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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2020年10月28、29日開催分)

2020年12月23日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2020年12月17、18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2020年10月28日(14:00~15:59)
 
10月29日( 9:00~12:05)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
櫻井 眞 (審議委員)
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
安達誠司 (  審議委員  )
中村豊明 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 阪田 渉  大臣官房総括審議官(28日)
中西 健治 財務副大臣(29日)
 
内閣府 田和 宏  内閣府審議官(28日)
赤澤 亮正 内閣府副大臣(29日)
(執行部からの報告者)
理事 内田眞一
理事 清水季子
理事 貝塚正彰
企画局長 清水誠一
企画局政策企画課長 飯島浩太
金融市場局長 大谷 聡
調査統計局長 亀田制作
調査統計局経済調査課長 川本卓司
国際局長 福本智之
(事務局)
政策委員会室長 中島健至
政策委員会室企画役 本田 尚
企画局企画役 一瀬善孝
企画局企画役 土川 顕
企画局企画役 長江真一郎

1.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(9月16、17日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援のための措置として、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペを実施した。また、金融市場の安定を維持する観点から、国債買入れやドルオペなどによる、潤沢かつ弾力的な資金供給を行ったほか、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れを実施した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は、-0.06~-0.01%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分上昇している。

株価(日経平均株価)は、米国株価が企業業績の回復期待等から上昇したあと、新型コロナウイルスの感染拡大から下落するもとで、横ばい圏内で推移している。長期金利は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。国債市場の流動性について、金利の変動が落ち着いている中で、現物の取引高は低めの水準で推移しているが、先物の板の厚さなどは、改善傾向を辿っている。為替相場をみると、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場とも、概ね横ばいとなっている。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直している。前回会合以降、グローバルベースでみた新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は更に増加しており、特に欧州の多くの国や米国では、足もとの新規感染者数は過去のピーク近傍かそれを上回る水準となっている。もっとも、これらの国でも、その殆どは、これまでのところ、感染対策と経済活動を両立する観点から、公衆衛生上の措置のターゲットを絞るなど、春先のような厳格かつ広範な都市封鎖等は回避している。こうしたもとで、人出の減り方も春先と比べれば小幅にとどまっており、非製造業・サービス部門の改善基調も維持されているとみられる。この間、製造業・財部門についてみると、ペントアップ需要の顕在化や挽回生産の動きも反映して、企業の業況感は改善を続けており、世界生産や世界貿易量も持ち直しが明確化している。先行きの世界経済については、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、各国・地域の積極的なマクロ経済政策にも支えられて、改善していくとみられる。ただし、当面は、感染症への警戒感から、人々の支出活動には慎重さが残るため、改善ペースは緩やかなものにとどまる可能性が高い。また、感染症の帰趨や、それが世界経済に与える影響を中心に、引き続き、きわめて不確実性が大きい。

地域別に動きをみると、米国経済は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直している。個人消費は、新規感染者数が再び増加するもとでサービス消費が引き続き落ち込んだ状態にあるものの、政府による家計所得の補填政策やペントアップ需要の顕在化などを受けて、財消費を中心に持ち直している。住宅投資は、住宅ローン金利が既往最低水準で推移するもとで、増加している。企業部門をみると、業況感は改善が続いており、生産も持ち直している。こうしたもとで、設備投資は、企業収益の減少などから、全体としてみれば落ち込んだ状態にあるが、機械投資などに持ち直しの動きもみられる。

欧州経済は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直している。ユーロエリアでは、個人消費は、感染症の再拡大を受けた公衆衛生上の措置の強化もあってサービス消費が引き続き落ち込んだ状態にあるものの、ペントアップ需要の顕在化などを受けて、総じてみれば、財消費を中心に緩やかに持ち直している。企業部門をみると、業況感は、感染の再拡大からサービス業では幾分悪化しているが、製造業では改善が続いており、輸出や生産も持ち直している。こうしたもとで、設備投資は、企業収益の減少などから、全体としてみれば落ち込んだ状態にあるが、一部に持ち直しの動きもみられる。

