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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2022年4月27、28日開催分)

2022年6月22日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2022年6月16、17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2022年4月27日(14:00から15:52)
 
4月28日( 9:00から12:02)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 小野平八郎 大臣官房総括審議官(27日)
  • 大家 敏志 財務副大臣(28日)
  • 内閣府 井上 裕之 内閣府審議官(27日)
  • 黄川田仁志 内閣府副大臣(28日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 山田泰弘
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 清水誠一
  • 企画局政策企画課長 川本卓司
  • 金融機構局長 正木一博
  • 金融市場局長 大谷 聡
  • 調査統計局長 亀田制作
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 中島健至
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画役 長江真一郎
  • 企画局企画役 安藤雅俊
  • 企画局企画役 門川洋一

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(3月17、18日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。この間、米国金利の動き等を受けて、10年物国債金利の上昇圧力が高まった局面では、複数日にわたる10年物国債を対象とする固定利回り方式による国債買入れ(連続指値オペ)等を実施した。

企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持の観点から、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施したほか、国債買入れやドルオペなどにより潤沢かつ弾力的な資金供給を行った(このうち、CP・社債等の買入れ増額措置とコロナオペの民間債務担保分は3月末をもって終了した)。また、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとで、ETFおよびJ-REITの買入れを運営した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.020から-0.004%程度で推移している。GCレポレートは、本行の国債買入れ増加を受けた証券会社の在庫ファンディング需要の減退などから大きめに低下する局面もみられ、-0.264から-0.083%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。

わが国の株価(TOPIX)は、米欧株価に連れた動きを示しており、前回会合時点と比べると、概ね横ばいとなっている。長期金利は、米国金利の動き等を受けて上昇圧力が高まる局面もみられているが、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、米国金利の上昇や、資源高を受けた本邦輸入企業のドル買いの動きなどから、円安が進行している。円の対ユーロ相場も、欧州金利の上昇を受けて、円安が進行している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。ウクライナ情勢を受けて、資源・穀物価格の上昇を背景とした世界的なインフレ圧力が強まっているほか、ロシア関連貿易の縮小や物流面での遅延・停滞等の影響が一部でみられている。また、感染が拡大する中国では、厳格な公衆衛生上の措置に伴い、一部地域で工場・港湾の操業制限が実施されており、サプライチェーンを介して、供給制約への影響も拡がっている。これらの動きは、グローバルな経済活動への下押し圧力となっているが、全体としてみれば、感染症の影響が和らぐもとで、企業の業況感は改善を続けており、製造業の生産や貿易量も増加基調を維持している。先行きの海外経済は、ウクライナ情勢による減速圧力を受けつつも、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、総じてみれば回復を続けるとみられる。ただし、今後のウクライナ情勢の展開と、それが海外経済や国際金融資本市場に与える影響を中心に、先行きの不確実性はきわめて高い。

地域別にみると、米国経済は、回復している。個人消費は、積み上がってきた貯蓄の取り崩しを伴いつつ、ペントアップ需要が顕在化するもとで、増加が続いている。雇用者数の増加は続いているが、労働参加率の回復が緩やかなペースにとどまるもとで、求人率や離職率の高止まりもあって、労働市場の逼迫感は一段と強まっている。企業部門をみると、業況感の改善と設備投資の増加が続いている。物価動向をみると、PCEデフレーターの前年比は、財市場での需給逼迫の影響などから、6%台半ばの高い上昇率となっている。

欧州経済は、基調としては回復している。個人消費は、エネルギー価格の上昇による減速圧力を受けつつも、経済活動の再開が続くもとで、サービス消費を中心に基調としては回復している。企業部門をみると、業況感の改善が続くもとで、設備投資も増加している。物価面では、HICPの前年比は、エネルギー価格の上昇などからプラス幅をはっきりと拡大し、7%台半ばとなっている。

中国経済は、基調としては回復しているものの、改善ペースが鈍化した状態が続いている。個人消費は、感染急拡大とそれに伴う厳格な公衆衛生上の措置による下押しから、減速している。企業活動面でも、厳格な公衆衛生上の措置に伴う物流の停滞もあって、一部で下押し圧力がみられるものの、電力供給問題が概ね解消するもとで、生産は基調としては持ち直している。固定資産投資は、インフラ投資の加速を受けて持ち直している。

中国以外の新興国経済は、ウクライナ情勢により下押しされる国・地域もみられるが、総じてみれば持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、輸出の増加が続く中、感染症の影響が和らぐもとで内需の改善も続いており、回復している。

