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金融政策決定会合議事要旨

(2005年 3月15、16日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2005年4月28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2005年 5月 9日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2005年3月15日(13:59〜16:06)
3月16日( 9:00〜12:39)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(15日)
    田野瀬良太郎 財務副大臣(16日)
  • 内閣府 浜野 潤  政策統括官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治(16日)
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局参事役鮎瀬典夫(16日 9:00〜9:17)
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役山田泰弘(16日 9:00〜9:17)
  • 企画局企画役正木一博
  • 企画局企画役新見明久
  • 金融市場局企画役坂本哲也(16日 9:00〜9:17)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(2月16、17日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は30〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ねゼロ%近傍で推移した。ターム物レートも、総じて低位で安定的に推移している。この間、無担保コール市場残高が、外国銀行などの資金調達の活発化から増加している。

 株価は、米国株価が堅調に推移したことや、経済指標の予想比上振れを受けて景気の先行きに対する慎重な見方が後退したことから堅調な展開となり、日経平均株価は、足もと11千円台後半で推移している。

 長期金利は、経済指標の予想比上振れなどを受けて上昇した後、最近では1.4%台後半で推移している。

 為替市場では、円の対米ドル相場は、レンジ内での揉み合いとなり、足もとでは前回会合時とほぼ同水準の103〜105円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、個人消費と設備投資が増加を続けているほか、雇用も改善傾向を辿るなど、景気拡大が続いている。10〜12月の実質成長率は、年率+3.8%に上方修正され、ほぼ前期並みの伸びとなった。こうした中で、インフレ率は緩やかに上昇している。

 ユーロエリアでは、輸出の先行きに復調の兆しがみられるが、生産や雇用面での停滞感が引き続き根強く、景気回復のモメンタムは弱い。

 東アジアをみると、中国は、内外需ともに力強い拡大が続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域でも、緩やかな景気拡大が持続している。

 米欧の金融資本市場では、長期金利は、米国・欧州とも市場予想比強めの経済指標や原油高などを背景に上昇した。株価は、米国やドイツでは2月下旬にかけて下落したが、その後は総じてみれば景気拡大への期待感から上昇傾向を辿った。

 エマージング金融資本市場では、対米国債スプレッドが縮小し、株価も堅調に推移する国・地域が多かった。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大基調が続く中、IT関連分野における需給調整が徐々に進捗していることから、持ち直しつつある。1月の輸出は、中国向け等の特殊要因もあって10〜12月対比で+2.7%と高めの伸びとなり、財別では、IT関連財に持ち直しの動きがみられる。先行きも、輸出は増加していくとみられるが、世界的なIT関連需要が昨年前半のような高い伸びとなる可能性は低いため、増加テンポは緩やかなものとなると考えられる。

 企業収益は、10〜12月の法人企業統計では増加テンポが一服したが、業績見通しの下方修正はIT関連の一部に止まっており、全体としては増加基調を維持している。

 設備投資は、法人企業統計や機械受注などにやや弱めの指標がみられるが、製造業を中心に増加傾向にある。法人企業統計の10〜12月の設備投資は前期比−5.2%と減少したが、これには非製造業の中堅中小企業で同年前半みられた大幅増加の反動が出ていることの影響が大きく、製造業では着実な増加基調にある。機械投資をみると、同時指標である資本財出荷(除く輸送機械)は10〜12月に増加した後、1月も大幅に増加している。また、先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は10〜12月に前期比+6.0%と増加した後、1月は幾分減少したが、1〜3月の見通しでは増加が予想されている。先行きについても、内外需要や企業収益の増加が見込まれるもとで、設備投資は増加傾向を続けると予想される。

 個人消費は、底堅く推移している。1月の全国百貨店、スーパーの販売額は冬物衣料を中心に好調であった。乗用車新車登録台数は、引き続き堅調に推移しているほか、家電販売もデジタル家電を中心に順調な増加傾向が続いている。先行きの個人消費については、雇用者所得が緩やかな増加に向かうもとで、緩やかに回復していく可能性が高い。

