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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2019年9月18、19日開催分)

2019年11月6日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2019年10月30、31日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2019年9月18日(14:00~15:57)
 
9月19日( 9:00~11:42)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
原田 泰 (審議委員)
布野幸利 (  審議委員  )
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 神田 眞人 大臣官房総括審議官(18日)
遠山 清彦 財務副大臣(19日)
 
内閣府 田和 宏  内閣府審議官(18日)
宮下 一郎 内閣府副大臣(19日)
(執行部からの報告者)
理事 前田栄治
理事 内田眞一
理事 池田唯一
企画局長 加藤 毅
企画局政策企画課長 飯島浩太
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 神山一成
調査統計局経済調査課長 川本卓司
国際局長 中田勝紀
(事務局)
政策委員会室長 小野澤洋二
政策委員会室企画役 山城吉道
企画局企画役 長野哲平
企画局企画役 稲場広記

1.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(7月29、30日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、長期国債の買入れ等による資金供給を行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.07~-0.02%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、国内外の投資家による需要増加から幾分低下し、最近では、-0.1%台半ばとなっている。

株価(日経平均株価)は、8月入り後、米中間の通商問題を巡る緊張感の高まりや世界経済の減速懸念などを背景に下落したが、その後は、米中通商交渉の再開に対する期待感などを背景とした米欧株の上昇に連れるかたちで上昇し、最近では、22千円程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、8月入り後、投資家のリスク回避姿勢の強まりなどから、幾分円高方向で推移したが、その後は円安方向に転じ、前回会合時点と概ね同水準で推移している。この間、円の対ユーロ相場は、小幅に円高・ユーロ安方向で推移した。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、減速の動きが続いているが、総じてみれば緩やかに成長している。先行きについては、当面は減速の動きが続くものの、その後は、各国の景気刺激策の効果発現や、IT関連財や資本財を中心に弱めの動きがみられる製造業部門の持ち直しなどにより幾分成長率を高め、総じてみれば緩やかに成長していくとみられる。

米国経済は、製造業部門に弱めの動きがみられるが、緩やかに拡大している。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、増加している。米中貿易摩擦の拡大・長期化などを背景に、輸出は横ばい圏内の動きにとどまっている。製造業の業況感の改善傾向が一段と弱まっていることなどを受けて、設備投資は弱めの動きとなっている。物価面をみると、インフレ率(PCEデフレーター)は、総合ベース、コアベースともに、前年比+1%台半ばで推移している。先行きの米国経済は、米中貿易摩擦の影響を受けるものの、緩和的な金融環境などに支えられ、緩やかな拡大を続けるとみられる。

欧州経済は、減速した状態が続いている。輸出は減少に転じているほか、製造業の業況感悪化などを背景に、設備投資は増勢の鈍化が続いている。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、総じてみれば増加基調にある。物価面をみると、インフレ率(HICP)は、総合ベース、コアベースともに、前年比+1%近傍で推移している。先行きの欧州経済は、製造業部門の持ち直しなどにより、次第に減速した状態から脱していくと予想される。この間、英国経済は、3月末に合意なきEU離脱が行われることを想定した自動車生産の一時休止の影響などから、4~6月は成長率がマイナスに転化したが、7月はその影響の剥落によりプラス成長に復している。

新興国経済をみると、中国経済は、総じて安定した成長を続けているものの、製造業部門では引き続き弱さもみられている。物価面をみると、インフレ率(CPI)は、前年比+2%台後半で推移している。先行きの中国経済は、米中貿易摩擦や債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を段階的に実施するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみられる。NIEs・ASEANでは、輸出は横ばい圏内の動きにとどまっているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移している。ロシアやブラジルの景気は、インフレ率の落ち着きなどを背景に、振れを伴いつつも、緩やかに回復している。インドの景気は、個人消費や設備投資などが弱めの動きとなっていることから、減速している。