海外の金融市場をみると、先進国の長期金利は、ウクライナ情勢を受けて大幅に悪化していた投資家のリスクセンチメントが幾分改善する中で、米国を中心に金融政策の正常化の前倒しも意識されたことから、大きく上昇している。株価は、リスクセンチメントの改善によりいったん上昇したが、その後は、長期金利上昇を受けてIT関連銘柄を中心に下落に転じ、前回会合時点と比べると概ね横ばいとなっている。原油価格は、中国での需要減少が意識されたものの、ロシアからの供給減少懸念が根強く残る中で、高値圏で推移している。為替市場について、新興国通貨をみると、ロシア・ルーブルが資本規制の影響等もあって反発している一方、資源高を背景に上昇してきたラ米の通貨は、足もとでは下落に転じている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、感染症や資源価格上昇の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している。先行きについては、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。

輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響を残しつつも、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けている。実質輸出を財別にみると、情報関連は、スマートフォンやデータセンター向けの半導体等が堅調に推移するもとで、増加している。資本財も、世界的な機械投資の堅調さに加え、デジタル関連需要の拡大を受けた半導体製造装置への旺盛な需要に支えられて、振れを伴いつつも増加している。一方、自動車関連は、世界的な半導体需給の逼迫が続くもとで、国内での感染拡大等に伴う一時的な部品調達難の強まりもあって、持ち直しは緩やかなものにとどまっている。先行きの輸出や鉱工業生産は、海外経済がウクライナ情勢による減速圧力を受けつつも総じてみれば回復を続けるもとで、供給制約の影響の緩和が見込まれる自動車関連やグローバル需要が拡大しているデジタル関連を中心に、増加を続けるとみられる。

企業収益は全体として改善しているが、業況感は、感染症や資源価格上昇の影響などから、このところ改善が一服している。短観の業況判断DI(全産業全規模)は、6四半期連続で改善したが、3月に小幅悪化した。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。先行きの設備投資は、企業収益が資源価格上昇の影響から下押しされつつも全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境や供給制約の緩和を背景に、増加傾向が明確になっていくと予想される。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、振れを伴いつつも増加しているほか、建築着工(民間非居住用)の工事費予定額も、振れを均してみれば持ち直している。3月短観の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース、金融機関を含む全産業全規模)をみると、2021年度に前年比+4.9%とはっきりとしたプラスとなったあと、2022年度は同+3.7%と、3月時点としては過去平均対比高めの伸びとなっている。

個人消費は、本年初の感染再拡大の影響からいったん減少したが、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が和らぐもとで、再び持ち直しつつある。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、昨年10から12月にはっきりと増加したあと、1から2月の10から12月対比は、オミクロン株の急拡大とそれに伴うまん延防止等重点措置の適用の影響により、-3.8%の減少となった。耐久財消費は、供給制約の影響が残るもとで、全体として弱めの動きとなった一方、非耐久財消費は、均してみれば横ばい圏内で推移した。サービス消費は、外食や国内旅行を中心に減少した。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、足もとにかけての動向を窺うと、新規感染者数が減少に転じた2月後半以降、サービス消費は再度持ち直している模様である。また、財消費も、耐久財では供給制約の影響が残っているものの、衣料品や身の回り品の売上げが徐々に回復しており、全体では堅調に推移しているとみられる。ただし、個人消費関連のマインド指標をみると、感染症の影響緩和は改善要因となっている一方で、ウクライナ情勢を受けたエネルギー・食料品価格の上昇は下押し方向に作用し始めている。先行きの個人消費は、エネルギー・食料品価格の上昇が実質所得の悪化を通じて下押しに作用するものの、感染状況が改善し、ワクチン・治療薬の普及等を受けた感染抑制と経済活動の両立が次第に進んでいくもとで、ペントアップ需要の顕在化などを背景に、回復していくと予想される。

雇用・所得環境をみると、一部で改善の動きもみられるが、全体としてはなお弱めとなっている。労働力調査の就業者数は、対面型サービス業の非正規雇用を中心に依然低めの水準にある。労働需給面をみると、労働力率と失業率は横ばい圏内の動きを続けているが、短観の雇用人員判断DIは「不足」超幅の拡大が続いている。一人当たり名目賃金は、経済活動全体の持ち直しを反映して、所定内給与を中心に緩やかに上昇している。先行きの雇用者所得は、景気の改善に伴い緩やかな増加を続け、水準も明確に切り上がっていくと予想される。

物価面について、商品市況は、ウクライナ情勢を受けた供給懸念が引き続き意識されるもとで、高水準で推移している。国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、はっきりとした上昇を続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、0%台後半となっている。消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、携帯電話通信料等の一時的な要因を除いたベースでみると、1%程度となっている。この間、予想物価上昇率は、短期を中心に上昇している。短期的なインフレ予想は、最近の資源価格上昇の影響などから、総じてはっきりと上昇している。中長期的なインフレ予想も、短期と比べるとペースは緩やかながら、上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料下落の影響が剥落するもとで、エネルギー価格の大幅な上昇の影響に加え、食料品を中心とした原材料コスト上昇の価格転嫁の動きもあって、いったん2%程度まで上昇率を高めると予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、原材料コストの上昇を受けた運転資金需要がみられているが、感染症の影響を受けた予備的な流動性需要などが総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、市場のボラティリティ上昇の影響が一部で残っているが、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ0%台半ば、9%程度となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、感染症の影響を受けやすい業種や中小企業を中心になお厳しさが残っており、足もとでは原材料コスト上昇の影響もみられるが、全体としては経済の持ち直しに伴い改善傾向にある。

