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金融政策決定会合議事要旨

(2004年 9月 8、 9日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年10月12、13日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年10月18日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年9月8日(13:59〜15:45)
9月9日( 8:59〜11:26)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(8日)
    石井 啓一 財務副大臣(9日)
  • 内閣府 藤岡 文七 大臣官房審議官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局審議役前原康宏
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役加藤 毅
  • 企画局企画役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(8月9、10日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は30〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、8月11日に小幅のマイナスとなった以外は、概ね0.001〜0.002%で推移した。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移している。

 株価は、8月央にかけて、原油高等による米国株価の下落や、わが国実質GDPの予想比下振れから下落した後、米国株価の反発等を材料に上昇に転じ、足許では日経平均で、前回決定会合時とほぼ同じ水準となる11千円台前半で推移している。

 長期金利は、内外経済指標の予想比下振れを受け、景気回復に対する見方が慎重化したことを背景に低下したが、足許にかけては、株価の上昇等もあって1.6%前後の水準にまで上昇している。

 為替市場では、内外経済指標等を眺めてもみ合いの展開となり、最近では、108〜110円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、設備投資や家計支出などの国内民需に支えられて、景気拡大が続いている。ただし、4〜6月の実質GDP(速報値)は年率+2.8%と、1〜3月(同+4.5%)に比べて減速したほか、雇用についても、春先以降その増加ペースは幾分スローダウンしている。原油価格が高止まっていることなども踏まえれば、今後の米国経済の動向については、注意深くみていく必要がある。

 ユーロエリアでは、景気の回復が一段と進んでいる。もっとも、依然として企業の投資意欲は乏しく雇用環境も厳しいため、景気回復のモメンタムはなお弱いものに止まっている。

 東アジアをみると、中国は、内外需ともに力強い拡大基調にある。固定資産投資も政策当局の抑制策を受けて一旦増勢が鈍化した後、最近では再び強めの動きとなっている。また、食料品の値上がりから、消費者物価指数の前年比上昇率が高まっている。NIEs、ASEAN諸国・地域の動向をみると、輸出、生産は多くの国・地域で増加傾向を維持しているが、このところ増勢が鈍化している。物価面では、ほとんどの国・地域で、景気拡大や原油・食料品価格の上昇などを反映して、消費者物価指数の前年比が着実に上昇している。

 米欧の金融資本市場では、株価は、8月中旬にかけて原油価格の上昇や一部IT関連企業の業績見通しが事前の予想を下回ったことなどから一旦下落したが、それ以降は原油高の一服などを材料に水準を戻している。長期金利は、市場予想比弱めの経済指標の公表などにより一時的に低下した局面もみられたが、総じてみれば、横這い圏内で推移してきた。

 エマージング金融資本市場では、8月中旬以降、多くの国・地域で、実体経済の好調や米国株価の回復などを材料に、株価が上昇し、対米国債スプレッドも縮小した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、このところやや伸びを鈍化させつつも、海外経済が拡大を続けるもとで増加を続けている。地域別にみると、4〜6月まで堅調に伸びていた米国向けが、7月は自動車関連や消費財(デジタル家電等)等を中心に減少となった。また、EU向けは引き続き低い伸びとなった。さらに、東アジア向けは、4〜6月に続いて7月も小幅の伸びに止まった。このうち、中国向けの減速については、同国における景気過熱抑制策が影響している面があるとみられる。

 設備投資は増加を続けている。法人企業統計調査でみた名目ベースの設備投資は、1〜3月に小幅増加となった後、4〜6月も堅調な増加を続けた。資本財出荷(除く輸送機械)は、4〜6月に続いて7月も堅調な増加を続けた。先行指標の一つである機械受注(船舶・電力を除く民需)は、1〜3月に減少した後、4〜6月は製造業を中心に大幅に増加しており、7〜9月の見通し調査も、増加基調が続くことを示唆している。

 企業収益について、法人企業統計調査をみると、業種・規模を問わず、着実な改善を続けている。

 雇用・所得環境をみると、労働需給を反映する求人関連指標や失業率は、振れを伴いつつも改善傾向を続けている。こうしたもとで、雇用者数は増加傾向にある。賃金については、所定外給与が前年比プラスを続けている。所定内給与は、パート比率の上昇などから、一人当たり平均でみると減少傾向が続いているが、その下落幅は徐々に縮小している。なお、6〜7月の特別給与は、前年比−3.1%の減少となった。これには、パート比率の上昇による平均賞与支給額の押し下げや、公務員賞与の動きを反映した公務サービスの弱さなどが影響している。