中国経済は、積極的なマクロ経済政策の効果発現やペントアップ需要の顕在化から、回復している。輸出は、増加している。個人消費は、一部で感染症の影響が残るものの、雇用・所得環境の改善やペントアップ需要の顕在化などを受けて、増加している。固定資産投資は、積極的なマクロ経済政策の効果発現を受けて、公共関連等が増加しているほか、製造業にも政策効果が波及していることなどから、引き続き増加している。こうしたもとで、生産は増加している。

中国以外の新興国経済は、落ち込んだ状態が続いているが、一部に持ち直しの動きもみられる。NIEs・ASEAN経済は、感染症の影響から内需が落ち込んだ状態が続いている先もみられるが、全体としてみれば、輸出や生産面を中心に持ち直しの動きが拡がっている。インドやブラジル、ロシア経済は、新規感染者数はなお高水準で推移しており、落ち込んだ状態が続いているが、持ち直しの動きもみられる。

海外の金融市場をみると、米国では、良好な経済指標などを受けて、株価・長期金利とも上昇した。一方、欧州では、新規感染者数の増加や、これを受けた公衆衛生上の措置の強化を背景に、株価は下落し、長期金利も低下した。為替市場では、米ドルの低下基調が一服する中で、新興国通貨は、全体としてみれば幾分下落した。原油価格は、横ばい圏内で推移した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が再開するもとで、持ち直している。先行きについては、経済活動が再開し、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、当面の間、持ち直しを続けるとみられる。

輸出や鉱工業生産は、海外経済の動きを反映して、増加している。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、米欧中の自動車販売の回復を反映して、はっきりと増加している。情報関連は、データセンター向けやパソコン関連の堅調さに車載向けの持ち直しも加わり、増加に転じている。資本財は、世界的な生産活動の回復を受けて下げ止まっている。先行きの輸出や生産は、世界的に感染症の影響が和らいでいく中で、当面は、ペントアップ需要にも支えられて、しっかりとした増加を続けるとみられる。

個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費は依然として低水準となっているが、全体として徐々に持ち直している。財消費については、自動車販売は、感染症拡大前の水準を回復している。家電販売は、在宅時間の長期化や特別定額給付金の効果もあって、底堅さを維持しているが、足もとでは増勢が鈍化してきている。また、食料品や日用品などは、巣ごもり消費の拡大を背景に底堅さを維持している。サービス消費は、緊急事態宣言が発令されていた4~5月をボトムに持ち直しの動きがみられるものの、7月以降は感染者数の再拡大もあって足踏みするなど、そのペースは緩慢なものにとどまっている。水準でみても、外食や旅行などの対面型サービスを中心に、依然として低い。外食は、5月以降、徐々に水準を切り上げてきたが、なお感染症による落ち込みの半分程度しか取り戻していない。旅行は、国内旅行は都道府県をまたぐ移動の自粛の緩和やGo Toトラベル事業の効果から、低水準ながらも徐々に持ち直している一方、海外旅行は、渡航制限の継続によりほぼ皆減の状態が続いている。先行きの個人消費は、Go Toキャンペーンなどの需要刺激策にも支えられて、持ち直しが続くとみられる。もっとも、感染症の影響が残る間は、外食や個人向けサービスなどの稼働率低下は避けられないうえ、高齢者を中心とした感染症への根強い警戒感を背景に、増加ペースはかなり緩やかなものとなる可能性が高い。

雇用・所得環境をみると、感染症の影響が続く中で、弱い動きがみられている。雇用面では、7~8月の労働力調査の就業者数は、対面型サービス業における非正規雇用者の減少を主因に、4~6月並みの前年比マイナスとなった。月末1週間の就業時間がゼロの休業者は4月に急増したが、その後減少傾向を辿り、8月は概ね3月並みの水準に復している。もっとも、一人当たりの労働時間は、なお大きめの前年比マイナスが続いている。労働需給面では、短観の雇用人員判断DIは、悪化に歯止めがかかっている。ただし、需要の減少が顕著な宿泊・飲食業では、雇用の過剰感が強い状態が続いている。名目賃金は、所定外給与と夏季賞与の減少を主因に、下落している。先行きの雇用者所得は、当面、企業収益の減少にややラグを伴うかたちで、はっきりとした減少を続けると見込まれる。

