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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2021年9月21、22日開催分)

2021年11月2日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2021年10月27、28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1. 開催日時:
2021年9月21日(14:00から15:43)
 
9月22日(9:00から11:40)
2. 場所:
日本銀行本店
3. 出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
4. 政府からの出席者:
  • 財務省   小野平八郎 大臣官房総括審議官(21日)
  • 中西 健治 財務副大臣(22日)
  • 内閣府   井上 裕之 内閣府審議官(21日)
  • 赤澤 亮正 内閣府副大臣(22日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 清水誠一
  • 企画局審議役 福田英司(22日10:05から11:40)
  • 企画局政策企画課長 川本卓司
  • 金融市場局長 大谷 聡
  • 調査統計局長 亀田制作
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 中島健至
  • 政策委員会室企画役 本田 尚
  • 企画局企画調整課長 中嶋基晴(22日10:05から11:40)
  • 企画局企画役 東 将人
  • 企画局企画役 門川洋一

1. 金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1. 最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(7月15、16日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持の観点から、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペを実施したほか、国債買入れやドルオペなどにより潤沢かつ弾力的な資金供給を行った。また、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとで、ETFおよびJ-REITの買入れを運営した。

2. 金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.04から-0.01%程度で推移しているほか、GCレポレートは、-0.13から-0.06%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。なお、9月積み期より、「地域金融強化のための特別当座預金制度」による特別付利の適用が開始されたが、短期金利は、これまでのところ、8月積み期前半と概ね同水準で推移している。

株価(TOPIX)は、国内の感染者数が減少する中で、米欧対比でみた本邦株価の割安感の修正等を背景に、大きめに上昇した。もっとも、足もとでは、中国不動産大手の債務問題に対する懸念などから、やや大きめに下落している。長期金利は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場ともに、概ね横ばい圏内で推移している。

3. 海外金融経済情勢

海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。グローバルにみた企業の業況感は改善しており、製造業の生産水準や貿易量は、昨年春頃の感染症拡大前の水準を大きく上回って推移している。一部の新興国では、変異株の感染拡大もあって経済への下押し圧力は残るものの、先進国や中国が海外経済の回復を牽引している。先行きの海外経済については、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、総じてみれば回復を続けるとみられる。ただし、ワクチンの普及ペースの違いなどを背景に、回復の足取りは各国間で不均一なものとなる可能性が高い。また、感染症の帰趨や、それが海外経済に与える影響について、引き続き、不確実性が大きい。

地域別に動きをみると、米国経済は、回復している。個人消費は、変異株の感染拡大に伴いサービス消費の改善ペースに鈍化がみられるものの、経済対策の効果などから増加している。雇用者数は増加しているが、経済活動の再開ペースとの対比では、回復度合いは依然として緩やかになっている。企業部門をみると、業況感の改善が続くもとで、設備投資は、機械投資を中心に増加している。

欧州経済は、持ち直している。個人消費は、経済活動の再開が継続するもとで、サービス消費も含め、はっきりと回復している。企業部門をみると、業況感は、サービス業を中心に改善しており、輸出や生産も持ち直し基調を辿っている。こうしたもとで、設備投資は持ち直している。

中国経済は、回復を続けている。個人消費は、一部で感染症の影響が残るものの、雇用・所得環境の改善などを受けて、増加している。固定資産投資は、内外の需要回復や堅調な企業収益を背景に、製造業を中心として増加を続けている。こうしたもとで、生産も増加を続けている。

中国以外の新興国経済は、一部の国・地域では感染症の再拡大による内需の下押しや生産面での影響がみられるものの、堅調な外需に支えられて、全体としては持ち直しの動きを維持している。NIEs経済は、一部に感染拡大の影響が引き続きみられるものの、輸出が増加するもとで、回復基調が続いている。ASEAN経済は、感染再拡大の影響が続く中、内需への下押し圧力が残るほか、輸出の増勢も弱まっており、持ち直しのペースが鈍化している。

海外の金融市場をみると、先進国の株価は良好な企業決算を受けて上昇していたが、足もとでは、中国不動産セクターの債務問題への懸念などから、神経質な動きもみられている。長期金利は、緩和的な金融政策の継続期待などから、概ね横ばいで推移している。為替市場をみると、総じて良好な市場センチメントが維持されるもとで、新興国通貨は概ね横ばいで推移している。原油価格は、米国南部へのハリケーン上陸に伴う供給懸念もあり、高水準で推移している。

4. 国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。先行きについては、ワクチン接種の進捗などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくと予想される。ただし、当面の経済活動の水準は、感染症への警戒感が続くもとで、対面型サービス部門を中心に、感染症拡大前に比べて低めで推移するとみられる。

