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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2020年7月14、15日開催分)

2020年9月24日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2020年9月16、17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2020年7月14日(14:00~15:31)
 
7月15日( 9:00~11:50)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
櫻井 眞 (審議委員)
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
安達誠司 (  審議委員  )
中村豊明 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 神田 眞人 大臣官房総括審議官(14日)
遠山 清彦 財務副大臣(15日)
 
内閣府 田和 宏 内閣府審議官(14日)
宮下 一郎 内閣府副大臣(15日)
(執行部からの報告者)
理事 衛藤公洋
理事 内田眞一
企画局長 加藤 毅
企画局政策企画課長 飯島浩太
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 神山一成
調査統計局経済調査課長 川本卓司
国際局長 福本智之
(事務局)
政策委員会室長 松下 顕
政策委員会室企画役 本田 尚
政策委員会室企画役 山城吉道
企画局企画役 東 将人
企画局企画役 長江真一郎
企画局企画役 稲場広記

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(6月15、16日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援のための措置として、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペを実施した。また、国債買入れやドルオペなどによって、円貨および外貨を潤沢に供給したほか、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れを行った。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は、-0.07から-0.02%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、-0.1%程度で推移している。

株価(日経平均株価)は、情報技術関連を中心に幾分上昇している。長期金利は、国債発行の増額を受けて幾分上昇する場面もみられたが、日本銀行による国債の積極的な買入れもあり、期間を通じてみれば、ゼロ%程度で推移している。国債市場の流動性については、緊急事態宣言の解除後、取引高など一部に改善の動きがみられるが、金利の変動が落ち着いている中で、水準としては低い状態が続いている。為替相場をみると、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場とも概ね横ばいとなっている。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、持ち直しに向かう動きもみられるが、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行の影響により、大きく落ち込んだ状態にある。多くの国では、外出制限や営業・生産活動の停止などの厳格な公衆衛生上の措置が段階的に緩和されてきており、経済活動を再開する動きがみられている。もっとも、感染症への警戒感に加え、グローバルな雇用環境の悪化や企業収益の減少もあって、家計や企業の経済活動は引き続き抑制的である。先行きの海外経済については、感染症の影響が和らいでいくのに伴い、積極的なマクロ経済政策にも支えられて、大きく落ち込んだ状態から回復していくとみられるが、そのペースは緩やかなものにとどまると予想される。ただし、世界的に感染者数の増加に依然として歯止めがかかっておらず、感染症の帰趨や、それが海外経済に与える影響の大きさといった点については、きわめて不確実性が大きい。

地域別に動きをみると、米国経済は、一部に持ち直しに向かう動きもみられるが、大きく落ち込んだ状態にある。個人消費や住宅投資は、厳格な公衆衛生上の措置が段階的に解除されてきたことなどから、一部に持ち直しに向かう動きがみられている。もっとも、引き続き厳しい雇用環境に加え、このところの南部や西部の諸州を中心とした感染者数の急増などに伴う感染症への警戒感もあって、全体として大幅に減少した状態にある。設備投資は、企業収益の減少などにより、大きく落ち込んだ状態にある。

欧州経済は、一部に持ち直しに向かう動きもみられるが、大きく落ち込んだ状態にある。ユーロエリアでは、個人消費は、厳格な公衆衛生上の措置が段階的に解除されてきたことなどから、一部に持ち直しに向かう動きがみられるものの、感染症への警戒感やこれまでの雇用環境の悪化などにより、全体として大幅に減少した状態にある。設備投資は、企業収益の減少などから、大きく落ち込んだ状態にある。

中国経済は、積極的なマクロ経済政策の効果発現やペントアップ需要の顕在化から、持ち直している。輸出は、マスクを含む繊維関連やパソコン関連などの大幅増加もあって、増加している。個人消費は、一部で感染症の影響が残るものの、ペントアップ需要の顕在化により、全体として持ち直している。固定資産投資は、積極的なマクロ経済政策の効果発現から、持ち直している。

中国以外の新興国経済は、感染症の影響から、大きく落ち込んだ状態にある。NIEs・ASEAN経済は、一部に持ち直しに向かう動きもみられるが、全体として大幅に減少した状態にある。また、インドやブラジル、ロシア経済は、感染症が急速に拡大するもとで、大きく落ち込んだ状態にある。

