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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2019年1月22、23日開催分)

2019年3月20日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2019年3月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2019年 1月22日(14:00~15:26)
 
1月23日( 9:00~11:52)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
原田 泰 (審議委員)
布野幸利 (  審議委員  )
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 茶谷 栄治 大臣官房総括審議官(22日)
うえの 賢一郎 財務副大臣(23日)
 
内閣府 中村 昭裕 内閣府審議官(22日)
田中 良生 内閣府副大臣(23日)
(執行部からの報告者)
理事 前田栄治
理事 内田眞一
理事 池田唯一
企画局長 加藤 毅
企画局審議役 中尾根康宏(22日14:47~15:26)
企画局政策企画課長 奥野聡雄
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 関根敏隆
調査統計局経済調査課長 一上 響
国際局長 中田勝紀
(事務局)
政策委員会室長 小野澤洋二
政策委員会室企画役 山城吉道
企画局企画調整課長 飯島浩太(22日14:47~15:26)
企画局企画役 長野哲平
企画局企画役 東 将人
企画局企画役 法眼吉彦

1.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(2018年12月19、20日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、長期国債の買入れ等による資金供給を行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.07~-0.06%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、短期の円転コスト上昇を背景に海外投資家による短国需要が低下したことなどから、上昇している。

株価(日経平均株価)は、米国株価の下落や米中貿易摩擦を巡る不透明感などを背景に、年末にかけて19千円程度まで下落したが、その後は、米欧株に連れる形で上昇に転じ、最近では20千円台半ばで推移している。為替相場をみると、12月中旬以降、投資家のリスク回避姿勢が強まるもとで、円の対ドル、対ユーロ相場は、ともに円高方向で推移している。特に、市場の流動性が薄くなった年始には、中国経済の減速を示唆する米国企業の決算が材料となる形で、一時的にやや大きく円高方向に振れる場面もあった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、総じてみれば着実な成長が続いている。先行きについては、米中貿易摩擦など最近の様々な動きには注意を要するが、先進国・新興国ともに内需が堅調に推移するもとで、総じてみれば着実な成長を続けるとみられる。

米国経済は、拡大している。輸出は、緩やかな増加基調にある。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられてしっかりとした増加が続いているほか、設備投資も、企業の業況感が足もと低下したものの、改善を続けていることなどから、増加基調にある。物価面をみると、インフレ率(PCEデフレーター)は、総合ベース、コアベースともに、前年比+2%近傍で推移している。先行きの米国経済は、拡張的な財政政策に支えられ、拡大を続けるとみられる。

欧州経済は、減速しつつも回復傾向が続いている。輸出は、持ち直しの動きがみられる。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、総じてみれば増加基調にあるほか、設備投資も増加基調にある。物価面をみると、総合ベースのインフレ率(HICP)は前年比+2%程度、コアベースは同+1%程度で推移している。先行きの欧州経済は、回復傾向を続けるとみられる。この間、英国経済は、雇用・所得環境の改善などを背景に、緩やかな回復傾向にある。

新興国経済をみると、中国経済は、総じて安定した成長を続けている。物価面をみると、インフレ率(CPI)は、前年比+2%台前半で推移している。先行きの中国経済は、米中貿易摩擦や当局による債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみられる。NIEs・ASEANでは、輸出が緩やかな増加基調にあるもとで、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移している。ロシアやブラジルの景気は、インフレ率の落ち着きなどを背景に緩やかに回復している。インドの景気は、内需を中心に緩やかに回復している。

海外の金融市場をみると、米中貿易摩擦や欧州の政治情勢を巡る不透明感に加え、中国の弱めの経済指標なども材料となる形で投資家のリスク回避姿勢が強まり、米欧の長期金利が低下した。株式市場でも、米国株を中心に大幅に下落する場面がみられるなど、振れの大きい展開が続いている。この間、新興国の通貨は、米国の利上げペースが鈍化するとの見方が拡がるもとで、安定的に推移している。商品市場では、原油価格は、産油国が減産を進めるもとで、持ち直している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。先行きについても、緩やかな拡大を続けるとみられる。

輸出は、海外経済が総じてみれば着実な成長を続けていることを背景に、増加基調にある。先進国向けは増加基調を続けているほか、新興国向けも総じてみれば持ち直している。先行きの輸出は、当面、緩やかな増加基調を続ける可能性が高く、その後も、海外経済が総じてみれば着実に成長していくもとで、基調としては緩やかな増加を続けるとみられる。