公共投資は、緩やかな増加傾向を続けている。4から6月のGDPの実質公的固定資本形成は、デフレーターの短期的な振れもあって2四半期連続で小幅の前期比マイナスとなったが、実勢としては緩やかな増加を続けているとみられる。先行きの公共投資は、国土強靱化関連工事の進捗を反映して、着実な増加を続けると考えられる。

輸出や鉱工業生産は、一部に供給制約の影響を受けつつも、海外経済の回復を背景に、増加を続けている。実質輸出は、世界的なデジタル関連需要の拡大等を背景に資本財や情報関連を牽引役として増加を続けているが、8月は、ASEAN地域の感染拡大に起因する部品調達難等の影響から、自動車関連を中心に、前月比で大きめのマイナスとなっている。先行きの輸出や鉱工業生産は、目先、供給制約の影響から自動車関連中心に大幅に下押しされるものの、基調としては、世界的なデジタル関連需要の堅調な拡大や設備投資需要の回復を背景に、増加を続けるとみられる。

企業収益や業況感は、対面型サービス業など一部に弱さがみられるものの、全体として改善を続けている。法人企業統計の経常利益をみると、4から6月は4四半期連続の改善となり、2019年10から12月の感染症拡大前の水準をはっきりと上回った。経常利益が高水準となった背景には、海外事業の好調等に伴う子会社からの配当金の増加や感染症下での広告費や出張費といった販売管理費の削減に加えて、各種の財政支援策による下支えが影響している。ただし、非製造業の中堅中小企業の経常利益は、公衆衛生上の措置が継続するもとで水準を切り下げているなど、業種別・規模別にみたばらつきは大きい。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。4から6月のGDPの実質設備投資は、はっきりと増加している。機械投資の一致指標である資本財総供給は、企業収益の改善が続くもとで、パソコンや基地局・5G関連などのデジタル関連財や建設機械等を中心に、しっかりとした増加が続いている。建設投資の一致指標である建設工事出来高(民間非居住用)は、緩やかな減少傾向を続けてきたが、Eコマースの拡大を背景とした物流施設の増加などを受けて、下げ止まっている。先行きの設備投資は、企業収益の改善に加え、緩和的な金融環境にも支えられて、増加傾向が明確になっていくと見込まれる。機械投資の先行指標である機械受注は、振れを均してみれば、製造業の増加を主因に持ち直している。建設投資の先行指標である建築着工の工事費予定額は、飲食・宿泊業等による店舗や宿泊施設に弱さが残るものの、物流施設等の増加に加え、都市再開発案件の進捗や医療・福祉施設の建設需要にも支えられて、全体では持ち直している。

個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力が依然として強く、引き続き足踏み状態となっている。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)は、7月までは旅行や外食などサービス消費を中心に持ち直しがみられていたが、8月は、デルタ株の流行が全国に拡がり、緊急事態宣言の対象地域も拡大する中で、消費者の警戒感が高まったほか、天候不順の影響もあって、減少に転じたとみられる。耐久財消費は、在宅需要の一巡や半導体不足による供給制約などから、自動車や家電を中心に、このところ減少している。非耐久財消費は、食料品や日用品などは巣ごもり需要の拡大に支えられて底堅く推移しているものの、外出機会の減少を受けた衣料品等の低迷が下押しとなり、低めの水準で横ばいで推移している。サービス消費は、3回目の緊急事態宣言の影響から5月に大きめの減少となったあと、6月には一部を除く同宣言の解除もあって増加に転じ、7月も増加を続けた。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、8月の個人消費動向を窺うと、耐久財消費は、減少を続けたほか、非耐久財消費やサービス消費も、デルタ株の流行に伴う4回目の緊急事態宣言の対象地域の拡大や外出抑制の動きを受けて再び減少し、全体としても減少に転じた模様である。とくに、外食や国内旅行は、概ね3回目の緊急事態宣言下の5月並みの低い水準まで減少した模様である。先行きの個人消費は、当面、感染症やそれに伴う公衆衛生上の措置の影響が継続するもとで、対面型サービスを中心に低めの水準で足踏みした状態が続く可能性が高い。その後は、ワクチン接種の進捗などから感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、ペントアップ需要もあって、再び持ち直していくとみられる。

住宅投資は、持ち直している。新設住宅着工戸数は、郊外地域の戸建ての需要好調やペントアップ需要などから、昨年10から12月をボトムに持ち直している。先行きも、感染症の影響による下押し圧力が剥落するもとで、緩和的な金融環境やペントアップ需要等にも支えられて、持ち直しを続けると見込まれる。

雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いている。雇用面では、労働力調査の就業者数をみると、経済活動全体の持ち直しを反映して下げ止まっているが、対面型サービス業の非正規雇用を中心に、依然低めの水準にある。名目賃金は、前年の落ち込みの反動に加え、人手不足感の強い一部業種における所定内給与の上昇の影響もあって、前年比プラスとなっている。先行きの雇用者所得は、経済活動の持ち直しや企業業績の改善を受けて、持ち直していくとみられる。

物価面について、商品市況は、感染症拡大への懸念が下押しに作用しているものの、海外経済の回復や一部にみられる供給制約を背景に、高水準で推移している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっている。消費者物価指数の2015年基準から2020年基準への切り替えに伴い、4から6月の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響拡大を主因に、-0.7%ポイントの大幅な下方改定となった。消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)について、携帯電話通信料等の影響を除いたベースの前年比は、新基準でも小幅のプラスとなっている。この間、予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギー価格などの上昇を反映して小幅のプラスに転じていくと予想される。その後は、経済の改善が続くもとで、携帯電話通信料の引き下げの影響剥落もあって、徐々に上昇率を高めていくとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りに厳しさがみられるものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、一部で企業買収関連などの資金ニーズもみられているが、感染症の影響を受けた予備的な需要などによる資金ニーズが総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、高めの伸びとなった前年との比較でみて伸び率が縮小し、それぞれ0%台前半、5%程度となっているが、これらの残高は引き続き高水準となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。一方、企業の資金繰りは、ひと頃より改善しているものの、感染症の影響を受けた売上げ減少などを背景になお厳しさがみられる。

この間、マネタリーベースは、前年比で1割台半ばのプラスとなっている。マネーストックの前年比は、4%台後半のプラスとなっている。

2. 金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1. 経済情勢

国際金融市場について、委員は、デルタ株の感染拡大の悪影響や中国不動産セクターの債務問題への警戒感などから、株式市場を中心に神経質な動きがみられるものの、ワクチン接種の進捗に伴う世界経済の回復を背景に、市場センチメントは総じて良好な水準を維持しているとの見方を共有した。一人の委員は、ハイイールド債の利回りが過去最低水準で推移するなど、海外クレジット市場の一部ではリスクテイクの強まりが窺われることから、低金利環境が反転した場合の影響を注視する必要があると述べた。

海外経済について、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しているとの認識で一致した。何人かの委員は、半導体不足や、最近の東南アジアの感染拡大に伴うサプライチェーン障害といった供給面の制約が、世界的な生産・貿易活動の下押し要因になっているとの認識を示した。一人の委員は、先進国では、公衆衛生上の措置の緩和により対面型サービス部門を含めて改善傾向にある一方、一部新興国では、ワクチン接種の遅れや感染再拡大、財政支援策の縮小などにより内需が下押しされていると指摘した。海外経済の先行きについて、委員は、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、総じてみれば回復を続けるとの見方で一致した。そのうえで、委員は、回復の足取りは、ワクチンの普及ペースの違いなどを反映して、各国間で不均一なものとなる可能性が高いうえ、先行きの見通しを巡る不確実性も大きいとの認識を示した。具体的なリスク要因として、委員は、変異株を含む感染症の動向や、ワクチンの普及ペースとその効果、半導体不足や部品調達難といった供給制約の影響、不動産セクターを中心とする中国経済の動向、商品市況の変動、地政学的リスクなどを指摘した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。何人かの委員は、公衆衛生上の措置の緩和や大規模な財政支援策が回復を支えているとの見解を示した。一方、多くの委員は、デルタ株の流行や供給制約の影響から、足もとではサービス消費を中心に回復ペースが鈍化しているとの認識を示した。このうちの一人の委員は、8月の雇用統計が市場予想を大きめに下回ったことに言及し、今後の労働市場の動向を注視する姿勢を示した。米国の物価動向について、一人の委員は、直近のデータではインフレ圧力のピークアウトが明確になってきていると指摘したうえで、先行きは、供給制約の緩和に伴い、インフレ圧力も徐々に和らいでいくのではないかと述べた。これに対し、別の一人の委員は、供給制約の長期化により、インフレ率の上振れが長引く可能性があるとの見方を示した。

欧州経済について、委員は、持ち直しているとの認識で一致した。多くの委員は、ワクチン接種率の上昇に伴い、重症化が抑制されるもとで、経済活動の再開が継続しており、対面型サービスを含め個人消費ははっきりと回復していると指摘した。