この間、マネタリーベースは、ひと頃に比べ減速しつつも、足もとでは前年比8%程度のプラスとなっている。マネーストックの前年比も、3%台半ばのプラスを維持している。

(3)金融システム

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

大手行の収益は、高水準の貸出残高や、手数料収入の増加などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、概ね横ばいとなっている。地域銀行の収益も、高水準の新型コロナ関連融資残高などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、概ね横ばいとなっている。

金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち、実体経済活動との対比でみた金融機関の与信量等の4指標について、過熱方向にトレンドから乖離した状態となっている。もっとも、これらは、主として、感染症の影響による企業等の運転資金需要の高まりに金融機関が応えた結果として生じており、金融活動の過熱感を表すものとはみられない。企業収益の回復とともに債務返済が進み、金融機関与信が実体経済活動に見合った水準に復していくか、引き続き注視する必要がある。

2.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢の現状

国際金融市場について、委員は、ウクライナ情勢を巡って不透明感の強い状態が続く中、米国FRBが利上げペースを加速するとの見方が強まっており、米欧の長期金利は上昇し、為替市場では円安が進行しているとの見方を共有した。一人の委員は、市場参加者は、インフレ率の高止まりが続く米国を中心に、想定以上の金融引締めが必要となり、海外経済や国際金融資本市場が不安定化するリスクに敏感になっているように窺われるとの認識を示した。別の一人の委員は、米国の金融部門のバランスシート規模は拡大傾向にあり、金融引締めの影響が過去の局面に比べて大きくなり得るため、注視する必要があるとの考えを示した。ある委員は、1990年代後半に発生したロシア国債のデフォルト事例も踏まえ、最近のロシア・ウクライナ情勢により国際金融資本市場に想定外のテールリスクが引き起こされることがないか、警戒が必要であると述べた。

海外経済について、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しているとの見方で一致した。一人の委員は、米欧では、公衆衛生上の措置の緩和が進むもとで、経済活動が活発になっていると指摘した。別の一人の委員は、米欧中央銀行の政策の重点は、感染症下での経済のサポートからインフレ抑制へと移ってきているが、経済の回復は続いているとの見方を示した。一方、多くの委員は、ウクライナ情勢、インフレ率の高まり、中国での厳格な公衆衛生上の措置等に伴う供給制約の長期化、金融環境の引き締まりなどにより、海外経済の減速圧力は強まってきているとの認識を示した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。一人の委員は、米国の物価上昇はディマンド・プル型の要素が大きいため、金融引締めは適切な対応だが、その景気へのマイナスの影響は1年から1年半後に顕在化するとの見解を示した。

欧州経済について、委員は、基調としては回復しているとの見方を共有した。何人かの委員は、欧州経済はエネルギー価格上昇による減速圧力に直面していると指摘した。このうちの一人の委員は、急激な物価上昇に賃金上昇が追い付いておらず、実質賃金に低下圧力がかかっていると述べた。

中国経済について、委員は、基調としては回復しているものの、改善ペースが鈍化した状態が続いているとの認識で一致した。一人の委員は、インフラ投資の加速や電力供給問題の解消は景気のプラス要因ではあるが、「ゼロ・コロナ政策」は、需要の減退、供給制約の強まり、成長期待の低下を通じて経済を下押しする可能性が高いと指摘した。別の一人の委員も、「ゼロ・コロナ政策」による経済への下押し圧力は大きいうえ、このところ調整が続いている不動産セクターでは、会計監査の遅れにより大手企業の決算開示延期の動きがみられる点には注意する必要があると述べた。

中国以外の新興国経済について、委員は、総じてみれば持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、ASEAN諸国やインドでは、ウィズ・コロナに向けた動きがみられていると指摘した。

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。一人の委員は、全体としてみれば、緩和的な外部資金の調達環境は維持されているとの見方を示した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、感染症や資源価格上昇の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直しているとの見方を共有した。一人の委員は、企業部門では、海外情勢や供給制約などの影響を受けつつも、所得から支出への前向きな循環メカニズムは維持されているとの考えを示した。別の一人の委員は、最近の資源価格上昇は、交易条件の悪化や家計の購買力低下に繋がっているが、その主因は契約通貨建ての輸入価格上昇であり、これは為替円安による価格上昇とは異なることをしっかりと説明する必要があると述べた。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響を残しつつも、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けているとの認識で一致した。そのうえで、複数の委員は、半導体不足などによる供給制約の影響は、長引いていると指摘した。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。

