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金融政策決定会合議事要旨

(2006年5月18、19日開催分) *

2006年6月20日
日本銀行

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2006年6月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

(開催要領)

1.開催日時
2006年5月18日(14:00〜15:53)
5月19日( 9:00〜12:03)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 杉本 和行 大臣官房総括審議官(18日)
    赤羽 一嘉 財務副大臣(19日)
  • 内閣府 中城 吉郎 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長雨宮正佳
  • 企画局企画役内田眞一
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長中山泰男
  • 政策委員会室審議役神津多可思
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役神山一成
  • 企画局企画役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(4月28日)で決定された方針 1に従って運営した。この結果、オーバーナイト金利は、概ねゼロ%で安定的に推移した。この間、日本銀行当座預金残高は、緩やかに減少しており、足もとでは14兆円台となっている。

脚注

  1. 「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、ターム物金利は、利上げ時期の早期化観測の高まりなどを受けて、上昇した。ユーロ円金先レートは、全ゾーンに亘りいったん上昇した後、足もとは前回会合時の水準まで低下している。

 株価は、為替円高の進行や米国株価の下落を受けて下落し、日経平均株価は足もとでは16千円台前半で推移している。

 長期金利は、一時2%程度まで上昇したが、その後低下し、足もとでは1.9%台半ばで推移している。

 円の対米ドル相場は、G7声明の解釈を巡ってドル安の動きが優勢となったこともあって、上昇し、最近では109〜110円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出や設備投資を中心に、潜在成長率近傍の着実な景気拡大が続いている。エネルギー高を受けて、物価は高めの上昇率を示しているが、FRBによる利上げが続けられてきた中で、インフレ心理の落ち着きは、これまでのところ維持されている。

 ユーロエリアでは、景気はなお停滞気味ながら、輸出や生産が回復するなど、景気回復のモメンタムが徐々に強まっている。

 東アジアをみると、中国では、内外需とも力強い拡大が続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、エネルギー高の影響が一部に顕在化しているが、総じて緩やかな景気拡大が続いている。

 米欧の金融資本市場をみると、米国では、エネルギー高や労働需給の引き締まりが続く中、長期金利が上昇し、株価が下落した。米国の金融市場の動きを受けて、欧州では、長期金利が幾分上昇し、株価が軟化した。また、エマージング金融資本市場では、株価・通貨が下落した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大を背景に増加を続けている。先行きも、海外経済が米国、東アジアを中心に拡大を続けるもとで、増加を続けていくとみられる。

 国内民間需要をみると、設備投資は、引き続き増加している。先行きも、内外需要の増加や高水準の企業収益が続く見込みのもと、引き続き増加すると予想される。

 個人消費は、増加基調にある。乗用車の新車登録台数は、軽自動車を含まないベースでは、やや冴えない動きとなっているが、軽自動車を含むベースでみると、本年入り後は、新車効果などから幾分持ち直す動きとなっている。先行きの個人消費については、雇用者所得の緩やかな増加等を背景に、着実な増加を続ける可能性が高い。

 鉱工業生産は、内外需の増加を背景に、増加を続けている。先行きについても、海外経済の拡大が続き、内需の基盤もしっかりしていることから、増加基調を続けると考えられる。企業からの聞き取り調査でも、4〜6月の生産は増加を続ける見込みである。

 雇用・所得環境をみると、労働需給に関する諸指標が改善傾向を続ける中、雇用と賃金の改善を反映して、雇用者所得は緩やかな増加を続けており、先行きについても緩やかな増加を続ける可能性が高い。

 景気が4年以上に亘って回復を続けてきた結果、マクロ的な需給ギャップは、長く続いた供給超過状態が解消し、現在はゼロ近傍にある。先行きについては、緩やかに需要超過方向に向かっていくとみられる。

