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金融政策決定会合議事要旨

(2006年3月8、9日開催分) *

2006年 4月14日
日本銀行

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2006年4月10、11日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

(開催要領)

1.開催日時
2006年3月8日(14:00〜15:50)
3月9日( 9:00〜14:07)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )

本会合を欠席した福間年勝(審議委員)から、政策委員会議事規則第4条第2項に基づき、議長を通じて、本会合に付議される事項について、書面により意見が提出された。

4.政府からの出席者
  • 財務省 杉本 和行 大臣官房総括審議官(8日)
    赤羽 一嘉 財務副大臣(9日)
  • 内閣府 中城 吉郎 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 理事(企画局長)山口廣秀
  • 企画局企画役内田眞一(8日、9日9:00〜11:50、12:00〜14:07)
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長中山泰男
  • 政策委員会室審議役神津多可思
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役加藤 毅(8日、9日9:00〜11:50、12:09〜14:07)
  • 企画局企画役武田直己

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(2月8日、9日)で決定された方針 1に従って運営した。この結果、当座預金残高は、30〜34兆円台で推移した。

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、ゼロ%近傍で推移している。ターム物金利は、上昇した。

 株価は、金融政策変更に対する思惑などを材料に下落し、最近では、日経平均株価は15,000円台後半で推移している。

 長期金利は、概ね横這い圏内の動きとなり、最近では1.6%台前半で推移している。

 円の対米ドル相場は、金融政策変更に対する思惑を背景とした円買いなどから上昇した後、海外投資家によるドル買いがみられたことなどから下落し、最近では116〜117円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出や設備投資を中心に潜在成長率近傍の着実な景気拡大が続いている。

 ユーロエリアでは、景気はなお停滞気味ながら、ユーロ安もあって輸出や生産が持ち直すなど、景気回復に向けた動きが徐々に強まっている。

 東アジアをみると、中国では、内外需とも力強い拡大が続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、エネルギー高の影響が部分的に顕在化しているが、総じて緩やかな景気拡大が続いている。

 米欧の金融資本市場をみると、長期金利は、横這い圏内で推移した。株価は、米欧とも、概ね堅調に推移した。エマージング金融資本市場では、総じてみれば多くの国・地域で、通貨や株価が上昇し、対米国債スプレッドが縮小した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大を背景に、増加を続けている。米国向けは、着実な増加を続けており、最近は、自動車関連を中心に高い伸びとなっている。EU向けやNIEs向けも緩やかな増加基調にある。先行きの輸出についても、海外経済が米国、東アジアを中心に拡大を続けるもとで、増加を続けていくとみられる。

 企業部門の動向をみると、設備投資は引き続き増加している。先行きも、内外需要の増加や高水準の企業収益が続く見込みのもとで、引き続き増加すると予想される。

 家計部門に関し、雇用・所得環境をみると、労働需給に関する諸指標が改善傾向を続ける中、雇用と賃金の改善を反映して、雇用者所得は緩やかな増加を続けている。先行きについても、雇用不足感が出てきていることや、企業収益が高水準を続けるとみられることなどから、雇用者所得は緩やかな増加を続ける可能性が高い。

 個人消費は、底堅さを増している。乗用車の新車登録台数は、昨年後半に弱い動きを続けたが、本年入り後は持ち直している。また、家電販売が順調な増加を続けているほか、全国百貨店売上高も底堅く推移している。先行きの個人消費については、雇用者所得の緩やかな増加等を背景に、着実な増加を続ける可能性が高い。

 生産は、内外需の増加を背景に、増加が続いている。1月の鉱工業生産は6ヶ月連続の増加となった。先行きについても、増加基調を続けると考えられる。在庫については、概ね出荷とバランスしている。

 国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に、上昇を続けている。先行きも、当面は国際商品市況高の影響などから、上昇を続けるとみられる。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、11月、12月は+0.1%と若干のプラスで推移した後、1月は+0.5%とプラス幅が拡大した。先行きについては、需給環境の緩やかな改善が続く中、若干の振れを伴いつつもプラス基調で推移していくと予想される。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にある。民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き改善している。また、民間の資金需要は下げ止まりつつある。こうしたもとで、民間銀行貸出は増加幅が拡大しており、CP・社債の発行残高も前年を上回る水準で推移している。

 マネタリーベースの伸び率は前年比2%程度となっており、マネーサプライ(M2+CD)も前年比1%台の伸びで推移している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、わが国の景気は、着実に回復を続けているとの認識で一致した。多くの委員は、外需と内需、企業部門と家計部門がともに回復し、生産・所得・支出の前向きの循環メカニズムが働く環境が整っており、先行きも息の長い回復が期待できるとの見方を述べた。

