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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2021年10月27、28日開催分)

2021年12月22日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2021年12月16、17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2021年10月27日(14:00から16:21)
 
10月28日( 9:00から11:38)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省   小野平八郎 大臣官房総括審議官(27日)
  • 大家 敏志 財務副大臣(28日)
  • 内閣府   井上 裕之 内閣府審議官
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 山田泰弘
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 清水誠一
  • 企画局審議役 福田英司(27日15:06から16:21)
  • 企画局政策企画課長 川本卓司
  • 金融機構局長 正木一博
  • 金融市場局長 大谷 聡
  • 調査統計局長 亀田制作
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 中島健至
  • 政策委員会室企画役 本田 尚
  • 企画局企画調整課長 中嶋基晴(27日15:06から16:21)
  • 企画局企画役 一瀬善孝
  • 企画局企画役 長江真一郎
  • 企画局企画役 安藤雅俊

1. 金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(9月21、22日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持の観点から、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペを実施したほか、国債買入れやドルオペなどにより潤沢かつ弾力的な資金供給を行った。また、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとで、ETFおよびJ-REITの買入れを運営した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.05から-0.01%程度で推移しているほか、GCレポレートは、-0.13から-0.08%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。

株価(TOPIX)は、グローバルに神経質な地合いとなるもと、10月初にかけて大きめに下落したものの、その後は米欧株価に連れて幾分上昇した。長期金利は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、米欧金利の上昇などを受けて、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場ともに、大きめの円安方向の動きとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。グローバルにみた企業の業況感は改善しており、製造業の生産水準や貿易量は、昨年春頃の感染症拡大前の水準を大きく上回って推移している。中国や一部の新興国で経済への下押し圧力はみられるものの、先進国が海外経済の回復を引き続き牽引している。先行きの海外経済については、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、総じてみれば回復を続けるとみられる。ただし、ワクチンの普及ペースの違いなどを背景に、回復の足取りは各国間で不均一なものとなる可能性が高い。また、感染症および供給制約の動向や、それらが海外経済に与える影響について、引き続き不確実性が大きい。

地域別に動きをみると、米国経済は、回復している。個人消費は、夏場の変異株の感染拡大によりサービス消費の改善ペースが鈍化しているほか、半導体不足に伴い自動車販売が減少しているものの、経済対策の効果などから増加している。雇用者数は増加しているが、経済活動の再開ペースとの対比では、回復度合いは依然として緩やかになっている。企業部門をみると、業況感の改善が続くもとで、設備投資は、機械投資を中心に増加している。この間、物価動向をみると、PCEデフレーターの前年比は、昨年の落ち込みによるベース効果に加え、経済活動の再開に伴う供給制約の影響もあって、高めの伸びとなっている。

欧州経済は、回復している。個人消費は、経済活動の再開が継続するもとで、サービス消費を中心に、回復を続けている。企業部門をみると、業況感は、サービス業を中心に改善しており、輸出は輸送機械を中心に減少している。生産は持ち直し基調を辿っている。こうしたもとで、設備投資は持ち直している。物価面では、HICPの前年比は、昨年の落ち込みによるベース効果や足もとのエネルギー価格の上昇などから、前年比+2%を上回って推移している。

中国経済は、改善ペースが鈍化しているものの、基調としては回復を続けている。個人消費は、一部で感染症の影響が残るほか、半導体不足の影響から自動車販売が減速しているものの、雇用・所得環境の改善等を背景に、基調としては増加している。固定資産投資は、企業の債務問題等に伴って不動産投資が減速していることなどから、概ね横ばい圏内で推移している。こうしたもとで、生産は、電力供給問題のほか、半導体不足による供給制約の影響もあって、減速している。

中国以外の新興国経済は、一部の国・地域でみられた夏場の感染症拡大による下押し圧力が和らぎつつある中で、堅調な外需に支えられて、全体としては持ち直している。NIEs経済は、一部に感染症拡大の影響が引き続きみられるものの、輸出の増加が牽引するかたちで、回復基調にある。ASEAN経済は、新規感染者数が減少するもとで、内需への下押し圧力が和らいでいるほか、輸出が増勢に転じる兆しもみられており、持ち直している。

海外の金融市場をみると、先進国の株価は、良好な企業決算等を背景に、期間を通してみれば上昇した。長期金利は、足もとのインフレ率の高止まりや国際商品市況の上昇等を受けて、FRBやBOEによる金融緩和の早期縮小観測が台頭したことから、はっきりと上昇した。為替市場をみると、米金利の上昇等を受けて、新興国通貨は小幅に下落した。この間、原油価格は、OPECプラスによる協調減産の継続等に伴う需給逼迫懸念の高まりを受けて、大きく上昇した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。先行きについては、当面は、感染症によるサービス消費への下押しの影響が残るほか、輸出・生産が供給制約により一時的に減速すると見込まれる。もっとも、その後は、ワクチンの普及などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。

