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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2022年9月21、22日開催分)

2022年11月2日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2022年10月27、28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2022年9月21日(14:00から15:59)
 
9月22日( 9:00から11:44)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
  • 高田 創 (  審議委員  )
  • 田村直樹 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 奥 達雄  大臣官房総括審議官(21日)
  • 秋野 公造 財務副大臣(22日)
  • 内閣府 井上 裕之 内閣府審議官(21日)
  • 藤丸 敏  内閣府副大臣(22日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 中村康治
  • 企画局政策企画課長 中嶋基晴
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 千田英継
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局審議役 上條俊昭(22日10:21から11:44)
  • 企画局企画調整課長 大竹弘樹(22日10:21から11:44)
  • 企画局企画役 長江真一郎
  • 企画局企画役 吉村 玄

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(7月20、21日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。また、前回会合で決定された連続指値オペの運営方針に従って、10年物国債を対象とする固定利回り(0.25%)方式による国債買入れ(指値オペ)を毎営業日実施した。このほか、チーペスト銘柄を対象とする指値オペを毎営業日実施した。なお、チーペスト銘柄の指値オペおよびチーペスト銘柄等にかかる国債補完供給の要件緩和措置については、長期国債先物の限月交代を踏まえて、対象銘柄の追加・入れ替えを実施した。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。また、企業等の資金繰り支援のための措置として、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.053から-0.007%程度で推移しているほか、GCレポレートは、-0.140から-0.084%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分上昇した。

わが国の株価(TOPIX)は、米国株価に連れて変動し、前回会合時点から期間を通じてみれば、概ね横ばいとなった。長期金利(10年物国債金利)は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場とも、日本と米欧の金融政策の方向性の違いなどが改めて意識されるもとで、円安方向の動きとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、総じてみれば緩やかに回復しているが、先進国を中心に減速の動きがみられる。世界的なインフレ圧力が続くもとで、先進国および新興国の中央銀行は利上げを進めており、世界経済への下押し圧力は増大している。他方、供給制約の緩和が進み、世界貿易量が増加傾向にあるなど、前向きな動きもみられている。こうしたもと、海外経済の動向は、国・地域によって区々となっている。先行きの海外経済は、感染症や供給制約の影響は和らいでいくものの、世界的なインフレ圧力や各国中央銀行による利上げに加え、ウクライナ情勢の影響を受けて、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速していくとみられる。ただし、ウクライナ情勢の帰趨や各国中央銀行の利上げの影響をはじめ、当面、不確実性は大きい。

地域別にみると、米国経済は、大幅な物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、幾分減速している。個人消費は、これまで積み上がってきた貯蓄や、堅調な労働市場が引き続き下支え要因となるもとで、サービス消費を中心に増加が続いているが、大幅な物価上昇などの影響から、増勢が鈍化している。住宅投資は、利上げを受けて、減少している。労働市場の逼迫感は続いている。企業の業況感の改善は続いているが、そのペースは鈍化している。生産は、一部に弱さがみられるが、増加が続いているほか、設備投資は、小幅の増加が続いている。物価面をみると、PCEデフレーターの前年比は、需給逼迫の影響などから、6%台前半の高い上昇率となっている。

欧州経済は、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、減速の動きがみられる。個人消費は、経済活動の再開が続くもとで、サービス消費を中心に増加が続いているとみられるが、エネルギー価格の高騰を受けて財の消費は減速している。企業の業況感は悪化している。生産は、横ばい圏内で推移し、設備投資は、足もとでは弱めの動きもみられる。物価面をみると、HICPの前年比は、エネルギー価格の上昇などから、9%近傍の非常に高い水準で推移している。

中国経済は、感染拡大の影響を残しつつも、ロックダウン等の措置の影響が和らぐもとで、下押しされた状態から回復している。個人消費は、移動制限などの影響が緩和する中で、大きく落ち込んだ水準から回復している。生産は、回復基調を辿っている。輸出は、生産・物流面の正常化を受けて、全体としては回復している。固定資産投資は、インフラ投資が増加しているものの、不動産投資が減少しており、全体としては横ばい圏内で推移している。