海外の金融市場をみると、株価は、米欧で情報技術関連を中心に幾分上昇しているほか、中国でも景気の持ち直し期待から上昇している。通貨については、感染症の拡大が続いている中南米などで下落している。長期金利は、米国では感染症への警戒感から幾分低下した一方、欧州では横ばいとなっている。この間、原油価格は、概ね横ばいとなっている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、経済活動は徐々に再開しているが、内外で新型コロナウイルス感染症の影響が引き続きみられるもとで、きわめて厳しい状態にある。先行きについては、経済活動が再開していくもとで、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、本年後半から徐々に改善していくとみられる。

輸出や鉱工業生産は、海外経済が大きく落ち込んだ状態にあるもとで、大幅に減少している。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、米欧を中心とする海外販売の急速な落ち込みなどを背景に、大幅に減少している。資本財は、グローバルな設備投資先送りの動きを反映して、はっきりとした減少が続いている。一方、情報関連は、データセンター向けやパソコン関連の堅調さに支えられて、落ち込みは相対的に小幅にとどまっている。訪日入国者数は、入国制限が継続していることから、引き続きほぼ皆減の状態にある。先行きの輸出や生産は、当面、感染症の影響による海外経済の落ち込みなどから低水準となるが、感染症の影響が世界的に和らいでいくのに伴い、下げ止まりから持ち直しに向かうと予想される。

個人消費は、飲食・宿泊等のサービスを中心に大幅に減少してきたが、足もとでは、持ち直しの動きがみられる。サービス消費は、感染症の影響による外出自粛や休業・営業時間短縮の動きから、外食や旅行などの選択的支出を中心に大幅に減少している。緊急事態宣言の解除に伴い、5月の外食は若干の持ち直しに転じているが、旅行は国内・海外ともに大幅に落ち込んだ状態が続いている。この間、高頻度データで、選択的サービス支出と相関の強い人出の動きをみると、6月入り後は緩やかに持ち直している。財消費については、6月に自動車販売が持ち直しに転じたほか、家電販売も特別定額給付金の効果もあって持ち直しが続いている。一方、「巣ごもり消費」の拡大から堅調な動きを続けてきた食料品や日用品は、外食へのシフトもあって、足もとにかけて増勢が鈍化している。先行きの個人消費は、当面、感染症への警戒感などからサービス消費を中心に低水準が続くとみられるが、営業活動の段階的な再開の動きに伴い、各種の所得支援策や需要刺激策にも支えられて緩やかに持ち直していくとみられる。

企業収益や業況感は、感染症の影響により悪化している。6月短観の業況判断DIは、産業・企業規模を問わず大幅に悪化し、全産業・全規模ベースで前回からの低下幅が過去最大となるなど、大きく落ち込んだ。設備投資は、横ばい圏内の動きとなっている。6月短観の設備投資計画(全産業・全規模、含む金融機関・持ち株会社)は、ソフトウェア投資の底堅さもあって、現時点では前年比プラスを維持しているが、6月調査時点の数値としては、2009年度以来の低さとなっている。先行指標をみると、中長期的な案件の多い建設投資の先行指標である建築着工は横ばい圏内で推移している一方、先送りの比較的容易な機械投資の先行指標である機械受注は、このところ減少基調が明確となってきている。先行きの設備投資は、輸出や消費の大幅な減少の影響を強く受ける業種を中心に減少したあと、感染症の影響が和らぐもとで持ち直していくとみられる。

感染症の影響が続く中で、雇用・所得環境には、弱い動きがみられている。6月短観の雇用人員判断DIは、製造業・非製造業ともに人手不足感が大きく後退している。5月の労働力調査の雇用者数は、感染症の影響からパート等の非正規がはっきりと減少し、前年比-1.2%と前月からマイナス幅が拡大している。5月の名目賃金は、所定外給与の減少幅拡大などから、前年比-3%程度と前月からマイナス幅が拡大している。先行きの雇用者所得については、当面、感染症の影響による経済活動の落ち込みや企業収益の減少の影響から、はっきりと減少すると見込まれる。

物価面について、消費者物価の前年比は、除く生鮮食品は0%程度、除く生鮮食品・エネルギーは0%台半ばとなっている。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落などの影響を受けて、マイナスで推移するとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りは悪化しているなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっている。

