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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2021年12月16、17日開催分)

2022年1月21日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2022年1月17、18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2021年12月16日(14:00から15:50)
 
12月17日( 9:00から11:50)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省   小野平八郎 大臣官房総括審議官(16日)
  • 大家 敏志 財務副大臣(17日)
  • 内閣府   井上 裕之 内閣府審議官(16日)
  • 黄川田仁志 内閣府副大臣(17日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 清水誠一
  • 企画局政策企画課長 川本卓司
  • 金融市場局長 大谷 聡
  • 調査統計局長 亀田制作
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 中島健至
  • 政策委員会室企画役 本田 尚
  • 企画局審議役 福田英司(17日10:13から11:50)
  • 企画局企画調整課長 中嶋基晴(17日10:13から11:50)
  • 企画局企画役 東 将人
  • 企画局企画役 門川洋一

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(10月27、28日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持の観点から、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施したほか、国債買入れやドルオペなどにより潤沢かつ弾力的な資金供給を行った。また、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとで、ETFおよびJ-REITの買入れを運営した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートとGCレポレートは、11月積み期終盤にかけて幾分上昇したが、国債買現先オペを実施したこともあって低下し、それぞれ、-0.05から-0.01%程度、-0.10から-0.05%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。

株価(TOPIX)は、好調な企業決算等を背景に上昇したあと、オミクロン株の発生に伴いグローバルに市場センチメントが悪化した局面では下落するなど、振れの大きな展開となっている。長期金利は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、市場センチメントや米国金利の動きに連れた振れを伴いつつ、横ばい圏内の動きとなっている。円の対ユーロ相場は、円高方向の動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。グローバルにみた企業の業況感は改善しており、製造業の生産水準は、2020年春頃の感染症拡大前の水準を大きく上回って推移している。先行きの海外経済については、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、総じてみれば回復を続けるとみられる。ただし、ワクチンの普及ペースの違いなどを背景に、回復の足取りは各国間で不均一なものとなる可能性が高い。また、感染症および供給制約の動向や、それらが海外経済に与える影響について、引き続き不確実性が大きい。

地域別に動きをみると、米国経済は、回復している。個人消費は、政府による経済対策の効果もあって、財消費を中心に増加している。雇用者数は増加しているが、経済活動の再開ペースとの対比では、回復度合いは依然として緩やかになっている。企業部門をみると、業況感の改善が続くもとで、設備投資は、機械投資を中心に増加している。物価動向をみると、PCEデフレーターの前年比は、昨年の落ち込みによるベース効果に加え、経済活動の再開に伴う供給制約の影響もあって、高い伸びとなっている。

欧州経済は、回復している。個人消費は、経済活動の再開が継続するもとで、サービス消費を中心に、回復を続けている。企業部門をみると、業況感はサービス業を中心に改善を続けているものの、設備投資は、輸送機械を中心に弱含んでいる。物価面では、HICPの前年比は、昨年の落ち込みによるベース効果や足もとのエネルギー価格の上昇などから、前年比+2%を大きく上回って推移している。

中国経済は、改善ペースが鈍化しているものの、基調としては回復を続けている。個人消費は、一部で感染症の影響が残るほか、半導体不足の影響から自動車販売が減速しているものの、雇用・所得環境の改善等を背景に、基調としては増加している。固定資産投資は、企業の債務問題等に伴う不動産投資の減速などから、横ばい圏内で推移している。こうしたもとで、生産は、電力供給問題のほか、供給制約の影響もあって、減速している。

中国以外の新興国経済は、感染者数が概ね抑制されるもとで内需・生産が改善しているほか、輸出の増加もあって、持ち直している。NIEs経済は、輸出の増加に内需の持ち直しも加わり、回復している。ASEAN経済は、感染症の影響を一部に残しつつも、内外需要の増加に支えられて持ち直している。

海外の金融市場をみると、先進国の株価は、オミクロン株への懸念から大幅に下落する局面もみられたが、足もとでは良好な企業決算もあって、米国を中心に上昇している。長期金利は、安全資産需要の高まりから低下している。原油価格は、オミクロン株の発生に伴う需要減退懸念などから下落している。為替市場をみると、資源価格の下落等を受けて、新興国通貨が下落している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。先行きについては、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。

公共投資は、高水準ながら弱めの動きとなっている。7から9月のGDPの実質公的固定資本形成は、災害復旧関連工事の減少を主因に3四半期連続の前期比マイナスとなった。先行きの公共投資は、国土強靱化関連工事の進捗に支えられて、高水準で推移すると考えられる。

輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響による弱い動きが残っているものの、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けている。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、ASEAN地域の感染症拡大に伴うサプライチェーン障害を背景に大きく落ち込んだあと、足もとでは増加に転じている。資本財や情報関連は、グローバルなデジタル関連需要の拡大を反映して、増加基調を続けている。先行きの輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響の緩和やデジタル関連を中心としたグローバル需要の堅調な拡大を背景に、再びしっかりと増加していくとみられる。

企業収益は、対面型サービス業など一部に弱さがみられるものの、全体として改善を続けている。法人企業統計の経常利益は、4四半期連続で改善したあと、7から9月も2019年10から12月の感染症拡大前の水準をはっきりと上回る高水準を維持した。企業の業況感は、原材料コスト上昇や供給制約の影響を受けつつも、感染症の影響が和らぐもとで、対面型サービス業を含む幅広い業種で改善している。12月短観の業況判断DI(全産業全規模)は、2020年6月をボトムに6四半期連続で改善し、「良い」超に転じた。業種別にみると、製造業は改善が続き、感染症拡大前の水準を引き続き上回っている。非製造業は、感染状況の落ち着きや公衆衛生上の措置の全国的な解除を受けて、対面型サービスがはっきりと持ち直し、全体でも大きめの改善となった。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。7から9月のGDPの実質設備投資は、機械投資の一部に供給制約の影響がみられたこともあって、前期比マイナスとなった。先行きの設備投資は、企業収益の改善や緩和的な金融環境にも支えられて、増加傾向が明確になっていくと見込まれる。先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)や建築着工(民間非居住用)の工事費予定額は、持ち直している。12月短観の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース、金融機関を含む全産業全規模)をみると、2021年度は、一時的に控えられていた投資の再開に加え、企業収益の改善見通しもあって、前年比+8.4%と大幅な増加が計画されている。

個人消費は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が幾分和らぐもとで、徐々に持ち直している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、8月はデルタ株流行などからはっきりと減少したが、その後は、感染状況が改善に向かうもとで9月には増加に転じ、10月は、公衆衛生上の措置の全国的な解除を受けて大幅な増加となった。耐久財消費は、夏場にかけて、在宅関連需要の一巡や自動車等の供給制約から減少してきたが、足もとでは供給制約の緩和などから持ち直している。非耐久財消費は、外出意欲の持ち直しなどを背景に、緩やかに増加している。サービス消費は、外食や国内旅行を中心に、9月に概ね下げ止まったあと、10月にははっきりと増加した。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、足もとにかけての個人消費動向を窺うと、食料品等の巣ごもり消費は外出機会の増加に伴って幾分減少しているが、耐久財は自動車が低水準ながらも増加しているほか、外食や国内旅行等のサービス消費についても、感染の抑制傾向が続くもとで、持ち直しを続けているとみられる。先行きの個人消費は、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らいでいくもとで、経済対策の効果やペントアップ需要の顕在化もあって、回復していくとみられる。

雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いている。労働力調査の就業者数は、経済活動全体の持ち直しを反映して下げ止まっているが、対面型サービス業の非正規雇用を中心に、依然低めの水準にある。一人当たり名目賃金は、緩やかに増加しているが、感染症拡大前の水準を依然下回っている。先行きの雇用者所得は、緩やかな改善を続け、水準も明確に切り上がっていくとみられる。

物価面について、商品市況は、オミクロン株への懸念などを反映して一時的に下落する局面もみられたが、世界経済の回復や一部の供給制約を背景に、引き続き高水準で推移している。国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、はっきりとした上昇を続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっている。消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、携帯電話通信料等の一時的な要因を除いたベースでみると、+0.5%程度となっている。この間、予想物価上昇率は、持ち直している。家計、企業、エコノミスト、市場参加者のインフレ予想は、短期を中心に、商品市況の動きなどを反映して、感染症拡大直前の水準を上回って上昇している。一方、長期のインフレ予想は、短観における企業の物価見通しなど緩やかに上昇する指標もみられるが、幅広い上昇には至っていない。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、目先、エネルギー価格の上昇を反映してプラス幅を緩やかに拡大していくと予想される。その後は、一時的な要因による振れを伴いつつも、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調としては徐々に上昇率を高めていくとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、商品市況高を受けた運転資金需要が一部でみられているが、感染症の影響を受けた予備的な需要などが総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。CP・社債の発行スプレッドは、日本銀行の買入れ増額の効果もあって、感染症拡大前の水準を下回って推移している。また、短観のCP発行環境判断DIは、改善傾向にあり、「厳しい」との回答割合も僅少となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ0%台半ば、1割程度となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、感染症の影響を受けやすい業種や中小企業を中心になお厳しさが残っているが、経済の持ち直しに伴い全体としては改善が続いている。短観の資金繰り判断DIをみると、全体として改善が続いているが、中小企業の水準は、大企業との対比で低位にとどまっている。同DIを業種別にみると、宿泊・飲食サービスや対個人サービスなどの弱さが目立つ一方、その他の業種は感染症拡大前の水準を概ね回復している。この間、住宅ローン市場における家計の資金調達環境は、緩和的な状態が維持されている。

