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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2019年3月14、15日開催分)

2019年5月8日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2019年4月24、25日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2019年3月14日(14:00~16:00)
 
3月15日( 9:00~11:32)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
原田 泰 (審議委員)
布野幸利 (  審議委員  )
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 矢野 康治 大臣官房長
 
内閣府 中村 昭裕 内閣府審議官(14日)
田中 良生 内閣府副大臣(15日)
(執行部からの報告者)
理事 前田栄治
理事 内田眞一
理事 池田唯一
企画局長 加藤 毅
企画局政策企画課長 奥野聡雄
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 関根敏隆
調査統計局経済調査課長 一上 響
国際局長 中田勝紀
(事務局)
政策委員会室長 小野澤洋二
政策委員会室企画役 山城吉道
企画局企画役 東 将人
企画局企画役 稲場広記

1.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(1月22、23日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、長期国債の買入れ等による資金供給を行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.07~-0.02%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、1月末にかけて担保需要の増加等から-0.3%程度まで低下したが、その後は上昇し、直近では-0.14%程度で推移している。

株価(日経平均株価)は、米国株価の上昇や米中通商交渉の進展期待などを背景に上昇し、最近では、21千円程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、投資家のリスク回避姿勢が後退するもとで、幾分円安方向で推移している。円の対ユーロ相場は、欧州経済の先行き不透明感が意識される中、横ばい圏内の動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。先行きについては、景気刺激策の効果などにより、先進国・新興国ともに内需が堅調に推移するもとで、総じてみれば緩やかに成長していくとみられる。

米国経済は、拡大を維持している。輸出は、緩やかな増加基調にある。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて増加しているほか、設備投資も、企業の業況感が足もと低下したものの、改善を続けていることなどから、増加基調にある。物価面をみると、インフレ率(PCEデフレーター)は、総合ベース、コアベースともに、前年比+2%近傍で推移している。先行きの米国経済は、拡張的な財政政策に支えられ、拡大を続けるとみられる。

欧州経済は、減速している。輸出は、増勢が鈍化している。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、総じてみれば増加基調にあるものの、設備投資は、製造業の業況感悪化などを背景に、増勢が鈍化している。物価面をみると、総合ベースのインフレ率(HICP)は前年比+1%台半ば、コアベースは同+1%程度で推移している。先行きの欧州経済は、弱めの動きがみられる製造業部門の調整が進捗することに伴い、次第に減速した状態から脱していくとみられる。この間、英国経済は、EU離脱を巡る不透明感などを背景に、減速している。

新興国経済をみると、中国経済は、総じて安定した成長を続けているが、弱めの動きに拡がりがみられる。物価面をみると、インフレ率(CPI)は、前年比+1%台半ばで推移している。先行きの中国経済は、米中貿易摩擦や当局による債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみられる。NIEs・ASEANでは、輸出の増加基調が一服しているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移している。ロシアやブラジルの景気は、インフレ率の落ち着きなどを背景に緩やかに回復している。インドの景気は、内需を中心に緩やかに回復している。

海外の金融市場をみると、米国の利上げ観測の後退や米中通商交渉の進展期待などから、多くの国で株価が上昇したが、3月入り後は、欧州の経済見通しの下振れや中国の弱めの経済指標を受けて、株価の上昇幅は縮小している。米欧の長期金利は、米国の利上げ観測の後退や欧州経済の減速懸念などから、緩やかに低下している。商品市場では、原油価格は、産油国が減産を継続するもとで、上昇している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、緩やかな拡大を続けるとみられる。

輸出は、足もとでは弱めの動きとなっている。先進国向けは増加基調を続けているものの、新興国向けは足もと弱めの動きとなっている。先行きの輸出は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられる。

公共投資は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。先行きについては、オリンピック関連工事に加え、自然災害を受けた補正予算や国土強靱化政策などを背景に、増加するとみられる。

設備投資は、企業収益や業況感が総じて良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けている。法人企業統計で2018年10~12月の売上高経常利益率をみると、2四半期連続で低下したものの、総じて高い水準を維持している。先行指標である機械受注や建築着工・工事費予定額(民間非居住用)は、月々の振れを伴いつつも、増加基調を続けている。先行きの設備投資は、総じて良好な企業収益や緩和的な金融環境などを背景に、増加を続けていくとみられる。

雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も高めの伸び率となっている。有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高い水準にあるほか、失業率も引き続き低水準で推移している。

個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、10~12月に前期比で増加した後、1月の10~12月対比も増加した。先行きの個人消費は、雇用者所得の増加と株価上昇による資産効果に支えられて、緩やかな増加を続けると見込まれる。

住宅投資は、貸家系の新設住宅着工戸数が節税ニーズの需要一巡などを受けて減少傾向にある一方、持家と分譲が足もと増加に転じつつあることから、全体として横ばい圏内で推移している。

鉱工業生産は、足もとでは弱めの動きとなっているが、緩やかな増加基調にある。先行きについては、内外需要の動向を反映して、緩やかに増加していくとみられる。

物価面について、国内企業物価(夏季電力料金調整後)を3か月前比でみると、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、下落している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっており、除く生鮮食品・エネルギーでみた前年比は、足もと0%台半ばとなっている。先行きについて、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。

予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。長期金利から中長期の予想物価上昇率を差し引いた実質長期金利は、マイナスで推移している。

企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、大幅に緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いている。資金需要面をみると、設備投資向けや企業買収関連などの資金需要が増加している。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、2%台半ばのプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、高めのプラスで推移している。企業の資金繰りは、良好である。

この間、マネタリーベースは、前年比で4~5%程度の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、2%台半ばの伸びとなっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、前回会合以降、米国の利上げ観測の後退や米中通商交渉の進展期待などを背景に、多くの国で株価が上昇したほか、為替市場や債券市場も、総じて落ち着いた動きとなっているとの認識を共有した。もっとも、何人かの委員は、欧州の経済見通しの下振れや中国の弱めの経済指標を受けて、3月入り後、主要国の株価上昇ペースは鈍化し、米欧の長期金利は幾分低下していると指摘した。円の対ドル相場について、複数の委員は、日米金利差の縮小などを円高要因として警戒する声があるが、これまでのところ、市場のリスクセンチメント改善を背景に、円相場は総じて安定した動きを続けているとの認識を示した。この間、ある委員は、最近の日本の株価が海外に比べて伸び悩んでいる背景について、中国関連株の弱さに加え、先行きの円高警戒感も影響している可能性があると述べた。多くの委員は、世界経済を巡る不確実性が高いことを踏まえると、先行き、投資家のリスク回避姿勢が強まり、市場が不安定化する可能性にも留意が必要と指摘した。このほか、原油価格について、ある委員は、昨年の急落後、産油国の減産によって幾分上昇しているものの、以前の水準に戻るには暫く時間がかかる可能性があると述べた。

海外経済について、委員は、減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。何人かの委員は、海外経済は、昨年の秋頃から不透明感が漂い始めていたが、このところ、中国や欧州で弱めの経済指標がみられるほか、グローバルに情報関連財の生産増加が一服しているなど、成長ペースの鈍化が明らかになってきているとの認識を示した。そのうえで、何人かの委員は、米国経済を始め、多くの国で内需が総じて堅調に推移していることを踏まえると、海外経済が、緩やかながら、引き続き成長している姿に変わりはないとの見方を示した。複数の委員は、グローバルPMIの製造業が50に近付いてきている一方、サービス業が高水準を維持していることは、各国における内需の堅調さを裏付けていると付け加えた。海外経済の先行きについて、委員は、先進国・新興国ともに内需が堅調に推移するもとで、総じてみれば緩やかに成長していくとの見方を共有した。多くの委員は、海外経済は、当面、減速の動きが続くものの、その後は、中国の景気刺激策の効果やITサイクルの反転などが期待され、徐々に持ち直していく可能性が高いとの認識を示した。このうちの何人かの委員は、国際会議などでは、世界経済は本年後半にかけて持ち直すとの見方が有力であるが、ITサイクルの動向を始め、この点に関する不確実性は高いと指摘した。このほか、委員は、米中間の貿易摩擦の帰趨や英国のEU離脱交渉の展開、地政学的リスクなどにも引き続き注意が必要であり、海外経済を巡るリスクが、下方に厚い状況が続いているとの認識を共有した。