公共投資は、治山・治水等の工事が増加傾向にある一方、災害復旧関連工事が減少しており、横ばい圏内の動きとなっている。先行きの公共投資は、国土強靱化関連工事の進捗を反映して、着実に増加すると考えられる。

輸出や鉱工業生産は、足もとでは一部における供給制約の影響から弱い動きとなっているが、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けている。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、ASEAN地域の感染症拡大に伴うサプライチェーン障害を背景とした各社の減産を受けて、大きく落ち込んでいる。一方、資本財や情報関連は、車載電池など一部を除けば、グローバルなデジタル関連需要の拡大を反映して、増加基調が続いている。先行きの輸出や鉱工業生産は、当面は、供給制約の影響から一時的に減速するが、その後は、供給制約の影響が次第に薄れるもとで、デジタル関連を中心としたグローバル需要の堅調な拡大を背景に、再びしっかりと増加していくとみられる。

企業収益は、対面型サービス業など一部に弱さがみられるものの、全体として改善を続けている。業況感も、自動車や対面型サービス業に弱さがみられるものの、全体として改善を続けている。9月短観の業況判断DI(全産業全規模)をみると、昨年6月をボトムに、5四半期連続で改善している。業種別にみると、製造業は、部品調達難に伴う減産の影響から自動車が悪化したものの、世界的なデジタル関連需要の堅調な拡大や内外の設備投資の持ち直しなどを背景に、幅広い業種で改善が続いている。非製造業は、感染症や公衆衛生上の措置の影響から宿泊・飲食サービスの停滞が続いたほか、小売や対個人サービスが悪化したものの、卸売や運輸・郵便、対事業所サービスなどでは、製造業の活動回復などを受けて改善しており、全体では横ばいとなっている。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。先行きの設備投資は、企業収益の改善や緩和的な金融環境にも支えられて、増加傾向が明確になっていくと見込まれる。9月短観の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース、金融機関を含む全産業全規模)をみると、2021年度は、一時的に控えられていた投資の再開に加え、企業収益の改善見通しもあって、前年比+9.3%と、前回6月調査時点と同程度の大幅な増加が計画されている。

個人消費は、感染症への警戒感などからサービス消費を中心に下押し圧力が依然として強いが、足もとでは持ち直しの兆しが窺われる。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、6月にしっかりと増加したあと、7月は横ばいとなったが、8月は感染症の急速な拡大とそれに伴う緊急事態宣言の対象地域の拡大等を受けて、大きく減少した。耐久財消費は、在宅関連需要の一巡や一部の供給制約を受けて、このところ減少している。非耐久財消費は、食料品や日用品などは巣ごもり需要の拡大に支えられて底堅く推移しているものの、外出機会の減少を受けた衣料品等の低迷が下押しとなり、低めの水準で横ばいとなっている。サービス消費は、6から7月に持ち直しの動きとなったが、8月には感染が再拡大するもとで外食や国内旅行を中心に減少した。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、足もとにかけての個人消費動向を窺うと、耐久財の一部で供給制約に伴う下押し圧力が続いている一方、サービス消費については、新規感染者数が減少するもとで、とくに緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が全国的に解除された10月以降は、持ち直しの兆しがみられる。外食では、10月は酒類提供再開に伴い、夜間も含めて客足が戻ってきているとの声が聞かれるほか、国内旅行でも、10月入り後は近距離旅行を中心に年末に向けた予約が持ち直しつつあるとの見方が多い。先行きの個人消費は、当面、感染症への警戒感がサービス消費の重石となるほか、自動車などの供給制約も耐久財消費の下押しに働くものの、ワクチンの普及などにより感染抑制と消費活動の両立が進み、供給制約も和らぐもとで、サービスや耐久財のペントアップ需要の顕在化もあって、再び持ち直していくとみられる。

雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いている。雇用面では、労働力調査の就業者数をみると、経済活動全体の持ち直しを反映して下げ止まっているが、対面型サービス業の非正規雇用を中心に、依然低めの水準にある。名目賃金は、前年の大幅な落ち込みの反動に加え、人手不足感の強い一部業種における所定内給与の上昇の影響もあって、前年比でみればプラスとなっている。先行きの雇用者所得は、経済活動の持ち直しに伴って緩やかな改善を続け、水準も明確に切り上がっていくとみられる。

