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金融政策決定会合議事要旨

(2005年 9月 7、 8日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2005年10月11、12日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2005年10月17日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2005年9月7日(14:00〜16:06)
9月8日( 9:00〜12:26)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 杉本 和行 大臣官房総括審議官
  • 内閣府 浜野 潤  政策統括官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局参事役鮎瀬典夫(8日9:00〜9:23)
  • 企画局企画役内田眞一
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長中山泰男
  • 政策委員会室審議役神津多可思
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役山田泰弘(8日9:00〜9:23)
  • 企画局企画役加藤 毅
  • 企画局企画役正木一博
  • 金融市場局企画役坂本哲也(8日9:00〜9:23)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(8月8、9日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は、30〜34兆円台で推移した。この間、景気・物価見通しの改善を背景に金融機関が長めの資金調達を積極化させていることなどから、長めの期間を中心にオペに対する応札状況が改善している。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、ゼロ%近傍で推移している。ターム物レートは、景況感の改善を受けて年度末を超えるゾーンで上昇した後、幾分低下した。

 株価は、景況感の改善や中期的にみた割安感の修正等を背景に大幅に上昇しており、日経平均株価は、2001年7月以来となる12千円台半ばで推移している。

 長期金利は、株価の上昇を受けて一旦上昇した後、米国金利の低下等を眺めて低下し、足もとは1.3%台前半で推移している。

 為替相場をみると、円の対米ドル相場は、米国との金利差拡大見通し等を背景にもみ合う展開となった後、米国経済指標の予想比下振れなどを受けて上昇し、最近では109円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国では、家計支出や設備投資を中心とする潜在成長率近傍の着実な景気拡大が続いている。インフレ率は、やや長い目でみれば、緩やかながらも着実な上昇傾向にある。8月末のハリケーンの影響については、現時点では見極め難いが、原油・ガソリン価格の高騰の長期化や消費者・企業コンフィデンスへの悪影響などが懸念される。

 ユーロエリアは、ユーロ安もあって輸出が持ち直しつつあるが、景気はなお停滞している。

 東アジアをみると、中国では、内外需とも力強い拡大が続いている。中国の輸入は、一部業種における在庫調整や景気過熱抑制策の浸透に伴う新規投資の減速などから伸びが大幅に鈍化してきたが、足もと復調しつつある。NIEs、ASEAN諸国・地域では、緩やかな景気拡大が続いている。

 米欧の金融資本市場をみると、原油の高騰を受けた景気の先行き不透明感の高まりなどを背景に、長期金利が低下し、株価は軟調に推移した。エマージング金融資本市場では、多くの国・地域で、通貨・株価が軟調に推移し、対米国債スプレッドが拡大した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大を背景に、緩やかながら増加を続けている。地域別にみると、7月は、米国向けが自動車の反動減等から減少した一方、中国向けは、振れの大きい半導体製造装置による押し上げもあって大幅に増加した。先行きは、海外経済が米国、東アジアを中心に拡大を続け、IT関連分野での調整圧力もほぼ一巡したとみられることから、次第に伸びが高まっていくと予想される。

 生産は、振れを伴いつつも増加傾向にある。7月の鉱工業生産は、4〜6月に続いて小幅の減少となったが、鋼船や医薬品を巡る統計的な振れが影響していることを踏まえると、実勢としては着実な増加傾向にある。先行き7〜9月も、予測指数や企業ヒアリングなどを踏まえると、緩やかな増加を続ける見通しである。

 在庫は、依然として低水準ながら、足もとは横ばいの動きとなっている。電子部品・デバイスでは、7月の出荷が増加していることや、7〜9月の生産が増加に転じる見込みにあることを考えると、IT関連の調整は概ね一巡したとみられる。この間、鉄鋼、化学などの素材業種では、内外需給の引緩みから在庫が幾分増加している。

 設備投資は、高水準の企業収益を背景に、増加を続けている。先行きも、内外需要の増加や高水準の企業収益が続く見込みのもとで、引き続き増加すると予想される。

 雇用・所得環境をみると、労働需給を反映する求人関連指標や失業率は改善傾向にあり、雇用者数は増加を続けている。賃金面では、夏季賞与の好調から特別給与が増加しているほか、所定内給与も、パート比率の低下などを反映して、ごく緩やかに増加している。こうしたもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも緩やかな増加を続けていく可能性が高い。