中国以外の新興国・資源国経済は、一部に弱さがみられるが、総じてみれば持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、輸出の増勢が鈍化しているものの、経済活動の再開が進展するもとで内需の改善が続いており、総じてみれば回復している。

海外の金融市場をみると、先進国の長期金利は、FRBやECBの利上げペースが加速するとの観測が高まるもとで、大きく上昇した。株価は、振れを伴いつつ、米欧ともに概ね横ばいとなった。原油価格は、世界的な景気減速懸念が強まるもとで下落した。為替市場について、新興国通貨をみると、ドル高が進行するもとで、期間を通じてみれば、小幅に下落した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、資源価格上昇の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。先行きについては、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。

公共投資は、横ばい圏内の動きとなっている。GDPの実質公的固定資本形成は、災害復旧関連工事の減少などから5四半期連続で減少したあと、4から6月は、政府の経済対策に基づく国土強靱化関連工事等が進捗し、横ばい圏内の動きとなっている。先行きの公共投資は、国土強靱化関連の支出が続くもとで、横ばい圏内で推移すると予想される。

輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加している。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、世界的な半導体需給の逼迫は継続しているものの、上海などでのロックダウンの影響が概ね解消し、増加に転じている。資本財は、世界的な機械投資の堅調さに加え、デジタル関連需要の中長期的な拡大を受けた半導体製造装置への旺盛な需要に支えられて、増加している。情報関連は、スマートフォンやパソコン向け半導体に弱めの動きがみられる。先行きの輸出や鉱工業生産は、海外経済減速の影響を受けつつも、自動車関連における供給制約の緩和や資本財等でみられる高水準の受注残に支えられて、増加基調を辿るとみられる。

企業収益は、全体として高水準で推移している。法人企業統計の全産業全規模の経常利益(季節調整値)をみると、4から6月は前期から増益となり、感染症前のピーク(2018年4から6月)を上回っている。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。先行きの設備投資は、企業収益が資源価格上昇の影響から下押しされつつも全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境や供給制約の緩和を背景に、増加傾向が明確になっていくと予想される。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)および建築着工(民間非居住用)の工事費予定額は、いずれも、振れを伴いつつも、増加している。

個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、4から6月にはっきりと増加したあと、7月は4から6月から横ばいになっている。形態別にみると、サービス消費は、7月は、感染症再拡大の影響から、小幅に減少した。もっとも、外食・国内旅行の減少幅は、過去の感染拡大局面と比較して、ごく小幅となっている。非耐久財消費は、気温上昇などを背景に飲食料品を中心に増加している。耐久財消費は、供給制約の影響は和らいでいるものの、天候要因による振れもあって、足もとでは減少している。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、足もとにかけての動向を窺うと、感染者数の増加傾向が一服した8月半ば以降は、9月入り後も含め、緩やかな増加経路に復しているとみられる。この間、個人消費関連のマインド指標をみると、消費者態度指数は、新規感染者数がピークアウトする中で、雇用環境の改善などが好感され、前月からは小幅に上昇したものの、物価上昇が意識されるもとで、その水準は低位にとどまっている。先行きの個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、感染症抑制と消費活動の両立が進み、雇用環境も改善していくもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられてペントアップ需要の顕在化が進むことから、増加を続けると予想される。

住宅投資は、弱めの動きとなっている。先行きも、緩和的な金融環境が下支えとなるものの、住宅価格の上昇が重石となり、弱めの動きを続けると見込まれる。

雇用・所得環境をみると、一部で弱めの動きもみられるが、全体として緩やかに改善している。労働力調査の就業者数をみると、非正規雇用は、緩やかに増加しているが、対面型サービス業を中心に依然低めの水準にある。一方、正規雇用は人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、振れを伴いつつも、緩やかな増加傾向にある。一人当たり名目賃金は、経済活動全体の持ち直しを反映して、緩やかに増加している。先行きの雇用者所得は、名目ベースでは、景気の改善に伴って増加を続けると考えられる。ただし、実質ベースでは、物価上昇を反映して当面の前年比はマイナスで推移すると見込まれる。