公共投資は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。先行きについては、オリンピック関連工事に加え、自然災害を受けた補正予算や国土強靱化政策などを背景に、増加するとみられる。

設備投資は、企業収益が高水準で推移し、業況感も良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けている。先行指標である機械受注や建築着工・工事費予定額(民間非居住用)は、月々の振れを伴いつつも、増加基調を続けている。先行きの設備投資は、高水準の企業収益や緩和的な金融環境、成長期待の緩やかな改善などを背景に、当面、増加を続けていくとみられる。その後は、資本ストックの調整圧力が高まっていくことから、設備投資の増加ペースは徐々に鈍化していくと見込まれる。

雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も高めの伸び率となっている。有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高い水準にあるほか、失業率も引き続き低水準で推移している。

個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、7~9月に前期比で増加した後、10~11月の7~9月対比も増加した。先行きの個人消費は、当面は、雇用者所得の増加と既往の株価上昇による資産効果に支えられて、緩やかな増加を続けると見込まれる。その後も、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面もみられるものの、基調としては、緩やかな増加を続けるとみられる。

住宅投資は、貸家系の新設住宅着工戸数が節税ニーズの需要一巡などを受けて振れを伴いながらも減少傾向にある一方、持家と分譲が足もと増加に転じつつあることから、全体として横ばい圏内で推移している。

鉱工業生産は、内外需要の増加を背景に、増加基調にある。先行きについては、内外需要の増加を反映して、当面は増加を続ける可能性が高く、その後も、海外経済が総じてみれば着実に成長するもとで、基調としては緩やかな増加を続けるとみられる。

物価面について、国内企業物価(夏季電力料金調整後)を3か月前比でみると、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、下落している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっており、除く生鮮食品・エネルギーでみた前年比は、足もと0%台前半となっている。先行きについて、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。

予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。長期金利から中長期の予想物価上昇率を差し引いた実質長期金利は、マイナスで推移している。

企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、大幅に緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いている。資金需要面をみると、設備投資向けや企業買収関連などの資金需要が増加している。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、2%台半ばのプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、プラス幅が拡大している。企業の資金繰りは、良好である。

この間、マネタリーベースは、前年比で5%程度の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、2%台半ばの伸びとなっている。

2.貸出支援基金等の今後の取扱い

1.執行部からの説明

貸出増加や成長基盤の強化に向け、金融機関と企業・家計の前向きな行動を引き続き促していくとともに、復興に向けた被災地金融機関の取り組みへの支援を継続する観点から、「貸出増加を支援するための資金供給」、「成長基盤強化を支援するための資金供給」、東日本大震災および熊本地震にかかる「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション」等の措置について、受付期間を1年間延長することとしたい。ついては、「貸出支援基金運営基本要領」の一部改正等を行うこととしたい。

2.委員会の検討・採決

採決の結果、上記案件について全員一致で決定された。本件については、その骨子を対外公表文に記載するとともに、その詳細については、会合終了後、執行部より適宜の方法で公表することとされた。

3.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、多くの委員は、海外経済を巡る不確実性の高まりを背景に、年末から年始にかけて株価が下落し、円高・ドル安の動きが進むなど、内外の金融市場は不安定な動きを続けているとの認識を共有した。ある委員は、株価は実体経済の変化を増幅して伝えるものであるが、最近の株価下落は、中国経済の減速など、世界的な実質成長率の低下をある程度予想していると述べた。一方で、何人かの委員は、足もと株価が幾分回復し、為替相場も一頃より落ち着きを取り戻してきたことを指摘したうえで、主要国の経済のファンダメンタルズに大きな変化がみられないことなどを踏まえると、最近の市場の動きは、先行きの不確実性に対してやや過敏に反応している可能性があるとの認識を示した。そのうえで、何人かの委員は、最近の株式市場の変動が、投資家のリスクセンチメントの悪化を通じて、実体経済に波及することがないか注視していく必要があると指摘した。この間、複数の委員は、米国の利上げペースの鈍化は、一頃懸念された新興国からの資本流出懸念を和らげ、新興国の通貨や株価の安定に繋がる面もあると指摘した。最近の原油価格について、ある委員は、産油国の減産によって幾分持ち直してきているものの、価格が再び上昇トレンドに復するには時間がかかる可能性があると述べた。