海外の金融市場をみると、8月入り後、米中の通商問題を巡る緊張感の高まりや世界経済の減速懸念などを背景に、多くの国で株価が下落した。もっとも、その後は、米中通商交渉の再開に対する期待感などから、9月上旬にかけて、株価は上昇に転じ、前回会合時点と概ね同水準で推移している。米欧の長期金利は、投資家のリスクセンチメントに振らされつつも、金融緩和を巡る思惑もあって、期間を通じてみれば、幾分低下している。この間、新興国の通貨をみると、政治リスクの高まりから一部の国で、やや大きめに減価している。商品市場では、原油価格は、最近の中東の地政学的リスクの高まりから、上昇している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している。先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとみられる。

輸出は、弱めの動きとなっている。先進国向けは増加基調を続けているものの、新興国向けは弱めの動きとなっている。先行きの輸出は、当面、海外経済の減速の影響を受けて、弱めの動きが続く可能性が高いものの、その後は、海外経済の成長率の高まりに伴い、緩やかな増加基調に復していくとみられる。

公共投資は、横ばい圏内で推移している。先行指標である公共工事請負金額や公共工事受注高は、このところ増加している。先行きについては、オリンピック関連工事に加え、2018年度補正予算の執行や国土強靱化政策などを背景に、増加するとみられる。

企業収益は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じて高水準で推移している。法人企業統計で2019年4~6月の売上高経常利益率をみると、海外経済の減速の影響からひと頃に比べ水準を切り下げているが、内需の増加に支えられて歴史的な高水準を維持している。業況感については、製造業はこのところはっきりと慎重化している一方、非製造業は総じて良好な水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は、増加傾向を続けている。資本財総供給は、振れを伴いつつも緩やかな増加基調にある。建設工事出来高(民間非居住用)も、いったん増勢が鈍化しているが、やや長い目でみれば増加基調を続けている。先行きの設備投資は、緩和的な金融環境などを背景に、緩やかに増加していくとみられる。

雇用・所得環境をみると、労働需給は引き締まった状態が続いており、雇用者所得も増加している。有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高水準で推移しているが、足もとでは海外経済の減速の影響から、若干低下している。失業率は引き続き低水準で推移している。

個人消費は、振れを伴いつつも、雇用・所得環境の着実な改善を背景に緩やかに増加している。各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、4~6月に前期比で増加した後、7月の4~6月対比は、梅雨明けの遅れに伴う低温・多雨が下押しとなり、大きめの減少となった。先行きの個人消費は、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面も予想されるものの、基調としては、雇用者所得の増加に支えられて、緩やかな増加を続けると見込まれる。

住宅投資は、横ばい圏内で推移している。新設住宅着工戸数をみると、振れを均してみれば、横ばい圏内で推移している。

鉱工業生産は、輸出が弱めの動きとなる一方、国内需要が増加していることから、横ばい圏内の動きとなっている。先行きについては、当面、消費税率引き上げの影響から下押しされることが予想されるものの、海外経済の成長率の高まりに伴い、次第に緩やかな増加に転じていくとみられる。

物価面について、国内企業物価(夏季電力料金調整後)を3か月前比でみると、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、下落している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台半ばとなっており、除く生鮮食品・エネルギーでみた前年比も、足もと0%台半ばとなっている。先行きについて、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。

予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。長期金利から中長期の予想物価上昇率を差し引いた実質長期金利は、マイナスで推移している。

企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、大幅に緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いている。資金需要面をみると、設備投資向けや企業買収関連などの資金需要が増加している。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、2%台前半のプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、高めのプラスで推移している。企業の資金繰りは、良好である。

この間、マネタリーベースは、前年比で3%程度の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、2%台半ばの伸びとなっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、8月入り後、米中の通商問題を巡る緊張感の高まりや世界経済の減速懸念などを背景に、多くの国で株価が下落したが、その後は、米中通商交渉の再開に対する期待感などから、株価は上昇に転じ、前回会合時点と概ね同水準で推移しているとの認識を共有した。多くの委員は、このところ市場は幾分落ち着きを取り戻しつつあるが、米中間の貿易摩擦の展開など、先行きの不透明感が強い状況に変化は無く、決して楽観視はできないと述べた。何人かの委員は、為替相場が一定のレンジ圏内で推移している背景には、各国とも緩和的な金融環境が維持されていることや、わが国の物価情勢がデフレではない状況となっていることなどがあるとの見方を示した。この間、一人の委員は、世界で金融緩和が進む中、国際金融市場における過度な期待の高まりを示す動きや、資産価格の変動が景気に与える影響を注視していく必要があると指摘した。そのうえで、この委員は、低金利環境のもとでは、金利が株価や為替に与える影響が変化する結果、金利低下が株高・円安につながらない面もあると付け加えた。何人かの委員は、サウジアラビアの石油施設への攻撃が材料視され、原油価格が一時上昇したことについて、中東産原油への依存度が高いわが国にとっては目が離せない状況にあると述べた。

