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金融政策決定会合議事要旨

(2005年10月11、12日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2005年11月17、18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2005年11月24日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2005年10月11日(14:00〜15:52)
10月12日( 9:00〜12:17)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 杉本 和行 大臣官房総括審議官(11日)
    上田 勇  財務副大臣(12日)
  • 内閣府 浜野 潤  政策統括官(経済財政運営担当)(11日)
    齋藤 潤  大臣官房審議官(経済財政運営担当)(12日)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局企画役内田眞一
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長中山泰男
  • 政策委員会室審議役神津多可思
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役白塚重典
  • 企画局企画役武田直己(12日)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(9月7、8日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は、中間期末日に当たる9月30日を含め、31〜34兆円台で推移した。この間、オペへの応札状況も順調に推移し、オペ期間は幾分短期化している。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ねゼロ%近傍で推移した。ターム物レートは、景況感の改善や市場が予想する量的緩和継続期間の短期化を受けて幾分上昇した。

 株価は、景気回復期待の高まりを背景に上昇し、日経平均株価は、2001年5月以来の水準となる13千円台半ばで推移している。

 長期金利は、景況感の改善を受けて、足もとは1.5%程度まで上昇している。

 円の対米ドル相場は、日米金利差拡大見通しが強まったことを背景に下落し、最近では、114円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国では、家計支出や設備投資を中心に潜在成長率近傍の着実な景気拡大が続いている。コア・インフレ率は、緩やかながらも着実な上昇傾向にある。この間、8月末以降、相次いで襲来したハリケーンの影響が、家計支出や消費者コンフィデンス指標などに一部表れ始めている。

 ユーロエリアでは、ユーロ安もあって輸出や生産が持ち直しているが、景気は停滞の域を脱していない。

 東アジアをみると、中国では、内外需とも力強い拡大が続いている。また、輸入の前年比伸び率は、このところ復調している。NIEs、ASEAN諸国・地域も、一部の国でエネルギー高の影響がみられているものの、総じてみれば緩やかな景気拡大を維持している。

 米欧の金融資本市場をみると、インフレ懸念がより意識されるようになったことなどから、長期金利が上昇した。株価は、米国では一進一退となったが、ドイツや英国では上昇した。また、エマージング金融資本市場では、多くの国・地域で、通貨が米ドル高を受けて減価する中、株価が上昇し、対米国債スプレッドが縮小した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大を背景に、緩やかな増加を続けている。地域別には、これまでやや伸び悩んできた中国向けも持ち直しの動きが明確になっており、財別でみると、情報関連や自動車部品の増加がはっきりしてきている。先行きも、海外経済の拡大を背景に、増加を続けていくとみられる。

 企業部門の動向をみると、企業収益が高水準で推移し、業況感も小幅の改善がみられる中、設備投資は増加を続けている。9月短観で2005年度の設備投資計画をみると、製造業大企業、非製造業大企業とも強い計画となっている。また、中小企業についても、幅広い業種で順調な上方修正がみられている。

 生産は、実勢として緩やかな増加傾向を続けている。7〜8月の鉱工業生産は、4〜6月対比で小幅の減少となったが、鋼船や医薬品の統計的な振れによって下押しされているとみられるほか、9月の予測指数が大幅な増加となっており、7〜9月全体では増加すると見込まれる。先行きも、海外経済の成長が続き、内需の回復基調がしっかりしていることを踏まえると、増加基調を続けるとみられる。

 在庫については、長い目でみれば低水準ながら、このところ素材業種を中心にやや増加している。もっとも、9月短観におけるこれら業種の在庫判断DIの悪化は小幅であることからみても、調整は軽度に止まっているとみられる。また、電子部品・デバイスについては、7〜8月の出荷が回復し、在庫調整の一巡が確認された。

 雇用・所得環境をみると、労働需給を反映する諸指標が改善傾向を続ける中、雇用と賃金の改善を反映して、雇用者所得は緩やかに増加している。先行きも、雇用過剰感が概ね払拭されていることや、企業収益が高水準を続けるとみられるもとで、雇用者所得は緩やかな増加を続ける可能性が高い。

 個人消費は、底堅く推移している。全国百貨店売上高などの個別の指標をみると、6月まで総じて強めに推移した後、7月以降は幾分反動減がみられている。もっとも、消費者コンフィデンスは、引き続き総じて良好であり、先行きの個人消費については、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、着実な回復を続ける可能性が高い。