海外経済について、委員は、総じてみれば着実な成長が続いているとの認識を共有した。多くの委員は、多くの国で、設備投資が緩やかに増加し、個人消費も堅調に推移するなど、内需は増勢を維持していると述べた。そのうえで、多くの委員は、米国の景気が拡大している一方、欧州と中国経済の減速感が強まっているなど、このところ、地域毎の成長のばらつきがより明確になってきていると指摘した。複数の委員は、グローバルPMIは引き続き50を上回っているが、米中貿易摩擦に対する懸念などから、製造業を中心に低下傾向が続いていることには留意が必要であると述べた。海外経済の先行きについて、委員は、総じてみれば着実な成長を続けるとの見方を共有した。何人かの委員は、先行きの海外経済を巡るリスクは、このところ下方に厚みを増しているが、現時点では、世界経済は拡大基調を続けるというメインシナリオは維持されており、この点は、IMFの最新の見通しなどとも整合的であるとの見方を示した。

経済の現状と先行きを地域毎にみると、米国経済について、委員は、拡大しているとの認識で一致した。何人かの委員は、雇用者数や時間当たり賃金を始め、雇用・所得関連指標がしっかりと推移する中、クリスマス商戦も堅調な結果となるなど、家計部門を中心に景気の拡大が続いていると述べた。ある委員は、12月のISM指数が、11月に続き、製造業・非製造業ともに良好な水準を維持していることからも、米国経済がしっかりと成長していることが窺われると述べた。こうした中、複数の委員は、金利の上昇が続くもとで、自動車販売や住宅市場がこのところ弱含んでいることや、企業の投資活動などに一部頭打ち感を示す指標がみられることには留意が必要であると指摘した。米国経済の先行きについて、委員は、拡張的な財政政策に支えられ、拡大を続けるとの見方を共有した。何人かの委員は、良好な雇用・所得環境を背景に、個人消費を中心に、先行きも堅調さを維持する可能性が高いとの認識を示した。この間、何人かの委員は、不安定な株価や米中貿易摩擦、政府機関の一部閉鎖の長期化が、消費者マインドや企業活動に与える影響などは、よくみていく必要があると指摘した。

欧州経済について、委員は、減速しつつも回復傾向が続いているとの認識を共有した。複数の委員は、自動車の排ガス規制強化に伴う生産の下振れなどもみられるが、設備投資や個人消費など、内需は概ね堅調を維持しているとの認識を示した。欧州経済の先行きについて、委員は、回復傾向を続けるとの認識で一致した。何人かの委員は、英国のEU離脱交渉は未だ着地点がみえないほか、フランス等の政治情勢を巡る不透明な状況も長期化していると指摘したうえで、先行きの不確実性が強まる中、この先、欧州経済の回復基調が維持されるかどうか、注視していく必要があると述べた。

新興国経済について、委員は、全体として緩やかに回復しているとの認識を共有した。中国経済について、委員は、総じて安定した成長を続けているとの見方で一致した。何人かの委員は、これまで進められてきた債務抑制政策の影響もあり、一部の指標で足もと弱めの動きもみられるが、良好な雇用・所得環境を背景に、個人消費は全体として底堅く推移していると指摘した。NIEs・ASEANについて、委員は、輸出が緩やかな増加基調にあるもとで、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移しているとの見方で一致した。資源国経済について、委員は、インフレ率の落ち着きなどを背景に、緩やかに回復しているとの認識を共有した。先行きの新興国経済について、委員は、全体として緩やかな回復を続けるとの認識で一致した。このうち中国経済について、多くの委員は、今後、米中貿易摩擦や当局の債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。この間、一人の委員は、スマートフォン需要の成熟化などから、最近、世界的に半導体需要が伸び悩んでおり、これがアジア諸国の生産や輸出に及ぼす影響を注視していく必要があると指摘した。

わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているほか、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるとの見方を共有した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しているとの見方で一致した。多くの委員は、7~9月の実質GDPは自然災害の影響を主因にマイナス成長となったものの、10~12月は、災害からの復興需要や挽回生産などもあって再びプラス成長が見込まれるなど、昨年夏の自然災害の影響はほぼ解消されたとの認識を示した。ある委員は、わが国経済は、企業部門を中心に拡大を続けているが、昨年秋以降の株価下落など、市場の一部には、先行きに対する悲観的な見方も存在すると指摘した。

