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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2018年4月26、27日開催分)

2018年6月20日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2018年6月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2018年4月26日(14:00~15:21)
 
4月27日( 9:00~11:56)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
原田 泰 (審議委員)
布野幸利 (  審議委員  )
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 可部 哲生 大臣官房総括審議官(26日)
木原 稔 財務副大臣(27日)
 
内閣府 前川 守 内閣府審議官(26日)
越智 隆雄 内閣府副大臣(27日)
(執行部からの報告者)
理事 桑原茂裕
理事 前田栄治
理事 内田眞一
企画局長 加藤 毅
企画局政策企画課長 奥野聡雄
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 関根敏隆
調査統計局経済調査課長 一上 響
国際局長 中田勝紀
(事務局)
政策委員会室長 小野澤洋二
政策委員会室企画役 中本浩信
企画局企画役 田村健太郎
企画局企画役 永幡 崇
企画局企画役 東 将人

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(3月8、9日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、長期国債の買入れ等による資金供給を行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.07~-0.04%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、均してみれば横ばい圏内の動きとなっており、直近では-0.1%台後半で推移している。

株価(日経平均株価)は、軟調な米国株価などを背景に、3月下旬にかけて下落したが、その後は、為替円安の動きもあって上昇傾向を辿り、最近では、22千円台前半で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、米中の通商政策に対する懸念等から一時的に円高となる場面がみられたものの、3月下旬以降は、そうした懸念がやや後退するもとで、円安方向での推移となっている。この間、円の対ユーロ相場も、幾分円安方向で推移している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、総じてみれば着実な成長が続いている。

米国経済は、拡大している。輸出は、増加基調にある。個人消費は、良好な雇用・所得環境などに支えられて増加基調にあるほか、設備投資も、企業マインドの改善などを背景にしっかりと増加している。物価面をみると、インフレ率(PCEデフレーター)は、総合ベース、コアベースともに前年比+1%台半ばで推移している。

欧州経済は、しっかりとした回復を続けている。輸出は、増加基調にある。個人消費は、雇用・所得環境や消費者マインドの改善などに支えられて増加基調にあるほか、設備投資も増加基調にある。物価面をみると、インフレ率(HICP)は、総合ベース、コアベースともに前年比+1%台前半で推移している。この間、英国経済は、物価の上昇が個人消費の重石となっており、回復ペースが鈍化している。

新興国経済をみると、中国経済は、総じて安定した成長を続けている。物価面をみると、インフレ率(CPI)は、前年比+2%程度で推移している。NIEs・ASEANでは、輸出が増加基調にあるもとで、企業・家計のマインドは改善しており、内需は底堅く推移している。ロシアやブラジルの景気は、インフレ率の落ち着きなどを背景に緩やかに回復している。インドの景気は、内需を中心に緩やかに回復している。

海外の金融市場をみると、米中の通商政策に対する懸念などから、3月中旬にかけて、両国を中心に株価が一時下落するなど、投資家のリスクテイク姿勢が慎重化する場面がみられた。もっとも、その後は、投資家の悲観的な見方が和らいだことや、良好な企業決算などを背景に、株価は、先進国を中心に反発した。商品市場では、中東における地政学的リスクの高まりを受けて、原油価格が上昇した。これに伴う予想物価上昇率の上昇などから、4月中旬以降、米国の長期金利は幾分上昇している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。

輸出は、海外経済の着実な成長を背景に、増加基調にある。先進国向けは、振れを均せば増加基調を続けているほか、新興国向けも、アジア向けの資本財や中間財など幅広く持ち直している。先行きの輸出は、資本財や情報関連を中心に、当面、緩やかな増加基調を続ける可能性が高く、その後も、海外経済の成長が続くもとで、基調としては緩やかな増加を続けるとみられる。

公共投資は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。先行きについては、2016年度の大型経済対策の押し上げ効果の減衰に伴い減少はするものの、オリンピック関連工事などが下支えとなり、高めの水準を維持するとみられる。

設備投資は、企業収益や業況感が改善基調を維持する中で、増加傾向を続けている。先行指標である機械受注や建築着工・工事費予定額(民間非居住用)は、月々の振れを伴いつつも、増加基調を続けている。先行きの設備投資は、企業収益の改善や緩和的な金融環境、成長期待の高まりなどを背景に、当面、増加を続けていくとみられる。その後は、資本ストックの調整圧力が高まっていくことから、設備投資の増加ペースは徐々に鈍化していくと見込まれる。

雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も緩やかに増加している。有効求人倍率は着実な改善傾向を辿っているほか、失業率も2%台半ばまで低下している。

個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数をみると、天候などの振れを伴いながらも増加している。先行きの個人消費は、当面は、雇用者所得の増加や既往の株価上昇による資産効果に加え、耐久財の買い替え需要にも支えられて、緩やかな増加傾向を辿るとみられる。その後も、消費税率引き上げに伴い一時的に減少に転じるものの、基調としては、緩やかな増加傾向を続けるとみられる。

住宅投資は、貸家系の新設住宅着工戸数が節税ニーズの需要一巡などを受けて減少するもとで、弱含んで推移している。

鉱工業生産は、内外需要の増加を背景に、増加基調にある。先行きについては、内外需要の増加を反映して、当面はしっかりとした増加を続ける可能性が高く、その後も、海外経済が成長するもとで、基調としては緩やかな増加を続けるとみられる。

物価面について、国内企業物価(夏季電力料金調整後)を3か月前比でみると、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、上昇ペースが鈍化している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、1%程度となっているが、除く生鮮食品・エネルギーでみた前年比は、0%台半ばのプラスにとどまっている。先行きについて、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。

予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。長期金利から中長期の予想物価上昇率を差し引いた実質長期金利は、マイナスで推移している。

企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、大幅に緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いている。資金需要面をみると、設備投資向けなどの資金需要が増加している。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、2%程度のプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、高めのプラスで推移している。企業の資金繰りは、良好である。

この間、マネタリーベースは、前年比で1割程度の高い伸びを続けている。マネーストックの前年比は、3%台前半の伸びとなっている。

II.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、米中の通商政策に対する懸念等を背景に、投資家のリスクテイク姿勢が慎重化する局面もみられたが、3月下旬以降、そうした懸念が幾分後退するとともに、市場は落ち着きを取り戻しつつあるとの認識を共有した。国際金融市場の先行きについて、委員は、米国の経済政策運営などを巡る不透明感は払拭されておらず、これが国際資本フローやわが国の経済・物価に及ぼす影響について、引き続き注視していく必要があるとの認識で一致した。ある委員は、米国の長期金利や信用スプレッドが、何らかの理由によって急上昇・急拡大した場合、米国の低格付け事業法人や新興国経済に影響を及ぼす可能性があるほか、世界的な金融市場の変調のきっかけとなり得るため、警戒していると付け加えた。

海外経済について、委員は、総じてみれば着実な成長が続いているとの認識を共有した。委員は、世界的に活発な貿易活動が継続する中、先進国は着実な改善を続け、新興国も全体として緩やかに回復しているとの見方で一致した。ある委員は、3月のグローバルPMIが、前月比幾分低下したものの、半導体の需給調整に伴う一時的な変動との見方を示した。海外経済の先行きについて、委員は、着実な成長を続けるとの認識で一致した。複数の委員は、このところ、国際機関や中央銀行による主要な国・地域の経済見通しの上方修正が相次いでおり、先行き、堅調な成長が持続する蓋然性が高まっているとの認識を示した。この点に関し、ある委員は、米国では、景気後退の直前に景気が過熱することが多いが、今回の景気回復については、過去に比べて景気の改善テンポは緩やかであり、そうした過熱感はみられないと指摘し、こうした米国の状況が世界的な景気拡大の持続性を高める方向で作用すると述べた。そのうえで、多くの委員は、米国の保護主義的な通商政策とそれに対する他国の反応次第では、当事国の経済のみならず世界経済全体に大きな影響を及ぼし得るため、細心の注意が必要との認識を示した。

地域毎にみると、米国経済について、委員は、実質GDP成長率が高めの伸びを続け、労働市場でも雇用の増加基調が続くなど、拡大しているとの認識で一致した。ある委員は、ISM指数が製造業・非製造業ともに高水準で推移しており、企業の業況感は幅広く改善した状況が続いていると付け加えた。一方で、別のある委員は、乗用車販売が弱含んでいることを指摘したうえで、消費者の購買力に対する金利上昇の影響に注意が必要であると述べた。米国経済の先行きについて、委員は、拡大を続けるとの見方を共有した。一人の委員は、拡張的な財政政策が、先行きの米国経済を押し上げる方向で作用するとの見方を示した。

