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金融政策決定会合議事要旨

(2005年12月15、16日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2006年1月19、20日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

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2006年 1月25日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2005年12月15日(14:01〜16:00)
12月16日( 9:00〜12:27)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 杉本 和行 大臣官房総括審議官(15日)
    赤羽 一嘉 財務副大臣(16日)
  • 内閣府 中城 吉郎 審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局参事役鮎瀬典夫(16日9:00〜9:19)
  • 企画局企画役内田眞一
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫(16日)
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長中山泰男
  • 政策委員会室審議役神津多可思
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役山田泰弘(16日9:00〜9:19)
  • 企画局企画役正木一博
  • 企画局企画役武田直己
  • 金融市場局参事役衛藤公洋(16日9:00〜9:19)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(11月17日、18日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は、30〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、ゼロ%近傍で推移している。ターム物金利は、ユーロ円レート、短国レートとも、低位で安定的に推移している。

 株価は、わが国企業の業績発表や米国株価の上昇などを受けて上昇し、最近では、日経平均株価は15千円台前半で推移している。

 長期金利は、米国金利の低下などを背景に低下した後、わが国経済指標の予想比上振れや株価の上昇などを受けて上昇し、最近では1.5%台前半で推移している。

 円の対米ドル相場は、米国経済指標の予想比上振れや日米金利差拡大見通しなどを背景に120円台まで下落した後、海外投資家による円の買い戻しの動きがみられたことなどから上昇し、最近では116〜119円台で推移している。やや長い目でみると、円は、米ドル、ユーロ、アジア諸国の通貨など幅広い通貨に対して下落基調で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出、設備投資がともに着実な増加を続けているほか、雇用環境も改善しているなど、景気拡大が続いている。この間、既往のエネルギー価格の上昇から物価は一時的に高い上昇率を示しているが、基調的なインフレ率は緩やかに上昇している。

 ユーロエリアでは、景気はなお停滞気味ではあるが、ユーロ安もあって輸出や生産が持ち直すなど、景気回復に向けた動きが徐々に強まりつつある。

 東アジアをみると、中国では、内外需とも力強い拡大が続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、一部の国・地域で家計支出面等にエネルギー高の影響がみられているが、総じてみれば緩やかな景気拡大を続けている。

 米欧の金融資本市場をみると、長期金利は、金融政策運営の先行き見通しや経済指標の発表が材料視される中、振れのやや大きい展開となった。株価は、原油相場の騰勢一服や良好な企業業績等を背景に、上昇した。エマージング金融資本市場では、多くの国・地域で、通貨や株価が上昇した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大を背景に、増加を続けている。米国向けや東アジア向けが増加を続けているほか、EU向けも増加の動きが徐々にはっきりしてきている。先行きについても、海外経済が拡大を続けるもとで、輸出は増加を続けていくとみられる。

 企業部門の動向をみると、企業収益が高水準で推移するもとで、設備投資は引き続き増加している。12月短観によると、経常利益は、業種・企業規模を問わず、高水準を維持している。また、企業の業況感も、収益対比では幾分慎重な傾向は変わっていないが、業種・企業規模を問わず緩やかな改善を続けている。設備投資計画も幅広く上方修正されており、全体では3年連続の増加となる見通しである。また、雇用人員、設備に関する過剰感も払拭されている。

 生産は、振れを伴いつつ、増加傾向にある。10月の鉱工業生産は、電子部品・デバイスや一般機械などを中心に7〜9月に比べ増加した。先行きについては、海外経済の成長が続き、内需の回復がしっかりしていることを踏まえると、増加基調を続けるとみられる。

 在庫については、素材業種で幾分高めとなっているが、IT関連や自動車関連などの高付加価値品については、引き続き良好な需給環境にあり、素材関連の在庫調整の影響は限定的と判断される。

 雇用・所得環境をみると、雇用と賃金の改善を反映して、雇用者所得は緩やかに増加している。雇用環境の改善が続く中、労働参加率にもやや上向きの動きがみられる。先行きについても、雇用過剰感が払拭されており、企業収益が高水準を続けるとみられるもとで、雇用者所得は緩やかな増加を続ける可能性が高い。

 個人消費は、底堅く推移している。乗用車新車登録台数は、7月以降弱い動きとなっている一方、家電販売は順調な増加が続いている。サービス消費では、外食売上高などが堅調な動きを続けている。消費者コンフィデンスは、総じて高水準で推移している。先行きの個人消費については、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、着実な回復を続ける可能性が高い。

