このページの本文へ移動

政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2019年7月29、30日開催分)

2019年9月25日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2019年9月18、19日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2019年7月29日(14:00~15:10)
 
7月30日( 9:00~11:48)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
原田 泰 (審議委員)
布野幸利 (  審議委員  )
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 神田 眞人 大臣官房総括審議官(29日)
うえの 賢一郎 財務副大臣(30日)
 
内閣府 茨木 秀行 大臣官房審議官
(経済財政運営担当)(29日)
田中 良生 内閣府副大臣(30日)
(執行部からの報告者)
理事 前田栄治
理事 内田眞一
理事 池田唯一
企画局長 加藤 毅
企画局政策企画課長 飯島浩太
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 関根敏隆
調査統計局経済調査課長 川本卓司
国際局長 中田勝紀
(事務局)
政策委員会室長 小野澤洋二
政策委員会室企画役 山城吉道
企画局企画役 長野哲平
企画局企画役 東 将人
企画局企画役 長江真一郎

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(6月19、20日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、長期国債の買入れ等による資金供給を行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.08~-0.06%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、-0.1%台前半で概ね横ばい圏内の動きとなっている。

株価(日経平均株価)は、海外株価の動きに振らされつつ幾分上昇し、最近では、21千円台後半で推移している。為替相場をみると、円の対ドル、対ユーロ相場は、ともに概ね横ばい圏内で推移している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。先行きについては、当面は減速の動きが続くものの、その後は、中国などにおける景気刺激策の効果発現やグローバルなIT関連財の調整の進捗などにより幾分成長率を高め、総じてみれば緩やかに成長していくとみられる。

米国経済は、緩やかに拡大している。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、増加している。輸出は増加基調が一服しているほか、企業の業況感の改善傾向が弱まっていることなどを受けて、設備投資は増勢が鈍化している。物価面をみると、インフレ率(PCEデフレーター)は、総合ベース、コアベースともに、前年比+1%台半ばで推移している。先行きの米国経済は、拡張的な財政政策などにも支えられ、緩やかな拡大を続けるとみられる。

欧州経済は、減速している。輸出は、総じてみれば横ばい圏内で推移している。設備投資は、製造業の業況感悪化などを背景に、増勢が鈍化している。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、総じてみれば増加基調にある。物価面をみると、総合ベースのインフレ率(HICP)は前年比+1%台半ば、コアベースは同+1%近傍で推移している。先行きの欧州経済は、製造業部門の調整進捗に伴い、次第に減速した状態から脱していくと予想される。この間、英国経済は、3月末に合意なきEU離脱が行われることを想定した自動車生産の一時休止の影響などから、4~5月は成長率がマイナスに転化している。

新興国経済をみると、中国経済は、総じて安定した成長を続けているものの、製造業部門では弱さもみられている。物価面をみると、インフレ率(CPI)は、前年比+2%台半ばで推移している。先行きの中国経済は、米中貿易摩擦や当局による債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみられる。NIEs・ASEANでは、輸出の増加基調が一服しているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移している。ロシアやブラジルの景気は、インフレ率の落ち着きなどを背景に、振れを伴いつつも、緩やかに回復している。インドの景気は、個人消費を中心に緩やかに回復している。

海外の金融市場をみると、米中首脳会談を受けた通商交渉の進展期待や米欧での金融緩和観測の高まりなどを背景に、先進国を中心に株価が幾分上昇している。米欧の長期金利は、金融緩和を巡る思惑もあって、均してみれば横ばい圏内で推移している。商品市場では、原油価格は、中東情勢を巡る地政学的リスクの高まりなどがみられた一方で、需要軟化の見通しも示される中、振れの大きい展開となっている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している。先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとみられる。

輸出は、弱めの動きとなっている。先進国向けは増加基調を続けているものの、新興国向けは弱めの動きとなっている。先行きの輸出は、当面、海外経済の減速の影響を受けて、弱めの動きが続く可能性が高いものの、その後は、海外経済の成長率の高まりに伴い、緩やかな増加基調に復していくとみられる。