経済の現状と先行きを地域毎にみると、米国経済について、委員は、拡大を維持しているとの認識で一致した。何人かの委員は、良好な雇用・所得環境のもとで、家計部門を中心に景気の拡大が続いており、この冬の寒波や政府機関の一部閉鎖が消費に及ぼす影響も、総じて限定的なものにとどまっているとの見方を示した。これに対し、別の一人の委員は、米国経済は拡大基調を維持しているものの、中国向け輸出の大幅な減少などから、生産や設備投資の伸びが一服している点は気掛かりであると述べた。米国経済の先行きについて、多くの委員は、拡張的な財政政策に支えられ、拡大を続けるとの見方を共有した。何人かの委員は、利上げに対するFRBの慎重な姿勢が、米国経済の成長を下支えするとの認識を示した。一方、複数の委員は、これまで景気を支えてきた拡張的な財政政策の効果が、本年後半頃から次第に剥落してくる可能性があることには注意が必要であると述べた。

欧州経済について、委員は、減速しているとの認識を共有した。何人かの委員は、個人消費は増加基調を維持しているものの、中国経済減速の影響などから輸出や生産の増勢は鈍化していると指摘した。ある委員は、昨年以降、自動車排ガス規制の強化に伴うドイツの生産減少や、イタリアの財政問題など、経済に対する様々な下押し要因が重なってきたが、欧州中央銀行が今年の経済見通しを大きく引き下げたように、ここにきて欧州経済の減速が明確になっていると述べた。欧州経済の先行きについて、委員は、排ガス規制等の一時的な要因が剥落するもとで、製造業部門の調整が進捗することに伴い、次第に減速した状態から脱していくとの認識で一致した。何人かの委員は、英国のEU離脱交渉の展開など、政治情勢を巡る不透明感の更なる増大が、金融市場の変調や景気の下押しに繋がることがないか、注視していく必要があると述べた。

中国経済について、委員は、総じて安定した成長を続けているが、弱めの動きに拡がりがみられるとの見方で一致した。何人かの委員は、米中貿易摩擦やITセクターの調整が、製造業PMIや輸出入の下押し要因となっているほか、乗用車販売台数など個人消費の一部に弱めの動きがみられると指摘した。中国経済の先行きについて、委員は、今後、米中貿易摩擦や当局の債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。多くの委員は、既に進められている当局の景気刺激策の効果が次第に顕在化してくるほか、IT関連需要の持ち直しも期待されるため、年後半にかけて中国経済の成長ペースは回復してくる可能性が高いと述べた。もっとも、何人かの委員は、企業部門が高水準の債務残高を抱える中、景気刺激策を展開することは、当局にとっても難度の高い政策運営であり、その効果が表れる時期や大きさについては、不確実性が高いと指摘した。

新興国経済について、委員は、全体として緩やかに回復しているとの認識を共有した。NIEs・ASEANについて、委員は、輸出の増加基調が一服しているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移しているとの見方で一致した。先行きの新興国経済について、委員は、中国経済減速の影響を受けつつも、各国の景気刺激策の効果などを背景に、全体として緩やかな回復を続けるとの認識で一致した。複数の委員は、利上げに対するFRBの慎重な姿勢が、国際資本フローの安定化を通じて、新興国経済を下支えするとの見方を示した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しているとの見方で一致した。多くの委員は、昨年10~12月の実質GDPは、災害からの復興需要や挽回生産などもあってはっきりとしたプラス成長となったが、年明け後は、海外経済の減速の影響から、輸出や生産などのハードデータに弱めの動きが現われ始めていると指摘した。何人かの委員は、内閣府が発表した1月の景気動向指数が大幅に低下したが、これについては、指数を構成する生産関連の指標が下落したことなどが影響していると述べた。一方で、多くの委員は、設備投資や個人消費など、内需は堅調な動きを続けており、所得から支出への前向きの循環が働くという景気拡大の基本的なメカニズムに変化は生じていないとの見方を示した。こうした議論を経て、委員は、輸出や生産に弱めの動きがみられるものの、全体としては、「景気は緩やかに拡大している」というこれまでの評価を維持することが適当との認識を共有した。