企業収益は、内外需要の急減を反映して、大幅に悪化している。業況感は、大幅に悪化したあと、幾分改善している。短観の業況判断DI(全産業全規模)は、6月調査では「悪い」超幅が2009年12月以来の低水準まで落ち込んだが、9月調査では「悪い」超幅が小幅に縮小した。設備投資は、企業収益の悪化や先行き不透明感の高まりを背景に、減少傾向にある。機械投資の一致指標である資本財総供給は、はっきりとした減少が続いている。建設投資の一致指標である建設工事出来高(民間非居住用)も、オリンピック関連の大型案件の一巡もあって、緩やかな減少傾向が続いている。機械投資の先行指標である機械受注は、輸出・生産の増加を受けて、製造業を中心に下げ止まりの兆しもみられる。一方、建設投資の先行指標である建築着工は、飲食・宿泊業等による店舗や宿泊施設の建設減少の影響が大きく、このところ減少傾向が明確となってきている。9月短観の2020年度の設備投資計画は、小幅ながら、9月調査時点としては2009年度以来となる前年比マイナスとなった。この間、ソフトウェア投資は、企業のデジタル関連投資への積極的なスタンスを反映して、しっかりとした増加計画が維持されている。先行きの設備投資は、企業収益の悪化や感染症に関する先行き不透明感の高さを背景に、当面は、対面型サービスの建設投資を中心に減少傾向が続くとみられる。もっとも、大幅な資本ストック調整には至らず、感染症の影響が和らいでいく中で、企業収益の改善に伴い、設備投資は緩やかな増加基調に復していくと考えられる。

物価面について、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、感染症や既往の原油価格下落、Go Toトラベル事業の影響などを受けて、小幅のマイナスとなっている。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比も、当面、マイナスで推移するとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっている。

予想物価上昇率は、弱含んでいる。

資金需要面では、足もと大企業を中心に一服する動きもみられるが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた売上げの減少や予備的な需要などを背景に高水準の資金需要が継続している。企業の資金繰りは、悪化には歯止めがかかっているが、感染症の影響を受けた売上げ減少などを背景に厳しさがみられる。もっとも、日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、低水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、6%台前半のプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、10%を超える高めのプラスで推移している。

この間、マネタリーベースは、前年比で14%台前半の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、9%程度の伸びとなっている。

2.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、経済活動の再開が進むもとで、米国を中心とした企業業績の回復期待が高まっていることなどから、ひと頃の緊張は緩和しているとの認識で一致した。もっとも、委員は、内外経済の不透明感が強いもとで、世界的に感染拡大が続いており、引き続き、神経質な状況にあるとの見方を共有した。このうちの何人かの委員は、感染症の影響以外にも、米国大統領選挙や、英国とEUの通商交渉など、国際金融市場に影響を及ぼし得る様々な不確実性があるとの認識を示した。一人の委員は、米国市場において、低格付け社債の動向などに留意する必要があると述べた。別の委員は、市場参加者のリスク認識の偏りを示す指標について、ドル/円のリスクリバーサルでは円高警戒感が高まっていると指摘した。

海外経済について、委員は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しているとの認識で一致した。もっとも、何人かの委員は、海外経済の持ち直しの動きは緩やかで、かつ不均一であると述べた。このうちの一人の委員は、感染症の動向次第で、国ごとに回復の足取りにばらつきがあることや、業種ごとにも、製造業に比べ非製造業、とりわけ対面型サービス業を中心に持ち直しのペースが緩慢であることを指摘した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、米国経済は財消費を中心に持ち直しつつあり、若年・中年層の成長期待が下振れているようには窺えないことから、先行きも持ち直しが続くとの見方を示した。もっとも、ある委員は、雇用の回復は道半ばであるほか、企業収益の減少を受けて設備投資の動きも鈍いと述べた。

欧州経済について、委員は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しているとの見方を共有した。もっとも、何人かの委員は、感染者数が急増する中で、足もと主要国で公衆衛生上の措置が強化されており、経済が再び停滞するリスクには注意が必要であると述べた。このうち、一人の委員は、感染症の影響が長期化する中で、いわゆる「財政の崖」が生じないように、財政措置による必要な支援が継続するかという点にも注目していると述べた。