 海外経済に関して、委員は、米国や東アジアを中心に拡大が続いており、先行きも拡大を続けるとの見方を共有した。

 米国経済について、多くの委員は、家計支出や設備投資を中心に着実な拡大を続けており、先行きも潜在成長率近傍の拡大を続ける可能性が高いとの認識を示した。複数の委員は、住宅販売は減速しつつあると付け加えた。

 東アジア経済について、委員は、中国では内外需ともに力強い拡大が続いており、NIEs、ASEAN諸国・地域も総じてみれば緩やかな景気拡大が続いているとの認識を共有した。

 この間、何人かの委員は、世界経済のリスク要因として、原油をはじめとする国際商品市況の上昇やこれに伴うインフレ心理の高まり、米国における長期金利上昇の可能性などについて注意が必要であると述べた。また、ある委員は、中長期的なリスク要因として、グローバル・インバランスが国際金融市場に及ぼし得る影響には引き続き注意が必要であると付け加えた。

 わが国経済について、委員は、輸出は海外経済の拡大を背景に増加を続けており、先行きも、増加を続けていく可能性が高いとの見解で一致した。

 国内民間需要について、委員は、高水準の企業収益を背景に設備投資は増加を続けているほか、企業部門の好調が家計部門に波及するもとで、個人消費は底堅さを増しているとの認識を共有した。

 企業部門について、委員は、設備投資は増加を続けており、先行きについても、設備の過剰感が払拭され、高水準の企業収益が続く中で、引き続き増加する可能性が高いとの認識を共有した。何人かの委員は、法人企業統計の10〜12月の設備投資は中堅中小企業を中心に減少したが、これは一時的な振れの面が大きいと考えられ、機械受注などの先行指標からみても、設備投資は増加基調をたどっているものと考えられると指摘した。この間、一人の委員は、企業の損益分岐点や労働分配率が上昇に転じる気配が窺われることなどから、今後の企業収益の動向については注意してみていく必要があると述べた。

 雇用・所得面について、委員は、有効求人倍率が2ヶ月連続で1.0倍を超えるなど、労働需給が改善を続け、企業に人手不足感が表れている中で、雇用者数、賃金がともに増加し、雇用者所得も緩やかに増加を続けているとの認識を共有した。

 個人消費について、委員は、底堅さを増しており、先行きについても、雇用・所得環境が改善を続け、消費者コンフィデンスも改善傾向にある中で、着実な回復を続ける可能性が高いとの見方で一致した。何人かの委員は、昨年後半に弱い動きを続けた新車登録台数も、本年入り後は、新車投入効果もあって持ち直していると指摘した。一人の委員は、GDPベースの個人消費は4四半期連続で増加していることに言及した。また、複数の委員は、高額商品の販売が好調であり、株価上昇等の資産効果が出ている可能性があると述べた。

 生産について、委員は、内外需要の増加を背景に増加を続けており、先行きも予測指数や企業からの聞き取り調査の結果を踏まえると、増加が続くと見込まれるとの見方を述べた。
 この間、複数の委員は、IT関連財の今後の生産動向はよくみていく必要があると述べた。

 物価面について、委員は、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に上昇を続けており、先行きも上昇を続けるとの見方で一致した。複数の委員は、国際商品市況について、原油は地政学的リスクを主な背景に高値圏で推移しており、引き続き警戒感をもってみていく必要があると述べた。

 消費者物価(全国、除く生鮮食品)について、各委員は、10月の前年比がゼロ%、11月、12月は前年比+0.1%と若干のプラスとなった後、1月は前年比+0.5%と比較的はっきりとしたプラスとなったことに言及した。その上で、多くの委員は、石油製品や電気・電話料金等の特殊要因を除いたベースでみても、前年比+0.2%のプラスとなっていると指摘した。一人の委員は、2月の東京の消費者物価の前年比は1月からプラス幅を拡大していると指摘した。また、ある委員は、消費者物価の前年比を刈り込み平均でみても、プラスになっていると述べた。さらに、別の委員は、財とサービス別にみた刈り込み平均は、サービスでプラス幅が拡大し、財についてもマイナス幅が縮小していると述べた。複数の委員は、消費者物価の前年比を品目毎にみると、11月以降、多くの品目でプラス方向への変化が定着しつつあると述べた。
 先行きの消費者物価の動向について、多くの委員は、景気が着実に回復を続ける中、経済全体の需給ギャップは緩やかな改善がみられるほか、ユニット・レーバー・コストの動きをみても、生産性の上昇は続いているが、賃金も上昇に転じており、下押し圧力は減じていると述べた。また、ある委員は、家計や企業の物価見通しも上振れてきていると指摘した。別の委員は、ウェイトの大きい住居費で帰属家賃の上昇が明確化していることや、労働需給の引き締まりに伴い様々な財・サービス価格に上昇の動きが窺われていること、品質調整で大きく下げてきたパソコンの下げ幅も縮小していることに言及した。大方の委員は、毎月の計数は、多少の振れも見込まれるが、物価環境の改善を前提とすれば、消費者物価指数の前年比はプラス基調が定着していくと判断できるとの認識を共有した。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、極めて緩和的な金融環境が続いているとの認識を共有した。
 ある委員は、銀行貸出(特殊要因調整後)は、昨年夏にプラスに転じた後、増加幅を拡大してきていること、金融機関の貸出姿勢が積極化するもとで、民間の資金需要は下げ止まってきていることを指摘した上で、金融情勢面からも、景気回復の動きがよりしっかりしたものとなっていることが窺われると述べた。
 株価について、何人かの委員は、このところ15,000円台後半で神経質な展開となっているが、高水準の企業収益や景気の着実な回復という株式市場を巡る基本的な環境に変化がないとの見方を示した。
 長期金利について、何人かの委員は、1.6%前後と概ね横這い圏内の動きであるが、中期ゾーンまでの金利については、金融政策に関する思惑もあって、上昇していると指摘した。複数の委員は、量的緩和政策の解除はかなり市場に織り込まれていると付け加えた