 国内企業物価は、国際商品市況高や円安などを背景に上昇を続けており、先行きについても、当面は上昇を続けるとみられる。輸入財を含めた企業物価を需要段階別にみると、最終財価格の前年比がプラスに転じており、やがて消費者物価にも影響が及んでくると考えられる。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、これまで小幅のマイナスを続けてきたが、10月は前年比ゼロ%となった。先行きについては、需給環境の緩やかな改善が続く中、電話料金引き下げの影響が剥落していくこともあって、若干のプラスに転じていくと予想される。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にある。民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き改善している。そうしたもとで、民間銀行貸出は前年を上回る水準となってきている。

 CP・社債の発行環境は良好な状況にあり、CP・社債の発行残高は前年を上回る水準で推移している。

 マネタリーベースの伸び率は前年比1%台となっており、マネーサプライ(M2+CD)の伸び率は前年比2%程度となっている。

II.資産担保証券買入等の時限措置の終了について

1.執行部からの提案内容

 今年度末までの時限措置として実施している資産担保証券の買入および資産担保コマーシャル・ペーパー等の適格基準の緩和について、予定通り2006年3月31日をもって終了する旨を公表するとともに、所要の経過措置を講じることとしたい。

2.委員会の検討・採決

 採決の結果、上記提案が全員一致で決定された。なお、複数の委員から、今後とも執行部においては、クレジット市場の発展に向けた関係者の取組みを支援していくことに努めて欲しいとの意見が出された。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、わが国経済は、内外需のバランスがとれ、裾野を広げるかたちで着実に回復を続けているとの認識を共有した。

 海外経済に関して、委員は、米国や東アジアを中心に拡大が続いており、今後も拡大を続けるとの見方を共有した。

 米国経済について、委員は、家計支出、設備投資が着実な増加を続ける中で、生産、雇用とも改善傾向を取り戻しており、着実に拡大しているとの認識で一致した。複数の委員は、クリスマス商戦も序盤は前年を上回る伸びとなっているようであるとの見方を示した。この間、何人かの委員は、今のところ住宅価格に急速な調整が生じる兆しはみられないが、引き続き、住宅価格の動向とそれが景気に与える影響には注意が必要であると述べた。一人の委員は、住宅価格の伸びが鈍化し、住宅購入件数も横這いとなっていると指摘し、今後金利上昇の効果が浸透するにつれて、住宅需要の停滞感が生じてくる可能性もあるとコメントした。

 東アジア経済について、委員は、中国では内外需ともに力強い拡大が続いており、NIEsおよびASEAN諸国・地域では緩やかな景気拡大が続いているとの認識を共有した。一人の委員は、中国では生産能力の増強が進んでいるが、先行きこれが供給過剰につながることにならないか目配りしていく必要があると指摘した。

 世界経済のリスク要因について、何人かの委員は、原油高の動向には引き続き注意が必要であると述べた。また、一人の委員は、世界的なインフレ圧力の高まりを背景に、各国当局が利上げに動いているが、これが経済に与える影響については注視していく必要があると指摘した。

 わが国経済について、委員は、輸出は海外経済の拡大を背景に増加を続けており、先行きについても、増加を続けていく可能性が高いとの見解で一致した。

 国内民間需要については、委員は、過剰債務などの構造的な調整圧力がほぼ払拭されるもとで、しっかりとした動きが続いているとの見方を共有した。

 企業部門について、委員は、設備投資は増加を続けており、先行きについても、内外需要の増加や高水準の企業収益が続くもとで、引き続き増加する可能性が高いとの見方で一致した。多くの委員が、12月短観の今年度設備投資計画が非製造業、中小企業まで含めて幅広く増加していることや、設備の過剰感が払拭されていることなどを踏まえると、今後とも設備投資は増大を続けるとみられると述べた。

