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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2022年10月27、28日開催分)

2022年12月23日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2022年12月19、20日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2022年10月27日(14:00から16:12)
 
10月28日( 9:00から11:43)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
  • 高田 創 (  審議委員  )
  • 田村直樹 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 奥 達雄  大臣官房総括審議官
  • 内閣府 井上裕之  内閣府審議官
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 理事 清水誠一
  • 企画局長 中村康治
  • 企画局審議役 上條俊昭(27日14:56から16:12)
  • 企画局政策企画課長 中嶋基晴
  • 金融機構局長 正木一博
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 千田英継
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画調整課長 大竹弘樹(27日14:56から16:12)
  • 企画局企画役 長江真一郎
  • 企画局企画役 安藤雅俊
  • 企画局企画役 武田憲久

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(9月21、22日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。また、前回会合で決定された連続指値オペの運営方針に従って、10年物国債を対象とする固定利回り(0.25%)方式による国債買入れ(指値オペ)を毎営業日実施した。このほか、チーペスト銘柄を対象とする指値オペを毎営業日実施した。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。また、企業等の資金繰り支援のための措置として、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施した。さらに、より幅広い資金繰りニーズに応える観点から、共通担保資金供給オペを金額に上限を設けず実施した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは-0.073から-0.021%程度、GCレポレートは-0.115から-0.074%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分上昇した。

わが国の株価(TOPIX)は、概ね米国株価につれて変動し、期間を通じてみると、概ね横ばいとなった。長期金利(10年物国債金利)は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場とも、日本と米欧の金融政策の方向性の違いなどが改めて意識されるもとで、円安方向の動きとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、総じてみれば緩やかに回復しているが、先進国を中心に減速の動きがみられる。供給制約の緩和は続いているものの、世界的なインフレ圧力や、各国中央銀行による利上げ、ウクライナ情勢の影響など、世界経済への下押し圧力が持続している。先行きの海外経済は、感染症や供給制約の影響は和らいでいくものの、様々な下押し圧力の影響を受けて、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速していくとみられる。当面、ウクライナ情勢の帰趨や世界的なインフレ圧力を巡る不確実性が大きいほか、各国中央銀行が速いペースで利上げを進めるもとで、グローバルな金融環境が想定以上に引き締まるリスクもある。

地域別にみると、米国経済は、大幅な物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、幾分減速している。個人消費は、これまで積み上がってきた貯蓄や、堅調な労働市場が引き続き下支え要因となるもとで、サービス消費を中心に増加が続いているものの、大幅な物価上昇などの影響から、増勢が鈍化している。住宅投資は、利上げを受けて、減少している。生産は増加が続いているほか、設備投資も小幅の増加が続いている。企業の業況感は改善が続いているが、製造業では改善ペースが鈍化している。物価面をみると、PCEデフレーターの前年比は、需給逼迫の影響などから、6%台前半の高い上昇率となっている。

欧州経済は、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、減速の動きがみられる。個人消費は、サービス消費が増加基調を維持している一方、エネルギー価格の高騰を受けて、自動車以外の財の消費は減速している。企業の業況感は悪化している。生産は、振れを伴いつつも、全体では横ばい圏内で推移している。物価面をみると、HICPの前年比は、食料品・エネルギー価格の上昇などから、10%近傍の非常に高い水準で推移している。

中国経済は、感染拡大の影響を残しつつも、ロックダウン等の措置の影響が和らぐもとで、下押しされた状態から回復している。個人消費は、一部で改善ペースが鈍化しているものの、春頃の大きく落ち込んだ水準から、基調としては回復している。生産は、回復基調を辿っている。輸出は、生産・物流面の正常化を受けて、全体としては回復している。固定資産投資は、不動産投資が減少を続けているものの、インフラ投資の増加を受けて、全体としては緩やかに増加している。

中国以外の新興国・資源国経済は、一部に弱さがみられるが、総じてみれば持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、輸出の増勢が鈍化しているものの、経済活動の再開が進展するもとで内需の改善が続いており、総じてみれば回復している。

海外の金融市場をみると、先進国の長期金利は、各国中央銀行が速いペースで利上げを進めるもと、英国の財政政策を巡る警戒感もあって、大きく上昇した。株価は、米欧ともに振れを伴いつつ、期間を通じてみれば、小幅に上昇した。原油価格は、主要産油国による大幅減産合意などを背景に上昇した。新興国通貨は、世界的な景気減速懸念に加え、米国金利の上昇などを背景にドルが引き続き選好されるもと、全般に下落した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。先行きについては、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。

輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加している。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、世界的な半導体需給の逼迫はなお継続しているが、上海などでのロックダウンの影響が概ね解消し、はっきりとした増加に転じている。資本財は、世界的な機械投資の堅調さに加え、中長期的なデジタル関連需要の拡大観測を背景とした半導体製造装置への旺盛な需要に支えられて、増加している。情報関連は、グローバルな需要減速を受けてスマートフォンやパソコン向けの半導体などに弱めの動きがみられる。先行きの輸出や鉱工業生産は、海外経済減速の影響を受けつつも、供給制約の緩和と自動車や資本財における高水準の受注残に支えられて、増加基調を続けるとみられる。

企業収益は全体として高水準で推移している。業況感は横ばいとなっている。9月短観の業況判断DIを業種別にみると、製造業は、供給制約の影響は幾分和らいだものの、原材料コスト上昇の影響がみられるもとで、概ね横ばいとなった。非製造業は、電気・ガスや小売などで仕入価格上昇の影響がみられた一方、物品賃貸や運輸・郵便、宿泊・飲食サービスなどで幾分改善し、全体としては小幅に改善した。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。先行きの設備投資は、企業収益が資源高の影響から下押しされつつも全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境や供給制約の緩和を背景に、増加傾向が明確になっていくと予想される。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)および建築着工(民間非居住用)の工事費予定額は、いずれも、振れを伴いつつも、増加している。9月短観の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース、金融機関を含む全産業全規模)をみると、2022年度は、感染症下で先送りされてきた案件の実行が進むことに加え、デジタル化向けの情報関連投資、脱炭素化向けの環境対応投資も増加することから、前年比+15.2%とはっきり増加する計画となっている。

個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、4から6月にはっきりと増加したあと、7から8月の4から6月対比は、全体としては小幅の減少にとどまっている。形態別にみると、耐久財消費は、供給制約の緩和が押し上げ方向に作用しているものの、7から8月はスマートフォンなどを中心に減少している。非耐久財消費は、人々の外出意欲の持ち直しや気温上昇を背景に飲食料品を中心に堅調に推移している。サービス消費は、夏場の感染再拡大の影響から7から8月は小幅に減少したが、外食・国内旅行の減少幅は、過去の感染拡大局面と比較すると小幅となっている。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、9月以降の個人消費動向を窺うと、感染状況が落ち着くにつれて、緩やかに増加しているとみられる。10月入り後、多くの財やサービスが値上げしているが、これまでのところ、物価上昇が家計の消費行動を大きく慎重化させるには至っていない模様である。ただし、個人消費関連のマインド指標をみると、消費者態度指数は、物価上昇が意識されるもとで、低水準にとどまっている。先行きの個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、感染抑制と消費活動の両立が一段と進み、雇用環境も改善していくもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられたペントアップ需要の顕在化が進むことから、増加を続けると予想される。

雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善している。労働力調査の就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、緩やかな増加傾向を辿っている。非正規雇用も、このところ対面型サービス業を含めて緩やかに増加している。9月短観の雇用人員判断DIをみると、「不足」超幅が拡大している。一人当たり名目賃金は、経済活動全体の持ち直しを反映して、緩やかに増加している。先行きの雇用者所得は、名目ベースでは、景気の改善に伴って増加を続けると考えられる。ただし、実質ベースでは、物価上昇を反映して当面の前年比はマイナスで推移すると見込まれる。

物価面について、商品市況は、世界的な景気減速懸念などが重石となるもとで、横ばい圏内で推移している。国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況の動向や為替相場の動きを反映して、伸び率を鈍化させつつも、高めの伸びを続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%程度となっている。東京都区部の10月の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は+3.4%となり、前月の+2.8%からプラス幅が拡大している。予想物価上昇率は上昇している。短期的なインフレ予想は、はっきりと上昇している。中長期的なインフレ予想も、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、経済活動の再開や原材料コストの上昇を受けた運転資金需要の高まりから、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ2%台後半、7%程度となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、一部に厳しさが残っているものの、経済の持ち直しに伴い中小企業も含めて改善傾向が続いている。

