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金融政策決定会合議事要旨

(2004年11月17、18日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年12月16、17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年12月22日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年11月17日(14:00〜15:51)
11月18日( 9:00〜11:58)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(17日)
    上田 勇  財務副大臣(18日)
  • 内閣府 浜野 潤  政策統括官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
    (17日 14:44〜15:51、18日)
  • 企画局審議役前原康宏
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役神山一成
  • 企画局企画役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(10月29日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は30〜33兆円程度で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ねゼロ%近傍で推移した。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移している。

 株価は、原油価格の反落や米国株価の上昇を受けて幾分強含み、足許は、日経平均で前回会合時の水準をやや上回る11千円程度で推移している。

 長期金利は、わが国の景気の先行きに対する慎重な見方が根強い中で、1.5%を中心に概ね横這い圏内で推移している。

 為替市場では、米国の「双子の赤字」問題に対する懸念等を背景にドル売り圧力が強まっており、円の対ドル相場は、足許では前回会合時よりやや円高の105円台前半で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出や設備投資などの国内民需に支えられて、景気の拡大が続いている。7〜9月の実質GDPは年率+3.7%と、個人消費の伸びが高まったことを主因に、4〜6月(同+3.3%)に比べて上昇した。足許の指標をみると、個人消費が増加傾向を維持しているほか、企業収益が高水準で推移するもとで、設備投資も増加している。雇用面でも、夏場に一時的に弱まっていた雇用者数の増加テンポが10月には復調した。先行きについては、当面、景気拡大が持続する可能性が高い。

 ユーロエリアでは、足許は、家計支出や生産など弱めの指標が多いものの、ごく緩やかな景気回復基調を辿っているとみられる。

 東アジアをみると、中国は、内外需ともに力強い拡大が続いており、固定資産投資も高めの伸びとなっている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、景気拡大が持続しているが、そのテンポは幾分鈍化しており、特に韓国の減速が目立っている。物価面では、多くの国・地域で、景気拡大や原油・食料品価格の上昇などを反映して、消費者物価指数の前年比伸び率は高止まっている。

 米欧の金融資本市場では、原油高の一服や、強めの米国経済指標の公表などを受けて、株価が上昇している。長期金利は、米国では上昇したが、欧州では足許幾分低下している。

 エマージング金融資本市場では、多くの国・地域で、米国経済を巡る不透明感の後退などから株価が上昇し、対米国債スプレッドが縮小した。通貨は、米ドル安の流れの中で総じて増価した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の減速を背景に、足許横這い圏内の動きとなっている。地域別にみると、4〜6月まで堅調に伸びていた米国向けが、自動車関連や消費財(デジタル家電等)を中心に小幅の減少となった。また、東アジア向けは、4〜6月に続いて小幅の伸びにとどまった。このうち、中国向けについては、建設機械が大幅に減少するなど、同国における景気過熱抑制策の影響が一部にみられている。

 設備投資は、足許のペースは緩やかながら、引き続き増加している。資本財出荷(除く輸送機械)は、4〜6月に続いて7〜9月も増加を続けたものの、半導体製造装置などIT関連財の出荷が弱まったことなどが影響し、増加テンポは緩やかになってきている。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、4〜6月に大幅に増加した後、7〜9月はその反動もあって減少した。建築着工床面積(民間非居住用)については、増加傾向を続けている。

 この間、7〜9月のGDP速報における設備投資は、小幅のマイナスとなったが、相次ぐ台風によって建設投資の進捗が遅れたことが影響している可能性がある。

 雇用・所得環境をみると、求人関連指標や失業率は、改善傾向を続けており、雇用者数も増加傾向にある。賃金については、パート比率の上昇などから、一人当たり平均でみた減少がなお続いているが、特別給与を中心に、マイナス幅は徐々に縮小している。以上の結果、毎月勤労統計でみた雇用者所得は、下げ止まっている。

 個人消費は、底堅い推移を続けている。販売統計は、悪天候の影響もあって、家電販売などを除きやや冴えない動きとなっているものの、サービス支出が堅調に推移しているほか、消費者心理を示す指標も総じて改善傾向を辿っている。

 生産は、4〜6月に前期比+2.6%と大きく増加した後、7〜9月は−0.7%となった。在庫は、全体としては横這い圏内ながら、電子部品では在庫調整局面にあるなど、財別に区々の動きとなっている。電子部品の在庫調整は、メーカーが早めに生産ペースを落としていることもあって、基本的には軽度のものにとどまるとみられるが、今後の動向は注意深くみていく必要がある。