海外経済について、委員は、減速の動きが続いているが、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。多くの委員は、米中貿易摩擦の拡大・長期化などを背景に、グローバルな製造業PMIが50を下回り続けており、世界的に製造業部門の弱めの動きが続いているとの認識を示した。もっとも、複数の委員は、良好な雇用・所得環境などを背景に、多くの国で内需は堅調に推移しており、製造業と非製造業のコントラストが明確になっているとの見方を示した。また、一人の委員は、IT関連財の調整進捗について、前向きな動きがみられていると指摘した。海外経済の先行きについて、委員は、当面は減速の動きが続くものの、その後は各国の景気刺激策の効果発現や、IT関連財や資本財を中心に弱めの動きがみられる製造業部門の持ち直しなどにより幾分成長率を高め、総じてみれば緩やかに成長していくとの認識を共有した。もっとも、委員は、海外経済は減速の動きが続いており、現時点で、持ち直しに転じるはっきりした兆しは確認できていないほか、保護主義的な動きの影響や新興国経済の不透明感、英国のEU離脱を巡る展開、中東の地政学的リスクなど、海外経済を巡る下振れリスクも高まりつつあるとの見方で一致した。こうしたもとで、何人かの委員は、海外経済の持ち直しの時期については、これまでの想定よりも遅れる可能性があると付け加えた。

経済の現状と先行きを地域毎にみると、米国経済について、委員は、製造業部門に弱めの動きがみられるが、緩やかに拡大しているとの認識で一致した。何人かの委員は、米中貿易摩擦の拡大・長期化の影響などからISM製造業指数が50を割り込むなど、企業の業況感は悪化に転じていると指摘した。もっとも、多くの委員は、良好な雇用・所得環境などに支えられて、個人消費は堅調であり、経済全体としては底堅さを維持しているとの認識を示した。米国経済の先行きについて、委員は、米中貿易摩擦の影響を受けるものの、緩和的な金融環境などに支えられ、緩やかな拡大を続けるとの見方を共有した。何人かの委員は、FRBの利下げが米国経済を下支えする効果や、米中貿易摩擦の拡大・長期化が成長率を予想以上に押し下げるリスクなどを、注意深く点検していく必要があると述べた。

欧州経済について、委員は、減速した状態が続いているとの認識を共有した。何人かの委員は、個人消費は底堅い動きを示しているが、自動車排ガス規制の強化や中国経済減速の影響などから、ドイツを中心に、生産・輸出は弱めの動きが続いていると指摘した。欧州経済の先行きについて、委員は、製造業部門の持ち直しなどにより、次第に減速した状態から脱していくとの認識で一致した。複数の委員は、英国の合意なきEU離脱のリスクがあるほか、ドイツで議論されている財政政策の発動も不確実であるため、先行き、欧州経済の回復が遅れる可能性があるとの見方を示した。

中国経済について、委員は、総じて安定した成長を続けているものの、製造業部門では引き続き弱さもみられているとの見方で一致した。何人かの委員は、当局の景気刺激策の効果がまだはっきりと確認できない中で、米中貿易摩擦の影響による生産面の下押し圧力が続いているほか、個人消費も精彩に欠けると述べた。中国経済の先行きについて、委員は、米中貿易摩擦や債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を段階的に実施するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。複数の委員は、米国との通商交渉が想定以上に長引く可能性や、当局の景気刺激策の効果に不確実性が高い状況を踏まえると、中国経済の成長ペースが回復してくる時期については、想定よりも遅れる可能性があるとの認識を示した。

