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金融政策決定会合議事要旨

(2004年12月16、17日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2005年1月18、19日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2005年 1月24日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年12月16日(13:59〜16:25)
12月17日( 9:00〜12:32)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(16日)
    上田 勇  財務副大臣(17日)
  • 内閣府 加藤 裕己 大臣官房審議官(経済財政分析担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治(17日9:00〜10:47)
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃(17日9:00〜10:54、12:14〜12:32)
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局審議役前原康宏
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一(17日9:00〜10:54)
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役神山一成
  • 企画局企画役武田直己

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(11月17、18日)で決定された方針 1に従って運営した。この結果、当座預金残高は30〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ねゼロ%近傍で推移した。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移している。

 長期金利は、鉱工業生産など、経済指標の予想比下振れを受けて景気の先行きに対する慎重な見方が強まったことを背景に、最近では1.4%前後で推移している。

 株価は、経済指標の予想比下振れや円の対米ドル相場上昇を受けて下落した後、米国株価が堅調に推移したことなどを眺めて上昇し、足もとは、日経平均で前回会合時とほぼ同じ11千円前後で推移している。

 為替市場では、円の対米ドル相場は、米国の「双子の赤字」問題を巡る懸念等を背景に上昇した後、わが国経済指標の予想比下振れを受けて下落し、最近では前回会合時とほぼ同じ103〜105円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出や設備投資などの国内民需に支えられて、景気拡大が続いている。7〜9月の実質GDP成長率は、暫定推計値で年率+3.9%と、事前推計値同+3.7%から上方修正された。先行きも、景気拡大が続く見通しである。

 ユーロエリアでは、ごく緩やかながらも、家計支出や設備投資を中心に景気回復基調を維持している。ただ、ユーロ高もあって外需や生産面の停滞感が強まっており、雇用環境の改善も進んでいない。

 東アジアをみると、中国は、内外需ともに力強い拡大が続いており、固定資産投資の年初来累計前年比は、政策当局が景気過熱抑制策を講じているもとにあっても、引き続き高い伸びとなっている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、景気拡大が続いているが、そのテンポは鈍化している。この間、物価面では、中国を含め、多くの国・地域で、食料品の値上がりが一服していることもあって、消費者物価の前年比伸び率の上昇傾向に歯止めがかかりつつある。

 米欧の金融資本市場では、株価は、前回会合以降、比較的堅調な動きを続けている。長期金利は、米国では前回会合時とほぼ同じ水準で推移しているが、欧州では通貨高や景気の先行き不透明感などを背景に低下している。

 エマージング金融資本市場では、多くの国・地域で、株価が軟調な展開となったが、対米国債スプレッドは縮小し、通貨は米ドル安のもとで若干増価した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大基調が続いているものの、IT関連分野における世界的な需給調整の影響から、足もとは横ばい圏内の動きとなっている。地域別にみると、米国向けは、7〜9月に小幅の減少となった後、10月は横ばい圏内の動きとなった。東アジア向けは、中国向けが持ち直した一方、NIEs、ASEAN諸国・地域向けは減少した。この間、EU向けは横ばい圏内の動きとなった。

 設備投資は、引き続き増加傾向にある。資本財出荷(除く輸送機械)が、IT関連分野の調整を受けて、半導体製造装置を中心に足もとはやや減少しているほか、先行指標の一つである機械受注(船舶・電力を除く民需)も、4〜6月に大幅に増加した後、7〜9月、10月と減少した。しかし、もう一つの先行指標である建築着工床面積(民間非居住用)は、幅広い業種で増加の動きが続いている。また、12月短観をみると、企業の業況感には幾分慎重化が窺われるが、企業収益が増加を続けるもとで、2004年度の設備投資計画は上方修正となった。

 個人消費は、底堅い推移を続けている。非耐久財消費は悪天候の影響もあってやや冴えない動きとなっているが、耐久財消費やサービス消費が堅調に推移している。この間、消費者心理を示す指標も総じて改善傾向をたどっている。