予想物価上昇率は、弱含んでいる。

企業の資金繰りは、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた売上げ減少などを背景に悪化している。もっとも、日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。こうした中、中小企業の資金繰り判断DIには、足もとで持ち直しの動きもみられている。企業の資金調達コストは、低水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。資金需要面をみると、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた売上げの減少や予備的な需要などによる資金需要が増加している。企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、6%台半ばのプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、10%を超える高めのプラスで推移している。

この間、マネタリーベースは、前年比で6%程度の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、7%台前半の伸びとなっている。

II.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、各国・地域の積極的な財政・金融政策や、経済活動再開の動きなどから、ひと頃の緊張は緩和しているとの認識で一致した。もっとも、委員は、内外経済の不透明感が強いもとで、株式市場では、依然としてボラティリティが高めの水準で推移するなど、引き続き、神経質な状況にあるとの見方を共有した。このうち、何人かの委員は、先進国の株価について過熱感が指摘されていることや、株式市場のSKEW指数(市場参加者のリスク認識の偏りを示す指標)が高い水準にあり、市場では下方のテールリスク(大幅な株価下落)が意識されていることなどを踏まえると、資産価格に修正が生じないか、今後の市場動向を注視する必要があると指摘した。この間、ある委員は、為替市場はこのところ安定しているものの、取引高が低下するなど、流動性が低下している点は気がかりであると述べた。

海外経済について、委員は、持ち直しに向かう動きもみられるが、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行の影響により、大きく落ち込んだ状態にあるとの認識で一致した。多くの委員は、多くの国で、厳格な公衆衛生上の措置が段階的に緩和されてきており、経済活動を再開する動きがみられているとの認識を示した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、一部に持ち直しに向かう動きもみられるが、大きく落ち込んだ状態にあるとの認識を共有した。何人かの委員は、経済指標からは、経済が底打ちし、持ち直しに転じている姿が確認できるものの、足もとでは、南部や西部の諸州で感染症が再拡大する中で、高頻度データなどでは頭打ち感もみられるほか、設備投資にも慎重なスタンスが残っていると指摘した。また、複数の委員は、特に高所得者層において消費の減少が大きく、その後の戻りも弱いと指摘したうえで、消費が回復するためには、こうした動きの背景にある感染症への警戒感が払拭される必要があると指摘した。

欧州経済について、委員は、一部に持ち直しに向かう動きもみられるが、大きく落ち込んだ状態にあるとの見方を共有した。ある委員は、感染症の拡大に落ち着きがみられる中、移動制限の緩和が始まるなど、経済活動が再開しつつあるが、PMIが依然として低水準にあるなど、大きく落ち込んだ状態にあると述べた。一人の委員は、減税などの政策対応余力のある国と、そうでない国で回復ペースに差が生じる可能性があるとの見方を示した。

中国経済について、委員は、積極的なマクロ経済政策の効果発現やペントアップ需要の顕在化から持ち直しているとの認識で一致した。多くの委員は、相対的にみれば、中国は感染症の抑制に成功しており、経済の回復も順調であるとの見方を示した。もっとも、複数の委員は、個人消費は、新車販売を中心に持ち直しつつあるものの、旅行関連は依然として前年比マイナスとなるなどサービス消費の戻りは弱く、全体としてみた回復ペースも緩やかであると指摘した。

新興国経済について、委員は、感染症の影響から、大きく落ち込んだ状態にあるとの認識を共有した。複数の委員は、特にブラジルやインドなどでは、感染が拡大しており、経済への悪影響が懸念されると述べた。