 物価面をみると、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に、上昇を続けており、先行きも、当面は国際商品市況高の影響などから、上昇を続けるとみられる。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、プラス基調で推移している。先行きについては、マクロ的な需給ギャップが、今後は緩やかに需要超過方向に向かっていくとみられる中、プラス基調を続けていくと予想される。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、緩和的な状態にある。CP・社債の発行環境は良好な状況にあるほか、民間銀行は緩和的な貸出姿勢を続けている。また、民間の資金需要は下げ止まっている。こうしたもとで、4月の銀行貸出の前年比プラス幅は前月から大幅に拡大した。業種別貸出統計により企業向け貸出の内訳をみると、3月末は、大企業向けの前年比マイナス幅は縮小し、中堅中小企業向けは前年比プラスに転じてきている。この間、マネーサプライ(M2+CD)は、前年比1%台の伸びで推移している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢の現状について、委員は、わが国の景気は、内需と外需、企業部門と家計部門のバランスがとれた形で、着実に回復を続けており、マクロ的な需給ギャップは、長く続いた供給超過状態が解消し、現在はゼロ近傍にあるとの認識で一致した。

 先行きについて、委員は、生産・所得・支出の好循環が働くもとで、潜在成長率を幾分上回る成長を続ける可能性が高いとの見方を共有した。その上で、金融経済月報における先行きの総括判断として、委員は、先行きの景気については「緩やかに拡大していく」という表現が適切であるという点で一致した。何人かの委員は、「回復」から「拡大」への変更は、展望レポートで示したように、経済活動の水準が高まり、マクロ的な需給ギャップの面で需要超過の領域に入っていくとみられることを受けたものであり、成長ペースが速いということを必ずしも意味しないとした上で、「緩やかに」を「拡大」に付しておけば、当面の成長率が潜在成長率を幾分上回る程度であることを明確にすることが可能であると述べた。

 海外経済に関して、委員は、米国や東アジアを中心に拡大が続いており、先行きも拡大を続けるとの見方を共有した。

 米国経済について、多くの委員は、住宅販売件数などに減速の兆しがみられるものの、現状は家計支出や設備投資を中心に着実な拡大を続けており、先行きも潜在成長率近傍の拡大を続ける可能性が高いとの見方を示した。ある委員は、住宅投資の減速が同国経済に与える影響については、不確実性が小さくないため、注意してみていく必要があると述べた。物価動向について、何人かの委員は、労働需給の引き締まりや設備稼働率の高さを踏まえると、原油価格を含めた商品市況の上昇とも相俟って、インフレ圧力が高まってくるリスクには注意する必要があるとの見方を示した。複数の委員は、インフレ・リスクは既に顕在化しつつあり、金融政策の舵取りがより重要な局面となっているとコメントした。

 東アジア経済について、委員は、中国では、内外需とも力強い拡大が続いているとの認識を共有した。中国人民銀行が、窓口指導の強化に加えて、銀行の貸出基準金利を引き上げることを決定したことについて、何人かの委員は、こうした政策の効果が固定資産投資などにどのような影響を与えるかが注目されると述べた。

 わが国経済について、委員は、輸出は、海外経済の拡大を背景に増加を続けており、先行きも増加を続けていく可能性が高いとの見方で一致した。

 国内民間需要について、委員は、企業部門の好調が家計部門に波及しているとの認識を共有した。

 企業部門について、委員は、設備投資は、設備の過剰感が払拭され、高水準の企業収益が続く中で、先行きも増加を続ける可能性が高いとの認識を共有した。複数の委員は、一致指標の資本財出荷、先行指標の機械受注とも、1〜3月は弱めの動きとなったが、高水準の企業収益のもとで設備投資計画がしっかりしていることを踏まえると、設備投資の増加基調は続いているとみられると述べた。ある委員は、2006年度について減益を予想する企業が少なくないことを踏まえると、企業の設備投資スタンスがそれほど積極的なものとはなっていかない可能性もあると指摘した。一人の委員は、極めて緩和的な金融環境が続くもとで、金利感応度の高い中小非製造業の設備投資の動向が注目されると述べた。6月の短観について、何人かの委員は、2006年度の設備投資計画の上方修正幅は2005年度に比べると小幅なものになると考えられるが、実際にどの程度の修正がみられるか注目されると述べた。

