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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2022年6月16、17日開催分)

2022年7月26日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2022年7月20、21日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2022年6月16日(14:00から15:59)
 
6月17日( 9:00から11:36)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 新川 浩嗣 大臣官房長(16日)
  • 岡本 三成 財務副大臣(17日)
  • 内閣府 井上 裕之 内閣府審議官(16日)
  • 黄川田仁志 内閣府副大臣(17日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 中村康治
  • 企画局政策企画課長 川本卓司
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 千田英継
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画役 東 将人
  • 企画局企画役 安藤雅俊

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(4月27、28日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。また、前回会合で決定された連続指値オペの運営方針に従って、10年物国債を対象とする固定利回り(0.25%)方式による国債買入れ(指値オペ)を毎営業日実施した。更に、債券先物市場で強い売り圧力がみられる中、チーペスト銘柄の残存期間である7年ゾーンを対象とする連続指値オペも実施した。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを実施した。また、企業等の資金繰り支援のための措置として、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.045から-0.005%程度で推移しているほか、GCレポレートは、-0.128から-0.083%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、横ばい圏内の動きとなっている。

わが国の株価(TOPIX)は、米欧株価に連れて下落する場面がみられたものの、為替円安による下支えもあって、前回会合時点から横ばい圏内の動きとなっている。長期金利(10年物国債金利)は、米国金利の動きや日本銀行の金融政策に対する思惑等を受けて上昇圧力が強まる局面もみられたが、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、米欧金利の上昇などを受けて、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場ともに、円安が進行している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば回復している。中国の都市封鎖やウクライナ情勢の長期化を背景に、海外経済の減速圧力が強まっており、世界的にみた製造業の生産水準や貿易量は下押しされている。もっとも、感染症の影響が和らぎ、新興国を含め経済活動の再開が本格化し始める中で、企業の業況感は改善を続けている。先行きの海外経済は、ウクライナ情勢などの影響により減速圧力を受けつつも、感染症の影響が和らいでいくもとで、総じてみれば回復を続けるとみられる。ただし、中国での感染動向やウクライナ情勢の展開、先進国でのインフレ高進を受けた金融緩和の縮小などの影響を中心に、当面、不確実性は高い。

地域別に動きをみると、米国経済は、回復している。個人消費は、積み上がってきた貯蓄の取り崩しを伴いつつ、財からサービスへのシフトがみられるもとで、増加が続いている。雇用者数の増加は続いているが、労働参加率の回復が緩やかなペースにとどまるもとで、求人率や離職率の高止まりもあって、労働市場の逼迫感は続いている。企業部門をみると、業況感の改善と設備投資の増加が続いている。物価動向をみると、PCEデフレーターの前年比は、需給逼迫の影響などから、6%台前半の高い上昇率となっている。

欧州経済は、基調としては回復している。個人消費は、エネルギー価格の上昇による減速圧力を受けつつも、経済活動の再開が続くもとで、サービス消費を中心に基調としては回復している。企業部門をみると、業況感の改善が続くもとで、設備投資も基調としては増加している。物価面では、HICPの前年比は、エネルギー価格の上昇に加え、供給制約の影響もあって、8%程度の高い伸びとなっている。

中国経済は、感染拡大に伴う厳格な公衆衛生上の措置を受けて、下押しされた状態にある。個人消費は、感染拡大に伴う移動制限などの影響から、大幅に減少している。都市封鎖に伴う企業活動や物流の停滞などの影響から、生産は減少している。固定資産投資は、インフラ投資による下支えもあって、基調としては持ち直しているが、感染拡大の影響から、改善ペースは鈍化している。

中国以外の新興国経済は、ウクライナ情勢の影響により下押しされる国・地域もみられるが、総じてみれば持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、中国向け輸出に弱めの動きがみられるものの、輸出全体は増加を続けているほか、経済活動の再開進展を背景に内需の改善も続いており、回復している。

