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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2019年6月19、20日開催分)

2019年8月2日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2019年7月29、30日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2019年6月19日(14:00から16:05)
 
6月20日( 9:00から11:38)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
原田 泰 (審議委員)
布野幸利 (  審議委員  )
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 茶谷 栄治 大臣官房総括審議官(19日)
うえの 賢一郎 財務副大臣(20日)
 
内閣府 中村 昭裕 内閣府審議官
(執行部からの報告者)
理事 前田栄治
理事 内田眞一
理事 池田唯一
企画局長 加藤 毅
企画局参事役 奥野聡雄
企画局政策企画課長 飯島浩太
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 関根敏隆
調査統計局参事役 一上 響
国際局長 中田勝紀
(事務局)
政策委員会室長 小野澤洋二
政策委員会室企画役 山城吉道
企画局審議役 藤田研二(19日15:00から16:05)
企画局企画役 東 将人
企画局企画役 稲場広記

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(4月24、25日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、長期国債の買入れ等による資金供給を行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.08から-0.02%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、-0.1%台半ばで概ね横ばい圏内の動きとなっている。

株価(日経平均株価)は、米国の通商政策を巡る不透明感の高まりなどから、6月上旬にかけて下落したが、その後は、米欧株に連れる形で上昇に転じ、最近では、21千円台で推移している。為替相場をみると、投資家のリスク回避姿勢の強まりや米欧の金利低下などを背景に、円の対ドル、対ユーロ相場は、ともに円高方向で推移している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。先行きについては、当面は減速の動きが続くものの、その後は、中国などにおける景気刺激策の効果発現やグローバルなIT関連財の調整の進捗などにより幾分成長率を高め、総じてみれば緩やかに成長していくとみられる。

米国経済は、緩やかに拡大している。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、増加している。輸出は増加基調が一服しているほか、企業の業況感の改善傾向が弱まっていることなどを受けて、設備投資の増加基調は緩やかなものとなっている。物価面をみると、インフレ率(PCEデフレーター)は、総合ベース、コアベースともに、前年比+1%台半ばで推移している。先行きの米国経済は、拡張的な財政政策などに支えられ、緩やかな拡大を続けるとみられる。

欧州経済は、減速している。輸出は、総じてみれば横ばい圏内で推移している。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、総じてみれば増加基調にあるものの、設備投資は、製造業の業況感悪化などを背景に、増勢が鈍化している。物価面をみると、総合ベースのインフレ率(HICP)は前年比+1%台半ば、コアベースは同+1%近傍で推移している。先行きの欧州経済は、製造業部門の調整進捗に伴い、次第に減速した状態から脱していくと予想される。この間、英国経済は、3月末に合意なきEU離脱が行われることを想定した自動車生産の一時休止の影響などから、4月は成長率がマイナスに転化している。

新興国経済をみると、中国経済は、総じて安定した成長を続けているものの、製造業部門では弱さもみられている。物価面をみると、インフレ率(CPI)は、前年比+2%台半ばで推移している。先行きの中国経済は、米中貿易摩擦再燃や当局による債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみられる。NIEs・ASEANでは、輸出の増加基調が一服しているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移している。ロシアやブラジルの景気は、インフレ率の落ち着きなどを背景に、振れを伴いつつも、緩やかに回復している。インドの景気は、個人消費を中心に緩やかに回復している。

海外の金融市場をみると、米国の通商政策を巡る不透明感の高まりなどを背景に、6月上旬にかけて、多くの国で株価が下落したが、その後は、FRBによる利下げ観測の高まりや米国の対メキシコ追加関税措置の実施見送りなどを受けて、株価は上昇に転じている。米欧の長期金利は、投資家のリスク回避姿勢の強まりや、FRBによる利下げ観測の高まりなどから、低下している。商品市場では、原油価格は、米国の通商政策を巡る不透明感の高まりや米国における原油在庫の積み上がりなどを背景に、下落している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している。先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとみられる。

輸出は、弱めの動きとなっている。先進国向けは増加基調を続けているものの、新興国向けは弱めの動きとなっている。先行きの輸出は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられる。