 国内企業物価は、原油価格上昇の影響などから上昇している。先行きについても、原油高等を反映して、上昇を続けるとみられる。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。先行きは、需給環境の緩やかな改善が続く中、米価格の下落や電気・電話料金引き下げの影響が弱まることなどから、年末頃にかけて、前年比ゼロ%ないし若干のプラスに転じていくと予想される。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にある。民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き改善している。そうしたもとで、民間銀行貸出は前年並みの水準となっている。

 資本市場調達については、CP・社債とも良好な発行環境が続いており、CP・社債の発行残高は前年を上回る水準で推移している。

 マネタリーベース、マネーサプライ(M2+CD)の伸び率は前年比1%台となっている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、わが国の景気が堅調な国内民間需要を中心に回復を続けており、先行きについても回復を続けていくとみられるとの認識で一致した。また、IT関連分野の調整が終了し、国内民間需要がしっかりとしていることから、回復の持続性は高いとの見方を共有した。

 海外経済に関して、委員は、米国や東アジアを中心に拡大が続いており、今後も潜在成長率近傍の拡大を続けるとの見方を共有した。ただし、多くの委員が、ハリケーンの襲来や原油価格の上昇長期化による影響から、先行きの不確実性が高まっている点には留意していくべきであると述べた。

 米国経済について、多くの委員は、ハリケーンの影響が消費者コンフィデンスの悪化などにみられ始めているものの、先行きは復興需要が見込まれることもあり、減速は一時的なものにとどまる可能性が高いとの見方を示した。この間、一部の委員は、ハリケーンの原油生産・精製設備への影響が小さくなく、原油価格も高騰が続く可能性が高いため、先行きの不透明感は高まっていると付け加えた。何人かの委員は、米国経済は、既にユニット・レーバー・コストの前年比がプラスになっているなど、インフレ方向へのリスクが意識されるようになってきているとして、今後、インフレ予想の高まりに伴う長期金利の上昇等をきっかけに、住宅価格の調整や家計支出の悪化が生じることがないか、注意していく必要があると述べた。また、ある委員は、不動産価格上昇の過程で、家計の金融負債が増加しており、長期金利が上昇した場合の影響は大きくなっている可能性があると指摘した。

 東アジア経済について、多くの委員は、中国では内外需ともに力強い拡大が続いているとの認識を示した。もっとも、複数の委員は、中国経済は部門間・地域間の不均衡などの構造的な不安定化要因を抱えており、今後の動向には注意が必要であると述べた。また、ある委員は、ASEAN諸国では、IT分野の調整が一巡する中、多くの国で、輸出の増加が続いていると指摘した。

 こうしたもとで、わが国の輸出は、これまでやや伸び悩んできた中国向けも持ち直しの動きが明確になるなど、緩やかな増加を続けており、先行きについても、海外経済が拡大を続ける中で、増加を続けていくとの認識が共有された。

 国内民間需要について、委員は、しっかりとした動きが続いているとの見方で一致した。

 企業部門について、委員は、設備投資は引き続き増加しており、先行きも、高水準の企業収益を背景に増加を続けると見込まれるとの認識を共有した。多くの委員は、短観を踏まえ、企業収益が原油価格の上昇を吸収しながら好調を続けており、そのもとで、設備投資も増加を続けるとの見方を示した。複数の委員は、設備投資計画が中小企業でも上方修正されており、設備投資増加の裾野の広がりが確認されたと述べた。

 委員は、企業部門の好調は、家計部門にも着実に波及しているとの認識を共有した。

 雇用・所得面について、委員は、雇用者数、賃金がともに増加し、雇用者所得も全体として緩やかに増加を続けているとの認識を共有した。ある委員は、短観の雇用判断DIが企業規模を問わず不足超に転じていることからみて、雇用者所得の増加が先行きも続く可能性が高いとの見方を示した。個人消費について、多くの委員は、7、8月の統計の一部に6月までの好調の反動がみられているものの、消費者コンフィデンスは引き続き高水準であるなど、基調として底堅く推移しており、先行きについても、雇用者所得の緩やかな増加を背景に着実な回復を続ける可能性が高いとの見方を示した。ひとりの委員は、こうした個人消費の動きには、資産効果も寄与しているとコメントした。

 生産面について、多くの委員は、7〜8月の鉱工業生産が4〜6月対比で小幅の減少となったものの、鋼船や医薬品の統計的な振れなどを考慮すると、実勢として緩やかな増加傾向にあるとの見方を示した。この間、委員は、IT関連分野の出荷が7〜8月では回復しており、調整一巡を統計上も確認できたとの認識を共有した。