 個人消費は、底堅く推移している。全国百貨店売上高などの各種の販売統計は、7月は総じてやや弱めとなったが、好調であった4〜6月の反動という面が強いと考えられる。先行きの個人消費については、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、着実な回復を続ける可能性が高い。

 国内企業物価は、原油価格の影響などから上昇している。先行きについても、原油高等を反映して、上昇を続けるとみられる。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。先行きは、需給環境の緩やかな改善が続く中、米価格の下落や電気・電話料金引き下げの影響が弱まることなどから、年末頃にかけて、前年比ゼロ%ないし若干のプラスに転じていくと予想される。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にある。民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き改善している。そうしたもとで、民間銀行貸出は前年並みの水準となっている。

 資本市場調達については、CP・社債とも良好な発行環境が続いており、CP・社債の発行残高は前年を上回る水準で推移している。

 マネタリーベースの伸び率は前年比1%程度、マネーサプライ(M2+CD)の伸び率は前年比1%台で推移している。

II.担保掛け目等の見直しの実施および手形買入オペの取引方式の見直しに関する検討について

1.執行部からの提案内容

 本行適格担保の担保掛け目等について、本行資産の健全性確保や市場参加者の担保利用の効率性向上に資する観点から、近年の市場金利の変動状況等を踏まえて、これを見直すこととし、「適格担保取扱基本要領」等の一部改正を行うことを提案したい。

 あわせて、金融調節実務の効率化を図る観点から、手形買入オペについて、ペーパーレス化を実現するため、取引方式の見直しに関する検討を進めることとしたい。

委員会の検討・採決

 採決の結果、上記案件について全員一致で決定され、対外公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、わが国の景気は回復を続けており、先行きについても回復を続けていくとみられるとの認識を共有した。また、IT関連分野の調整はほぼ一巡したとの見方で一致した。

 海外経済に関して、委員は、米国や東アジアを中心に拡大が続いており、今後も潜在成長率近傍の拡大を続けるとの見方を共有した。

 多くの委員は、原油価格の上昇が世界経済に与える影響について意見を述べた。何人かの委員は、原油高にもかかわらず、世界経済が順調な拡大を続けている理由について、(1)今般の上昇は、エネルギー効率が相対的に低いエマージング諸国が高い成長を続ける中で、原油に対する需要が拡大していることを基本的な背景とするものであり、原油供給が大きく制約されている訳ではないこと、(2)世界的にインフレ期待が落ち着いているもとで、大幅な金融引締めが回避されていることなどが指摘できるとの見方を示した。そのうえで、これらの委員は、米国のハリケーンの影響もあって、供給面の制約から原油価格が一段と上昇することも考えられるが、その場合には、景気や物価に与える影響も従来とは異なったものになる可能性があると述べた。この間、ひとりの委員は、このところの原油高の背景について、原油の供給能力に比べて世界的な需要拡大のペースが早過ぎるために、需給逼迫感が強まっていることが主因であると理解すべきであるとの見解を示した。

 米国経済について、多くの委員は、家計支出と設備投資が着実に増加しており、先行きについても潜在成長率近傍の景気拡大が維持できる可能性が高いとの認識を示した。ハリケーンが米国経済に与える影響について、多くの委員は、現時点では見極め難いものの、原油やガソリン価格高騰の長期化や、消費者や企業のコンフィデンスの悪化などを通じて景気に悪影響を及ぼす可能性があるため、注意してみていく必要があると述べた。この点に関し、ある委員は、先行き本格的な復興需要が見込まれることを踏まえれば、米国経済は、いずれは景気拡大軌道に復していくとの見解を示した。この間、ひとりの委員は、リスク要因として住宅価格の上昇を指摘したうえで、今後、インフレ期待の高まりに伴う長期金利の上昇等をきっかけに、価格の調整が生じる可能性も否定できないと指摘した。別のひとりの委員は、最近では、住宅在庫の増加や売買回転率の低下など住宅価格の上昇基調に若干の変化がみられ始めているとしたうえで、今後、住宅価格の下落に伴って家計の貯蓄率が上昇することも考えられると述べた。この委員は、こうした貯蓄率の上昇は、やや長い目でみれば望ましい動きではあるが、短期的には景気に対するマイナスの影響が懸念されると続けた。