 個人消費について、委員は、増加基調にあり、先行きについても、雇用者所得の緩やかな増加等を背景に、着実な回復を続ける可能性が高いとの見方で一致した。1〜3月の個人消費指標の一部に弱めの動きがみられることについて、一人の委員は、個人投資家の人気を集めていた新興市場の株価が急落したことが影響している可能性もあり、資産価格が個人消費に与える影響については、今後も注意してみていく必要があると述べた。複数の委員は、消費者コンフィデンスは良好であることを指摘した上で、1〜3月の消費関連指標の弱い動きについては、強めであった前期の反動という面もあるのではないかと指摘した。ある委員は、家計調査の計数は、サンプル・バイアスにより実勢より弱めに出ている可能性があり、割り引いてみておく必要があるとコメントした。

 生産について、委員は、増加を続けており、先行きも、内外需の増加を背景に、増加を続けていく可能性が高いとの認識を共有した。また、在庫について、鉱工業全体としては、概ね出荷とバランスしているとの認識で一致した。電子部品・デバイスの在庫の前年比が高まっていることについて、複数の委員は、業界が強気の生産姿勢で臨んでいることを踏まえると、先行きにおいて在庫の積み上がりが発生するリスクは存在していると述べた。ただし、これらの委員も、目下のところ、後ろ向きの在庫が積み上がっている訳ではないとの見方を示した。

 雇用・所得面について、委員は、労働需給が改善を続け、企業の人手不足感が強まりつつあるもとで、雇用者数、賃金がともに増加しており、雇用者所得も緩やかに増加を続けているとの認識を共有した。何人かの委員は、各種の調査による今春の賃上げは、昨年を若干上回る上昇率となっており、企業から家計への波及傾向がさらに明確になっているのではないかと述べた。

 1〜3月の四半期別GDP速報(1次QE)について、委員は、実質GDPの動きは民需を中心にしっかりとしているとの認識で一致した。一人の委員は、国内民需デフレーターの前年比マイナス幅がほぼ解消するなど、GDPデフレーターの変化率が基調としてはプラス方向に向かっていると指摘した上で、個人消費デフレーターがいつプラスになるかが注目されると述べた。

 物価面について、委員は、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に上昇を続けており、先行きも上昇を続けるとの見方で一致した。

 消費者物価(全国、除く生鮮食品)について、委員は、景気が着実に回復を続けるもとで、マクロ的な需給ギャップが緩やかに需要超過方向に向かい、賃金の上昇に伴い、ユニット・レーバー・コストからの下押し圧力も減じていくことから、前年比プラス基調を続けていく可能性が高いとの見方を共有した。これに関連して、何人かの委員は、(1)石油製品や電気・電話料金等の特殊要因を除いたベースでみても前年比プラスが続いていること、(2)足もとの原油価格を前提にすると、石油製品価格の押し上げ寄与は当面続くとみられること、(3)4月の東京の消費者物価の前年比がサービス価格を中心に伸びを高めていること、などを指摘した。また、複数の委員は、年度替わりに伴うサービス価格の改定などに注目していく必要があると述べた。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、極めて緩和的な金融環境が続いているとの認識を共有した。企業金融面の動向について、委員は、銀行貸出の前年比は増加幅が拡大しており、企業の資金需要はここにきて下げ止まったとの認識を共有した。

 このところ内外の金融市況がやや神経質な展開を続けていることについても議論が行われた。

 為替相場について、多くの委員は、世界的な不均衡の是正を巡る思惑や内外金利差に関する見通しの変化などを材料に、米ドル安の動きが続いており、当面の動向に注意を要すると指摘した。何人かの委員は、企業の想定為替レートなどからみて、企業収益面で差し当たり深刻な影響が懸念される状況にはないとした上で、こうした為替レートの動きが、内外景気や物価面にどのような影響を及ぼしていくのか、注視していく必要があると述べた。