中国経済について、委員は、積極的なマクロ経済政策の効果発現やペントアップ需要の顕在化から、回復しているとの認識で一致した。一人の委員は、世界経済の回復ペースが緩慢である中、米中間の緊張の高まりなどの影響もあって、当面は外需主導での回復は見込み難く、内需を中心とした回復が続くとの認識を示した。 

新興国経済について、委員は、落ち込んだ状態が続いているが、一部に持ち直しの動きもみられるとの認識を共有した。ある委員は、感染症の影響が長引いた場合、財政余力が乏しい国での政策対応が難しくなるリスクがあるもとで、債務支払猶予イニシアティブなど、こうしたリスクを軽減させる取り組みは重要であると述べた。

わが国の金融環境について、委員は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっているとの認識で一致した。一人の委員は、短観の資金繰り判断DIは、中小企業を中心に引き続き厳しさがみられており、売上げの減少や予備的需要などによる資金需要は継続していると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しているとの見方で一致した。何人かの委員は、感染症の動向には引き続き注意が必要だが、感染症対策と経済活動の両立が図られる局面になってきているとの見解を示した。輸出や生産について、委員は、海外経済の動きを反映して、増加しているとの認識で一致した。このうち、何人かの委員は、内外の経済活動の再開に伴って、特に自動車関連を中心に復調の動きが明確になっていると述べた。個人消費について、委員は、飲食・宿泊等のサービス消費は依然として低水準となっているが、全体として徐々に持ち直しているとの見方を共有した。複数の委員は、Go Toキャンペーンなどの政府の需要喚起策の効果により、サービス消費への需要も足もとで高まってきているとの見方を示した。もっとも、一人の委員は、特別定額給付金による可処分所得の押し上げ効果が徐々に剥落してきていることへの懸念を示した。設備投資について、委員は、企業収益の悪化や先行き不透明感の高まりを背景に、減少傾向にあるとの認識を共有した。一人の委員は、短観の設備投資計画の下方修正や、企業による設備投資の先送りの動きの拡がりを指摘した。一方、別の委員は、短観の設備投資計画の修正状況や機械受注の動向をみると、リーマン・ショック時と比べて落ち込み度合いは軽度にとどまっていると述べた。雇用・所得環境に関して、委員は、感染症の影響が続く中で、弱い動きがみられているとの認識で一致した。そのうえで、複数の委員は、政府・日本銀行の政策の効果もあって、経済情勢の悪化に比べれば雇用の落ち込みは抑制されているとの見方を示した。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、感染症や既往の原油価格下落、Go Toトラベル事業の影響などにより小幅のマイナスとなっており、予想物価上昇率は弱含んでいるとの認識を共有した。そのうえで、何人かの委員は、一時的な要因から、物価は当面弱めの動きが続くものの、デフレ期にみられたような、値下げにより需要喚起を図る価格設定行動は拡がっていないと述べた。このうちの一人の委員は、需要減少が感染防止のための経済活動抑制による状況では、企業は価格引き下げによる需要喚起が見込めないと考えているのではないかとの見方を示した。また、この委員は、この間の政府の大規模な所得支援策は、支出や物価を下支えする方向に働いていると付け加えた。

2.経済・物価情勢の展望

2020年10月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて、経済活動が再開し、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、わが国経済は改善基調を辿るが、感染症への警戒感が残る中で、そのペースは緩やかなものにとどまるとの認識を共有した。また、委員は、その後、世界的に感染症の影響が収束していけば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済は更に改善を続けるとの見方で一致した。委員は、先行きはきわめて不確実性が大きいが、今回の見通しについては、感染対策と経済活動の両立に向けた取り組みが進展するもとで、広範な公衆衛生上の措置が再び導入されるような感染症の大規模な再拡大はないこと、また、見通し期間の終盤にかけて感染症の影響が概ね収束していくことを前提とすることが適当であるとの認識を共有した。