公共投資は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。先行きについては、オリンピック関連工事に加え、自然災害を受けた補正予算や国土強靱化政策などを背景に、増加するとみられる。

企業収益や業況感は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じて良好な水準を維持している。法人企業統計で2019年1から3月の売上高経常利益率をみると、総じて高い水準を維持している。設備投資は、増加傾向を続けている。先行指標である機械受注は、2四半期連続で減少した後、4月の1から3月対比は大きめの増加となったほか、建築着工・工事費予定額(民間非居住用)は、月々の振れを伴いつつも、増加傾向を続けている。先行きの設備投資は、総じて良好な企業収益や緩和的な金融環境などを背景に、緩やかに増加していくとみられる。

雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も増加している。有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高い水準にあるほか、失業率も引き続き低水準で推移している。

個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、1から3月に前期比で小幅に増加した後、4月の1から3月対比も増加した。先行きの個人消費は、雇用者所得の増加と株価上昇による資産効果などに支えられて、緩やかな増加を続けると見込まれる。

住宅投資は、貸家系の新設住宅着工戸数が節税ニーズの一巡などを受けて減少傾向にある一方、持家が増加していることなどから、全体として横ばい圏内で推移している。

鉱工業生産は、弱めの動きとなっている。先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、その後は、基調としては緩やかな増加を続けるとみられる。

物価面について、国内企業物価(夏季電力料金調整後)を3か月前比でみると、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっており、除く生鮮食品・エネルギーでみた前年比は、足もと0%台半ばとなっている。先行きについて、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。

予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。長期金利から中長期の予想物価上昇率を差し引いた実質長期金利は、マイナスで推移している。

企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、大幅に緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いている。資金需要面をみると、設備投資向けや企業買収関連などの資金需要が増加している。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、2%台後半のプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、高めのプラスで推移している。企業の資金繰りは、良好である。

この間、マネタリーベースは、前年比で3から4%程度の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、2%台後半の伸びとなっている。

II.日本銀行適格担保の拡充および成長基盤強化支援資金供給の利便性向上にかかる基本要領の改正等について

1.執行部からの説明

4月の金融政策決定会合において、強力な金融緩和の継続に資する諸措置が決定されたことを踏まえ、日本銀行適格担保の拡充および成長基盤強化支援資金供給の利便性向上にかかる基本要領の改正等を行うこととしたい。

2.委員会の検討・採決

上記を内容とする「『企業および地方公共団体等債務にかかる担保の適格性判定等に関する特則』の制定等に関する件」が採決に付され、全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、米国の通商政策を巡る不透明感の高まりなどを背景に、6月上旬にかけて、多くの国で株価が下落したが、その後は、FRBによる利下げ観測の高まりや、米国の対メキシコ追加関税措置の実施見送りなどを受けて、株価が上昇に転じるなど、市場は落ち着きを取り戻してきているとの認識を共有した。多くの委員は、投資家のリスク回避姿勢の強まりや、FRBによる利下げ観測の高まりなどから、世界的に長期金利は低下しているとの認識を示した。このうち、一人の委員は、こうした状況のもとで、現在、日本は、スイス、ドイツ、デンマークに次いで、主要国の中で4番目に長期金利が低いと付け加えた。複数の委員は、日米金利差の縮小などから、円の対ドル相場は幾分円高・ドル安方向で推移しているものの、ごく最近の市場のリスクセンチメント改善が円高圧力を抑制していると指摘した。ある委員は、貿易摩擦と地政学的な緊張が高まった結果、企業マインドの更なる悪化がみられており、金融市場における投資家心理などにも影響を及ぼしつつあるとの見方を示した。この間、原油価格について、一人の委員は、地政学的リスクの高まりを受けて上昇する場面もみられたが、米国の通商政策を巡る不透明感の高まりなどを背景に、下落傾向にあると指摘した。