マネタリーベースの前年比は、9%台前半のプラスとなっている。マネーストックの前年比は、4%程度のプラスとなっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、(1)好調な企業決算や、(2)オミクロン株に関する不確実性、(3)米欧の金融緩和縮小の動きといった強弱双方の要因が意識され、振れの大きい展開となっているとの見方を共有した。一人の委員は、国際金融市場は、短期間のうちにセンチメントが変わりやすい神経質な地合いにあると述べた。別の一人の委員は、米国FRBによる資産買入れペースの減速や将来予想される利上げが、株安やそれに伴う為替相場の円高方向の動きを含め、内外金融市場に大きな影響を及ぼすリスクに注意が必要であると述べた。また、ある委員は、国際金融市場に関するリスク要因として、米国を始めとする各国の住宅価格の上昇や、ヘッジファンド等による暗号資産へのエクスポージャーの拡大を挙げた。

海外経済について、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しているとの認識で一致した。一人の委員は、現時点では、オミクロン株により需要が大幅に落ち込む兆候はみられないとの見方を示した。別の一人の委員は、先進国では、感染抑制と経済活動の両立を図る政策が選択されているが、感染リスクが残る中での経済正常化は、供給制約の速やかな解消を困難にし、物価や賃金の上昇に繋がっている面があると指摘した。海外経済の先行きについて、委員は、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、総じてみれば回復を続けるとの見方で一致した。そのうえで、委員は、回復の足取りは、ワクチンの普及ペースの違いなどを反映して、各国間で不均一なものとなる可能性が高いほか、先行きの見通しを巡る不確実性も大きいとの認識を示した。具体的なリスク要因として、委員は、オミクロン株を含む変異株の拡大などの感染動向、供給制約の影響、資源価格の動向、米国でのインフレ動向と政策対応の影響、民間債務問題が懸念される中国の成長鈍化、地政学的リスクなどを指摘した。一人の委員は、オミクロン株に起因する人流の抑制は世界経済の回復の重石となっているが、仮に弱毒性が判明し、感染収束の兆しもみえてくる場合には、世界経済の回復ペースは加速するとともに、供給制約が深刻化する可能性があると述べた。この間、ある委員は、人々が安心して経済活動を再開し、世界経済が安定的な成長軌道に復するためには、世界に広くワクチンが行き渡り、新たな変異株の出現リスクひいては感染・重症化を抑制していくことがきわめて重要であると述べた。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。一人の委員は、ISM指数は製造業・非製造業ともに高水準で推移するなど、米国経済の堅調な回復が続いているが、需要回復と供給制約による物価上昇圧力は一段と高まっていると述べた。別の一人の委員は、感染リスクを背景とした労働供給不足による賃金の上昇が、より高い賃金を求めた自発的離職の増加と更なる人手不足に繋がっていると指摘した。ある委員は、歴史的な物価上昇により実質賃金は前年比マイナスとなっており、物価上昇の更なる長期化や予想物価上昇率の上振れリスクを注視したいと述べた。別のある委員は、今後、米国FRBによる金融緩和の縮小が、インフレ率や成長にどのように影響するかに注目していると述べた。

欧州経済について、委員は、回復しているとの認識で一致した。複数の委員は、ワクチン接種証明書の活用など、感染抑制と経済活動の両立を意識した施策が講じられるもとで、回復基調は維持されているとの見解を示した。そのうえで、このうちの一人の委員は、足もとでは、感染再拡大を受けて行動制限の内容が徐々に強化されており、それが先行きの経済に及ぼす影響に注意が必要であると述べた。

中国経済について、委員は、改善ペースが鈍化しているものの、基調としては回復を続けているとの見方を共有した。複数の委員は、不動産セクターの減速が、個人消費も含め経済全体に波及しつつある中、政府は、景気下支えに配慮しつつも、不動産セクターのデレバレッジを進める姿勢をなお維持しているとの認識を示した。別の複数の委員は、石炭供給の増加もあって、電力供給問題はひと頃より緩和されているとの認識を示した。このうちの一人の委員は、世界的な脱炭素化の流れの中で、大規模な石炭火力発電所の新設は難しく、電力供給問題は、高齢化や各種の統制強化の動きとともに、中長期的な成長力の下押し要因となり得ると指摘した。