物価面について、商品市況は、世界経済の回復や一部にみられる供給制約を背景に、上昇している。こうした中、国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、上昇を続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっている。この間、予想物価上昇率は、持ち直している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、エネルギー価格の上昇を反映してプラス幅を緩やかに拡大していくと予想される。その後は、一時的な要因による振れを伴いつつも、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調としては徐々に上昇率を高めていくとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、一部で企業買収関連などの資金ニーズもみられているが、感染症の影響を受けた予備的な需要が総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、高めの伸びとなった前年との比較でみて伸び率が縮小し、それぞれ0%台半ば、4%程度となっているが、これらの残高は引き続き高水準となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、経済の持ち直しなどに伴い全体として改善しているが、感染症の影響により売上げの低迷が続く業種や中小企業を中心に、なお厳しさが残っている。

この間、マネタリーベースの前年比は、1割台前半のプラスとなっている。マネーストックの前年比は、4%台前半のプラスとなっている。

(3)金融システム

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

大手行の収益は、高水準の貸出残高や、手数料収入の増加などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、幾分上昇している。地域銀行の収益も、高水準の新型コロナ関連融資残高などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、概ね横ばいとなっている。

金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち、実体経済活動との対比でみた金融機関の与信量等の4指標について、過熱方向にトレンドから乖離した状態となっている。もっとも、これらは、主として、感染症の影響による企業等の運転資金需要の高まりに金融機関が応えた結果として生じており、金融活動の過熱感を表すものとはみられない。企業収益の回復とともに債務返済が進み、金融機関与信が実体経済活動に見合った水準に復していくか、引き続き注視する必要がある。

2.成長基盤強化支援資金供給・米ドル特則の貸付利率見直し

1.執行部からの説明

現行の成長基盤強化支援資金供給・米ドル特則では、貸付利率について、「米ドルの6か月物LIBOR」と規定している。米ドルLIBORの公表停止に備え、米国監督当局が2022年1月以降の新規取引について、米ドルLIBORを参照しないよう求めていること等を踏まえると、米ドル特則の貸付利率についても所要の見直しを行うことが適当である。具体的には、2022年1月以降に実施する米ドル特則の貸付利率については、米国における代替金利指標に関する検討体(ARRC: Alternative Reference Rates Committee)の推奨内容等も踏まえ、代表的なリスクフリーレートである「ターム物SOFR(Secured Overnight Financing Rate)」の6か月物にスプレッド調整値として年0.42826%を上乗せした金利とすることが考えられる。

2.委員会の検討・採決

上記の執行部説明を内容とする「『貸出支援基金の運営として行う成長基盤強化を支援するための資金供給における米ドル資金供給に関する特則』の一部改正に関する件」が採決に付され、全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。

3.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢の現状

国際金融市場について、委員は、世界経済の回復を受けて、株価は米欧を中心に高値圏で推移しているが、中国不動産セクターの債務問題に加え、インフレ率の高まりに伴う米欧の金融緩和縮小に向けた動きも意識される中で、神経質な動きもみられるとの見方を共有した。この点に関し、一人の委員は、国際金融市場では、米欧におけるインフレ率上昇の長期化懸念やそれに伴う長期金利の動向、中国経済の減速など様々なリスクが意識されるもとで、神経質な地合いが続いており、各国の金融政策の舵取りやその市場の反応等を注視していきたいと述べた。

海外経済について、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しているとの見方で一致した。そのうえで、多くの委員は、先進国を中心とした経済活動の再開に伴う需要の急速な増加に、供給が十分に追い付いていない中で、半導体不足や海上輸送などの物流の停滞、サプライチェーン障害による部品調達難などの供給制約がグローバルにみられており、海外経済の回復を抑制していると指摘した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。一人の委員は、米国経済は、デルタ株の流行や供給制約が逆風となっているものの、行動制限の緩和による需要拡大や経済支援策に支えられて、回復を続けていると述べた。別の委員は、製造業、非製造業ともに景況感は回復を続けているが、人・モノ・輸送の各分野での供給制約により、物価上昇圧力が高まっていると指摘した。ある委員は、労働需要の拡大に供給が追い付かないミスマッチが様々な業種で発生しており、それが賃金や財・サービス価格の上昇に繋がっているとの見方を示した。この委員は、こうしたミスマッチ現象は、予想以上に長引いているものの、基本的には経済活動の再開に伴う過渡的な現象であり、時間の経過とともに徐々に解消されるとの見解を示した。

欧州経済について、委員は、回復しているとの見方を共有した。一人の委員は、欧州経済は、ワクチン接種の進展等により、飲食・宿泊といった対面型サービス分野を中心に改善していると述べた。別のある委員は、IMFが10月に公表した世界経済見通しをみると、先進国の中で欧州のみが上方修正されていると指摘した。一方、一人の委員は、欧州のPMIは3か月連続で下落しており、多少の減速感が窺われるとの見方を示した。別の委員は、欧州の一部の国々において、足もとで感染拡大の兆しがみられる点が気掛かりであると述べた。