物価面について、商品市況は、一部のエネルギー関連で供給懸念から高止まりが続いているが、総じてみれば世界的な景気減速懸念などを受けて下落している。国内企業物価の3か月前比は、既往の国際商品市況の動向や為替相場の動きを反映して、上昇を続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、2%台後半となっている。予想物価上昇率は上昇している。短期的なインフレ予想は、総じてはっきりと上昇している。中長期的なインフレ予想も、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、原材料コストの上昇を受けた運転資金需要がみられているが、感染症の影響を受けた予備的な流動性需要などが総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ2%台前半、8%程度となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、一部に厳しさが残っているものの、経済の持ち直しに伴い中小企業も含めて改善傾向が続いている。

この間、マネタリーベースの前年比は、コロナオペの残高が減少したことから、ごく小幅なプラスにまで縮小している。マネーストックの前年比は、3%台前半のプラスとなっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融資本市場について、委員は、世界的なインフレ率の高止まりなどを背景に、米欧における利上げペースの加速と世界経済の減速が意識される中、市場センチメントは慎重化した状態が続いているとの見方を共有した。ある委員は、先行きの不確実性の高まりを背景に、一部の資源価格は下落に転じていると指摘した。別の一人の委員は、海外における金融引締めの加速が、為替市場のほか、わが国の債券・株式市場にも影響を及ぼしていると述べた。何人かの委員は、世界的な金融引締めの動きが、今後、金融資本市場や資産価格に及ぼす影響には注意が必要であると述べた。このうち一人の委員は、グローバルに債務残高が拡大しており、クレジット市場の動向には特に目配りが必要であるとの見解を示した。

海外経済について、委員は、総じてみれば緩やかに回復しているが、先進国を中心に減速の動きがみられるとの見方で一致した。一人の委員は、欧州などではコストプッシュを主因に物価上昇率が上がっている一方、米国や英国では労働需給が逼迫し、賃金と物価のスパイラル的な上昇が生じつつある可能性があると指摘した。複数の委員は、インフレ率上昇が続く中で、先進国の中央銀行が大幅な利上げを継続していることが、世界経済を下押しし始めているとの見方を示した。先行きについて、委員は、世界的なインフレ圧力や各国中央銀行による利上げに加え、ウクライナ情勢の影響を受けて、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速していくとの見方で一致した。海外経済に関するリスクについて、委員は、ウクライナ情勢の帰趨や世界的なインフレ圧力、先進国および新興国の中央銀行の利上げペース加速の影響、中国での感染動向や不動産市場の情勢など、当面、不確実性は大きいとの認識を共有した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、大幅な物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、幾分減速しているとの認識を共有した。何人かの委員は、米国経済は今のところ個人消費を中心に底堅く推移しているが、今後の利上げペースの加速次第では、減速が強まる可能性も意識しておく必要があると述べた。このうち一人の委員は、米国の品目別物価上昇率の分布をみると、インフレ予想のアンカーが弱まっている可能性があると指摘し、その場合、更に踏み込んだ金融引締めが必要となる可能性もあるとの見方を示した。別の一人の委員は、住宅関連市場について、既に利上げの影響がみられているが、その裾野は広く、比較的影響が長く続くため、注意深くみていく必要があると指摘した。

欧州経済について、委員は、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、減速の動きがみられるとの見方を共有した。何人かの委員は、ウクライナ情勢を受けたエネルギー価格の上昇などから、景況感の悪化がみられていると指摘した。多くの委員は、欧州ではウクライナ情勢やエネルギーの供給不安などが景気を下押しする中で、物価抑制のための金融引締めを進めており、景気減速が強まる可能性が高いとの見解を述べた。