新興国経済について、委員は、持ち直しているとの認識を共有した。何人かの委員は、東南アジアについて、感染状況が落ち着くもとで、サプライチェーンは正常化に向かっているとの認識を示した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直しているとの認識で一致した。一人の委員は、7から9月のGDP成長率は、供給制約による下押しの影響が、輸出や生産だけでなく、個人消費や設備投資にも幅広く波及するもとで、大きめのマイナスになったとの認識を示した。別の一人の委員は、7から9月に経済を下押しした感染拡大や自動車等の減産に繋がった供給制約といった要因は、足もとでは改善に向かっていると述べた。複数の委員は、12月短観で企業の業況感は6四半期連続で改善するなど、供給制約の影響は一時的であり、企業部門の前向きの循環は途切れていないとの見解を示した。ある委員は、供給制約は未だに根強く残っているほか、変異株に関する不確実性はあるとしつつも、公衆衛生上の措置が段階的に解除される中で、消費者マインドは改善しており、わが国経済の持ち直し基調は強まっているとの考えを示した。

景気の先行きについて、委員は、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとの見解で一致した。また、その後の景気展開について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが家計部門を含め経済全体で強まる中で、わが国経済は、ペースを鈍化させつつも潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方を共有した。一人の委員は、政府において賃上げ促進に向けた検討がなされている中、感染症への警戒が継続するもとでも企業活動が活発化し、賃金と物価が大きなタイムラグを伴うことなくそれぞれ安定的に上昇することで、前向きな消費活動に結び付く好循環に繋がることが期待されると述べた。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響による弱い動きが残っているものの、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けているとの認識を共有した。一人の委員は、東南アジアでの感染拡大に起因する部品不足が緩和するもとで、自動車は増産に転じており、輸出や生産は一時的な減速局面を脱しつつあるとの見方を示した。先行きの輸出や生産について、委員は、供給制約の影響の緩和やデジタル関連を中心としたグローバル需要の堅調な拡大を背景に、再びしっかりと増加していくとの見方を共有した。

企業収益について、委員は、全体として改善を続けているとの見解で一致した。一人の委員は、上場企業の7から9月期の経常利益は、既往最高となった前期ほどではないにせよ、高水準を維持したと指摘した。原材料コスト上昇の影響について、ある委員は、交易条件の悪化に歯止めがかかっていないと指摘した。この点に関し、別のある委員は、規模・業種別にばらつきはあるが、交易条件が悪化した過去の局面では、売上数量の増加がこれを相殺して、企業収益は改善基調を維持したケースが多いとの認識を示した。そのうえで、この委員は、今次局面では、売上数量の増加に加え、輸出を中心とする価格転嫁による販売価格上昇も、収益改善に寄与していると指摘した。また、一人の委員は、最近の交易条件の悪化は、ドル建て原油価格の上昇など商品市況高の影響が大きく、為替円安の影響は大きくないとの認識を示した。この間、別の一人の委員は、わが国の企業が海外での地産地消を進めてきた結果、円安が企業業績や株価にもたらすプラスの効果は、かつてより小さくなってきているとの見解を示した。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。先行きの設備投資について、委員は、企業収益の改善や緩和的な金融環境にも支えられて、増加傾向が明確になっていくとの見解を共有した。何人かの委員は、12月短観の設備投資計画について、小幅な下方修正にとどまっており、高い伸びの増加計画が維持されているとの認識を示した。そのうえで、このうちの一人の委員は、イノベーションに繋がるソフトウェア投資や研究開発投資などの成長投資や、多くの国内従業者が働く非製造業・中小企業による設備投資の計画に、力強さがみられず、むしろ預金保蔵マインドの根強さが窺われると指摘した。