中国経済について、委員は、改善ペースが鈍化しているものの、基調としては回復を続けているとの認識で一致した。何人かの委員は、不動産セクターにおける調整圧力に加え、電力の供給制約の影響から、中国経済は減速しているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、中国経済全体に占める不動産セクターの割合は国際的にみて高いため、同セクターの債務問題の影響には注意する必要があると指摘した。別のある委員は、不動産価格の調整は、資産効果を通じて個人消費の下押し要因となるほか、金融仲介機能を通じて企業の資金調達環境にも影響を及ぼし得るとの見方を示した。また、この委員は、中国経済は、急速な高齢化が進んでいるため、日本のバブル崩壊後のように、時間をかけて低成長体質に陥っていくリスクが相応にあると続けた。

中国以外の新興国経済について、委員は、一部の国・地域でみられた夏場の感染症拡大による下押し圧力が和らぎつつある中で、堅調な外需に支えられて、全体としては持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、ASEANなどの新興国では、労働力の確保や原材料・部品の調達といった供給面の課題が顕在化しており、これが、サプライチェーンを通じて、内外経済に及ぼす影響を注視する必要があると指摘した。

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。複数の委員は、企業金融関連の指標は、夏場のデルタ株の流行にもかかわらず、改善傾向を維持していると述べた。このうちの一人の委員は、9月短観やその他のサーベイ調査をみると、企業の資金繰りは、対面型サービスなど一部の中小企業において、なお厳しさが残っているが、それ以外のセクターや大企業では総じて改善傾向にあると指摘した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直しているとの見方で一致した。複数の委員は、対面型サービス業は引き続き強い下押し圧力に直面しているものの、企業部門における前向きな循環メカニズムに支えられて、景気は基調としては持ち直していると述べた。

輸出や生産について、委員は、足もとでは一部における供給制約の影響から弱い動きとなっているが、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けているとの認識で一致した。一人の委員は、サプライチェーン障害による輸出や生産への下押し圧力が続いているが、需要自体は堅調なこともあって、企業マインドの改善傾向は続いていると指摘した。ある委員は、半導体を中心とする供給制約の影響が、自動車はもとより、関連産業や他の製品にも拡がりつつあると述べた。一方で、この委員は、グローバルなデジタル関連需要や設備投資需要に支えられて、輸出や生産には底堅さも窺われるとの見方を示した。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。ある委員は、海外からのデジタル関連需要は引き続き堅調であり、外需の増加を起点とした企業収益から設備投資への好循環は途切れていないとの見方を示した。この点に関し、何人かの委員は、9月短観では、夏場のデルタ株の流行にもかかわらず、しっかりとした収益・設備投資計画が維持されており、企業部門において前向きの循環メカニズムは働き続けていることを確認できたと述べた。そのうえで、このうちの一人の委員は、9月短観の調査時点では、供給制約の影響が十分に織り込まれていない可能性がある点は割り引いてみておく必要があると指摘した。複数の委員は、10月の支店長会議においても、研究開発やデジタル化対応、環境対応など、前向きな設備投資スタンスに関するミクロ情報が多く聞かれたと指摘した。

個人消費について、委員は、感染症への警戒感などからサービス消費を中心に下押し圧力が依然として強いが、足もとでは持ち直しの兆しが窺われるとの見方で一致した。複数の委員は、高頻度データや企業の聞き取り調査からは、感染者数の急減と行動制限の緩和を受けて、飲食など、足もとの個人消費には前向きな動きがみられると指摘した。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっているとの見方で一致した。複数の委員は、携帯電話通信料やエネルギー価格を除いた、実力ベースでみた消費者物価の前年比は、小幅のプラスとなっていると指摘した。このうちの一人の委員は、短観の各種指標にみられるように予想インフレ率が持ち直しているとの評価を述べたうえで、経済再開に伴う需給ギャップの改善等も踏まえれば、基調的な物価上昇圧力は、わが国でも徐々にではあるが、高まってきているとの見方を示した。別の一人の委員は、消費者物価指数を構成する品目のうち、感染症の影響から価格が下落していたとみられる品目が、このところ上昇に転じていることに注目していると述べた。