新興国経済について、委員は、一部新興国で個別国要因から減速しているものの、総じてみれば景気の回復基調を維持しているとの認識を共有した。NIEs・ASEANについて、委員は、輸出は横ばい圏内の動きにとどまっているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移しているとの見方で一致した。先行きの新興国経済について、委員は、一部新興国の減速をもたらしている個別国要因が概ね剥落していくほか、各国の景気刺激策や構造改革の効果発現などもあって、全体として成長率が高まっていくとの認識で一致した。複数の委員は、世界貿易量の低迷が続き、国によっては政治リスクなどが顕現する中で、成長ペースにばらつきが出始めており、資本フローを含め、今後の動向に引き続き注意が必要であると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大しているとの認識で一致した。何人かの委員は、海外経済の減速の影響は、製造業の設備投資や新規求人倍率にも及んでいる可能性があると指摘した。もっとも、多くの委員は、非製造業を中心に将来を見据えた戦略投資や省力化投資の需要が根強いなど、内需は堅調であり、所得から支出への前向きの循環が働くという景気拡大の基本的なメカニズムは維持されているとの見方を示した。

景気の先行きについて、委員は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとの見方で一致した。このうち、国内需要について、委員は、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿るとの認識を共有した。もっとも、多くの委員は、海外経済を巡る様々な不確実性が高まりつつあることを踏まえると、海外経済の動向がわが国経済に及ぼす影響を慎重にみていく必要があると指摘した。そのうえで、これらの委員は、9月短観の結果や10月の支店長会議におけるミクロ情報も踏まえつつ、次回の決定会合において経済・物価動向を改めて点検していくことが重要であるとの認識を共有した。一人の委員は、海外経済の回復は遅れており、当面、外需の持ち直しには期待できないほか、内需も、海外経済の減速の影響が及ぶ中、10月には消費税率引き上げが迫っており、景気の先行きを楽観視できないと述べた。

輸出の現状について、委員は、弱めの動きとなっているとの認識を共有した。何人かの委員は、実質輸出の7月の4~6月対比は増加したが、長い目でみれば横ばい圏内の動きであり、海外経済の減速の影響から輸出が弱めという評価には変わりがないと述べた。先行きの輸出について、委員は、当面、海外経済の減速の影響を受けて、弱めの動きが続く可能性が高いものの、その後は、海外経済の成長率の高まりに伴い、緩やかな増加基調に復していくとの見方で一致した。ある委員は、海外経済の回復が遅れていることを踏まえると、輸出の持ち直しにも時間がかかる可能性があると指摘した。

公共投資について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの見解で一致した。先行きの公共投資について、委員は、オリンピック関連工事に加え、2018年度予算の執行や国土強靱化政策などを背景に、増加するとの認識を共有した。複数の委員は、このところ災害からの復旧・復興工事が進捗しているほか、概算要求では来年度予算の公共事業関係費も増額されているなど、今後の公共投資の増加が期待できると述べた。

設備投資について、委員は、増加傾向を続けているとの認識で一致した。多くの委員は、機械受注や建築着工といった先行指標をみても増勢を維持しているほか、非製造業を中心とした投資需要は根強いとの認識を示した。もっとも、何人かの委員は、海外経済の減速の影響から、製造業の業況感が慎重化し、企業収益も下押しされるもとで、製造業の設備投資の一部には減速の動きがみられると述べた。先行きの設備投資について、委員は、緩和的な金融環境などを背景に、緩やかに増加していくとの見方で一致した。一人の委員は、日本政策投資銀行の設備投資計画調査をみても、今年度は、運輸・不動産等の都市機能拡充に向けた投資や人手不足に対応した店舗・物流投資、デジタルインフラ整備に向けた投資の継続が見込まれると述べた。そのうえで、複数の委員は、海外経済の不確実性が大きい中で、設備投資が増加基調を維持することは、わが国経済の緩やかな拡大基調が続くことへの鍵となるため、しっかり点検していく必要があると指摘した。このうち、一人の委員は、オリンピック関連需要の一巡の影響にも注意が必要であると付け加えた。