この間、マネタリーベースは、コロナオペの残高が減少したことから、前年比マイナスとなっている。マネーストックの前年比は、3%台前半のプラスとなっている。

(3)金融システム

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

大手行の収益は、海外金利上昇を背景とした有価証券関係損益の悪化がみられるものの、貸出残高の増加を背景とした資金利益の増加や、手数料収入の増加などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、総じてみれば低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。

地域銀行の収益も、海外金利上昇を背景とした有価証券関係損益の悪化がみられるものの、資金利益や非資金利益の増加などから、堅調に推移している。信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。

金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち、実体経済活動との対比でみた金融機関の与信量等の3指標について、過熱方向にトレンドから乖離した状態となっている。もっとも、これらは、主として、感染症拡大以降の積極的な企業金融支援や企業が手元流動性を厚めに確保していることの結果として生じており、金融活動の過熱感を表すものとはみられない。金融機関与信が実体経済活動に見合った水準に復していくか、引き続き注視する必要がある。

2.ETFの銘柄別買入方法の見直しについて

1.執行部からの説明

ETF買入れについて、金融調節の円滑化を図る観点から、従来の、銘柄毎の市中流通残高に概ね比例するよう買い入れる方法から、保有に係る費用等を勘案して買い入れる扱いに変更したい。保有に係る費用等を勘案する際、当面、信託報酬率を用いることを執行部で定め、原則としてこれが最も低い銘柄を買い入れることとしたい。

2.委員会の検討・採決

上記の買入方法の見直しを内容とする「『指数連動型上場投資信託受益権等買入等基本要領』の一部改正に関する件」が採決に付され、全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。

3.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢の現状

国際金融資本市場について、委員は、世界的なインフレ率の高止まりなどを背景に、米欧における速いペースでの利上げと世界経済の減速が意識される中、市場センチメントは慎重化しているとの見方を共有した。ある委員は、国際的な資源・エネルギー価格は、世界経済の減速懸念を背景に、低下トレンドに転じているとの見方を示した。複数の委員は、世界的なインフレや財政状況の悪化を受けて、新興国からの資本流出や新興国通貨安などが生じないか懸念されると述べた。

海外経済について、委員は、総じてみれば緩やかに回復しているが、先進国を中心に減速の動きがみられるとの見方を共有した。何人かの委員は、米欧の中央銀行は、インフレ対策を優先して利上げを進めており、景気の下押し要因となっていると述べた。

地域別にみると、米国経済について、委員は、大幅な物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、幾分減速しているとの認識を共有した。多くの委員は、労働市場は引き続きタイトな状態となっているなど、米国の物価上昇圧力はなお強く、当面、利上げ局面が続く可能性が高いと述べた。このうち一人の委員は、エネルギー価格は下落に転じているものの、賃金上昇に連動したサービス価格が押し上げに寄与するかたちでコアCPIの上昇が続いていると述べ、こうしたインフレの持続性は高いとみられると指摘した。

欧州経済について、委員は、経済活動の再開に伴って緩やかに回復しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、減速の動きがみられるとの見方を共有した。何人かの委員は、資源価格を含めた物価の高騰、大幅な利上げの継続やエネルギー供給制約等を背景に、景気後退の可能性が高まっていると指摘した。

中国経済について、委員は、感染拡大の影響を残しつつも、ロックダウン等の措置の影響が和らぐもとで、下押しされた状態から回復しているとの認識で一致した。何人かの委員は、ゼロコロナ政策の継続や不動産市場の低迷が重石となって、経済が下押しされていると指摘した。一人の委員は、若年層の高失業率も長引いており、成長期待の下振れも懸念されると述べた。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、一部に弱さがみられるが、総じてみれば持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、新興国では、ドル高の影響もあって通貨防衛の観点から利上げを続けており、先行きの景気回復を巡っては不確実性があると述べた。

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。また、委員は、経済再開の動きや原材料コスト上昇の影響から企業の運転資金需要は増加しているが、全体として企業の資金繰りの改善傾向は変わっていないとの見方を共有した。ある委員は、外部資金の調達環境について、社債金利の上昇等はあるが、総じてみれば良好であるとの見方を述べた。別のある委員は、中小零細企業の一部など、構造的に厳しい事業環境に直面している企業の倒産・廃業の動向等は注視していく必要があると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直しているとの見方を共有した。ある委員は、夏の感染第7波がほぼ収まり、10月には全国旅行支援や水際対策緩和も始まる中で、対面型サービス業においても明確な回復の兆しがみられると指摘した。別のある委員は、こうした経済情勢のもとで、需給ギャップ解消や賃金引き上げのモメンタム強化により、賃金水準の上昇幅拡大など好循環が期待されると述べた。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しているとの認識で一致した。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、企業収益が全体として高水準で推移しているもとで、持ち直しているとの認識を共有した。ある委員は、コスト上昇などの下押し圧力があるもとでも、9月短観では積極的な設備投資スタンスが確認されており、企業部門では前向きな循環が維持されていると述べた。別のある委員は、高水準の企業収益や低水準の実質金利を背景に、企業の投資意欲は底堅いとの見方を示した。