海外の金融市場をみると、先進国の長期金利は、米欧におけるインフレ率の高止まりを背景に、FRBやECBによる利上げ加速への警戒感が高まる中、大きく上昇している。そうしたもとで、株価は、米国を中心に大幅に下落している。原油価格は、EUによるロシアから海上輸送される原油等の輸入禁止や、中国の公衆衛生上の措置の緩和を背景に、需給逼迫懸念が高まったことなどから、上昇している。為替市場について、新興国通貨をみると、米金利の上昇に伴い下落する通貨がみられる一方、ロシア・ルーブルは資本規制の影響等もあって引き続き上昇しているほか、ラ米の通貨も、堅調な資源価格を背景に上昇している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、感染症や資源価格上昇の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している。先行きについては、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。

輸出や鉱工業生産は、基調としては増加を続けているが、足もとでは、供給制約の影響が強まっている。実質輸出を財別にみると、情報関連は、スマートフォンやデータセンター向けの半導体等の需要は堅調とみられるが、中国の都市封鎖の影響等から、足もとでは減少している。自動車関連も、世界的な半導体需給の逼迫に、中国の都市封鎖に伴う部品調達難の影響も加わり、足もとで減少している。一方、資本財は、中国向けが大幅減少となるものの、世界的な機械投資の堅調さに加え、デジタル関連需要の拡大を受けた半導体製造装置への旺盛な需要に支えられて、高水準で推移している。先行きの輸出や鉱工業生産は、目先は、中国での都市封鎖に伴う物流網の混乱等の影響が残るもとで、弱めの動きとなると見込まれる。その後は、海外経済が総じてみれば回復を続け、供給制約の影響も次第に緩和していくもとで、自動車関連やグローバル需要が拡大しているデジタル関連を中心に、増加基調を辿るとみられる。

企業収益は、全体として高水準で推移している。企業の業況感は、供給制約や資源価格上昇の影響などから、このところ改善が一服している。法人企業統計の全産業全規模の経常利益(季節調整値)をみると、1から3月は、高水準で横ばいの動きとなった。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。1から3月のGDPベースの実質設備投資は、供給制約の影響もあって、前期比-0.7%と小幅に減少した。機械投資の一致指標である資本財総供給は、一部に供給制約の影響がみられるものの、デジタル・省力化関連を中心に増加基調にある。建設投資の一致指標である建設工事出来高(民間非居住用)は、物流施設の増加に加え、都市再開発案件の進捗もあって、名目ベースでは緩やかな増加を続けている。先行きの設備投資は、企業収益が資源価格上昇の影響を受けつつも高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境や供給制約の緩和を背景に、増加傾向が明確になっていくと予想される。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、振れを伴いつつも増加しているほか、建築着工(民間非居住用)の工事費予定額も、振れを均してみれば増加している。

個人消費は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に持ち直している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、4月の1から3月対比は、+2.2%の増加となっている。形態別にみると、サービス消費は、外食や国内旅行を中心に持ち直している。一方、耐久財消費は、供給制約による下押しが続くもとで、低めの水準で推移している。非耐久財消費は、食料品や日用品などの巣ごもり需要の減退を背景に、減少している。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、足もとにかけての動向を窺うと、感染状況が落ち着くもとで、サービス消費は、持ち直しを続けている模様である。非耐久財消費についても、人出の増加を反映した衣料品販売の好調が全体を押し上げているとみられる。一方、耐久財消費は、中国の都市封鎖に伴う供給制約の強まりから、自動車、家電ともに減少している。この間、個人消費関連のマインド指標をみると、物価上昇が下押し方向に作用しているものの、感染症の影響緩和がプラスに作用し、全体では小幅に改善している。先行きの個人消費は、エネルギー・食料品の価格上昇が実質所得の悪化を通じて下押しに作用するものの、感染抑制と消費活動の両立が次第に進み、雇用環境も改善していくもとで、ペントアップ需要の顕在化などを背景に、回復していくと予想される。

雇用・所得環境は、一部で改善の動きもみられるが、全体としてはなお弱めとなっている。労働力調査の就業者数をみると、正規雇用は、医療・福祉や情報通信を中心に緩やかに増加しているが、非正規雇用は、対面型サービス業を中心に依然低めの水準にある。一人当たり名目賃金は、経済活動の持ち直しを反映して、所定内給与を中心に緩やかに上昇している。先行きの雇用者所得は、景気の改善に伴い増加を続けると予想される。