 内外における株価の軟調な動きについて、委員は、実体経済への影響だけでなく、国際金融資本市場の安定という観点からも、注意深くみていく必要があるという認識を共有した。わが国の株価の下落について、複数の委員は、海外の株安とそれに伴う海外資金の流入縮小懸念に加え、企業会計を巡る不透明感が個人投資家の投資意欲を後退させている点を指摘した。ある委員は、わが国の株価を巡る基本的な環境が良好である点について市場参加者の認識は変わっていないと思われるが、昨年後半以降の上昇スピードが速かっただけに、若干の調整が生じている面があると述べた。別の一人の委員は、先進国の株式市場は、イールド・スプレッドがマイナスであることにもみられるように、それほど強気化していた訳ではなく、調整は軽度にとどまるのではないかとの見方を示した。何人かの委員は、投資資金は、新興国の株式市場や商品市場など、規模が必ずしも大きくない市場にも大量に流入しており、そうした市場の一部でみられ始めている巻き戻しが本格化した場合の影響は軽視できないとコメントした。

 米国の長期金利上昇の背景について、何人かの委員は、政策金利が中立的とみられる水準近傍まで上昇している中で、インフレ懸念がなお根強いことや、そうしたもとで経済・物価情勢の先行きに対する不透明感が出ていることなどを指摘した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営について、委員は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す」という現在の金融市場調節方針を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 当座預金残高の削減について、委員は、これまでのところ、順調に進んでおり、今後の当座預金残高の削減についても、短期金融市場の状況を十分に点検しながら進めていくことを確認した。多くの委員は、具体的な削減ペースは、先行きの短期金融市場の状況や金融機関の資金繰りなどに依存するが、現在のように落ち着いた展開が続くのであれば、量的緩和政策解除時の想定通り、数か月程度、すなわち、あと数週間で当座預金残高の削減を実現できる可能性が高いのではないかと指摘した。複数の委員は、当座預金残高が所要準備額に近付いていくと、短期金利の動きが不安定化する可能性もあるため、引き続き慎重に金融市場調節を行っていく必要があると述べた。別の複数の委員は、当座預金残高の削減が進む中で、短期金融市場の取引は増加傾向にあり、今後も市場取引の回復が期待できるとコメントした。

 金融市場で一時早期利上げ観測が高まったことに関連して、何人かの委員は、市場は、量的緩和政策のもとでのコミットメントのような異例に明確な政策の運営指針に慣れてしまっているため、より具体的な基準を求めがちであり、当座預金残高の削減ペースなどから、利上げのタイミングを読み取ろうとする向きも少なくないようであると指摘した。複数の委員は、当座預金残高の削減は利上げに直接リンクしていないことを改めて説明していく必要があると述べた。

 また、今後の金融政策運営や情報発信のあり方などについても議論が行われた。

 委員は、4月の展望レポートで記述した先行きの金融政策運営方針、すなわち、(1)無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間の後も、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高い、(2)そうしたプロセスを経ながら、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行うことになる、という考え方は、市場参加者の間で浸透してきているとの見方を共有した。その上で、委員は、(1)展望レポートの金融政策の運営方針は、先行き2年程度を展望して、物価安定のもとでの、振幅の小さい、息の長い成長を実現していくという観点から、必要な調整のペースについての考え方を示したものであること、(2)その考え方の中で具体的にどのタイミングで政策を変更するかは、今後の経済・物価の展開次第で、あらかじめ特定の政策経路を念頭に置いている訳ではないこと、を改めて確認した。

 この点に関連して、委員は、先行きの政策運営を考える上では、今後の様々な経済指標や情報をもとに、日本経済が見通しに沿って展開していくかどうか点検していくことが重要であるとの認識で一致した。具体的には、何人かの委員は、新年度入り後の物価、賃金・雇用、設備投資の動向などが重要な判断材料になると指摘した。委員は、量的緩和政策のもとでの消費者物価指数のように特定の指標に過度の注目が当たることのないよう、あくまで、2つの「柱」に基づき、経済・物価の全体としての姿を点検し、それを丁寧に説明していくことが重要である点を改めて確認した。