 生産は、IT関連分野の在庫調整が続くもとで、横ばい圏内の動きとなっている。鉱工業生産は2四半期連続で弱めの動きを続けた後、1月は10〜12月対比で+2.5%と比較的大幅な増加となった。これには一時的な押し上げ要因も寄与しているが、輸送機械が増加しているほか、電子部品・デバイスについても下げ止まりつつある。先行きについては、当面はIT関連分野の在庫調整の影響が残るとみられるが、海外経済の成長が続き、内需の回復基盤もしっかりしていることを踏まえると、生産は増加していくと考えられる。

 雇用・所得環境をみると、求人関連指標や失業率は改善傾向を続けており、雇用者数は増加傾向にある。一人当たり平均でみた賃金はなお僅かな減少傾向にあるが、特別給与はこのところ増加している。雇用者数の増加とあわせて考えると、雇用者所得の下げ止まりが明確になってきている。先行きについても、企業の人件費抑制姿勢は継続するとみられるが、企業収益の増加や雇用過剰感の緩和が続くもとで、雇用者所得は緩やかな増加に向かう可能性が高い。

 物価動向をみると、国際商品市況は、原油や非鉄などを中心に上昇しており、これを反映して国内商品市況も石油製品や非鉄が強含んでいる。この間、国内企業物価は、昨年末にかけて原油価格がいったん反落したことから足もと弱含んでいるが、先行きは内外商品市況の上昇を受けて再び強含んでいく可能性が高い。一方、消費者物価(除く生鮮食品)は、小幅のマイナスとなっており、1月の前年比は−0.3%と12月に比べ若干マイナス幅を拡大した。これには規制緩和等による電気・電話料金の引き下げが影響している。先行きも、電気・電話料金の引き下げの影響が続くこともあって、前年比は小幅のマイナスで推移すると予想される。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にある。民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中、回復方向の動きに一服感がみられているが、民間銀行貸出は減少幅が緩やかに縮小している。この間、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き緩和している。

 資本市場調達については、CP・社債とも良好な発行環境が続いており、CP・社債の発行残高は引き続き前年を上回って推移している。流通市場における社債の信用スプレッドは、格付けの低いものまで含めてかなりの低水準となっている。

 マネタリーベースの伸び率は、前年比1%台となっており、マネーサプライ(M2+CD)は、前年比2%程度の伸びが続いている。

II.「適格担保取扱基本要領」の一部改正等

1.執行部からの提案内容

 CP市場において、手形CPから電子CPへの移行が今後も一層進んでいくことが見込まれるため、保証付短期外債(外国法人が日本国内で発行する円建ての電子CPのうち国内法人の保証が付されているもの)を適格担保とし、また、CP等買現先オペの対象資産とするため、「適格担保取扱基本要領」および「コマーシャル・ペーパー等の売戻条件付買入基本要領」の一部改正等を行うことを提案したい。

2.委員会の検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、足もと引き続き踊り場的な局面にあるが、IT関連分野の調整が徐々に進捗するもとで、これまで弱めの動きとなっていた生産に持ち直しの兆しがみられるなど、景気の回復メカニズムは維持されているとの認識を共有した。先行きについても、景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していくとの認識が共有された。

 海外経済に関して、委員は、米国や中国を中心に拡大を続けているとの見方を共有した。

 米国経済について、多くの委員は、景気拡大を続けているとの認識を示した。これらの委員は、(1)10〜12月の実質成長率が上方改訂されたこと、(2)企業経営者の設備投資意欲が高まっており、雇用者数も増加が続いていること、(3)株価が堅調に推移していることなどを指摘した。複数の委員は、こうした経済情勢のもと、生産者物価が広範な品目で上昇しており、企業の価格転嫁の動きなどを含めて、先行きのインフレ率の動向には注意していく必要があると述べた。また、ある委員は、米国経済の生産性の伸びが頭打ちとなった場合には、原材料価格の上昇が物価の上昇につながる可能性もあるため、金融市場への影響も含めて注意が必要であると指摘した。

 中国経済について、何人かの委員は、固定資産投資が高めの伸びを続けており、力強い拡大を続けているとの見方を示した。このうち、ある委員は、将来的に電力不足などの供給面のボトルネックの影響が拡大する可能性があるとしたほか、別の委員は、持続的な成長を維持する上で、過剰流動性の問題に適切に対処することが重要であると指摘した。