個人消費について、委員は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が和らぐもとで、再び持ち直しつつあるとの見方で一致した。何人かの委員は、3月下旬のまん延防止等重点措置の解除以降、人の動きが活発化しているとの見方を示した。ただし、このうちの一人の委員は、感染症への警戒感が残るもとで、旅行などは大型連休までの期近な予約が中心であると指摘した。複数の委員は、わが国の個人消費は、引き続き、感染動向に大きく左右されているとの認識を示した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、0%台後半となっているとの見方で一致した。一人の委員は、食料品を中心に、輸入物価上昇の価格転嫁の動きが拡がっているとの見方を示した。別の一人の委員は、そうした価格転嫁の拡がりは、資源価格上昇という外生的な要因をきっかけとしたものではあるが、デフレ期にはみられなかった動きであると述べた。ある委員は、食料品に加えて家電などの分野でも、高付加価値化による販売単価の引き上げを図る動きが拡がっているとの認識を示した。もっとも、多くの委員は、エネルギーなどを除いた基調的な物価上昇率は、なお低めであるとの認識を示した。このうちの一人の委員は、わが国でも、エネルギー価格上昇に伴う物価の上振れが生じているが、欧米のような内需の増加を伴った高インフレの状況ではないと述べた。別の一人の委員は、現在のわが国では、低インフレと資源価格上昇が共存しているが、負の需給ギャップが存在し、GDPや雇用も感染症拡大前の水準に戻っておらず、物価の基調は上がっていないとの認識を示した。ある委員は、価格転嫁の難しさや感染症下での消費回復の遅れなどが、国内企業物価との対比でみた消費者物価の上昇抑制に繋がっているとの見方を示した。

予想物価上昇率について、委員は、短期を中心に上昇しているとの見方で一致した。一人の委員は、賃金への影響力が相対的に強いとみられる中長期の予想物価上昇率への波及はなお鈍いとの認識を示した。

2.経済・物価情勢の展望

2022年4月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、見通し期間の序盤から中盤にかけては、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、わが国経済は回復していくとの見方で一致した。一人の委員は、ウクライナ情勢を受けた海外経済の減速と資源価格上昇に伴う所得流出は、成長率の下押し要因となるが、感染症と供給制約の影響が緩和するもとで、「強制貯蓄」にも支えられたペントアップ需要の顕在化が続くことから、当面は高めの成長を維持できるとの見方を示した。見通し期間の中盤以降については、委員は、資源高のマイナスの影響が減衰し、所得から支出への前向きの循環メカニズムが経済全体で徐々に強まっていく中で、わが国経済は、ペースを鈍化させつつも潜在成長率を上回る成長を続けるとの認識を共有した。ある委員は、ペントアップ需要の落ち着きを反映して、成長ペースは鈍化していくが、資源高に伴う所得流出に歯止めがかかる中で、所得から支出への前向きの循環が徐々に強まっていくとの見通しを示した。

海外経済の先行きについて、委員は、当面、ウクライナ情勢による減速圧力を受けつつも、総じてみれば回復を続けるとの見方で一致した。その後についても、委員は、長期平均並みの成長を維持するとの見方を共有した。わが国の輸出や生産について、委員は、供給制約の影響の緩和が見込まれる自動車関連やグローバル需要が拡大しているデジタル関連を中心に、増加していくとの見方で一致した。

設備投資について、委員は、対面型サービス部門の弱さは当面残るものの、企業収益が全体として高水準を維持し、緩和的な金融環境も下支えとなる中、供給制約の緩和もあって、増加傾向が明確になっていくとの考えで一致した。一人の委員は、短観の今年度の設備投資計画は、前年比プラスだが、感染症拡大前の水準を回復する程度で力強さに欠け、とくに中小企業の回復の足取りが鈍いとの認識を示した。見通し期間の中盤以降の設備投資について、委員は、人手不足対応の機械投資やデジタル関連投資、成長分野・脱炭素化関連の研究開発投資を含めて、増加を続けるとの見方を共有した。

個人消費について、委員は、感染状況が改善し、ワクチンや治療薬の普及などにより感染抑制と消費活動の両立が進むもとで、ペントアップ需要の顕在化を主因に、回復していくとの見方で一致した。その後についても、委員は、ペントアップ需要の顕在化ペースを鈍化させつつも、雇用者所得の増加などに支えられて、個人消費は着実な増加を続けるとの見方を共有した。一人の委員は、最近の物価上昇に伴う家計のマインド悪化等に注意が必要であるが、ペントアップ需要の顕在化に向けた環境が整いつつあり、旅行関連消費を中心に持ち直していくとの見方を示した。別の一人の委員は、わが国の個人消費の回復は、昨年以降顕在化してきた米欧の需要の増加と比べて遅れており、2年以上抑制されてきたわが国の消費活動は、今後拡大する余地はあると述べた。ある委員は、感染症が完全に克服されない限り、感染症への警戒感が根強い高齢者を中心に、サービス消費は抑制された状況が続き、個人消費の回復ペースは緩やかなものにとどまるとの見方を示した。