海外経済について、委員は、減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。複数の委員は、グローバルな製造業PMIが5月に50を下回り、世界貿易量にも戻りがみられないことから、世界的な製造業部門の調整は続いているとの認識を示した。もっとも、何人かの委員は、良好な雇用・所得環境などに支えられ、多くの国で内需が堅調に推移しており、海外経済の緩やかな成長トレンドは維持されていると指摘した。海外経済の先行きについて、委員は、当面は減速の動きが続くものの、その後は、中国などにおける景気刺激策の効果発現やグローバルなIT関連財の調整の進捗などにより幾分成長率を高め、総じてみれば緩やかに成長していくとの認識を共有した。何人かの委員は、世界経済の持ち直しは、本年後半以降になるとの認識を示した。このうち、一人の委員は、金融市場には神経質な動きもみられるが、世界経済のファンダメンタルズの堅調さは維持されているので、各国の政策対応の効果を見極めることが必要であると付け加えた。別のある委員は、海外経済は急激な減速を今のところ回避できているものの、様々なリスクを抱えている点には注意が必要であると指摘した。何人かの委員は、米中貿易摩擦の影響や、それを含めた中国経済の動向など、海外経済を巡る下振れリスクは依然大きく、前回会合対比でリスクは下方に厚くなっているとの認識を示した。

経済の現状と先行きを地域毎にみると、米国経済について、委員は、緩やかに拡大しているとの認識で一致した。多くの委員は、良好な雇用・所得環境などに支えられて、消費者マインドは堅調に推移しており、個人消費は引き続き増加基調にあると指摘した。複数の委員は、ハードデータをみるとまだ好調を維持しているが、製造業を中心に企業の業況感の改善傾向が弱まっている点は気掛かりであると述べた。米国経済の先行きについて、委員は、拡張的な財政政策などに支えられ、緩やかな拡大を続けるとの見方を共有した。何人かの委員は、5月上旬以降、通商政策を巡る不透明感が再び高まっており、これが企業マインドの悪化や金融市場の不安定化を通じて、米国経済を下押しするリスクには十分に注意する必要があると指摘した。

欧州経済について、委員は、減速しているとの認識を共有した。何人かの委員は、個人消費は総じてみれば増加基調にあるものの、中国経済減速の影響などから、製造業の業況感は悪化が続いており、ドイツを中心に生産は弱めの動きとなっているとの認識を示した。欧州経済の先行きについて、委員は、製造業部門の調整進捗に伴い、次第に減速した状態から脱していくとの認識で一致した。そのうえで、複数の委員は、英国のEU離脱交渉の展開など、欧州の政治情勢を巡るリスクが顕在化すれば、先行き、欧州経済の回復が遅れる可能性や予想よりも大きく減速する可能性があると指摘した。

中国経済について、委員は、総じて安定した成長を続けているものの、製造業部門では弱さもみられているとの見方で一致した。複数の委員は、現時点で、当局の景気刺激策の効果は限定的であり、米中貿易摩擦の影響もあって、景気がはっきりと改善するには至っていないと指摘した。もっとも、中国経済の先行きについて、委員は、米中貿易摩擦再燃や当局による債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。何人かの委員は、景気刺激策の効果が次第に顕在化してくるほか、IT関連財の調整の進捗なども期待されるため、年後半にかけて、中国経済の成長ペースは回復してくる可能性が高いとの認識を示した。もっとも、複数の委員は、当局の景気刺激策の効果には不確実性が大きいほか、米国による追加関税措置の実施など、景気回復を遅らせる材料が散見される点には留意が必要であると述べた。

新興国経済について、委員は、中国経済の減速の影響を受けている面はあるが、全体として緩やかに回復しているとの認識を共有した。NIEs・ASEANについて、委員は、輸出の増加基調が一服しているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移しているとの見方で一致した。先行きの新興国経済について、委員は、中国経済の減速やIT関連財の調整の影響を受けつつも、各国の景気刺激策の効果などを背景に、全体として緩やかな回復を続けるとの認識で一致した。複数の委員は、新興国経済は概ね堅調であるが、中東の地政学的リスクや各国の政治リスクには、引き続き注意が必要であると指摘した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大しているとの認識で一致した。何人かの委員は、1から3月期の実質GDPははっきりとしたプラス成長となったが、これは、輸入の減少が主因であり、個人消費や設備投資といった国内需要の伸びはヘッドラインの印象よりは強くないと指摘した。このうち、複数の委員は、景気ウォッチャー調査などマインド関連指標が低下を続けていることにも注意が必要であると述べた。もっとも、多くの委員は、4月までのハードデータをみると、輸出・生産面の弱さは続いているが、内需は堅調であり、所得から支出への前向きの循環が働くという景気拡大の基本的なメカニズムは維持されているとの見方を示した。