海外経済の先行きについて、委員は、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、各国・地域の積極的なマクロ経済政策にも支えられて、改善していくとみられるが、そのペースは緩やかなものにとどまるとの見方で一致した。また、委員は、その後、見通し期間の終盤にかけては、感染症の影響が概ね収束していくもとで、世界的に製造業の生産活動の回復が続くほか、対面型サービス消費なども次第に回復することから、改善が続くとの見解を共有した。何人かの委員は、先行き、感染症の帰趨に加え、米中間の緊張の高まり、英国とEUの通商交渉、米国大統領選挙などのリスク要因もあり、不確実性が大きいと指摘した。

わが国の輸出について、委員は、財については、当面、自動車関連を中心に増加するが、その後は、世界的に感染症の影響が和らぐにつれて、資本財なども含め、幅広く増加していくとの見方で一致した。また、サービス輸出であるインバウンド消費については、入国制限がかかり続ける間、落ち込んだ状態が続くとみられるが、その後は、入国制限が徐々に緩和されていくのに伴い、回復していくとの認識を共有した。

個人消費について、委員は、政府の経済対策などにも支えられて、持ち直しを続けるとみられるが、感染症への警戒感が続くもとでは、対面型サービス消費を中心にそのペースはかなり緩やかなものにとどまるとの見方で一致した。更に、その後は、新しい生活様式への適応が進み、感染症の影響が和らぐもとで、雇用者所得の改善にも支えられて、増加基調が次第に明確になっていくとの認識を共有した。これに対し、一人の委員は、個人資産で株式よりも大きな割合を占める土地の価格が下落に転じたことが、消費者マインドに及ぼす影響が心配されると述べた。雇用・所得環境について、委員は、政府の経済対策や緩和的な金融環境などが雇用を下支えするものの、企業収益の悪化や労働需給の緩和を背景に、当面、下押し圧力がかかるとの見方を共有した。一人の委員は、企業収益の減少がラグを伴って雇用者所得に波及してきていることに加え、来年の賃金上昇への期待低下や雇用不安の拡がりが懸念されると述べた。もっとも、その後は、内外需要の回復に伴い、雇用・所得環境も改善基調に転じていくとの認識で一致した。この間、複数の委員は、賃金・雇用の構造変化に関して意見を述べた。一人の委員は、一律の定期昇給が失われていくことが賃金に及ぼす影響に留意が必要と述べた。別の委員は、企業が雇用維持を優先して付加価値を高める改革を先送りすれば、コスト構造の見直しを余儀なくされ、賃金を抑える可能性があるが、一方で、大手企業では、年功序列や終身雇用からミッションや成果に基づく人事への見直しが拡がっており、こうした改革が雇用の流動化に繋がっていくことが期待されると述べた。

設備投資について、委員は、感染症の影響を強く受ける業種を中心に、当面、減少傾向が続くとみられるとの見方で一致した。もっとも、緩和的な金融環境が維持されるもとで、グローバル金融危機時のような大規模な調整には至らず、感染症の影響が和らぐ中で、企業収益の改善に伴い、緩やかな増加基調に復していくとの見方を共有した。複数の委員は、中長期的な成長期待が維持されるもとで、成長のための研究開発投資や、省力化投資などが堅調に推移し、設備投資の落ち込み幅は小幅にとどまると考えられるとの見解を示した。また、一人の委員は、投資が所有から利用にシフトし、クラウドやシェアリング化の傾向が拡大するもとで、今後、日本全体では投資の効率が上がり、重複投資が排除されるとみているが、状況の注視が必要との見解を述べた。この間、公共投資について、委員は、災害復旧・復興関連工事や国土強靱化関連工事の進捗を反映して着実に増加したあと、高めの水準で推移すると予想しているとの見解で一致した。

こうした議論を経て、委員は、経済の見通しは、前回と比べると、サービス需要の回復の遅れを主因に2020年度は下振れているが、2021年度は幾分上振れ、2022年度は概ね不変との見方で一致した。一人の委員は、先行き、感染拡大防止と経済活動の両立を図りながら、経済活動の水準を緩やかに戻していくという構図は維持されているとの見方を示した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落、Go Toトラベル事業の影響などを受けてマイナスで推移するとの見方で一致した。委員は、感染症の影響から、経済活動の水準が低い状態が続くもとで、景気感応的な財やサービスの価格が下押しされるほか、既往の原油価格下落も、エネルギー価格を通じて消費者物価を押し下げるとの認識を共有した。委員は、そうしたもとで、中長期的な予想物価上昇率も、引き続き弱含むとの見方で一致した。この間、複数の委員は、Go Toトラベル事業による宿泊料の割引などは、一時的な相対価格の変動であり、一般物価全般の動向を規定するものではないとの見解を示した。そのうえで、このうちの一人の委員は、短期的な見通しという観点からは、相対価格の変動の背景や影響についても認識しておく必要があると述べた。