景気の先行きについて、委員は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、緩やかな拡大を続けるとの見方で一致した。このうち、国内需要について、委員は、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿るとの認識を共有した。そのうえで、多くの委員は、足もとの輸出・生産の弱さが企業の設備投資計画や雇用・所得環境にどのような影響を与えるかについては、3月短観の結果や支店長会議におけるミクロ情報なども踏まえつつ、しっかり点検していく必要があると述べた。この間、一人の委員は、海外経済の下振れリスクが一部顕在化する中、景気の下方への局面変化が進みつつあり、海外経済動向や消費税率引き上げの影響次第では、今後、景気後退への動きが強まっていく可能性があると指摘した。本年10月に予定されている消費税率の引き上げについて、別のある委員は、海外経済の減速がわが国経済に下押し圧力をかける中、先行きの消費に悪影響を及ぼすリスクがあると指摘した。これに対し、何人かの委員は、消費税率引き上げ時の家計のネット負担額は、2014年の引き上げ時に比べて小幅にとどまるとみられるほか、税率引き上げ前後の需要変動を平準化するための各種施策も、経済への影響を軽減し得るとの認識を示した。一人の委員は、教育無償化政策が消費性向の比較的低い世代への所得還元であることや、税の徴収と各種対策のメリットを享受するタイミングが異なることが、先行きの消費活動にどのような影響を及ぼすかといった点も、注視していく必要があると指摘した。

輸出の現状について、委員は、足もとでは弱めの動きとなっているとの認識を共有した。何人かの委員は、中国経済の減速やグローバルなIT関連需要の鈍化などを背景に、1月の実質輸出は大きく減少しており、中でも、中国向けの資本財や情報関連財の落ち込みが目立つと指摘した。先行きの輸出について、委員は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとの見方で一致した。ある委員は、中国の景気対策の効果や米中貿易摩擦の展開次第では、中国向けの製品・部材の輸出だけでなく、インバウンド観光など、外需の面で様々な分野に影響が及ぶと考えられるため、その動向をよくみていく必要があると述べた。

公共投資について、委員は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しているとの見解で一致した。先行きの公共投資について、委員は、オリンピック関連需要や自然災害を受けた補正予算の執行、国土強靱化等の支出拡大から、増加するとの認識を共有した。複数の委員は、これまで予算措置に比べて工事が進んでいないとの指摘もあったが、足もと、先行指標である公共工事受注高が大きく増加していることからみても、今後は、補正予算等の執行が進み、公共投資は拡大していくことが見込まれると述べた。

設備投資について、委員は、企業収益や業況感が総じて良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けているとの認識で一致した。複数の委員は、足もと、機械受注や建築着工が弱めの数字となっていることには留意が必要であるが、人手不足などを背景とした設備投資は引き続き堅調であると述べた。先行きの設備投資について、委員は、総じて良好な企業収益や緩和的な金融環境などを背景に、人手不足を背景とする省力化投資を含め、増加を続けていくとの見方で一致した。複数の委員は、企業収益が頭打ちになる中、先行き、輸出・生産の弱めの動きが長引けば、設備投資にも下押し圧力がかかる可能性があると指摘した。これに対し、ある委員は、一旦能力増強投資を行えば、他の老朽化した工場設備も合わせて更新していく必要があるという企業経営者の声を紹介しつつ、世界経済が多少下振れしたとしても、わが国の設備投資が大きく崩れることはないとみていると述べた。

雇用・所得環境について、委員は、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も高めの伸び率となっているとの認識を共有した。多くの委員は、失業率が2%台半ばの低水準で推移し、有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高い水準を維持するなど、労働市場は引き続きタイトな状況であると指摘した。ある委員は、世界経済の減速が日本経済に下押し圧力をかけているが、これまでのところ雇用の伸びは維持されていると付け加えた。別のある委員は、企業収益が頭打ちとなる中で、賃金の拡大ペースが弱まる可能性があると指摘した。

個人消費について、委員は、雇用・所得環境の改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しているとの認識を共有した。先行きの個人消費について、委員は、雇用者所得の増加と株価上昇による資産効果に支えられて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。ある委員は、最近の海外経済の減速が消費者マインド等に及ぼす影響などには注意を要するが、当面、個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善や消費税率引き上げ前の需要増加などから、堅調に推移する可能性が高いとの見方を示した。

