みの高めの伸びとなったほか、各種の販売統計も区々の動きとなってはいるが全体としてはやや強めの基調で推移している。この間、消費者コンフィデンスを示す指標は総じて改善傾向にある。

 こうした下で、生産は、10~12月が+3.9%と大幅に伸びた後、1~3月は+0.5%の伸びに止まった。もっとも先行きは、4、5月の生産予測指数やミクロ・ヒアリング、内外需の回復を踏まえると、再び増加テンポが速まる蓋然性が高い。この間、在庫は、電子部品等で前向きの在庫積み増しがみられているが、全体としてみると、横這いないし減少気味であり、循環的には生産の増加が途切れにくい局面にある。

 物価動向をみると、国内企業物価は、内外商品市況の上昇や需給の改善を反映して上昇している。内外の商品市況高を受け、石油や非鉄、鉄鋼関連の上昇が目立っており、これらの分野では、素原材料から中間財への価格転嫁がはっきりしてきている。先行きについても、原油高や為替の円安化の影響もあって、当面上昇を続けるとみられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、一時的要因も押し上げに働く中、ゼロ%近傍で推移している。先行きは、需給バランスが徐々に改善しつつもなお緩和した状況のもとで、小幅のマイナスを続けると予想される。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスは維持されているものの、設備投資が増加するなど企業活動が上向きつつあることから、減少テンポが幾分緩やかになってきている。一方、銀行は、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、全体としては貸出姿勢を引き続き幾分緩和している。この間、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰り判断は、改善が続いている。

 CP・社債の発行環境は総じて良好な状況にある。CP・社債の信用スプレッドは幾分低下しており、発行残高も前年を上回って推移している。

 銀行券発行残高の伸び率は、金融システムに対する不安感の後退などから低下傾向を続けている。こうした中で、マネタリーベースの伸び率は、前年比6%台となっている。マネーサプライ(M2+CD)は、伸びをやや高め、前年比1%台後半となっている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、前回の会合以降、景気判断に基本的な変化はなく、「景気は緩やかな回復を続けており、国内需要も底固さを増している」という認識を共有した。こうした見方について、多くの委員は、1~3月の実質GDPの反動減が予想外に小さく、かつ内需の寄与度が高かったことからも確認されると述べた。

 先行きについても、「景気は当面緩やかな回復を続ける中で、前向きの循環が次第に強まっていく」との見方が共有された。この間、多くの委員は、前月公表した「経済・物価情勢の展望」で指摘した「上振れ・下振れ要因」の一つである海外経済・金融動向について、一段と注意深く確認していく必要があることを指摘した。

 まず海外経済に関して、多くの委員は、米国や中国を中心に世界経済が全体として拡大を続けていることを確認した。また、先行きについても、蓋然性の高い見通しとして、米国はバランスのとれた成長を続け、また、中国を中心とする東アジアも高成長が続くとみられると述べた。

 米国経済については、多くの委員が、非農業部門の雇用者数やISM雇用指数など様々な指標から雇用情勢の回復が確認されたことを取りあげ、バランスのとれた成長を続ける可能性が高まっているとの見方を述べた。ただし、雇用情勢の回復によるユニット・レーバー・コストの上昇や原油等の素原材料価格の上昇が企業収益に与える影響、原油価格の上昇が消費に与える影響には、特に注意していく必要があると付け加えた。また、原油価格の上昇もあって、物価の上昇率がやや高まってきていることを指摘した。

 アジアに関しては、多くの委員が、中国経済について言及し、消費の増勢持続と固定資産投資の高い伸びから、高めの成長を続けるとの見方を共有した。何人かの委員は、景気過熱抑制策が奏効し、景気のソフトランディングが実現するかどうかに注目していきたいと述べた。ひとりの委員は、中国政府はかなり早めの対応をとっており、既に商品市況の値下がり等の具体的な効果が現れていることもあって、中国経済のソフトランディングを展望し得る状況にあるとの見方を示した。この間、複数の委員は、食料品価格の上昇を主因とした消費者物価の上昇率の高まりや、資産価格の上昇について言及した。

 多くの委員は、米国の利上げ予想の強まり、中国の景気過熱抑制策の強化、原油価格高や地政学的リスクと、これらを受けた海外金融資本市場の不安定な動き等、海外経済に起因するリスク要因について触れ、今のところ海外経済に関するこれまでの見方を変更する必要はないが、一段と注意を払っていく必要性が増してきていると述べた。さらに、何人かの委員は、各国の経済物価情勢に変化の兆しがみられる中で、世界的な金融緩和・低金利と、このもとでの世界的な資金の流れが、今後どのように変化していくのか、注目していきたいと付け加えた。

 また、何人かの委員は、わが国のエネルギー輸入依存度の高さもあって、原油価格高がわが国の実体経済・物価面に与える影響には特に留意する必要があるとコメントした。

 わが国の輸出について、複数の委員は、海外経済の拡大を受けて、IT関連財を中心に、大幅な増加が続いていると述べた。また、海外経済におけるリスク要因は懸念されるものの、当面輸出は増勢を辿るとの見方を示した。