 何人かの委員は、将来の政策金利のパスについての市場の見方やその変化も注視していく必要があると述べた。そのうちの一人は、市場の予想を参考にすることは重要であるが、それに機械的に反応することは適当ではないと指摘した。

 この間、一人の委員は、実質成長率のトレンドと実質短期金利の乖離はかなり拡大しており、経済・物価が見通し通りに展開していく中では、緩和度合いが強まり過ぎるリスクに注意しながら遅過ぎることがないように適切な政策運営を行う必要があると述べた。別の委員は、最近の内外株価の下落や国際商品市況の乱高下などが市場に不安心理をもたらしていることにも配慮しながら政策を運営していく必要があると述べた。さらに別の委員は、資本設備の経済的陳腐化の影響は次第に薄れつつあるが、現状は投資の限界収益率が極めて低い水準から緩やかに上昇し始めたばかりの段階であるという見方を披露した上で、いつまでもゼロ金利を維持することは不適当である一方、物価上昇率が目立って加速しない限り、物価安定と整合的な金利の上昇テンポは緩やかなものになると指摘した。

IV.政府からの出席者の発言

 財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、景気は回復している。ただし、最近の外国為替相場の大幅な変動や金利、原油価格の上昇に鑑みれば、これらが内外経済に与える影響については、注意深くみていく必要がある。
     一方、物価についての動向を総合すると、デフレについては、まだ脱却したとは言えないものの、少しずつ改善しているものと考えられ、この改善を継続する必要がある。
  •  景気回復を持続的なものとするとともに、デフレから確実に脱却し、逆戻りすることがないよう、引き続き政府・日銀一体となって取り組む必要があり、日本銀行におかれては、いわゆるゼロ金利の継続により、金融面から経済を十分支えて頂きたいと考えている。
  •  また、市場の安定が確保されるような金融政策運営を行って頂きたいと考えている。具体的には、日本銀行当座預金残高の縮減が進み、資金余剰感が減退しつつあるとみられることから、今後の縮減については一層慎重に行って頂きたいと思う。また、長期金利を含めた金利全般に対して十分な目配りをして頂きたいと考えている。さらに、金融政策の先行きに対する憶測で市場が不安定になることのないよう、経済・物価情勢の見方や金融政策の先行きの考え方について、市場や国民への丁寧な説明をお願いする。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は回復している。本日公表した1〜3月の1次QEは、実質成長率は前期比+0.5%、年率+1.9%となり、名目成長率は前期比0.0%、年率+0.2%となった。GDPデフレーターは引き続きマイナスであるなど、物価の動向を総合してみると、改善がみられるものの、緩やかなデフレ状況にある。したがって、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」「構造改革と経済財政の中期展望」「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」といった閣議決定等で繰り返し表明している18年度でのデフレ脱却という政府目標の達成が極めて重要である。
  •  日本銀行におかれては、政府の経済政策の基本方針との整合性を十分考慮頂き、短期金利を概ねゼロ%で推移するよう促し、緩和的な金融環境を維持されている。今後の金融政策運営に際しても、引き続き政府と一体となってデフレ脱却に向けた取り組みを行って頂き、経済活動や物価の下振れリスクや市場の動向にも十分配慮し、責任を持って金融面から経済を支えて頂くことを要望する。また、金融政策運営を巡る先行きの観測から市場が不安定化することのないよう、経済・物価情勢や先行きの見方について一層丁寧にご説明頂き、市場や国民の経済に対する予測可能性を高め、期待を安定化させることを期待する。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す」という現在の金融市場調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、水野委員、西村委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(5月19日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は5月22日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(4月10日、11日)の議事要旨が全員一致で承認され、5月24日に公表することとされた。

以上


(別添)

2006年5月19日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す。

以上