住宅投資について、委員は、貸家系の新設住宅着工戸数が減少傾向にある一方、持家と分譲が足もと増加に転じつつあり、全体として横ばい圏内で推移しているとの認識を共有した。

鉱工業生産について、委員は、足もとでは弱めの動きとなっているが、緩やかな増加基調にあるとの認識を共有した。何人かの委員は、資本財や情報関連財を中心とする輸出の減少が、1月の生産を押し下げているが、堅調な内需が生産全体を下支えしていると指摘した。先行きの生産について、多くの委員は、内外需要の動向を反映して、緩やかに増加していくとの見方を示した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっているほか、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比も、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスなどを背景に、0%台半ばのプラスにとどまっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、消費者物価の前年比は、プラスで推移しているが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いているとの認識を共有した。もっとも、多くの委員は、内需が堅調を維持し、人手不足も続く中、プラスの需給ギャップを起点として、賃金・物価が緩やかに高まるという基本的なメカニズムは引き続き作動しているとの認識を示した。ある委員は、最近、食料工業製品を中心に値上げの報道が増えてきているほか、宿泊料など振れの大きな項目を除いてみると、サービス価格も比較的しっかりとした動きを続けていると述べた。

先行きについて、大方の委員は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。ある委員は、需給ギャップが適度に逼迫するもとで、物価は緩やかにプラス幅の拡大を続けていくとみられるが、賃金の上昇は緩慢であり、原油価格も低迷していることから、「物価安定の目標」の実現には暫く時間がかかるとの見方を示した。複数の委員は、今年の春闘では、大企業のベースアップ率が昨年を幾分下回る水準となるなど、企業の慎重な賃金設定スタンスが窺われると指摘した。これに対し、別の複数の委員は、ベースアップ率は前年に比べて大きく低下してはいないと述べたうえで、今後は、より深刻な人手不足に直面している中小企業の状況も確認できるので、全体として判断していく必要があると指摘した。別のある委員は、物価は、プラスの需給ギャップという上昇圧力と、家計の根強いデフレマインドや生産性上昇などの抑制要因が併存する状況が続いており、先行きを巡る不確実性は高いと指摘した。複数の委員は、輸出や生産の減少が雇用や内需に波及し、物価上昇のモメンタムを弱めることがないか、これまで以上に警戒すべきであるとの認識を示した。

予想物価上昇率について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの見方で一致した。複数の委員は、食料工業製品のように、値上げに向けた取り組みにより、実際に価格引き上げの動きが拡がってくれば、企業や家計の予想物価上昇率も上昇していくことが期待されると指摘した。一人の委員は、消費税率引き上げが予想物価上昇率等を通じて経済・物価に与える影響を注視する必要があると述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているほか、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるとの見方を共有した。

3.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

金融政策運営にあたって、大方の委員は、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや、値上げに対する家計の慎重な見方が根強い点は注意深く点検していく必要があるが、2%に向けたモメンタムは維持されているとの認識を共有した。この背景として、大方の委員は、(1)マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるとみられること、(2)中長期的な予想物価上昇率は、このところ横ばい圏内で推移しており、先行き、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、徐々に高まると考えられることを挙げた。