雇用者所得について、委員は、対面型サービス部門の回復に伴う非正規雇用の増加に加え、労働需給の引き締まりや物価上昇などを反映した賃金上昇率の高まりを背景に、緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。複数の委員は、春季労使交渉の妥結状況をみると、今年度のベースアップは、ここ数年よりも幾分高まっていると指摘した。ただし、このうちの一人の委員は、今年度の物価上昇率をカバーする賃上げには至らない可能性が高く、来年度以降も賃上げが更に進むことが重要であると述べた。ある委員は、先行き、女性や高齢者による労働供給の増加が頭打ち傾向となるもとで、サービス消費が回復していくことから、人手不足感の強まりに伴って、賃金上昇圧力は強まっていくとの見方を示した。

こうした議論を経て、委員は、中心的な成長率の見通しは、前回と比べると、2021年度と2022年度が、感染再拡大や資源価格の上昇、海外経済の減速の影響などから下振れている一方、2023年度は、その反動もあって上振れているとの見方で一致した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料下落の影響が剥落する2022年度には、エネルギー価格の大幅な上昇により、いったん2%程度まで上昇率を高めるが、その後は、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくとの見方で一致した。一人の委員は、2022年度前半の消費者物価は、資源価格の高騰の影響等によって2%近傍で推移するとの見方を示した。別の一人の委員は、消費者物価の前年比は、4月以降、当分の間2%程度で推移するものの、家計の予算制約のもとで、2%を超える上昇は持続しないとの見方を示した。ある委員は、消費者物価上昇率が2%に達する蓋然性は高まっているが、それは輸入物価上昇に伴う一時的なものであり、需給ギャップや予想物価上昇率の動向を踏まえると、「物価安定の目標」の安定的な達成は難しいとの考えを示した。

変動の大きいエネルギーを除いた消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比について、委員は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率・賃金上昇率も高まっていくもとで、食料品を中心とした原材料コスト上昇の価格転嫁の動きもあって、プラス幅を緩やかに拡大していくとの見方を共有した。一人の委員は、先行きの基調的な物価上昇率は、企業による資源価格高騰の小売価格への転嫁の拡がり、企業や家計の物価観の変容、人手不足感が強まるもとでの賃金上昇圧力の強まりの可能性から、緩やかに上昇していくとの見方を示した。別の一人の委員も、需給ギャップの改善や労働需給の引き締まりを背景に、サービスを含むより幅広い品目に物価上昇が拡がり、先行きの基調的な上昇率は2%に向けて徐々に伸びを高めていくと述べた。ある委員は、先行きの物価上昇の中身がコスト・プッシュ型からディマンド・プル型へと移行していく中で、基調的な物価上昇率は徐々に強まっていくとの考えを示した。そのうえで、この委員は、エネルギー価格の変動により、消費者物価のヘッドラインと基調的な動きが大きく乖離する情勢では、展望レポートで「除く生鮮食品・エネルギー」でみた消費者物価の具体的な見通しを示すとともに、その評価を丁寧に説明することが適切であると続けた。別のある委員も、金融政策運営にあたっては、物価の一時的な変動ではなく基調を捉えることが重要であるとの認識を示したうえで、この点を対外的に説明する観点からも、「除く生鮮食品・エネルギー」でみた消費者物価の見通しを示すことが適当であると指摘した。

こうした物価見通しの背景について、委員は、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、足もとではマイナス圏で推移しているが、先行きは、潜在成長率を上回る成長経路を辿るもとで、2022年度後半頃には明確なプラスに転じ、その後もプラス幅の緩やかな拡大が続くとの見方を共有した。また、委員は、中長期的な予想物価上昇率は、短期と比べるとペースは緩やかながら上昇しているとの認識で一致した。そのうえで、委員は、先行き、財を中心に、コスト転嫁と価格引き上げの動きが拡がっていくもとで、適合的期待形成を通じて、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率は更に上昇し、このことは、サービスも含めた価格上昇の拡がりと賃金上昇率の高まりをもたらすとの見方を共有した。一人の委員は、供給ショックを契機とした今回の物価上昇により、予想物価上昇率や賃金上昇率といった物価・賃金のノルムが、どう変わっていくかに着目していると述べた。別の一人の委員は、賃金と物価の持続的な上昇には、大企業の賃上げ等の動きが全国の中小企業にも拡がることが重要であり、人流の回復状況や国内投資の動向、成長力強化に向けた取り組み状況を注視していると述べた。ある委員は、家計のインフレ実感が消費者物価上昇率以上に高まっている可能性があると指摘したうえで、賃金上昇ペースがインフレ実感に追い付かないもとでは、インフレに対する否定的な見方が家計に拡がる惧れがあることから、物価動向や金融政策に関して、従来以上に丁寧な情報発信に努めていく必要があると述べた。

