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金融政策決定会合議事要旨

(2004年 7月12、13日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年8月9、10日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 8月13日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年7月12日(14:00〜15:43)
7月13日( 8:59〜12:17)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦 (総裁)
  • 武藤敏郎 (副総裁)
  • 岩田一政 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(12日)
    石井 啓一 財務副大臣(13日)
  • 内閣府 浜野  潤 政策統括官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局審議役前原康宏
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局審議役高橋 亘

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役清水誠一
  • 企画局企画役齋藤克仁

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(6月25日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は32〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ね0.001〜0.002%で推移し、7月上旬には小幅のマイナスとなった。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移している。

 株価は、6月下旬にかけて景気回復期待を背景に上昇したが、7月入り後は利益確定売りの動きや米国雇用統計の予想比下振れを背景とした米国株安などを受けて下落し、最近では11千円台半ばで推移している。

 長期金利は、5月の消費者物価指数の予想比下振れや株価の下落などを背景に低下している。この間、社債流通利回りの対国債スプレッドは、概ね横這い圏内での動きとなっている。

 為替市場では、米国雇用統計の予想比下振れなどが円買い・ドル売り材料視された一方で、わが国株価の下落などを受けたポジション調整の円売りの動きもみられたため、円の対ドル相場は108〜109円台でもみ合いの動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

 米国では、家計支出や設備投資などの最終需要が着実に増加している。また、生産や企業収益が増加するとともに、雇用も改善傾向にある。この間、インフレ率はごく緩やかに上昇している。このように、米国ではバランスのとれた景気拡大が続いている。

 ユーロエリアでは、輸出や生産など企業部門にやや明るさがみられているが、ドイツを中心に家計部門の支出が低調であり、回復のモメンタムはなお弱い。インフレ率はエネルギー価格を中心に高止まっている。

 東アジアでは、景気が順調に拡大している。中国では、政策当局による投資過熱抑制策が強化されるもとで、固定資産投資の増勢が幾分鈍化しているほか、生産も足許では伸び率がやや鈍化している。もっとも、全体としてみれば、内外需ともに力強い拡大が続いている。物価面をみると、食料品の値上がりなどから、消費者物価の前年比上昇率は高まっている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、大半の国・地域で輸出・生産が増加基調にある。物価面では、ほとんどの国・地域で、景気拡大や原油・食料品価格の上昇を反映して、消費者物価の前年比は緩やかに上昇している。

 米欧の金融資本市場では、FOMCの結果や6月の米国雇用統計の公表などを受けて、米国の利上げテンポが従前の予想よりも速くないとの見方が強まった。こうしたもとで、長期金利はやや低下し、株価も最近のレンジ内の動きではあるが、足許では低下している。

 エマージング金融資本市場では、米国の利上げテンポが緩やかなものになるとの見方が強まったことから、多くの国・地域で通貨や株価が上昇したほか、国債の対米国債スプレッドも縮小するなど、金融環境がやや改善している。もっとも、依然として各国独自の要因で大きな変動が生じやすい状況にある。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、米国や東アジアを中心とする海外経済の拡大を背景に、1〜3月に前期比+4.1%と大幅に増加した後、4〜5月の1〜3月対比も+1.9%と増加を続けている。地域別にみると、米国向けが緩やかな増加を続けている一方、東アジア向けはほぼ横這いとなっている。このうち、中国向けについては、前期の大幅増の反動に加えて、中国での景気過熱抑制策が、何がしか伸び率鈍化に影響している可能性もある。

 企業収益について、6月短観をみると、経常利益は2003年度に続いて2004年度もかなりの増益計画となっている。業種別にみると、製造業で大企業、中小企業とも二桁増益が続くと見込まれているほか、非製造業についても、全体として1割近い増益計画となっている。

 こうしたもとで、設備投資は増加を続けている。資本財出荷(除く輸送機械)は、1〜3月に前期比+3.4%となった後、4〜5月の1〜3月対比も+3.9%と半導体製造装置を中心に増加が続いている。先行指標の一つである機械受注(船舶・電力を除く民需)をみると、4〜5月は1〜3月対比+9.3%と製造業を中心に大幅増加となった。