 生産は、7〜9月に小幅減少した後、10月も、電子部品・デバイスを中心に、7〜9月対比で減少となった。在庫は、7〜9月に増加した後、10月は横ばい圏内の動きとなった。財別にみると、素材関連では生産余力の低下などを背景に在庫が減少を続けている一方、電子部品・デバイスの在庫は増加するなど、区々の動きとなっている。電子部品・デバイスの在庫調整は、(1)これまでシェア拡大を目論み強気の生産計画を掲げていたデジタル家電各社が部品の発注量を減らしていること、(2)携帯電話やパソコンの世界需要が幾分下振れていること、などから、やや深まってきている。デジタル家電を含めIT関連需要の成長トレンドそのものは維持されているとみられることを踏まえると、ITバブルが崩壊した2001年とは異なり、大幅な調整には至らないと考えられるが、調整がやや長引く可能性が高まっており、当面、内外の年末商戦の帰趨を中心に、IT関連需要の動向を注意深くみていく必要がある。

 雇用・所得環境をみると、求人関連指標や失業率は振れを伴いつつも改善傾向を続けており、雇用者数は増加傾向にある。賃金については、パート比率の上昇などから、一人当たり平均でみた減少傾向がなお続いているが、特別給与を中心に、そのマイナス幅は徐々に縮小している。以上の結果、毎月勤労統計でみた雇用者所得は、下げ止まっている。

 物価動向をみると、国内企業物価は、内外商品市況高や需給環境の改善を反映して、上昇している。一方、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。消費者物価の前年比は、需給環境が改善方向にあるとは言え、当面なお緩和した状況が続くほか、公共料金が下落していることから、小幅のマイナスで推移すると予想される。

 以上の動きからみて、わが国の景気は、基調として回復が続いていると判断される。もっとも、生産面などで弱めの動きがみられている結果として、生産・在庫を中心にみている景気基準日付では、いったん景気の「山」が付く可能性も否定できない。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中、回復方向の動きに足もと一服感がみられる。こうしたもとで、民間銀行貸出も、基調として回復傾向をたどる中で、足もとは減少幅が横ばいの動きとなっている。この間、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き緩和している。

 資本市場調達については、CP・社債とも信用スプレッドが低位安定しており、良好な発行環境が続いている。このため、CP・社債の発行残高は、引き続き前年を上回って推移している。

 マネタリーベースの伸び率は、前年比4%台で推移しており、マネーサプライ(M2+CD)は、前年比2%程度の伸びとなっている。なお、銀行券発行残高は、11月は改刷の影響から伸びがやや高まった。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 足許の経済情勢について、委員は、わが国の景気は、生産面などに弱めの動きがみられるものの、一時的に踊り場的な局面にあり、基調としては回復を続けているとの認識を共有した。また、先行きについても、景気は回復を続けていくとの認識が共有された。

 海外経済に関して、委員は、これまでの高めの成長から幾分減速するものの、拡大を続けていくとの見方を共有した。

 米国経済について、多くの委員は、(1)7〜9月の実質成長率が4〜6月に比べて高まっていること、(2)クリスマス商戦の行方を判断するのは時期尚早ながら原油高が一服していることもあってこれまでのところ個人消費は底堅く推移していること、(3)企業収益が高水準で推移するもとで設備投資は増加傾向にあること、(4)夏場に一時的に弱まっていた雇用者数の増加テンポも概ね復調していること、などを指摘したうえで、景気は一時的な停滞局面を抜け出した可能性が高く、先行きも景気拡大が続くとの見方を示した。米国景気の停滞が一時的なものにとどまった背景として、何人かの委員は、FRBが政策金利の引き上げを進める中にあっても、長期金利は落ち着いた動きを続けており、金融緩和効果が減衰していないことが指摘できるとした。一方、複数の委員は、今後インフレリスクへの意識が高まって長期金利が不安定な動きを示す場合に景気が再び減速するリスクがあると指摘した。別の委員は、家計のコンフィデンスの悪化を示す指標もあるため、当面は、原油価格の高止まりによる景気下押しが強まる可能性などについて引き続き注意しておく必要があり、その点、クリスマス商戦の仕上がりがどうなるかが注目されると述べた。

 中国経済について、多くの委員は、内外需とも大幅な拡大を続けているとの見方を示した。固定資産投資が引き続き高い伸びを示していることについて、ある委員は、現時点は、10月末の中国人民銀行による金利引き上げを含め、一連の過熱抑制策の効果を見極めていくべき段階にあるとした。また、複数の委員は、物価が落ち着きを取り戻してきた中で、中国政府は以前よりも高い成長率を許容するようになっており、一頃とは異なり、行政指導を含めた強力な過熱抑制策が不要となっている可能性もあると指摘した。