わが国の金融環境について、委員は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りは悪化しているなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっているとの認識で一致した。何人かの委員は、短観の資金繰り判断DIが大幅に悪化するなど、企業の資金繰りには売上の急減という強いストレスが加わっていると指摘した。そのうえで、これらの委員は、企業等の資金繰り支援策が講じられるもとで、貸出態度判断DIは緩和的な水準が維持されるなど、外部資金の調達環境は引き続き緩和的であるとの認識を示した。何人かの委員は、企業倒産件数についても、これまでのところ大幅な増加はみられていないと指摘した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、経済活動は徐々に再開しているが、内外で新型コロナウイルス感染症の影響が引き続きみられるもとで、きわめて厳しい状態にあるとの見方で一致した。複数の委員は、個人消費について、緊急事態宣言の解除などを受けて、家電販売や外食等のサービス消費に持ち直しの動きがみられているものの、旅行関連のように需要が消滅しているセクターもあり、サービス消費を中心に厳しい状況が続いていると指摘した。設備投資について、ある委員は、省力化投資や研究開発投資を中心に、現時点では何とか堅調さを維持しているとの見方を示した。もっとも、一人の委員は、機械受注をみると下落傾向がみられていると指摘した。また、何人かの委員は、海外経済が大きく落ち込む中、輸出や生産は、自動車関連や一般機械を中心に大幅に減少していると述べた。この間、雇用・所得関係について、ある委員は、休業者数の高止まりや失業率の上昇など、雇用環境の悪化が明確になっていると述べた。もっとも、一人の委員は、雇用調整助成金などの政府による施策もあって、経済の落ち込みに比べると、雇用の悪化は抑制されているとの見方を示した。こうした中、複数の委員は、短観の業況感は、現状は大幅に悪化したものの、先行きはほぼ横ばいとなるなど底打ち感がみられており、景気は、厳しい感染症抑制策を受けて大きく落ち込んだ局面から、回復に向けての移行局面にフェーズが変化しているのではないかと指摘した。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、除く生鮮食品は0%程度、除く生鮮食品・エネルギーは0%台半ばとなっており、予想物価上昇率については、弱含んでいるとの認識を共有した。複数の委員は、家計や企業の中長期の予想物価上昇率は低下しているものの、小幅なものにとどまっており、下方屈折したとまでは言えないと述べた。また、これらの委員は、短観の販売価格判断DIは過去のストレス時のような大幅な落ち込みとなっていないほか、最頻値などの基調的な物価指標も底堅く推移しており、現時点では、デフレ的な価格設定行動は拡がっていないとの見方を示した。この点に関連して、ある委員は、価格引き下げによる需要喚起が見込みにくい中で、企業がコスト割れを防ぐことを重視しているのではないかと述べた。この間、一人の委員は、通常粘着的であるサービス価格に弱めの動きがみられる点は、賃金との関連性の高さも含めて気がかりであると述べた。ある委員は、物価との相関の強い賃金について、今年度もベアは確保されたものの小幅であったほか、感染症の影響が長引くとみられることを踏まえると、賃金にも当面下押し圧力が続くとの見方を示した。

2.経済・物価情勢の展望

2020年7月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて、経済活動が再開していくもとで、本年後半から徐々に改善していくとみられるが、世界的に感染症の影響が残る中で、そのペースは緩やかなものにとどまるとの見方で一致した。更に、委員は、その後、感染症の影響が収束すれば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、さらに改善を続けるとの見解を示した。委員は、先行きはきわめて不確実性が大きいが、今回の見通しについては、大規模な感染症の第2波が生じないことを前提とすることが適当であるとの認識を共有した。そのうえで、委員は、世界的に感染症が収束するまでは、企業や家計の自主的な感染防止への取り組みが、経済活動を抑制する力として、徐々に和らぎながらも、作用し続けるとの見方で一致した。

海外経済の先行きについて、委員は、感染症の影響が和らいでいくのに伴い、積極的なマクロ経済政策にも支えられて、大きく落ち込んだ状態から回復していくが、そのペースは緩やかなものにとどまるとの見方で一致した。何人かの委員は、新興国では感染拡大が収まらず経済への厳しい下押し圧力が続いている地域も多いほか、米国では感染が再拡大する中で一進一退の動きもみられるなど、海外経済の回復ペースについては慎重にみる必要があると指摘した。

国内需要について、委員は、感染症の影響が和らいでいくのに伴い、水準を回復していくと考えられるが、感染症の影響が残る間は、低い水準にとどまるとの見方を共有した。個人消費などの家計支出について、委員は、経済活動の再開に伴い、ペントアップ需要の顕在化に加え、政府の経済対策や緩和的な金融環境も支えとなり、大きく落ち込んだ状態から持ち直していくとの認識を示した。もっとも、委員は、人々の感染症に対する警戒感が続くもとでは、家計支出は抑制的な状態が続くとの見方で一致した。設備投資などの企業支出について、委員は、輸出や消費の大幅な減少の影響を強く受ける業種を中心に減少したあと、感染症の影響が和らぐもとで持ち直していくとの認識を共有した。