公共投資は、横ばい圏内で推移している。先行指標である公共工事請負金額や公共工事受注高は、足もとでは増加している。先行きについては、オリンピック関連工事に加え、2018年度補正予算の執行や国土強靱化政策などを背景に、増加するとみられる。

企業収益は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じて高水準で推移している。業況感は、やや長い目でみれば良好な水準を維持しているが、製造業を中心にこのところやや弱含んでいる。設備投資は、増加傾向を続けている。資本財総供給は、1~3月にやや大きく減少したものの、4~5月は持ち直している。建設工事出来高(民間非居住用)も、増勢を鈍化させつつも増加基調を続けている。先行きの設備投資は、緩和的な金融環境などを背景に、緩やかに増加していくとみられる。

雇用・所得環境をみると、労働需給は引き締まった状態が続いており、雇用者所得も増加している。有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高い水準にあるほか、失業率も引き続き低水準で推移している。

個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、緩やかに増加している。また、一部では前回増税時よりも小幅ながら消費税率引き上げ前の需要増もみられ始めている。各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数(実質・旅行収支調整済)を形態別にみると、耐久財は、乗用車や白物家電を中心に足もとで増勢がやや強まっており、これには消費税率引き上げ前の需要増も一部影響しているとみられる。先行きの個人消費は、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面も予想されるものの、基調としては、雇用者所得の増加と株価上昇による資産効果などに支えられて、緩やかな増加を続けると見込まれる。

住宅投資は、横ばい圏内で推移している。新設住宅着工戸数をみると、貸家系が節税・資産運用目的の需要減退などを受けて減少している一方、持家や分譲戸建が増加している。

鉱工業生産は、輸出が弱めの動きとなる一方、国内需要が増加していることから、横ばい圏内の動きとなっている。先行きについては、当面、輸出の弱さと国内需要の増加が拮抗し、総じてみれば横ばい圏内の動きとなる可能性が高い。その後は、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面が予想されるものの、海外経済の成長率の高まりに伴い、緩やかな増加に転じていくとみられる。

物価面について、国内企業物価(夏季電力料金調整後)を3か月前比でみると、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、下落している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台半ばとなっており、除く生鮮食品・エネルギーでみた前年比も、足もと0%台半ばとなっている。先行きについて、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。

予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。長期金利から中長期の予想物価上昇率を差し引いた実質長期金利は、マイナスで推移している。

企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、大幅に緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いている。資金需要面をみると、設備投資向けや企業買収関連などの資金需要が増加している。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、2%台半ばのプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、高めのプラスで推移している。企業の資金繰りは、良好である。

この間、マネタリーベースは、前年比で3~4%程度の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、2%台前半の伸びとなっている。

II.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、米中通商交渉の進展期待や米国での利下げ観測、ユーロ圏での追加緩和の思惑等を背景に、一頃と比べれば市場センチメントが改善し、先進国を中心に株価が上昇しているほか、為替相場や長期金利も、総じて落ち着いているとの認識を共有した。複数の委員は、市場は落ち着きつつあるものの、先行きの不透明感が強い状況に変化はなく、投資家センチメントの慎重さを示唆する動きもみられていると述べた。別の複数の委員は、米国株価は、金融緩和期待を背景にこのところ更に上昇しているものの、過熱感に留意が必要であると指摘した。ある委員は、世界的に金利低下が進む中、本邦投資家が過度なリスクテイクを行わないか、動向を注視していると述べた。

海外経済について、委員は、中国や欧州を中心に減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。多くの委員は、グローバル製造業PMIが節目となる50を下回ったことやIMF見通しの下方修正などに言及しつつ、海外経済の減速感が強まっていると指摘した。このうち、複数の委員は、海外経済を巡る不透明感の長期化が、投資行動を含めた企業行動に徐々に影響し始めている点が懸念されると述べた。また、ある委員は、中国における景気刺激策の効果の発現やIT関連財の調整進捗について、前向きな動きがみられているものの、回復に向けた明確な動きとみなすにはまだ力不足であると指摘した。一方、別の一人の委員は、海外経済のファンダメンタルズは、一段と減速が進む状況までは至っておらず、現時点では、各国の景気対策の効果が今後どのように出てくるかを慎重に見極めることが適切であると述べた。海外経済の先行きについて、委員は、当面は減速の動きが続くものの、その後は、中国における景気刺激策の効果発現やグローバルなIT関連財の調整の進捗などを背景に、総じてみれば緩やかに成長していくとの認識を共有した。この点について、複数の委員は、海外経済の持ち直しの時期は、このところの減速感の強まりを踏まえると、後ずれする可能性があると指摘した。このうち、一人の委員は、持ち直しの時期は、わが国の消費税率引き上げには間に合わないとみられるとの見方を示した。こうした議論を踏まえて、委員は、海外経済の下振れリスクは引き続き大きく、特に保護主義的な動きによる影響の不確実性は高まっているとの見方で一致した。