 この間、個人消費は、やや強めの動きを続けている。

 こうしたもとで、生産は、4〜6月に前期比+2.6%の増加となった後、7月は4〜6月対比で−0.6%の減少となった。輸出の動きと合わせて考えると、4〜6月にみられた海外経済減速の影響が表れ始めた可能性が高い。在庫は、全体では引き続き減少したが、財別には区々の動きとなっている。すなわち、素材関連では、需要好調のもとで在庫減少が進む一方、電子部品では在庫調整局面入りの形になった。もっともデジタル家電市場の成長は、多少の綾を伴いつつも持続すると予想される上、過剰在庫が大きく膨らむ前に生産が抑制され始めていることなどを考えると、基本的には軽度の調整で済む可能性が高いと考えられる。ただし、具体的な調整の深度や期間については、年末にかけての内外需要動向を注意深くみていく必要がある。

 物価動向をみると、国内企業物価は、内外商品市況高や需給環境の改善を反映して、上昇している。一方、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。7月(全国)は、昨年7月のたばこ税引き上げによる押し上げ効果が剥落したことから、前年比−0.2%と前月(同−0.1%)に比べて下落幅を拡大した。先行きについては、7〜8月の原油価格上昇を受けた石油製品(ガソリン等)の価格上昇が、消費者物価を押し上げる方向に働くとみられる一方、10月以降は米価格が前年比で下落に転じると見込まれることもあって、消費者物価の前年比は、基調的には小幅のマイナスで推移すると予想される。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスは維持されているものの、設備投資の増加が続くなど企業活動が上向いていることから、減少テンポが幾分緩やかになってきている。また、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き明確に改善している。こうしたもとで、民間銀行貸出は、減少幅の縮小が基調として続いている。

 資本市場調達については、CP・社債とも信用スプレッドは低位安定しており、良好な発行環境が続いている。こうしたもとで、CP・社債の発行残高は引き続き前年を上回って推移している。

 マネタリーベースの伸び率は、銀行券発行残高の伸びが金融システムに対する不安感の後退などから低下傾向を続ける中で、前年比4%台で推移している。この間、マネーサプライ(M2+CD)は、前年比2%程度の伸びとなっている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、(1)幾分減速感がみられている海外経済の動向をどう評価するか、(2)わが国経済に関しても輸出・生産や賃金などで弱めの指標が幾つか発表されているが、これらが景気回復基調の変化を示唆するものであるかどうか、という点を中心に検討を行った。

 海外経済に関して、委員は、世界経済を全体としてみれば、これまでの高い成長からより持続的な成長ペースに速度を落としつつ、着実な拡大を続けているとの見方を共有した。

 まず、米国経済について、多くの委員は、第2四半期のGDP成長率が低下したことについて、ガソリン価格の上昇や減税効果の一巡等を背景とした個人消費の伸びの鈍化を主因とした上で、その後の動きをどう評価するかがポイントであると指摘した。

 この点、多くの委員は、7月の個人消費が自動車販売などを中心に盛り返していることや、懸念された雇用についても、8月の雇用者数がほぼ事前予想に沿った増加となったことから、市場における一時の悲観論は後退したのではないか、と指摘した。その上で、設備投資、企業収益など企業部門の好調が続いていることから、米国経済は、引き続き景気拡大のモメンタムを保ちながら、巡航速度での成長過程に移行しつつあるとみてよいのではないかとの見方を示した。

 この間、ひとりの委員は、時間当たり賃金は上昇傾向にあり、ユニット・レーバー・コストが底を打っていること等を踏まえると、今後の雇用動向にはなお注意する必要があると述べた。また、多くの委員は、原油高や地政学的リスクが引き続き根強いこと、企業部門から雇用・所得への波及が遅れていることや、金融政策が利上げ局面に転じていること等から、今後の米国経済の動向は丁寧にみていくことが必要であるとの認識を示した。この点に関し、ひとりの委員は、クリスマス商戦の動向が、先行きの米国経済にとって大きな鍵を握っていると付け加えた。