この間、委員は、政府の経済対策や緩和的な金融環境などによって、事業の継続や雇用の維持が支えられるとともに、わが国の企業や家計の中長期的な成長期待は大きく低下しないとみられるとの見方を共有した。そのうえで、委員は、その後、グローバルに感染症の影響が収束すれば、海外経済の成長を背景に輸出は増加を続け、家計や企業の支出は、再び、安定した増加基調に復していくとの認識で一致した。

こうした議論を経て、委員は、今回の経済の見通しは、概ね前回の見通しの範囲内であるとの見方で一致した。この間、一人の委員は、感染症を乗り越えるための構造変化には時間がかかることから、2022年度においても、経済は感染拡大前の水準には戻らないと述べた。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落などの影響を受けて、マイナスで推移するとの見方で一致した。委員は、感染症の影響から、経済活動の水準が低い状態が続くもとで、景気感応的な財やサービスの価格が下押しされるほか、ひと頃に比べて大きく下落した原油価格が、エネルギー価格を通じて消費者物価を押し下げるとの認識を共有した。委員は、そうしたもとで、中長期的な予想物価上昇率も、引き続き弱含むとの見方で一致した。

その後の物価の展望について、委員は、経済の改善に伴い、物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、エネルギー価格下落の影響が剥落していくことから、消費者物価の前年比は、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくとの見方で一致した。また、委員は、中長期的な予想物価上昇率も、再び高まっていくとの認識を共有した。そのうえで、委員は、時間はかかるものの、消費者物価の前年比は「物価安定の目標」に向けて上昇率を高めていくとの見方を示した。もっとも、複数の委員は、景気回復テンポが緩やかなもとで、見通し期間中に物価が2%に向けたモメンタムを取り戻す姿は想定しにくいと述べた。

こうした議論を経て、委員は、今回の物価の見通しは、概ね前回の見通しの範囲内であるとの見方で一致した。

次に、委員は、見通しの背景となる金融環境について議論を行った。委員は、感染症の影響による売上げ減少などから、企業の資金繰りにはストレスが加わっているものの、日本銀行・政府の措置や、そうしたもとでの民間金融機関の取り組みから、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されているとの認識で一致した。先行きについても、日本銀行・政府の措置や民間金融機関の取り組みのもとで、緩和的な金融環境は維持され、金融面から実体経済への下押し圧力が強まることが回避されると考えられるとの見方を共有した。

そのうえで、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について、感染症拡大の影響が収束するまでの間、特に注意が必要な点に関し、議論を行った。

まず、経済のリスク要因について、委員は、先行きの見通しは、感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさによって変わりうるため、不透明感がきわめて強いとの見方を共有した。また、委員は、感染症が収束するまでの間、人々が自主的に感染予防を図るもとで、内外の家計や企業の行動がどのようなものとなるかも不確実であるとの認識を共有した。何人かの委員は、世界的に感染拡大ピッチはむしろ加速しているほか、わが国も含め、感染の再拡大リスクが浮上している点には警戒が必要であると指摘した。ある委員は、感染症が再拡大する事態になれば、経済回復の時期は更に後ずれするため予断を許さないと述べた。また、何人かの委員は、感染症の影響が収束するまでの間、経済は、感染症の帰趨、マクロ経済政策、公衆衛生政策のバランスによって決定され、それらの間にはトレードオフも生じうると指摘した。このうち、一人の委員は、経済の回復は、財政・金融政策のほか、公衆衛生政策にも依存しており、その道のりは国やセクターで均一ではないと述べた。また、別のある委員は、感染症の影響が長引くと経済への下押し圧力も続き、支払い能力の問題の顕在化や休業者の失業者化などを通じて、雇用から所得・支出への循環が逆回転する可能性があるとの見方を示した。

更に、委員は、今回の見通しは、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下しないことや、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されることなどを前提としているが、そうした前提には大きな不確実性があるとの認識で一致した。複数の委員は、ミクロ情報からは、多くの企業が研究開発投資やデジタル化投資になお積極的である姿が窺われるほか、6月短観の設備投資計画でも増加計画が維持されていたことを踏まえると、現時点で企業の成長期待が下方屈折しているとはみられないと指摘した。このうちの一人の委員は、設備投資や雇用の調整は、短期的なものにとどまるとの見方を示した。もっとも、別の一人の委員は、感染症が人々のマインドへ与える影響や、企業の中長期的な成長期待の動向は、引き続き注視していく必要があると述べた。また、ある委員は、感染症によってもたらされる産業構造の変化を巡る不確実性も、消費や投資を手控える要因になると指摘した。