個人消費について、委員は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しているとの見方で一致した。一人の委員は、ペントアップ需要の顕在化もあって、物価高の直接の影響は今のところ目立たないが、マインド指標は悪化しており、今後、物価高がマインド面や消費者行動に与える影響には注意する必要があると述べた。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%程度となっているとの見方で一致した。多くの委員は、足もとの物価上昇は、基本的には輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響によるものであるとの認識を示した。一人の委員は、輸入物価の上昇によるものを除けば、サービス価格の上昇は鈍く、国内要因に基づく基調的な物価はまだ低い水準にあると指摘した。複数の委員は、コスト・プッシュとはいえ、実際に川上から川下へ価格転嫁が広がっており、物価が上がらないことを前提とした企業の行動原理が変わりつつある可能性があるとの見方を示した。予想物価上昇率については、委員は、上昇しているとの見方で一致した。

2.経済・物価情勢の展望

2022年10月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、見通し期間の中盤にかけては、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、わが国経済は回復していくとの見方で一致した。複数の委員は、海外経済減速の影響などから、わが国経済は、来年度は回復ペースが鈍化すると見込まれると述べた。何人かの委員は、IMFの最新の世界経済見通しにおいて、わが国の2023年の成長率見通しは、G7諸国で最も高い伸び率となっていると指摘した。このうち一人の委員は、その背景として、わが国では今後経済再開が本格化すると期待されることに加え、緩和的な金融環境が維持されていることも大きな違いであると述べた。見通し期間の中盤以降については、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、わが国経済は、潜在成長率を上回る成長を続けるとの認識を共有した。

海外経済の先行きについて、委員は、見通し期間の中盤にかけて、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速したあと、持ち直していくとの見方を共有した。複数の委員は、40年振りの高インフレとなっているもとで、米欧の中央銀行は、インフレ抑制を優先して歴史的なペースで急速な利上げを続けており、景気減速が見込まれると述べた。ある委員は、IMFの最新の世界経済見通しでも、3分の1以上の経済が景気後退に陥るとの見方が示されていると付け加えた。

わが国の輸出や生産について、委員は、供給制約の影響が和らぐもとで、自動車や資本財における高水準の受注残に支えられて、増加基調を続けるとの見方で一致した。また、委員は、サービス輸出であるインバウンド需要も、入国制限の緩和等を受けて、増加していくとの見方を共有した。

設備投資について、委員は、緩和的な金融環境による下支えに加え、供給制約の緩和もあって、増加傾向が明確になっていくとの見方で一致した。委員は、見通し期間の中盤以降も、緩和的な金融環境にも支えられて、人手不足対応やデジタル関連の投資、成長分野・脱炭素化関連の研究開発投資を含めて、増加を続けるとの見方を共有した。ある委員は、世界経済の先行きを巡る不確実性が、設備投資を下押しする可能性もあると述べた。

個人消費について、委員は、物価上昇に伴う実質所得面からの下押し圧力を受けつつも、感染抑制と消費活動の両立が一段と進むもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられたペントアップ需要の顕在化を主因に、増加を続けるとの見方で一致した。見通し期間の中盤以降の個人消費について、委員は、ペントアップ需要の顕在化ペースを鈍化させつつも、着実な増加を続けるとの見方を共有した。