2.経済・物価情勢の展望

2021年10月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、当面は、感染症によるサービス消費への下押しの影響が残るほか、輸出・生産が供給制約により一時的に減速するとの見方で一致した。その後の見通しについて、委員は、ワクチンの普及などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとの認識を共有した。更に、見通し期間の中盤以降について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが家計部門を含め経済全体で強まる中で、わが国経済は、ペースを鈍化させつつも潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方で一致した。一人の委員は、ワクチン接種が進捗して国内の感染症の影響が収束していけば、対面型サービスも含めた経済活動の更なる正常化の進展が期待できると指摘した。別の一人の委員は、感染症への警戒感と供給制約の影響が和らぐ来年前半には、景気の改善が明確となるとの見解を示した。何人かの委員は、足もとの供給制約や夏場のデルタ株流行の影響により、わが国経済の回復時期は、前回展望レポート時点よりも幾分後ずれするとの見方を示した。この間、ある委員は、やや長い目で持続的な経済成長を実現する観点からは、企業部門におけるデジタル化と気候変動対応の加速に加え、国内従業者の7割が働く中小企業の生産性向上と賃金上昇が重要であるとの認識を示した。

海外経済の先行きについて、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつも、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、成長を続けるとの見方で一致した。そのうえで、多くの委員は、こうした見通しを巡っては、不確実性が高いとの見方を示した。そのうち、供給制約の影響に関し、一人の委員は、中国における電力不足問題が長期化することで、同国経済や世界のサプライチェーンへの影響が拡大することがないか、注視する必要があると述べた。別の委員は、足もとで減速感が強まっている中国経済について、今後、成長率の下方屈曲が起きないかに注目していると述べた。

わが国の輸出について、委員は、当面は、自動車関連を中心に供給制約の影響から一時的に減速するものの、基調としては、デジタル関連を中心としたグローバル需要の堅調な拡大を背景に、増加を続けるとの見方で一致した。一方、サービス輸出であるインバウンド消費について、委員は、入国・渡航制限が続く間は、落ち込んだ状態が続くものの、その後は、回復していくとの見方を共有した。

設備投資について、委員は、対面型サービス部門の弱さは当面続くものの、企業収益の改善や緩和的な金融環境、政府の経済対策にも支えられて、機械投資やデジタル関連投資を中心に、増加傾向が明確になっていくとの認識で一致した。一人の委員は、企業の予想インフレ率の改善による実質金利の低下や、期待成長率の上方修正、デジタル・トランスフォーメーションや気候変動リスクへの対応から、新たな設備投資需要が顕在化してくる可能性が高いと指摘した。一方、ある委員は、供給制約の長期化に、中国経済の見通し悪化が加わると、設備投資の先送りなどに繋がる惧れもあり、注意が必要との見方を示した。この委員はまた、デジタル化の遅れを取り戻すためには、持続的なソフトウェア投資の増加が必要であると述べた。

個人消費について、委員は、当面、感染症への警戒感などが重石となるものの、ワクチンの普及などにより感染抑制と消費活動の両立が進むもとで、サービス等のペントアップ需要の顕在化もあって、再び持ち直していくとの見方で一致した。その後の個人消費について、委員は、感染症の影響が徐々に収束していくもとで、雇用者所得の改善にも支えられて、増加基調が明確になっていくとの見方を共有した。一人の委員は、ワクチン接種証明の活用など、経済活動と感染抑制の両立のための新たな施策も始まりつつあることから、サービス消費は持ち直していくとの見通しを述べた。また、この委員は、今後、旅行、飲食、娯楽などのサービスに対するペントアップ需要が強まっていくと予想され、これまでに蓄積した家計貯蓄が、そうした需要を更に押し上げることが期待されると述べた。一方で、この委員は、やや長い目でみると、わが国の個人消費は弱めに推移してきたと指摘したうえで、その背景としては、人々が将来の生活に不安を抱いていることの影響が大きいとの見方を示した。別の委員は、原油をはじめとするコスト上昇に伴い、10月から公共料金や食料工業製品等の値上げが実施されているが、これによりペントアップ需要の発現時期や強さが影響を受ける可能性がある点には留意が必要であると述べた。

雇用者所得について、委員は、内外需要の回復に伴う雇用者数の増加や、人手不足感の強い業種における賃金上昇を反映して、緩やかに増加していくとの見方を共有した。一人の委員は、家計の消費意欲が高まっていくためには、社会保障制度に対する安心感に加え、企業収益の増加が賃上げに繋がるなど所得から支出への前向きの循環メカニズムが強まることが重要と述べた。ある委員は、家計や企業に積み上がった貯蓄や待機資金が支出に向かうのを後押しする観点からも、所得と賃金の引き上げを目指すことが望ましいと指摘した。また、この委員は、日米インフレ率の差は、主としてサービス価格で生じており、その大部分は賃金動向に規定されるとの見方を示したうえで、賃金引き上げには、労働需給の更なる引き締まりが必要であると述べた。別の委員は、NISAや中小企業による確定拠出年金の利用促進等により、家計の金融資産を幅広い層の所得向上に向けて有効活用していくことが重要であるとの見方を示した。