欧州経済について、委員は、内外需とも増加基調にあり、しっかりとした回復を続けているとの認識を共有した。何人かの委員は、昨年後半からの急速な回復は一服した感があるが、引き続き、製造業・サービス業のPMIが高水準で推移するなど、景気は堅調を維持していると付け加えた。別のある委員は、経済回復を損なわない程度に財政再建のスピードを上手く修正するといった、適切なマクロ経済政策運営が、欧州の景気回復に大きく寄与しているとの見解を示した。欧州経済の先行きについて、委員は、回復を続けるとの見方で一致した。

新興国経済について、委員は、全体として緩やかに回復しているとの認識を共有した。中国経済について、委員は、総じて安定した成長を続けているとの見方で一致した。一人の委員は、輸出が基調として増加しているほか、個人消費も、良好な雇用・所得環境を背景に底堅く推移していると付け加えた。複数の委員は、安定した成長の背景として、経済の変動に対して当局が機動的に対応していることを指摘した。NIEs・ASEANについて、委員は、輸出が増加基調にあるもとで、企業・家計のマインド改善や景気刺激策の効果などから、内需も底堅く推移しているとの見方で一致した。ロシアやブラジルなどの資源国経済について、委員は、インフレ率の落ち着きや金融緩和の効果などを背景に、緩やかに回復しているとの認識を共有した。先行きの新興国経済について、委員は、全体として緩やかな回復を続けるとの認識で一致した。このうち中国経済について、委員は、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。

わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているほか、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるとの見方を共有した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しているとの見方で一致した。委員は、企業部門の動きについて、輸出は増加基調にあるほか、設備投資も、企業収益や業況感が改善基調を維持する中で、増加傾向を続けているとの認識を共有した。また、家計部門についても、委員は、個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しているとの見方を共有した。この間、何人かの委員は、最近の短観や支店長会議における報告を踏まえると、一部の企業では人手不足や部材不足といった供給制約が強まってきている可能性があると指摘した。このうちの一人の委員は、供給制約に直面した企業が生産性向上や能力増強投資に取り組んでいくことは、経済の供給面の拡大を後押しし、長期的な成長力の高まりに繋がっていくと述べた。そのうえで、この委員は、こうした最近の変化は、非効率なビジネス・プロセスなどの過去に生じたヒステリシス(履歴効果)が希薄化する動きと捉えることができると指摘した。別のある委員は、供給制約が次第に強まる中、労働市場改革などの構造面での対応の重要性が増してきていると述べた。

輸出について、委員は、海外経済の成長を背景に、増加基調にあるとの認識を共有した。ある委員は、短観において、海外需給判断DI(製造業・大企業)が約10年ぶりの需要超過となっていることを指摘したうえで、好調な世界経済を背景に、自動車やはん用機械といった裾野の広い業種が景気を牽引していると述べた。先行きの輸出について、委員は、グローバルな製造業の生産・貿易活動が良好な水準を維持するもとで、当面は増加基調を続ける可能性が高く、その後も、海外経済の成長を背景に、基調としては緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。

公共投資について、委員は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しているとの認識で一致した。

設備投資について、委員は、企業収益や業況感が改善基調を維持する中で、増加傾向を続けているとの認識を共有した。複数の委員は、人手不足に対応するための省力化・効率化投資に加え、輸出の増加などを踏まえた能力増強投資も増えているとの見方を示した。ある委員は、実質金利の低下に加え、長期的な成長期待の高まりが、設備投資の増加に繋がっている可能性があると指摘した。先行きの設備投資について、委員は、企業収益の改善や緩和的な金融環境、成長期待の高まりなどを背景に、増加を続けていくとの見方で一致した。一人の委員は、資本ストックの積み上がりなどを背景に、設備投資の増勢は次第に鈍化していくとみられるが、世界的な情報関連財需要の拡大が続く中、企業が必要な資本ストックの水準を上方修正している可能性があると指摘した。ある委員は、生産年齢人口の減少トレンドを踏まえると、省力化・効率化投資の増加傾向は、今後も持続していく可能性が高いとの認識を示した。

雇用・所得環境について、委員は、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も緩やかに増加しているとの認識を共有した。何人かの委員は、失業率が2%台半ばまで低下するなど、労働市場は一段とタイト化していると指摘した。このうちの一人の委員は、企業は、地方を含めて幅広い層に採用の対象を拡げるなど、人材確保に積極的に取り組んでおり、デフレのもとで長らく求職を諦めていた層からの労働参加も増えてきていると述べた。また、今年の春闘について、何人かの委員は、5年連続のベースアップが実現し、かつ伸び率も昨年の実績を上回っていることを前向きに評価するとしたが、このうちの一人の委員は、高水準の企業収益に比べて、期待していたほど賃上げ率は高まらなかったと述べた。