雇用・所得環境について、委員は、労働需給は引き締まった状態が続いており、雇用者所得も増加しているとの認識を共有した。複数の委員は、失業率が2%台前半の低水準で推移し、有効求人倍率は高水準を維持するなど、労働市場は引き続きタイトな状況であると指摘した。何人かの委員は、海外経済の減速が続くもとで、輸出関連業種を中心に新規求人倍率が鈍化しており、こうした動きが雇用全体に拡がらないか注意深くみていく必要があると述べた。この間、ある委員は、企業は、IT技術の活用など省力化投資を進める一方、人手不足の継続を見越して余剰人員は抱え込む傾向にあると述べたうえで、これが、低い失業率のもとでも賃金上昇が加速しない状況を作り出しているとの見方を示した。

個人消費について、委員は、振れを伴いつつも、雇用・所得環境の着実な改善を背景に緩やかに増加しているとの認識を共有した。多くの委員は、個人消費関連指標が7月に弱めの数字となり、8月に反発したことについて、天候要因や消費税率引き上げ前の需要増による振れという面が大きいと指摘した。先行きの個人消費について、委員は、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面も予想されるものの、基調としては、雇用者所得の増加に支えられて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。10月に予定されている消費税率引き上げについて、複数の委員は、政府による各種の需要平準化策が実施されることなどから、2014年の引き上げ時と比べると、個人消費への影響は小さいものにとどまるとの認識を示した。そのうえで、何人かの委員は、消費税率引き上げの影響は、消費者マインドや雇用・所得環境などによって変化しうるため、今後の消費動向は引き続き注意深く点検していく必要があると述べた。このうち、一人の委員は、ポイント還元制度などが、ある程度、税率引き上げの影響を緩和する可能性はあるが、海外経済の減速の影響がみられる中、10月以降の個人消費を予見することは難しいと指摘した。

住宅投資について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの認識で一致した。また、委員は、住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数をみると、振れを均してみれば、横ばい圏内で推移しているとの認識を共有した。

鉱工業生産について、委員は、輸出が弱めの動きとなる一方、国内需要が増加していることから、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。先行きの生産について、委員は、当面、消費税率引き上げの影響から下押しされることが予想されるものの、海外経済の成長率の高まりに伴い、次第に緩やかな増加に転じていくとの見方で一致した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台半ばとなっているほか、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比も、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスなどを背景に、0%台半ばのプラスにとどまっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、消費者物価の前年比は、プラスで推移しているが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いているとの認識を共有した。ある委員は、物価は、プラスの需給ギャップと生産性向上の動き等が併存するもとで、緩やかな前年比プラスの水準で安定した状態にあると述べた。多くの委員は、これまでのところ、景気の拡大基調が続き、プラスの需給ギャップが維持されるもとで、物価が徐々に上昇していく基本的なメカニズムは引き続き作動しているとの認識を示した。このうち、一人の委員は、過去、飲食業における値上げは顧客離れを招いたが、最近では、値上げが客数に与える影響が軽微であるとする先が増えてきていると述べた。

先行きについて、大方の委員は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。もっとも、複数の委員は、海外経済の下振れリスクが高まりつつあることを踏まえると、先行き、需給ギャップのプラス幅が縮小し、物価上昇を下押しするリスクには注視していく必要があるとの認識を示した。一人の委員は、世界経済が減速を続け、その回復シナリオも後ずれするもとで、国内企業物価や企業向けサービス価格といった各種物価指数が弱めの動きをみせていることや、需給ギャップのプラス幅が縮小していることは、物価の先行きを見通すうえで気掛かりであると述べた。別の一人の委員は、これまでのところ、物価上昇に向けたモメンタムが再び強まる兆しは維持されていると考えているが、この兆しが損なわれる惧れがないかといった点については、これまで以上にしっかりみていく必要があると述べた。この間、一人の委員は、既往の原油安の影響など各種の下押し要因があるもとで、この先、物価上昇率が2%に向けて勢いを強めるとは判断できず、物価目標からの距離が先行き拡大するリスクが高まっていると述べた。