輸出の現状について、委員は、自然災害による影響は解消し、海外経済が総じてみれば着実な成長を続けるもとで、増加基調にあるとの認識を共有した。米中貿易摩擦や中国経済の減速がわが国の輸出に及ぼす影響について、多くの委員は、各種指標の動きや企業からのヒアリング情報などを踏まえると、これまでのところ、限定的なものにとどまっているとの認識を示した。先行きの輸出について、委員は、海外経済が総じてみれば着実に成長していくことを背景に、緩やかな増加基調を続けるとの見方で一致した。そのうえで、多くの委員は、支店長会議での報告をみても、中国を中心に、資本財や電子部品などの受注下振れを懸念する企業が増えてきていることから、今後とも、外需の動向をしっかり点検していく必要があると述べた。

公共投資について、委員は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しているとの見解で一致した。先行きの公共投資について、委員は、オリンピック関連需要や自然災害を受けた補正予算の執行、国土強靱化等の支出拡大から、増加するとの認識を共有した。

設備投資について、委員は、企業収益が高水準で推移し、業況感も良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けているとの見方で一致した。多くの委員は、支店長会議においても、多くの企業は、世界経済の先行き不透明感に留意しつつも、前向きな設備投資スタンスを維持しているとの報告が大勢であったとの認識を示した。先行きの設備投資について、委員は、高水準の企業収益や緩和的な金融環境などを背景に、人手不足を背景とする省力化投資を含め、増加を続けていくとの見方で一致した。ある委員は、中国経済の減速の影響からか、先行指標の機械受注や建築着工などに、最近、弱めの動きがみられていることには注意を要すると指摘した。

雇用・所得環境について、委員は、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も高めの伸び率となっているとの認識を共有した。多くの委員は、失業率が2%台半ばの低水準で推移する中、有効求人倍率は、バブル期のピークを超えた高い水準を維持するなど、労働市場は引き続きタイトな状況であると指摘した。ある委員は、多くの中小企業が人材確保に苦戦する中、賃上げ圧力は着実に高まっており、最近では、新卒や若年層の賃金を引き上げる動きも増えてきていると指摘した。

個人消費について、委員は、雇用・所得環境の改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しているとの認識を共有した。先行きの個人消費について、委員は、雇用者所得の増加と既往の株価上昇による資産効果に支えられて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。多くの委員は、10月の消費税率引き上げ時の家計のネット負担額は、教育無償化等の措置が合わせて実施されることなどから、2014年の引き上げ時に比べて小幅なものにとどまるとみられるほか、税率引き上げ前後の需要変動を平準化するための各種施策も、経済への影響を軽減すると考えられるとの認識を示した。一方、ある委員は、消費税率引き上げを控える中で、非耐久財消費が落ち込んだ状態から脱していないほか、消費者態度指数など、個人消費関連のマインド指標が弱含んでいることは心配であると述べた。

住宅投資について、委員は、貸家系の新設住宅着工戸数が減少傾向にある一方、持家と分譲が足もと増加に転じつつあり、全体として横ばい圏内で推移しているとの認識を共有した。

鉱工業生産について、委員は、内外需要が増加する中、自然災害に伴う昨年夏の落ち込みからの挽回生産もあって、増加基調にあるとの認識を共有した。先行きについても、委員は、内外需要の増加を反映して、当面は、増加を続けるとの見方で一致した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっているほか、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比も、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスなどを背景に、0%台前半のプラスにとどまっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、消費者物価の前年比は、プラスで推移しているが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いているとの認識を共有した。一人の委員は、各支店からの報告などを踏まえると、家計の値上げ許容度に明確な改善はみられず、外食などのサービス価格は、期待していたほどには伸びていないと指摘した。別のある委員は、生産性の向上に伴う物価下押し圧力があるもとで、原油価格下落の影響もあり、物価上昇は遅れているとの認識を示した。この間、中長期的な予想物価上昇率の動向について、大方の委員は、横ばい圏内で推移しているとの認識を共有した。一人の委員は、実際の物価が緩やかに上昇してきているにもかかわらず、こうした横ばいの動きが続いていることを踏まえると、わが国の予想物価上昇率は、想定以上に粘着的である可能性が高いとの見方を示した。