個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しているとの認識を共有した。ある委員は、足もとの消費活動指数は弱めの動きとなっているが、天候不順による生鮮食品価格の高騰など、一時的な要因も影響していると述べた。先行きの個人消費について、委員は、雇用者所得の増加や既往の株価上昇による資産効果に加え、耐久財の買い替え需要にも支えられて、緩やかな増加傾向を辿るとの見方を共有した。一人の委員は、先行き、企業収益が好調を維持すれば、雇用・所得環境の改善が続き、個人消費の増加基調も持続するとの認識を示した。

住宅投資について、委員は、貸家系の新設住宅着工戸数が節税ニーズの需要一巡などを受けて減少していることなどを背景に、弱含んで推移しているとの認識を共有した。

鉱工業生産について、委員は、内外需要の増加を背景に、増加基調にあるとの認識を共有した。先行きの鉱工業生産について、委員は、内外需要の増加を反映して、当面はしっかりとした増加を続け、その後も、海外経済が成長するもとで、基調としては緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は1%程度のプラスとなっている一方、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比については、引き続き、企業の価格引き上げの動きが限定的であることなどから、0%台半ばのプラスにとどまっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、エネルギー価格の影響を除いてみると、物価は、景気の拡大や労働需給の着実な引き締まりに比べて、なお弱めの動きを続けているとの認識で一致した。こうした動きの背景について、委員は、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が、企業や家計に根強く残っていることが影響しているとの認識を共有した。この間、委員は、予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しているとの認識で一致した。一人の委員は、長い目でみれば、予想物価上昇率は少しずつ上向いてきていると思われるが、実際の物価が弱めで推移する中、デフレ心理の払拭やインフレ予想の改善には時間がかかっているとの見方を示した。

2.経済・物価情勢の展望

2018年4月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて、緩やかな拡大を続けるとの見方を共有した。2018年度について、委員は、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、国内需要は増加基調を辿るとの認識を共有した。また、委員は、輸出も、海外経済の着実な成長を背景に、基調として緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。こうした議論を経て、委員は、2018年度は、潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方を共有した。2019年度と2020年度について、委員は、内需の減速を背景に成長ペースは鈍化するものの、外需に支えられて、景気の拡大基調が続くとの認識を共有した。そのうえで、委員は、2018年1月の展望レポートでの見通しと比べると、2019年度までの成長率は、幾分上振れているとの見方で一致した。

2018年度の景気について、委員は、設備投資は、緩和的な金融環境のもとで、景気拡大に沿った能力増強投資、オリンピック関連投資、人手不足に対応した省力化投資を中心に、増加を続けるとの見方を共有した。個人消費についても、委員は、雇用・所得環境の改善が続くもとで、緩やかな増加傾向を辿るとの認識で一致した。公共投資について、委員は、既往の経済対策による押し上げ効果が緩やかに減衰するものの、2017年度補正予算やオリンピック関連需要もあって、高めの水準を維持するとの見方で一致した。2019年度と2020年度について、委員は、個人消費は、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響から一時的に減少に転じるなど、両年度ともに緩やかな増加ペースにとどまるとの認識で一致した。設備投資について、委員は、景気拡大局面の長期化による資本ストックの積み上がりやオリンピック関連需要の一巡などから、2020年度にかけて増勢が徐々に鈍化していくものの、輸出の増加を起点とした投資需要の高まりもあって、増勢鈍化のペースは緩やかなものになるとの認識を共有した。この間、消費税率の引き上げについて、委員は、駆け込み需要とその反動、および実質所得の減少効果の2つの経路を通じて成長率に影響を及ぼすが、下押し効果は、不確実性は大きいものの、2014年度の前回増税時と比べると、小幅なものにとどまるとの見方を共有した。