 中国経済については、何人かの委員が、一旦鈍化していた固定資産投資の増勢が再び強まっていることに言及し、引き続き、インフラ面でのボトルネックの問題と、景気の過熱リスクを抱えながらも、高成長を続けている、との見方を示した。また、複数の委員は、世界的なIT関連需要減速の影響が、NIEs、ASEAN諸国・地域の輸出、生産の減速に表れていると指摘した。

 欧州経済については、何人かの委員が、輸出の拡大もあって、景気の回復感がやや強まっていると述べた。ひとりの委員は、賃上げを伴わない労働時間の延長の取り組みの開始を指摘し、構造調整の進展に期待が持てる状況になってきた、と付け加えた。

 この間、何人かの委員は、原油価格高が続いていることに触れ、わが国を含む世界経済や物価に与える影響について、引き続き注意深くみていく必要があると述べた。ひとりの委員は、原油高が各国の経済や物価に与える影響は、その国のエネルギー効率や産業構造等の違いを反映して異なっていることも踏まえて、情勢をみていく必要があると指摘した。また、ひとりの委員は、生産拠点の中国等へのシフトにより、部品の輸送や製品の逆輸入による輸送ニーズが拡大することに加え、中国等における生産面でのエネルギー効率の低さといった事情から、原油需要が増えている面もあるのではないか、と付け加えた。

 以上のような海外経済動向に関する認識を前提に、委員は、国内経済について、7月の輸出、生産が4〜6月に大幅に増加した後、ほぼ横這いとなったこと、また電子部品関係が在庫調整局面に入ったようにみえることをどう評価するかを巡って意見を交換した。

 多くの委員は、(1)海外経済が着実な拡大を続けるもとで、基調としては輸出の増勢が維持されるとみられること、(2)内需も回復を続けていること、(3)在庫バランスも素材関連の在庫減少など、鉱工業全体としては良好な状況にあること、などから判断して、生産は、先行きもやや伸び率を鈍化させつつも増加を続けていく可能性が高いのではないか、との見方を共有した。複数の委員は、これまでIT関連財が生産の伸びを支えてきたが、今後は、素材やIT関連財以外の加工産業が下支えするという形に変わっていく可能性もあるのではないかと述べた。

 IT関連財を巡る動向については、何人かの委員が、デジタル家電の米国向け輸出の減少にも表れているように、世界的なIT関連財需要の伸びがやや鈍化しており、民間予測機関や業界では先行きの需要予測を下方修正する動きもみられていることに注目していると述べた。このうち複数の委員は、世界のIT関連財需要のサイクル(いわゆる「シリコン・サイクル」)が減少局面に入った可能性もあると付け加えた。また、ひとりの委員は、日本の半導体製造装置の受注額を出荷額で割った比率(いわゆる「BBレシオ」)がピークアウトしている点や半導体製造装置の設備投資の低下が予測されている点も懸念材料であると指摘した。

 この点、多くの委員は、2001年のITバブル崩壊時の教訓から、今回は供給サイドの生産・在庫積み増しスタンスが総じて慎重であり、早めに調整が開始されていること、デジタル家電向けなど半導体需要の裾野が広がっていること等から、大きな調整には至らないとみて良いのではないかと述べた。ただし、IT関連財の需給動向は非常に振れ易くまたその動きが読み難いだけに、今後も注意してみていく必要があると付け加えた。複数の委員は、2001年のITバブル崩壊時と比較すると、現在は、企業のキャッシュ・フローが潤沢であるほか、固定資産の減損処理の進捗もあって企業のバランスシート調整が進んでいることは、景気回復をサポートする材料であるとの見方を示した。

 また何人かの委員は、IT関連財の在庫調整が2001年のITバブル崩壊時と同様に深くかつ急激なものとなれば、景気の腰を一気に折ってしまう懸念はあると留保しつつも、全体の景気が回復を続けているうちにIT関連財の調整が進めば、却って息の長い景気回復を期待できるという見方も可能であると述べた。その上で、IT関連財需要の動向が今後の景気展開をみていく上で重要な鍵となると付け加えた。

 設備投資については、多くの委員が、法人企業統計調査において、企業収益が大幅な増加を続けるもとで、製造業・非製造業ともに本年度の設備投資が大幅に増加していることを指摘し、設備投資の増加傾向が当面続くとの見方を示した。ひとりの委員は、除却率が高まり資本係数が下がっていることからも、製造業における設備投資の持続性が期待できると述べた。ただし、複数の委員は、法人企業統計調査における非製造業の設備投資は、短観等の調査結果と比較しても、かなり強い数字となっている点を指摘し、サンプルの変更が影響している可能性もあることから、今後、10月初に公表される短観でも改めて確認していく必要があると付け加えた。