景気の先行きについて、委員は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとの見方で一致した。このうち、国内需要について、委員は、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿るとの認識を共有した。多くの委員は、5月以降、米国の通商政策を巡る不透明感が高まっており、これが設備投資計画や雇用・所得環境に与える影響については、5月以降の経済指標や6月短観の結果、各種のミクロ情報を踏まえつつ、しっかりと点検していく必要があると述べた。そのうえで、委員は、海外経済を巡る下振れリスクは大きいとみられ、わが国の企業や家計のマインドに与える影響を引き続き注視していく必要があるとの認識を共有した。更に、複数の委員は、海外経済の減速が長期化する可能性がある中で、消費税率引き上げがわが国経済を下押しするリスクも懸念されるため、今後の景気動向については慎重にみていく必要があると述べた。

輸出の現状について、委員は、弱めの動きとなっているとの認識を共有した。何人かの委員は、実質輸出が4月に増加した後、5月には大きめの前月比マイナスとなったことに関して、中国経済の減速やグローバルなIT関連需要の鈍化などを背景に、中国向けの資本財や情報関連財の落ち込みが目立つと指摘した。先行きの輸出について、委員は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとの見方で一致した。ある委員は、米中貿易摩擦の再燃などから輸出関連企業の警戒感も高まっており、先行きの動向には注意する必要があると述べた。

公共投資について、委員は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しているとの見解で一致した。先行きの公共投資について、委員は、オリンピック関連需要や自然災害を受けた補正予算の執行、国土強靱化等の支出拡大から、増加するとの認識を共有した。

設備投資について、委員は、企業収益や業況感が、一部に弱めの動きがみられるものの、総じて良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けているとの認識で一致した。複数の委員は、建築着工が増加を続けているほか、弱めとなっていた機械受注も足もと反発しており、設備投資の増加傾向は維持されていると述べた。先行きの設備投資について、委員は、総じて良好な企業収益や緩和的な金融環境などを背景に、緩やかに増加していくとの見方で一致した。そのうえで、委員は、海外経済の不確実性が大きい中で、設備投資がどの程度しっかりしていると考えればよいかという点について議論を行った。複数の委員は、世界経済の不確実性や減速リスクが高まるもとにあっても、人手不足対応の省力化投資や継続的な維持更新投資・研究開発投資などを背景に、設備投資は増加傾向を続けており、これは、海外経済の減速に対するわが国経済の頑健性を示すものであると述べた。これに対し、複数の委員は、設備投資は遅行指標であり、輸出・生産の弱さが長引いたり、米中貿易摩擦などを背景に企業マインドが大きく悪化するような場合には、先行き、設備投資にも下押し圧力がかかる可能性があるため注意が必要であると指摘した。

雇用・所得環境について、委員は、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も増加しているとの認識を共有した。何人かの委員は、失業率が2%台半ばの低水準で推移し、有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高い水準を維持するなど、労働市場は引き続きタイトな状況であると指摘した。一人の委員は、ベースアップが6年連続で実施され、パート時給も上昇を続けるなど、賃金動向は堅調であるとの見方を示した。これに対し、複数の委員は、統計の振れである可能性も否めないが、このところ就業者数や名目賃金の伸びが幾分鈍化していることは気掛かりであると述べた。この間、ある委員は、賃金の伸びの鈍さには、前年のインフレ率をもとに賃金が決定される慣行も影響しており、米国の経済学者が述べているように、公的部門からこうした慣行を見直していくことも、賃金の伸びを高める方法であると指摘した。

個人消費について、委員は、雇用・所得環境の改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しているとの認識を共有した。先行きの個人消費について、委員は、雇用者所得の増加と株価上昇による資産効果などに支えられて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。ある委員は、10月に予定されている消費税率引き上げ前の駆け込み需要が乗用車販売など一部にみられ始めているとの指摘もあるが、駆け込みが発生しにくいサービス消費を含め、幅広い分野で個人消費は底堅い動きを続けているとの認識を示した。もっとも、この委員を含む何人かの委員は、海外経済の減速が消費者マインドに及ぼす影響や消費税率引き上げが消費に与える影響を注意深く点検しつつ、今後、消費の基調をしっかりと見極めていく必要があると指摘した。

