このページの本文へ移動

金融政策決定会合議事要旨

(2006年4月10、11日開催分) *

2006年5月24日
日本銀行

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2006年5月18、19日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

(開催要領)

1.開催日時
2006年4月10日(14:00〜15:47)
4月11日( 8:59〜12:43)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 杉本 和行 大臣官房総括審議官(10日)
    赤羽 一嘉 財務副大臣(11日)
  • 内閣府 中城 吉郎 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長雨宮正佳
  • 企画局参事役鮎瀬典夫(11日 8:59〜9:16)
  • 企画局企画役内田眞一
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長中山泰男
  • 政策委員会室審議役神津多可思
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役山田泰弘(11日 8:59〜9:16)
  • 企画局企画役正木一博
  • 企画局企画役武田直己
  • 金融市場局企画役坂本哲也(11日 8:59〜9:16)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(3月8日、9日)で決定された方針 1に従って運営した。この結果、オーバーナイト金利は、期末日を含め、概ねゼロ%で安定的に推移した。この間、日本銀行当座預金残高は、3月中は30兆円前後で推移した後、4月入り後は緩やかに減少しており、足もとでは26兆円弱となっている。

  1. 「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、ターム物金利は、長めの金利を中心に上昇した。

 株価は、好調な経済指標を受けて景況感が一段と改善したことや、海外の株価が底堅く推移したことなどを背景に上昇し、最近では、日経平均株価は17,000円台半ばで推移している。

 長期金利は、株価の堅調や、米国など海外の長期金利の動向のほか、先行きの金融政策運営に対する見方のばらつきなどを背景に上昇し、最近では1.8%台で推移している。

 円の対米ドル相場は、わが国や米国の金融政策の先行きに対する思惑などからもみあいとなり、最近では117〜118円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出や設備投資を中心に潜在成長率近傍の着実な景気拡大が続いている。

 ユーロエリアでは、景気はなお停滞気味ながら、既往のユーロ安の効果もあって輸出や生産が回復するなど、景気回復のモメンタムが徐々に強まっている。

 東アジアをみると、中国では、内外需とも力強い拡大が続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、エネルギー高の影響が部分的に顕在化しているが、総じて緩やかな景気拡大が続いている。

 米欧の金融資本市場をみると、長期金利は、利上げ観測の強まりなどから上昇した。株価は、米国では横這い圏内の動きとなったが、欧州では上昇した。エマージング金融資本市場では、米国の金融政策運営を巡る不透明感などが重石となったものの、堅調なファンダメンタルズが下支えとなり、多くの国・地域で金融環境が改善した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大を背景に増加を続けている。米国向けは、自動車関連を中心に、このところ高い伸びとなっているほか、中国向けも、昨年央以降、はっきりした増加を続けている。先行きの輸出についても、海外経済が米国、東アジアを中心に拡大を続けるもとで、増加を続けていくとみられる。

 企業部門では、短観の結果をみると、企業収益は高水準で推移しており、良好な業況感も維持されている。こうしたもとで、設備投資は引き続き増加しており、先行きも、内外需要の増加や高水準の企業収益が続くもとで、増加を続けると予想される。

 家計部門では、雇用・所得環境をみると、労働需給に関する諸指標が改善傾向を続ける中、雇用と賃金の改善を反映して、雇用者所得は緩やかな増加を続けている。先行きについても、雇用不足感が強まっていることや、企業収益が高水準を続けるとみられることなどから、雇用者所得は緩やかな増加を続ける可能性が高い。

 個人消費は、増加基調にある。乗用車の新車登録台数は、昨年後半に弱い動きを続けたが、本年入り後は持ち直し傾向にある。また、家電販売は、足もと若干の反動もみられるものの、増加基調を続けているほか、全国百貨店売上高も底堅く推移している。先行きの個人消費については、雇用者所得の緩やかな増加等を背景に、着実な増加を続ける可能性が高い。

 生産は、2月の鉱工業生産が前月比マイナスとなったものの、均してみれば、内外需の増加を背景に増加を続けている。先行きについても、海外経済の成長が続き、内需の回復基盤もしっかりしていることから、増加基調を続けると考えられる。在庫については、全体として出荷とのバランスが概ねとれている。