その後の物価の展望について、委員は、経済の改善に伴い、物価への下押し圧力が次第に減衰していくことに加え、原油価格下落の影響なども剥落していくことから、消費者物価の前年比はプラスに転じるとの見方で一致した。また、委員は、中長期的な予想物価上昇率も再び高まり、時間はかかるものの、物価は、先行き「物価安定の目標」に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。一人の委員は、値下げで需要喚起を図る動きが広範化していないことや、政府の所得支援策が家計の支出を下支えしていることを指摘し、物価が全般的かつ持続的に下落していくリスクは大きくないとの見解を示した。別の委員は、物価は、需給ギャップや予想インフレ率の改善が緩慢なことに加えて、過去の物価上昇率が弱いことが事後的に影響し、上昇のペースはきわめて緩やかになるとの見方を示した。この委員は、わが国のバックワードルッキングな物価予想形成と予想インフレ率の粘着性を前提とすると、近い将来に予想インフレ率が上昇する姿を合理的に描くことは難しいと付け加えた。

こうした議論を経て、委員は、物価の見通しは、前回と比べると概ね不変であるとの見方で一致した。

次に、委員は、見通しの背景となる金融環境について議論を行った。

委員は、日本銀行が、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を推進していることに加え、3月以降は、感染症への対応として、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に向けて、各種の強力な金融緩和措置を実施していること、また、政府が、信用保証協会による保証を利用した融資制度や資本性資金を供給する制度など、企業等の資金繰りを支援するための各種の施策を講じていること、更に、民間金融機関も積極的に金融仲介機能を果たしていることを、改めて確認した。そのうえで、委員は、そうしたもとで、企業の資金繰りには厳しさがみられるが、銀行借入やCP・社債発行といった外部資金の調達環境は、緩和的な状態が維持されているとの見方で一致した。一人の委員は、企業の資金繰りの焦点が年末よりも来年3月末に移行しつつあると述べた。そのうえで、委員は、この先も、日本銀行・政府の措置や、そうしたもとでの民間金融機関の取り組みから、緩和的な金融環境が維持され、金融面から実体経済への下押し圧力が強まることは回避されるとの認識を共有した。

更に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について、感染症拡大の影響が収束するまでの間、特に注意が必要な点に関し、議論を行った。

まず、経済のリスク要因について、委員は、先行きの見通しは、感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさによって変わり得るため、不透明感がきわめて強いとの見方で一致した。委員は、感染症が収束するまでの間、人々が自主的に感染予防を図るもとで、内外の家計や企業の行動がどのようなものとなるか不確実であるとの認識を共有した。多くの委員は、欧州を中心に、感染再拡大を受けた行動規制が取られ始めていることには注意が必要との見方を示した。このうちの一人の委員は、欧米では人々の移動や飲食業等の営業に規制をかける動きもみられており、サービス業については二番底の懸念も否定できなくなってきていると述べた。もう一人の委員は、世界貿易量やわが国の輸出・生産の増加基調が維持されるかは不確実性が高いほか、世界的にサービスセクターの緩慢な回復が見込まれている中、見通し期間後半にかけて、慎重にみていくと述べた。別のある委員は、わが国経済は回復しつつあるが、2018年秋以降の景気後退、消費税率引き上げの影響に加え、感染症の影響が残る中、回復速度は遅く、回復後の水準に不確実性があるとの認識を示した。