中国経済について、委員は、回復を続けているとの見方を共有した。一人の委員は、民間部門主導で回復が続いていると指摘した。一方、何人かの委員は、感染再拡大に伴う公衆衛生上の措置の強化などから、このところ回復ペースに減速感がみられるとの見方を示した。多くの委員は、不動産セクターの債務問題に関して、当局の対応に加え、中国経済や中国金融システムへの影響、ひいては世界経済への影響を注視する必要があると指摘した。このうちの複数の委員は、不動産市場や教育、ITなど幅広い分野における統制強化や所得格差の是正に向けた動きが、中国経済の中長期的な潜在成長力の低下に繋がらないか、情勢を注視したいと述べた。

新興国経済について、委員は、一部の国・地域では感染症の再拡大による内需の下押しや生産面での影響がみられるものの、堅調な外需に支えられて、全体としては持ち直しの動きを維持しているとの認識を共有した。何人かの委員は、わが国経済との結び付きが強い東南アジアの国々では、感染症が再拡大しており、工場閉鎖などによってグローバルなサプライチェーンに悪影響が及んでいると指摘した。このうちの一人の委員は、これらの国々では、ワクチン接種率がなお低い先も多く、工場の安定的な操業再開を実現できるか、状況を注視したいと述べた。一方、ある委員は、東南アジアの感染状況は最悪期を脱しつつあり、先行き、生産活動も再開していくのではないかと述べた。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直しているとの認識で一致した。何人かの委員は、夏場の感染再拡大や供給制約などの影響から景気の足取りは鈍化しているが、輸出や生産の増加トレンドが続くもとで、企業収益の改善は設備投資の持ち直しに繋がっており、企業部門の前向きの循環は途切れていないとの見方を示した。企業部門について、一人の委員は、半導体不足やサプライチェーン寸断は、輸出・生産面に相応の影響を与えているが、設備投資は底堅く推移しており、供給制約の影響も限定的であると指摘した。一方、ある委員は、公衆衛生上の措置が継続する中、内需はサービス分野を中心に低迷を続けており、引き続き、感染症の帰趨と内需の回復ペースを注視する必要があると述べた。

景気の先行きについて、委員は、当面の経済活動の水準は、対面型サービス部門を中心に、感染症の拡大前に比べて低めで推移するものの、ワクチン接種の進捗などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとの見方を共有した。また、その後の景気展開について、委員は、感染症の影響が収束していけば、所得から支出への前向きな循環メカニズムが強まるもとで、わが国経済は更に成長を続けるとの見方で一致した。一人の委員は、8月の感染急拡大を受けた対面型サービスの回復の遅れや、各種供給制約による自動車関連の生産調整が、目先の景気の下押し要因となるが、気候変動対応やデジタル化関連の投資といった前向きな動きに支えられて、経済全体の回復基調は続いているため、従来の回復シナリオを変更する必要はないと指摘した。ある委員は、足もとで感染者数が減少に転じていることは明るい材料ではあるが、諸外国の動向を踏まえると、わが国でワクチン接種が一段と進捗しても、感染拡大の波は生じるとみられ、経済活動との両立を考慮した行動制限のあり方について、検討が進むことを期待したいと述べた。

輸出や生産について、委員は、一部に供給制約の影響を受けつつも、海外経済の回復を背景に、増加を続けているとの認識を共有した。先行きの輸出・生産について、委員は、目先、東南アジアの感染拡大に起因する部品調達難等から自動車関連を中心に下押しされるものの、基調としては、世界的なデジタル関連需要の堅調な拡大や設備投資需要の回復を背景に、増加を続けるとの見解を共有した。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、世界的なデジタル関連需要の拡大を背景に、情報関連や資本財関連の企業収益は改善しており、これが同分野における設備投資の堅調さに波及しているとの見方を示した。先行きの設備投資について、委員は、企業収益の改善に加え、緩和的な金融環境にも支えられて、増加傾向が明確になっていくとの見解を共有した。ある委員は、わが国企業のデジタル化の遅れを取り戻すには、来年度以降もソフトウェア投資の高い伸びが必要であり、短観などを注視していきたいと述べた。この委員は、こうした企業の構造改革に関しては、取引先金融機関の役割も重要であると付け加えた。