 国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に、上昇を続けている。先行きも、当面は国際商品市況高の影響などから、上昇を続けるとみられる。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、2月は、1月に続いて+0.5%となり、プラス基調で推移している。先行きについては、需給環境の緩やかな改善が続く中、若干の振れを伴いつつもプラス基調を続けていくと予想される。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、緩和的な状態にある。CP・社債の発行環境は良好な状況にあるほか、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきている。短観でみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰り判断も、引き続き緩やかに改善している。また、民間の資金需要は下げ止まりつつある。この間、企業の資金調達コストはやや上昇している。

 マネーサプライ(M2+CD)は、前年比1%台の伸びで推移している。

II.共通担保資金供給オペレーションの導入について

1.執行部からの提案内容

 手形買入オペのペーパーレス化を実現することにより、金融調節実務の効率化を図る観点から、「共通担保資金供給オペレーション」(共通担保オペ)を導入するため、「共通担保資金供給オペレーション基本要領」の制定等を提案したい。

2.委員会の検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表されることとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、わが国の景気は着実に回復を続けているとの認識で一致した。多くの委員は、外需と内需、企業部門と家計部門がともに回復し、生産・所得・支出の好循環が働くもとで、景気は着実に回復を続けていく可能性が高いとの見方を述べた。

 海外経済に関して、委員は、米国や東アジアを中心に拡大が続いており、先行きも拡大を続けるとの見方を共有した。

 米国経済について、多くの委員は、住宅販売に減速の兆しがみられるものの、家計支出や設備投資を中心に着実な拡大を続けており、先行きも潜在成長率近傍の拡大を続ける可能性が高いとの認識を示した。この間、物価動向について、何人かの委員は、労働需給の引き締まりや高水準の設備稼働率が続いていることを踏まえると、今後、原油価格を含めた商品市況の上昇とも相俟って、インフレ圧力が高まるリスクには注意する必要があると述べた。

 東アジア経済について、委員は、中国では、内外需とも力強い拡大が続いているとの認識を共有した。ある委員は、米国の対中赤字が拡大を続けていることや、中国の外貨準備が増加を続けていることを指摘し、中国当局による今後の為替政策が注目されると述べた。

 この間、何人かの委員は、世界経済のリスク要因として、原油をはじめとする国際商品市況の上昇やこれに伴うインフレ心理の高まりを背景に、米国だけでなく、グローバルに長期金利が上昇傾向にあることを指摘した。

 わが国経済について、委員は、輸出は海外経済の拡大を背景に増加を続けており、先行きも、増加を続けていく可能性が高いとの見方で一致した。

 国内民間需要について、委員は、高水準の企業収益を背景に設備投資が増加を続けているほか、企業部門の好調が家計部門に波及するもとで、個人消費も増加基調にあるとの認識を共有した。

 企業部門について、委員は、設備投資は増加を続けており、先行きも、設備の過剰感が払拭され、高水準の企業収益が続く中で、引き続き増加する可能性が高いとの認識を共有した。複数の委員は、3月短観における2006年度の設備投資計画について、製造業・非製造業、大企業・中小企業を問わず、昨年並みか昨年をやや上回る当初計画となっていることを指摘し、設備投資の堅調な増加が続く可能性が高いとの見方を示した。何人かの委員は、設備投資の増加は、高水準の企業収益やキャッシュフローとの対比でみれば依然として控えめであり、企業は大枠として慎重な投資スタンスを維持していると述べた。これらの委員は、こうした慎重な企業行動は、資本ストックの過度な積み上がりを回避することを通じて持続的な成長を支えるものであると続けた。この間、ひとりの委員は、極めて緩和的な金融環境が続くもとで、金利感応度の高い中小非製造業の設備投資の動向が注目されると述べた。

 生産について、委員は、2月は前月比でマイナスとなったものの、均してみれば増加を続けており、先行きも、内外需の増加を背景に増加を続けていく可能性が高いとの認識を共有した。