こうした議論を経て、委員は、中心的な物価の見通しは、前回と比べると、エネルギー価格上昇の影響などから、2022年度が大幅に上振れているとの見方で一致した。

この間、委員は、経済・物価見通しの前提となっている金融環境についても議論を行った。委員は、先行きも、日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を推進するもとで、金融環境は緩和的な状態が続き、民間需要の増加を後押ししていくとの認識を共有した。

次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について議論を行った。

まず、経済のリスク要因として、委員は、感染症が個人消費や企業の輸出・生産活動に及ぼす影響に注意が必要であるとの見方で一致した。具体的に、委員は、わが国家計の感染症への警戒感は、高齢者を中心に根強いとみられるもとで、感染力の強い新たな変異株の流行などにより人々の外出等が抑制される場合、ペントアップ需要の顕在化が遅れ、個人消費が下振れるリスクがあるとの認識を共有した。一方、委員は、ワクチンや治療薬の普及により、感染症への警戒感が大きく後退すれば、行動制限下で積み上がってきた貯蓄の取り崩しが想定以上に進み、個人消費が上振れる可能性もあるとの見方を共有した。また、委員は、グローバルに半導体等の需給逼迫が続くもとで、内外における感染症の再拡大や、それに伴う一部の国・地域における厳格な公衆衛生上の措置とサプライチェーン障害などにより、供給制約が長期化・拡大する場合、わが国の輸出・生産が下振れるとともに、財消費や設備投資にも悪影響が波及するリスクがあるとの認識を共有した。この点に関し、多くの委員は、最近の中国における厳格な公衆衛生上の措置は、わが国の自動車生産等への影響を含め、グローバルな供給制約を悪化させる惧れがあると指摘した。

また、委員は、資源価格の動向にも注意が必要であるとの認識で一致した。具体的に、委員は、供給要因による資源価格の上昇は、わが国のような資源輸入国では、輸入コストの増加を通じた経済への下押しの影響が大きくなるため、資源高が長期化すれば、交易条件の悪化を通じて、経済が下振れるリスクがあるとの認識を共有した。一方で、委員は、地政学的な緊張の緩和等に伴い、資源価格が大きく下落すれば、交易条件の改善により、経済が上振れる可能性もあるとの見方を共有した。一人の委員は、小麦の主要産地であるウクライナでは、戦争により十分な作付けが困難となっていることに加え、小麦の世界最大の生産国であり消費国である中国の当局者も、今冬の収穫は歴史上最悪の不作になり得るとの警告を発していることなどを踏まえると、先行き、肥料価格の高騰とも相俟って、食料価格の上昇圧力が続くリスクがあると指摘した。

他のリスク要因として、委員は、国際金融資本市場・海外経済の動向についても留意が必要であるとの見方で一致した。具体的に、委員は、(1)インフレの高進が続く先進国を中心に、金融緩和の縮小ペースの加速が意識されるもとで、リスク性資産価格の調整や新興国からの資本流出などを通じて、グローバルな金融環境が想定以上に引き締まるリスクや、(2)ウクライナ情勢の帰趨によっては、ロシアやウクライナと経済的な結び付きが強いユーロ圏を中心に、海外経済が下押しされるリスク、(3)中長期的な成長力の低下が徐々に進む中国経済において、不動産セクターの調整などにより、減速感が一段と強まるリスク、などがあるとの認識を共有した。先進国における金融緩和縮小の影響に関して、何人かの委員は、当面の利上げペースが加速した場合の経済の下振れリスクだけでなく、やや長い目でみて、金融緩和縮小がインフレ抑制に十分な効果を持たなかった場合、結果として更に強力な引締めが必要となるリスクにも留意する必要があると指摘した。この間、委員は、やや長い目でみたリスク要因として、わが国の企業や家計の中長期的な成長期待には、上下双方向に不確実性があるとの見方で一致した。

次に、物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶとの見方で一致した。更に、委員は、物価固有のリスク要因についても議論を行った。まず、委員は、企業の価格・賃金設定行動を巡っては上下双方向に不確実性が高いとの見方で一致した。具体的に、委員は、原材料コストの上昇圧力や企業の予想物価上昇率の動向次第では、コスト上昇の販売価格への転嫁が想定以上に加速し、物価が上振れるリスクがあるとの認識を共有した。一人の委員は、資源価格上昇や供給制約の長期化、賃金上昇率の高まりなどから、物価は上振れリスクが大きいとの見解を示した。別の一人の委員も、ウクライナ情勢に伴う貿易や物流における非効率な状況は、資源価格等の高騰とも相俟って、わが国でも幅広い財の価格に影響を及ぼし続ける可能性があると指摘した。一方、委員は、わが国では、物価や賃金が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が根強く残っている点を踏まえると、賃上げの動きが強まらず、物価も下振れるリスクがあるとの見方を共有した。一人の委員は、今後、感染症下で積み上がった「待機資金」が活用されない中で、中長期の予想物価上昇率や賃金上昇率、中長期の成長期待が十分に上がらない場合、物価が下押しされるリスクもまだあるとの認識を示した。