 こうしたもとで、わが国の輸出は、先行き再び増加に転じるとの見方が共有された。足もとの輸出が横ばい圏内の動きにとどまっていることについて、複数の委員は、(1)海外経済の減速の影響は後退しているが、(2)世界的なIT関連分野の調整は続いており、また、(3)生産余力が乏しい鉄鋼や化学等ではメーカーが国内供給を引き続き優先しているため、増勢を取り戻していないと整理した。

 設備投資について、多くの委員は、GDP統計の2次速報により7〜9月の民間設備投資が前期比プラスとなったことや、12月短観の2004年度設備投資計画がさらに上方修正されたことなどを挙げ、足もと設備投資の増勢は続いており、先行きも、業種・企業規模の広がりを伴いながら、増加を続けるとの見方を示した。企業の設備投資意欲が堅調な背景として、何人かの委員は、(1)過剰設備・過剰雇用・過剰負債の調整が進捗していること、(2)企業収益が金融収支の改善にも支えられながら大きく改善していること、(3)金融機関の融資姿勢の緩和が続いていること、(4)優良地の地価が底入れしている中で建設投資や土地投資が増加に転じていること、などを挙げた。この間、一人の委員は、IT関連業種では投資の実行を先送りしている先が少なくなく、それが十分に反映されていないとすれば、現時点の設備投資計画については多少割り引いてみる必要があると述べた。また、ある委員は、円高・原油高・素材高の先行きとその収益への影響度合いが見通し難いとする企業が少なくない点に留意する必要があると述べた。

 個人消費について、委員は、底堅く推移しているとの見方を共有した。GDP統計の2次速報で7〜9月の個人消費の前期比増加幅が下方修正されたことについて、ある委員は、1次速報時点の計数は実勢を大幅に上回っていると感じていたところであり、2次速報程度の伸びの方が実感に合うとした。別の委員は、悪天候の影響もあって、足もとの販売統計などはやや弱い動きを示しているが、雇用者所得が緩やかな増加に向かう可能性が高いとみられるもとで、先行きは緩やかに回復していくと考えられるとの見方を示した。

 生産について、多くの委員は、(1)携帯電話やパソコンの世界需要が下振れているほか、国内メーカーがデジタル家電の見通しをやや強気に見過ぎていたことの反動が出ているため、IT関連分野の調整はしばらく続くとみられること、(2)素材関連で既に生産能力の上限に達している先が少なくないこと、(3)こうした素材関連の供給力の天井が自動車などの生産にも影響を及ぼしつつあること、などの理由を挙げて、目先、生産の目立った増加は期待できないとした。

 生産の先行きとの関連で、IT関連分野を巡る動向について多くの議論があった。ほとんどの委員は、(1)デジタル家電の需要自体は増加していること、(2)IT関連需要は自動車用電子部品などを含め需要の裾野が広がっていること、(3)在庫の積み上がりに対し調整が比較的早い段階に開始されていること、(4)IT関連銘柄を多く含む米国ナスダック株価指数が上昇基調にあること、などを挙げて、2001年のバブル崩壊時と異なり大きく落ち込む可能性は低いとした。そのうち、何人かの委員は、2005年の前半には、IT関連分野の調整は山を越え、同分野を含めた生産全体も増加に転じてくるのではないかとの見方を示した。これに対し、複数の委員は、IT関連分野は需要の振幅が激しいだけに予測がきわめて難しく、足もとで調整が深まっている事実を踏まえても、クリスマス商戦の動向など今後の動きをしっかり見極めたうえで回復に転じるタイミングを判断する必要があると述べた。これら委員を含む何人かの委員は、IT関連分野の調整がさらに長引くリスクもあり、そのリスクが顕現化した場合には、企業・家計のマインドが下振れる可能性などについて、注意が必要であるとした。

 雇用・所得面では、委員は、求人関連指標や失業率、短観の雇用判断DIなど労働需給を反映する諸指標が改善を続けている中で、雇用者数が増加傾向にあるほか、賃金も概ね下げ止まりつつあり、雇用者所得は下げ止まっているとの認識を共有した。ある委員は、12月短観の新卒採用計画が上方修正されたことは、企業の採用意欲がより積極的なものとなっていることを示していると述べた。別の委員は、金融機関の採用計画が上方修正されたことも、経済全体にとってプラスの材料であると述べた。さらに別の委員は、失業期間が短期化している点を挙げながら、雇用のミスマッチが解消に向かっている可能性を指摘した。先行きについて、委員は、雇用者所得は緩やかな増加に向かう可能性が高いとの見方を共有した。この間、ある委員は、生産面の弱めの動きが続いた場合に、雇用・所得への波及がどうなるかは注意が必要であると述べた。