中国経済について、委員は、感染拡大の影響を残しつつも、ロックダウン等の措置の影響が和らぐもとで、下押しされた状態から回復しているとの認識で一致した。何人かの委員は、一定の景気対策が講じられているものの、ゼロコロナ政策や不動産市場の調整圧力が重石となっており、回復ペースは緩やかなものにとどまるとの見方を示した。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、一部に弱さがみられるが、総じてみれば持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、新興国では、ドル高を背景とした通貨防衛等の観点から利上げを続けており、先行きの景気回復を巡っては不確実性があると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、資源価格上昇の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直しているとの見方を共有した。多くの委員は、夏場に感染症の第7波が到来したものの、経済への影響は限定的となり、感染症抑制と経済活動の両立は着実に進んでいるとの見方を示した。ある委員は、高頻度データや企業ヒアリングから確認する限りでは、感染者数が増加に転じるもとでも、経済活動は底堅く推移しているとの見方を述べた。また、別の一人の委員は、供給制約の影響が和らぐもとで、輸出・生産が基調として増加するなど、資源高などの逆風のもとでも、企業部門の前向きの循環は維持されていると述べた。

景気の先行きについて、委員は、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとの見解で一致した。また、その後の景気展開について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方を共有した。複数の委員は、供給制約の緩和やペントアップ需要の顕在化が見込まれることに加え、高水準の企業収益や受注残、コロナ禍のもとで積み上がった貯蓄などが、景気回復の下支えに寄与するとの認識を示した。一人の委員は、入国制限の緩和が見込まれるなど、感染症対策と経済活動の両立が進む中で、実質GDPはコロナ前の2019年の水準を上回っていくことが期待されると述べた。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しているとの認識で一致した。

企業収益について、委員は、全体として高水準で推移しているとの認識で一致した。ある委員は、為替円安が企業収益に及ぼす影響は業種・規模によっても区々であるが、感染症の影響緩和もあって、企業収益全体としてみれば、感染症前のピークを上回っていると指摘した。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。ある委員は、感染症や供給制約の影響から先延ばしされていた投資のほか、サプライチェーンの再構築といった中長期的な課題に対応する投資も見込まれると指摘した。別の一人の委員は、高水準の企業収益が続く中、企業の投資意欲も底堅い状況にあると付け加えた。この間、ある委員は、飲食・宿泊など一部の業種の事業環境は感染症の影響から厳しい状況にあるが、企業全体としてみれば、コロナ後を見据えた対応や新たなビジネスへの取り組みが重要になっていると述べた。

個人消費について、委員は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しているとの見方で一致した。多くの委員は、感染症第7波の個人消費への影響は、過去の感染拡大局面に比べて小さかったとみられるとの認識を示した。

雇用・所得環境について、委員は、一部で弱めの動きもみられるが、全体として緩やかに改善しているとの見方で一致した。ある委員は、最低賃金が過去最高の引き上げ幅となったことや、積極的な賃上げ姿勢を示す企業も出てきていることに言及したうえで、人への投資の重要性に関する認識の高まりから、今後、賃金の上昇トレンドが高まることが期待されると述べた。そのうえで、この委員は、こうした動きの持続性や労働市場の構造変化について丁寧に確認していくことが重要であると付け加えた。別の一人の委員は、対面型サービス業では客足の増加に伴って人手不足感が強まっており、今後、インバウンド消費の回復などが進めば、アルバイトなどの時給引き上げの動きが一段と加速する可能性があると指摘した。また、この委員は、最近の物価上昇や企業収益の状況、人手不足の状況などを踏まえれば、来年の春季労使交渉では、従来よりも高い賃上げが実現する可能性があるとの見方を示した。この間、ある委員は、持続的な家計所得の増加という観点からは、家計による安定的な資産形成の推進も重要であると述べた。