 物価動向をみると、国内企業物価は、内外商品市況高や需給環境の改善を反映して、引き続き上昇している。一方、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナス基調で推移している。9月(全国)は、ガソリン価格の上昇などから前年比0.0%となったが、10月以降は、米価格が前年比で下落に転じると見込まれることもあって、再び前年比小幅のマイナスで推移すると予想される。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスが維持されているものの、設備投資の増加が続くなど企業活動が上向いていることから、減少テンポが幾分緩やかになってきている。また、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、民間銀行貸出の減少幅の縮小が基調として続いている。この間、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き緩和している。

 資本市場調達については、CP・社債とも信用スプレッドが低位安定しており、良好な発行環境が続いている。このため、CP・社債の発行残高は、引き続き前年を上回って推移している。

 マネタリーベースの伸び率は、前年比4%台で推移しており、マネーサプライ(M2+CD)は、前年比2%程度の伸びとなっている。なお、銀行券発行残高は、これまで金融システムに対する不安感の後退などからひと頃に比べ低い伸びを続けてきたが、11月入り後は改刷の影響から伸びがやや高まっている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 足許の経済情勢について、委員は、わが国の景気は、輸出、生産の増勢に足許一服感がみられるものの、全体として回復を続けているとの認識を共有した。先行きについても、景気は回復を続けていくとみられるとの認識を共有した。

 海外経済に関して、委員は、これまでの高めの成長から幾分減速するものの、拡大を続けていくとの見方を共有した。

 米国経済について、多くの委員は、(1)個人消費の持ち直しを主因として7〜9月の実質成長率が4〜6月に比べて上昇したこと、(2)企業収益が高水準で推移するもとで設備投資が増加を続けていること、(3)雇用面でも、ひと頃弱まっていた雇用者数の増加テンポが足許では復調していることなどを指摘し、景気は夏場にみられた一時的な停滞局面を抜け出したとみられ、当面拡大を続ける可能性が高い、との見方を示した。この間、ある委員は、減税効果の一巡や既往のエネルギー価格上昇の影響などが、景気に悪影響を及ぼす可能性がある点に留意する必要がある、と述べた。別の委員は、政府による追加的な景気刺激策の余地は既に限られており、財政再建や年金問題といった中長期的な課題への取り組みが必要になることを踏まえると、今後は、政府の経済政策運営が景気にマイナスの効果をもたらす可能性がある、との意見を述べた。

 中国経済について、多くの委員は、内外需とも大幅な拡大を続けているとの見方を示した。何人かの委員は、10月末の中国人民銀行による金利引上げを含め、景気過熱抑制策の効果について引き続き注意深くみていく必要がある、と述べた。この点に関して、複数の委員は、建設用鋼材の需要が減少し、一部は輸出に向けられていることなどを指摘し、景気過熱感は、全体としては根強いものの、過熱感がさらに強まるリスクは後退している、と述べた。別のひとりの委員は、人民元建て貸出残高が足許再び伸びを高めていることを指摘し、国内民需が先行き一段と拡大する可能性もある、との見方を示した。この間、複数の委員は、中国の高成長とは対照的に、韓国や台湾を中心とするNIEs諸国では輸出・生産の鈍化が顕著であるが、その背景としては、世界的なIT関連需要の調整がより大きく影響していることが考えられる、と述べた。

 原油価格の動向について、多くの委員は、このところ上昇に一服感がみられていることを指摘した。もっとも、何人かの委員は、原油価格は依然として歴史的な高水準にあり、今後の動向については注意してみていく必要がある、と述べた。

 以上のような海外経済動向に関する認識を踏まえ、わが国の輸出や生産がこのところ弱めの動きとなっていることについて議論が行われた。

 7〜9月の輸出がほぼ横這い圏内の動きとなったことについて、委員は、海外経済の減速がやや時間的なラグを伴って影響していると考えられるとの見方を共有した。ある委員は、台風による船待ち在庫の積み上がりといった一時的な要因も影響している可能性がある、と付け加えた。また、別の委員は、生産余力が低下している鉄鋼や化学等では、メーカーが国内供給を優先した結果、輸出が減少しているといった事情もある、と指摘した。輸出の先行きについて、委員は、海外経済が米国、中国を中心に拡大を続けるもとで、増加トレンドに復する可能性が高いとの認識を共有した。

 生産の増勢鈍化について、委員は、海外経済の減速のほか、IT関連財の在庫調整がかなりの程度影響しているとの認識を共有した。IT関連財の在庫調整について、多くの委員は、(1)デジタル家電や自動車用電子部品など、需要の裾野が従来よりも広がっていること、(2)メーカーが早めの段階で生産のペースを落としていることなどから、基本的には軽度の調整にとどまる可能性が高い、との見方を示した。何人かの委員は、調整の深さは内外の年末商戦の動向にかなりの程度依存するため、今後の動向を注意してみていく必要がある、と述べた。この間、複数の委員は、IT関連財の調整が著しく深まるとは考えにくいが、調整が長引く可能性も念頭に置いておくべきである、との見方を示した。