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

1.金融市場調節方針について

 次に、当面の金融政策運営について検討が行われた。

 大方の委員は、上述の経済・物価情勢に関する判断を踏まえると、2001年3月の量的緩和政策導入時に示した「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和政策を続ける」との「約束」の条件は満たされたと判断できると述べた。こうした判断を踏まえ、大方の委員は、当面の金融政策運営について、量的緩和政策という金融政策の枠組みを変更し、金利を操作目標とする政策に移行した上で、次回会合までの金融市場調節方針については、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するように促すことが適当であるとの認識を共有した。これに関して、複数の委員は、当座預金残高が所要準備を上回るもとで、無担保コールレートは、基本的にゼロ%近辺で推移することが多いと考えられるが、短期金融市場の機能が十分に回復するまでの間は、決済の集中など何らかの理由で資金需給が逼迫する場合などに、摩擦的に金利が幾分上昇する可能性もあるとの見方を示し、金融市場調節方針としては「概ねゼロ%」という表現が適当であると述べた。
 この間、一人の委員は、消費者物価のプラス基調が定着したと判断するにはもう少し時間をかけて分析すべきであるほか、期末の時期に量的緩和政策を解除することには市場の安定という面でリスクが残るなどの理由から、今回は解除を見送り、出来れば4月の展望レポート時、または早くとも4月第1回の会合で解除するべきであると述べた。
 これに対して、複数の委員は、1、2ヶ月待ったとしても、「約束」の条件の充足について、新たな判断材料が加わるとは考え難いとの見解を示した。また、別の複数の委員は、量的緩和政策は、金融政策の機動性低下や市場機能の低下といった問題を内包する異例の政策であり、「約束」の条件が満たされたと判断される以上、早期に金利を操作目標とする政策に移行することが適当であると述べた。

2.金融市場調節面の措置について

 続いて、量的緩和政策を解除する場合の金融市場調節面の措置について、意見が出された。多くの委員は、量的緩和政策のもとで、長い間、金融機関は多額の日銀当座預金残高や資金供給オペレーションを前提とした資金繰りを行ってきたことを踏まえると、当座預金残高を所要準備に向けて削減していく過程では、金融市場調節面の配慮が必要であると述べた。そうした観点から、多くの委員は、当座預金残高の削減は、数ヶ月程度を目途としつつ、短期金融市場の状況を十分に点検しながら進めることが適当であると述べた。また、これらの委員は、補完貸付については、現行の適用金利(0.1%)を据え置いた上で、2003年3月以降実施している利用日数に関して上限を設けない臨時措置を当面継続することが適当であるとの見解を示した。さらに、多くの委員は、当座預金残高の削減は、短期の資金オペレーションで対応し、長期国債の買入れについては、先行きの本行の資産・負債の状況などを踏まえつつ、当面はこれまでと同じ金額、頻度で実施していくことが適当であると述べた。

3.金融政策運営の対外的説明について

 会合では、量的緩和政策の変更後における金融政策運営の対外的説明についても議論が行われた。

 多くの委員は、この先、金利政策のもとで、金融政策の柔軟性を損なわず、かつ透明性をしっかりと確保しながら、政策を運営し、対外的説明を行っていくためには、新しい枠組みが必要ではないかとの認識を示した。