この間、為替円安の影響について、何人かの委員は、輸出企業か輸入企業か、といった属性によっても異なり得るが、国内需要中心の非製造業や中小企業には収益悪化方向に働きやすいほか、家計の実質所得にとっても下押し要因となると述べた。このうち一人の委員は、為替円安は、短期的には輸入製品や食料品等の値上げにつながる一方で、中長期的には国内の経済活動を上押しする効果もあり、この点で、コスト増加という負の影響のみのエネルギー価格の上昇とは異なるとの見解を示した。複数の委員は、円安のメリットを拡大するためには、インバウンド消費の拡大や、設備投資の増加、成長投資の国内拠点選択、中小企業の輸出力強化、賃上げなどが重要であると述べた。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、2%台後半となっているとの見方で一致した。何人かの委員は、企業による値上げの動きに拡がりがみられるとの認識を示した。ある委員は、刈込平均値や加重中央値、最頻値といった基調的な物価動向を示す各種指標が上昇していると指摘した。これに対し、別の一人の委員は、既存の各種コア指標は、輸入物価に大きく影響されており、その解釈が一層難しくなっているとの見解を述べたうえで、集計値に加えて個別価格の分布状況などを詳しく分析するとともに、改めて、物価の形成メカニズムの基本、とりわけ賃金の動向を注視していく必要があると述べた。この間、予想物価上昇率について、委員は、上昇しているとの見方で一致した。何人かの委員は、予想物価上昇率は上昇しているものの、中長期の予想物価上昇率が2%の「物価安定の目標」にアンカーされた状態にはなっていないとの認識を示した。一人の委員は、わが国の予想物価上昇率が長期のデフレにより低位安定したことは、「物価安定の目標」達成の制約となっている一方で、今次局面では、米欧に比べて物価上昇率が抑制されている要因にもなっていると述べた。

物価の先行きについて、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくとの見方で一致した。また、委員は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、基調的な物価上昇圧力は高まっていくとの認識も共有した。ある委員は、既往の原材料価格上昇を背景に、企業からは値上げの予定公表が相次いでおり、引き続き、幅広い品目で価格上昇が続くと予想されるとの見方を示した。複数の委員は、企業の価格設定行動に変化が生じつつあるのではないかと述べた。これに対し、別の複数の委員は、足もとでは価格転嫁の動きが拡がっているが、これが一回限りのものであれば、来年以降の物価上昇率はかえって弱まる可能性もあると指摘した。ある委員は、企業間の価格交渉は続いており、消費者物価が大きく上振れするリスクについても、為替相場の影響を含め、予断なく謙虚にみていく必要があると指摘した。

経済・物価見通しのリスク要因について、委員は、内外の感染症の動向やその影響、今後のウクライナ情勢の展開、資源価格や海外の経済・物価動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いとの認識で一致した。そのうえで、委員は、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。ある委員は、感染症は、その動向によっては国内の消費を下押しし得るほか、ゼロコロナ政策を続ける中国の感染症の動向も、外需・供給制約の両方の経路から、わが国経済の下押し要因となり得ると述べ、引き続き大きなリスク要因であると指摘した。また、別の一人の委員は、わが国経済は好循環の流れが動き始めた段階であると述べたうえで、米欧中の主要経済圏が減速する中、今後、世界的な景気後退が到来し、外需が下押しされるリスクが相応にあるとの見方を示した。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの見方で一致した。また、委員は、感染症の影響は、中小企業等の一部になお残存しているものの、これらの中小企業等の資金繰りも改善方向にあるとの認識を共有した。複数の委員は、今後、コロナ禍で実行された実質無利子・無担保融資について、無利子の期間が終了し、利払いが始まる中で、企業の倒産・廃業の動向等には注意が必要であると述べた。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