個人消費について、委員は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が幾分和らぐもとで、徐々に持ち直しているとの認識で一致した。複数の委員は、公衆衛生上の措置の解除後も感染者数が抑制されているもとで、外食や国内旅行への需要が回復していると指摘した。この点に関し、一人の委員は、12月短観では、対面型サービス業の業況感が、なお低水準とはいえ大幅に改善していると述べた。オミクロン株の影響について、ある委員は、高頻度データや企業からの聞き取り調査を踏まえると、現時点では、消費者の行動が顕著に変化している様子は窺われないと指摘した。これに関し、別のある委員は、国民の感染症への適応が進む中で、現時点では冷静な受け止めが多いのではないかとの見方を示した。先行きの個人消費について、委員は、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らいでいくもとで、経済対策の効果やペントアップ需要の顕在化もあって、回復していくとの見方を共有した。複数の委員は、高齢者を中心に感染症への警戒感は根強く、大人数での飲食店の利用がなお低調となるなど行動様式が容易には元に戻らないとみられるもとで、先行きのサービス消費の回復ペースは緩やかなものになるとの見解を示した。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっているとの認識で一致した。複数の委員は、携帯電話通信料などの一時的な要因を除けば、消費者物価の前年比は、小幅なプラスとなっており、上昇圧力がみられるとの見解を示した。ある委員は、原材料価格の上昇等を背景に国内企業物価が歴史的な伸びを続ける中、消費者物価についても、基調的な上昇圧力が徐々に高まってきているように窺われると述べた。別のある委員は、足もとでは、食品やエネルギー関連だけでなく、幅広い品目で値上げが行われていると指摘した。一人の委員は、消費者物価の基調的な変動を捉える加重中央値や最頻値も、少しずつ上昇していると指摘した。

予想物価上昇率について、委員は、持ち直しているとの見方で一致した。ある委員は、12月短観では、仕入価格判断と販売価格判断のギャップが拡大しているが、企業の物価見通しが上方修正されるなど、これまで値上げによる売上減少への根強い警戒が指摘されてきた企業の価格設定行動に、変化の兆しが窺われると指摘した。

物価の先行きについて、委員は、消費者物価の前年比は、目先、エネルギー価格の上昇を反映してプラス幅を緩やかに拡大していくとの見方で一致した。その後については、一時的な要因による振れを伴いつつも、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調としては徐々に上昇率を高めていくとの認識を共有した。一人の委員は、12月短観では、雇用の不足感が強まり、設備の過剰感も解消するなど需給ギャップは改善傾向にあることが確認されたほか、このところの予想物価上昇率の高まりや国内企業物価の上昇も踏まえると、物価の基調的な上昇圧力は次第に強まる筋合いにあると述べた。別の一人の委員は、予想物価上昇率は中長期を含めて上昇しており、物価上昇圧力は、先行き高まっていくとの見方を示した。また、この委員は、政府が賃上げの推進を行う中、2022年以降の賃金上昇率が注目されると続けた。この間、ある委員は、需給ギャップや予想物価上昇率の動向を踏まえると、2023年度末に「物価安定の目標」を達成するのは難しいが、企業の価格設定行動や予想インフレ率の変化には注目していると述べた。

経済・物価見通しのリスク要因として、委員は、オミクロン株の発生などに伴う感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に、引き続き注意が必要であるとの認識で一致した。また、委員は、供給制約の影響が拡大・長期化するリスクにも留意が必要であるとの見方を共有した。一人の委員は、当面、感染症の動向や供給制約の影響など下振れリスクに注意が必要であるが、2022年度までを展望すると、政府の経済対策の効果や挽回生産の動きなど、上方修正要因も増えてきているとの認識を示した。複数の委員は、仮にオミクロン株の弱毒性が判明し、ブースター接種や経口薬の普及などにより人々の安心感が拡がれば、ペントアップ需要の顕在化が明確となり、成長率が上振れるリスクもあると指摘した。一方、ある委員は、交易条件の悪化に加え、物流の混乱や供給制約の長期化も企業収益を押し下げる可能性があり、そうしたもとで、価格転嫁が十分に進まない場合には、利益から資本や労働への分配が滞るリスクが高まると指摘した。別のある委員は、海外経済の減速が国内経済の回復鈍化に繋がるリスクを指摘した。物価面のリスクについて、一人の委員は、わが国では感染症下においても雇用を維持してきたことから、先行き、米国のような賃金の急激な上昇が生じるとは考えにくいが、実体経済とともに物価も上振れるリスクが相応にあるとの認識を示した。別の一人の委員は、これまで、値上げ許容度の低さや賃金の上がりにくさといったわが国固有の事情を念頭に、物価は下振れリスクが大きいと判断してきたが、次回展望レポートでは、最近の予想物価上昇率や原材料コストの上昇などを踏まえ、こうした従来のリスク評価が妥当か、改めて点検する必要があると述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。大企業について、委員は、CP・社債市場は良好な発行環境となっているほか、貸出市場でも予備的な流動性需要に落ち着きがみられるとの見方を共有した。また、中小企業の資金繰りについて、委員は、総じてみれば改善傾向にあるが、対面型サービス業など一部には、なお厳しさが残っているとの認識を共有した。金融機関の貸出運営スタンスに関して、一人の委員は、緩和的な状況が続いているとの認識を示した。何人かの委員は、貸出動向について、大企業では、一部の業種を除き、予防的に調達した借入金を返済する動きがみられると指摘した。ある委員は、感染症の影響を強く受ける一部業種や中小企業では、企業の資金繰り上の困難は、流動性の問題から資本の問題に移っていると指摘した。この点に関して、別のある委員は、資本性資金の調達を行う先や、各種助成金などの国のサポートを受けている先も依然として少なくないと述べた。この間、委員は、住宅ローン市場でも、家計の資金調達環境は緩和的な状態が維持されているとの見解で一致した。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