委員は、実体経済から物価面への波及に関し、景気の拡大や労働需給の着実な引き締まりに比べ、物価が弱めの動きを続けていることについて議論を行った。委員は、企業や家計において、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることが、企業の賃金・価格設定スタンスに影響しているとの認識を共有した。賃金の設定スタンスについて、ある委員は、リーマン・ショック時の企業の厳しい資金繰りの経験などを踏まえ、労働者側にも、リスクに備えた資金の積み上げを優先し、賃上げについては慎重な対応を受け入れるといった姿勢がなお窺われると指摘した。一人の委員は、グローバルに活動する企業のうち、国内よりも海外部門の方が高い生産性を実現している先では、日本での賃上げについて慎重になる傾向がみられると指摘した。企業の価格設定スタンスについて、何人かの委員は、多くの企業において、省力化投資やビジネス・プロセスの見直しを通じた生産性の引き上げにより、賃金コストの上昇を価格に転嫁することを避ける動きが続いていると指摘した。そのうえで、ある委員は、こうした生産性向上に向けた取組みは、わが国経済の長期的な成長力を高め、恒常所得や企業収益の増加期待を通じた需要増加に繋がり得ることから、短期的には物価の上昇圧力を緩和する方向で作用したとしても、そうした状況が長期にわたって続くことは考えにくいと述べた。

この間、何人かの委員は、景気の拡大などに比べて物価が弱めの動きを続けていることについて、日本の場合、フィリップス・カーブが、他国に比べて下方に位置し、かつ、その傾きが非常に緩やかになっている可能性を指摘した。そのうえで、何人かの委員は、2%の「物価安定の目標」を実現するためには、人々の中長期的な予想物価上昇率を引き上げ、フィリップス・カーブそのものを上方にシフトさせることが必要であるとの認識を示した。ある委員は、緩やかながらも需給ギャップと物価の間に一定の関係がみられることを踏まえれば、引き続き、実質金利の引き下げを通じてプラスの需給ギャップを維持していく必要があると述べた。一人の委員は、失業率がさらに低下すれば、いずれフィリップス・カーブに沿って、物価が上がり始める領域に入ってくると考えられるため、それまで、強力な金融緩和をしっかり継続することが大事であるとの見解を示した。

そのうえで、委員は、物価を取り巻く環境に、いくつか前向きの変化もみられてきていることについて議論を行った。多くの委員は、パート時給がはっきりとした上昇基調を続けているほか、仕入価格の上昇などもあって、企業のコスト面からみた価格上昇圧力は、引き続き高まっているとの見方を示した。ある委員は、今年の春闘では、昨年の伸び率を上回る形で5年連続のベアが実現する見込みであるほか、原材料価格の上昇もみられるとしたうえで、3月短観では、中小企業でも27年ぶりに販売価格判断DIがプラスになるなど、コスト増加分を価格に上乗せする動きが徐々に拡がっていると指摘した。複数の委員は、このところ、予想物価上昇率の指標が下げ止まりや一部で上昇を示していることについても、このような実際の価格引き上げの動きが影響しているとの見方を示した。

委員は、物価情勢の先行きについて議論を行った。大方の委員は、消費者物価の前年比は、エネルギー価格上昇の影響を除くとなお弱めの動きが続いているが、先行きについては、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくとの見方を共有した。これらの委員は、2018年1月の展望レポートでの見通しと比べると、2019年度までの物価上昇率は、概ね不変であるとの見方で一致した。

さらに、委員は、消費者物価の前年比が2%に向けて上昇率を高めていくメカニズムについて具体的に議論した。まず、大方の委員は、労働需給の着実な引き締まりや資本稼働率の上昇を背景に、マクロ的な需給ギャップは着実にプラス幅を拡大しているとの見方で一致した。先行きについても、大方の委員は、わが国経済が緩やかな拡大を続けるもとで、マクロ的な需給ギャップは2018年度にプラス幅をさらに拡大し、2019年度から2020年度についても比較的大幅なプラスで推移するとの認識を共有した。次に、大方の委員は、中長期的な予想物価上昇率は上昇傾向を辿り、2%程度に向けて次第に収斂していくとの認識を共有した。これらの委員は、その背景として、(1)「適合的な期待形成」の面では、マクロ的な需給ギャップが改善していく中で、企業の賃金・価格設定スタンスも次第に積極化し、現実の物価上昇率も着実に伸びを高めると考えられること、(2)「フォワードルッキングな期待形成」の面では、日本銀行が「物価安定の目標」の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことを指摘した。

これらの議論に対し、一人の委員は、現在の労働需給の引き締まりは、新たな設備投資や賃金の上昇といった前向きな動きに繋がっている面はあるものの、企業の価格設定スタンスの積極化を通じて現実の物価を押し上げるほど力強いとはいえないほか、「適合的な期待形成」を通じて上昇したトレンドインフレ率が、物価上昇率をさらに高めるという経路の機能度も弱いとの見解を示した。