 この間、何人かの委員は、IT関連財について、需要は増加を続けると見込まれるものの、循環的にみて小幅の生産・在庫調整が生じる可能性も考えられるとの見方を示した。このうち、ひとりの委員は、こうした観点から、電子部品・デバイスの出荷・在庫バランスの動向には特に注意が必要であると述べた。

 雇用・所得面について、委員は、労働需給が改善を続け、企業の人手不足感が強まりつつあるもとで、雇用者数、賃金がともに増加しており、雇用者所得も緩やかに増加を続けているとの認識を共有した。この点に関し、ひとりの委員は、春季労使交渉において、自動車など業績好調の大企業を中心に数年振りの賃上げが実現したことは注目に値すると述べた。

 個人消費について、委員は、増加基調にあり、先行きについても、雇用者所得の緩やかな増加等を背景に、着実な回復を続ける可能性が高いとの見方で一致した。この点に関し、複数の委員は、短観において、小売、飲食店・宿泊など個人消費関連業種の業況判断が好調であったことは、個人消費の堅調を示すものであると指摘した。また、ある委員は、高額商品の販売が好調であることを指摘し、株価上昇や配当の増加も影響していると考えられると述べた。一方、別のある委員は、高額品と安値品の二極化が進んでいることや、サービス支出の回復も特定の分野に限定されていることなどを指摘し、個人消費の回復は、底堅いものの力強いとは言えないとの見方を示した。

 多くの委員は、需給ギャップや潜在成長率について意見を述べた。何人かの委員は、短観において、バブル崩壊以降初めて設備に対する過剰感が解消されたことや、雇用人員に関する不足感が強まっていることなどを指摘し、マクロ的な需給ギャップは概ね解消されたと考えられると述べた。この間、ひとりの委員は、潜在GDPの推計に当たっては、全要素生産性や設備や労働の稼働率について過去のトレンドを用いることが一般的であるが、近年における経済構造の変化を踏まえると、経済の停滞色が強かった90年代以降のトレンドに依存した推計では、潜在GDPを過小評価しているリスクがあると指摘した。複数の委員は、潜在成長率の水準やその背景をどのように考えるかによって、先行きの経済・物価見通しや金融政策運営に対する含意が異なると指摘した。

 こうした議論を通じ、委員は、展望レポートに向けて、需給ギャップや潜在成長率について議論を深めていく必要があるとの認識を共有した。

 物価面について、委員は、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に上昇を続けており、先行きも上昇を続けるとの見方で一致した。

 消費者物価(全国、除く生鮮食品)について、多くの委員は、1月に続き、2月も前年比+0.5%となったことや、石油製品や電気・電話料金等の特殊要因を除いたベースでみても前年比プラスが続いていることを指摘した。ある委員は、このところプラス寄与の大きい帰属家賃の上昇傾向が続くと見込まれることなどを指摘し、物価の改善傾向は明確であると述べた。

 先行きの消費者物価について、委員は、(1)景気が着実に回復を続けるもとで、需給ギャップが緩やかな改善を続けること、(2)賃金の上昇に伴い、ユニット・レーバー・コストからの下押し圧力も減じていくことなどから、若干の振れを伴いつつも、前年比プラス基調を続けていくとの見方を共有した。何人かの委員は、当面の物価動向について、年度替わりに伴うサービス価格の改定について、注意してみていく必要があると述べた。この間、ある委員は、短観の販売価格判断が、非製造業や中小企業を中心に改善していることを指摘し、コスト上昇分の価格転嫁が進みつつあるとの認識を示した。これに対し、ひとりの委員は、製造業では、国際的な価格競争が強まるもとで、企業が製品価格への転嫁を行いにくい状況が続いていることには留意する必要があると述べた。

 公示地価について、複数の委員は、三大都市圏では商業地が15年振りに上昇したほか、住宅地の下げ幅もはっきり縮小した一方、地方圏ではなお下落基調が続いていると指摘した。そのうえで、これらの委員は、都心部では一部に大幅な上昇もみられているが、全体としてみれば、概ね収益性に見合った価格形成が行われているとの認識を示した。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、極めて緩和的な金融環境が続いているとの認識を共有した。