物価固有の追加的なリスク要因として、委員は、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及は、上振れ・下振れ双方に作用し得るとの認識で一致した。とくに、委員は、ウクライナ情勢の影響により、国際商品市況の変動がこのところ大きくなっているもとで、エネルギー価格や食料品価格を通じた物価への影響を注意してみていく必要があるとの見解を共有した。一人の委員は、FRBの利上げなどを契機にコモディティへの投機的な需要が剥落した場合などには、資源価格が急落する可能性があると述べ、2022年度後半以降は、こうした資源価格反落に伴う物価の下振れリスクにも注意が必要であるとの見解を示した。

こうした議論を経て、委員は、リスクバランスについて、経済の見通しは、当面は、感染症やウクライナ情勢の影響を主因に下振れリスクの方が大きいが、その後は概ね上下にバランスしているとの見方で一致した。物価の見通しについて、委員は、当面は、エネルギー価格を巡る不確実性などを反映して上振れリスクの方が大きいが、その後は概ね上下にバランスしているとの認識を共有した。

また、委員は、金融政策運営の観点から重視すべきリスクとして、わが国の金融システムの動向についても議論を行った。委員は、金融システムは、全体として安定性を維持しているとの見解で一致した。そのうえで、委員は、より長めの視点では、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介活動が停滞方向に向かうリスクと、利回り追求行動の過熱化などにより金融システム面の脆弱性が高まるリスクの両面あるが、現時点では、これらのリスクは大きくないとの認識を共有した。この点に関連し、ある委員は、金融機関のリテール部門は、長引く低金利環境に伴う収益性悪化への対応として、これまで無償で提供してきたサービスの有料化等を進めているが、低金利環境の更なる長期化が見込まれる点を踏まえると、金融機関は収益力強化に向けた取り組みを一段と加速する必要があると述べた。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

当面の感染症への対応について、委員は、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れの「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、今後とも、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要であるとの見解で一致した。そのうえで、委員は、4月入り後は、CP・社債等買入れの増額措置を終了するなど、大企業向けを中心に特別プログラムの一部を見直していることを踏まえ、対外公表文の「3つの柱」に関する記述を簡素化することが適当との考えを共有した。ただし、委員は、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる姿勢に変わりはないとの認識も共有した。

次に、委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方について議論した。一人の委員は、わが国経済は、依然として感染症からの回復途上にあるうえ、資源輸入国であるわが国では、資源価格の上昇は、海外への所得流出に繋がるため、経済に下押しに作用すると指摘した。そのうえで、この委員は、こうした経済・物価情勢を踏まえると、現在の強力な金融緩和を続けることで、わが国経済をしっかりと下支えする必要があると続けた。別の一人の委員も、需給ギャップがなおマイナスで、企業の経営判断が慎重化するリスクが大きい現状では、現在の金融緩和を継続し、経済を下支えする方針を明確にすることが適当であると述べた。ある委員は、わが国の金融政策上の課題は、米欧のようなインフレの抑制ではなく、依然として低すぎるインフレからの脱却にあるとの認識を示した。別のある委員は、従来からある経済の下振れリスクにロシアによるウクライナ侵攻が加わり、更に情勢が大きく変化する中で、金融政策スタンスに変更を加えることは適当ではないと述べた。一人の委員は、家計や企業の予想物価上昇率にみられ始めている変化を一過性のものとせず、「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するためには、現在の金融緩和を継続する必要があるとの認識を示した。他方、別の一人の委員は、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と「物価安定の目標」の達成を早期に実現する必要があると指摘した。この間、ある委員は、見通し期間内に2%の「物価安定の目標」を達成することが困難な中、目標の位置付けや実現への道筋を整理して丁寧な説明を行うとともに、金融緩和が更に長期化するもとで持続性がより重要となっていくことを、引き続き意識していく必要があると述べた。