 このように海外経済の拡大が続くもとで、わが国の輸出は横ばいから持ち直しに転じつつあり、先行きについても増加していくとの見方が共有された。何人かの委員は、1月の輸出が10〜12月対比で増加となる中で、これまで弱い動きとなっていた半導体製造装置や電子部品、液晶パネル等のIT関連分野の輸出にも持ち直しの動きがみられていると指摘した。

 生産について、委員は、IT関連分野の在庫調整が続いていることなどから、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。多くの委員は、1月の生産が10〜12月対比で増加となったことを指摘した上で、これまで弱めの動きが続いていた電子部品・デバイスに下げ止まりの兆しがみられ、その在庫調整も徐々に進んでいること、1〜3月の生産予測指数が増加見通しとなっていることなどを挙げ、先行きについては、生産は増加していくとの見通しを示した。

 その上で、多くの委員は、IT関連分野の調整に関して幾つかの見方を付け加えた。ある委員は、1月の世界半導体出荷が高めの伸びとなっており、IT関連の最終財の荷動きもアジアを中心に活発化していると指摘した。また、何人かの委員は、在庫調整の進捗度合いは品目毎に異なるが、全体としては順調に進んでおり、春頃までに調整が終了する蓋然性が高まっているとの見通しを述べた。この間、一人の委員は、半導体の動向について、製造工程によって在庫調整の進捗が異なるほか、先行指標である北米の半導体製造装置のBBレシオ(受注額を出荷額で割った比率)が1月に低下しているとして、先行きには引き続き注意が必要であると指摘した。また、調整が一巡した後のIT関連需要の回復の見通しについて、複数の委員は、昨年前半のような高い伸びを取り戻す可能性は低く、回復は緩やかなものに止まるとの見方を示した。

 設備投資について、多くの委員は、10〜12月の法人企業統計やGDP統計などで弱めの動きがみられるものの、資本財出荷が高めの伸びとなっているほか、先行指標である機械受注や建築着工床面積も増加基調が維持されていることを挙げ、製造業を中心に増加傾向にあるとの認識を示した。これらの委員は、先行きに関しても、企業収益の増加基調が維持されるもとで、増加傾向が続くとの見通しを述べた。ある委員は、わが国経済の資本ストック循環の成熟度からみると、先行き2006年度に向けた設備投資の増加テンポは緩やかなものに止まる可能性が高いと付け加えた。また、複数の委員は、企業の設備投資計画については、法人企業統計で弱めの動きがみられた非製造業の中堅中小企業の動向も含めて、次回の短観で改めて確認したいと述べた。

 雇用・所得面では、委員は、求人関連指標や失業率など労働需給を反映する諸指標が改善を続けている中、雇用者数が増加傾向にあるほか、冬季賞与が増加に転じるなど賃金も下げ止まりつつあることから、雇用者所得の下げ止まりが明確になってきているとの認識を共有した。ある委員は、新卒採用の増加やパートから正社員へのシフトバックなど企業の雇用スタンスにも変化がみられていると指摘した。また、別の委員は、専門的技術者に対する求人倍率や高・大卒者の就職内定率が上昇しているほか、パート比率の上昇テンポも鈍化していると述べた。これに関連して、一人の委員は、最近のパート比率の上昇テンポの鈍化が基調的なものと言えるかどうかは、賃金や物価の先行きを見通す上で重要なポイントであり、注目していきたいとコメントした。一方、別の委員は、企業の人件費圧縮指向は弱まっていないと指摘した。

 個人消費について、委員は、雇用者所得の下げ止まりが明確になる中で、1月の百貨店、スーパーの販売額が冬物衣料を中心に好調となるなど、底堅く推移しているとの見方を共有した。1月の個人消費関連指標に良いものが目立った点に関連して、ある委員は、10〜12月にみられた弱めの動きが天候や天災など一時的な要因によるものであったという見方をある程度裏付けるものであると指摘した。また、別の委員は、消費は底堅いが、改善が続くかどうかの確認にはなお時間を要すると述べた。