 この間、6月短観で2004年度の設備投資計画をみると、製造業・大企業では前年度からの繰越案件もあって、前年度比2割増と極めて強い計画になっている。中小企業についても、製造業ではこの時点としてはかなり強い計画となっているほか、非製造業でも前年度比大幅なマイナスとなっているとはいえ、2003年度が二桁増で着地したことなどを踏まえると、底堅い動きとみることができる。

 雇用・所得環境をみると、求人関連指標は改善傾向を続けている。6月短観でみた企業の雇用過剰感も徐々に薄れてきている。こうしたもとで、労働力調査における雇用者数の増加傾向が次第に明確化しつつあるほか、毎月勤労統計の常用労働者数も増加に転じてきている。この間、賃金については、パート比率の上昇などから一人当たり平均でみた減少傾向が続いているが、基調的にはマイナス幅が徐々に縮小している。なお、5月の所定内給与の落ち込みについては、休日数が前年よりも多かったことによる面が強いとみられる。

 個人消費をみると、販売統計は区々の動きとなったが、家計調査の4〜5月の消費水準指数が1〜3月対比大幅な増加となるなど、全体としてやや強めの動きが続いている。この間、消費者心理を示す指標も改善傾向を続けている。

 こうしたもとで、生産は、1〜3月に前期比+0.5%と減速した後、4〜5月の1〜3月対比は+2.8%と再び伸びを高めた。在庫は、全体として横這い圏内で推移しているが、電子部品では在庫積み増しの動きが明確化している。この分野では、好調な内外需要からみて直ちに在庫調整圧力が高まるとは考えにくいが、携帯電話など一部の商品では販売予想が下振れるケースもみられており、当面、注意深くみていく必要がある。

 物価動向をみると、国内企業物価は上昇している。内訳をみると、内外の商品市況高を受けて、石油や鉄鋼関連の上昇が目立っているが、これらの分野では、需給環境の改善傾向も影響して、素原材料から中間財への価格転嫁が引き続き進捗している。一方、最終財については、ガソリンなど一部を除いて原材料価格からの波及の動きは限定的である。ただし、輸出や設備投資など需要が回復している資本財では、一頃に比べて価格下落幅が縮小してきている。

 消費者物価(除く生鮮食品)をみると、5月の全国は、帰属家賃のマイナス幅拡大を主因に、前月と比べて下落幅が若干拡大した。先行き、原油価格の上昇がある程度押し上げ要因として働くと考えられるが、基調的には、消費者物価の前年比は小幅のマイナスで推移すると予想される。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスは維持されているものの、設備投資の増加が続くなど企業活動が上向いていることから、減少テンポが幾分緩やかになってきている。また、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も改善の動きが一段と明確になっている。6月短観における中小企業の貸出態度判断D.I.は「緩い」超に転化した。こうしたもとで、民間銀行貸出は減少幅の縮小が基調として続いており、6月は前年比−1.3%となった。

 資本市場調達については、CP・社債とも信用スプレッドは低位安定しており、良好な発行環境が続いている。こうしたもとで、CP・社債の発行残高は引き続き前年を上回って推移している。

 マネタリーベースは、伸び率がやや低下し、前年比4%台となっている。マネーサプライ(M2+CD)は、6月は前年比+1.8%となった。

 この間、企業倒産は、企業の資金繰りの改善などを背景に、このところ減少傾向を辿っている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、前回の会合以降明らかになった指標に関して、(1)6月短観において、幅広い分野で業況感の改善がみられたほか設備投資の強さが確認された、(2)雇用面での改善の動きがさらにはっきりしてきた、(3)個人消費も強めの動きが続いている、などの点を指摘し、「景気は、生産活動や企業収益から雇用面への好影響を伴いつつ、回復を続けている」との認識を共有した。先行きについても、「景気は回復の動きを続け、前向きの循環も明確化していくとみられる」との見方が共有された。もっとも、複数の委員は、短観の業況判断について、製造業大企業と非製造業や中小企業との間で格差が引き続き大きいことを指摘したうえで、業種・企業規模・地域間の格差はなお縮小していない、との認識を示した。

 海外経済に関して、多くの委員は、米国や中国を中心に世界経済は順調に拡大している、との認識を示した。

 まず、米国経済については、バランスのとれた景気拡大が続いている、との認識が共有された。もっとも、何人かの委員は、(1)最近の経済指標は、雇用者数、非国防資本財受注、チェーンストア売上高など、市場予想を下回るものが散見される、(2)ブルーチップにおける民間の成長率見通しが下方修正されている、(3)株価がハイテク関連を中心に弱めの動きとなっていることなどを挙げ、米国景気にはやや減速感が窺われ始めている、と述べた。