雇用者所得について、委員は、正規雇用に加え、対面型サービス部門の回復に伴って非正規雇用の増加もより明確化していくことや、労働需給の改善を反映して賃金上昇率が高まることを背景に、緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。ある委員は、高水準の企業収益を背景に、今年の夏季賞与が増加したほか、物価高を受けた一時手当てを支払う動きも増えていると指摘した。そのうえで、この委員は、固定給与の引き上げにはなお慎重さが残るとみられるものの、人手不足も背景に、今後、企業の賃金設定スタンスの前向きな変化が期待されると述べた。別のある委員は、高水準の企業収益や物価上昇に加え、対面型サービス業を中心とした人手不足も加わって、高水準の賃上げが実現される可能性が高まっているとの見方を示した。複数の委員は、来年春の賃金交渉について、経済団体・労働組合・政府がそれぞれ賃上げに積極的なスタンスを示している点は心強い動きであると述べた。他方、一人の委員は、わが国は米国に比べて、労働需給に対する賃金上昇率の感応度が著しく低く、このことは業種・規模を問わず共通して観察されると指摘した。これに対し、別の一人の委員は、転職機会が限定されたわが国の正規労働者の賃金は、労働需給の影響を受けづらい構造となっているが、比較的流動性が高い非正規労働者、正規労働者でも若年層や専門職層等の賃金は、労働需給への感応度が高いと述べた。ある委員は、賃金が上昇する場合でも、その程度は企業間・個人間で異なるため、データを多面的に捉える努力が必要であるとの見解を示した。この間、一人の委員は、経済成長が家計の可処分所得の増加につながるよう、生涯を見据えた長期・安定的な資産形成を推進することも重要であると述べた。

こうした議論を経て、委員は、中心的な成長率の見通しは、7月の展望レポート時点と比べると、夏場の感染拡大や海外経済の減速の影響から、2022年度を中心に幾分下振れているとの見方で一致した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくとの見方で一致した。その後について、委員は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとの見方を共有した。委員は、年度ベースでみると、来年度以降の消費者物価の前年比は2%を下回る可能性が高いとの見方で一致した。複数の委員は、来年以降、物価上昇率が2%を下回るという見方は、国際機関や民間エコノミストにも概ね共通していると指摘した。ある委員は、欧米でのインフレ圧力が継続しているほか、既往の原材料価格上昇の影響からわが国の企業物価は高水準で推移しており、今後しばらくは、価格転嫁が進む中で、消費者物価は上昇を続けるとの認識を示した。別のある委員は、サービス価格やエネルギー以外の公共料金にも上昇の兆しがみられ、比較的高めの物価上昇率が続く公算が大きいと述べた。複数の委員は、来年度以降、輸入物価の影響の剥落に加え、海外経済の減速や経済・物価を取り巻く外部環境の不確実性の高まりも踏まえると、基調として物価が安定して2%程度上昇する状況になったとみるのは時期尚早ではないかとの見方を示した。この点について、ある委員は、日本経済が基調として底上げされる中、物価上昇率が来年度以降2%を下回ってもデフレに戻るわけではなく、物価上昇率は着実に底上げされていくと展望されると述べた。

変動の大きいエネルギーを除いた消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比について、委員は、食料品や耐久財などの価格動向を反映し、相対的に変動幅は小さくなるものの、動きとしては消費者物価(除く生鮮食品)の前年比と同様になると見込まれるとの認識を共有した。

こうした物価見通しの背景にある要因について、委員は、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、現在、小幅のマイナスとなっているが、先行きは、潜在成長率を上回る成長経路を辿るもとで、2022年度後半頃にはプラスに転じ、その後もプラス幅の緩やかな拡大が続くとの見方を共有した。また、委員は、中長期的な予想物価上昇率は、短期と比べるとペースは緩やかながら上昇しているとの認識で一致した。そのうえで、委員は、適合的予想形成の強いわが国では、現実の物価上昇率の高まりは、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率の上昇をもたらし、企業の価格・賃金設定行動や労使間の賃金交渉の変化を通じて、賃金の上昇を伴うかたちで、物価の持続的な上昇につながっていくとの見方を共有した。ある委員は、現在の企業の価格設定行動や賃上げの動きが定着し、物価と賃金の好循環が起きれば、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成が視野に入ってくると述べた。一人の委員は、来年度後半以降は、需給ギャップの改善や予想物価上昇率、賃金上昇率も高まっていくもとで、物価の基調が強まっていく姿を想定していると述べたうえで、こうした見通しの鍵となるのが、春季労使交渉における賃金の動向であると指摘した。この間、複数の委員は、地政学的リスクやグローバル化の停滞を背景に、企業行動が従来の効率性重視から安定性重視に重点を移す結果、長期にわたり物価が押し上げられる可能性があると指摘した。

こうした議論を経て、委員は、中心的な物価の見通しは、7月の展望レポート時点と比べると、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、2022年度を中心に上振れているとの見方で一致した。