金融システムのリスクについて、委員は、感染症の影響が想定以上に大きくなった場合には、実体経済の悪化が金融システムの安定性に影響を及ぼし、それが実体経済への更なる下押し圧力として作用するリスクがあるとの認識を共有した。何人かの委員は、感染症の影響による実体経済の悪化が長期化すれば、流動性の問題からソルベンシーの問題に移行し、信用コストの増加を通じて、金融システムの安定性に影響が生じる恐れがあるため、金融機関との対話の機会も十分に活用しつつ、状況を慎重に点検していく必要があると述べた。委員は、日本銀行や政府が、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持のために積極的な対応を講じていることに加え、金融機関が資本・流動性の両面で相応に強いストレス耐性を備えていることから、現時点で、こうしたリスクは大きくないと判断しているが、先行きの動向を注視していく必要があるとの認識で一致した。

以上に加えて、複数の委員は、海外経済を巡っては、地政学的リスク、政治イベント、各国政府による支援が夏場以降も延長されるかといった点などについても不確実性が高く、見通し期間を通じて下方にリスクの厚い状況が続くとの見方を示した。一人の委員は、外需を中心に先行きの不透明感が強く、回復ペースは緩やかなものになると思われるため、慎重に内外の経済指標を点検することが肝要であると述べた。

次に、物価のリスク要因について、委員は、経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶとの認識を共有した。また、委員は、物価固有のリスク要因として、感染症の影響が、経済活動の需要・供給両面に及ぶもとでの、企業の価格設定行動に不確実性があるとの見方で一致した。ある委員は、感染症の影響による需給の変化が物価に与える影響は上下両方向あるうえ、予想物価上昇率の形成メカニズムなどを含め、わが国固有の不確実性もあるため、見極めが難しいと指摘した。これに対し、ある委員は、感染症の影響は負の需要ショックが大きいとみられ、需給ギャップの改善が緩慢とみられることや、短期の予想物価上昇率の低下が中長期に波及する兆候があることを踏まえると、物価には、当面、下押し圧力が掛かりやすいとの見方を示した。複数の委員は、企業の価格設定行動や予想物価上昇率の動向など、やや長い目でみた二次的な影響も含め、慎重かつ丁寧に点検していく必要があると指摘した。また、委員は、原油価格をはじめとする国際商品市況の動向や今後の為替相場の変動が物価に与える影響についても、注意してみていく必要があるとの認識を共有した。

以上の議論を経て、委員は、リスクバランスについては、経済・物価のいずれの見通しについても、感染症の影響を中心に下振れリスクの方が大きいとの見方を共有した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

金融政策の基本的な運営スタンスについて、大方の委員は、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFなどの積極的な買入れ、の「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが適当であるとの認識を共有した。ある委員は、その理由として、当面、景気の改善が緩やかなもとで資金繰りにはストレスがかかり続けるとみられるほか、金融市場の神経質な地合いも続くとみられることを強調した。複数の委員は、当面、「3つの柱」による対応の政策効果を丁寧かつ慎重に点検していくことが重要であると指摘した。このうち、一人の委員は、金融政策面の当面の最優先課題は、引き続き企業の資金繰り支援により、事業や雇用の維持に資することであると述べた。もう一人の委員は、物価には短期的には低下圧力が強まるとみられるものの、現時点では中長期的な予想物価上昇率は概ね維持されており、2%の「物価安定の目標」に向けた政策対応は、感染症の影響の収束がみえてきた段階で検討することが適切であるとの見方を示した。この間、ある委員は、「3つの柱」による対応は効果を発揮しているとしつつも、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいと述べた。

そのうえで、委員は、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。ある委員は、当面、政府と中央銀行、および主要中央銀行間での緊密な情報共有を継続し、既往の政策枠組みの十分性を見極め、政策対応が必要であれば迅速に実行することが重要であると述べた。また、一人の委員は、経済危機においては、財政政策と金融政策の適切かつ緊密な連携が必要不可欠であるとの見方を示した。ある委員は、財政政策との間だけでなく、ニューノーマルへの対応に向けた構造改革政策との間でも、それぞれの役割のもとで連携することが重要であると述べた。