 先行きについては、景気は緩やかに減速しつつも拡大傾向を辿るとの見方が示されたが、何人かの委員は、(1)ユニット・レーバー・コストが下げ止まりつつある中で今後インフレ率が高まってくる可能性、(2)先行きのFRBによる利上げのペースと実体経済への影響、(3)IT関連需要の持続性、(4)地政学的リスクや大統領選挙を巡る不透明感、などをリスク要因として指摘した。

 中国経済については、これまで採られてきた景気過熱抑制策の効果もあって、投資活動などに減速感が窺われ、景気過熱のリスクは幾分後退しつつある、との認識がほぼ共有された。しかし、複数の委員は、鉄鋼や非鉄、海運などの市況が再び上昇していることや、生産や固定資産投資の伸び率は依然として高いことを挙げ、景気が十分に減速せず、更なる引き締め策が必要となる可能性も否定できない、との認識を示した。この点に関連して、何人かの委員は、中国の景気過熱抑制策はマクロ政策によるものではなく個別の行政指導に基づいているため、その効果の程度は予想し難いことや、地域によって引き締め策の効果の出方が異なることから、今後とも、こうした調整が順調に行われるか仔細にみていく必要がある、との見解を述べた。

 内需面では、設備投資について、多くの委員が、6月短観における2004年度の設備投資計画が製造業・大企業で約2割の大幅増となっているほか、中小企業でも底固い計画となっていることを取り上げ、全体として予想以上に強い動きである、と評価した。ある委員は、リストラが一段落し、新しいビジネスモデルに基づく前向きな設備投資がみられ始めたことに加えて、世界的な情報関連財の出荷好調やオリンピックを前にした電子部品の品薄感などが投資意欲を高めている、と発言した。別のひとりの委員は、製造業で設備の廃棄・売却が進んでおり、設備の年齢構成が若返りつつあることも、設備投資の持続性を強める方向に作用している、と指摘した。一方、別の委員は、非製造業・中小企業の設備投資は、製造業と比べると相対的な弱さがみられる、との見方を述べた。

 多くの委員は、設備投資は今後もしっかりした増加を続けるとの認識を示した。

 こうしたもとで、企業の生産について、ある委員は、4〜5月は、1〜3月対比+2.8%と再び伸びを高めたことを指摘したうえで、先行きも、内外需要の回復を背景に増勢を辿るとみられる、と述べた。この間、別のひとりの委員は、電気機械類の在庫の動向に注目している、と指摘した。

 家計部門に関しては、多くの委員は、新規求人などの労働需給関連指標が改善傾向を続けていることに加え、雇用者数の増加傾向が明確化しており、企業部門からの好影響が明確になっている、との認識を述べた。

 こうした中、個人消費について、多くの委員が、4〜5月の家計調査の消費水準指数が、1〜3月対比+4.0%の高い伸びとなったことなどを指摘し、強めの動きを続けている、との認識を示した。このうち何人かの委員は、猛暑に伴う夏物商品の販売好調も明るい動きである、と評価した。先行きについては、複数の委員が、雇用者所得の改善が明確になる中で、個人消費は緩やかに回復していくのではないか、と述べた。

 物価面に関して、国内企業物価は内外商品市況高や需給全体の改善を反映して上昇している一方で、消費者物価は、基調として小幅の下落が続いている、との認識を共有した。

 こうしたもとで、委員の間では、景気回復が強まる中でも、消費者物価に大きな変化がみられない背景について、議論が行われた。多くの委員は、製造業を中心に生産性が上昇していることや、労働市場の規制緩和などにより賃金が抑制されていることが基本的な背景である、との認識を示した。生産性上昇の要因について、ある委員は、(1)景気回復期に特徴的な動きであるが、経済に余剰資源が大きいもとで、設備や労働の稼働率上昇によって一時的に生産性が高まっている、(2)ここ数年の企業の構造改革の成果が現れつつある、(3)ITなどの技術革新によって、より長い目でみて全要素生産性(TFP)が高まっている、などいくつかの可能性が考えられると述べた。別の委員は、経済の構造変化の中で、企業は、ビジネスモデルを変えながら、投資案件をROEやROIの高いものに絞っていることが、基本的な背景にあるのではないか、と指摘した。これらの委員を含む多くの委員は、いずれにしても、生産性の動向については、循環的な要因と構造的な要因の見極めが難しいため、今後の持続性については十分な注意が必要である、との認識を示した。