 この間、何人かの委員は、素材分野では、IT関連財とは対照的に、好調な需要を背景に高水準の操業が続いているものの、既に生産能力の上限に近づいている先も多く、一段の増産には結び付きにくい面がある、と述べた。ある委員は、生産は先行き基調的には増加を続けるとみられるが、増加テンポは、当面緩やかなものにとどまるとみておくべきである、との意見を述べた。

 設備投資について、多くの委員は、(1)7〜9月のGDPにおいて設備投資の伸びが大幅に低下したこと、(2)資本財出荷が、半導体製造装置の減少などから増加テンポが緩やかになってきていることを指摘し、足許の増加ペースは緩やかになっている、との見方を示した。そのうえで、委員は、各種のアンケート結果にもみられるように、企業は好調な収益を背景に強めの設備投資計画を維持しており、多少の振れはあるにしても、設備投資の増加基調に大きな変化が生じているとは考えにくいとの認識を共有した。GDPにおける設備投資の伸びの低下については、何人かの委員が、台風による建設投資の進捗の遅れなど一時的な要因が影響している可能性がある、との見方を示した。ある委員は、今後も設備投資の堅調が見込まれる要因として、生産余力の乏しい素材分野で能力増強投資が期待できること、知的財産の保護等の観点から一部に生産拠点の国内回帰の動きがみられることを指摘した。また、何人かの委員は、建築着工床面積が大幅に増加していることを指摘し、非製造業の設備投資への波及が次第にはっきりとしてきている、との見方を示した。

 多くの委員は、設備投資の基調の判断に当たっては、今後公表される法人企業統計やこれを踏まえたGDPの改訂値、12月短観の結果等を十分に見極める必要がある、と述べた。また、このうちひとりの委員は、企業収益について、円高、原油高、素材高のリスクや影響を懸念する企業が多いため、引き続きその動向にも注意が必要である、と述べた。

 何人かの委員は、最近の円高の進行が企業収益に与える影響についてコメントした。これらの委員は、現在の為替相場は9月短観における想定為替レートと大きく違っていないことや、実質実効為替レートに大きな変化がないことから、企業収益に与える影響はさほど大きくないとみられるが、一段の円高が進んだ場合には、企業収益だけでなく、マインド面にも影響を及ぼす可能性がある、との見方を示した。

 雇用・所得面について、委員は、雇用者数が増加傾向にあるほか、所定外給与の増加を背景に一人当たり名目賃金の前年比マイナス幅が縮小してきており、雇用者所得は下げ止まっているとの認識を概ね共有した。先行きについても、雇用者所得は緩やかな増加に向かう可能性が高いという点では一致したものの、そのテンポについては、何人かの委員がやや慎重な見方を示した。このうち、ある委員は、企業の人件費抑制姿勢が根強い中で、派遣社員など非正規雇用の活用の余地は依然として大きい、と述べた。別のある委員も、企業は足許の収益が好調な場合であっても、先行きに相当の自信がない限り、賃上げに消極的な傾向が強いのではないか、との見方を示した。

 個人消費について、何人かの委員は、悪天候の影響もあって販売統計などにはやや弱さがみられるものの、総じてみれば底堅い動きを続けている、との見方を示した。このうち、ひとりの委員は、GDP統計において、個人消費が強めの動きを続けていることを指摘し、所得が伸びない中にあって、個人消費は予想以上に堅調である、との見方を示した。

 物価面に関して、委員は、国内企業物価は内外商品市況高や需給の改善を反映して上昇している一方で、消費者物価は小幅の下落基調で推移しており、基調に大きな変化はみられないとの認識を共有した。ある委員は、9月の消費者物価(全国、除く生鮮食品)は、前年比0.0%となったが、10月以降は米価格が下押し要因となるため、再び前年比でマイナスとなると見込まれる、と述べた。この委員は、原油高の影響について、ガソリン等への転嫁は既にかなりの程度進んでいるとみられ、原油高が一段と進行しない限り、消費者物価へのプラス寄与はさほど拡大しないものとみられる、との見解を示した。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、前回会合以降、短期金利、長期金利は総じて落ち着いた動きとなっており、株価も底堅く推移しているとの見方を共有した。このうち、ひとりの委員は、最近の銀行や企業の広範な格付引き上げも株価の堅調に寄与している、との見方を示した。この委員は、ジャパン・プレミアムが大幅に縮小していることも踏まえると、将来の短期金融市場の機能回復に向けた環境が整いつつあるとみてよいのではないか、と続けた。