住宅投資について、委員は、貸家系の新設住宅着工戸数が減少傾向にある一方、持家が増加していることなどから、全体として横ばい圏内で推移しているとの認識で一致した。

鉱工業生産について、委員は、海外経済に減速の動きがみられるもとで、弱めの動きとなっているとの認識を共有した。先行きの生産について、委員は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、その後は、基調としては緩やかな増加を続けるとの見方を示した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっているほか、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比も、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスなどを背景に、0%台半ばのプラスにとどまっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、消費者物価の前年比は、プラスで推移しているが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いているとの認識を共有した。一人の委員は、プラスの需給ギャップによる物価上昇圧力は維持されているが、企業の省力化投資などに伴う生産性向上による物価抑制効果に打ち消されるかたちで、物価上昇は遅れているとの見方を示した。別のある委員も、コンビニ業界の深夜営業の取り止めなど、企業が値上げではなく、生産性の上昇によりコスト上昇圧力を吸収する事例が数多く存在することで、物価上昇が遅れている可能性があると述べた。また、一人の委員は、わが国では、米中貿易摩擦の影響が大きく、こうしたもとで、2%の「物価安定の目標」からまだ距離があり、物価上昇に加速の動きがみられないことには留意すべきであると指摘した。もっとも、多くの委員は、内需が堅調を維持し、人手不足も続く中、プラスの需給ギャップを起点として、賃金・物価が緩やかに高まるという基本的なメカニズムは引き続き作動しているとの認識を示した。このうち、複数の委員は、日次や週次の物価データをみると、人件費や原材料価格の上昇を背景に食料品等の値上げが拡がっていることが確認できるほか、長期化する労働需給の逼迫がサービス価格の上昇につながるなど、最近の物価動向には底堅さが感じられると指摘した。

先行きについて、大方の委員は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。一人の委員は、物価抑制に寄与している労働生産性の向上は無限には続かないほか、賃金上昇に伴い消費者の値上げ許容度も高まってくるとみられるため、時間はかかるものの、物価上昇率は徐々に高まっていくことが期待されると述べた。ある委員は、今後、物価上昇率を高め、これを維持するためには、労働需給が相応にタイトな状態に維持されるもとで、賃金が更に上昇し、その状態が継続していくことが必要であるとの見方を示した。そのうえで、何人かの委員は、経済の下振れリスクの大きさを考えると、先行き、需給ギャップに変調が生じて物価に影響を及ぼすリスクには注視していく必要があると述べた。このうち、一人の委員は、このところ企業や家計のマインドが慎重化していることが、物価上昇のモメンタムにどのような影響を与えるのか、しっかり点検していく必要があると指摘した。この間、一人の委員は、需給ギャップが一本調子に拡大する可能性は低く、予想物価上昇率も弱い状況が続いていることなどから、この先、物価上昇率が2%に向けて勢いを強めるとは判断できないと指摘した。

予想物価上昇率について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの見方で一致した。複数の委員は、家計の予想物価上昇率がこのところ幾分上昇しているほか、短観の販売価格判断DIがバブル期以来の6四半期連続のプラスとなるなど、家計の値上げ許容度や企業の価格設定スタンスにも変化の兆しがみられているとの認識を示した。一人の委員は、適合的な期待形成が強い中、予想物価上昇率は実際の物価動向に左右されるため、為替相場や原油価格の変動には細心の注意を払う必要があると述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているほか、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるとの見方を共有した。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

金融政策運営にあたって、大方の委員は、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや、値上げに対する家計の慎重な見方が根強い点は注意深く点検していく必要があるが、2%に向けたモメンタムは維持されているとの認識を共有した。この背景として、大方の委員は、(1)マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるとみられること、(2)中長期的な予想物価上昇率は、このところ横ばい圏内で推移しており、先行き、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、徐々に高まると考えられることを挙げた。