 東アジア経済について、多くの委員は、中国では内外需ともに力強い拡大が続いているとの認識を示した。もっとも、ひとりの委員は、中国経済は、これまでの過熱抑制策にもかかわらず、明確な減速の兆しはみられておらず、今後の動向には注意が必要であると述べた。別のある委員は、特にASEAN諸国では、原油価格上昇の悪影響が懸念されるが、中東向け輸出の増加といったプラスの効果もみられており、今後も景気拡大基調が維持される可能性が高いとの見解を示した。

 こうしたもとで、わが国の輸出は、緩やかな増加を続けており、 先行きについても、世界的なIT関連の調整圧力がほぼ一巡し、海外経済が拡大を続ける中で、次第に伸びが高まっていくとの認識が共有された。

 国内民間需要について、委員は、設備投資・個人消費ともにしっかりとした動きが続いているとの見方で一致した。

 企業部門について、委員は、設備投資は引き続き増加しており、先行きも、高水準の企業収益を背景に増加を続けると見込まれるとの認識を共有した。何人かの委員は、法人企業統計季報の結果をみると、製造業大企業で設備投資の着実な増加が続いているほか、中小企業や非製造業でも増加傾向が明確になっているとの見方を示した。

 委員は、企業部門の好調は、家計部門にも着実に波及しているとの認識を共有した。

 雇用・所得面について、委員は、夏のボーナスの大半を占める6、7月の特別給与が高めの伸びとなったほか、所定内給与もパート比率の低下等を背景にごく緩やかに増加しており、こうしたもとで雇用者所得は緩やかな増加を続けているとの認識を共有した。

 個人消費について、多くの委員は、7月の各種の販売統計は、総じてやや弱めの動きとなったものの、好調であった4〜6月の反動という面が強く、先行きについても、雇用者所得の緩やかな増加を背景に着実な回復を続ける可能性が高いとの見方を示した。ある委員は、株高による資産効果や配当の増加なども、個人消費の堅調に寄与していると述べた。この間、別のひとりの委員は、今後、人口動態の変化や、税制・社会保障負担の見直しが、個人消費にどのような影響をもたらすかについて注意してみていく必要があるとの見方を示した。

 生産面について、多くの委員は、7月の生産は4〜6月に続いてやや弱めの動きとなったものの、統計的な振れなどを考慮すると、実勢としては緩やかな増加傾向にあるとの見方を示した。もっとも、ある委員は、素材などを中心に在庫率指数が高めの水準にあることを指摘し、IT関連以外の分野では在庫調整圧力が存在しており、先行きの生産・出荷が抑制される可能性があると述べた。

 IT関連分野の調整について、委員は、電子部品・デバイスの出荷が足もと増加していることや、7〜9月の生産が増加に転じる見込みであることなどを踏まえると、調整はほぼ一巡したとみられるとの認識を共有した。もっとも、何人かの委員は、わが国のIT関連財の輸出が伸び悩んでいること、DRAMなどの半導体市況の弱含みが続いていること、世界半導体需要見通しも力強さを欠いていることなどを指摘し、当面、IT関連需要の回復のペースは緩やかなものになると見込まれると指摘した。

 以上のような議論を踏まえて、多くの委員は、わが国の景気は、内外の需要に支えられて着実な回復を続けており、「踊り場」を脱却したと判断できるが、輸出の伸びが依然緩やかなものにとどまっていることや、生産も力強さを欠いていることなどを踏まえると、景気回復のテンポが加速していくというよりは、息の長い緩やかな景気回復が続く可能性が高いとの見方を示した。ひとりの委員は、出荷指数など供給面からみた統計が幾分弱めとなっていることは、景気の回復力の乏しさを示唆するものと理解できると述べた。

 物価面について、委員は、国内企業物価は、原油価格の高騰を受けて上昇しており、先行きも上昇を続けるとみられるとの認識を共有した。また、消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、足もとは小幅のマイナスで推移しているものの、先行きについては、景気回復に伴って需給環境の緩やかな改善が続く中、米価格の下落や電気・電話料金引き下げの影響が弱まることなどから、年末頃にかけてゼロ%ないし若干のプラスに転じていくと予想されるとの見方で一致した。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、極めて緩和的な金融環境が続いているとの認識を共有した。ある委員は、8月の民間銀行貸出(特殊要因調整後)が、98年10月の統計公表開始以降、初めて前年比プラスに転じたことを指摘し、金融機関の貸出姿勢の積極化に加え、設備投資が着実に増加するもとで、企業の資金需要にも何がしか変化が生じつつあることも影響しているとの見方を示した。