また、委員は、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されると考えているが、これらの点には大きな不確実性があるとの見方で一致した。委員は、このうち、金融システムのリスクについて更に議論を行った。委員は、感染症の影響が想定以上に大きくなった場合には、実体経済の悪化が信用リスクの顕在化を通じて金融システムの安定性に影響を及ぼし、それが実体経済へのさらなる下押し圧力として作用するリスクがあるとの認識を共有した。一人の委員は、企業の債務支払能力の実態把握に時間がかかることや見かけよりも実態が悪化している可能性にも注意が必要との見方を示した。ある委員は、先行き企業金融面での課題は、短期的な資金繰りから事業継続に関わるものに移行していくと指摘した。そのうえで、委員は、現時点で、金融面から実体経済が下押しされるリスクは大きくないと判断しているが、先行きの動向を注視していく必要があるとの見解を共有した。

以上に加えて、複数の委員は、海外経済を巡っては、地政学的リスク、政治イベント、各国政府による支援がどこまで延長されるかといった点についての不確実性も大きく、下方にリスクの厚い状況が続くとの見方を示した。

次に、物価のリスク要因について、委員は、経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶとの考えを共有した。また、委員は、物価固有のリスク要因として、感染症の影響が、経済活動の需要・供給両面に及ぶもとで、企業がどのような価格設定行動を取るか、更に、それがマクロ的に物価にどのような影響を及ぼすかについて、不確実性が大きいとの見方で一致した。また、委員は、原油価格をはじめとする国際商品市況の動向や今後の為替相場の変動が物価に与える影響についても、注意してみていく必要があるとの認識を共有した。一人の委員は、今のところ値下げにより需要喚起を図る動きは広範化していないが、今後、家計の雇用・所得環境の厳しさが一層強まっていくと、企業の価格決定行動にも影響を与え得るとの見解を示した。複数の委員は、わが国に根強い適合的な期待形成メカニズムのもとで、実際の物価下落が人々の見方に影響を及ぼす可能性があることなどを踏まえ、物価や予想インフレ率の動向を注意深く点検していく必要があると指摘した。ある委員は、雇用・所得の低迷、海外イベントによる金融市場の動揺等による物価と予想インフレ率の下振れリスクを警戒すべきであると述べた。

以上の議論を経て、委員は、リスクバランスについては、経済・物価のいずれの見通しについても、感染症の影響を中心に、下振れリスクが大きいとの見方を共有した。

3.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

当面の金融政策の基本的な運営スタンスについて、大方の委員は、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFなどの積極的な買入れ、の「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが適当であるとの認識を共有した。一人の委員は、その理由として、先行きの経済・金融情勢には大きな不確実性がある中、「3つの柱」は、特別プログラムの総枠に余裕があることや、国債買入れに上限が無いこと、ETFなどの買入れも、市場の状況次第で大きく増額可能なことなどから、当面の様々な情勢変化にも柔軟に対応できる作りになっていることを強調した。この委員は、「3つの柱」により金融緩和を続けることは、経済の下支えを通じて「物価安定の目標」を実現することに繋がると続けた。別の委員は、失業や倒産の急速な増加は回避されており、企業の資金繰り対応も進んでいるとみられるため、当面は政策効果を見極めていくことが適切であると指摘した。もう一人の委員は、既往の政策対応は効果を発揮しているが、企業の資金繰り確保と雇用の維持は、現在でもなお最優先課題であると述べた。また、ある委員は、ウィズ・コロナの金融政策においては、政府の経済財政政策と連携しつつ、喫緊の課題である国民の雇用と所得の維持を強く意識した運営が望まれるとし、感染症の影響が長期化することも視野に入れて、感染症への対応措置も含め政策の時期尚早な手じまいは避けるべきであると述べた。もう一人の委員も、先行きの不確実性が高いもとで、3月末に期限を迎える措置について、適切なタイミングで延期を含めた検討を行うべきとの意見を述べた。この間、一人の委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいと述べた。

そのうえで、委員は、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。一人の委員は、金融市場急変の可能性には最大限の警戒をもって臨み、経済・物価への影響を踏まえて必要があれば、機動的な政策対応をすべきであると述べた。別の委員は、経済の回復ペースが遅れれば、企業の信用リスクの顕在化を通じて、金融システムに影響を及ぼす可能性に十分注意する必要があるとしたうえで、政府と中央銀行、および主要中央銀行間での情報交換や協力関係を堅持しつつ、必要に応じて迅速かつ適切な政策対応を行う必要があるとの見解を述べた。