 内需に関し、設備投資は、製造業を中心に基調としては強いことが改めて確認された。何人かの委員は、先行指標である機械受注にやや弱めの数字が出ているが、1~3月のGDP統計や資本財出荷は、10~12月の高い伸びから若干の減速に止まっていることを指摘し、好調な企業収益や短観の設備投資計画、建設投資の動向や生産の先行き見通しが強いことも踏まえると、設備投資の基調に変化はないとみられると述べた。ひとりの委員は、内閣府の企業行動に関するアンケート調査から、企業の期待成長率の上昇が確認できることなどを挙げ、先行きも設備投資は回復を続けるとの見方を示した。

 家計部門に関しては、何人かの委員が、個人消費について、足許やや強めの動きとなっており、消費者態度指数の回復などマインド面の改善もみられていることを指摘した。複数の委員は、1~3月のGDP統計の数字自体は、各種販売統計に比べてやや強めに出ている可能性があるとの見方を示した。

 雇用面について、何人かの委員は、有効求人倍率や雇用者数の改善傾向が続いているほか、非自発的離職者数が基調的に減少しており、失業率も低下していることを指摘した。一方、賃金面については、前年比マイナスが続いており下げ止まりが確認できていないとの認識を示した。

 個人消費が雇用・所得との対比で強めであることについて、何人かの委員は、貯蓄取り崩しにより消費を行う高齢者層のウエイト増加が全体の消費性向を高めている可能性、雇用調整の終息感に伴うマインドの改善が消費意欲を高めている可能性、雇用者所得では捉えきれない退職金や年金等の動向が影響を与えている可能性などが仮説として考えられると述べた。ある委員は、家計の可処分所得をより正確に把握することが重要であると指摘した。

 さらに、何人かの委員は、消費の本格回復には、所得面の裏付けが不可欠であり、雇用・所得の裏付けを伴うしっかりとした消費の回復に繋がっていくかどうかは、なお確認に時間を要するとの見方を述べた。

 ある委員は、住宅投資について、これまで低調に推移してきたが、首都圏の地価の下げ止まり傾向にみられるように、状況が若干変化してきている可能性もあると指摘した。

 生産について、多くの委員は、10~12月に大幅増加した後、1~3月は減速したが、内外需の動向を前提とすると、4~6月についても、それなりの増産ペースが維持される見通しであると述べた。また、複数の委員は、在庫について、電子部品等の一部に前向きの在庫積み増しの動きも出ているが、全体としてみると依然横這い傾向であり、在庫循環面からは生産の増加が途切れ難い状態が維持されているとの見方を示した。

 物価面に関しては、まず、国内企業物価について、多くの委員が、原油価格を中心とした内外商品市況の上昇と、需給の改善を受け、3か月前比でみて+0.6%とやや大きめの上昇となったこと、特に中間財の上昇幅がさらに拡大していることに言及し、川上から川中への波及はやや想定を越えて広がってきているとの見方を示した。また、今のところ最終財への影響は限定的ながら、需給ギャップが着実に縮小しているだけに、消費者物価の動向も含めて、物価の基調が変化していないかどうか予断を持つことなくみていくことが大事であると述べた。ひとりの委員は、需給ギャップは物価の基調に影響するが、1~3月の実質GDP成長率の高さを踏まえると、2004年度には需給ギャップが相当程度縮小する可能性が高いことを念頭においておくべきと付け加えた。

 一方、消費者物価については、何人かの委員が、これまで想定してきた、(1)需給ギャップは縮小しつつもなお物価低下圧力として残っている、(2)ユニット・レーバー・コストの低下で、川上の物価上昇の影響は企業段階である程度吸収される、といった基調的な判断を変える必要はない、と述べた。もっとも、(1)中間財への波及が強まっていることにみられるように、物価は一旦上昇を始めるとそのテンポが速まる可能性があること、(2)原油関連の消費財はガソリンなど加工度の低いものが多いため、企業段階での吸収が難しいこともあり、今後の原油価格の動向や円安の影響がどのように出てくるか、慎重に見守っていく必要がある、との認識を示した。この点、何人かの委員は、原油価格の上昇は、物価面のみでなく、経済活動にも影響を与え得るので、時々の経済情勢と物価情勢の両方を丹念に点検していくことが大切であるとの見方を示した。また、何人かの委員は、需給ギャップに対する物価の反応度合いがこれまでと比べ変化している可能性も意識していく必要があると述べた。

2.金融面の動向

 金融面に関し、多くの委員は、海外市場の動向とその国内市場への影響という観点から意見を述べた。

 海外金融・資本市場については、多くの委員が、米国の利上げ早期化の観測が高まるもとで、多くの国・地域で金利上昇と株価の下落がみられ、エマージング諸国債の対米国債スプレッドが拡大していると指摘した。何人かの委員は、これまでのところ、米国金融当局による対応が奏効し、金融市場におけるポジション調整は大きな混乱なく進んでいるとの認識を示した上で、今後の金融市場の展開に注目していく必要があると述べた。