当面の金融政策運営スタンスについて、委員は、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れの「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要であるとの見解で一致した。

そのうえで、委員は、2022年3月末に期限を迎える特別プログラムの4月以降の取扱いについて議論した。委員は、金融環境は、2020年春の感染症拡大直後には緩和度合いがいったん低下したが、特別プログラムの導入以降は、全体として改善しているとの評価を共有した。一人の委員は、今次局面では、日本銀行・政府の措置や、金融機関の積極的な対応もあって、企業の資金調達環境は、業況感の大幅な悪化に連動することなく、総じて緩和的な状態が維持されたと指摘した。そのうえで、この委員を含む多くの委員は、こうした政策対応は、その後の経済の回復や物価の下支えに、大きな効果を発揮してきたとの認識を示した。複数の委員は、特別プログラムの下支え効果として、企業倒産が歴史的な低水準に抑制されてきたことを挙げた。別の複数の委員は、感染症拡大直後から足もとまでの金融環境の改善状況を踏まえると、感染症という非常事態への対応として導入した特別プログラムの一部については、所期の役割をおおよそ終えており、終了に向かうべきであるとの認識を示した。

こうした議論を経て、委員は、大企業では、CP・社債市場が良好な発行環境となっており、貸出市場でも予備的な流動性需要に落ち着きがみられることなどを踏まえると、コロナオペのうち大企業向けや住宅ローンが中心となっている民間債務担保分に加え、CP・社債等の買入れ増額措置については、期限どおり終了することが適当であるとの見解で一致した。CP・社債等の買入れ増額措置に関して、複数の委員は、CP・社債の信用スプレッドがきわめて低水準となるもとで、企業の信用力に応じた金利形成が難しくなっているという副作用にも配慮すべきであると指摘した。また、一人の委員は、こうした市場機能への影響に加えて、年金・生保等の運用に与える影響にも配慮し、CP・社債等の買入れは平常化することが適当であると述べた。

一方で、委員は、対面型サービス業などの中小企業の一部には、資金繰りになお厳しさが残っている点を踏まえ、コロナオペのうち中小企業等向けに相当する部分は半年間延長し、中小企業等の資金繰り支援に万全を期すことが適当であるとの認識を共有した。複数の委員は、対面型サービス業などの中小企業は、感染が再拡大した場合、資金繰り悪化などの悪影響を受けやすいことに留意する必要があると述べた。コロナオペの制度融資分について、何人かの委員は、民間金融機関が行う実質無利子・無担保融資が大部分を占めている中、同融資は政府が信用リスクをカバーしているほか、新規申込みが既に終了している点を踏まえ、延長の際には、付利等のインセンティブを見直してはどうかと述べた。加えて、このうちの一人の委員は、コロナオペの制度融資分は、バックファイナンス措置であることを明確にすべきであるとの見解を示した。

以上のような委員の意見を受けて、議長は、執行部に対し、4月以降の特別プログラムの具体的な取扱いについて、どのような対応が考えられるか説明するよう指示した。

執行部は、次のとおり説明を行った。

  • コロナオペについては、以下の取扱いとすることが考えられる。
    • 中小企業等向けのプロパー融資分は、現行の取扱いのまま、期限を2022年9月末まで半年間延長する。
    • 中小企業等向けの制度融資分は、以下のとおりインセンティブを見直したうえで、バックファイナンス措置として、期限を2022年9月末まで半年間延長する。
      1. (1)貸出促進付利制度上の付利金利を+0.1%(カテゴリーII)から0%(カテゴリーIII)へと引き下げる。
      2. (2)マクロ加算残高への算入額を、利用残高の2倍から利用残高相当額へと引き下げる。
    • 大企業向けや住宅ローンを中心とする民間債務担保分は、期限どおり、2022年3月末をもって終了する。
  • CP・社債等の買入れについては、以下の取扱いとすることが考えられる。
    • CP・社債等の買入れ増額措置は、期限どおり、2022年3月末をもって終了する。
    • 2022年4月以降は、感染症拡大前と同程度の買入れペースに戻し、残高水準を感染症拡大前(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に引き下げていく。なお、一定の前提を置いて試算すると、感染症拡大前の水準まで残高が減少するのに、CP等は半年程度、社債等は5年程度を要するとみられる。
    • 買入れ条件は、以下のとおり、感染症拡大前に戻す。
      1. (1)一発行体当たりの買入れ残高の上限を、CP等については5,000億円から1,000億円に、社債等については3,000億円から1,000億円に、それぞれ引き下げる。
      2. (2)一発行体の総発行残高に占める日本銀行の保有割合の上限を、CP等については50%から25%に、社債等については30%から25%に、それぞれ引き下げる。
      3. (3)買入れ対象とする社債等の残存期間を、1年以上5年以下から、1年以上3年以下に短縮する。