物価面について、商品市況は、中国経済減速の影響を受けつつも、総じてみれば高止まりしている。国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、はっきりとした上昇を続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響が剥落するもとで、エネルギーや食料品の価格上昇を主因に、2%程度となっている。消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、携帯電話通信料等の一時的な要因を除いたベースでみると、1%台前半となっている。この間、予想物価上昇率は、短期を中心に上昇している。短期的なインフレ予想は、最近の資源価格上昇の影響などから、総じてはっきりと上昇している。中長期的なインフレ予想も、短期と比べるとペースは緩やかながら、上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、エネルギーや食料品の価格上昇の影響により、2%程度で推移すると予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、原材料コストの上昇を受けた運転資金需要がみられているが、感染症の影響を受けた予備的な流動性需要などが総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ1%程度、9%台後半となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、感染症の影響を受けやすい業種や中小企業を中心になお厳しさが残っており、原材料コスト上昇の影響もみられるが、全体としては経済の持ち直しに伴い改善傾向にある。

この間、マネタリーベースは、ひと頃に比べ減速し、足もとでは前年比4%台半ばのプラスとなっている。マネーストックの前年比は、3%台前半のプラスとなっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融資本市場について、委員は、米欧におけるインフレ高進を受けた利上げペース加速への警戒感が強まる中、株価が大幅に下落するなど、やや不安定な動きとなっているとの見方を共有した。一人の委員は、各国のインフレ率が金融引締めによって実際に低下していけば、金融市場も次第に落ち着きを取り戻すと考えられるが、その道筋が明確になるまでは、ボラティリティの高い状況が続く可能性が高いとの見解を示した。

海外経済について、委員は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば回復しているとの認識で一致した。何人かの委員は、ウクライナ情勢の長期化や物価上昇の影響などにより、海外経済の減速が明確になってきているとの見解を示した。その背景について、一人の委員は、海外の政策当局は、マクロ経済政策の目的を、コロナ禍対応の経済下支えから、インフレ抑止へと転換してきていると述べた。先行きについて、委員は、ウクライナ情勢による減速圧力を受けつつも、感染症の影響が和らいでいくもとで、総じてみれば回復を続けるとの見方で一致した。そのうえで、複数の委員は、世界銀行やOECDが今年の海外経済の成長率見通しを大幅に引き下げた点を指摘した。海外経済に関するリスクについて、委員は、(1)ゼロコロナ政策を続ける中国での感染症の動向や(2)ウクライナ情勢の展開、(3)半導体不足等の供給制約、(4)世界的なインフレ高進を受けた金融緩和の縮小などの影響を中心に、当面、不確実性は高いとの認識を共有した。多くの委員は、金融政策の正常化を進める米欧において、利上げがどのようなペースで実施され、そのもとで、インフレ率の抑制と経済成長の維持の両立がどのように図られるのか、注視すべきであるとの認識を示した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。そのうえで、一人の委員は、ISM非製造業指数やサービス業PMIは、節目の50をなお上回っているものの、足もとで水準が低下してきており、家計部門を中心に景気減速の兆候が表れ始めていると指摘した。別の一人の委員は、急速なペースでの利上げが進む中、足もとで販売に減速感が窺われる住宅市場に加え、レバレッジド・ローンに変調が起きないか、動向を注視していく必要があると述べた。これに対し、ある委員は、米国株価の下落は、企業収益見通しの下方修正よりも、バリュエーション(PER)の低下によって生じている面が強いため、インフレ抑制に繋がるほど実体経済が減速するには、なお時間を要するのではないかと述べた。

欧州経済について、委員は、基調としては回復しているとの認識で一致した。一人の委員は、ユーロ圏では、鉱工業生産が減少し、経常収支が10年超振りの赤字となったほか、消費者物価が大きく上昇するなど、ウクライナ情勢の影響が具体的な経済指標に表れ始めていると指摘した。複数の委員は、欧州経済は、ウクライナ情勢の影響を強く受ける中で、今後は、利上げも下押し圧力として作用するため、減速圧力が強まらないか注視すべきであるとの認識を示した。更に、このうちの一人の委員は、欧州は、スタグフレーションのリスクがあると述べた。