経済の現状と先行きを地域毎にみると、米国経済について、委員は、緩やかな拡大を維持しているとの認識で一致した。多くの委員は、雇用・所得環境は良好であり、個人消費も堅調であるなど、米国経済は底堅いと指摘した。もっとも、何人かの委員は、世界経済の不透明感が強い状況が長期化していることなどを背景に、設備投資関連指標が弱めとなっている点には注意が必要と述べた。この間、何人かの委員は、7月FOMCにおける利下げがほぼ完全に市場に織り込まれていると指摘した。米国経済の先行きについて、委員は、FRBが景気や物価の下振れリスクも意識した金融政策運営を行うもとで、拡張的な財政政策などにも支えられ、拡大を続けるとの見方を共有した。

欧州経済について、委員は、減速しているとの認識を共有した。何人かの委員は、自動車排ガス規制の強化や中国経済減速の影響などから、ドイツを中心に、生産・輸出は弱めの動きとなっているとの認識を示した。欧州経済の先行きについて、委員は、製造業部門の回復に伴い、次第に減速した状態から脱していくとの認識で一致した。何人かの委員は、no deal Brexitとなる可能性を含めて英国のEU離脱交渉を巡る不透明感が強い状況が続いていることもあり、欧州経済を巡っては、回復の遅れが懸念される状況が続いていると述べた。

中国経済について、委員は、総じて安定した成長を続けているものの、製造業部門では弱めの動きもみられているとの見方で一致した。何人かの委員は、インフラ投資資金にもなりうる地方政府の債券発行増加がみられるなど、政府による景気対策の効果が、徐々に発現しつつあると指摘した。中国経済の先行きについて、委員は、今後、米中貿易摩擦や当局による債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。そのうえで、ある委員は、今次局面の景気対策は、民間部門が高水準の債務を抱える中、シャドーバンク規制と両立させる必要があるため、その効果については、注意してみていく必要があると指摘した。

新興国経済について、委員は、各国の景気刺激策の効果などから、全体として緩やかに回復しているとの認識を共有した。NIEs・ASEANについて、委員は、輸出の増加基調が一服しているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移しているとの見方で一致した。先行きの新興国経済について、委員は、IT関連財の調整の影響を受けつつも、各国の景気刺激策の効果などを背景に、全体として緩やかな回復を続けるとの認識で一致した。ある委員は、米欧における金融緩和期待の高まりは、新興国の資金フローを安定化させる方向に作用することで、新興国における金融緩和余地を拡大させる効果があると指摘した。

わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているほか、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるとの見方を共有した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大しているとの見方で一致した。海外経済の減速の影響について、複数の委員は、設備投資や雇用といった、輸出・生産や企業マインド面以外の部分にも波及し始めている可能性を指摘した。もっとも、多くの委員は、これまでのところ、輸出・生産面の弱さが設備投資や個人消費などにはっきりと波及する状況にはなっていないとの見方を示したうえで、所得から支出への前向きの循環が働くという景気拡大の基本的なメカニズムは維持されていると述べた。

輸出の現状について、委員は、足もとでは弱めの動きとなっているとの見方で一致した。委員は、輸出は1~3月期に減少した後、4~6月期は横ばいとなったが、中国を始めとするアジア向けの資本財や情報関連が引き続き減少しており、全体として弱めの動きとなっているとの認識を共有した。先行きの輸出について、多くの委員は、製造業PMIの新規輸出受注の動きなどを踏まえると、当面は、弱めの動きとなるものの、その後は、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくとみられるもとで緩やかな増加基調に復していくとの見方を共有した。