委員は、金融政策の基本的な運営スタンスについて議論を行った。大方の委員は、「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適切であるとの認識を共有した。多くの委員は、物価上昇の原動力であるプラスの需給ギャップができるだけ長く持続するよう、経済・物価・金融情勢をバランスよく踏まえつつ、現在の政策のもとで、きわめて緩和的な金融環境を維持していくことが必要であると述べた。一人の委員は、「物価安定の目標」の実現に資するため、現在の金融政策の運営方針を粘り強く続け、経済の好循環を息長く支えていくべきであると指摘した。ある委員は、海外経済の先行きの不確実性は高いが、これまで以上に金融仲介機能や市場機能面への副作用に留意しつつ、現行の金融緩和政策を粘り強く続けることで、「物価安定の目標」の達成を目指すべきであるとの見方を示した。そのうえで、この委員は、従来と同様、今後とも金融と財政のポリシーミックスが維持されることが重要であると付け加えた。この間、一人の委員は、各国中央銀行が世界経済の減速と不確実性の高まりを警戒している中、物価見通しの基調に変調が起きれば何らかの政策対応を行うとの姿勢を維持することが、デフレ脱却のカギであると述べたうえで、追加緩和手段として、長短金利の調整、マネタリーベース拡大ペースの加速、資産購入額の増額等、全ての政策手段を考慮すべきであると指摘した。別のある委員は、米欧で金融緩和期待が高まるなど外部環境が変化する中、日本銀行としても金融緩和を強化する必要があり、幅広い追加緩和オプションの実現可能性や効果と副作用について、更に検討を深めておく必要があると述べた。これに対し、複数の委員は、各国中央銀行は、あくまでも自国の経済・物価の安定を目的として適切な金融政策運営に努めており、日本銀行も、わが国の経済・物価・金融情勢を踏まえ、適切な金融政策運営を行っていく必要があるとの認識を示した。そのうえで、何人かの委員は、従来から対外的にも発信しているように、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために必要と判断される場合には、政策の調整を行うべきであると指摘した。このうち、複数の委員は、その際には、政策の効果と副作用を十分に検討する必要があると付け加えた。

続いて、委員は、先行きの金融政策運営上の留意点について議論を行った。前回会合以降、わが国の長期金利が低下していることに関連して、何人かの委員は、長期金利の変動幅については、従来から「概ね±0.1%の倍程度」を念頭に置いていると指摘したうえで、強力な金融緩和による市場機能への影響を軽減するという観点を踏まえると、金利変動の具体的な範囲を、過度に厳格に捉える必要はなく、今後も、弾力的に対応していくことが適当であるとの認識を示した。複数の委員は、前回会合において強力な金融緩和の継続に資する諸措置を決定したが、今後とも、持続性を高める措置を不断に検討していく必要があると指摘した。この間、複数の委員は、低金利環境が長期化するもとで、先行き、地域金融機関を中心に、収益性が更に低下していく可能性や、収益を確保するために、過度なリスクをとる動きが拡がる可能性には留意する必要があるとの認識を示した。これに対し、複数の委員は、金融システムレポートのヒートマップをみても、赤が点灯したのは不動産業向け貸出のみであり、現時点では、わが国の金融システムは安定性を維持していると評価してよいと指摘した。ある委員は、金融機関によっては、貸出先が限られるもとで預金が集まりやすいという構造的な課題を抱える先もあり、金融システムが将来にわたって安定を確保していくためには、金融機関間の統合・連携といったことも有効な選択肢となり得ると述べた。

このほか、一人の委員は、国債買入れは主として金利の変化を通じて経済・物価に波及しており、金利低下圧力を伴わない量の効果は限定的であるとの見方を示した。また、この委員は、現在の貸出金利の水準は、金融緩和の効果を反転させる「リバーサル・レート」に近付きつつあると述べたうえで、一段と貸出のベースレートが低下した場合には、銀行貸出が減少しかねないほか、中央銀行が金融機関に対してマイナス金利の資金供給を行うことも、経済・金融情勢次第では、銀行貸出の増加にはつながらない惧れがあると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」