委員は、9月末に期限を迎えるコロナオペの取り扱いについて議論を行った。委員は、金融環境が全体として緩和した状態にあり、感染症の影響が残る中小企業等の資金繰りも改善方向にあることや、コロナオペの利用ニーズが減少していることを踏まえると、コロナオペは基本的に終了していくことが適当であるとの認識を共有した。ある委員は、本来緊急対応的な措置であるコロナオペへの過度な依存が生じ、これが資源配分への歪みをもたらすことがないよう、コロナオペは終了していく必要があると述べた。別の一人の委員は、地域金融機関が金融仲介機能を発揮するうえで重要な経営基盤強化は進展しており、コロナオペは終了することが適当であるが、一部に厳しさも残る状況を考慮し、段階的に終了することが適当であると述べた。更に別の一人の委員は、これから年末・年度末を迎えることも踏まえ、慎重を期して段階的に終了することが望ましいとの見解を示した。この間、複数の委員は、政府の中小企業金融対応について言及し、政府系金融機関の実質無利子・無担保融資は期限通り今月末で受付を終了する一方、一部のコロナ対応の資金繰り支援策は延長することが決定されていると述べた。こうした議論を経て、委員は、感染症の不確実性がなお高いことも踏まえ、仮にコロナオペを終了する場合でも、段階的に縮小していくことが望ましいとの認識を共有した。その場合の扱いについて、複数の委員は、コロナオペのうちプロパー融資分は、利用ニーズが相応に残っていることや、金融機関が自ら審査・リスクテイクをするため、資源配分の歪みにつながるというデメリットが相対的に小さいことなどを踏まえると、制度融資分よりも少し長めの経過措置を講じ得るのではないかとの意見を述べた。また、複数の委員は、現行の期限の9月末が迫っているため、実務的に必要な対応時間を確保することも重要であると述べた。ある委員は、仮に段階的に縮小させる場合、利用ニーズの低下などを踏まえて、資金供給期間などの条件面を見直すことも考えられると付け加えた。この間、何人かの委員は、コロナオペ終了後も、感染症の影響や、原材料価格上昇を背景とした運転資金需要など、幅広い資金繰りニーズがみられる可能性があると指摘したうえで、こうした幅広い資金繰りニーズに応える観点から、どのような対応が考えられるか、検討が必要ではないかとの見解を示した。この点に関して、複数の委員は、特別なファシリティを設ける必要はなく、汎用的な枠組みである共通担保資金供給オペを活用することが適切であるとの意見を述べた。委員は、コロナオペのような急性の危機への対応は、段階的に役割を後退させつつ、幅広い資金繰りニーズへの対応に軸足を移すことで、企業等にとって緩和的な金融環境を引き続きしっかりと維持していくことが適切であるとの認識を共有した。

以上のような委員の意見を受けて、議長は、執行部に対し、コロナオペの10月以降の取り扱い等について、どのような対応が考えられるか説明するよう指示した。

執行部は、次のとおり説明を行った。

  • コロナオペについては、以下の取り扱いとすることが考えられる。
    • 中小企業等向けのプロパー融資分は、期限を半年間延長し、2023年3月末に終了する。この間、毎月1回、3か月物の資金供給を実施する。
    • 中小企業等向けの制度融資分は、期限を3か月間延長し、2022年12月末に終了する。この間、毎月1回、3か月物の資金供給を実施する。
  • コロナオペの期限到来後も中小企業等の資金繰りを支えるとともに、感染症以外にも、例えば、原材料価格上昇に伴う運転資金需要などへの対応も含めたより幅広い資金繰りニーズに応える観点から、幅広い担保を裏付けとして資金を供給している共通担保資金供給オペを金額無制限で実施することが考えられる。

委員は、執行部が説明したようなかたちで、10月以降、コロナオペを段階的に終了していくとともに、より幅広い資金繰りニーズに応える観点から共通担保資金供給オペを活用していくことが適当との認識を共有した。ある委員は、今後、企業にとって持続性強化や事業再構築が課題となるもとで、より幅広い対象を支援していくことが重要になるとの認識を示したうえで、コロナオペは段階的に終了していくが、感染症の状況に応じて機動的に企業の資金繰りを支援する姿勢や、金融緩和を継続する方針に変化はないと述べた。

また、委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方についても議論を行った。委員は、わが国経済は、感染症からの回復過程にある中で、資源高による海外への所得流出という下押し圧力を受けており、大規模な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当との認識を共有した。金融緩和の継続が必要と考える理由について、ある委員は、マイナスの需給ギャップが存在するほか、失業率や有効求人倍率も感染症以前の水準には戻っていないことを挙げた。何人かの委員は、当面、物価は2%を超えて推移すると見込まれるものの、先行きの物価見通しを踏まえると、「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成にはなお距離があるという点を指摘した。この点に関して、一人の委員は、わが国では、物価が上がりにくいとする規範(ノルム)が根強いため、これが変化し、物価上昇を上回る賃金上昇が持続するもとで経済の好循環が働くことが重要であると述べ、目先の物価が一段と伸びを高めたとしても、予想物価上昇率が低位にとどまり、賃金等への波及が限られるもとでは、粘り強く金融緩和を継続することが必要との見解を示した。別の一人の委員も、現在、わが国は賃金と物価の好循環につなげることができるか注視すべき局面にあり、副作用に目を配る必要はあるが、現在の金融政策運営方針を直ちに変更する必要はないと述べた。一人の委員は、低成長・低インフレ・低賃金上昇率に陥っているわが国において、「物価安定の目標」を達成するためには、経済・賃金構造の変革による生産性向上が必要であり、それを後押しするうえでも金融緩和の継続が適当であると述べた。この間、複数の委員は、わが国は、2%の「物価安定の目標」と整合的な賃金上昇に向けて労働需給の引き締まりが必要な状況であり、労働需給が既に逼迫して賃金と物価のスパイラル的な上昇が懸念される米国などとは経済状況が異なると述べた。このうち一人の委員は、サービス価格など物価の基調を規定する部分が上昇し、消費者物価上昇率が安定的に2%を超えることが視野に入ってくるまでは、金融緩和を継続することが適当であるとの認識を示した。