公共投資について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの見解で一致した。先行きの公共投資について、委員は、オリンピック関連工事に加え、2018年度補正予算の執行や国土強靱化政策などを背景に、増加するとの認識を共有した。

設備投資について、委員は、増加傾向を続けているとの見方で一致した。何人かの委員は、6月短観における2019年度の設備投資計画はしっかりとした内容であったほか、支店長会議での報告などによれば、海外需要の変化や景気循環の影響を相対的に受けにくい中長期的な戦略投資や非製造業の投資需要が設備投資を下支えしていると指摘した。もっとも、このうちのある委員は、中国や米国では製造業の設備投資関連指標が弱めとなっており、不確実性の高まりが、これまでのところ堅調さを維持しているわが国の設備投資にも影響を与える可能性がある点に注意が必要であると述べた。また、別の一人の委員は、輸出依存度の高い加工業種の設備投資計画は、海外経済の影響を受けていると指摘した。ある委員は、設備投資実績は景気に遅行する面があり、投資の底堅さは一旦着手した案件を中断することの技術的困難さを表すだけかもしれないと指摘した。先行きの設備投資について、委員は、機械受注などの先行指標の動きを踏まえると、当面、海外経済の減速の影響から幾分減速する可能性があるものの、基調としては、緩和的な金融環境のもとで、能力増強投資、都市再開発投資、省力化投資、成長分野への研究・開発等により緩やかに増加していくとの見方で一致した。

雇用・所得環境について、委員は、労働需給は引き締まった状態が続いており、雇用者所得も増加しているとの認識を共有した。複数の委員は、労働参加率の上昇の動きが、どこかで頭打ちになれば、これまで賃金上昇圧力を緩和していた要因が後退し、賃金上昇圧力が一段と高まることになるため、今後の労働参加率の動きに注目していると述べた。別の複数の委員は、景気ウォッチャー調査の雇用関連DIの低下や、新規有効求人数の減少は、雇用環境の変調の兆しである可能性があり、注意が必要と指摘した。このうち、一人の委員は、求人数の減少は製造業の寄与が大きく、海外経済減速の影響が波及している可能性があると述べた。

個人消費について、委員は、雇用・所得環境の改善を背景に、緩やかに増加しているとの認識で一致した。また、委員は、前回増税時よりも小幅ながら、自動車や家電など、一部で消費税率引き上げ前の需要増がみられ始めているとの認識を共有した。先行きの個人消費について、委員は、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面もみられるものの、雇用・所得環境の改善が続く中、株価上昇による資産効果もあって、緩やかな増加傾向を続けるとの見方で一致した。複数の委員は、負担軽減策の効果や消費者マインドへの影響を含め、消費税率引き上げ前後の消費動向については注意深く点検していく必要があると述べた。

住宅投資について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの認識で一致した。また、委員は、住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数をみると、貸家系が減少している一方、持家や分譲戸建が足もと増加しているとの認識を共有した。

鉱工業生産について、委員は、輸出は弱めの動きとなる一方、国内需要が増加していることから、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。先行きの生産について、委員は、当面、輸出の弱さと国内需要の増加が拮抗するもとで総じてみれば横ばい圏内で推移し、その後は、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面が予想されるものの、海外経済の成長率の高まりに伴い、緩やかな増加に転じていくと見込まれるとの認識で一致した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台半ばとなっているほか、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比も、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスなどを背景に、0%台半ばのプラスにとどまっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、消費者物価の前年比は、プラスで推移しているが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いているとの認識を共有した。ある委員は、国内企業物価が前年比マイナスに転じており、海外経済の弱さが企業物価に影響を及ぼしてきている可能性があると指摘した。もっとも、大方の委員は、内需が堅調を維持し、人手不足も続く中、プラスの需給ギャップを起点として、賃金・物価が緩やかに高まるという基本的なメカニズムは引き続き作動しているとの認識を示した。このうち、ある委員は、人件費等の上昇を背景に食料品等の値上げが拡がっていると指摘した。