個人消費について、委員は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力が依然として強く、引き続き足踏み状態となっているとの認識で一致した。先行きの個人消費について、委員は、当面、対面型サービスを中心に低めの水準で足踏みした状態が続く可能性が高いが、その後は、ワクチン接種の進捗などから感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、ペントアップ需要もあって、再び持ち直していくとの見解を共有した。多くの委員は、わが国のワクチン接種率は欧米並みの水準にまで高まったが、デルタ株の感染拡大などにより、ペントアップ需要は未だ顕在化していないと指摘した。これに関し、何人かの委員は、ワクチン接種が幅広い年齢層で進捗し、重症化リスクが低下するもとで、今後、公衆衛生上の措置が緩和されていけば、ペントアップ需要は顕在化していくとの見方を示した。一人の委員は、ワクチン接種証明書の活用なども進めば、対面型サービスでも、感染抑制と消費活動の両立がより容易になると期待されると指摘した。そのうえで、この委員は、この先も一定程度の感染発生は避けられないとみられることや、わが国消費者のリスク回避姿勢の強さを考えると、先行きの消費の回復タイミングやペースについては留意が必要であると付け加えた。ある委員は、公衆衛生上の措置が緩和されれば、消費はいったん持ち直す可能性は相応にあるが、夏季賞与の弱さなどを踏まえると、その持続力には不確実性が高く、今後、雇用者所得の動向が家計のマインドに及ぼす影響等を注視していきたいと述べた。

雇用・所得環境について、一人の委員は、労働需給は緩やかに改善しているほか、一般労働者の所定内給与の前年比は+1%前後と、2015から2019年頃の平均的な伸びに回復していると指摘した。別の一人の委員は、雇用や賃金は回復基調にあるが、感染症拡大前の状況に戻るには時間を要するとの見解を示した。先行きの雇用者所得について、委員は、経済活動の持ち直しや企業業績の改善を受けて、持ち直していくとの見方を共有した。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっているとの認識で一致した。また、委員は、予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しているとの見方を共有した。消費者物価指数の基準改定の影響について、何人かの委員は、携帯電話通信料の下落寄与拡大を主因に、前年比は大幅に下方改定されたが、新基準でも携帯電話通信料などの一時的な要因を除くベースでみれば小幅の前年比プラスを維持しており、経済活動の落ち込みの大きさに比べると物価の基調は底堅いとの評価は変わらないとの認識を示した。一人の委員は、基準改定による消費者物価の下振れが、予想インフレ率の形成に及ぼす影響を注視する必要があると指摘した。この点に関し、別の一人の委員は、短期の予想インフレ率指標の一部には、基準改定の影響がみられるが、予想インフレ率全体としてみれば、横ばい圏内で推移していると指摘した。もっとも、この委員は、わが国の物価上昇率が欧米をはっきりと下回っている背景について、わが国では需要の回復が欧米ほど強くはない点に加え、適合的期待形成の強さから、企業がコストの上昇を販売価格に転嫁し難い点を指摘した。

物価の先行きについて、委員は、消費者物価の前年比は、エネルギー価格などの上昇を反映して小幅のプラスに転じていくとの見方で一致した。その後についても、経済の改善が続くもとで、携帯電話通信料の引き下げの影響剥落もあって、消費者物価の前年比は、徐々に上昇率を高めていくとの認識を共有した。一人の委員は、今後予想される需要の回復に伴って、企業の価格設定スタンスや家計の値上げ許容度が、どのように変化していくかに注目していると述べた。この間、別の一人の委員は、消費者物価の前年比は、一時的な要因もありプラスに転じる公算が大きいが、需給ギャップや予想インフレ率の動向を踏まえると、「物価安定の目標」の達成は難しいと述べた。

物価の先行きに関連し、委員は、最近の商品市況の上昇の転嫁やその実体経済との関連について議論した。ある委員は、現時点では、原材料コスト上昇の消費者物価への波及は限定的であるが、経済正常化の進展に伴い、需給ギャップの改善が実現すれば、そうした動きは強まっていくのではないかと述べた。別のある委員は、エネルギー価格の上昇や、原材料コスト上昇に伴う食料工業製品の値上げといった身近な財・サービスの価格上昇は、総合的な物価指標の動きと乖離し得るため、その消費行動に与える影響について注意してみていく必要があると述べた。一人の委員は、企業が資源価格上昇によるコスト増加を製品価格に転嫁できなければ、設備投資や人件費の抑制に繋がり、ひいては所得の増えない家計が消費を抑制することになるため、持続的な物価上昇を実現するためには、そうした悪循環を変化させていく必要があると指摘した。別の一人の委員は、国内ではコスト上昇の価格転嫁が難しい状況が続いているとの認識を示したうえで、そうした状況に変化が生じるかを見極めるにあたっては、成長分野への労働力移動や企業の新陳代謝の促進、イノベーション力や収益力の強化に関する進捗を注視すべきであると述べた。