この間、ある委員は、最近の為替相場の急激かつ投機的な動きは、わが国経済にとって望ましくないとの見方を示した。別の一人の委員は、為替円安が一段と進んでいる背景には、内外の金融政策の方向性の違い等も指摘されていると述べた。複数の委員は、金融政策は、為替相場を直接のターゲットとするものではなく、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を目指して行っていると述べたうえで、現在の経済・物価情勢を踏まえると金融緩和を継続する必要があることを丁寧に説明していくべきであるとの考えを示した。また、ある委員は、為替円安の影響は経済主体によって異なるため、金融緩和を継続する意義を丁寧に説明する必要があると付け加えた。

一人の委員は、債券市場では、流動性の低下やボラティリティの上昇など、市場機能度の低下を心配する声があると指摘し、引き続き市場の状況をしっかりと確認・検証するとともに、今後、適切なタイミングが来た際には、出口戦略についても、市場と適切なコミュニケーションをとっていくことが、金融市場の安定性確保の観点から重要であるとの意見を述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。複数の委員は、イールドカーブ・コントロールによって名目金利を低位に安定させているもとで、予想物価上昇率が上昇しているため、実質金利は低下しているとの見方を示した。この点に関して、一人の委員は、これが設備投資の拡大などを通じ、需給ギャップの改善に寄与する可能性があると述べた。別の一人の委員は、緩和効果を測るには実質金利と自然利子率との相対的な関係でみることが重要であると指摘したうえで、これまでは、供給制約やコロナ禍のもとでの行動制限によって自然利子率が低下していた可能性があるが、今後、供給制約や行動制限の緩和に伴って自然利子率が再び上昇し、緩和効果が更に強まっていく可能性があるとの見解を示した。この間、ある委員は、足もと、米金利上昇を背景に日本の国債金利にも上昇圧力がみられるが、6月にみられたような、早期の政策見直し観測と結び付いた動きにはなっておらず、日本銀行の政策運営スタンスは市場に浸透しているとの見方を示した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。

  1. 「(1)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
    短期金利:
    日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    長期金利:
    10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. (2)上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。」

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。これらの点について、何人かの委員は、海外経済の減速など、他のリスクも政策判断に影響するが、感染症は引き続き大きなリスクであるため、現在のフォワードガイダンスの表現を変更する必要はないとの見解を示した。また、複数の委員は、来年度以降、物価はプラス幅を縮小していく可能性が高いことからも、金融政策の緩和バイアスは維持することが望ましいと述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 議論のあったコロナオペ等に関する対応は、日本銀行が今後も企業金融の円滑確保に万全を期する姿勢を示すものと受け止めている。政府も中小企業の資金繰り支援をウィズコロナに合わせて転換させていくこととしており、日本銀行にも適切な対応を期待する。
  • 来年度予算の編成作業が始まっている。足もとの喫緊の課題に引き続き機動的に対応しつつ、わが国が直面する内外の重要課題への取り組みを本格化させるため、予算を大胆に重点化させていく。歳出改革を進めつつ、経済再生と財政健全化の両立を図る。
  • 予備費を措置し、物価高騰への追加策を講じた。今後、総合経済対策を10月中に取りまとめるべく検討を進める。
  • 日本銀行には、政府と連携し、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けた金融政策運営を期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気の先行きは、持ち直していくことが期待される。ただし、世界的な金融引締め等を背景とした海外景気の下振れが、わが国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇による家計や企業への影響や供給面での制約等に十分注意する必要がある。
  • 政府としては、今月9日に取りまとめた、物価高に対する追加策を速やかに実施していく。
  • そのうえで、物価高騰など経済情勢の変化に切れ目なく対応しつつ、新しい資本主義を前に進め、国民の安心・安全を確保するための総合経済対策を、10月中に取りまとめる。
  • 日本銀行には、引き続き、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。また、コロナオペ等に関する対応の趣旨については、対外的に丁寧に説明して頂くことが重要であると考える。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