2.経済・物価情勢の展望

2019年7月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くとの見方を共有した。わが国の輸出について、委員は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくもとで、基調としては緩やかに増加していくとの見方で一致した。国内需要について、委員は、当面、設備投資が幾分減速すると見込まれるが、その後は、消費税率引き上げの影響を受けつつも、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿るとの認識を共有した。こうした議論を経て、委員は、わが国経済は、先行き、均してみれば、潜在成長率並みの成長を続けるとの見方を共有した。そのうえで、委員は、2019年4月の展望レポートでの見通しと比べると、見通し期間の成長率は、概ね不変であるとの見方で一致した。

続いて、委員は、わが国の物価情勢について議論を行った。まず、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べて物価が弱めの動きを続けている背景について、委員は、基本的には、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることの影響が大きいとの認識を共有した。この点について、複数の委員は、労使ともに雇用を重視する姿勢が強いことなどから、わが国では賃金引き上げに対する抵抗感が根強いと述べた。加えて、委員は、企業の生産性向上によるコスト上昇圧力の吸収に向けた取り組みや、近年の技術進歩、弾力的な労働供給などは、経済が拡大する中にあっても、企業が値上げに慎重な価格設定スタンスを維持することを可能にしているとの見解で一致した。この点に関し、ある委員は、宿泊業において全国的に休業日を設ける動きが拡がるなど、就労条件を改善しつつ営業日における稼働率を高める試みがみられているとしたうえで、こうした取り組みは、労働生産性の上昇を通じて、結果的に物価上昇を抑制する面があると指摘した。

次に、委員は、先行きの物価動向について、議論を行った。大方の委員は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。これらの委員は、2019年4月の展望レポートでの見通しと比べると、見通し期間中の物価上昇率は、概ね不変であるとの見方で一致した。

更に、委員は、消費者物価の前年比が2%に向けて徐々に上昇率を高めていくメカニズムを、一般物価の動向を規定する主な要因に基づいて整理した。まず、マクロ的な需給ギャップについて、大方の委員は、引き締まった状態にある労働需給や高水準の資本稼働率を反映して比較的大幅なプラスとなっており、先行きもそうした状態を維持するとの見方を共有した。このうち、ある委員は、マクロ的な需給は適度な逼迫感を継続していくものの、消費者物価の前年比上昇率の拡大は緩やかなものに留まるとみられ、「物価安定の目標」の実現には暫く時間がかかると見込まれると述べた。また、別の一人の委員は、生産性向上のための投資が今後も続くとみられることを踏まえると、先行きも物価が上がりにくい状況が続くと予想されると述べた。次に、中長期的な予想物価上昇率について、大方の委員は、先行き上昇傾向を辿り、2%に向けて次第に収斂していくとの認識を共有した。その背景として、これらの委員は、(1)「適合的な期待形成」の面では、現実の物価上昇率の高まりが、予想物価上昇率を押し上げていくと期待されること、(2)「フォワードルッキングな期待形成」の面では、日本銀行が「物価安定の目標」の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことが、予想物価上昇率を押し上げていく力になると考えられることを指摘した。このうち、ある委員は、家計のインフレ予想や値上げ許容度が高まりつつあるなど、物価の基調としてのモメンタムは徐々に高まってきているため、この流れを大切に育てていくことがきわめて重要な局面であると述べた。これに対し、一人の委員は、需給ギャップが更に拡大する状況にはないほか、予想物価上昇率が弱めの動きを続けていることなどから、この先、2%に向けて物価上昇率が伸びを高めていくとは判断できないと述べた。