経済・物価見通しのリスク要因として、委員は、感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響といった点について、不確実性が大きいとの認識で一致した。更に、委員は、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要であるとの見解を共有した。一人の委員は、今後、感染症が完全には収束しないとの認識が拡がると、家計や企業が予備的動機に基づく貯蓄を増加させ、ペントアップ需要が想定ほどには強まらないリスクがあると指摘した。東南アジアの感染拡大に伴う供給制約の問題について、ある委員は、生産設備が物理的に毀損した訳ではなく、やや長い目でみれば挽回生産も期待できるため、基本的には一過性の問題であるとの見方を示した。そのうえで、この委員は、供給制約は、当初の企業の予想よりも解消に時間を要しているように窺われるほか、わが国では、自動車産業の裾野が広いため、悪影響が想定以上に拡大するリスクもあると述べた。また、複数の委員は、半導体不足や東南アジアの部品工場の操業停止により、自動車関連では大幅な生産調整を余儀なくされていると述べたうえで、その影響が拡大・長期化するリスクや、これが設備投資の先送りや資金繰りの悪化に繋がるリスクには注意が必要であると指摘した。物価面のリスクについて、一人の委員は、値下げにより需要を喚起する企業行動は引き続き抑制されているほか、最低賃金の引き上げも実施されることなどを踏まえると、先行き物価上昇が失速するリスクは低いのではないかと指摘した。別の一人の委員も、刈込平均などの基調的なインフレ率を捕捉するための指標や、各種の予想インフレ指標は、底堅く推移しているため、再びデフレに陥るリスクは後退しているとの認識を示した。一方、ある委員は、ペントアップ需要が顕在化する局面では、財からサービスへの需要のシフトが生じるが、サービス価格は需要への感応度が相対的に低いため、個人消費の回復ほどには物価上昇率が高まらない可能性があると指摘した。

2. 金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りに厳しさがみられるものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。一人の委員は、企業等の資金繰りは、対面型サービスなど一部セクターにおいて厳しい状態にあるが、好調な企業業績を受けてひと頃に比べ改善傾向にあるほか、感染症流行直後に急拡大した予備的な資金需要は落ち着いているように窺われると述べた。別の一人の委員は、企業の資金繰りは総じて落ち着いており、倒産件数も低水準で推移していると指摘した。ある委員は、今後、感染症下で積み上がった企業債務の返済が、金融機関の想定通りに進むかについて注視する必要があると述べた。

3. 気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション(気候変動対応オペ)に関する執行部説明

執行部は、7月15、16日の金融政策決定会合において決定された骨子素案を踏まえた、気候変動対応オペの具体的な制度設計案について、以下のとおり説明を行った。

対象先とする金融機関について、骨子素案では、「気候変動対応に資するための取り組みについて一定の開示を行っている先」とした。「一定の開示」の内容については、希望先が気候変動対応に資する取り組みに組織としてコミットしていることを求める観点から、「TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)が提言している4項目」と、「投融資の目標および実績」の開示を求めることが考えられる。

対象投融資の範囲について、骨子素案では、「わが国の気候変動対応に資する投融資」とし、「[1]グリーンローン/ボンド、[2]サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド、[3]トランジション・ファイナンスにかかる投融資が考えられる」とした。(1)「投融資の類型」について、骨子素案で示した3類型としては、国際原則や政府の指針に適合しているものを対象とすることが考えられる。また、これらに加えて、「金融機関がこれら3類型に準じると判断する投融資」についても、金融機関における具体的な基準や判断プロセスの開示を条件に、対象とすることが考えられる。(2)「わが国の」の要件については、[1]わが国の温室効果ガス排出量を削減するものその他の国内を実施場所とするもの、[2]サプライチェーンを通じて[1]に貢献するもの、[3]研究・開発向け投融資であってその成果が[1]に貢献するもの、[4]海外を実施場所とするもののうち、二国間クレジット制度を通じてわが国の温室効果ガス排出削減目標の達成に貢献するもの、のいずれかに該当するものを対象とすることが考えられる。

本オペでは、対象投融資の判断を金融機関に委ねることを踏まえ、利用にかかる対外開示を通じて規律付けを図る観点から、[1]本行への報告において気候変動対応に資すると判断する際の基準、および、[2][1]の基準への適合性にかかる判断プロセス、の開示を求めることが考えられる。

貸付条件等については、骨子素案に示したとおり、貸付利率はゼロ%、補完当座預金制度上はマクロ加算2倍措置の適用対象、貸出促進付利制度上はカテゴリー3(付利金利ゼロ%)の適用対象とする。

以上の制度設計を踏まえた基本要領の制定等について、決定された場合には、対象先選定に関する事項ならびにわが国の気候変動対応に資する投融資の基準および開示に関する事項についての細目を作成し、決定事項とともに公表したい。そのうえで、初回貸付を12月下旬に実施できるよう、準備を進めることとしたい。