 物価面に関して、委員は、国内企業物価は内外商品市況高や需給の改善を反映して上昇している一方で、消費者物価の前年比は小幅のマイナスで推移しており、基調に大きな変化はみられないとの認識を共有した。もっとも、複数の委員は、制度要因などを調整してみれば、前年比マイナス幅は徐々に縮小してきていると指摘した。消費者物価の先行きについて、委員は、原油高のガソリン等への転嫁は既にかなりの程度進んでいる一方、米価格のマイナス寄与は今後拡大していく見通しであり、電話代について固定電話通信料の引き下げが指数に反映される可能性も高いことから、当面、前年比マイナスでの推移が続くとの見方で一致した。ある委員は、固定電話通信料の引き下げが指数に反映された場合、その寄与はかなり大きくなると見込まれるが、このように物価指数が技術的な要因によって影響を受けることは、しばしば起こり得ることであり、こうした点も含め、幅広い情報を踏まえて、物価の実勢を的確に判断していくことが重要であると述べた。企業段階の物価が上昇している一方で消費者段階の物価が上昇していないことの背景について、一人の委員は、生産性上昇や人件費抑制といった要因に加えて、消費者の価格をみる目が厳しく、値上げが難しいとの企業の声も聞かれていると指摘した。その委員も含めて、複数の委員は、企業段階の物価は、国内企業物価に加えて、企業向けサービス価格(95年基準)も前年比プラスとなっており、消費者段階の物価についても、企業の価格設定スタンスに変化が生じていないかどうか、引き続き注意してみていく必要があると述べた。ある委員は、2005年度は海上運賃の高騰や石炭・鉄鉱石価格の値上がりから鋼板類の価格が一段と上昇する見通しであることに触れたうえで、これまでに比べると、コストの上昇を生産性上昇で吸収できる余地は狭まっており、企業は、いずれ、販売価格に転嫁するか収益減を受け入れるかの判断を迫られることになるのではないかとの見方を示した。

2.金融面の動向

 金融面に関して、ある委員は、債券市場では、12月短観の公表後も、設備投資計画などの内容を好感する見方と、先行きの業況判断DIの悪化を懸念する見方とが拮抗して、大きな動きとならなかったと述べた。別の委員は、短観公表後、景気の先行き見通しに関する市場参加者と日本銀行の間のギャップはかなり解消したように感じられると指摘した。何人かの委員は、市場のボラティリティが全般に低下していることが、市場参加者の債券投資を促している面もあるのではないかと述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 当面の金融市場調節に関して、多くの委員は、金融システムに対する不安感の一段の後退などから、市場の資金余剰感が強くなっているが、このところは資金余剰期に入っており、オペレーションによる資金供給必要額が減っているため、短期資金供給オペの運営上の工夫によって、当座預金残高目標を達成していくことは可能であるとの見方を示した。複数の委員は、当座預金残高目標の引き下げは引き締めと捉えられる可能性があり、景気が微妙な情勢である現状は、残高目標をしっかりと達成していくことが大切であると述べた。この間、一人の委員は、ペイオフ解禁を契機として金融市場の流動性不安が後退していく中では、デフレが継続するもとで、量的緩和政策における潤沢な資金供給と結果としてのゼロ金利の維持という枠組みは堅持しつつ、タイミングを十分に見極めながら、市場の資金の余剰度合いに応じて徐々に当座預金残高目標値を減額していくことも考えられるのではないかとした。もう一人の委員は、こうした考え方に基本的に賛成であるとしたうえで、実際に目標値を見直していく際には、その時点の景気動向なども無視できないと述べた。

 現在の政策が金利に働きかける効果について、ある委員は、(1)ゼロ金利が一定期間続くことをコミットすることにより中長期の金利を引き下げる時間軸効果、(2)当座預金残高目標の引き上げが時間軸のアナウンスメントを補強する効果、(3)様々なオペレーションを通じて銀行間のクレジットスプレッドのばらつきを縮小させる効果、の3つに整理した。別の複数の委員は、こうした整理に概ね同意したうえで、現在の政策が経済に働きかける効果としては、さらにクレジットスプレッドの縮小が企業のバランスシート調整を促す効果なども考えられるとコメントした。もう一人の委員は、それぞれの効果の存在は否定しないが、時間軸効果以外の効果がそれほど大きいとは思えないと述べた。一方、量的緩和政策の副作用として、複数の委員は、(1)資金調達者のモラルハザードの拡大、(2)短期金融市場の市場機能の低下、(3)金融政策の機動性の低下、(4)財政規律の低下などを挙げた。これら委員を含めて、現状においてはこれらの副作用が効果との比較でみて著しく大きいとは言えないとの見方で一致した。