    1. (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    2. (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. 上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

3.新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーションの段階的終了等に関する件

議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、以下を主な内容とする議案が提出され、採決に付された。

  • (1)コロナオペを段階的に終了しつつ、幅広い資金繰りニーズに応える資金供給による対応に移行していく観点から、次のとおり取り扱うこと。
    1. [1]コロナオペのうちプロパー融資を対象とする貸付けにかかる貸付受付期間を2023年3月31日まで延長すること。また、2022年10月1日以降に行う貸付けは、毎月1回、3か月物で実施すること。
    2. [2]コロナオペのうち制度融資を対象とする貸付けにかかる貸付受付期間を2022年12月31日まで延長すること。また、2022年10月1日以降に行う貸付けは、毎月1回、3か月物で実施すること。
    3. [3]共通担保資金供給オペについて、本行本支店を貸付店として金額に上限を設けない貸付けを実施すること。
  • (2)(1)[1]および[2]に関し、「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション基本要領」等を一部改正すること。

採決の結果、全員一致で決定された。

4.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.議事要旨の承認

議事要旨(2022年7月20、21日開催分)が全員一致で承認され、9月28日に公表することとされた。

以上


  • (注) 「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」 本文に戻る

別紙

2022年9月22日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にある。新型コロナウイルス感染症の影響は、中小企業等の一部になお残存しているものの、これらの中小企業等の資金繰りも改善方向にある。こうした情勢を踏まえ、日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、新型コロナ対応金融支援特別オペを段階的に終了しつつ、幅広い資金繰りニーズに応える資金供給による対応に移行していくことを決定した(全員一致)。
    1. (1)新型コロナ対応金融支援特別オペの取り扱い
      1. [1]感染症対応にかかる中小企業等向けのプロパー融資分は、期限を半年間延長し、2023年3月末に終了することとする。この間、毎月1回、3か月物の資金供給を実施する。
      2. [2]感染症対応にかかる中小企業等向けの制度融資分は、期限を3か月間延長し、2022年12月末に終了することとする。この間、毎月1回、3か月物の資金供給を実施する。
    2. (2)金額無制限の共通担保資金供給オペの実施

      上記オペの期限到来後も中小企業等の資金繰りを支えるとともに、より幅広い資金繰りニーズに応える観点から、幅広い担保を裏付けとして資金を供給している「共通担保資金供給オペ」について、金額に上限を設けずに実施することとする(9月27日に予定している次回実施分から変更)。

  2. 金融市場調節方針、資産買入れ方針については以下のとおりとする。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(全員一致)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]連続指値オペの運用

        上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。
  3. わが国の景気は、資源価格上昇の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。海外経済は、総じてみれば緩やかに回復しているが、先進国を中心に減速の動きがみられる。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加している。企業収益は全体として高水準で推移している。こうしたもとで、設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。雇用・所得環境は、一部で弱めの動きもみられるが、全体として緩やかに改善している。個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加している。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、2%台後半となっている。また、予想物価上昇率は上昇している。
  4. 先行きのわが国経済を展望すると、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想される。この間、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、基調的な物価上昇圧力は高まっていくと考えられる。
  5. リスク要因をみると、引き続き、内外の感染症の動向やその影響、今後のウクライナ情勢の展開、資源価格や海外の経済・物価動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。
  6. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

以上