こうした議論を経て、委員は、成長率の見通しは、前回と比べると、2021年度は輸出や個人消費を中心に幾分下振れているが、2022年度は幾分上振れているとの見方で一致した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価の前年比は、当面、エネルギー価格の上昇を反映してプラス幅を緩やかに拡大していくとの見方で一致した。その後の消費者物価の展望について、委員は、一時的な要因による振れを伴いつつも、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調としては徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。

こうした物価見通しの背景について、委員は、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、足もとではマイナス圏で推移しているが、先行きは、潜在成長率を上回る成長経路に復していくもとでプラスに転じ、見通し期間の中盤以降はプラス幅の緩やかな拡大が続くとの見方を共有した。また、委員は、家計の値上げ許容度は賃金上昇率の高まりなどを反映して緩やかに改善するほか、企業の価格設定スタンスも徐々に積極化することから、コスト転嫁と価格引き上げの動きが拡がっていくとの認識で一致した。そのうえで、委員は、現実の物価上昇率の高まりは、適合的期待形成を通じて、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率の上昇に繋がり、更なる物価上昇を後押ししていくとの見方を共有した。一人の委員は、世界的に気候変動問題への意識が高まり、石油・石炭が再生エネルギー等に代替される動きが続くもとで、エネルギー価格の上昇は長期間持続し、物価上昇圧力となる可能性があると指摘した。ある委員は、経済正常化の進展に伴う需給ギャップの改善を背景に、既に大きく上昇している企業物価の消費者物価への転嫁が強まっていく可能性があるとの見方を示した。一方で、この委員は、日本では、コロナ禍でも企業が雇用をある程度維持してきたことから、米国のような人手不足による賃金・物価の急上昇が生じる可能性はそれほど高くないと付け加えた。別の委員は、輸入原材料の価格上昇を転嫁する動きが消費者物価を押し上げているが、わが国における賃金上昇や供給制約に起因する物価上昇圧力は弱いと指摘した。一人の委員は、消費者物価の前年比はプラスに転じたが、需給ギャップや予想インフレ率の動向を踏まえると、予期できる将来において「物価安定の目標」の達成は難しいと述べた。

こうした議論を経て、委員は、物価の見通しは、前回と比べると、消費者物価指数の基準改定の影響を主因に2021年度が下振れているとの見方で一致した。

この間、委員は、経済・物価見通しの背景にある金融環境についても議論を行った。委員は、先行きも、金融システムの安定性が維持されるもとで、日本銀行による強力な金融緩和の継続や政府の措置、民間金融機関の取り組みから、緩和的な金融環境が続き、民間需要の増加を後押ししていくとの認識を共有した。一人の委員は、感染症が企業の債務返済能力に与える影響は不確実性が大きく、感染症の影響を強く受けている業種では、緩和的な金融環境のもとでも事業の継続が困難な企業が相応に出てくるリスクも念頭に置いておく必要があると指摘した。

次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について、議論を行った。

まず、経済のリスク要因について、委員は、感染症の動向やその経済への影響、とくに人々の感染症への警戒感とそのもとでの消費行動については、不確実性が大きいとの見方で一致した。具体的に、委員は、感染力の強い変異株の流行などによって、人々の感染症への警戒感が根強く残る場合、経済が下振れるリスクがあるとの認識を共有した。一方で、委員は、ワクチンや治療薬の普及により、感染が抑制されるとともに、感染症への警戒感も大きく後退すれば、サービス消費のペントアップ需要が早めに顕在化することなどにより、経済活動が想定以上に活発化する可能性もあるとの見方を共有した。前者の下振れ方向のリスクについて、一人の委員は、ワクチンの接種率が7割まで達するなど、消費回復に向けた基盤は整いつつあるが、感染第5波がなぜ収束したのかあまり判然としない中で、第6波到来への警戒感は根強く、消費回復の持続力には注意が必要であると指摘した。一方、後者の上振れ方向のリスクに関して、ある委員は、最近の人出と感染症の実効再生産数の関係を踏まえると、冬場にかけて人出が増える中でも感染拡大は抑制され、経済の回復ペースが想定以上に強まる可能性があると指摘した。

また、委員は、供給制約の影響についても留意が必要であるとの見方で一致した。具体的に、委員は、感染症の影響が和らぐにつれて、需要の偏りや生産・流通面でのボトルネックも解消に向かうとみられるが、供給制約の影響が想定以上に長引いたり拡大したりする場合には、見通し期間の前半を中心に経済が一段と下振れるリスクがあるとの見方で一致した。この点に関し、一人の委員は、足もとのサプライチェーン障害の直接の原因となっていた東南アジアの感染状況は落ち着き始めており、生産再開の動きも進んでいることから、輸出・生産面への下押し圧力は、早晩緩和されるとの見方を示した。一方で、この委員は、半導体を中心に、需要の急激な拡大に供給能力が十分に追い付いていない、という根本的な問題は残っているとの認識を示したうえで、この問題の解決には、設備投資によって供給能力を高める必要があるため、ある程度時間がかかる可能性があると述べた。