委員は、金融政策運営に関連する各種の留意点についても議論を行った。ある委員は、足もと、無担保コール翌日物金利の上昇圧力が幾分高まっていることについて、他の中央銀行が緩和姿勢を強める中、本行の緩和姿勢が後退しているといった誤ったメッセージと市場に受け取られないよう、コミュニケーションには十分留意する必要があるとの認識を示した。別の一人の委員は、10年物国債金利はゼロ%程度を維持しつつ、イールドカーブの超長期の部分が緩やかなペースでスティープ化することは、金融機関の運用収益の確保に繋がり、金融緩和の長期化と金融システムの安定の両立の観点からも望ましいと述べた。また、この委員は、ETFやJ-REITについては、当面積極的な買入れを維持する必要があるが、金融緩和の長期化が展望される中、資産価格のプレミアムへの働きかけが真に必要なタイミングでの買入れが困難にならないように、政策の持続力を高める工夫の余地を探るべきと述べた。

その他の留意点として、一人の委員は、企業の資金繰りをしっかり支えることは有益である一方、危機対応が長期化するほど持続的な成長に向けた構造改革を遅らせるといった可能性には留意すべきであると述べた。別の委員は、感染症の抑制と経済活動の両立といった、ウィズ・コロナの視点から、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた政策対応について議論を整理していく必要があると述べた。また、一人の委員は、今後、仮に感染が再拡大し経済が下押しされると、物価上昇率がマイナス圏で推移する期間が長期化し、デフレが定着する可能性があるため、金融政策運営上、注意を要するとの見方を示した。更に、ある委員は、企業による付加価値の創出に向けた取り組みを支援するため、M&Aのための資金調達や投資非適格企業による起債などを含め、より多くの成長投資資金が企業に流れる仕組みの整備を支援することが重要であると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」

これに対し、ある委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。なお、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、3月以降、日本銀行が新型コロナウイルス感染症の影響への対応として、導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの認識で一致した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、デフレの定着を容認せず、かつ具体的な条件下で行動することを約束する観点から、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 令和3年度予算の概算要求が9月末に締め切られ、予算の編成作業がスタートした。新型コロナウイルス感染症への対応により、足もとの財政は悪化しているが、経済再生と財政健全化の両立をしっかりと進めつつ、今般の危機を乗り越え、次の世代に未来を繋いでいくことが我々の責任だと考えている。「新経済・財政再生計画」のもと、これまでの歳出改革の取り組みを続け、質の高い予算を作り上げていく。
  • 先般のG20では、感染症による下方リスクに対応しつつ、世界経済の回復を支援し、金融システムの強靱性を強化するため、必要とされる間は、すべての利用可能な政策手段を引き続き用いること等を改めて確認した。
  • 政府としては、感染症対応とともに、デフレ脱却と持続的な経済成長を実現すべく、各種政策を推進する。日本銀行には、必要な措置を適切に講じることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国景気は持ち直しの動きがみられており、先行きも、新型コロナウイルス感染症の影響が和らいでいけば、持ち直しを続けると考えられる。もっとも、業種や分野によって回復のペースが異なることや、欧米などの感染症の状況や経済への影響に注視が必要である。
  • 緊急経済対策などの政府の取り組みは、これまでに相応の効果を発揮している。政府としては、今後とも雇用の確保、事業の継続に万全を期すとともに、経済財政諮問会議を司令塔として、デジタル化等の改革の基本的方向性と重点課題を議論し、改革を具体化していく。
  • 日本銀行においては、事態の推移を注視し、引き続き適切な金融政策運営を行って頂きたい。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員
反対:
片岡委員

片岡委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。なお、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行う。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員
反対:
なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、10月30日に公表することとされた。

7.議事要旨の承認

議事要旨(2020年9月16、17日開催分)が全員一致で承認され、11月4日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」 本文に戻る

別紙

2020年10月29日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする1
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1] ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う2
      2. [2] CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行う。
  2. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。
    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。
    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員。反対:片岡委員。片岡委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る
  2. ETFおよびJ-REITの原則的な買入れ方針としては、引き続き、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行い、その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。 本文に戻る