 以上のような議論を踏まえて、委員は、わが国の景気は、輸出が増加を続ける中、堅調な内需に支えられて、息の長い緩やかな回復が続くとの見方で一致した。もっとも、回復のテンポが緩やかであることもあって、高騰を続ける原油価格の動向やその世界経済への影響等、リスク要因についても、留意していく必要があるとの認識を共有した。

 物価面について、委員は、国内企業物価は、原油価格の高騰を受けて上昇しており、先行きも上昇を続けるとみられるとの認識を共有した。また、消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、足もとは小幅のマイナスで推移しているものの、先行きについては、景気回復に伴って需給環境の緩やかな改善が続く中、米価格の下落や電気・電話料金引き下げの影響が弱まることなどから、年末頃にかけてゼロ%ないし若干のプラスに転じていくと予想されるとの見方で一致した。

 この間、ある委員は、(1)デフレか否かの判断のために、家計が消費する対象となる消費財やサービスの価格を中心にみるなら、民間投資、政府支出、純輸出等を含むGDPデフレーターは必ずしも適当な指標ではない、(2)仮にGDP統計でみるのであれば、家計最終消費支出デフレーターを使うべきであるが、その場合でも、連鎖方式化されたとはいえ、パーシェ指数としての下方バイアスがあり、パソコン等の価格下落を過大に反映する傾向がある点に留意する必要がある、と指摘した。別の委員は、物価情勢の判断に当たっては、消費者物価指数の上方バイアスも考慮した実勢ベースでみていくことが重要であるとコメントした。また、別のある委員は、デフレという言葉は多義的なので、注意して使う必要があると述べた。

 地価の動向について、何人かの委員は、都道府県地価調査で、三大都市圏の住宅地・商業地の下落幅がはっきりと縮小しており、東京23区が15年振りにプラスに転じたことなどを指摘し、地価に底入れ感が窺われると述べた。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、極めて緩和的な金融環境が続いているとの認識を共有した。こうした中、何人かの委員は、マネーサプライがこのところ1%台後半の伸びとなっている点について、企業のキャッシュフローが潤沢であることに加え、資金調達手段の多様化が進んでいること、「貯蓄から投資への流れ」もみられること等を踏まえ、マネーサプライと名目成長率の関係が不安定化している状態が当面続くと指摘し、やや低めのマネーサプライの伸びが、持続的な景気回復とも共存し得るとの見方を示した。

 金融・資本市場の動向について、委員は、株価が大幅に上昇し、長期金利も若干上昇している動きについて、基本的には、景況感の改善を背景としたものであるとの見方を共有した。この間、何人かの委員は、株価の上昇には、総選挙の結果や企業業績の見通しの好調さを好感した外国人投資家の積極的な投資スタンスが影響していると指摘した。この点について、ある委員は、主として外国人投資家による株式先物買い・債券先物売りの動きもみられており、その動向を見守る必要があるとの見方を示した。また、複数の委員は、こうした株価上昇の背後で、信用取引が急増していることに注意しておく必要があると述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、消費者物価指数の前年比が小幅のマイナスで推移するもとでは、「約束」の条件に沿って、量的緩和政策の枠組みを継続することが適当であるという認識を共有した。

 その上で、複数の委員は、金融システム不安が後退するもとで、金融機関が資金繰り上必要とする流動性需要が趨勢的に減少していることや、将来の量的緩和政策の解除を円滑に行うためには、早めの段階から出来るだけ市場における自由な金利形成を促していく必要があること等から、現時点で当座預金残高目標を減額することが適当であるとの見解を示した。

 これに対して、大方の委員は、「なお書き」を含めて、現在の金融市場調節方針を継続することが適当であるとの見解を述べた。何人かの委員は、引き続きオペに対する応札状況が好調で、「札割れ」が減少しており、市場機能の維持に配慮しつつ、当座預金目標を維持していくことができるとの判断を示した。このうち複数の委員は、将来、金融機関の資金需要が一段と低下した場合、当座預金残高目標を慎重に減額していくことが必要となる可能性は否定できないが、市場での受け止められ方などを考慮すると、景気情勢を踏まえた注意深い検討が必要であると述べた。

 この間、今後の金融政策運営に関する情報発信のあり方についても、議論が行われた。委員は、これまでの情報発信によって、市場参加者の間に、景気回復の持続性や、「2006年度にかけて」量的緩和政策の解除の可能性が高まっていくとの見方が浸透したとの認識を共有した。このうち一部の委員は、量的緩和政策の効果は次第に短期金利がゼロ金利であることによる効果が中心になってきていることを踏まえると、政策の枠組みの変更自体は、政策効果について非連続的な変化を伴うものではない点を、さらに丁寧に説明していくことが大切であるとコメントした。