委員は、経済・物価情勢の先行きの中心的な見通しに対する上振れ・下振れ要因についても議論を行った。まず、実体経済面の上振れ・下振れ要因として、委員は、(1)海外経済の動向、(2)消費税率引き上げの影響、(3)企業や家計の中長期的な成長期待、(4)財政の中長期的な持続可能性、の4点を挙げた。このうち海外経済の動向について、何人かの委員は、米国の経済政策運営や地政学的なイベントが、株価の調整や長期金利の変動などを通じて、世界経済に影響を与え得るリスクには、引き続き注意が必要との見方を示した。この点に関し、何人かの委員は、特に、米国による最近の保護主義的な通商政策の動向やその影響については、しっかりとみていく必要があると指摘した。また、消費税率引き上げの影響について、委員は、駆け込み需要とその反動や実質所得減少の影響は、その時点での消費者マインドや雇用・所得環境、物価の動向によって変化し得るため、不確実性が大きいとの認識を共有した。そのうえで、委員は、経済の見通しについて、2018年度はリスクは概ね上下にバランスしているが、2019年度以降は下振れリスクの方が大きいとの認識で一致した。

次に、物価に固有の上振れ・下振れ要因として、委員は、(1)企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向、(2)マクロ的な需給ギャップに対する価格の感応度が低い品目の存在、(3)今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、の3点を挙げた。このうち、中長期的な予想物価上昇率の動向について、委員は、企業の賃金・価格設定スタンスが積極化してくるまでに時間がかかり、物価が弱めの推移を続ける場合には、予想物価上昇率の高まりが遅れるリスクがあるとの見方で一致した。また、委員は、差別化の難しい財・サービスの価格について、流通形態の変化や規制緩和等によって、競争環境が一段と厳しくなる場合には、物価上昇を抑制する可能性があるとの見方を共有した。そのうえで、委員は、物価の見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に下振れリスクの方が大きいとの認識を共有した。

これらの議論の後、委員は、展望レポートにおける物価の先行きに関する記述について議論を行った。多くの委員は、これまで展望レポートに記載していた2%程度に達する時期は、あくまで先行きの見通しであるが、市場の一部では、これを2%の達成期限と捉えたうえで、その変化を政策変更に結びつけるといった見方も根強く残っていると指摘した。また、何人かの委員は、現実の物価上昇が予想物価上昇率に波及するまでに相応の時間がかかる可能性があるなど、物価の先行きに様々な不確実性がある中にあって、計数のみに過度な注目が集まることは、市場とのコミュニケーションの面からも適当とはいえないとの認識を示した。こうした議論を経て、大方の委員は、2%程度に達する時期が具体的な達成期限ではないことを明確にするため、今回の展望レポートから、そうした時期に関する記述をとりやめることが適当であるとの見解を示した。この間、一人の委員は、展望レポートに2%の達成時期を明記することは、物価上昇率をできるだけ早期に2%にアンカーさせるためのコミットメントとして作用しており、今回の記述の見直しは、その効果を弱めることになりかねないとの懸念を示した。こうした意見を踏まえたうえで、委員は、展望レポートの記述を修正したとしても、これまでどおり、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを目指して政策を運営するという日本銀行の方針は全く変わらないことを、しっかりと説明する必要があるとの認識で一致した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢についての認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

金融政策運営にあたって、大方の委員は、企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっている点は注意深く点検していく必要があるが、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されているとの認識を共有した。この背景として、大方の委員は、(1)マクロ的な需給ギャップが着実に改善していく中で、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるとみられること、(2)中長期的な予想物価上昇率は、このところ横ばい圏内で推移しており、先行き、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、着実に上昇すると考えられること、の2点を挙げた。これらを踏まえ、大方の委員は、現在の金融市場調節方針のもと、強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適切であるとの認識を共有した。多くの委員は、2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があることを踏まえると、今後とも、現在のきわめて緩和的な金融環境を維持していくことが必要であるとの見解を示した。また、一人の委員は、「物価安定の目標」の実現に資するため、現在の金融政策を継続することで、経済の好循環を息長く支えていくべきであると述べた。別のある委員は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは引き続き維持されているが、先行き、「適合的な期待形成」を通じた予想物価上昇率の引き上げには時間がかかる可能性があるため、こうした観点からも、現在の強力な金融緩和を粘り強く継続していくことが重要であるとの考えを述べた。