 委員は、企業部門の好調は、家計部門にも着実に波及しているとの認識を共有した。

 雇用・所得面について、委員は、雇用者数、賃金がともに増加し、雇用者所得も緩やかに増加を続けているとの見解で一致した。何人かの委員は、所定内給与が前年を上回って増加していることに加え、アンケート調査等によれば、冬季賞与も夏季賞与以上の伸びになったとみられると指摘した。また、複数の委員は、来春の労使交渉で好業績企業を中心に賃上げが合意される可能性があるが、これが実現すれば、ユニット・レーバー・コストの低下圧力が一段と和らぐことを通じて、物価にも影響が及ぶ可能性があると述べた。一人の委員は、短観の雇用人員判断や新卒採用計画にもみられるように、企業は人手不足感を強めており、これまでの「人減らし」から「人への投資」という新たなモメンタムが鮮明化してきていると述べた。

 個人消費について、委員は、底堅く推移しており、先行きについても、雇用・所得環境の改善を背景に、着実な拡大を続ける可能性が高いとの認識を共有した。ある委員は、7月以降乗用車新車登録台数は弱い動きが続いているが、家電販売は好調であり、サービス消費も増加傾向にあると指摘した。また、何人かの委員は、高級車販売が比較的良好であることや、宝飾品など高額商品の販売が良好であることを指摘し、株価上昇などの資産効果の影響もあるのではないかと述べた。この間、別の複数の委員は、今後の税制改正が消費に与える影響に留意する必要はあるが、企業部門の好調は、賃金の上昇等を通じて、家計部門に着実に波及しており、消費の底堅さに当面変化はないとの見方を示した。

 住宅投資について、何人かの委員は、引き続き底堅く推移するとの見方を示した。一人の委員は、仮に耐震強度偽装問題が広がりを持った場合には、好調な住宅投資に何らかの影響が及ぶ可能性についても留意する必要があると指摘した。

 生産について、委員は、実勢として緩やかな増加傾向にあり、先行きについても、そうした傾向をたどるとの見方を共有した。複数の委員は、鉱工業全体の出荷と在庫のバランスをみると、これまで続いていた在庫調整に一区切りがついたとの見方を示した。

 物価面について、委員は、国内企業物価は、国際商品市況高や円安などを背景に上昇を続けており、先行きについても、上昇を続けるとの認識を共有した。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、これまで小幅のマイナスで推移してきたが、10月は前年比ゼロ%となっており、先行きについては、景気回復に伴って需給環境の緩やかな改善が続く中、電話料金引き下げの影響が剥落していくこともあって、若干のプラスに転じていくとの見方で一致した。

 中長期的な物価の動向に関して、複数の委員は、短期的な振れはあるにせよ、物価の基調としては、(1)需給バランスが改善していること、(2)賃金が上昇方向にあること、(3)人々の物価見通しも改善していることを踏まえると、上昇を続けるとみられると述べた。ある委員は、潜在成長率が足もと高まっているとすれば、予想したほどには需給ギャップが縮小していかない可能性もあるのではないかとコメントした。これに対して、別の一人の委員は、生産性の上昇は、家計や企業の長期的な所得見通しの改善を通じて、需要の増加につながる面もあり、必ずしも物価の低下圧力となる訳ではないと指摘した。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、極めて緩和的な金融環境が続いているとの認識を共有した。何人かの委員は、経済・物価を巡る環境が好転する中で、実質金利が低下し、株高、為替円安が進行するなど、金融環境の緩和度合いは実態的に強まっているとの認識を示した。

 金融・資本市場の動向について、多くの委員は、最近の株式市場や為替市場の動向には、わが国経済が改善する中で、わが国投資家のリスクテイク能力・リスク選好の高まりや、内外金利差を巡る思惑が影響しているとの見方を示した。このうち一人の委員は、わが国の超低金利が長期化するとの予想が過度に強まれば、為替市場等における価格形成が不安定になる可能性も否定できないと指摘した。また、別の委員は、株式市場において投資家のリスクに対する認識がやや楽観的になっているのではないかと指摘した。この間、複数の委員は、最近の株価の上昇は、企業収益の上方修正などを受けたものであり、資産バブルというような状況ではないとの見方を示した。別のある委員は、そうした見方に同意しつつも、一般物価が安定していても、景気が力強さを増す中で、超緩和的な金融環境が継続すれば、資産価格の大幅な上昇を招きやすくなり、そのような状況になれば、リスク、リターンのバランスを欠いた投資が増加し、経済の過熱とその後の反動が生じる可能性があることには留意する必要があると述べた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、「約束」に沿って、量的緩和政策の枠組みを継続することが適当であるという認識を共有した。