2.経済・物価情勢の展望

2019年1月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて、2020年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くとの見方を共有した。委員は、米中貿易摩擦など最近の様々な動きには注意を要するが、先進国・新興国ともに内需が堅調に推移するもとで、海外経済は総じてみれば着実な成長を続けており、わが国の輸出は、基調として緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。国内需要について、委員は、設備投資の循環的な減速や消費税率引き上げの影響を受けつつも、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿るとの認識を共有した。こうした議論を経て、委員は、わが国経済は、先行き、潜在成長率並みの成長を続けるとの見方を共有した。そのうえで、委員は、2018年10月の展望レポートでの見通しと比べると、2018年度については、昨年夏の自然災害の影響などから下振れているが、2019年度、2020年度については、概ね不変であるとの見方で一致した。

続いて、委員は、わが国の物価情勢について議論を行った。まず、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べて物価が弱めの動きを続けている背景について、委員は、基本的には、長期にわたる低成長やデフレの経験などから、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることの影響が大きいとの認識を共有した。こうした要因に加えて、委員は、非製造業を中心とした生産性向上余地の大きさや、近年の技術進歩、女性や高齢者の弾力的な労働供給などは、経済が拡大する中にあっても、企業が値上げに慎重な価格設定スタンスを維持することを可能にしているとの見解で一致した。ある委員は、これまで、企業は労働コストの上昇を生産性の向上で吸収し、消費者に対する価格転嫁を極力見送ってきたが、人手不足感の強まりや原材料費の上昇を背景に、コスト上昇圧力の吸収余地は着実に縮小してきていると述べた。この点に関し、複数の委員は、ここ数年間の物価変動の要因を分析すると、物価が弱い局面においては、企業の生産性向上の動きもさることながら、むしろ為替や需要の変動が影響しているとの見方もあると述べた。

次に、委員は、先行きの物価動向について、議論を行った。大方の委員は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。これらの委員は、2018年10月の展望レポートでの物価見通しと比べると、原油価格の下落を主因として、2019年度を中心に下振れているとの見方で一致した。

さらに、委員は、消費者物価の前年比が2%に向けて徐々に上昇率を高めていくメカニズムを、一般物価の動向を規定する主な要因に基づいて整理した。まず、マクロ的な需給ギャップについて、大方の委員は、労働需給の着実な引き締まりや資本稼働率の上昇を背景に、均してみればプラス幅を拡大してきているとの認識で一致した。また、大方の委員は、先行きの需給ギャップについても、比較的大幅なプラスで推移するとの見方を共有した。次に、中長期的な予想物価上昇率について、大方の委員は、先行き上昇傾向を辿り、2%に向けて次第に収斂していくとの認識を共有した。その背景として、これらの委員は、(1)「適合的な期待形成」の面では、需給ギャップの改善などに伴う現実の物価上昇率の高まりが、予想物価上昇率を押し上げていくと期待されること、(2)「フォワードルッキングな期待形成」の面では、日本銀行が「物価安定の目標」の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことが、予想物価上昇率を押し上げる力になると考えられることを指摘した。何人かの委員は、予想物価上昇率の高まりにはなお時間がかかると見込まれるものの、物価が2%に向けて徐々に上昇していくという方向感に変わりはないとの認識を示した。この間、別のある委員は、需給ギャップの拡大が物価を押し上げにくくなっている可能性があることや、予想物価上昇率が弱めの動きを続けていることなどを踏まえると、現時点では、この先、2%に向けて物価上昇率が伸びを高めていくとは判断できないと述べた。

このほか、日本経済の成長力と物価動向の長期的な関係について、委員は、最近の女性や高齢者の労働参加の高まりや、生産性向上に向けた企業の取り組みは、短期的には、賃金や物価の上昇圧力を弱める方向に作用するが、より長い目でみれば、経済の成長力を強化し、賃金や物価の上昇圧力を高める可能性があるとの見方で一致した。