委員は、金融政策の基本的な運営スタンスについて議論を行った。大方の委員は、「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適切であるとの認識を共有した。一人の委員は、「物価安定の目標」の実現に資するため、現在の金融政策の運営方針を粘り強く続け、経済の好循環を息長く支えていくべきであると述べた。多くの委員は、物価上昇の原動力であるプラスの需給ギャップができるだけ長く持続するよう、経済・物価・金融情勢をバランスよく踏まえつつ、現在の政策のもとで、きわめて緩和的な金融環境を維持していくことが必要であると述べた。ある委員は、当面は、景気動向を慎重に見極めつつ、金融機関や市場機能に与える副作用についてこれまで以上に留意して、現行の金融緩和政策を維持する必要があるとの見解を示した。一人の委員は、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、市場の状況に応じて対応できる一定の柔軟性を有しており、市場環境が変化するもとでも、市場機能に与える副作用を軽減しつつ、緩和的な金融環境を維持しやすい政策であると指摘した。この間、ある委員は、現時点では、内外経済の動向についてデータの蓄積を待つ必要があり、現在の政策を継続することが適当であるが、経済・物価を巡る下方リスクが顕在化しているのであれば、政策対応の準備をしておくべきとの認識を示した。また、ある委員は、低下した予想物価上昇率を再び高めることの難しさなどを考慮すれば、経済・物価情勢の局面変化に際しては、先制的に政策対応することが重要であると述べた。これに対し、ある委員は、2%の実現に向けた経済・物価情勢のメインシナリオは現時点で変わっていないとしたうえで、金融政策は、景気指標の短期的な変動に逐一、機械的に対応するものではなく、こうした基調判断に基づいて運営していく必要があるとの認識を示した。別の一人の委員は、需給ギャップのプラス基調に変調がない中にあっては、現行の緩和政策を維持し、景気動向を慎重に見守ることが適当であるとの意見を述べた。このほか、一人の委員は、足もとの景気や物価動向を考慮すると、消費税率引き上げが経済・物価を下押しするリスクは相応にあると述べたうえで、「物価安定の目標」の早期実現が見通せない中にあっては、財政・金融政策がさらに連携して総需要を刺激することが重要であると指摘した。別のある委員は、ここ数年、わが国経済が緩やかな拡大基調を維持できたのは、金融政策と財政政策による景気下支えが機能したことが大きいとしたうえで、今後とも、金融と財政のポリシーミックスというマクロ経済政策運営の枠組みが維持されることが重要であると述べた。

続いて、委員は、金融政策運営上の情報発信のあり方を巡って議論を行った。多くの委員は、世界経済の先行きを巡る不透明感が高まる中、市場参加者は、これまで以上に中央銀行が発するメッセージに敏感になっているため、日本銀行としても、情報発信のあり方には十分な注意を払う必要があるとの認識を共有した。一人の委員は、先行き、物価上昇のモメンタムが失われる懸念が生じれば、断固とした追加緩和を行うことを強調するとともに、一部で指摘されている緩和限界論には明確に反論すべきであると述べた。この点に関連し、一人の委員は、日本銀行は、これまでも、2%に向けたモメンタムを維持するために必要であれば、様々な緩和手段をとり得ることを具体的に示してきており、今後とも、こうした説明を丁寧に行っていくことが重要であると述べた。そのうえで、この委員は、これまでのところ「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されており、市場の思惑に拍車をかけたり、不安定化させないためにも、こうした基本的な判断を中心に据えたコミュニケーションを行っていくことが必要との認識を示した。別のある委員は、強力な金融緩和を息長く続ける姿勢を示すことにより、市場に対して、他の中央銀行と方向性が変わらないことをしっかりと伝えていくことが大事であると述べた。

委員は、先行きの金融政策運営上の留意点についても議論を行った。一人の委員は、これまで社債市場では、国債金利にスプレッドを上乗せして社債金利が決定されてきたが、国債金利がマイナスとなる中、こうしたプライシングが行われず、金利の絶対値が基準となりつつあると指摘した。そのうえで、こうした実質的なゼロ金利制約があるような状況では、追加的に国債金利が低下しても、これまでと比べ、金融緩和効果は限定的となる可能性があると指摘した。複数の委員は、低金利環境が長期化するもとで、先行き、地域金融機関を中心に、期間収益や自己資本に対する悪影響が少しずつ顕在化する可能性や、収益を確保するために、過度なリスクをとる動きが拡がる可能性に留意する必要があるとの認識を示した。これに対し、ある委員は、長期的に名目金利を上げるには物価上昇率を高めることが必要であり、そのためには、2%の早期実現が近道であると指摘した。そのうえで、この委員は、デフレから完全脱却する前に金融緩和をやめると、むしろ低金利が続いてしまうと付け加えた。一人の委員は、海外投資家の資金が国債市場に流入し、国債の需給が一段とタイト化していることや、金融機関の国債保有額が資金調達の担保等として最低限必要な水準まで近付いている可能性があることを踏まえれば、国債買入れオペの運営には見直し余地があると述べた。この間、一人の委員は、わが国経済の生産性向上のためには、金融業も含むすべての業種で、生産性の高い企業が新規参入し、低い企業が退出するよう、人材の企業間移動を促し、経済の新陳代謝を高める必要があると述べた。そのうえで、この委員は、長期にわたる金融緩和の圧力が、こうした人材移動を妨げていたわが国労働市場の硬直性を打破しており、これは、金融政策が構造改革を促す一例であると指摘した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」