 その上で、複数の委員は、金融機関が資金繰り上必要とする流動性需要が趨勢的に減少していることや、将来の量的緩和政策の解除を円滑に行うためには、出来るだけ市場における自由な金利形成を促しておく必要があること等から、現時点で当座預金残高目標を減額することが適当であるとの見解を示した。これに対して、大方の委員は、「なお書き」を含めて、現在の金融市場調節方針を継続することが適当であるとの見解を述べた。

 また、金融政策運営を巡る情報発信などに関して、議論が行われた。複数の委員は、市場では、金融政策の枠組み変更時期や、枠組み変更後の金融政策運営のあり方について、様々な憶測や見解が聞かれているが、日本銀行の基本的な考え方は展望レポートに記載したとおりであり、そうした考え方を丁寧に説明するとともに、経済・物価情勢を丹念に分析し、適切な政策運営を行うことが重要であると述べた。これに関連し、一人の委員は、金融市場関係者に加え、企業関係者や国民においても、量的緩和政策の解除が経済に非連続的な変化をもたらすものではないという点について理解が十分に浸透するように、丁寧な説明を続けていく必要があると述べた。また、何人かの委員は、先行きの政策金利の経路は、もとより今後の経済・物価情勢次第であるが、状況如何にかかわらず超金融緩和が長く続くとの思惑が市場で強まっている可能性があるのではないかとの認識を示した。

 さらに、金融政策運営との関係で各種の物価指標をどう扱うかについて、意見が出された。何人かの委員は、「物価の安定」の度合いを測る指標は国民に理解されやすいものでなければならず、「国民経済の健全な発展」も、結局は国民一人一人の経済的な厚生の向上を意味していることから、消費者が消費する商品・サービスを対象とした物価指数を念頭に金融政策を行うことが適当であると述べた。また、消費者物価の動向を判断する上で、総合指標を見るべきか、一時的な要因を除いたコアベースの指標を見るべきかについて、ある委員は、一時的な変動要因を除くことで基調が見やすくなる一方、その結果として、消費者物価全体に占めるウェイトがあまりに小さくなると、全体の動きが見えなくなるという問題もあると指摘した。また、多くの委員は、一時的な変動を除くという観点からは、エネルギー価格を除外するか否かも論点となり得るが、このところのエネルギー価格の上昇はエマージング諸国の需要増に起因するところが大きく、必ずしも一時的な要因とは言えないため、これを除外して見ることは適当ではないとの見方を示した。一人の委員は、GDPデフレーターを点検する場合には、GDP統計の改訂の際に、同デフレーターは何度もかつ大幅に改訂される可能性があることも十分踏まえる必要があると指摘した。

 この間、一人の委員は、経済・物価の先行き見通しにアンカーを提供し、市場における安定的な期待形成に資する観点から、日本銀行が望ましい物価上昇率を示すことを検討すべきとの見解を示した。これに対して、ある委員は、インフレーション・ターゲティングとは中長期的に物価目標値の実現を目指すものであるが、こうした点が十分理解されないまま導入されれば、金融政策の機動性を犠牲にする面があるほか、目標を高いところに設定すれば、期待インフレ率やリスク・プレミアムの上昇を通じて、長期金利が上昇する可能性もあると指摘した。また、別の一人の委員は、インフレーション・ターゲティングと言っても、諸外国で実施されている内容にはかなり幅があり、金融政策の透明性向上のための枠組みについては、わが国の実情に合わせて考えていく必要があると指摘した。さらに、複数の委員は、わが国経済は、物価安定のもとでの持続的な成長に至る途上にあり、経済・物価の形成メカニズムが変化しているため、現段階で中長期的に望ましい物価上昇率を見極め、公表することは難しいとの見解を示した。