この間、委員は、経済・物価見通しの前提となっている金融環境についても議論を行った。委員は、先行きも、日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を推進するもとで、金融環境は緩和的な状態が続き、民間需要の増加を後押ししていくとの認識を共有した。

次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について議論を行った。

まず、経済のリスク要因として、委員は、海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向について留意が必要であるとの見方で一致した。委員は、世界的にインフレ圧力が続くもとで、各国中央銀行は速いペースで利上げを進めており、国際金融資本市場では、インフレの抑制と経済成長の維持が両立するかが懸念されているとの認識を共有した。この点に関して、複数の委員は、米国の労働市場が依然タイトなことや、消費者物価のコア指数が上昇している点を指摘し、高インフレが予想以上に長引くリスクや、その後の経済が想定以上に減速するリスクがあると指摘した。委員は、急速な利上げが続くもとで、資産価格の調整や為替市場の変動、新興国からの資本流出を通じて、グローバルな金融環境が一段とタイト化し、ひいては海外経済が下振れるリスクがあるとの見方を共有した。この点に関し、ある委員は、欧米が歴史的なペースで金融引締めを続ける中、想定を上回る海外経済の減速や、実質金利の急上昇に伴う資産価格やクレジット市場の急変などのリスクに注意を要するとの認識を示した。こうしたもとで、委員は、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの認識で一致した。

また、委員は、ウクライナ情勢の展開やそのもとでの資源・穀物価格の動向にも注意が必要であるとの認識で一致した。すなわち、委員は、ウクライナ情勢の帰趨次第では、ユーロ圏を中心に海外経済が一段と下押しされる可能性があるほか、資源・穀物価格は、ひと頃に比べて下落しているが、ウクライナ情勢の展開等によっては、再び上昇するリスクがあるとの見方を共有した。複数の委員は、資源・穀物価格上昇の背景には、グローバル化の見直しといった要因もあり、長期にわたって影響が続く可能性があると指摘した。委員は、供給要因による資源・穀物価格の上昇は、資源輸入国であるわが国にとって、輸入コストの増加を通じた経済への下押しの影響が大きく、資源・穀物価格の上昇による交易条件の悪化に伴う企業や家計の支出行動の慎重化を通じて、設備投資や個人消費が下振れるリスクがあるとの認識を共有した。他方で、委員は、資源・穀物価格が下落基調を強めれば、経済が上振れる可能性もあるとの見方で一致した。

さらに、委員は、内外における感染症が個人消費や企業の輸出・生産活動に及ぼす影響にも注意が必要であるとの見方で一致した。委員は、わが国では夏場に感染が再拡大したものの、過去の感染拡大局面と比べてその影響は小幅にとどまっており、感染抑制と消費活動の両立は着実に進展しているが、今後の感染症の動向次第では、ペントアップ需要による押し上げ圧力が想定よりも弱まるリスクがあるとの認識を共有した。他方で、委員は、感染症への警戒感が大きく後退すれば、行動制限下で積み上がってきた貯蓄の取り崩しが想定以上に進み、個人消費が上振れる可能性もあるとの見方を共有した。また、委員は、一部でなお供給制約が残るもとで、内外で感染症が再拡大した場合、サプライチェーン障害などを通じて、供給制約が再び強まり、わが国の輸出・生産が下振れるとともに、財消費や設備投資にも悪影響が波及するリスクがあるとの認識を共有した。

また、やや長い目でみたリスク要因として、委員は、企業や家計の中長期的な成長期待についても留意が必要であるとの見方で一致した。委員は、ポストコロナやデジタル化、脱炭素化に向けた動きは、わが国の経済構造や人々の働き方を変化させるとみられるほか、地政学的リスクの高まりを背景に、これまで世界経済の成長を支えてきたグローバル化の潮流に変化が生じる可能性があり、そうした変化への家計や企業の対応次第では、中長期的な成長期待や潜在成長率、マクロ的な需給ギャップなどに上下双方向に影響が及ぶリスクがあるとの見方を共有した。

次に、物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶとの見方を共有した。そのうえで、委員は、物価固有のリスク要因についても議論を行った。