 また、多くの委員は、解除後の金融政策運営に関する情報発信に当たっては、金融市場における円滑な期待形成に配慮する一方、金融経済情勢の変化に応じた機動的な金融政策運営が可能となるようバランスをとっていくことが重要であると述べた。そのうえで、委員は、こうした点については、展望レポートに向けてしっかりと検討していく必要があるとの認識を共有した。複数の委員は、情報発信に当たっては、決定会合での議論を経て共通の認識になっている内容を出発点とすべきであると述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、景気は緩やかに回復しているが、消費者物価指数やGDPデフレーターがマイナスであるなど、デフレは依然として継続している。
      また、原油価格は引き続き高い水準にあり、原油価格の動向が内外経済に与える影響については、注意深くみていく必要がある。
  •  民間主導の景気回復を持続的なものとし、デフレからの脱却を確実に果たすことは、今後とも政府・日本銀行一体となって取り組むべき最も重要な政策課題であり、その達成のために最大限の努力を払わなければならない状況に変わりはないと考えている。
      したがって、日本銀行におかれては、今後とも経済・物価情勢について十分慎重に検討するとともに、デフレが継続する中、現状の量的緩和政策を堅持する姿勢に変更がないことを、引き続き国民や市場に丁寧にご説明願いたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の現状については、緩やかに回復している。しかしながら依然としてデフレの状況は続いており、その克服が引き続き政府の最重要政策課題である。
  •  マネーサプライ(M2+CD)が実体経済の回復にもかかわらず前年比1%台の伸び率でしかないことについては、要因は様々指摘されているが、金融システム不安は既に解消したこと、特殊要因調整後の銀行貸出も漸くプラスになったこと等から銀行の信用創造機能の再活性化も期待できるようになってきたと考えられる。
  •  日本銀行におかれては、デフレ克服には結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であることから、政府のデフレ脱却への取り組みや経済の展望と整合的なものとなるよう、実効性のある金融政策を行われることを期待する。
      なお、デフレの状況を判断するに当たっては、消費者物価だけでなくGDPデフレーターを含めて総合的に行うべきであると考えているが、消費者物価の現状及び先行きについても、物価形成メカニズムにおける原油価格上昇の影響やその他の特殊要因、統計のバイアス等を十分考慮して慎重な判断を行って頂きたいと考えている。そのうえで市場における適切な期待形成を促すことによりデフレからの脱却に寄与して頂くことを期待している。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、多くの委員は、当面の金融市場調節方針については、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針について、「なお書き」を含め、現状を維持することが適当である、との考え方を示した。

 これに対し、ひとりの委員は、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「27〜32兆円程度」に引き下げる旨の議案を提出したいと述べた。また、別の委員は、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「25〜30兆円程度」に引き下げる旨の議案を提出したいと述べた。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 福間委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:福間委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、水野委員、西村委員

 水野委員からは、「日本銀行当座預金残高が25〜30兆円程度となるよう金融市場調節を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:水野委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、西村委員

 議長からは、会合における多数意見を取りまとめる形で、以下の議案が提出された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員
  • 反対:福間委員、水野委員

福間委員は、市場が2006年度にかけての量的緩和政策解除の方向性を織り込む中で、(1)市場との対話を進めるため、出来るだけ自由な金利形成を促していく必要があること、(2)金融政策運営の機動性・柔軟性を高めるため、資金供給オペの短期化を図っていく必要があること、(3)「約束」に沿ってゼロ金利を継続することにより、景気回復ひいては小幅の物価下落からの脱却をサポートすることは十分可能であること、から、量的緩和政策の枠組みの維持に支障を及ぼさない範囲で、経済金融情勢を慎重に見極めながら漸進的・段階的に当座預金残高目標を削減していくべきであるとして、反対した。

水野委員は、(1)金融機関の流動性に対する予備的需要が趨勢的に減退している状況に変化はなく、受身的に当座預金残高を引き下げることは自然な対応であること、(2)量的緩和政策解除時の市場の安定を図るうえでは、解除の3条件を達成した後に、当座預金残高を短期間で集中して引き下げるのではなく、市場の実勢に合わせて修正に着手することが適当であること、(3)巨額な当座預金残高がターム物金利の上昇を抑制し、金利機能が働かない異常な状況が続くなど、目標額引き下げを先送るコストが存在すること、から反対した。

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(10月12日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は10月13日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前回会合(9月7、8日)の議事要旨が全員一致で承認され、10月17日に公表することとされた。

以上


(別添)
2005年10月12日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成7反対2)。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

以上