執行部の説明を踏まえ、委員は、特別プログラムの一部について、所要の見直しを行ったうえで、期限を半年間延長することが適当であるとの見解で一致した。一人の委員は、緊急措置である特別プログラムについて、資金繰りに不安を抱える中小企業向け支援に集中させる方向での見直しは適切であり、翌年の事業計画の検討を始める年内に延長を決定すべきであると指摘した。別の一人の委員は、オミクロン株の発生など感染動向を巡る不確実性は引き続き高いため、今回会合で特別プログラムの一部延長を決定し、早めに来年度以降の方針を明らかにすることで、中小企業やそれを支える金融機関に安心感を与えることが望ましいとの考えを示した。

また、委員は、今回の特別プログラムの見直しがマネタリーベース等に及ぼす影響についても議論した。ある委員は、今回の特別プログラムの見直しに際しては、経済や物価に悪影響がないことや、マネタリーベースの拡大方針との整合性を説明する必要があると指摘した。この点に関し、一人の委員は、2020年春以降のマネタリーベースの増加は、感染症拡大による企業等の予備的な流動性需要の高まりに対し、日本銀行が潤沢な資金供給によって応えてきた結果であり、感染症の影響が和らげば、流動性需要の後退に伴い、マネタリーベースも減少する筋合いにあるとの認識を示した。そのうえで、この委員は、このようなマネタリーベースの変動は短期的なものであり、そうした変動を均した長期的なトレンドでみれば、マネタリーベースの増加基調は維持されるため、オーバーシュート型コミットメントとは矛盾しないと述べた。別の一人の委員は、イールドカーブ・コントロールのもとでは、マネタリーベースは長期金利の目標水準への誘導のための資産購入によって事後的に決まる側面が強いことから、マネタリーベースの一時的な減少自体には大きな意味はないとの見解を示した。そのうえで、この委員は、特別プログラムは緊急時の流動性対策であり、通常のマクロ経済政策とは異なることを丁寧に説明すべきであると述べた。

更に、委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方についても意見を述べた。委員は、今回の特別プログラムの一部延長後も、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。一人の委員は、感染症によって状況が大きく変わる場合には、企業の資金繰り対策を超える政策対応が必要になるかもしれないと述べたうえで、その場合には、政府と協調して躊躇なく政策を打ち出す旨をしっかりと対外的に説明すべきであるとの考えを示した。別の一人の委員は、特別プログラムは、感染症対応の政策であり、基本的には感染症の影響が収束すれば手仕舞いさせるべきものであるとの認識を示したうえで、将来、特別プログラムを全て手仕舞いすることになったとしても、それは感染症対応の終了であり、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでの金融緩和の縮小を意味するものでは全くないと述べた。ある委員は、わが国の物価上昇は原油・資源価格上昇を受けた部分が相応にあり、中長期の予想物価上昇率は2%の「物価安定の目標」にアンカーされていないとの認識を示した。そのうえで、この委員は、現段階での金融緩和政策の修正は、感染症からの回復に水を差し、景気後退と物価下落をもたらしかねず、時期尚早であると指摘した。別のある委員も、わが国の物価を巡る動向は、米国とは大きく異なっており、現行の金融緩和スタンスを粘り強く継続することが重要であると述べた。この間、一人の委員は、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく金融緩和姿勢を強めることで、経済の回復と「物価安定の目標」の達成を早期に実現する必要があるとの考えを示した。別の一人の委員は、持続的な成長と物価安定目標の実現には、企業から新たな投資資金需要が生まれ、資金循環が大きくなる構造が必要であり、その実現に向けた各経済主体の取り組みを丹念にみていくことが重要である旨を述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、2020年3月以降、日本銀行が感染症の影響への対応として導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの考えを共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針で一致した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 特別プログラムの延長は、日本銀行が今後も企業金融の円滑確保に万全を期す姿勢を示すものと受け止めている。政府としても、日本政策金融公庫等による金利を引き下げた無担保の融資を継続するなど、資金繰り支援に取り組んでいる。
  • 11月に、政府は、感染症対応に万全を期すとともに、「新しい資本主義」を起動させ、成長と分配の好循環を実現するために必要な施策を盛り込んだ「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を策定した。現在、これを実行するための補正予算が国会審議中である。また、来年度予算の作業を進めている。更に、12月10日に取りまとめられた与党税制改正大綱では、賃上げにかかる税制について、企業の税額控除率を大幅に引き上げることなどを盛り込んでおり、政府としても適切に対応していく。
  • 今後とも、日本銀行には、政府と連携し、経済・物価・金融情勢を踏まえ、適切な金融政策運営を期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 政府は、景気の下支えや下振れリスクへの対応に万全を期し、「新しい資本主義」を起動させるため、経済対策を閣議決定した。具体的には、感染症対策に加え、経済社会活動の再開に向けた需要喚起策、成長と分配の好循環を起動させるための成長分野への投資や「人」への投資の抜本的強化などに取り組む。
  • 本対策の規模は、予備費を含め、財政支出で56兆円程度、事業規模で79兆円程度となっている。実質GDPの下支え・押上げ効果は5.6%程度であり、スピード感をもって実施し、日本経済を一日も早く成長軌道に乗せて参る。
  • 今回の特別プログラムに関する決定は、政府の経済対策に呼応し、中小企業等の資金繰り支援に万全を期すものである。日本銀行におかれては、政府の経済対策を踏まえた適切なポリシーミックスのもと、引き続き、緊密な連携と適切な金融政策運営を期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3.「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション基本要領」の一部改正等