委員は、経済・物価情勢の先行きの中心的な見通しに対する上振れ・下振れ要因についても議論を行った。まず、経済の上振れ・下振れ要因として、委員は、(1)海外経済の動向、(2)消費税率引き上げの影響、(3)企業や家計の中長期的な成長期待、(4)財政の中長期的な持続可能性の4点を挙げた。委員は、米中間の貿易問題を始めとする保護主義的な動きの帰趨やその影響、それを含めた中国経済の動向、ITサイクルの調整が想定以上に長引く可能性など、海外経済を巡る下振れリスクは大きく、特に保護主義的な動きによる影響の不確実性は高まっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、こうした海外経済を巡る不透明感が、わが国の企業や家計のマインドに与える影響を注視していく必要があるとの認識を共有した。何人かの委員は、海外経済を中心にリスクは下方に厚くなっており、これが顕在化するタイミングが消費税率引き上げと重なることで、わが国経済への悪影響が大きくなるリスクには注意が必要であると述べた。このうち一人の委員は、こうしたリスクが顕現する場合には、景気後退に向かう可能性が相応にあると述べた。このほか、多くの委員は、米国のマクロ政策運営が国際金融市場や新興国経済に及ぼす影響、英国のEU離脱交渉の展開、各種の地政学的リスクなども、海外経済を巡るリスク要因として挙げられると述べた。こうした議論を経て、委員は、経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に、下振れリスクの方が大きいとの認識で一致した。

次に、物価の上振れ・下振れ要因について、委員は、これまで議論したように、経済のリスク要因については、特に海外経済を巡る下振れリスクが大きく、これが顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶ可能性があるとの認識で一致した。また、委員は、このほか、物価に固有の上振れ・下振れ要因として、(1)中長期的な予想物価上昇率の動向、(2)マクロ的な需給ギャップに対する価格の感応度、(3)為替相場の変動や国際商品市況の動向、の3点を挙げた。このうち、中長期的な予想物価上昇率の動向について、委員は、先行き上昇傾向を辿るとみているが、企業の賃金・価格設定スタンスが積極化してくるまでに予想以上に時間がかかり、現実の物価が弱めの推移を続ける場合には、適合的な期待形成を通じて、予想物価上昇率の高まりも遅れるリスクがあるとの見方で一致した。こうした議論を経て、委員は、物価の見通しについては、経済の下振れリスクに加えて、中長期的な予想物価上昇率の動向の不確実性などから下振れリスクの方が大きいとの認識を共有した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

金融政策の基本的な運営スタンスについて、大方の委員は、経済・物価の下振れリスクには留意が必要であり、「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けるもとで、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適切であるとの認識を共有した。多くの委員は、プラスの需給ギャップができるだけ長く持続するよう、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、現在の政策のもとで、きわめて緩和的な金融環境を維持していくことが必要であると述べた。ある委員は、わが国の金融緩和の度合いは、政策金利に加え、量的緩和やフォワードガイダンスによる効果も含めて考えると、既に欧米以上に強力なものになっているとみられるため、更なる緩和が必要かどうかについては慎重な検討が必要であり、少なくとも足もとにおいては、可能な限り現在のきわめて強力な金融緩和を粘り強く継続していくことが重要であるとの見方を示した。別のある委員は、仮に、今後海外経済が一段と悪化し、わが国の経済・物価に悪影響を与える場合には、金融・財政のポリシーミックスの中で迅速に政策対応を行うべきだが、当面は金融システム面への副作用に留意して、現行の緩和政策を継続することが重要であると述べた。この間、一人の委員は、早期の2%の達成が見通せない状況のもとで、米欧中銀による緩和姿勢の強まりが、為替等を通じてわが国の物価を下押しするリスクも高まっており、現時点において、物価の下振れリスクに対して予防的・先制的に政策対応を行うことが必要であると述べた。これに対し、別のある委員は、他国の金融政策運営の影響は、経済情勢や市場動向に応じて変化するものであり、短期的な変動にとらわれずに総合的に判断していくことが重要であると指摘した。ある委員は、米中貿易摩擦の影響を受けやすく、2%から距離のある日本こそ、経済・物価の下振れリスクに対する、いわゆる予防的金融緩和論を検討する必要があり、消費税率引き上げの影響や市場の急変などに対して、日本銀行の政策が後手に回らないよう十分な警戒が必要であると述べた。こうした議論を踏まえ、多くの委員は、特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じることが適切であり、こうした政策運営スタンスを明確化するような情報発信を行うことが望ましいという認識を示した。このうち、複数の委員は、様々な緩和策に関する利害得失を含め、予め緩和策を検討しておく必要があると指摘した。