予想物価上昇率について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの見方で一致した。複数の委員は、既往の原油安の影響などが適合的な期待形成のメカニズムを通じて、予想物価上昇率に与える影響にも注意が必要であると述べた。

以上の議論を踏まえ、大方の委員は、景気が基調としては緩やかに拡大するもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されているとの認識を共有した。この背景として、大方の委員は、(1)マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるとみられること、(2)中長期的な予想物価上昇率は、このところ横ばい圏内で推移しており、先行き、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、徐々に高まると考えられることを挙げた。もっとも、委員は、海外経済の下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつあるとの認識を共有した。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているほか、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるとの見方を共有した。

3.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

委員は、金融政策の基本的な運営スタンスについて議論を行った。大方の委員は、経済・物価の下振れリスクには留意が必要であり、「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けるもとで、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適切であるとの認識を共有した。多くの委員は、プラスの需給ギャップができるだけ長く持続するよう、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、現在の政策のもとで、きわめて緩和的な金融環境を維持していくことが必要であると述べた。ある委員は、「物価安定の目標」の実現に資するため、現在の金融政策の運営方針を粘り強く続け、経済の好循環を息長く支えていくべきであると指摘した。この間、一人の委員は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは既に損なわれており、先制的に追加緩和措置を講じる必要があるとの意見を述べた。

そのうえで、委員は、海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつあることを念頭に、展望レポートを取りまとめる次回の決定会合において、経済・物価動向を改めて点検していくことが必要であるとの認識で一致した。また、委員は、こうした認識について公表文に記述し、対外的に明確にすることが望ましいとの見方を共有した。そのうえで、複数の委員は、経済・物価動向を改めて点検していく際には、それまでに公表された指標とともに、短観や支店長会議での報告なども踏まえて判断していくことが重要であるが、現時点で点検結果について予断を持つべきではないと指摘した。

委員は、先行きの金融政策運営上の留意点についても議論を行った。はじめに、市場の一部に追加緩和手段に関する様々な議論が出ていることを巡り、委員の意見が示された。一人の委員は、長短金利・量・質のすべての面で日本銀行の金融政策に手詰まりはなく、あらゆる可能性が常時存在していることを強調する情報発信を行うことが重要であるとの認識を示した。別のある委員は、国内外でこれまでに取られた非伝統的政策手段の教訓を踏まえると、その有用性について広く発信することが重要であると指摘した。ある委員は、海外経済の回復の遅れがわが国経済・物価に悪影響を及ぼす懸念があることを踏まえると、副作用にも留意しつつ、望ましい政策対応について検討していく必要があると述べた。別のある委員は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れは相応にあり、追加緩和措置の要否を検討すべきであると指摘した。そのうえで、この委員は、追加緩和手段については、緩和効果をもたらすとの目的を明確にし、予断なく、短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速など、あらゆる政策手段を検討すべきであると指摘した。この間、一人の委員は、この半年ほど名目イールドカーブがフラット化した一方で、均衡金利・予想物価上昇率の期間構造は大きく変化していないことを踏まえると、金融緩和余地は短中期ゾーンで大きいとみられ、追加緩和策としては短期政策金利の引き下げが適当であると付け加えた。

また、その他の留意点として、何人かの委員は、低金利環境が長期化するもとでも、金融機関の財務は健全であり、金融仲介機能も維持されているが、先行き、収益性が更に低下していく可能性や、過度なリスクをとる動きが拡がる可能性について多面的に点検していく必要があるとの認識を示した。これに関連し、複数の委員は、金融機関経営に影響を及ぼす構造的な問題と、金融緩和に伴う影響は、区別して議論する必要があると指摘した。別のある委員は、マイナス金利を含む金融緩和の効果については、それが銀行経営に与える影響よりも、あくまでも、経済全体に与える影響を優先して考えるべきであると述べた。これに対し、一人の委員は、金融システムがひとたび不安定化すると、物価安定の確保が困難になることには、十分留意する必要があるとの見方を示した。また、この委員は、低金利環境の継続による銀行の収益性低下と資産のリスク量増加が格下げにつながれば、外貨流動性リスクや外貨調達コストが高まり、取引先企業にも悪影響が及ぶ惧れがあると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」