 そうした観点から、まず、多くの委員は、金融政策の目的である「物価の安定」に関する考え方を整理し、公表していくことが重要であるとの認識を示した。その上で、多くの委員は、金融政策に対する予測可能性を高めていくためには、(1)日本銀行が経済・物価情勢を点検していく際にどのような基本的な視点をもっているのか、より明確に示していくとともに、(2)そうした点検を踏まえて、当面の金融政策運営についてどのように考えているか整理し、対外的に示していくことが必要であるとの認識を示した。

 物価の安定について、多くの委員は、2000年10月に日本銀行が示した「『物価の安定』についての考え方」にあるように、「家計や企業等の様々な経済主体が物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」と考えられると述べた。これらの委員は、物価の安定は中長期的に目指すべきものであること、金融政策運営に当たっては、政策の効果波及にラグがあることを踏まえ、フォワード・ルッキングな姿勢で臨むことが重要であることを強調した。また、多くの委員は、物価情勢を点検する際の具体的な指標としては、家計が消費する財・サービスを対象とし、国民に身近でかつ速報性も高い、消費者物価指数が基本となるとの見解を述べた。これについて、一人の委員は、コアベースの消費者物価と総合ベースの消費者物価のいずれでみるべきか明確化すべきではないかと指摘した。これに対して、何人かの委員は、コアベースの指標でみる意味は、短期的な変動要因を除去するところにあるが、中長期的には、短期的な変動は均されるため、基本的に両者を区別することには意味はなくなると考えられると指摘した。
 多くの委員は、概念上の「物価の安定」は、計測誤差(バイアス)のない物価指数でみて変化率がゼロ%の状態と考えられるとした上で、デフレ・スパイラルに陥るリスクを回避する観点から、消費者物価指数の前年比でみて、若干のプラス(「のりしろ」)を許容したとしても、「物価の安定」の範囲内と言えると指摘した。これに関して、何人かの委員は、統計作成当局の努力もあって、わが国の消費者物価のバイアスは大きくないとみられると述べた。また、物価下落のリスクに備えた「のりしろ」について、一人の委員は、名目賃金の下方硬直性が小さくなっているとみられること、今後潜在成長率の上昇が期待できること、金融システムが安定を回復していることなどを考慮すると、必要な「のりしろ」は大きなものではないとの見方を示した。別の委員は、考慮すべきバイアスや必要な「のりしろ」について、それぞれに厳密な一つの数字で示すことは出来ないが、その存在を認めた上で、金融政策運営に当たって、物価安定と考える数値的なイメージを議論することが重要であると述べた。
 多くの委員は、わが国のインフレ率が過去数十年間海外主要国よりも低かったことや、1990年代以降長期間にわたって低い物価上昇率を経験してきたことから、国民が物価の安定と考える物価上昇率はかなり低くなっている可能性があり、金融政策運営に当たってはそうした点にも留意する必要があると指摘した。
 委員は、こうした議論を踏まえ、金融政策に当たって、「中長期的にみて物価が安定している」と理解する物価上昇率は、現時点では、海外主要国よりも低めになるとの見方を共有した。

 さらに、こうした中長期的な物価安定の理解を、数値化し対外的に示していくべきかどうかについて、議論が行われた。一人の委員は、対外的に示す数値の位置付けについて、日本銀行という組織として一本化されたインフレ目標値や参照値、物価安定の数値的定義ではなく、各政策委員が、金融政策運営の判断に際し念頭に置く、物価安定の数値的な理解であることを共有できなければ、数値の公表には賛成できないと述べた。同委員は、こうした位置付けに誤解が生じると、金融政策運営の透明性の観点でも逆効果であると指摘した。何人かの委員は、物価の安定は、その時々の物価形成メカニズムに応じて変化し得るものであり、現在のように経済構造の転換期にあっては、政策委員会として一つの数字にまとめたインフレ目標値や参照値、あるいは物価安定の数値的定義を示すことは難しく、各委員が物価安定と理解する数値的イメージについて議論し、その内容を公表していくことが、金融政策の透明性を確保する観点から有益であると述べた。委員は、数値的なイメージを公表する場合、数値に基づき機械的に政策運営を行うというものではなく、各政策委員が上述のような物価の安定についての基本的な考え方を踏まえ、かつ、各々の数値的なイメージを念頭に置いた上で、情勢判断を行い、金融政策を運営するものと位置付けられるという点を強調した。