 多くの委員は、為替市場においてドル安・円高が進行していることについてコメントした。これらの委員は、最近の円高は、市場において、米国における双子の赤字といった構造的な問題に対する懸念が高まっていることを背景とするものであり、他通貨に対するドルの全面安といった色彩が強い、と述べた。

 こうした議論を踏まえ、委員は、今後の為替相場の動向とその影響について注意してみていく必要があるとの認識を共有した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 このところ、年度末越えのオペを含め、短期資金供給オペにおいて札割れが発生していることについて議論が行われた。多くの委員は、金融システムに対する不安感の一段の後退などから、市場の資金余剰感が一層強まっている、との見方を示した。そのうえで、委員は、今後の金融市場調節の運営について、短期資金供給オペの運営上の工夫によって、当座預金残高目標を達成していくことが必要であるとの認識を共有した。ある委員は、少なくとも来春にペイオフ解禁が完全に実施されるまでは、金融市場や金融システム面の動向を注意深くみていく必要があると述べた。この点に関連して、何人かの委員は、金融システムに対する不安感の解消が一段と進んだ場合には、流動性に対する需要がさらに低下する可能性もある、と指摘した。

 ある委員は、量的緩和政策には、金融市場の安定確保や緩和的な企業金融環境の維持を通じて企業のバランスシート調整をサポートするという効果があり、その成果は企業の資本収益率の向上というかたちで着実に現われてきている、と評価した。

 何人かの委員は、展望レポートに対する市場の反応についてコメントした。これらの委員は、展望レポート公表以降、長短金利が落ち着いた動きとなっていることを指摘し、同レポートで示した日本銀行の金融政策運営の考え方は、市場において特段の違和感なく受け止められているとみられる、との認識を示した。このうち、複数の委員は、現在、金利が落ち着いている背景には、市場では、景気の先行きについて日本銀行に比べて慎重にみている参加者が多く、金融政策の枠組みの変更に関する議論が差し迫った課題として受け止められていないという面もあるとして、今後、景気回復が進んでいく過程において、情報発信のあり方について引き続き工夫を重ねていくことが重要である、と指摘した。

 何人かの委員は、GDPデフレーターの連鎖方式への移行が検討されていることについてコメントした。これらの委員は、GDPデフレーターの見直しは、基準年から離れるに従ってデフレーターの低下幅が過大に評価される傾向があるという現行方式(固定基準年方式)のバイアスを取り除くために実施されるものであり、景気判断の大枠に影響を及ぼすものではない、との見方を示した。そのうえで、ある委員は、GDPの改訂が足許における景気の減速感と結び付けて理解されることがないよう、情報発信に当たっては十分に留意する必要がある、と述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、輸出など、このところ一部に弱い動きが見られるが、景気は回復が続いていると認識している。
     11月12日に公表された7〜9月期のGDP統計をみても、注意してみなければならない点があるが、消費は引き続き堅調に推移するなど、国内民間需要の底堅さが裏付けられたものと考えている。
  •  こうした中、デフレは依然として続いており、その克服に向けた揺るぎない姿勢を堅持していくことが重要であると考えている。日本銀行におかれては、先月公表された展望レポートにおいても量的緩和政策を堅持していく方針を示されたが、引き続きこうした姿勢を明確に示して頂きたいと考えている。
  •  現在の民間需要主導の景気回復を持続的なものとしていくためには、今後とも、金融政策の役割が重要であると考えている。こうした観点から、日本銀行におかれては、緩和的な金融環境が継続するとの期待が将来に亘って維持されるよう、新たな工夫の検討を行って頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  経済動向については、大局的に見ると、景気は回復しているという基調に大きな変化はないと考えている。一方、原油価格の動向が内外経済に与える影響や世界経済の動向等には留意する必要がある。物価動向を総合的に勘案すれば、デフレ克服は道半ばの状況にある。従って、日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服することと民需主導の持続的な成長を図ることである。
  •  このため政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」を具体化し、本格的かつ迅速な構造改革に取り組んでいる。
  •  日本銀行におかれては、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示されているが、デフレの克服には、結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であり、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、効果的な資金供給に繋がるような措置を含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたいと考える。また、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努める中で、デフレ克服までの道筋を明確に示して頂くことを期待する。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(11月18日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は11月19日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(10月12、13日)の議事要旨が全員一致で承認され、11月24日に公表することとされた。

以上


(別添)
2004年11月18日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上