 家計部門に関しては、多くの委員が、求人関連指標や雇用者数は改善を続けており、企業収益の増加の雇用面への波及が次第にはっきりしてきている点を指摘した。ただし、賃金に関しては、パート比率の上昇などから、一人当たり賃金の減少傾向が続いていること、伸びが期待されていた夏期賞与について、毎月勤労統計における6、7月の特別給与が前年比−3.1%となったこと等から、賃金面への波及はなお限定的であるようであるとの認識を述べた。

 この間、個人消費については、何人かの委員が、消費者コンフィデンスの改善にも支えられ、やや強めの動きが続いているとの見方を示した。一方、複数の委員は、猛暑やオリンピックによる消費の押し上げ効果は当初予想よりも弱かったようであり、先行き税制改正や年金制度改正による家計負担の増加が予想されることもあって、今後も個人消費が強めの動きを続けていくかどうかは注意が必要であると述べた。

 以上のような経済情勢判断を踏まえ、委員は、輸出や生産の伸びが足許幾分鈍化しているほか、賃金面にも注意すべき動きがあり、今後の動きは丁寧にみていく必要があるものの、企業部門の好影響が家計部門に波及していく中で、前向きの循環が明確化していくという基調判断をとくに変える必要はない、との認識を共有した。何人かの委員は、景気拡大ペースの減速がやや早く訪れた感じもあるが、昨年10〜12月、本年1〜3月の高い成長から、持続的な成長が可能な巡航速度になりつつあると評価して良いのではないかと述べた。ただし、複数の委員は、基調判断に大きな変化はないものの、賃金面の動向などをみると、企業部門の好影響が家計部門に波及するスピードが、やや遅れている可能性もある、と付け加えた。

 物価面に関しても、委員は、基調に大きな変化はみられていないとの見方で一致した。

 何人かの委員は、原油をはじめとする内外の商品市況高や海運市況高、需給の改善を反映して、7月の国内企業物価は、前年比+1.6%とバブル期以来の上昇率となったことを指摘しつつ、その上昇は素原材料と中間財が中心であり、消費財への価格転嫁は、ガソリン等の一部を除きなお限定的に止まっている、と述べた。

 消費者物価について、多くの委員は、(1)マクロの需給環境は改善方向にあるが、なお緩和した状況にある、(2)原材料価格の上昇が企業段階でのユニット・レーバー・コストの低下である程度吸収されている、という点に変わりはなく、その結果、前年比小幅の下落が続いていると指摘した。

 先行きについても、多くの委員は、9月に実施されたガソリン価格の引き上げ等が、消費者物価の押し上げに寄与する一方、豊作が伝えられる米価格の下落が見込まれ、基本的には、7月の中間評価に沿った動き、すなわち小幅の下落基調で推移する可能性が高いのではないか、との見方を示した。またひとりの委員は、この先電力料金の引き下げが、消費者物価の押し下げに寄与するとみられると述べた。

 この間、複数の委員は、物価動向と景気動向との乖離が改めてはっきりしてきたのではないかとの認識を示した。これらの委員は、もともと7〜9月中には、消費者物価の前年比がプラスになる可能性も視野に入れていたが、その後の展開をみると、その可能性はかなり小さくなっており、景気回復に物価が反応し難い姿が鮮明になってきているのではないか、との見方を示した。

2.金融面の動向

 金融面に関しては、何人かの委員が、わが国の株価・長期金利の動向について意見を述べた。

 複数の委員は、株価について、8月半ばにかけて下落したものの、わが国の景気が回復基調にあるもとで、米国株価の反発を材料として上昇に転じ、最近では前回会合時をやや上回る水準となっている、と述べた。また、債券市場については、先行きの景気に対する慎重な見方が強まり、長期金利は、1.5%程度の水準まで低下した後、最近では概ね前回会合時の水準にまで戻していることを指摘した。その上で、市場は、景気への見方を巡り、やや神経質な展開となっていることから、引き続き金融市場の動向は注意してみていく必要がある、との認識を示した。また、ひとりの委員は、内外市場を通じてボラティリティが低下しているが、世界的な金融緩和の結果蓄積された流動性の今後の動きが与える影響については引き続き注意を要する、と述べた。