 金融・資本市場の動向について、何人かの委員は、このところ株価が大幅に上昇し、日経平均株価では約4年振りの高値となっていることについて意見を述べた。複数の委員は、市場において、景気に対する過度に慎重な見方が修正されてきていることが影響しているとの見解を示した。別のある委員は、最近の株高には、企業収益の好調や日本株の相対的な割安感を背景とする外人投資家の積極的な投資スタンスが影響しており、今後は、米国株価等と異なった方向の動きとなる可能性もあると指摘した。この間、複数の委員は、株価の堅調にもかかわらず長期金利が足もと低下基調にあることについて、原油価格高騰の長期化を受けて世界経済の先行き不透明感が意識されつつあることや、こうしたもとで米国の長期金利が低下していることなどが影響しているとの見方を示した。別の委員は、インフレなき成長が持続し、引き続き財政再建が進められていけば、先行き長期金利の安定的な推移に資すると考えられると述べた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、消費者物価指数の前年比が小幅のマイナスで推移するもとでは、「約束」の条件に沿って、量的緩和政策の枠組みを堅持することが引き続き重要であるという認識を共有した。

 その上で、複数の委員は、金融システム不安が後退するもとで、金融機関が資金繰り上必要とする流動性需要が趨勢的に減少していることや、将来の量的緩和政策の解除を円滑に行うためには、早めの段階から出来るだけ市場における自由な金利形成を促していく必要があること等から、現時点で当座預金残高目標を減額することが適当であるとの見解を示した。

 これに対して、大方の委員は、「なお書き」を含めて、現在の金融市場調節方針を継続することが適当であるとの見解を述べた。何人かの委員は、長めの期間を中心にオペに対する応札状況が改善し、「札割れ」が減少している事実を指摘し、景気見通しの強気化や物価の先行き上昇予想等を背景に、金融機関が長めの資金調達を積極化させていることが主な理由と考えられるとの見方を示した。このうちひとりの委員は、金融システムが安定しているもとで、金融機関の流動性需要が趨勢的に弱まっているという基調には何ら変化はないことを踏まえると、状況の変化に合わせた対応を可能とするため、現行の「なお書き」を維持することが適当であると述べた。

 何人かの委員は、長めのオペに対する応札が好調であり、無理なく当座預金残高目標を達成できる状況においては、市場における円滑な金利形成を促すとともに、将来における金融政策運営の機動性・柔軟性を高める観点から、自然体でオペ期間を短縮していくことが望ましいとの見方を示した。この間、ひとりの委員は、オペ期間の短縮に当たっては、結果としてターム物金利のボラティリティが過度に高まらないよう配慮する必要があると付け加えた。当座預金残高目標の減額を主張した別の委員は、金融政策の機動性・柔軟性確保のためにはオペ期間の短縮が求められるが、現行の当座預金残高を維持する下では、短期化には限界があると述べた。

 将来、金融機関の資金需要が一段と低下した場合の対応について、ある委員は、当座預金残高目標の引き下げが必要となる可能性は否定できないが、市場での受け止められ方などを考慮すると、景気情勢を踏まえた注意深い検討が必要であると述べた。また、別の委員は、慎重に当座預金残高目標を減額していくことは将来の選択肢の一つと指摘しつつも、景気や物価の現状を踏まえると、現状の金融市場調節方針の継続が適当であると述べた。

 何人かの委員は、消費者物価指数の前年比のプラス転化が視野に入ってくる中で、量的緩和政策解除の時期や具体的な手順、さらにはその先の金融政策運営に対する市場参加者の関心は高まっており、今後、対外的な情報発信が一段と重要な課題になるとの認識を示した。この間、複数の委員は、情報発信に当たっては、経済金融情勢の変化に応じた機動的な金融政策運営を損なうことがないよう十分な配慮が必要であると述べた。この点に関し、ひとりの委員は、今後、時間軸効果が薄れていく中で、量的緩和政策は、実質的にはコミットメントのないゼロ金利になっていくとの見方を示したうえで、このような政策効果の変化を踏まえた情報発信が重要であるとコメントした。