 こうした議論を経て、委員は、金融政策運営に当たって、各委員が「中長期的に物価が安定している」と理解する物価上昇率について、具体的な数値を含め、議論を行った。
 複数の委員は、バイアスの存在や物価の継続的下落に陥らないための「のりしろ」を踏まえると、2%よりは低くとも、1%よりは高いくらいが適当であると述べた。何人かの委員は、国民が物価の安定と考える物価上昇率がかなり低くなっている可能性を踏まえた上で、バイアスの存在や「のりしろ」の必要性も勘案すると、1%程度を挟んだ範囲で考えるべきであると述べた。別の何人かの委員は、わが国のインフレ率は過去数十年間低く、国民が物価の安定と感じる水準も低いとみられることは重要であり、1%を下回る水準である程度の幅をもって考えるべきであると述べた。このうち一人の委員は、平均的な国民が物価安定と考える状態に対応する消費者物価上昇率は、指数のバイアスや国民の消費パターン分布を勘案すると、1%より若干低いレベルを中心とする範囲になると述べた。別の委員は、名目賃金の下方硬直性の低下等から必要な「のりしろ」は縮小しており、中心値は0%に近いプラスと考えられると述べた。
 こうした議論を踏まえて、ある委員は、中長期的な物価安定の理解については、日本経済の構造変化が激しい中で、バイアス、「のりしろ」、国民が物価安定と考える物価上昇率、に関する見方やそのうち何を重視するかといった点で、委員の間で幅があるが、消費者物価指数の上昇率でみて、0〜2%程度であれば、この範囲をカバーしており、各委員の理解と大きくは異ならないと考えられ、また、中心値については、一部に低めの委員がいたことから、大勢として、概ね1%の前後で分散していたと思うとの見方を示した。また、同委員は、こうした内容を公表していくことが考えられると述べた。別の委員も、そのような集約の仕方が適当であると述べた。何人かの委員は、今後、経済構造の変化に伴って物価形成メカニズムが変われば、物価の安定もそれに応じて変化し得る性格のものであるため、各政策委員が金融政策運営の判断に際し念頭に置く、中長期的な物価安定の理解については、原則1年程度で定期的にこれを見直していくことが適当であるとの認識を示した。

 多くの委員は、金融政策運営の運営方針を決定する際には、経済・物価情勢の点検が大事であり、日本銀行がそうした点検を行う際の「柱」となる視点ないしポイントを対外的に明確化することが有益であると述べた。複数の委員は、今後の金融政策運営に当たっては、経済・物価情勢を総合的に判断してフォワード・ルッキングに政策を実施していくことになるが、その際、総合判断のポイントをよりシステマティックなかたちで示していく努力が重要であると述べた。
 そうした観点から、多くの委員は、展望レポートで示している先行き1年から2年程度の経済・物価情勢について、最も蓋然性の高いと判断される見通しが、物価安定のもとでの持続的な成長の経路をたどっているかどうかという観点から点検していくことが重要であると述べた。
 あわせて、多くの委員は、展望レポートの見通しは、先行き1年から2年の蓋然性の高い見通しであるので、それを超える長期的な経済・物価情勢に影響を与える要因や、見通しのとおりにならないリスクなど、金融政策に当たって重視すべき様々なリスクを点検していく必要があると指摘した。複数の委員は、そうしたリスクの例として、高インフレや、バブル、デフレ・スパイラルなど発生確率は必ずしも高くなくとも、発生した場合には経済・物価に大きな影響を与える可能性があるリスクや、金融環境、資産価格、人々のインフレ予想など中長期的な経済・物価情勢に影響を与える要因が考えられると述べた。
 また、多くの委員は、こうした2つの柱からの経済・物価情勢の点検を踏まえた上で、当面の金融政策運営の考え方を整理し、展望レポートなどで定期的に公表していくことが適当であるとの認識を示した。
 複数の委員は、こうした、(1)物価安定の明確化、(2)2つの柱に基づく経済・物価情勢の判断、(3)当面の金融政策運営の考え方の整理という枠組みは、わが国経済の現状を踏まえた上で、日本銀行として独自の透明性ある金融政策の枠組みを新たに構築するものであると述べた。

4.当面の金融政策運営の考え方について

 さらに、当面の金融政策運営の考え方について、意見が出された。ある委員は、1つ目の柱である先行き1年から2年の経済・物価情勢の点検については、物価安定のもとでの持続的成長を実現していく可能性が高いと述べた。また、同委員は、2つ目の柱であるより長期的な視点からのリスク要因の点検については、企業の収益率が改善し、物価情勢も一頃に比べて好転しているもとで、金融政策面からの刺激効果が一段と強まり、中長期的にみると、経済活動の振幅が大きくなるリスクには留意する必要があるとの認識を示した。他の委員も、こうした整理に同意した。
 こうした点検を踏まえた上で、先行きの金融政策運営について、複数の委員は、無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間を経た後、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に調整を行うこととなるが、この場合、経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって、物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境を当面維持できるとの認識を示した。他の委員も、こうした見解に同意した。

IV.議案の提出

 以上の議論を踏まえ、議長から、会合における多数意見を取りまとめるかたちで、以下の3つの議案が提出された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 金融市場調節の操作目標を、日本銀行当座預金残高から無担保コールレート(オーバーナイト物)に変更すること。
  2. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。