 複数の委員は、米国の長期金利上昇の背景について、政策金利が中立的とみられる水準近傍まで上昇している中で金融政策の先行きに対する不透明感が高まっていることや、インフレ懸念が根強いことなどを指摘した。

 前回会合以降、わが国の長期金利が上昇しており、ボラティリティも幾分高まっていることについて、何人かの委員は、景況感の一段の改善に伴う株価の堅調や、先行きの金融政策運営に対する見方のばらつきといった国内的な要因だけでなく、米国など海外の長期金利の上昇が背景にあるとの見方を示した。このうち、複数の委員は、中期ゾーン金利の上昇が目立っていることを指摘し、金融政策の先行きに対する思惑が少なからず影響していると述べた。

 何人かの委員は、3月短観において、企業の資金繰り判断や企業からみた金融機関の貸出態度判断が、大企業・中小企業ともに改善を続けていることを指摘し、量的緩和政策解除後も引き続き緩和的な企業金融の環境が維持されているとの見方を示した。ひとりの委員は、今後は、資金のアベイラビリティやボリューム面の動向に加え、貸出金利やCP・社債の発行金利など、企業の資金調達コストの動向も含めて、金融環境を丁寧に点検していく必要があると述べた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営について、委員は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す」という現在の金融市場調節方針を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 量的緩和政策解除後の短期金融市場の動向について、委員は、期末日を含めて落ち着いて推移しているとの認識で一致した。そのうえで、委員は、今後の当座預金残高の削減は、引き続き短期金融市場の状況を十分に点検しながら進めていく方針であることを確認した。ひとりの委員は、具体的な削減ペースは、先行きの短期金融市場の状況に依存するとしたうえで、これまでのように落ち着いた展開が続くのであれば、当初の想定通り、量的緩和政策解除後数か月程度の期間を目途に、残高の削減を実現できる可能性が高いとの見方を示した。この間、別のひとりの委員は、市場では早期のゼロ金利政策解除観測が強まりつつあると指摘したうえで、あまりに早いペースでの当座預金残高の削減は、こうした思惑に拍車をかけるリスクがあると述べた。

 金融政策運営に関する情報発信のあり方についても議論が行われた。

 委員は、量的緩和政策解除後の金融市場は総じてみれば落ち着いて推移しており、金融政策運営に対する日本銀行の考え方に対する理解は次第に浸透しつつあるとの認識を共有した。そのうえで、多くの委員は、新たな金融政策運営の枠組みに対する理解を更に深めていくことが必要であると述べた。

 何人かの委員は、一部に「中長期的な物価安定の理解」で示した物価上昇率を、先行きの政策変更のタイミングと直接結びつけて理解する向きがあると指摘した。これらの委員は、「中長期的な物価安定の理解」は、現時点において、各政策委員が金融政策運営の判断に当たって物価が安定していると理解する物価上昇率を示したものであり、インフレーション・ターゲットや物価安定の数値的定義とは異なるものであることについて理解を得る必要があると述べた。この点に関し、複数の委員は、新たな金融政策運営の枠組みは、(1)「物価安定」についての明確化、(2)2つの「柱」に基づく経済・物価情勢の点検、(3)当面の金融政策運営の考え方の整理、の3つの要素から成り立っており、こうした枠組みを全体として理解することが重要であることについて、説明していく必要があると述べた。この間、ひとりの委員は、「中長期的な物価安定の理解」は、政策運営の透明性と柔軟性を両立させる形で、物価安定のアンカーとしての役割を果たし得るものであり、その結果、短期的にはその時々の経済・物価情勢に応じた柔軟な政策対応が可能となることを強調した。

 ある委員は、わが国の場合、海外主要国に比べて過去の平均的な物価上昇率が低いため、物価が安定していると家計や企業が考える物価上昇率が低くなっているとの考え方について、「フォワード・ルッキングな期待形成を理解していない」との批判があることに言及した。この委員は、わが国では、物価の安定に対する認識が過去の経験に即した形でバックワード・ルッキングに形成されている部分が少なくないとの実証分析を紹介したうえで、こうした期待形成から乖離した物価目標の設定は、インフレ誘導的であると受け止められるリスクがあると指摘した。そのうえで、この委員は、バックワード・ルッキングな期待形成は、経済構造の変化に伴って比較的短期間で変化する可能性があるため、定期的な見直しが重要であると述べた。