 物価面に関して、委員は、国内企業物価は昨年末にかけて原油価格がいったん反落したことから足もと弱含んでいるが、先行きは内外商品市況の上昇を受けて、再び強含んでいく可能性が高いとの見通しを共有した。また、委員は、消費者物価の前年比は小幅のマイナスで推移しており、先行きについても電気・電話料金の引き下げの影響が続くこともあり、小幅のマイナスで推移するとの見方を共有した。

 その上で、多くの委員は、原油価格や原材料価格の上昇と、これらが消費者物価に及ぼす影響に関して、見方を示した。まず、足もとの原油など国際商品市況の上昇について、何人かの委員は、世界経済の拡大に伴う実需の増加に加えて、投機的な資金が相当程度流入している可能性があると述べた。また、多くの委員は、原材料価格の上昇は、今のところ企業段階でのユニット・レーバー・コストの低下などで吸収されており、消費者物価への影響は限定的であるとの認識を示した。もっとも、複数の委員は、このところ雇用者所得の下げ止まりが明確になっていることもあり、原材料価格の上昇については、先行きの企業収益や消費者物価に与える影響を含めて、注意してみていく必要があると付け加えた。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、きわめて緩和的な環境が続いているとの認識を共有した。

 何人かの委員は、4月にペイオフ全面解禁を控えているが、金融システム不安が後退しているもとで、金融機関間の預金の移動はみられていないほか、ターム物金利や銀行社債の対国債スプレッドをみても、市場参加者がペイオフ全面解禁のリスクを特に意識している様子は窺われないと指摘した。

 複数の委員は、世界的な長期金利の低位安定に触れ、基本的にインフレ予想の落ち着き等が反映されているとの認識を示した。その上で、先行き、米国におけるインフレ率の動向やFRBの政策スタンスの変更が、債券市場に及ぼす影響には注意が必要であると指摘した。これに関連して、ある委員は、米国において、インフレ予想が高まるもとで、長期の実質金利が低下している可能性があるとコメントした。この間、別の委員は、最近の世界的な長期金利の低位安定には、会計制度の変更等を背景として、年金や保険会社等の機関投資家の債券投資意欲が構造的に高まっていることも影響しているとの見方を示した。

 一人の委員は、マネタリーベースの伸び率の低下に触れて、こうした動きはマネーサプライの伸び率に影響を与えていないと述べた上で、マネーサプライの伸び率が高まるためには、金融機関貸出が伸びていくことが不可欠であり、今後の貸出動向に注目していきたいと付け加えた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 当面の金融市場調節に関して、委員は、金融システム不安の一段の後退などから金融機関の流動性需要が低下している中、オペの札割れが発生しているが、ペイオフ全面解禁を控えていることや、景気が引き続き踊り場的な局面にあることを踏まえると、調節運営面での工夫により現行の当座預金残高目標を維持していくことが適当であるとの認識を共有した。また、何人かの委員は、コール市場取引の活発化がオペに対する需要を減少させる方向で働く可能性はあるものの、当面の資金需給が余剰地合いとなる見込みにあるほか、市場における期間の長いオペに対するニーズは存在するため、当面は当座預金残高目標の維持は可能ではないかとコメントした。

 また、多くの委員は、先行きの調節運営について見解を述べた。

 ある委員は、「約束」に従って量的緩和政策の枠組みを堅持した上で当座預金残高目標の見直しを行うことに関しては、市場や国民の理解は得られつつあるとの見方を示した。その上で、金融システムの健全化を背景に金融機関の流動性需要が一段と減少する場合には、量的緩和政策の枠組み、すなわち、潤沢な資金供給の結果としてのゼロ金利と、量的緩和政策継続のコミットメントに伴う時間軸効果を堅持していくことにより、引き続きデフレからの脱却を図りつつ、金融市場の地合い等を見極めながら慎重にゆっくりと残高目標を減額していくことが適当であるとの意見を述べた。また、別の委員は、金融市場の動向によっては、現在の当座預金残高目標の維持が難しくなる可能性があるとした上で、その場合には、デフレ克服にマイナスの影響が生じないことに理解を得ながら、残高目標を減額することも一つの選択肢として考えられるとの認識を示した。