まず、委員は、企業の価格・賃金設定行動を巡っては上下双方向に不確実性が高いとの見方で一致した。委員は、原材料コストの上昇圧力や企業の予想物価上昇率の動向次第では、価格転嫁が想定以上に加速し、物価が上振れるリスクや、労使間の賃金交渉を通じて、賃金に物価動向を反映させる動きが広がっていくことで、賃金と物価が想定以上に上昇するリスクがある一方、わが国では、物価や賃金が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が根強く残っている点を踏まえると、賃上げの動きが強まらず、物価も下振れるリスクもあるとの見方を共有した。ある委員は、今年度は物価上昇に広がりがみられ、上振れる可能性もあるが、今後の持続性にはまだ確信が持てないと述べた。別のある委員は、ディスインフレの世界が長年続いたあとの物価上昇局面であり、グローバル化の逆回転等の構造的変化もあるため、過去の経験がそのまま当てはまるとは限らないと述べ、物価が大きく上振れるリスクも否定できないとの見方を示した。他方、一人の委員は、先行き、海外経済が下振れた場合などには、企業の価格設定行動等にも影響が及ぶ可能性があると指摘した。

もう一つの物価固有のリスク要因として、委員は、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及は、上振れ・下振れ双方に作用し得るとの認識で一致した。委員は、ウクライナ情勢の展開等を巡る不確実性の高さを反映して、国際商品市況の変動が大きくなっているほか、世界的なインフレ率の高止まりや為替市場における急激な変動がみられており、これらがわが国の物価に及ぼす影響については十分注意してみていく必要があるとの見方を共有した。

リスクバランスについて、委員は、経済の見通しについては、下振れリスクの方が大きいとの見方で一致した。また、物価の見通しについては、上振れリスクの方が大きいとの見方で一致した。

委員は、金融政策運営の観点から重視すべきリスクとして、わが国の金融システムの動向についても議論を行った。委員は、金融システムは、全体として安定性を維持しているとの見解で一致した。委員は、先行きについて、グローバルな金融環境のタイト化の影響などには注意が必要であるが、内外の実体経済や国際金融資本市場が調整する状況を想定しても、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有しているとの見方を共有した。複数の委員は、金融危機以降、規制強化などにより銀行セクターの頑健性は全般的に強化されているが、グローバルに金融環境がタイト化する中で、市場環境が金融システムに影響を及ぼす可能性があり、国際金融資本市場において、例えば、ノンバンクセクターの高レバレッジが巻き戻されるリスクなどには警戒が必要であると述べた。委員は、より長めの視点では、金融機関収益の下押しが長期化した場合、金融仲介が停滞方向に向かうリスクと、利回り追求行動などに起因して金融システム面の脆弱性が高まるリスクの両面あるが、現時点では、これらのリスクは大きくないとの認識を共有した。

4.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方について議論を行った。委員は、現行の金融緩和を継続することにより、賃金の上昇を伴うかたちで「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成することが重要であるとの見解で一致した。ある委員は、金融緩和を粘り強く続けるもとで中長期の予想物価上昇率は緩やかに上昇しており、実質金利の低下を通じて、わが国経済への一段の緩和効果が顕在化する兆しが生じていると指摘した。別のある委員は、2%の「物価安定の目標」を安定的に達成するうえでは、名目賃金の上昇が必要不可欠であると述べたうえで、金融緩和は、労働需給の引き締まりのほか、物価上昇によるインフレ予想の高まりという経路を通じて、名目賃金の上昇に作用するとの見解を示した。複数の委員は、賃金が持続的・安定的に上昇するうえで、企業の成長期待が高まることも重要であると指摘した。ある委員は、企業業績が全体として高水準で推移していることや、賃金上昇の動きがみられていることを踏まえると、わが国経済には好循環の兆しが出てきており、当面の金融政策運営に関しては、現状維持が適当であると述べた。複数の委員は、「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するうえで、中途半端に政策を変更すると物価と賃金の好循環を妨げるリスクがあるため、時間をかけて粘り強く金融緩和を行う必要があるとの見解を示した。これに対し、ある委員は、金融政策を直ちに変更する必要はないが、副作用に目を配るとともに、賃金と物価の好循環が実現するかを見極める観点から、物価高が家計の行動や賃金にどのような影響を与えていくのか、謙虚に予断なく検証していく必要があると述べた。また、この委員は、将来の出口戦略が市場にどのような影響を与えるかや、市場参加者の備えが十分かについて、確認を続けることも重要であると付け加えた。この間、何人かの委員は、若年層を中心に住宅ローン借入れが増加していると指摘したうえで、将来金利が上昇する局面でどのような影響が生じるか、注意する必要があるとの認識を示した。