中国経済について、委員は、感染拡大に伴う厳格な公衆衛生上の措置を受けて、下押しされた状態にあるとの見方を共有した。一人の委員は、4月は、都市封鎖の影響などから経済活動の落ち込みが顕著であり、市場では、4から6月期のGDPがマイナス成長となる可能性も意識されていると述べた。中国経済の先行きについて、一人の委員は、都市封鎖解除後も上海の経済活動の正常化には時間が必要であり、中国経済の成長鈍化や世界的な供給制約の長期化が懸念されると述べた。別の一人の委員は、上海における都市封鎖の影響は解消しつつあるが、中国政府がゼロコロナ政策を堅持する中で、都市封鎖再実施への懸念は残っていると指摘した。

中国以外の新興国経済について、委員は、ウクライナ情勢の影響により下押しされる国・地域もみられるが、総じてみれば持ち直しているとの認識を共有した。複数の委員は、米国の利上げ加速に伴う自国通貨下落や資本流出、インフレの進行などを通じて、新興国経済が不安定化するリスクには、注意が必要であるとの見解を示した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、感染症や資源価格上昇の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直しているとの認識で一致した。複数の委員は、わが国経済は、供給制約や輸入原材料価格の高騰などによる下押し圧力を受けているものの、旅行等サービス消費を中心に個人消費は改善しており、基調としては持ち直しているとの見方を示した。一人の委員は、わが国の経済は、感染者数の増減とともにサービス消費を中心に浮き沈みを繰り返してきたが、ウィズコロナが定着するもとで、感染者数の増加に対する景気の落ち込み度合いは小さくなってきていると述べた。

景気の先行きについて、委員は、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとの見解で一致した。また、その後の景気展開について、委員は、資源高のマイナスの影響が減衰し、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まっていく中で、わが国経済は、ペースを鈍化させつつも潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方を共有した。一人の委員は、感染対策の進捗や行動制限の緩和等による人流の増加と、それに伴うサービス消費を中心としたペントアップ需要の顕在化が、わが国経済の回復を牽引していくとの見通しを示した。別の一人の委員は、インバウンドの再開は、わが国経済を押し上げる方向に作用するが、中国がゼロコロナ政策を堅持する中、感染症前に相応のウエイトを占めていた同国からの観光客の回復には時間がかかる可能性があると述べた。

輸出や生産について、委員は、基調としては増加を続けているが、足もとでは、供給制約の影響が強まっているとの認識を共有した。何人かの委員は、半導体不足など感染症からの回復過程で生じた様々な供給制約が長引いている中で、中国の都市封鎖の影響も加わったことから、輸出や生産への下押し圧力が強まっているとの見方を示した。先行きの輸出や生産について、委員は、目先は、中国での都市封鎖に伴う物流網の混乱等の影響が残るもとで、弱めの動きとなるものの、その後は、海外経済が総じてみれば回復を続け、供給制約の影響も次第に緩和していくもとで、自動車関連やデジタル関連を中心に、増加基調を辿るとの認識を共有した。一人の委員は、行動制限下で積み上がった貯蓄の存在もあって海外需要は底堅い点も踏まえると、輸出や生産は、回復時期を後ずれさせつつも、増加基調に復していくとの見通しは維持できると述べた。他方、別の一人の委員は、海外経済の減速が明確になってきているため、先行きの輸出・生産の回復ペースは、緩やかなものにとどまる可能性が高いとの認識を示した。この間、ある委員は、電力不足が深刻化すれば、企業の生産活動等の大きな制約になり得るリスクがあると指摘した。

企業収益について、委員は、全体として高水準で推移しているとの見解で一致した。一人の委員は、資源・エネルギーの大部分を輸入に頼るわが国において、資源価格の上昇は、交易条件の悪化を通じて、企業収益の下押し要因になるとの見解を示した。この点に関し、別の一人の委員は、企業収益は全体として高水準を維持しているが、中堅・中小企業には弱めの動きもみられると述べた。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識で一致した。複数の委員は、供給制約や資源価格上昇の影響などから、企業の業況感の改善が一服する中でも、設備投資は、製造業を中心に持ち直しの動きが続いていると述べた。先行きの設備投資について、委員は、企業収益が資源価格上昇の影響から下押しされつつも全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境や供給制約の緩和を背景に、増加傾向が明確になっていくとの見解を共有した。