 この間、複数の委員は、景気と物価の乖離の原因として、消費財を中心に企業の価格支配力が低下していること、物価の下落が長く続いたため人々の間に物価下落予想がビルトインされていること、などについても言及した。

 消費者物価の先行きについては、基調的には小幅の下落が続くとの見方が共有された。何人かの委員は、足許の需要の強さを踏まえると、先行きある時点で物価上昇率が加速してくる可能性についても注意する必要がある、と付け加えた。もっとも、このうちひとりの委員は、非製造業においては、今後の生産性上昇余地が大きいため、やや長い目でみた場合、景気の強さが非製造業に及んだとしても、物価がなかなか上昇しない可能性もあるのではないか、と指摘した。また、別の委員は、団塊世代が退職を控えていることや、中小企業の労働分配率が高止まっていることが、今後、賃金の抑制要因となり得る点について、留意すべきである、と述べた。

2.金融面の動向

 金融面に関しては、前回会合以降の最大のイベントは米国の利上げであったが、内外市場の受け止め方は総じて落ち着いたものであったとの認識が委員の間で共有された。ただ、多くの委員は、金融市場は経済物価情勢や世界的な低金利環境の変化に伴い依然として振れやすい状況が続いているので、今後とも、市場の動きについては慎重にみていきたい、との意見を述べた。

 国内金融市場について、何人かの委員は、長期金利は一頃に比べて落ち着いている、との認識を示した。ひとりの委員は、5月の消費者物価の予想比下振れが、長期金利の低下に寄与したと指摘した。別の委員は、経済同友会が実施した長期金利上昇に関する企業の受け止め方についてのアンケート結果を紹介し、企業の間では、キャッシュ・フローが潤沢なもとで、急いで固定金利での調達を実施する動きはみられず、長期金利上昇について冷静に受け止めている、と述べた。同時に、複数の委員は、長期金利にはまだ不安定な要素もみられるため、今後の動向には注意が必要である、と発言した。この点に関連して、別のひとりの委員は、市場参加者の間では、当面の課題として、財政規律の重要性に対する認識が高まってきている、と指摘した。

 株価について、ある委員は、業種別株価の動きをみると、このところハイテク関連や銀行株など主要業種で下落している一方、素材業種で上昇していると指摘したうえで、これは中国の需要が再び強まっていることの反映という面もある、と述べた。

 為替市場について、何人かの委員は、円の対ドル相場は小動きで推移しており、大幅に変動するリスクはやや低下しているとの認識を示した。もっとも、複数の委員は、米国の経常収支赤字の存在や地政学的リスクを踏まえると、ドル安リスクには引き続き注意が必要である、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、企業金融面について、資金需要の減少テンポが緩やかになっているほか、金融機関の貸出態度は一段と積極化しており、企業金融を巡る環境は全体として改善してきている、との認識を示した。

3.中間評価

 以上のような経済・物価・金融面の情勢認識を踏まえ、4月の展望レポートで示した「2004年度見通し」との関係では、(1)景気は上振れて推移する、(2)物価面では、国内企業物価は上振れて推移する、(3)一方、消費者物価は、概ね4月時点での見通しに沿って小幅の下落基調が続く、との見方が共有された。

 上振れ・下振れ要因としては、引き続き、(1)海外経済の動向、(2)国内金融・為替市場の動向、(3)国内民間需要の動向、(4)不良債権処理や金融システムの動向、が挙げられることについて認識が共有されたが、何人かの委員は、最近の注目すべき要因として、米国・中国経済の動向に加えて原油価格の動向を指摘した。このうちひとりの委員は、原油価格については、国内景気が強いもとで、とりわけ物価に対する上振れリスクとして注意する必要がある、との認識を示した。一方、別の複数の委員は、原油価格の動向は、企業収益や最終需要を下押しする面もあるので、その動向については注視していきたい、と述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 何人かの委員は、短期の市場金利が弱含んでいるほか、資金供給オペのレートも低下しており、市場の資金余剰感は強まっている、との見方を示した。別のひとりの委員は、早期の金融政策変更に対する思惑は後退しており、金先レートも一頃と比べて低下していると付け加えた。この委員は、経済物価情勢の変化に応じて、市場が新たな落ち着きどころを模索している状況のもとで、日本銀行としては量的緩和政策を堅持する姿勢を示すことが重要、と続けた。別の委員も、「生活意識に関するアンケート調査」の結果からも窺えるとおり、人々の物価下落予想は後退しており、こうしたもとで駄目押しの緩和効果を発揮するためにも、量的緩和をしっかりと継続していくことが重要である、と述べた。