  1. 対外公表文は、別途決定すること。

「金融市場調節方針の変更について」の公表に関する議案(議長案)

 標題の件に関し、別紙(別添1参照)のとおり対外公表すること。

「新たな金融政策運営の枠組みの導入について」の公表に関する議案(議長案)

 標題の件に関し、別紙(別添2参照)のとおり対外公表すること。

V.政府からの出席者の発言

 議長が金融市場調節方針の変更および新たな金融政策運営の枠組みの導入についての議案を取りまとめたことを受け、財務省および内閣府の出席者より、議案への対応について政府部内の意見を調整し、また、必要に応じて財務大臣および経済財政政策担当大臣と連絡を取るため、会議の一時中断の申し出があった。議長はこれを承諾した(午後1時17分中断、午後1時46分再開)。

 会議再開後、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、昨年10〜12月期のGDP速報において、実質GDPが対前期比1.4%増になるなど景気は回復している。また、1月の消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率は0.5%となっており、これで4ヶ月連続のゼロ以上となるなど、物価の基調的な動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にあるものの、デフレ状況は少しずつ改善しているのではないかと考えられ、この改善を継続する必要がある。
  •  先程、量的緩和政策を解除する旨の議案および新たな金融政策運営の枠組みに関する議案が議長より提出された。
  •  政府としては、量的緩和政策の解除については、デフレ脱却に向け政府・日銀一体で粘り強く取り組む必要があることや、市場の安定にとりわけ配慮が必要な時期であることを十分考慮に入れた上で、ご判断頂きたいと考えている。
  •  量的緩和政策が解除される場合には、実体経済との関係では、景況感に地域差がある中で、デフレ脱却を確実なものとするため、量的緩和解除後も、いわゆるゼロ金利の継続により、金融面から経済を十分に支えて頂くことが必要と考えている。また、市場の安定が確保されるような金融政策運営が必要と考えている。具体的には、量的緩和解除後、当座預金残高の縮減を市場の状況を見ながら慎重に行うなど、市場が不安定とならないよう適切な金融調節を実施すること、市場は憶測で動いて不安定になることもあるので、量的緩和解除後の金融政策の考え方や道筋について透明性を高めること、長期金利を含めた金利全般に目配りしていく姿勢を明確にするとともに、長期国債の買入れ額については、現状を維持すること、が必要であると考えている。
  •  本日の議論および先程の議案に照らせば、これらの点について、日本銀行にも認識を共有して頂けるものと理解したので、量的緩和政策の解除については、政策決定会合のご判断を尊重したいと思う。日本銀行におかれては、景気回復を持続的なものとし、デフレからの脱却を果たすことが重要な政策課題であることを踏まえ、逆戻りすることがないよう、責任を持って金融面から経済を支えて頂きたいと思う。引き続き、政府の経済政策と整合的な、適切な金融政策の運営に努められることを期待している。
     また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。
  •  景気の現状については2月の月例経済報告で上方修正したように景気は回復していると判断している。しかしながら、物価の基調的な動向を総合してみると、依然として緩やかなデフレが続いている。したがって、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」「構造改革と経済財政の中期展望」「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」といった閣議決定等で繰り返し表明している18年度でのデフレ脱却という政府目標の達成が極めて重要である。
  •  日本銀行におかれては、量的緩和政策の解除の検討に当たっては、この政府の経済政策の基本方針との整合性を十分考慮頂き、引き続き政府・日銀一体となったデフレ脱却に向けた取り組みを行って頂くことを改めて強く要望する。また、量的緩和政策解除の場合には、これまでの金融政策の目安が消滅することから、市場や国民の経済に対する予測可能性を高め、期待を安定化させるという国民への説明責任を果たすため、今後の日銀としての金融政策の透明性のある枠組みを示して頂くことを期待する。

VI.採決

 このあと、議長から提出された3つの議案が、(1)金融市場調節方針に関する議案、(2)「金融市場調節方針の変更について」の公表に関する議案、(3)「新たな金融政策運営の枠組みの導入について」の公表に関する議案、の順に採決に付された。

 金融市場調節方針に関する議案(議長案)は、採決の結果、賛成7反対1で議決された。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、春委員、水野委員、西村委員
  • 反対:中原委員

中原委員は、現状の景気判断においては、多数意見と基本的に相違はないものの、(1)消費者物価指数の実績が安定的にプラスであると判断するには、もう少し検証する方が良いこと、(2)先行き消費者物価がマイナスになることがないかどうかを判断するには展望レポートに準じた慎重な分析と検証が必要であること、(3)今後4月にかけて公表される3月短観その他の指標が解除判断を行うに当たり重要と思われること、(4)期末という市場にとって一つの節目である時期に解除を行うことのリスクが残る一方、これを4月に延期することのコストは殆どないと思われること、から反対した。