個人消費について、委員は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に持ち直しているとの認識で一致した。複数の委員は、3年振りに行動制限のないゴールデンウィークを迎え、飲食・宿泊の活気が徐々に戻ってきていると述べた。更に、このうちの一人の委員は、海外からの観光客の受け入れが6月から開始されたことも、サービス業の明るい材料であるとの見方を示した。ある委員は、景気ウォッチャー調査が着実な改善を続けている点などを踏まえ、これまでのところ、行動制限下で積み上がった貯蓄やペントアップ需要のプラス効果が、物価上昇による実質所得の下押し圧力に対するバッファーとなっている可能性を指摘した。別のある委員は、物価上昇による家計負担は、世帯所得や地域における支出ウエイトのばらつきによっても異なる点に留意が必要との見方を示した。先行きの個人消費について、委員は、エネルギー・食料品価格の上昇が実質所得の悪化を通じて下押しに作用するものの、感染抑制と経済活動の両立が次第に進み、雇用環境も改善していくもとで、ペントアップ需要の顕在化などを背景に、回復していくとの見方を共有した。一人の委員は、対面型サービス業では、夏に向けて予約は順調に推移しているとはいえ、国や自治体の支援策に期待する声も根強く、夏以降の個人消費の回復の持続性に注目していると述べた。複数の委員は、インバウンドの再開も進んでいけば、サービス部門の回復は一段と明確になっていくとの見方を示した。このうちの一人の委員は、行動制限下で積み上がった貯蓄の存在により、平均消費性向の上昇を伴う個人消費の回復が期待できると述べた。

雇用・所得環境について、委員は、一部で改善の動きもみられるが、全体としてはなお弱めとなっているとの見解で一致した。一人の委員は、今年の春季労使交渉では、9年連続のベースアップが実現し、その賃上げ率も直近9年間で2番目に高い伸びとなっているが、足もとの物価上昇率と比べるとなお低いとの認識を示した。そのうえで、この委員は、わが国では、賃上げよりも雇用維持を優先する労使交渉が根付いてきたことで、賃金は構造的に上昇しにくくなっているとの見解を示した。先行きの雇用者所得について、委員は、景気の改善に伴い増加を続けるとの見方を共有した。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響が剥落するもとで、エネルギーや食料品の価格上昇を主因に、2%程度となっているとの認識で一致した。一人の委員は、加重中央値や最頻値の上昇は依然として小幅にとどまっているが、このところ、上昇品目比率が急速に高まっており、価格上昇の裾野は拡がってきているとの見方を示した。別の一人の委員は、わが国の消費者物価の上昇率は、他の主要国に比べ、抑制されていると述べ、その背景として、政府による激変緩和措置の効果や、原材料コスト上昇が価格転嫁されるまでの時間差を指摘した。この間、予想物価上昇率について、委員は、短期を中心に上昇しているとの見方で一致した。一人の委員は、企業や家計、市場参加者などを対象とした多くのインフレ予想指標は、感染症とウクライナ情勢という前例のない供給ショックと世界的なインフレ高進を受けて、上昇しており、物価や賃金は上がらないという経済主体の物価観にも変化の兆しがみられ始めていると述べた。別の一人の委員も、感染症の影響が和らぎつつある中、企業や家計の物価観に変化の兆しがみられると指摘した。

物価の先行きについて、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、エネルギーや食料品の価格上昇の影響により、2%程度で推移するとみられるが、その後は、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくとの見方で一致した。この間、委員は、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率・賃金上昇率も高まっていくもとで、原材料コスト上昇の価格転嫁の動きもあって、プラス幅を緩やかに拡大していくとの認識も共有した。複数の委員は、このところ、食料品や耐久消費財などでも値上げの動きがみられることを指摘したうえで、消費者物価の前年比は、エネルギーを除くベースでも、上昇していくとの見通しを示した。他方、別の一人の委員は、足もとの物価上昇は、輸入価格上昇に伴う一時的なものであり、需給ギャップや予想インフレ率の動向を踏まえると、「物価安定の目標」の安定的な達成は難しいと述べた。この間、ある委員は、所得と物価が安定的かつ持続的に上昇する好循環の実現には、企業による生産性向上と賃上げへの取り組みとともに、所得増加を目指す転職の拡大に繋がる労働市場の変革と新たな価値を生み出すスタートアップの成長、家計による安定的な資産形成の推進が重要であるとの見方を示した。