委員は、金融政策の基本的な運営スタンスについて議論を行った。何人かの委員は、現在の金融緩和政策の効果と副作用について、金融仲介機能や金融システムに及ぼす影響も含めて、多面的な点検・評価を継続していくことが重要であると指摘した。複数の委員は、金融機関の収益動向がその経営体力に及ぼす影響は累積的なものであるため、低金利環境の長期化が金融機関収益や金融仲介機能に及ぼす影響には注意が必要であると述べた。そのうえで、これらの委員を含む何人かの委員は、現状、わが国の金融機関が充実した資本基盤を有していることなどを踏まえると、現時点で、金融仲介機能に大きな問題は生じていないとの見方を示した。この間、複数の委員は、人口動態の変化や技術革新など、金融機関経営に影響を及ぼす構造的な問題と、金融緩和に伴う影響は、区別して分析・議論すべきであるとの認識を示した。

ある委員は、今後、2%に向けて物価が上昇し、経済の成長力が高まるもとでは、金融緩和政策の効果が強まることになるため、需給のバランスや金融システム面への影響にも配慮しながら、適切な政策運営のあり方について予断なく検討していくことが必要であると述べた。また、別のある委員は、強力な金融緩和を継続していくために、金融緩和の持続性を高めることを不断に検討する必要があるとの考えを示した。一人の委員は、最近の社債発行や銀行貸出の動向をみると、長期実質金利の低下に伴う経済・物価への緩和効果が小さくなっている可能性があると指摘したうえで、金融機関の経営体力に対する金融緩和の累積的影響が厳しさを増す中、望ましいイールドカーブの形状についてさらに検証を進めることが重要であると述べた。別のある委員は、市場では金利の早期引き上げを求める声もあるが、実際に金利を引き上げた場合、債券価格と株価が下落するとともに、円高で企業の経営が悪化し、金融機関の収益に大きな悪影響が及ぶ可能性があるとの見方を示した。この間、一人の委員は、現行の金融市場調節方針のもとでは、2020年度までに「物価安定の目標」が実現する可能性は低いと思われるため、追加の金融緩和策によってGDPギャップの更なる拡大を促すとともに、オーバーシュート型コミットメントを強化することを通じて、予想インフレ率の上昇を促すことが必要であると述べた。

委員は、金融政策運営に関する情報発信のあり方についても議論を行った。何人かの委員は、強力な金融緩和を継続していくためには、2%の「物価安定の目標」を実現することの必要性について、人々のコンセンサスを得る努力を続けていくことが必要であると述べた。このうちの一人の委員は、日本銀行の金融政策は、単に物価を上げるためのものではなく、物価の安定を通じて「国民経済の健全な発展に資すること」を目的として実施していることを広く理解してもらうことが重要であると付け加えた。また、ある委員は、現在の金融緩和を息長く続けていく中、金融政策をより効果的なものとしていくためにも、「出口」や「正常化」の意味に関する明確な説明に努めるとともに、経済・物価・金融情勢に応じて柔軟な対応を取り得ることについて、国民の理解を得ていくことが必要であると指摘した。一人の委員は、日本銀行は、「出口」に関する情報発信に消極的であるとの批判を受けることがあるが、これまでも様々な機会をとらえて、「出口」における課題や、その際に活用する各種の政策手段を具体的に説明してきており、こうした批判はあたらないと指摘した。そのうえで、「出口」の際に、実際にどの手段をどの順序で用いるかについては、将来の経済・物価情勢や金利環境によって変わり得るため、現時点で、具体的に説明することは難しく、むしろ、市場の混乱を招きかねないということを、今後とも、丁寧に説明していくことが重要であると述べた。また、ある委員は、現在の政策の要はコミットメントであるとしたうえで、予想インフレ率を2%にアンカーするために、これを強化する手段がないか、更なる研究と議論が望ましいと述べた。

この間、一人の委員は、新体制の発足にあたり、デフレ脱却と持続的な経済成長を実現するために求められる、日本銀行と政府の役割を記した「共同声明」の意義を確認しておくことが重要であると述べた。また、別のある委員は、「物価安定の目標」の達成に向けたリスク要因が顕在化し得る場合には、「共同声明」の理念に則って政府と日本銀行が具体的に行動し、最適な措置を協議・実行することを検討してもよいのではないかと述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。」