このほか、委員は、先行きの金融政策運営上の留意点についても議論を行った。一人の委員は、緩和による副作用の累積が長年にわたるという時間軸も踏まえ、金融機関のリスクテイク姿勢の変化や、金利の低下が金融機関の収益や貸出姿勢に与える影響も見極めつつ、金融の不安定化を未然に防ぐという観点からも、金融政策をより慎重に検討する必要があると述べた。ある委員は、現行の緩和を続けるためには、金融システム面により留意すべきとの見方を示した。複数の委員は、副作用を緩和する方法を不断に検討する必要があると指摘した。また、一人の委員は、仮に追加緩和により副作用が生じるならば、それを緩和する方法を検討する必要があると指摘した。別のある委員は、金融市場や金融システムへの影響を十分認識して政策判断を行うとの方針は堅持すべきだが、追加緩和余地がないと受け止められないように丁寧に情報発信を行う必要があると述べた。この間、複数の委員は、金融機関の収益性低下の背景にある構造問題や個別金融機関の経営問題を、マクロ的な金融政策によって解決することは困難であるし、適切でもないと述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」

これに対し、ある委員は、長期金利がある程度変動しうるとすることは、政策委員会が決定する金融市場調節方針として曖昧であるため、オペの運営次第では金利が必要以上に上昇し、現在のイールドカーブ・コントロールが想定している効果を阻害する惧れがあるとの意見を述べた。別のある委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとすること、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、大方の委員は、(1)2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、(2)マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、(3)政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する、(4)今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う、(5)特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じるとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であると述べた。別の一人の委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関係付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

IV.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 先般、6月28日、29日に日本議長下において開催されたG20の大阪サミットについては、主要国のリーダー達が一堂に会する中、互いの共通点を見出し、主要な世界経済の課題に団結して取り組んでいく姿を打ち出すことができた。今月17日、18日にフランスで開催されたG7においてもG20福岡および大阪サミットで合意された世界経済の基調判断、すなわち来年に向けて緩やかに回復するとの見通しが概ね維持されていることが確認された。
  • 昨日、経済財政諮問会議において、「令和2年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」が議論されたと承知している。令和2年度予算については、いわゆる「骨太方針2019」を踏まえて、引き続き、「新経済・財政再生計画」の枠組みのもと、手を緩めることなく、本格的な歳出改革に取り組んでいかなければならず、こうした観点で予算編成を進めていく。
  • 日本銀行には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済は輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している。先行きについては、当面、弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響に一層注意するとともに中国経済の先行き、海外経済の動向と政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響等に留意する必要がある。
  • 昨日の経済財政諮問会議に内閣府の年央試算を提出した。雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策効果もあって、内需を中心とした景気回復を見込んでおり、2019年度の実質GDP成長率は、0.9%程度、2020年度については、1.2%程度としている。
  • 「骨太方針2019~『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦~」そして「成長戦略実行計画」を閣議決定した。今後、これらに基づいて、潜在成長率の引き上げによる成長力の強化に取り組むとともに、成長と分配の好循環の拡大を目指していく。更に誰もが活躍でき、安心して暮らせる社会づくりのために全世代型社会保障を実現していく。また、10月に予定されている消費税率引き上げを控えて、経済財政運営に万全を期していく。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて金融緩和を着実に推進していくことを期待する。

V.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
原田委員、片岡委員

原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する、との資産買入れ方針とすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員
反対:
なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、原田委員からは、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとの意見が表明された。また、片岡委員からは、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関係付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

VI.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、多数意見が形成された。

議長からは、こうした多数意見を取りまとめるかたちで、「基本的見解」の議案が提出された。

採決の結果、賛成多数で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、7月31日に公表することとされた。なお、片岡委員は、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして、物価の見通しに関する記述に反対した。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
片岡委員

VII.議事要旨の承認

議事要旨(2019年6月19、20日開催分)が全員一致で承認され、8月2日に公表することとされた。

VIII.金融政策決定会合の開催予定日の承認

2020年の金融政策決定会合の開催予定日が全員一致で承認され、会合終了後、公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」 本文に戻る

別紙

2019年7月30日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし1、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
      2. (2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  2. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)原田委員は、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関係付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る