経済・物価見通しのリスク要因として、委員は、内外の感染症の動向やその影響、今後のウクライナ情勢の展開、資源価格や海外経済の動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いとの認識で一致した。そのうえで、委員は、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。この点に関し、一人の委員は、急激な円安の進行は、先行きの不確実性を高め、企業による事業計画の策定を困難にするため、経済にマイナスに作用するとの見解を示した。別の一人の委員は、ウクライナ情勢の長期化や中国の都市封鎖が、供給制約を深刻化させるリスクや、米欧の金融引締めに伴うグローバルな資産価格の下落が、負の資産効果等を通じて、わが国の個人消費や設備投資を下押しするリスクには注意が必要であると指摘した。ある委員は、物価の上昇が消費マインドの悪化等を通じて個人消費を下押しするリスクや、感染症が落ち着いた後も、対面型サービス業を中心に、感染症の負の影響が長期間残存するリスクを懸念していると述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。複数の委員は、中小企業の一部を除けば、企業の資金繰りは落ち着いており、倒産件数も低水準で推移しているとの見方を示した。一人の委員は、金融環境は、非製造業では、感染症の影響が和らぐ中で、サービス業を中心に改善している一方、製造業では、資源高や中国の都市封鎖の影響などから、改善が一服していると指摘した。別の一人の委員は、中小企業を中心に、最近の原材料コストの上昇が先行きの資金繰りに与える影響を懸念する声が聞かれると述べた。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

当面の感染症への対応について、委員は、コロナオペ等の措置は所期の効果を発揮しているとの見解で一致した。10月以降のコロナオペの取り扱いについて、何人かの委員は、感染症が中小企業等の資金繰りに及ぼす影響をもう少し見極めたうえで、次回以降の決定会合で判断すべきであるとの認識を示した。このうちの一人の委員は、感染症の動向に不確実性は残るが、これまでのところ、コロナオペの応札実績は少額にとどまっていると付け加えた。委員は、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる姿勢に変わりはないとの認識を共有した。

次に、委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方について議論した。委員は、わが国経済は、感染症からの回復途上にあるうえ、資源価格上昇による下押し圧力も受けており、金融面からしっかりと支えていかなければならない状況にあるとの考えを共有した。また、委員は、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの認識で一致した。そのうえで、委員は、きわめて不確実性が高い金融経済情勢を見極めながら、賃金の上昇を伴うかたちで、「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現できるよう、金融緩和を実施していく必要があるとの認識を共有した。金融政策と為替相場の関係について、一人の委員は、金融政策の目標は、あくまでも2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現であることを、改めてしっかりと説明していく必要があると述べた。別の一人の委員は、資源価格上昇と為替変動により、値上げ品目は拡がりをみせているが、前向きの循環のもとでの「物価安定の目標」が実現されたとはいえず、金融政策は現状維持が適当であると述べた。

「物価安定の目標」を持続的・安定的なかたちで実現していく観点から、多くの委員は、賃金上昇の重要性について言及した。すなわち、一人の委員は、金融緩和の継続は、企業による持続的な賃上げを後押しするために有効であると述べた。複数の委員は、需給ギャップのマイナスが2年以上続く中、需要を押し上げる持続的な賃金上昇を実現していくためには、現在の金融緩和を継続し、経済をしっかりと下支えすることが適当であるとの認識を示した。また、別の一人の委員も、2%の「物価安定の目標」の達成には、それを上回る賃金上昇が必要であるが、わが国経済は、負の需給ギャップがあるもとで、賃金上昇を加速させるような労働需給環境には至っておらず、その点で、金融緩和を縮小している欧米諸国の経済環境とは異なると述べた。ある委員は、「物価安定の目標」を安定的に達成するためには、家計の購買力や予想インフレ率の引き上げを通じて、企業が価格を改定しても、個人消費が拡大を続けられる強靱な経済環境を整える必要があると指摘した。別のある委員は、物価の基調や予想インフレ等のデータをリアルタイムで点検しつつ、賃上げ傾向が確実になり、「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現するまで、金融緩和を継続すべきとの見解を示した。また、この委員は、わが国の負の需給ギャップを解消し、所得と雇用を増加させるには、政府の財政政策等とも連携しながら、経済を温めて高圧経済の実現を目指すことが必要であるとの見方も示した。この間、一人の委員は、金融政策運営では、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と「物価安定の目標」の達成を早期に実現する必要があると述べた。