委員は、経済・物価情勢の先行きの中心的な見通しに対する上振れ・下振れ要因についても議論を行った。まず、経済の上振れ・下振れ要因として、委員は、(1)海外経済の動向、(2)消費税率引き上げの影響、(3)企業や家計の中長期的な成長期待、(4)財政の中長期的な持続可能性の4点を挙げた。委員は、米中間の貿易摩擦の問題や中国経済の減速など、海外経済を巡る下振れリスクはこのところ強まっているとの認識を共有した。多くの委員は、わが国経済に対する米中貿易摩擦の影響は、これまでのところ、限定的なものにとどまっているが、この問題が長期化すれば、貿易活動に対する直接的な下押し圧力に加え、企業マインドの悪化や金融市場の不安定化という経路を通じて、その影響が拡大する可能性があると述べた。中国経済について、何人かの委員は、当局が機動的な政策運営で景気を支える姿勢を明らかにしていることは安心材料であるが、米中貿易摩擦や債務抑制政策の影響を含め、経済が一段と減速するリスクには注意が必要と指摘した。一人の委員は、世界最大の中国の自動車市場を支えるサプライチェーンは、電子部品、鉄鋼、化学など、広域かつ多様な産業に跨っているため、同国の自動車販売のピークアウトは、日本を含むアジアや欧州の経済に大きな影響を与える可能性があると述べた。このほか、多くの委員は、米国のマクロ政策運営が国際金融市場や新興国経済に及ぼす影響、英国のEU離脱交渉が難航し、「合意なき離脱」に追い込まれる可能性や各種の地政学的リスクなども、海外経済を巡るリスク要因として挙げられると述べた。ある委員は、世界経済の下振れリスクが顕在化すれば、各国の財政・金融政策が重要となるが、その政策効果が発現するまでには相応の時間がかかる可能性があるとの見方を示した。こうした議論を経て、委員は、経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に、下振れリスクの方が大きいとの認識で一致した。

次に、物価に固有の上振れ・下振れ要因として、委員は、(1)中長期的な予想物価上昇率の動向、(2)マクロ的な需給ギャップに対する価格の感応度、(3)為替相場の変動や国際商品市況の動向、の3点を挙げた。このうち、中長期的な予想物価上昇率の動向について、委員は、先行き上昇傾向を辿るとみているが、企業の賃金・価格設定スタンスが積極化してくるまでに予想以上に時間がかかり、現実の物価が弱めの推移を続ける場合には、適合的な期待形成を通じて、予想物価上昇率の高まりも遅れるリスクがあるとの見方で一致した。ある委員は、予想物価上昇率が想定以上に粘着的である可能性を踏まえると、賃金・物価の上昇率が高まり、予想物価上昇率が2%にアンカーされるまでには、なお一層時間がかかる可能性があると述べた。こうした議論を経て、委員は、物価の見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に下振れリスクの方が大きいとの認識を共有した。

4.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

金融政策運営にあたって、大方の委員は、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや、値上げに対する家計の慎重な見方が根強い点は注意深く点検していく必要があるが、2%に向けたモメンタムは維持されているとの認識を共有した。この背景として、大方の委員は、(1)マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるとみられること、(2)中長期的な予想物価上昇率は、このところ横ばい圏内で推移しており、先行き、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、徐々に高まると考えられることを挙げた。

続いて、委員は、金融政策の基本的な運営スタンスについて議論を行った。大方の委員は、「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適切であるとの認識を共有した。一人の委員は、「物価安定の目標」の実現に資するため、現在の金融政策の運営方針を継続し、経済の好循環を息長く支えていくべきであると述べた。多くの委員は、物価上昇の原動力であるプラスの需給ギャップができるだけ長く持続するよう、今後とも、経済・物価・金融情勢をバランスよく踏まえつつ、現在の緩和政策を粘り強く続けていくことが必要であると述べた。ある委員は、景気の下振れリスクを警戒する必要はあるが、所得から支出への循環メカニズムが維持されている中にあっては、現在の金融緩和を粘り強く続けることで、実体経済の持続的な改善を支えつつ、物価上昇率が高まっていくのを待つべきであるとの見解を述べた。この点に関し、一人の委員は、「現在の金融緩和を粘り強く続ける」という情報発信は、日本銀行の緩和的な政策スタンスを示すうえで重要であるが、同時に、金融市場において、当面は政策変更がないという予想が過度に固定化されてしまうことを防ぐ工夫も必要であると指摘した。別のある委員は、物価安定目標への到達が遠ざかっている現状を踏まえると、何か大きな危機が起きるまでは行動しないという態度は望ましくなく、むしろ、状況の変化に対しては、追加緩和を含めて迅速、柔軟かつ断固たる対応を取る姿勢を強調するとともに、一部で指摘されている緩和限界論に反論していく必要があると述べた。これに対し、ある委員は、不確実性の高い状況のもとで急いで政策を変更することは、かえって金融不均衡の蓄積や実体経済の振幅拡大に繋がるリスクもあるため、十分に情報を収集・分析したうえで、その時々の状況に応じて適切に対応していくことが大事であるとの認識を示した。この間、複数の委員は、海外経済の下振れリスクが顕在化し、経済・物価情勢が大きく悪化するような場合には、政府との政策連携も一段と重要になるとの見解を述べた。