V.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国の経済の現状をみると、景気は企業部門と家計部門がともに改善し、緩やかに回復しているが、消費者物価指数やGDPデフレーターがマイナスであるなど、デフレは依然として継続している。
      また、原油価格は更に高騰を続けており、原油価格の動向が内外経済に与える影響については、今後明らかになっていくハリケーン被害の影響とともに、注意深くみていく必要がある。
  •  民間主導の景気回復を持続的なものとし、デフレから脱却することは、今後とも政府・日本銀行一体となって取り組むべき最も重要な政策課題であり、その達成のために最大限の努力を払わなければならない状況に変わりはないと考えている。
      したがって、日本銀行におかれては、現状の量的緩和政策を堅持する姿勢に変更がないことを、国民や市場に引き続きご説明願いたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の現状については、企業部門と家計部門がともに改善し、緩やかに回復している。一方、金融面ではマネーサプライ(M2+CD)の伸び率が1%台で推移しており、物価動向を総合的に勘案すれば依然としてデフレ状況にある。
  •  政府は、改革の総仕上げである平成18年度の予算編成に当たり、さらに構造改革を加速・拡大するとした18年度予算の全体像を8月10日に経済財政諮問会議で決定した。その際、マクロ経済動向等を踏まえるため、内閣府による17年度の経済動向試算及び18年度のマクロ経済の想定を公表した。ここでは、政府・日本銀行一体となったデフレ脱却に向けた政策努力を前提として、17年度はGDP成長率で実質1.6%、名目1.0%、18年度は実質2%弱、名目2%程度という経済の姿を示した。
  •  日本銀行におかれては、実体経済が緩やかに回復している一方で、デフレ克服には結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であることから、政府のデフレ脱却への取り組みや経済の展望と整合的なものとなるよう、市場の動向や期待を踏まえつつ、実効性のある金融政策を行われることを期待する。

VI.採決

 以上の議論を踏まえ、多くの委員は、当面の金融市場調節方針については、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針について、「なお書き」を含め、現状を維持することが適当である、との考え方を示した。

 これに対し、ひとりの委員は、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「27〜32兆円程度」に引き下げる旨の議案を提出したいと述べた。また、別の委員は、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「25〜30兆円程度」に引き下げる旨の議案を提出したいと述べた。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 福間委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:福間委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、水野委員、西村委員

 水野委員からは、「日本銀行当座預金残高が25〜30兆円程度となるよう金融市場調節を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:水野委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、西村委員

 議長からは、会合における多数意見を取りまとめる形で、以下の議案が提出された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員
  • 反対:福間委員、水野委員

福間委員は、(1)市場の景況感・金利観が変化する中で、現行の当座預金残高目標に基づく巨額の資金供給は、市場メカニズムに基づく円滑な金利形成の阻害要因となっているほか、先行きの金利変動リスクを高める惧れがあるため、量的緩和政策の枠組みの堅持に支障を及ぼさない範囲でこれを是正していくことが望ましいこと、(2)当座預金残高目標維持のために長めのオペを続けることは、量的緩和政策の解除に要する期間を長期化させ、将来における金融政策の機動性・柔軟性を低下させること、(3)量的緩和政策の解除は、経済金融情勢を慎重に見極めながら漸進的・段階的に行うことが適当であること、(4)「約束」に沿ってゼロ金利を継続することにより、景気回復ひいては小幅の物価下落からの脱却をサポートすることは十分可能であること、から反対した。

水野委員は、(1)金融機関の流動性に対する予備的需要が趨勢的に減退している状況に変化はなく、受身的に当座預金残高を引き下げることは自然な対応であること、(2)量的緩和政策解除時の市場の安定を図るうえでは、当座預金残高を短期間で集中して引き下げるのではなく、市場の実勢に合わせて修正に着手することが適当であること、から反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(9月8日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は9月9日に、それぞれ公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(7月27日)および前回会合(8月8、9日)の議事要旨が全員一致で承認され、9月13日に公表することとされた。

IX.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2005年10月〜2006年3月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
2005年9月8日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成7反対2)。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

以上


(別添2)
2005年9月8日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2005年10月〜2006年3月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2005年10月 10月11日(火)・12日(水)
10月31日(月)
10月12日(水)
----
(11月24日(木))
(12月21日(水))
11月 11月17日(木)・18日(金) 11月18日(金) (12月21日(水))
12月 12月15日(木)・16日(金) 12月16日(金) (1月25日(水))
2006年1月 1月19日(木)・20日(金) 1月20日(金) (3月14日(火))
2月 2月8日(水)・9日(木) 2月9日(木) (3月14日(火))
3月 3月8日(水)・9日(木) 3月9日(木) 未定
  • (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  • (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  • (注3)「経済・物価情勢の展望(2005年10月)」の「基本的見解」は、10月31日(月) 15時(背景説明を含む全文は11月1日(火)14時)に公表の予定。

以上