これに対し、ある委員は、長期金利がある程度変動しうるとすることは、政策委員会が決定する金融市場調節方針として曖昧であるため、オペの運営次第では金利が必要以上に上昇し、現在のイールドカーブ・コントロールが想定している効果を阻害する惧れがあるとの意見を述べた。別のある委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとすること、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、大方の委員は、(1)2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、(2)マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、(3)政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する、(4)今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う、(5)特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じるとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であると述べた。別の一人の委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関係付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 令和2年度予算の概算要求を8月末に締め切り、今後、年末に向けて予算編成を行っていく。各省の一般会計概算要求・要望の総額は、前年度当初予算額に比べ、増額となっている。社会保障と財政の持続可能性を維持するためには、経済再生と財政健全化の両立を図ることが必要であり、本格的な歳出改革を進めていく。
  • 消費税率引き上げについては、10月に現行の8%から10%に引き上げる予定である。今般の引き上げにあたっては、駆け込み需要・反動減といった経済変動を抑制するための方策も採られており、引き続き、経済の実態をきめ細かく分析し、経済運営に万全を期していく。
  • 日本銀行には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済は輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している。2019年4~6月期GDP2次速報では、実質成長率は前期比+0.3%、年率に換算すると+1.3%と3四半期連続のプラスとなった。先行きについては、当面、弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題を巡る緊張の増大が世界経済に与える影響に注意するとともに、中国経済の先行き、海外経済の動向と政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。
  • 安倍内閣としては、デフレからの完全脱却に向けて、「骨太方針2019」に従い、成長戦略を着実に実行するとともに、弾力的な経済財政運営を推進する。潜在成長率の引き上げによる成長力強化に取り組むとともに来月の消費税率引き上げが経済の回復基調に影響を及ぼさないよう臨時特別の措置を実施するなど、経済財政運営には万全を期していく。また、誰もが活躍でき、安心して暮らせる社会づくりのため、「全世代型社会保障検討会議」を立ち上げ、全世代型社会保障制度へと改革を進めていく。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて金融緩和を着実に推進していくことを期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
原田委員、片岡委員

原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する、との資産買入れ方針とすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員
反対:
なし

6.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)の検討

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、原田委員からは、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとの意見が表明された。また、片岡委員からは、(1)消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとの意見、および、(2)2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関係付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.議事要旨の承認

議事要旨(2019年7月29、30日開催分)が全員一致で承認され、9月25日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし 、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」 本文に戻る

別紙

2019年9月19日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし1、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
      2. (2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  2. わが国の景気は、輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している。海外経済は、減速の動きが続いているが、総じてみれば緩やかに成長している。そうしたもとで、輸出は弱めの動きとなっている。一方、企業収益が総じて高水準を維持するなか、設備投資は増加傾向を続けている。個人消費は、振れを伴いつつも、雇用・所得環境の着実な改善を背景に緩やかに増加している。住宅投資と公共投資は、横ばい圏内で推移している。以上のように、輸出は弱めの動きとなる一方、国内需要が増加していることから、鉱工業生産は横ばい圏内の動きとなっており、労働需給は引き締まった状態が続いている。この間、わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台半ばとなっている。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。
  3. 先行きのわが国経済は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとみられる。国内需要は、消費税率引き上げなどの影響を受けつつも、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。輸出も、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられる。消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる(注2)
  4. リスク要因としては、米国のマクロ政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、保護主義的な動きの帰趨とその影響、それらも含めた中国を始めとする新興国・資源国経済の動向、IT関連財のグローバルな調整の進捗状況、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなどが挙げられる。こうした海外経済を巡る下振れリスクは高まりつつあるとみられ、わが国の企業や家計のマインドに与える影響も注視していく必要がある。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる(注3)
  6. このところ、海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、日本銀行は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつあると判断している。こうした情勢にあることを念頭に置きながら、日本銀行としては、経済・物価見通しを作成する次回の金融政策決定会合において、経済・物価動向を改めて点検していく考えである。

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、消費者物価の前年比は、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対した。 本文に戻る
  3. (注3)原田委員は、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関係付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る