 「金融市場調節方針の変更について」の公表に関する議案(議長案)は、採決の結果、全員一致で議決された。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、水野委員、西村委員

 「新たな金融政策運営の枠組みの導入について」の公表に関する議案(議長案)は、採決の結果、全員一致で議決された。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、水野委員、西村委員

 また、「新たな金融政策運営の枠組みの導入について」で示された「『物価の安定』についての考え方」に関する背景説明の資料を執行部において作成し、3月10日に公表することが了承された。

 上記採決の後、政府からの出席者は、景気回復を持続的なものとし、デフレからの脱却を果たすことが重要な政策課題であることを踏まえ、責任を持って金融面から経済を支えて頂くとともに、市場の安定化のためには、経済・物価の情勢や先行きの見方、デフレ脱却との関係等について、丁寧にご説明頂きたい、との趣旨の発言を行った。なお、政府からの出席者は、本日の政府側の対応については、本日中に公表する予定であると付け加えた。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。
 この「基本的見解」は当日(3月9日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は3月10日に、それぞれ公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(1月19日、20日)および前回会合(2月8日、9日)の議事要旨が全員一致で承認され、3月14日に公表することとされた。

IX.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2006年4月〜9月における金融政策決定会合等の日程が別添3のとおり承認され、即日公表することとされた。

以上

脚注

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」

(別添1)
2006年3月9日
日本銀行

金融市場調節方針の変更について

(金融市場調節方針の変更)

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、金融市場調節の操作目標を日本銀行当座預金残高(以下、「当座預金残高」)から無担保コールレート(オーバーナイト物)に変更した上で、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(別添)

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。

(金融市場調節面の措置)

 当座預金残高については、所要準備額に向けて削減していくことになる。金融機関においては、量的緩和政策採用以降長期間にわたって、多額の当座預金残高や資金供給オペレーションを前提とした資金繰りが行われてきた。このため、当座預金残高の削減は、数か月程度の期間を目途としつつ、短期金融市場の状況を十分に点検しながら進めていく。当座預金残高の削減は、短期の資金オペレーションにより対応する。長期国債の買入れについては、先行きの日本銀行の資産・負債の状況などを踏まえつつ、当面は、これまでと同じ金額、頻度で実施していく。補完貸付については、適用金利を据え置くとともに、2003年3月以降、利用日数に関して上限を設けない臨時措置を実施しているが、この措置は当面継続する。

(経済・物価情勢の判断)

 日本銀行は、2001年3月、物価の継続的な下落を防止し、持続的な成長のための基盤を整備する観点から、当座預金残高を主たる操作目標として潤沢な資金供給を行うとともに、この政策を消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続するとの明確な「約束」を行い、以後、この「約束」に沿って量的緩和政策を継続してきた。

 現在、日本経済は着実に回復を続けている。輸出は、海外経済が拡大する中で増加しており、国内民間需要の面でも、高水準の企業収益を背景に設備投資は増加を続けている。企業部門の好調は家計部門に波及しており、個人消費は底堅さを増している。先行きも、息の長い回復が続くと予想される。
 物価面では、消費者物価指数の前年比はプラスに転じている。この間、経済全体の需給ギャップは緩やかな改善が続いている。ユニット・レーバー・コストの動きをみても、生産性の上昇は続いているが、賃金は増加に転じており、下押し圧力は基調として減少している。さらに、企業や家計の物価見通しも上振れてきている。こうしたもとで、消費者物価指数の前年比は、先行きプラス基調が定着していくとみられる。この結果、「約束」の条件は満たされたと判断した。

(当面の金融政策運営の考え方)

 量的緩和政策の経済・物価に対する効果は、現在、短期金利がゼロであることによる効果が中心になっているため、今回の措置により非連続的な変化が生じるものではない。

 先行きの経済・物価情勢については、物価安定のもとでの持続的成長を実現していく可能性が高いと評価できる。ただ、企業の収益率が改善し、物価情勢も一頃に比べ好転している状況下、金融政策面からの刺激効果が一段と強まり、中長期的にみると経済活動の振幅が大きくなるリスクには、留意する必要がある。

 先行きの金融政策運営としては、無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間を経た後、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に調整を行うことになる。この場合、前述のようなリスクが抑制されるのであれば、すなわち、経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって、物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高いと考えている。

以上


(別添)

2006年3月9日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成7反対1)。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。