4. 金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識と気候変動対応オペの制度設計案に関する執行部説明を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

当面の金融政策の基本的な運営スタンスについて、委員は、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れの「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要であるとの見解で一致した。そのうえで、委員は、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識を共有した。特別プログラムについて、一人の委員は、企業金融全体をみれば、落ち着きを示す動きも徐々に拡がっているが、デルタ株の流行もあって、なお不透明感の強い状況が続いているため、当面は、来年3月まで延長した同プログラムのもとで、企業等の資金繰りを支えていくことが重要であると述べた。別の一人の委員は、企業等の資金繰りは総じて落ち着いているが、緩和的な金融環境が経済活動を下支えしている状況は大きく変化していないことから、特別プログラムを含む現行の政策を継続していくことが適当であると指摘した。また、この委員は、先行きについては、借入企業の業種などによる違いを肌理細かくみながら、金融環境を評価していく必要があると述べた。別の一人の委員は、感染症の経済への影響が和らいでいけば特別プログラムは縮小させるべきだが、十分に慎重な判断が必要であると指摘した。この間、ある委員は、金融市場は総じて安定しているが、中国の不動産セクターの動向が国際金融市場に与える影響を含め、油断することなく経済・金融動向を注視し、必要であれば迅速に対応すべきであると指摘した。

委員は、金融政策運営に関連する各種の留意点についても意見を述べた。一人の委員は、海外では、インフレ率の高まり等を受けて資産買入れの縮小に向けた動きを開始した中央銀行もあるが、わが国では、「物価安定の目標」の実現には時間がかかると予想されることから、3月の「点検」により持続性と機動性を増した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、強力な金融緩和を粘り強く続ける必要があると述べた。別の一人の委員は、ワクチン接種が先行する国々では、経済が正常化し、ペントアップ需要が高まる中で、コロナ禍に対応するための経済政策を徐々に手仕舞う動きがみられているが、わが国では、経済正常化以降に予想されるペントアップ需要の強まりを、2%の「物価安定の目標」の達成に繋げていくことが重要であると指摘した。この委員は、そうした海外情勢のもとで、イールドカーブ・コントロールの枠組みにより金利上昇を抑えることは、わが国の相対的な金融緩和度合いを高め得ると付け加えた。この間、ある委員は、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と「物価安定の目標」の達成を早期に実現する必要があるとの認識を示した。政府との連携に関して、一人の委員は、コロナ禍において効果を発揮してきた財政政策と金融政策のポリシーミックスは、経済が正常化していく脱コロナ禍局面においても重要であると述べた。別の一人の委員は、ポスト・コロナの経済社会と政策について、政府とビジョンを共有すべきであり、具体的には、財政政策と金融政策の連携はもとより、気候変動対応や成長促進、経済構造の転換などにおいても方向性を共有することが望ましいと指摘した。ある委員は、感染症への対応に加え、デジタル化や脱炭素化という重要な課題にわが国が取り組んでいくうえで、政府と本行が、同じような長い時間軸も意識しつつ、それぞれの役割を果たしていく必要があるとの見解を示した。そのほか、一人の委員は、9月積み期から特別付利の適用が始まった「地域金融強化のための特別当座預金制度」について、金融調節に支障がないか注視していきたいと述べた。また、ある委員は、余資を現預金で保蔵する家計が投資信託などに積極的に投資するようになれば、配当収入を通じた可処分所得の増加が期待されると述べたうえで、金融政策の効果波及を高める観点からも、金融資産投資についての理解浸透を図るべきであるとの認識を示した。

続いて、委員は、気候変動対応オペの制度設計について議論を行った。ある委員は、対象となる投融資について、大まかな類型を示しつつも、具体的な判断は金融機関に委ねる仕組みとなっており、本行のミクロの資源配分への関与を極力避けることが可能であると指摘した。この委員は、金融機関に求める情報開示についても、TCFDの提言に沿った開示ルールなどを踏まえた内容となっており、市場からの規律付けも期待できると述べた。別のある委員は、本オペは、市場中立性に配慮しつつ、制度利用の規律付けも行いながら、民間部門の気候変動対応に関する幅広い取り組みを加速させ得る設計となっていると述べた。一人の委員は、本オペは、タクソノミーなど気候変動を巡る外部環境が流動的なもとで、その変化に柔軟に対応できる仕組みになっていると述べた。別の一人の委員は、世界的に気候変動対応に向けた動きが本格化しつつあり、この時期に気候変動対応オペの仕組みを整えることは、わが国の中長期的な成長力を支える観点からも適当であるとの見解を示した。ある委員は、今回、基本要領を決定できれば、年内に資金供給を開始することは実務的にも可能であると指摘した。以上の議論を経て、委員は、執行部から説明のあった気候変動対応オペは、全体として妥当な制度設計になっているとの見解で一致した。