委員は、昨年7月に決定した「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を含め、金融緩和の効果についても議論を行った。多くの委員は、今後とも、強力な金融政策を続けていくためには、政策の効果と副作用をバランスよく考慮していくことが重要であるが、現時点では、金融緩和の効果が副作用を上回っているという認識を示した。ある委員は、昨年7月に決定した金融市場調節や資産買入れの弾力的な運用は、市場機能の低下という金融緩和に伴う副作用に対処するものではあるが、同時に、昨秋以降の金融市場の不安定な動きを緩和する役割も果たしていると指摘した。この間、ある委員は、イールドカーブ・コントロールは、実質金利を低位に維持することで実体経済の拡大に一定程度貢献しているものの、物価や予想物価上昇率への影響は、これまでのところ限定的であるとの認識を示した。そのうえで、この委員は、長短金利の水準やマネタリーベースと物価上昇率等の関係について、さらなる分析と検討が必要であると指摘した。

委員は、先行きの金融政策運営上の留意点についても議論を行った。一人の委員は、金融機関が保有する国債の残高は、資金調達などの担保として最低限必要な水準に近付きつつあるとしたうえで、日本銀行が既に買い入れてきた長期国債のストックの大きさも踏まえると、現状の国債買入れオペの運営には相応の見直し余地があると考えられると指摘した。何人かの委員は、低金利環境が長期化するもとで、先行き、地域金融機関を中心に、過度なリスクテイクによって収益を確保しようとする動きが拡がる可能性があるとの認識を示した。一人の委員は、金融機関の貸出金利が低位にある中、仮に中小企業の経営が悪化すれば、地域金融機関の信用コストが増加し、その業績に影響が出る惧れがあると述べた。そのうえで、この委員は、地域金融機関の貸出運営が、リスクに見合ったリターンを得る形となっているか、注視していく必要があると指摘した。この間、ある委員は、ここ数年、金融機関の貸出が増加に転じているのは「量的・質的金融緩和」導入の成果であるが、貸出以上に預金が増えているため、金融機関の利鞘は縮小しているとの認識を示した。そのうえで、この委員は、利鞘の改善にとって必要なのは預金の削減であると述べた。

このほか、委員は、先行きの物価動向に関するコミュニケーションのあり方についても議論を行った。多くの委員は、来年度は、原油価格下落の影響に加え、消費税率の引き上げや教育無償化政策、携帯電話通信料の引き下げなど、わが国の物価の大きな変動に繋がり得る要因が幾つも見込まれると指摘した。この点に関し、何人かの委員は、2%に向けたモメンタムを判断するに当たって重視すべきは物価の基調的な動きであるため、物価変動の要因が一時的なショックにとどまる限り、物価の基調や金融政策運営に対する影響は小さいと指摘し、この点を、対外的にもしっかりと説明していく必要があると述べた。もっとも、複数の委員は、個別要因による価格の低下であっても、その拡がり次第では、「適合的な期待形成」のメカニズムを通じて、人々の予想物価上昇率を引き下げ、物価の基調に影響を与える可能性があると指摘した。何人かの委員は、原油価格の下落などは、物価を一時的に下押しするとみられるが、中長期的には、実質所得の増加を通じて、物価の押し上げ要因にもなり得るとの認識を示した。そのうえで、ある委員は、予想物価上昇率の低下を食い止めるためにも、中長期的に予想されるこうしたポジティブな影響についても、丁寧に説明していくことが重要であると指摘した。この間、一人の委員は、先行きの物価見通しを示していくに当たっては、消費税率引き上げと教育無償化政策という制度変更を一つの政策対応として捉えると、物価に対する影響は比較的軽微にとどまると予想されることや、本来、特定の要因を見通しから除外する扱いは限定的とすることが望ましいといった点を考慮する必要があると述べた。そのうえで、委員は、今後は、基本的には、両方の影響を織り込んだ見通し計数を中心に説明していくことが考えられるとの認識を共有した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」