これに対し、ある委員は、長期金利がある程度変動しうるとすることは、政策委員会が決定する金融市場調節方針として曖昧であるため、オペの運営次第では金利が必要以上に上昇し、現在のイールドカーブ・コントロールが想定している効果を阻害するおそれがあるとの意見を述べた。別のある委員は、内外経済を巡る不確実性がさらに強まる中、需給ギャップが一本調子で拡大する可能性が低いことなどを踏まえると、現行の政策を粘り強く続けるのではなく、これまでよりも強力な緩和措置が必要であるとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとすること、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、大方の委員は、(1)2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、(2)マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、(3)政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する、(4)今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、政策金利のフォワードガイダンスについて、今後とも、現在のきわめて低い長短金利を維持していくという方針自体は当然のことと考えているが、物価目標との関係がより明確となるガイダンスを導入する方が望ましいと述べた。別の一人の委員は、「物価安定の目標」の早期達成のためには、予想物価上昇率に直接働きかけることが重要であり、そうした観点から、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和を行うことを約束するという、コミットメントの強化策が必要であるとの意見を述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 先般、平成30年度第2次補正予算が成立した。防災・減災、国土強靱化やTPP協定の早期発効といった喫緊の課題に対応するため、本補正予算を迅速に実施していく。
  • 平成31年度予算については衆議院で可決され、現在、参議院でご審議頂いている。本予算は、消費税の増収分を活用した全世代型社会保障への転換や消費税率引き上げに伴う経済的影響の平準化、防災・減災、国土強靱化といった現下の重要課題に対応するものであり、引き続き緊張感を持って、一刻も早い成立に向けて取り組んでいく。完全雇用に近い状況の一方で、財政余剰とはほど遠い厳しい財政事情のもとにあるが、財務省としては、経済最優先という大方針のもと、アンテナを高く張って堅実な財政健全化、賢明な財政運営に努めていきたい。
  • 日本銀行には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 2018年10~12月期のGDP2次速報は、民需の増加に支えられてプラス成長となったが、中国経済が減速する中で外需寄与度が3四半期連続でマイナスとなったことには注意が必要である。
  • 先行きの景気については、雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響や、中国経済の先行き、海外経済の動向とその政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響等には留意する必要がある。
  • 春闘では、6年連続でベアを実施する企業があるほか、人手不足が顕著な運輸業などでは大幅な賃上げを行う企業もあり、海外経済等のリスクがある中、賃上げに取り組む企業の努力がみられる。
  • 現在国会で審議されている平成31年度予算および関連法の早期成立に努めているが、消費税率引き上げに伴う対応については、制度の更なる詳細の検討など、政府一体となって万全な対応を取っていく。また、先日発効した日EUのEPAは、TPP11とともに、日本経済の新たな成長エンジンとなることが期待される。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて金融緩和を着実に推進していくことを期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
原田委員、片岡委員

原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性がさらに強まる中、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する、との資産買入れ方針とすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員
反対:
なし

6.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)の検討

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、原田委員からは、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとの意見が表明された。また、片岡委員からは、(1)消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとの意見、および、(2)2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.議事要旨の承認

議事要旨(2019年1月22、23日開催分)が全員一致で承認され、3月20日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし 、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」 本文に戻る

別紙

2019年3月15日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし1、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
      2. (2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  2. わが国の景気は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。海外経済は、減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。そうしたもとで、輸出は、足もとでは弱めの動きとなっている。国内需要の面では、企業収益や業況感が総じて良好な水準を維持するもとで、設備投資は増加傾向を続けている。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移している。公共投資も高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、足もとでは弱めの動きとなっているが、緩やかな増加基調にある。労働需給は着実な引き締まりを続けている。わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっている。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。
  3. 先行きのわが国経済は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、緩やかな拡大を続けるとみられる。国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。輸出も、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられる。消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる(注2)
  4. リスク要因としては、米国のマクロ政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、保護主義的な動きの帰趨とその影響、それらも含めた新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなどが挙げられる。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う(注3)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性がさらに強まる中、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、消費者物価の前年比は、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対した。 本文に戻る
  3. (注3)原田委員は、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る