 多くの委員は、こうした海外市場の影響が、わが国の金融・資本市場にも一部及んでおり、株価は、海外投資家による利益確定の売り等もあってやや大きく下落し、円の対米ドル相場も下落していると指摘した。ひとりの委員は、わが国の経済実態や投資家へのアンケート調査で日本株への強気の見方が変わっていないことなどを踏まえると、株価がさらに大きく下落する蓋然性は低いとの見方を述べつつ、株価が企業・消費者マインド面に与える影響には注意が必要と付け加えた。

 一方、短期金融市場については、多くの委員が、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、極めて緩和的な状況が続いているとコメントした。また、長期金利も、世界的な金利上昇傾向の中でほぼ横這いで推移しており、企業金融面も総じて緩和方向にあるなど、緩和的な金融環境が維持されているとの認識を示した。何人かの委員は、実体経済が回復を続けており、原油価格高も加わる中で、物価に対する見方も徐々に変化する可能性があることや内外長期金利の連動性が意識される可能性もあることから、金融市場の動きを見守っていく必要があると述べた。

 この間、ひとりの委員は、金融機関貸出の前年比マイナス幅の縮小や社債発行残高の増加など、企業金融面にも実体経済の回復を反映した動きが出てきていると述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30~35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 何人かの委員は、これまでのところ金融市場は安定的な状況にあり、企業金融も緩和的な環境が維持されているとの見方を示した。ただ、先行きについては、経済物価情勢の変化や海外金融市場の動向が、わが国の金融資本市場にどのような影響を与えるか注意が必要であると述べた。

 多くの委員は、現在の日本銀行の金融政策は、昨年10月に明確化した消費者物価指数を基準とする「約束」に沿って運営されており、市場とのコミュニケーションという観点からも、この点を常にはっきりさせておくことが重要である、との認識を示した。また、何人かの委員は、金融市場における安定的な価格形成の観点からも、日本銀行の政策運営を巡って不測の思惑を生むことのないよう、適切な情報発信を行っていくことが重要になっていると指摘した。何人かの委員は、将来的には、中長期的な観点からの金融政策運営について議論を行い、それを示していくことも必要になる可能性はあるが、現在は時機尚早であると述べた。ひとりの委員は、今は景気回復の持続性を確かなものとし、デフレの早期克服に向けて現行の政策を行っていくことが重要であると付け加えた。

 この間、ひとりの委員は、マネタリーベースの伸びが低下していることについて、金融システムを巡る不安感の一段の後退を背景とする銀行券の還流増加といった要因があり、ある意味で金融情勢の変化を素直に反映したものとみることができると述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 我が国経済の現状を見ると、先日(5月18日)公表されたQEによると、平成15年度の実質GDP成長率は+3.2%となるなど、景気は着実な回復を続けている。他方、デフレは依然として継続しており、その克服こそが我々の直面している最大の懸案であることに変わりはなく、引き続き金融政策の役割は重要であると考えている。
  • 日銀は、量的金融緩和政策継続のコミットメントを明確にし、それを堅持することとされているが、政府としても、足許の景気回復を確実ならしめるためには、こうした日銀の政策スタンスの継続が適当であると考える。
  • 日銀におかれては、引き続き機動的な金融政策運営を実施して頂くとともに、市場において無用な混乱が生じることを未然に防止するためにどのような新たな工夫が講じられるのか検討を進めて頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気は企業部門の改善に広がりが見られ、着実な回復を続けている。一方、原油価格の動向などが世界経済に与える影響には留意する必要があると考えている。物価面では、依然として緩やかなデフレ状況にあると考えている。
  • 従って、日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服すること及び内需主導の自律的回復を実現することである。このため、政府は6月上旬を目途に「基本方針2004」を取り纏め、これまでの改革の成果の拡大と集中調整期間の仕上げを行うとともに新たな成長に向けた基盤の重点強化を図ることとしている。
  • デフレ克服のためには構造改革の加速、拡大の政策努力を進める中で、政府の行うより強固な金融システムの構築に向けた取組みと日銀による金融政策の波及メカニズムの強化等を通じ、資金供給が拡大していくことが重要である。日銀におかれては、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示されているが、最近のマネタリーベースやマネーサプライの動向に十分鑑み、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、金融資本市場の動向にも留意のうえ、より効果ある調節手段の実施も含め、適切かつ機動的な金融調節を行って頂きたいと思う。
    また、本年1月に閣議決定した「改革と展望−2003年度改定」では、「名目成長率についても徐々に上昇し、2006年度以降は概ね2%程度あるいはそれ以上の成長経路を辿ると見込まれる」としている。こうしたことを踏まえ、集中調整期間後のデフレ克服を確実にするために、金融政策運営の基本的枠組みの検討を進め、さらに実効性ある金融政策運営を行われることを期待する。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30~35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30~35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(5月20日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は5月21日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(4月8、9日)の議事要旨が全員一致で承認され、5月25日に公表することとされた。

以上


(別添)

2004年 5月20日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。  日本銀行当座預金残高が30~35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上