これに対し、ある委員は、消費税増税や米国の景気後退など2020年度までのリスク要因を考慮すると、できるだけ早く2%をオーバーシュートする状況を目指すべきであり、そのために10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当であるとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行うこと、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。そのうえで、ある委員は、ETFなどリスク性資産の買入れについては、「物価安定の目標」を実現するための政策パッケージの一要素として行っていることを認識しつつ、その政策効果と考え得る副作用について、あらゆる角度から検討を続けるべきであると述べた。

先行きの金融政策運営の考え方について、大方の委員は、(1)2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、(2)消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する、(3)今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うとの方針を共有した。

これに対し、一人の委員は、「物価安定の目標」の達成時期について明記するとともに、オーバーシュート型コミットメントを強化する観点から、今後、国内要因により達成時期が後ずれする場合には、何らかの追加緩和手段を講じるという新たなコミットメントを導入することが適当であると述べた。

IV.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 先般、黒田総裁の再任にあたり、「共同声明」を堅持することを、改めて、ともに確認させて頂いた。来年10月の消費税率引き上げが可能な経済状況を作るべく、経済・財政運営に万全を期す観点からも、引き続き、「共同声明」を堅持し、政府・日本銀行で緊密に連携しながら、あらゆる政策を総動員して、デフレ脱却と力強い成長を実現していきたいと考えている。
  • 黒田総裁をはじめとする新執行部が、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、引き続き、リーダーシップを発揮されることを期待する。
  • 平成30年度予算は、3月28日に成立した。経済の好循環をより確かなものとし、持続的な経済成長を実現するべく、本予算の迅速かつ着実な執行に取り組んでいく。
  • 日本銀行が、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • この度、再任された黒田総裁、就任された両副総裁におかれては、多様な経験・業績を活かして、内外の期待に応えて頂きたい。
  • わが国の景気は、緩やかに回復しており、先行きも、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。物価動向の判断には、GDPデフレーターを含め、各種物価指標を総合的にみていくことが重要である。
  • 先日、「共同声明」を堅持することが改めて確認された。「共同声明」では、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組みの推進、持続可能な財政構造を確立するための取組みの推進など、政府の役割が定められており、この役割をしっかりと果たしていきたい。
  • 「生産性革命」と「人づくり革命」に、引き続き、全力で取り組んでいく。財政健全化については、プライマリー・バランスの黒字化を目指すという目標自体はしっかりと堅持する。2019年10月1日に消費税率引き上げが予定されているが、その前後の需要変動を平準化する具体策を検討していく。
  • 展望レポートにおける物価安定目標の達成時期の表現変更は適切と考えている。日本銀行としての考え方について、対外的に丁寧に説明して頂きたい。
  • 日本銀行においては、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「共同声明」に基づき、物価安定目標の実現に向けて、金融緩和を着実に推進していくことを期待している。

V.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、 櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
片岡委員

片岡委員は、消費税増税や米国景気後退など2020年度までのリスク要因を考慮すると、金融緩和を一段と強化することが望ましく、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当であるとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2 兆円、約3.2 兆円の残高を維持する、との資産買入れ方針とすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、 櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員
反対:
なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、「物価安定の目標」の達成時期を明記するとともに、オーバーシュート型コミットメントを強化する観点から、国内要因により「物価安定の目標」の達成時期が後ずれする場合には、追加緩和手段を講じることが適当であり、これを公表文中に記述することが必要との意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

VI.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、多数意見が形成された。

議長からは、こうした多数意見を取りまとめるかたちで、「基本的見解」の議案が提出された。

採決の結果、賛成多数で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、4月28日に公表することとされた。なお、片岡委員は、消費者物価の前年比について、見通し期間中に2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いほか、金融緩和のコミットメントを維持する観点から、引き続き、「基本的見解」に2%程度に達する時期を明記すべきとして、関連する記述に反対した。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、 櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
片岡委員

VII.議事要旨の承認

議事要旨(2018年3月8、9日開催分)が全員一致で承認され、5月7日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。」 本文に戻る

別紙

2018年4月27日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。
      2. (2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  2. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:片岡委員。片岡委員は、消費税増税や米国景気後退など2020年度までのリスク要因を考慮すると、金融緩和を一段と強化することが望ましく、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当であるとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、「物価安定の目標」の達成時期を明記するとともに、オーバーシュート型コミットメントを強化する観点から、国内要因により達成時期が後ずれする場合には、追加緩和手段を講じることが適当であり、これを本文中に記述することが必要として反対した。 本文に戻る