 この間、ある委員は、量的緩和政策の効果について、その継続のコミットメントがゼロ金利のもとで物価安定のアンカーを提供する効果を有しているほか、当座預金残高の大きさはゼロ金利の効果をさらに補強するものであると述べた。また、別の委員は、現在の時間軸効果は、景気が回復し、コミットメントのない状況では「出口」が近いと市場が判断するような局面になるにしたがって強まっていくと考えられるが、残高目標の減額は市場の期待形成を撹乱する要因となり、こうした効果を減殺してしまうおそれがあるとの考えを示した。また、この委員は、金融政策運営に関する最近の対外情報発信に関して、市場の一部には混乱を招いたとの評価もみられるとした上で、今後は細心の注意と節度をもって臨む必要があると述べた。もう一人の委員は、この問題は、政策というよりは技術的な問題と捉え、市場に根気強く説明していくことが必要であると述べた。この点について、別の委員は、技術的な残高目標の修正であっても、対外的に誤解が生じないようにするには困難が伴う面があると付け加えた。

 何人かの委員は、今後の対応については、景気・物価情勢をよく見極めた上で、ペイオフ全面解禁後の金融市場の状況や金融機関の資金調達行動などを丹念に点検するとともに、将来の政策運営への影響等も踏まえて、慎重に検討していくことが適当であるとの考えを示した。

V.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、大局的にみれば、景気回復局面にあると認識しているが、一部に上り坂が続く中での微調整とも言える動きも継続している。こうした中、デフレは依然として継続している。また、最近の原油価格高騰が経済に与える影響についても十分留意する必要がある。
  •  このような経済状況のもと、民間需要主導の景気回復を持続的なものとするとともに、デフレから脱却することは、政府・日本銀行が一体となって取組むべき重要課題であり、その達成のために最大限の努力を行わなければならない状況に変わりはないと考えている。
  •  日本銀行においても、このような基本スタンスのもと、平成13年3月以降、量的緩和政策を開始され、これまで順次日銀当座預金残高目標を引き上げ、これを維持することを通じて、こうした政策スタンスを対外的に示されてきたものと理解している。
  •  現状においても、民需主導の持続的な景気回復の達成及びデフレ克服に向けた最大限の努力が必要な状況に変わりはないため、日本銀行におかれては、現在の政策内容を継続するとともに、市場や国民に対して、日銀がデフレ克服に向け金融緩和政策を断固として継続するというメッセージを一貫して示して頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の現状については、一部に弱い動きが続いており、回復が緩やかになっている。政府としては、平成17年度には、政府・日本銀行一体となった取組みを進めることにより、デフレからの脱却に向けた進展を見込んでいる。また、平成18年度以降には、概ね名目2%程度あるいはそれ以上の成長を実現するため、各分野の構造改革を加速、拡大することとしているところである。
  •  日本銀行におかれても、政府との意思疎通を密にしつつ、デフレからの脱却を確実にすべく、現在の金融緩和を続けられることを期待する。デフレ克服には、結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であることから、効果的な資金供給により、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたいと考える。また、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努める中で、デフレ克服までの道筋を明確に示して頂くことを期待する。

VI.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、水野委員
  • 反対:なし

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(3月16日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は3月17日に、それぞれ公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前回会合(2月16、17日)の議事要旨が全員一致で承認され、3月22日に公表することとされた。

IX.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2005年4月〜9月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
2005年 3月16日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)
2005年 3月16日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2005年4月〜9月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2005年4月 4月5日(火)・6日(水)
4月28日(木)
4月6日(水)
----
(5月25日(水))
(6月20日(月))
5月 5月19日(木)・20日(金) 5月20日(金) (6月20日(月))
6月 6月14日(火)・15日(水) 6月15日(水) (7月19日(火))
7月 7月12日(火)・13日(水)
7月27日(水)
7月13日(水)
----
(8月12日(金))
(9月13日(火))
8月 8月8日(月)・9日(火) 8月9日(火) (9月13日(火))
9月 9月7日(水)・8日(木) 9月8日(木) 未定
  • (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  • (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  • (注3)「経済・物価情勢の展望(2005年4月)」の「基本的見解」は、4月28日(木)15時(背景説明を含む全文は5月2日(月)14時)に公表の予定。

以上