そのほか、委員は、リスク要因として海外経済の動向を取り上げたうえで、具体的に、感染症の動向とその影響、ワクチンの普及ペースとその効果、供給制約や資源価格上昇の影響、先進国の金融緩和縮小に向けた動きとその国際金融市場への影響、一部新興国・業種における企業の債務問題の帰趨などを指摘した。また、委員は、やや長い目でみたリスク要因として、企業や家計の中長期的な成長期待について、上下双方向に不確実性があるとの見方を共有した。

次に、物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶとの見方で一致した。更に、委員は、物価固有のリスク要因についても、議論を行った。まず、委員は、企業の価格設定行動には不確実性があり、とくに、マクロ的な需給ギャップの改善が続くもとで、企業の価格設定行動が想定どおり徐々に積極化していくかを注視する必要があるとの見方で一致した。この点に関連して、一人の委員は、感染症の影響で負債を抱えた企業が、収益力の向上に向けて、どの程度販売価格を引き上げていくか注目していると述べた。加えて、委員は、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及も、物価の上振れ・下振れ双方に繋がるリスク要因として、注視する必要があるとの見解を共有した。この点に関し、一人の委員は、今次局面での国際商品市況の上昇は、基本的には世界的に需要が拡大する中で生じており、わが国全体でみれば、これまでのところ、輸出の増加や海外収益の拡大といったプラス効果が、原材料コスト上昇によるマイナスの影響を上回るとの見方を示した。

こうした議論を経て、委員は、リスクバランスについて、経済の見通しは、感染症の影響を中心に、当面下振れリスクの方が大きいが、見通し期間の中盤以降は概ね上下にバランスしているとの認識を共有した。物価の見通しについては、委員は、当面は、国際商品市況の上昇の影響などから上振れリスクもあるが、見通し期間全体としてみれば、下振れリスクの方が大きいとの認識を共有した。

また、委員は、金融政策運営の観点から重視すべきリスクとして、わが国の金融システムの動向についても議論を行った。委員は、金融システムは、全体として安定性を維持しているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、より長めの視点では、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介活動が停滞方向に向かうリスクと、利回り追求行動の過熱化などにより金融システム面の脆弱性が高まるリスクの両面あるが、現時点では、これらのリスクは大きくないとの見方を共有した。一人の委員は、感染症の影響を受けた中小企業の資金需要に応えて民間金融機関が行ってきた貸出の多くは、信用リスクが公的部門に移転される実質無利子・無担保融資であったことから、信用コストの上昇が抑制されている面があると指摘した。別の一人の委員は、地域金融機関について、中小企業の新たな資金需要の掘り起こしと持続的な地域創生への貢献に向けた取り組みの進捗状況を注視すべきであると述べた。

4. 金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

当面の金融政策の基本的な運営スタンスについて、委員は、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れの「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要であるとの見解で一致した。そのうえで、委員は、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。特別プログラムを受けた金融環境の評価について、一人の委員は、昨年大きく増加した予備的な資金需要は落ち着いてきており、大企業では借入金を返済する動きが続いていると述べ、感染症の資金繰りへの影響は、売上げの低迷が続く業種や中小企業に限定されつつあるとの見方を示した。この委員を含む何人かの委員は、緊急事態宣言の解除を受けた対面型サービスの持ち直しに伴い、今後、企業金融の改善の裾野が拡がっていくか、12月短観等の関連データを点検したいと述べた。別の委員は、特別プログラムについて、感染リスクが残る場合には何らかのかたちで継続することが適当と考えるが、仮に終了する場合でも、マクロ経済の回復という観点から、マイナスのショックを生じさせないよう慎重に行う必要があるとの見方を示した。そのうえで、この委員は、感染症の影響に関する不確実性が大きいもとでは、柔軟な対応を行う必要があると付け加えた。ある委員は、政策支援の継続を考える際には、低収益性企業の市場からの退出が抑制され、低賃金・低価格構造が温存されるデメリットについても注意が必要であると指摘した。この間、一人の委員は、特別プログラムの社債等の買入れについて、大企業の資金繰りが改善を続ける中で、価格形成メカニズム等の市場機能や年金・生保等の運用に与える影響にも、一層配慮する必要があるとの見方を示した。