次に、委員は、金融政策運営の観点から重視すべきリスクのうち、より長期的な視点からみた金融面の不均衡について議論を行った。委員は、低金利の長期化や人口減少、企業部門の貯蓄超過といった従来からの環境に加え、今般の感染症の影響もあって、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かうリスクがあるとの認識を共有した。一人の委員は、実質無利子貸出が一般の貸出の利鞘縮小圧力にもなりうると指摘したうえで、低金利下での金融機関の自己資本利益率の低下を含め、金融仲介機能面への副作用の累積には注意が必要であると述べた。一方で、委員は、現在の環境のもとでは、利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もあるとの認識を共有した。そのうえで、委員は、現時点では、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどから、これらのリスクは大きくないと判断しているが、先行きの動向は注視していく必要があるとの認識で一致した。

更に、委員は、先行きの金融政策運営上の留意点についても議論を行った。ある委員は、今回の危機の経験を踏まえ、ウィズ・コロナ時代の金融政策のあり方について、検討を深めるべきであり、予想物価上昇率や成長期待の更なる下振れと長期化のリスクに注意を払いつつ、政策の波及経路と効果の検証が必要であるとの見方を示した。この間、一人の委員は、経済を確実に回復軌道に乗せるためには、企業自身が成長戦略を立案・実行するマインドに早く戻す必要があり、中期的な視点から金融政策が企業経営に与える影響についても、慎重に点検すべきであると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」

これに対し、ある委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。なお、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、3月以降、日本銀行が新型コロナウイルス感染症の影響への対応として、導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの認識で一致した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、デフレの定着を容認せず、かつ具体的な条件下で行動することを約束する観点から、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

IV.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 現在、政府においては、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(「骨太方針2020」)や成長戦略等について、閣議決定に向けて与党とも調整しながら、議論を進めているところである。今回の「骨太方針2020」の原案でも確認されているとおり、これまでの累次の閣議決定や改革課題については、決められた方針に沿って、後退させることなく検討を進め、経済再生と財政健全化の両立にしっかり取り組んでいく方針である。
  • 日本銀行には、引き続き、企業金融の円滑確保や金融市場の安定維持等に万全を期すことで、金融経済活動の下支えに貢献されることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気は、感染症の影響により、輸出・生産が低迷するなど、極めて厳しい状況にあるが、個人消費に持ち直しの動きがみられるなど、下げ止まりつつある。先行きは、段階的に経済活動が再開されている中で、極めて厳しい状態から持ち直しに向かうことが期待される。今後は経済を成長軌道に戻していくことができるよう、緊急経済対策、補正予算を可能な限り迅速に実行することを通じて、事業の継続と雇用の維持により、経済をしっかりと下支えする。また、感染拡大防止と社会経済活動の両立を図っていく。
  • 政府は7月8日に「骨太方針2020」の原案を示した。コロナ対策と激甚化・頻発化する災害への対応の双方により、国民の生命・生活・雇用・事業を守り抜くとともに、行政分野を中心とするデジタル化の遅れや東京一極集中の危機管理上のリスクといった今般の感染症に際して浮き彫りとなった課題等の克服、「新たな日常」の早期実現に向け、実行すべき施策を5つの柱に整理している。
  • 政府としては、感染症との長期戦も見据え、状況の変化に応じ、臨機応変に対応することとしており、日本銀行においても事態の推移を注視して、引き続き、適切な金融政策運営を行っていただきたい。日本経済を新型コロナウイルス感染症の影響から早期に回復させるべく、引き続き、政府との間で危機感を共有しつつ、緊密な連携を行っていただきたい。

V.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員
反対:
片岡委員

片岡委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。なお、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行う。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員
反対:
なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

VI.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、7月16日に公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

議事要旨(2020年6月15、16日開催分)が全員一致で承認され、7月20日に公表することとされた。

VIII.金融政策決定会合の開催予定日の承認

2021年の金融政策決定会合の開催予定日が全員一致で承認され、会合終了後、公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」 本文に戻る

別紙

2020年7月15日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする1
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1] ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う2
      2. [2] CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行う。
  2. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。
    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。
    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員。反対:片岡委員。片岡委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る
  2. ETFおよびJ-REITの原則的な買入れ方針としては、引き続き、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行い、その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。 本文に戻る