続けて、委員は、日本銀行の金融緩和スタンスを明確に示す観点から、金融市場調節方針に何らかの工夫を講じることはできないかを議論した。何人かの委員は、海外要因等により長期金利に上昇圧力がかかった場合、金利変動幅の上限をしっかり画する観点から、従来より連続指値オペを実施してきたが、金融資本市場の一部では、指値オペ実施の有無から日本銀行の先行きの政策スタンスを推し量ろうとする動きがみられると指摘した。そのうえで、このうちの複数の委員は、0.25%を上回る長期金利の上昇を容認しないとのこれまでの姿勢を明確にして、日々のオペが無用に材料視される事態を避ける観点から、毎営業日、0.25%での指値オペを実施することを予め宣言しておくことも考えられると述べた。一人の委員も、物価と賃金が共に上がる好循環を伴う「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するまでは、淡々粛々と金融緩和を継続すべきであると述べたうえで、そうした政策スタンスを誤解なく伝えるため、指値オペを淡々と運用する姿勢を明確に示すことは有効であると述べた。別の一人の委員も、長期金利操作目標に沿った金融市場調節の継続姿勢を改めて示すことは、適切なイールドカーブ形成や緩和姿勢の明確化に資するとの考えを示した。ある委員は、海外勢を中心に、10年物国債金利に関する様々な憶測が生じ、それが一定期間続いている現状を踏まえると、指値オペの運用を明確にしておくことは有効であると述べたうえで、市場機能への影響に留意する必要もあると付け加えた。こうした議論を経て、委員は、金利変動幅の上限をしっかり画するとともに、日本銀行の政策スタンスに関する憶測を払拭する観点から、10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施することが適当であり、これは金融市場の安定確保にも資するとの考えを共有した。

この間、委員は、金融政策と為替相場の関係についても議論を行った。まず、何人かの委員は、為替相場は、経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいとの考えを示した。また、複数の委員は、最近みられるような為替市場における短期間での過度な変動は、先行きの不確実性を高め、企業の事業計画の策定等を難しくする面があるとの認識を示した。そのうえで、何人かの委員は、日本銀行は、金融政策を、あくまでも「物価の安定」という使命を果たすために運営しており、為替相場のコントロールを目的としている訳ではない点について、対外的に丁寧に説明していく必要があると指摘した。この点に関し、一人の委員は、金融政策運営にあたっては、資源価格や為替相場の変動そのものではなく、それらが経済・物価に与える影響を考える必要があると指摘した。別の一人の委員は、需給ギャップや失業率ギャップが未だに大きく、インフレの基調がきわめて低い現状に対しては、為替円安がプラスに働くとの考えを示した。ある委員は、円安が経済成長を引き上げる方向に作用する点に賛意を示しつつも、(1)為替円安の影響は、業種や経済主体によって異なることや、(2)急激な為替相場の変動は、先行きの不確実性を高めることについても、丁寧にコミュニケーションしていく必要があると指摘した。この間、最近の為替円安の背景について、一人の委員は、わが国と欧米諸国との景況格差が一因となっていると述べた一方、別の一人の委員は、資源国通貨が全体として増価するもとで、わが国輸入企業によるドル買いも影響しているとの見方を示した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下のとおりとすることが適当であるとの見解を示した。

  1. 「(1)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
    短期金利:
    日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    長期金利:
    10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. (2)上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 4月のG20・G7では、ロシアのウクライナ侵略が世界経済に与える影響を議論し、日本からは、エネルギー・食料価格の高騰やサプライチェーンの混乱等に繋がっていると指摘した。
  • 政府は、ウクライナ情勢に伴う原油価格の高騰等に緊急かつ機動的に対応し、感染症からの経済社会活動の回復を確かなものとするため、4月26日に、コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」(「総合緊急対策」)を策定した。新たな財源措置を伴うものについては、まずは予備費を活用して迅速に対応したうえで、今後の予期せぬ財政需要に対応するため、更なる予備費の計上および燃料油価格の激変緩和事業を内容とする補正予算を、今国会に提出する予定である。
  • 日本銀行には、政府と連携し、ウクライナ情勢や感染症の影響も踏まえ、持続可能な物価安定の実現に向け、適切な金融政策運営を期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済は、感染症の影響による厳しい状況が緩和される中で、持ち直しの動きがみられるが、ウクライナ情勢等により不透明感が高まる中で、原材料価格の上昇や金融資本市場の変動等による下振れリスクに注意する必要がある。
  • 政府は、原油価格の高騰等が、国民生活や経済活動に及ぼす影響に緊急かつ機動的に対応するため、事業規模約13兆円の「総合緊急対策」を速やかに実行する。
  • 加えて、新しい資本主義のグランドデザインや実行計画、「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」の取りまとめに向けた議論をしっかりと進め、中長期的な課題に対応し、「成長と分配の好循環」を実現していく。
  • 日本銀行においては、今回の指値オペの運用明確化の趣旨について対外的に丁寧に説明していただくとともに、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえ、適切な金融政策運営を期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

    1. (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    2. (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. 上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、5月2日に公表することとされた。

7.議事要旨の承認

議事要旨(2022年3月17、18日開催分)が全員一致で承認され、5月9日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2022年4月28日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]連続指値オペの運用の明確化

        上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施することとした。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。
  2. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る