 何人かの委員は、新たな金融政策運営の枠組みは、量的緩和政策のもとでの「約束」に比べて明確性を欠いているとの批判についてコメントした。これらの委員は、金利政策のもとでの中央銀行と市場との対話は、これまでの「約束」のような一方通行のものとは異なり、市場金利を仲介項としたダイナミックなものに変わっていかなければならないとの見方を示した。ある委員は、この点について、具体的には、(1)日本銀行が金融政策運営に対する基本的な考え方や経済・物価情勢に対する認識を示す一方、(2)市場参加者は、これらを踏まえたうえで自らの金利観に基づいて取引を行い、(3)日本銀行は、市場動向から重要な情報を汲み取っていくという相互関係が基本となっていくと敷衍した。

 先行きの金融政策運営について、委員は、量的緩和政策解除時の公表文に示したとおり、経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって、物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境を当面維持できる可能性が高いということについて、十分説明していくことが大切であるとの認識を共有した。この点に関し、何人かの委員は、市場において金融政策の先行きに対する関心が高いことを踏まえ、情報発信には慎重を期する必要があると述べた。

V.政府からの出席者の発言

 財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、景気は回復している。一方、先日公表された2月の消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が0.5%となるなど、物価についての動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にあるものの、少しずつ改善しているのではないかと考えられ、この改善を継続する必要がある。
  •  日本銀行におかれては、景気回復を持続的なものとするとともに、デフレからの脱却を果たすことが重要な政策課題であることを十分に踏まえ、デフレから確実に脱却し、逆戻りすることがないよう、いわゆるゼロ金利を継続することにより、金融面から経済を十分支えて頂きたいと考えている。
  •  また、金融当局として、市場の安定が確保されるよう、当座預金残高の縮減について市場の状況をみながら慎重に行うとともに、長期金利を含めた金利全般に対して十分な目配りをして頂きたいと考えている。
  •  前回の金融政策決定会合では、当面の金融政策運営について、「物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高い」との考え方が、全員一致で決定されたものと承知している。
     にもかかわらず、市場関係者の間では、今後連続的に利上げが実施されるとの思惑が生じ、その結果、中短期金利が上昇するなど、金融政策の先行きについて日本銀行の決定されたメッセージを市場が正しく理解していない節も窺われるところである。
     日本銀行におかれては、この金融政策決定会合での決定に沿って、金融政策運営の考え方を市場や国民に丁寧に説明し、市場の安定に努めて頂きたいと考えている。
      また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。
  •  景気は回復している。しかしながら、物価の動向を総合してみると、改善がみられるものの、緩やかなデフレ状況にある。したがって、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」「構造改革と経済財政の中期展望」「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」といった閣議決定等で繰り返し表明している18年度でのデフレ脱却という政府目標の達成が極めて重要である。
  •  日本銀行におかれては、この政府の経済政策の基本方針との整合性を十分考慮頂き、量的緩和政策解除後も短期金利を概ねゼロ%で推移するよう促し、緩和的な金融環境を維持されているが、今後の金融政策運営に際しても、引き続き政府と一体となってデフレ脱却に向けた取組みを行い、責任を持って金融面から経済を支えて頂くことを要望する。
  •  また、前回の金融政策決定会合で新たな金融政策運営の枠組みが導入されたが、次回の展望レポート等の機会において、デフレ脱却との関係を含めた経済・物価情勢や先行きの見方について一層丁寧に説明し、市場や国民の経済に対する予測可能性を高め、期待を安定化させることを期待する。

VI.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す」という現在の金融市場調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、水野委員、西村委員

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(4月11日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は4月12日に、それぞれ公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前回会合(3月8日、9日)の議事要旨が全員一致で承認され、4月14日に公表することとされた。

以上


(別添)
2006年4月11日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。

以上