以上


(別添2)
2006年3月9日
日本銀行

新たな金融政策運営の枠組みの導入について

 日本銀行法は、金融政策の理念として、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」と定めている。日本銀行はこの理念に基づいて適切な金融政策運営に努めている。本日の政策委員会・金融政策決定会合では、新たな金融政策運営の枠組みを導入するとともに、改めて「物価の安定」についての考え方を整理することとした。

1.新たな金融政策運営の枠組み

(1)「物価の安定」についての明確化

 日本銀行としての物価の安定についての基本的な考え方を整理するとともに、金融政策運営に当たり、現時点において、政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率(「中長期的な物価安定の理解」)を示す(後述)。こうした考え方や理解を念頭に置いた上で、金融政策運営を行う。

(2)2つの「柱」に基づく経済・物価情勢の点検

 金融政策の運営方針を決定するに際し、次の2つの「柱」により経済・物価情勢を点検する。

 第1の柱では、先行き1年から2年の経済・物価情勢について、最も蓋然性が高いと判断される見通しが、物価安定のもとでの持続的な成長の経路をたどっているかという観点から点検する。

 第2の柱では、より長期的な視点を踏まえつつ、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するとの観点から、金融政策運営に当たって重視すべき様々なリスクを点検する。具体的には、例えば、発生の確率は必ずしも大きくないものの、発生した場合には経済・物価に大きな影響を与える可能性があるリスク要因についての点検が考えられる。

(3)当面の金融政策運営の考え方の整理

 以上2つの「柱」に基づく点検を踏まえた上で、当面の金融政策運営の考え方を整理し、基本的には「経済・物価情勢の展望」において定期的に公表していく。

2.「物価の安定」についての考え方

 「物価の安定」とは、家計や企業等の様々な経済主体が物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況である。

 「物価の安定」は持続的な経済成長を実現するための不可欠の前提条件であり、日本銀行は適切な金融政策の運営を通じて「物価の安定」を達成することに責任を有している。その際、金融政策の効果が波及するには長い期間がかかること、また、様々なショックに伴う物価の短期的な変動をすべて吸収しようとすると経済の変動がかえって大きくなることから、十分長い先行きの経済・物価の動向を予測しながら、中長期的にみて「物価の安定」を実現するように努めている。

 物価情勢を点検していく際、物価指数としては、国民の実感に即した、家計が消費する財・サービスを対象とした指標が基本となる。中でも、統計の速報性の点などからみて、消費者物価指数が重要である。

 「物価の安定」とは、概念的には、計測誤差(バイアス)のない物価指数でみて変化率がゼロ%の状態である。現状、わが国の消費者物価指数のバイアスは大きくないとみられる。物価下落と景気悪化の悪循環の可能性がある場合には、それを考慮する程度に応じて、若干の物価上昇を許容したとしても、金融政策運営において「物価の安定」と理解する範囲内にあると考えられる。

 わが国の場合、もともと、海外主要国に比べて過去数十年の平均的な物価上昇率が低いほか、90年代以降長期間にわたって低い物価上昇率を経験してきた。このため、物価が安定していると家計や企業が考える物価上昇率は低くなっており、そうした低い物価上昇率を前提として経済活動にかかる意思決定が行われている可能性がある。金融政策運営に当たっては、そうした点にも留意する必要がある。

 本日の政策委員会・金融政策決定会合では、金融政策運営に当たり、中長期的にみて物価が安定していると各政策委員が理解する物価上昇率(「中長期的な物価安定の理解」)について、議論を行った。上述の諸要因のいずれを重視するかで委員間の意見に幅はあったが、現時点では、海外主要国よりも低めという理解であった。消費者物価指数の前年比で表現すると、0〜2%程度であれば、各委員の「中長期的な物価安定の理解」の範囲と大きくは異ならないとの見方で一致した。また、委員の中心値は、大勢として、概ね1%の前後で分散していた。「中長期的な物価安定の理解」は、経済構造の変化等に応じて徐々に変化し得る性格のものであるため、今後原則としてほぼ1年ごとに点検していくこととする。

以上


(別添3)
2006年3月9日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2006年4月〜9月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2006年4月  4月10日(月)・11日(火) 4月11日(火) (5月24日(水))
  4月28日(金) —— (6月20日(火))
5月 5月18日(木)・19日(金) 5月19日(金) (6月20日(火))
6月 6月14日(水)・15日(木) 6月15日(木) (7月20日(木))
7月 7月13日(木)・14日(金) 7月14日(金) (8月16日(水))
8月 8月10日(木)・11日(金) 8月11日(金) (9月13日(水))
9月 9月7日(木)・8日(金) 9月8日(金) 未定
  • (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  • (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  • (注3)「経済・物価情勢の展望(2006年4月)」の「基本的見解」は、4月28日<金> 15時(背景説明を含む全文は5月1日<月>14時)に公表の予定。

以上