更に、委員は、気候変動対応オペの運用にあたって留意すべき事項についても議論を行った。何人かの委員は、気候変動問題を巡る内外の情勢は流動的であり、気候変動対応オペが民間部門の取り組みを継続的にサポートできるよう、タクソノミーなどの議論や金融機関の開示等の対応状況をしっかりとフォローし、必要に応じて制度の調整も検討していくべきであると指摘した。一人の委員は、脱炭素化に向けた企業や金融機関の取り組みは緒に就いたばかりであり、当初は資金供給額が大きくならない可能性もあるが、気候変動対応オペが「呼び水」となり、民間部門の取り組みが進めば、資金供給額も増えていくと見込まれると述べた。ある委員は、グリーントランスフォーメーションの遅れにより、わが国の産業の空洞化が加速することがないよう、政府の一層の取り組みを期待するとともに、本行としても、気候変動対応オペをしっかりと実施していく必要があると述べた。別のある委員は、気候変動対応は、日本の国際競争力に直結し得るものであり、本行の使命である物価の安定や金融システムの安定にも重要な影響があることを分かりやすく情報発信すべきであると指摘した。何人かの委員は、本行の説明責任の観点から、気候変動対応オペの政策効果を検証していくとともに、気候変動が物価面などマクロ経済に与える影響など、関連分野の調査・研究を深めていく必要があると指摘した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

  • 「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
     長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の
     買入れを行う。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、昨年3月以降、日本銀行が感染症の影響への対応として導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの考えを共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針で一致した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

5. 政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 気候変動問題に関して、政府は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでおり、気候変動対応オペは、日本銀行として気候変動問題に前向きに取り組む姿勢を示すものと受け止めている。年内の資金供給の開始に向けて、適切にご対応頂きたい。
  • 8月末に概算要求が締め切られ、来年度予算の編成作業が始まっている。新経済・財政再生計画のもとで、目安に沿った予算編成や、グリーンやデジタルといった新たな成長の原動力となる分野への予算の重点化等、歳出改革に取り組んでいく。
  • 日本銀行には、政府との連携のもと、感染症対応を含め、必要な措置を適切に講じることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国の景気は、先行き、持ち直しが期待されるが、内外の感染症の動向、サプライチェーンを通じた影響による下振れリスクの高まりに注意が必要である。
  • 当面は、感染拡大の抑制を最優先に対策を進めるとともに、ワクチン接種状況を踏まえ、国民的議論を進め、感染対策と日常生活の回復に向けた取り組みの両立を進める。
  • 政府としては、躊躇なく機動的なマクロ経済政策運営を行なう。気候変動対応オペについては、政府が気候変動問題に力を入れて取り組んでいるところ、これと足並みを揃えた重要な取り組みであり、息長く継続して頂くことを期待する。日本銀行には、引き続き、緊密な連携をお願いする。

6. 採決

1. 金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2. 資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3. 「気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション基本要領」の制定等

前記執行部説明を内容とする「『気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション基本要領』の制定等に関する件」が採決に付され、全員一致で決定された。

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

4. 対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、気候変動対応オペの詳細決定を踏まえた対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7. 議事要旨の承認

議事要旨(2021年7月15、16日開催分)が全員一致で承認され、9月28日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2021年9月22日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
      • 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。
  2. また、前回の金融政策決定会合において骨子素案を公表した、気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション(気候変動対応オペ)について、その詳細を決定した(全員一致)。
  3. わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、一部に供給制約の影響を受けつつも、増加を続けている。また、企業収益や業況感は全体として改善を続けている。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いている。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力が依然として強く、引き続き足踏み状態となっている。住宅投資は持ち直している。公共投資は緩やかな増加傾向を続けている。わが国の金融環境は、企業の資金繰りに厳しさがみられるものの、全体として緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっている。また、予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。
  4. 先行きのわが国経済を展望すると、当面の経済活動の水準は、対面型サービス部門を中心に、新型コロナウイルス感染症の拡大前に比べて低めで推移するものの、ワクチン接種の進捗などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。その後、感染症の影響が収束していけば、所得から支出への前向きの循環メカニズムが強まるもとで、わが国経済はさらに成長を続けると予想される。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギー価格などの上昇を反映して小幅のプラスに転じていくと予想される。その後、経済の改善が続くもとで、携帯電話通信料の引き下げの影響剥落もあって、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
  5. リスク要因としては、新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響といった点について、不確実性が大きい。さらに、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要である。
  6. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。本文に戻る