金融政策運営に関する対外的な情報発信について、一人の委員は、物価は広く国民生活に影響するだけでなく、経済主体の属性や地域などの違いによってその影響は異なるため、物価動向や金融政策運営に関する情報発信を行うにあたっても、留意が必要であると述べた。別の一人の委員は、財やサービスの価格上昇は、その原因が何であれ、家計の負担を増加させるが、重要なことは、そうした負担を吸収できるような賃金の上昇を実現していくことである点を、より丁寧に説明すべきであると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが形成されているとの認識を共有した。そのうえで、委員は、最近の長期金利の上昇圧力に対する金融市場調節上の対応について議論した。一人の委員は、この間の市場の状況を踏まえ、チーペスト銘柄を対象とする連続指値オペを実施したことは適切であるとの見方を示した。複数の委員は、最近の国債買入れの増加は、金融市場調節方針の実現のために必要な措置であり、今後も、引き続き市場の状況に応じた国債買入れを実行すべきであると述べた。ある委員は、海外からの金利上昇圧力は今後も続くとみられる中、金融市場調節方針を実現するため、指値オペの毎営業日実施を続けることが適当であると述べた。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

  1. 「(1)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
    短期金利:
    日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    長期金利:
    10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. (2)上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 5月31日に令和4年度補正予算が成立した。補正予算を含めた総合緊急対策により、感染症再拡大や物価高騰等による予期せぬ財政需要に迅速に対応し、国民の安心を確保する。
  • 6月7日に「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」が閣議決定された。夏以降の予算編成にあたり、本方針及び「骨太方針2021」に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する。経済をしっかりと立て直し、そして財政健全化に取り組んでいく。
  • 日本銀行には、政府との連携のもと、ウクライナ情勢や感染症の影響も踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気の先行きは、持ち直していくことが期待される。ただし、供給面での制約や原材料価格の上昇、金融資本市場の変動等による下振れリスクに十分注意する必要がある。こうした中、政府は、昨年11月の経済対策や、4月の総合緊急対策を迅速かつ着実に執行する。予備費の機動的な活用をはじめ、物価・景気両面の状況に応じた迅速かつ総合的な対策に取り組む。
  • 「骨太方針2022」、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を前に進めるための総合的な方策を早急に具体化し、経済社会をより強靱で持続可能なものに変革する。
  • 日本銀行には、引き続き、政府と連携し、経済・物価・金融情勢を十分に踏まえ、適切な金融政策運営を期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

    1. (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    2. (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. 上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.議事要旨の承認

議事要旨(2022年4月27、28日開催分)が全員一致で承認され、6月22日に公表することとされた。

以上


  • (注) 「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2022年6月17日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]連続指値オペの運用

        上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。
  2. わが国の景気は、新型コロナウイルス感染症や資源価格上昇の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している。海外経済は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば回復している。輸出や鉱工業生産は、基調としては増加を続けているが、足もとでは、供給制約の影響が強まっている。企業の業況感は、供給制約や資源価格上昇の影響などから、このところ改善が一服している。企業収益は全体として高水準で推移している。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。雇用・所得環境は、一部で改善の動きもみられるが、全体としてはなお弱めとなっている。個人消費は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に持ち直している。住宅投資は横ばい圏内の動きとなっている。公共投資は弱めの動きとなっている。わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響が剥落するもとで、エネルギーや食料品の価格上昇を主因に、2%程度となっている。また、予想物価上昇率は、短期を中心に上昇している。
  3. 先行きのわが国経済を展望すると、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。その後は、資源高のマイナスの影響が減衰し、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まっていくなかで、わが国経済は、ペースを鈍化させつつも潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、エネルギーや食料品の価格上昇の影響により、2%程度で推移するとみられるが、その後は、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想される。この間、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率・賃金上昇率も高まっていくもとで、原材料コスト上昇の価格転嫁の動きもあって、プラス幅を緩やかに拡大していくとみられる。
  4. リスク要因をみると、引き続き、内外の感染症の動向やその影響、今後のウクライナ情勢の展開、資源価格や海外経済の動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る