これに対し、ある委員は、長期金利がある程度変動しうるとすることは、政策委員会が決定する金融市場調節方針として曖昧であるため、オペの運営次第では金利が必要以上に上昇し、現在のイールドカーブ・コントロールが想定している効果を阻害する惧れがあるとの意見を述べた。別のある委員は、景気の先行きを巡るリスクは下方に厚く、物価情勢も早期の2%の実現が見通せない状況にあることなどを踏まえると、現行の政策を粘り強く続けるのではなく、これまでよりも金融緩和を強化する必要があるとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとすること、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、大方の委員は、(1)2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、(2)マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、(3)政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する、(4)今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、政策金利のフォワードガイダンスについて、物価目標との関係がより明確となるガイダンスを導入する方が望ましいと述べた。別の一人の委員は、「物価安定の目標」の早期達成のためには、予想物価上昇率に直接働きかけることが重要であり、そうした観点から、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和を行うことを約束するという、コミットメントの強化策が必要であるとの意見を述べた。

V.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 現在、「経済財政運営と改革の基本方針2019」、いわゆる「骨太の方針2019」について議論を進めており、21日に取りまとめる方針である。政権交代以降、骨太の方針に沿って、経済の再生と財政の健全化に一体的に取り組んできており、着実に成果を挙げてきたと考えている。今後とも、2025年度の財政健全化目標の実現に向け、「新経済・財政再生計画」に沿って、経済・財政一体改革を推進していきたい。
  • 先日の福岡のG20では、議長国として日本が設定した優先課題について、活発な議論が行われ、G20大阪サミットにつながる大きな成果を得ることができた。特に、世界経済については、様々な下方リスクを抱えながらも、総じて回復していくという見通しと、下方リスクに対処し行動することが必要であるとの認識が共有された。
  • 日本銀行には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気の現状は、中国経済の減速などから輸出や生産の弱さは続いているものの、雇用・所得環境の改善など、内需はしっかりしており、緩やかな回復という景気の基調は変わっていない。先行きは、当面、弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響に一層注意するとともに、中国経済の先行き、海外経済の動向と政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響等に留意する必要がある。
  • 21日に取りまとめる骨太の方針では、グローバルな環境変化を強く意識したうえで、Society 5.0実現の加速を前面に据えており、就職氷河期世代の支援プログラム、最低賃金の引き上げなどの所得向上策、人口減少下での地域の活性化策、地域施策の強化などに特徴がある。財政については、デジタル・ガバメントなど次世代型行政サービスを通じた効率と質の高い行財政改革を中心に位置付けた。当面の経済財政運営としては、来年度予算編成において適切な規模の臨時・特別の措置を講じること、リスクが顕在化する場合には機動的なマクロ経済政策を躊躇なく実行することなどを明記した。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて金融緩和を着実に推進していくことを期待する。

VI.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
原田委員、片岡委員

原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性がさらに強まる中、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する、との資産買入れ方針とすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員
反対:
なし

VII.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)の検討

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、原田委員からは、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとの意見が表明された。また、片岡委員からは、(1)消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとの意見、および、(2)2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

議事要旨(2019年4月24、25日開催分)が全員一致で承認され、6月25日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」 本文に戻る

別紙

2019年6月20日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし1、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
      2. (2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  2. わが国の景気は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している。海外経済は、減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、弱めの動きとなっている。一方、企業収益や業況感は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じて良好な水準を維持しており、設備投資は増加傾向を続けている。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。住宅投資は横ばい圏内で推移している。公共投資も高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。この間、労働需給は着実な引き締まりを続けている。わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっている。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。
  3. 先行きのわが国経済は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとみられる。国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。輸出も、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられる。消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる(注2)
  4. リスク要因としては、米国のマクロ政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、保護主義的な動きの帰趨とその影響、それらも含めた中国を始めとする新興国・資源国経済の動向、IT関連財のグローバルな調整の進捗状況、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなどが挙げられる。こうした海外経済を巡る下振れリスクは大きいとみられ、わが国の企業や家計のマインドに与える影響も注視していく必要がある。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う(注3)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性がさらに強まる中、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、消費者物価の前年比は、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対した。 本文に戻る
  3. (注3)原田委員は、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る