金融政策運営に関する対外的な情報発信について、ある委員は、足もとの物価上昇率は2%を上回っているが、インフレ目標政策は一時的な物価よりも先行きの見通しをみながら、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成を目指して運営しているということを、丁寧に説明していく必要があるとの見方を示した。別のある委員は、持続的な物価上昇を判断する際には、期間もさることながら、賃金の上昇を伴う経済の好循環による物価上昇か、という背後のメカニズムが重要であり、日本銀行が目指しているのは国民生活が向上するような循環であるということに理解を求めていく必要があるとの意見を述べた。この点について、一人の委員は、こうしたコミュニケーションを行ううえで、物価と賃金の関連についての分析を一層深化させることが重要であると指摘した。複数の委員は、欧米では高インフレの進展を受けて金融引締めを進める一方、わが国では賃金と物価の好循環は実現しておらず金融緩和を継続する必要があると述べたうえで、こうした内外の金融政策の方向性が異なる背景についても丁寧に説明していくことが重要であると述べた。ある委員は、低成長・低インフレ・低賃金上昇率に陥っているわが国においては、国民経済の健全な発展の観点から、「人への投資」や事業ポートフォリオ改革など供給サイドの変革により、生産性や賃金水準を高め、所得から支出への好循環につなげるために、金融緩和継続が必要であり、これを分かりやすく情報発信する必要があると述べた。

この間、複数の委員は、このところの急激な円安は、企業にとって不確実性を高めており、日本経済にとってマイナス面が強いと述べた。このうち一人の委員は、為替水準はファンダメンタルズに沿って決まるべきものであり、こうした考え方に即して市場と対話することは、金融政策運営への理解を得るうえでも重要であると述べた。別の一人の委員は、利上げを実施している多くの国の通貨もドルに対して減価していることを踏まえると、最近の為替相場の動向には、安全資産としてのドル需要の高まりが相応に寄与しているのではないか、と指摘した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節上の様々な工夫により、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが形成されているとの認識を共有した。複数の委員は、米欧の長期金利の急激な上昇を背景に、わが国でも金利上昇圧力が強まっているものの、イールドカーブ・コントロールにより、長期金利の上昇は抑制されていると述べた。このうち一人の委員は、イールドカーブの上昇を抑制するために国債買入れを増額していることは、流動性の供給という量の面からも緩和効果を高めているとの認識を示した。もう一人の委員は、長期金利がレンジの上限に張り付いていることは市場機能にマイナスの影響を与える面もあるが、現在、長期金利が低位で推移していることのマクロ経済に及ぼす便益が大きいとの見方を示した。ある委員は、債券市場の安定性確保は重要であり、引き続き、モニタリング等を通じて市場の状況をきめ細かく把握する必要があると述べた。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。

  1. 「(1)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
    短期金利:
    日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    長期金利:
    10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. (2)上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。」

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

5.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 足もとの物価高には、切れ目のない対応を講じることが重要である。先月の追加策に続き、総合経済対策を策定する予定であり、電気やガスなどの負担軽減策などを通じ、急激な価格高騰から国民生活と事業活動を守っていく。
  • また、経済対策の裏付けとなる第2次補正予算を速やかに編成し、早期成立に全力を挙げて取り組んでいく。
  • 日本銀行には、政府と連携し、ウクライナ情勢や感染症の影響も踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けた金融政策運営を期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気の先行きは、持ち直していくことが期待される。ただし、世界的な金融引締め等を背景とした海外景気の下振れが、わが国の景気を下押しするリスクがある。また、物価上昇による家計や企業への影響や供給面での制約等に、引き続き十分注意する必要がある。
  • 政府としては、「物価高・円安への対応」、「構造的な賃上げ」、「成長のための投資と改革」を重点分野とし、世界経済の減速リスクを十分視野に入れつつ、経済情勢の変化に切れ目なく対応し、「新しい資本主義」を前に進めるための総合経済対策を策定する。
  • 日本銀行には、引き続き、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。

6.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

    1. (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    2. (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. 上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、10月31日に公表することとされた。

8.議事要旨の承認

議事要旨(2022年9月21、22日開催分)が全員一致で承認され、11月2日に公表することとされた。

以上


  • (注) 「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2022年10月28日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(全員一致)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]連続指値オペの運用

        上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。
  2. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

以上