これに対し、ある委員は、長期金利がある程度変動しうるとすることは、政策委員会が決定する金融市場調節方針として曖昧であるため、オペの運営次第では金利が必要以上に上昇し、現在のイールドカーブ・コントロールが想定している効果を阻害するおそれがあるとの意見を述べた。別のある委員は、内外経済を巡る不確実性が増す中、需給ギャップが一本調子で拡大する可能性は低く、原油価格の下落や教育無償化などの要因も2%の達成をさらに遅らせる形で作用することなどを踏まえると、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げ、需給ギャップなどに対する働きかけを強化することが必要であるとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとすること、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、大方の委員は、(1)2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、(2)マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、(3)政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する、(4)今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、政策金利のフォワードガイダンスについて、今後とも、現在のきわめて低い長短金利を維持していくという方針自体は当然のことと考えているが、物価目標との関係がより明確となるガイダンスを導入する方が望ましいと述べた。別の一人の委員は、「物価安定の目標」の早期達成のためには、予想物価上昇率に直接働きかけることが重要であり、そうした観点から、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和を行うことを約束するという、コミットメントの強化策が必要であるとの意見を述べた。

5.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 平成31年度予算は、経済再生と財政健全化を両立する予算となっている。すなわち、本年10月に予定されている消費税率の引き上げを踏まえ、消費税増収分を活用した幼児教育の無償化等を行うとともに、消費税率引き上げによる経済への影響を平準化するための措置を講ずる。一方で、歳出改革の取り組みを継続し、新規国債発行額を前年度よりも約1兆円減額する。毎月勤労統計の再集計については、国民に不利益が生じることがないよう雇用保険等の追加給付を行うこととしているが、そのために必要な経費を計上するため、平成31年度予算の概算決定を変更した。
  • 平成30年度第2次補正予算については、防災・減災、国土強靱化などの喫緊の課題に対応するため、3兆円の歳出の追加等を行っている。経済・財政運営に万全を期すため、平成31年度予算と合わせ、一日も早い成立に向けて取り組んでいきたい。
  • 日本銀行には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国の景気は、緩やかに回復している。先行きについては、雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響や、海外経済の不確実性、金融資本市場の変動の影響等に留意する必要がある。
  • 消費税率引き上げに伴う対応について、今回の引き上げによる経済への影響は2兆円程度であるのに対し、新たな対策として、予算面、税制面で、合わせて2.3兆円程度の措置を講じる。このように、今回は、消費税率引き上げによる経済への影響を十二分に乗り越える対策としたところであり、経済の回復基調に影響が出ないよう経済運営に万全を期していく。
  • 先週の経済財政諮問会議では、アベノミクスをさらに強化していく観点から、経済の好循環の拡大、内外のリスクや変動への対応、Society 5.0時代に相応しい仕組み作り、の3つの課題が提示された。これらの課題解決に向けた方法や優先順位について、今後、経済財政諮問会議の場で重点的に議論していく。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて金融緩和を着実に推進していくことを期待している。

6.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
原田委員、片岡委員

原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性が強まる中、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する、との資産買入れ方針とすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員
反対:
なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、原田委員からは、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとの意見が表明された。また、片岡委員からは、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、多数意見が形成された。

議長からは、こうした多数意見を取りまとめるかたちで、「基本的見解」の議案が提出された。

採決の結果、賛成多数で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、1月24日に公表することとされた。なお、片岡委員は、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして、物価の見通しに関する記述に反対した。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
片岡委員

8.議事要旨の承認

議事要旨(2018年12月19、20日開催分)が全員一致で承認され、1月28日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」 本文に戻る

別紙

2019年1月23日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし1、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
      2. (2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  2. 日本銀行は、「貸出増加を支援するための資金供給」、「成長基盤強化を支援するための資金供給」、東日本大震災および熊本地震にかかる「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション」等の措置について、受付期間を1年間延長することを決定した(全員一致)。
  3. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性が強まる中、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)原田委員は、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る