 何人かの委員は、今回の「中間評価」に関連し、対外的な説明の重要性について指摘した。これらの委員は、「景気は上振れ」、「消費者物価は概ね見通しどおり」という今回の判断はやや分かりにくい面があり、日本銀行が消費者物価を基準に量的緩和の継続を「約束」していることも考え合わせると、そう判断している背景について、日本銀行としての考え方を対外的に丁寧に説明していくことが重要である、と述べた。

 この間、何人かの委員は、FRBの利上げに際しての市場との対話について言及した。これらの委員は、FRBの政策運営についての考え方は市場に広く浸透していたため、市場では今回の利上げについて総じて落ち着いた受け止め方をしている、と述べた。また、こうした背景には、FRBが実際の利上げよりも相当前の段階からFOMCのステートメントや講演を通じて丹念に情報発信をしてきたことが挙げられる、と続けた。このうちひとりの委員は、経済情勢の変化に応じて市場が変動することは当然であり、今回も利上げ前の段階では、経済統計の公表の際に相応の金利の変動がみられた、と述べたうえで、情報発信の前提には、正確な情勢判断があり、日本銀行としても、今後の金融政策運営に当たっては、物価情勢を含めた経済情勢全般について正確な情勢判断を行うとともに、それに基づく適切な情報発信を心がけていきたい、と付け加えた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状を見ると、景気は着実な回復を続けているものの、デフレは緩やかながらも依然として継続しており、引き続き金融政策の役割は重要であると考えている。
  •  こうした中、本日公表の「経済・物価情勢の展望(2004年4月)」の「中間評価」、とりわけ消費者物価の見通しに関しては、これが世間の注目を受けていることを十分に勘案のうえ、慎重にご判断頂きたいと思う。
  •  日本銀行は、量的金融緩和政策継続のコミットメントを明確にし、それを堅持することとされているが、日本銀行におかれては、引き続き経済・市場動向を十分注視し、現在の金融市場調節方針でも述べられているとおり、市場が不安定化するおそれがある場合には、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。
  •  加えて、緩和的な金融環境の継続に関し、様々な憶測が完全に払拭されていない状況のもとで、このような憶測を払拭するとともに、景気回復を持続的なものとするため、今後、どのような新たな工夫を講じることができるのか検討を進めて頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は、企業部門の改善が家計部門に広がり、堅調に回復している。一方、世界的な金利動向等が経済に与える影響には留意する必要があると考えている。物価については、景気の着実な回復により、需給ギャップが縮小する一方、銀行貸出の低迷等からマネーサプライの伸びが低い中で、素材価格の上昇により国内企業物価は僅かな上昇を示しているが、物価動向を総合的に勘案すれば、デフレ克服は道半ばの状況にある。
  •  日本経済の重要な課題はデフレを早期に克服することと民需主導の持続的な成長を図ることである。このため、政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」を早期に具体化することとしている。本方針では、日本銀行と一体となった政策努力によりデフレからの脱却を確実なものとしつつ、新たな成長に向けた基盤の重点強化を図ることとしている。このような取組みの結果、「平成18年度以降は名目成長率で概ね2%程度あるいはそれ以上の成長経路を辿る」と見込んでいる。
  •  日本銀行におかれては、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示しているが、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、効果的な資金供給に繋がるような措置を含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたいと思う。また、景気の堅調な回復に伴い長期金利の動向が注目を集めていることにも鑑み、日本銀行におかれては、専門的な立場からの検討を進めて頂き、デフレ克服までの道筋を含め、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努めて頂きたいと思う。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、
    須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(7月13日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は7月14日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(6月14、15日)の議事要旨が全員一致で承認され、7月16日に公表することとされた。

以上


(別添)
2004年 7月13日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上