V.政府からの出席者の発言

会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、先日公表された平成17年7〜9月期GDP2次速報においても、消費や設備投資の増加がみられるなど、民需主導の緩やかな景気回復が続いている。一方、物価動向をみるとデフレは依然として継続している。
  •  景気回復を持続的なものとし、デフレから脱却を果たすことは、政府・日本銀行が一体となって取り組むべき最も重要な政策課題である。これを確実なものとするためには、金融政策運営において、原油価格の動向等のリスク要因をはじめ経済・物価情勢について慎重かつ総合的にみていくとともに、金融市場および金利全般に対して十分な目配りをして頂くことが必要と考えている。
  •  また、デフレがなおも継続している現下の状況においては、その克服に向けて手を緩めることなく取り組むことが必要であり、日本銀行におかれては、現状の量的緩和政策を粘り強く継続することを、市場や国民に丁寧にご説明願いたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の現状については、緩やかに回復している。しかし、依然としてデフレの状況は続いており、その克服は、引き続き政府・日本銀行一体となって取り組むべき重要政策課題である。
  •  政府は、12月19日に「平成18年度経済見通しと経済財政運営の基本的態度」を公表するが、18年度も、民間需要中心の緩やかな回復を続ける中、物価については、政府・日本銀行が一体となった取組みを行うことによりデフレ脱却の展望が開けると見込んでいる。
  •  デフレの状況を判断するに当たっては、消費者物価だけではなく、GDPデフレーターを含めて総合的に行うべきであり、日本銀行が量的緩和政策解除の必要条件としている消費者物価の現状および先行きについても、物価形成メカニズムにおける原油価格上昇の影響やその他の特殊要因、統計のバイアス等を十分考慮し、慎重な判断を行って頂きたいと考えている。
  •  日本銀行におかれては、政府の経済の展望と整合性をとり、平成18年度デフレ脱却に向けて実効性のある金融政策運営を行って頂くよう期待する。その上で、望ましい物価水準およびそこに至る通過点の考え方を含めた今後の道筋の提示を検討頂き、市場における適切な期待形成を促進することにより、物価安定のもとでの持続的な経済成長と、デフレからの脱却に寄与することを期待する。

VI.採決

 以上の議論を踏まえ、多くの委員は、当面の金融市場調節方針については、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針について、「なお書き」を含め、現状を維持することが適当である、との考え方を示した。

 これに対し、二人の委員は、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「27〜32兆円程度」に引き下げる旨の議案を提出したいと述べた。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 福間委員・水野委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:福間委員、水野委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員

 議長からは、会合における多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員
  • 反対:福間委員、水野委員

福間委員は、(1)市場機能の回復を図るため、出来るだけ自由な金利形成を促す必要があること、(2)金融政策運営の機動性・柔軟性を高めるため、資金供給オペの短期化を図っていく必要があること、(3)「約束」に沿ってゼロ金利を継続することにより、物価安定のもとでの持続的な景気回復をサポートすることは十分可能であることから、量的緩和政策の枠組みの維持に支障を及ぼさない範囲で、経済金融情勢を慎重に見極めながら漸進的・段階的に当座預金残高目標を削減していくべきであるとして、反対した。

水野委員は、(1)量的緩和政策解除時の市場の安定を図る上では、当座預金残高を短期間で集中して引き下げるのではなく、市場の実勢に合わせて修正に着手することが適当であること、(2)解除のショックを可能な限り小さくするためには、金利を通じた市場との対話が可能な環境を整えていった方が良いこと、(3)当座預金残高目標の引き下げを先送りすると、為替円安の加速やグローバルな資産インフレを引き起こす一因であるとの批判が強まる可能性があること、(4)政策の枠組みの変更は政策委員会が自らの判断によって粛々と決定するとのシグナルを金融市場に送る効果が期待できること、から反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(12月16日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は12月19日に、それぞれ公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(10月31日)および前回会合(11月17日、18日)の議事要旨が全員一致で承認され、12月21日に公表することとされた。

IX.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2006年1月〜6月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日公表することとされた。

以上


(別添1)
2005年12月16日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成7反対2)。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

以上


(別添2)
2005年12月16日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2006年1月〜6月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2006年1月 1月19日(木)・20日(金) 1月20日(金) (3月14日(火))
2月 2月8日(水)・9日(木) 2月9日(木) (3月14日(火))
3月 3月8日(水)・9日(木) 3月9日(木) (4月14日(金))
4月 4月10日(月)・11日(火)
4月28日(金)
4月11日(火)
----
(5月24日(水))
(6月20日(火))
5月 5月18日(木)・19日(金) 5月19日(金) (6月20日(火))
6月 6月14日(水)・15日(木) 6月15日(木) 未定
  • (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  • (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  • (注3)「経済・物価情勢の展望(2006年4月)」の「基本的見解」は、4月28日(金)15時(背景説明を含む全文は5月1日(月)14時)に公表の予定。

以上