新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムの一部を見直したうえで、延長するための「『新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション基本要領』の一部改正等に関する件」が採決に付され、全員一致で決定された。

4.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、特別プログラムの一部延長などを内容とする対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.議事要旨の承認

議事要旨(2021年10月27、28日開催分)が全員一致で承認され、12月22日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2021年12月17日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 新型コロナウイルス感染症は、引き続き内外経済に大きな影響を及ぼしているが、わが国の金融環境は、全体として改善している。大企業についてみると、CP・社債市場は良好な発行環境となっているほか、貸出市場でも予備的な流動性需要に落ち着きがみられる。中小企業の資金繰りについては、総じてみれば改善傾向にあるが、対面型サービス業など一部には、なお厳しさが残っている。こうした情勢を踏まえ、日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、中小企業等の資金繰りを引き続き支援していく観点から、新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムの一部について、以下のとおり、期限を2022年9月末まで半年間延長することを決定した。
    1. (1)新型コロナ対応金融支援特別オペ(全員一致)
      1. [1]感染症対応にかかる中小企業等向けのプロパー融資分は、現行の取扱いのまま、期限を半年間延長する。
      2. [2]感染症対応にかかる中小企業等向けの制度融資分は、2022年4月以降、貸出促進付利制度上の付利金利を0%(カテゴリーIII)、マクロ加算残高への算入は利用残高相当額としたうえで、バックファイナンス措置として期限を半年間延長する。
      3. [3]大企業向けや住宅ローンを中心とする民間債務担保分は、期限どおり、2022年3月末をもって終了する。
    2. (2)CP・社債等の買入れ
      • CP・社債等の買入れ増額措置は、期限どおり、2022年3月末をもって終了する。2022年4月以降は、感染症拡大前と同程度の買入れペースに戻し、CP・社債等の買入れ残高を、感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に引き下げていく。
  2. 金融市場調節方針、長期国債以外の資産の買入れ方針については以下のとおりとする。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
      • 短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)
      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。
  3. わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響による弱い動きが残っているものの、基調としては増加を続けている。また、企業収益や業況感は全体として改善を続けている。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いている。個人消費は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が幾分和らぐもとで、徐々に持ち直している。住宅投資は持ち直している。公共投資は高水準ながら弱めの動きとなっている。わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっている。また、予想物価上昇率は、持ち直している。
  4. 先行きのわが国経済を展望すると、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが家計部門を含め経済全体で強まるなかで、わが国経済は、ペースを鈍化させつつも潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、目先、エネルギー価格の上昇を反映してプラス幅を緩やかに拡大していくと予想される。その後は、一時的な要因による振れを伴いつつも、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調としては徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
  5. リスク要因としては、引き続き感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に注意が必要である。とくに、感染抑制と経済活動の両立が円滑に進むかどうか不確実性が高いほか、一部でみられる供給制約の影響が拡大・長期化するリスクにも留意が必要である。
  6. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。本文に戻る