委員は、金融政策運営の観点から、国際商品市況の上昇の影響について議論した。何人かの委員は、米欧を念頭に、インフレ率上昇の直接の原因が、供給要因による国際商品市況の上昇にある場合には、金融政策によって対応する必要がない一方、それがインフレ予想や賃金交渉などに2次的な影響を及ぼす場合には、金融政策面での対応が必要になる局面もあり得ると指摘した。そのうえで、このうちの一人の委員は、(1)需要ショックと供給ショックのリアルタイムでの識別が難しいことや、(2)金融政策の効果波及にはラグがあることも考慮して、政策運営を行う必要があると述べた。こうした中、複数の委員は、わが国においては、交易条件の悪化への対応として、金融緩和の継続により需給ギャップを改善させ、価格転嫁が進み易くなる環境を醸成することが重要と指摘した。

更に、委員は、為替円安の影響についても議論した。何人かの委員は、為替円安の影響について、輸出を押し上げる効果は従来よりも低下しているが、海外収益の増加や株高を通じて日本経済全体に対してはプラスに作用しているとの見解を示した。一人の委員は、金融政策運営の観点から、為替円安の影響を考えるうえでは、経済全体へのマクロ的なインパクトの見極めが重要であるとの認識を示すとともに、同時に、業種や規模、個々の経済主体によって、その影響が不均一であることも念頭に置く必要があると指摘した。別の委員は、このところ円安等に起因する物価上昇がみられるが、現状ではインフレ圧力の強まりが日本全体の経済厚生を低下させる可能性は低く、強力な金融緩和を維持すべきであると述べた。ある委員は、足もとの為替円安は、各国の物価上昇率や金融政策スタンスの違いを反映していると述べ、為替円安の影響を議論する際には、実体経済や金融市場を通じた様々な波及経路を総合的に考慮する必要があるとの見方を示した。複数の委員は、為替相場や資産価格は金融政策の重要な波及経路ではあるが、それ自体が目標ではないことにも留意すべきであると述べた。

委員は、以上の議論も踏まえ、先行きの金融政策運営の基本的な考え方についても意見を述べた。何人かの委員は、インフレ率が物価目標を下回るわが国では、きわめて緩和的な金融政策を粘り強く続けていくことが重要との見方を示した。ある委員は、わが国における金融政策の正常化とは、他国の政策動向にかかわらず、2%の「物価安定の目標」を安定的に達成することであり、目標に達していないもとでは金融緩和を修正する理由は全くないと述べ、対外的にも、この点は丁寧に説明すべきであるとの認識を示した。一人の委員は、家計の消費意欲や値上げ許容度が高まっていくためには、賃金上昇期待の高まり等を通じて将来不安を解消することが必要であるとし、企業収益の増加が賃上げに繋がるなど所得から支出への前向きの循環メカニズムが強まるよう、現在の金融緩和を粘り強く続け、経済を下支えしていく必要があると述べた。これに対して、別の一人の委員は、予期できる将来において「物価安定の目標」を達成することが難しいと見込まれる中では、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強める必要があると指摘した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

  • 「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
     長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の
     買入れを行う。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、昨年3月以降、日本銀行が感染症の影響への対応として導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの考えを共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

5. 政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 新内閣では、最大の目標であるデフレ脱却に向けて取り組む。また、総理指示を踏まえ、新型コロナ対応に万全を期すとともに、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」を起動させるため、総合的かつ大胆な経済対策を策定し、質の高い予算をつくり上げる。
  • G20では、世界経済は、変異株の拡大などの下方リスクに晒されており、必要とされる間は、全ての利用可能な政策手段を用いるとの決意が再確認されるとともに、中央銀行が、物価安定を含む自らのマンデートを果たすために、必要に応じて行動することとされた。
  • 日本銀行には、政府との連携のもと、感染症対応を含め、必要な措置を適切に講じることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国景気の現状は、感染症の影響により、依然として厳しい状況にある中、持ち直しの動きが続いているが、そのテンポが弱まっている。先行きについては、景気が持ち直していくことが期待されるが、サプライチェーンを通じた影響による下振れリスクに十分注意する必要がある。
  • 新型コロナ対策の全体像については、予防、発見から早期治療までの流れを更に強化するとともに、最悪の事態を想定して、次の感染拡大に備えることを基本的な考え方とし、11月の早期に取りまとめられるよう具体化を早急に進めている。
  • 引き続き、デフレからの脱却に努める。また、新型コロナ対応に万全を期すとともに、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」を起動させるため、新たな経済対策を策定することとしており、総選挙後、速やかに決定できるよう、政府としてしっかり検討していく。
  • 日本銀行においては、感染症の経済への影響等を十分注視しつつ、引き続き、適切な金融政策運営をお願いする。

6. 採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7. 「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、10月29日に公表することとされた。

8. 議事要旨の承認

議事要旨(2021年9月21、22日開催分)が全員一致で承認され、11月2日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2021年10月28日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
      • 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。
  2. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。本文に戻る