 GDP統計が連鎖指数方式に移行したことについて、ある委員は、2004年10月に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の実質GDP見通しへの影響を明らかにする必要があるのではないかと指摘した。複数の委員は、1月の金融経済月報の基本的見解で展望レポートの「中間評価」を示す際に、連鎖指数方式移行のGDP計数への影響度合いを数値で明示した方が良いのではないかと提案した。ある委員は、今回は異例の措置として改めて委員の見通しを集計することも一案ではないかと述べた。これに対し、一人の委員は、展望レポート公表の目的は経済・物価見通しのロジックを示していくことにあり、計数ばかりが注目されてしまうような対応は好ましくないとした。これらの議論を受けて、複数の委員は、「中間評価」を示す際にどのように情報発信していくかは1月の会合で改めて議論すべきではないかと述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  平成17年度予算の編成については、来たる24日の概算閣議に向け、最終的な調整を行っている。財政に対する国民や市場からの信認を高め、持続的な経済成長を実現するためにも財政健全化が必要であり、このような観点から、一般会計歳出及び一般歳出の水準を実質的に前年度同額以下に抑制してきた従来の歳出改革路線を堅持・強化し、従来にも増して、予算配分の重点化・効率化を行うとともに、新規国債発行額について前年度よりも減額することを確固たる目標として掲げ、予算編成に当たっている。
  •  わが国経済の現状をみると、景気は回復が続いていると認識しているが、このところ一部に弱い動きがみられることから、市場においては先行きへの慎重な見方もみられる。こうした中、デフレは依然として継続しており、その克服に向けた揺るぎない姿勢を堅持していくことが重要であると考えている。したがって、日本銀行におかれては、引き続き量的緩和政策堅持の姿勢を明確に示して頂きたいと考えている。
  •  加えて、現在の民間需要主導の景気回復を持続的なものとしていくためには、今後とも金融政策の役割が重要であると考えている。こうした観点から、緩和的な金融環境が継続するとの期待が将来に亘り維持されるよう、新たな工夫の検討を行って頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は、一部に弱い動きがみられ、このところ回復が緩やかになっている。平成17年度については、民間需要中心の緩やかな回復の継続と、デフレからの脱却に向けた進展を見込んでいる。最近の物価動向については、消費者物価の前年比上昇率がゼロ%を目前に足踏みを続けるなど、依然として緩やかなデフレが続いている。名目GDPの成長率は4〜6月、7〜9月と2期連続でマイナスとなっている。
  •  このような状況のもと、政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」等で集中調整期間後に見込んでいる成長経路、すなわち平成18年度以降は概ね名目2%程度あるいはそれ以上の成長を実現するために、民間需要や雇用の拡大に力点を置きつつ、各分野の構造改革をより加速・拡大することを検討している。
  •  日本銀行におかれても、政府との意思疎通を密にしつつ、デフレからの脱却を確実にすべく思い切った金融緩和を続けられることを期待する。その中で、デフレ克服には、結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であることから、効果的な資金供給に繋がるような措置も含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたい。また、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努める中で、デフレ克服までの道筋を明確に示して頂くことを期待している。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、水野委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(12月17日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は12月20日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(10月29日)及び前回会合(11月17、18日)の議事要旨が賛成多数で承認され、12月22日に公表することとされた(賛成8、棄権1)。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 棄権:水野委員

VIII.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2005年1月〜6月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
2004年12月17日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)
2004年12月17日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2005年1月〜6月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2005年1月 1月18日(火)・19日(水) 1月19日(水) (2月22日(火))
2月 2月16日(水)・17日(木) 2月17日(木) (3月22日(火))
3月 3月15日(火)・16日(水) 3月16日(水) (5月9日(月))
4月 4月5日(火)・6日(水)
4月28日(木)
4月6日(水)
----
(5月25日(水))
(6月20日(月))
5月 5月19日(木)・20日(金) 5月20日(金) (6月20日(月))
6月 6月14日(火)・15日(水) 6月15日(水) 未定
  • (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  • (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  • (注3)「経済・物価情勢の展望(2005年4月)」の「基本的見解」は、4月28日(木)15時(背景説明を含む全文は5月2日(月)14時)に公表の予定。

以上