 短期金融市場については、何人かの委員が、極めて落ち着いた状況にあるとの評価を行った。また、ひとりの委員は、資金吸収オペへの応札倍率の高さからも市場の資金余剰感が強いことが窺われると付け加えた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 先行きの金融政策運営について、何人かの委員は、金融市場において景気の見方がやや分かれていることに改めて言及し、このような場合には、市場参加者の期待が振れ易くなり、金融市場の変動も大きくなりがちであることから、市場の動向を丁寧にみていくとともに、日本銀行としての経済・物価情勢の見方や政策運営についての考え方を市場に対し、分かり易く示していくことが重要である、との考えを述べた。

 また、ひとりの委員は、経済・物価情勢の見方を示していく際には、日本銀行として、景気回復の基本的なメカニズムについて見方の修正があるのかどうか、という点がきちんと伝わるように情報発信していくことが重要であると指摘した。

 さらに、ひとりの委員は、景気と物価の乖離の状況は、政策運営にとって重要な意味を持つものであると述べた上で、景気回復に物価が反応し難い姿となっている中で、何らかの歪みが経済に蓄積していくようなことはないのか、といった点についても、今後しっかりとみていく必要があるとの認識を示した。

 この間、何人かの委員は、本年9月期末に向けての金融調節については、金融システム面からの不安もなく、市場は極めて落ち着いていることから、今のところ「なお書き」を適用するような特別の対応は予想されないのではないか、と述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状を見ると、企業部門の改善が家計部門に広がり、景気は堅調に回復しているが、足許の指標には輸出の伸びの縮減や、一部に生産を調整する動きも見られるところであり、今後の景気判断に当たってはこうした動きが今後どうなるのか注意深く見極めていくことが重要である。
  •  また、米国等の海外経済や原油価格が内外経済に与える影響など、わが国経済へのリスク要因についても、その動向を注視していく必要がある。
  •  こうした中、デフレは依然として継続していることから、日銀におかれては引き続き量的緩和政策継続のコミットメントを堅持して頂きたいと考えている。なお、緩和的な金融環境の継続に関する期待を維持し、景気回復を持続的なものとするため、これまでも申し上げているとおり、今後、どのような新たな工夫を講じることができるのか検討を進めて頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は堅調に回復している。一方、原油価格の動向が内外経済に与える影響や世界経済の動向等には留意する必要があると考えている。物価については、景気の着実な回復により需給ギャップが縮小する一方、銀行貸出の低迷等からマネーサプライの伸びが低い中で、原油など素材価格の上昇により国内企業物価は上昇しているが、物価動向を総合的に勘案すれば、デフレ克服は道半ばの状況にある。したがって、日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服することと民需主導の持続的な成長を図ることである。
  •  このため政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」を早期に具体化することとしており、本格的かつ迅速な構造改革に取り組んでいくため、現在、経済財政諮問会議において特別会計改革、三位一体改革、社会保障等について集中審議を行っているところである。
  •  日本銀行におかれては、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示されているが、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、効果的な資金供給に繋がるような措置を含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたい。また、景気の堅調な回復に伴い、金利の動向が注目を集めていることにも鑑み、日本銀行におかれては専門的な立場からの検討を進めて頂き、デフレ克服までの道筋を含め金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努めて頂きたいと思う。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(9月9日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は9月10日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前回会合(8月9、10日)の議事要旨が全員一致で承認され、9月14日に公表することとされた。

VIII.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2004年10月〜2005年3月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
2004年 9月 9日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)
2004年 9月 9日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2004年10月〜2005年3月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2004年10月 10月12日(火)・13日(水)
10月29日(金)
10月13日(水)
--
(11月24日(水))
(12月22日(水))
11月 11月17日(水)・18日(木) 11月18日(木) (12月22日(水))
12月 12月16日(木)・17日(金) 12月17日(金) (1月24日(月))
2005年1月 1月18日(火)・19日(水) 1月19日(水) (2月22日(火))
2月 2月16日(水)・17日(木) 2月17日(木) (3月22日(火))
3月 3月15日(火)・16日(水) 3月16日(水) 未定
  1. (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)
  2. (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)
  3. (注3)「経済・物価情勢の展望(2004年10月)」の「基本的見解」は、10月29日(金) 15時(背景説明を含む全文は11月1日(月)14時)に公表の予定。

以上