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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2022年12月19、20日開催分)

2023年1月23日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2023年1月17、18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2022年12月19日(14:00から15:50)
 
12月20日( 9:00から11:54)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
  • 高田 創 (  審議委員  )
  • 田村直樹 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 奥 達雄 大臣官房総括審議官(19日)
  • 秋野公造 財務副大臣(20日)
  • 内閣府 茂呂賢吾 大臣官房審議官(経済財政運営担当)(19日)
  • 藤丸 敏 内閣府副大臣(20日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 中村康治
  • 企画局政策企画課長 中嶋基晴
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室総務課長 伊藤 真
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画役 吉村 玄
  • 企画局企画役 武田憲久

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(10月27、28日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。また、前回会合で決定された連続指値オペの運営方針に従って、10年物国債を対象とする固定利回り(0.25%)方式による国債買入れ(指値オペ)を毎営業日実施した。このほか、チーペスト銘柄を対象とする指値オペを毎営業日実施した。なお、チーペスト銘柄の指値オペおよびチーペスト銘柄等にかかる国債補完供給の要件緩和措置については、長期国債先物の限月交代を踏まえて、対象銘柄の追加・入れ替えを実施した。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。ただし、各年限間の金利の相対関係や現物と先物の裁定などの面で、債券市場の機能度は低下している。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。また、企業等の資金繰り支援のための措置として、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施した。さらに、より幅広い資金繰りニーズに応える観点から、共通担保資金供給オペを金額に上限を設けず実施した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは-0.079から-0.052%程度、GCレポレートは-0.119から-0.084%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分低下した。

わが国の株価(TOPIX)は、概ね米国株価につれて上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、米金利の低下等を背景に、ドル安方向の動きとなった。この間、円の対ユーロ相場は、期間を通じてみると、概ね横ばい圏内の動きとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、回復ペースが鈍化している。世界的に供給制約の緩和が続き、各国の生産活動を下支えしているものの、先進国における高インフレや中央銀行による利上げ、ウクライナ情勢の影響といった下押し圧力に加え、前回会合以降、中国経済も、感染再拡大の影響を受けて、個人消費を中心に下押し圧力が強まっている。先行きの海外経済は、供給制約の影響は和らいでいくものの、様々な下押し圧力を受けて、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速していくとみられる。先行きの見通しを巡っては、世界的なインフレ圧力のほか、ウクライナ情勢の帰趨、中国における感染症の動向とその影響について、不確実性が大きい。

地域別にみると、米国経済は、個人消費に底堅さもみられるが、物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、減速傾向が続いている。個人消費は、物価上昇による下押し圧力が続いているが、これまで積み上がってきた貯蓄や、堅調な労働市場が引き続き下支え要因となるもとで、値引き販売などの影響も受けて底堅く推移している。住宅投資は、利上げを受けて減少している。設備投資は、小幅の増加を続けている。生産は、一部に弱さがみられるが、基調として増加を続けている。企業の業況感は総じてみれば改善が続いているが、製造業では改善に足踏みがみられる。物価面をみると、PCEデフレーターの前年比は、ピーク時からは幾分鈍化しているが、需給逼迫の影響などから、引き続き6%程度の高い上昇率となっている。

欧州経済は、緩やかに回復しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、減速の動きがみられる。個人消費は、経済活動再開の影響が一巡し、インフレの高進やECBによる利上げが続くもとで、減速の動きがみられる。輸出や生産は、振れを伴いつつも、全体として横ばい圏内で推移している。設備投資は、基調として改善している。物価面をみると、HICPの前年比は、食料品・エネルギー価格の上昇などから、10%近傍の非常に高い水準で推移している。

中国経済は、感染再拡大の影響を受けて、減速している。個人消費は、感染再拡大に伴う下押し圧力を受けて、減少している。輸出は、一部のIT関連財や先進国における消費財の在庫調整の影響のほか、感染再拡大に伴う生産面の影響もあって、減少している。固定資産投資は、不動産投資が減少を続けているものの、全体としては緩やかに増加している。こうしたもとで、生産は、感染再拡大による内需の鈍化に加え、一部では企業活動や物流面の影響もあって、減速している。

中国以外の新興国・資源国経済は、一部に弱さがみられるが、総じてみれば持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、輸出が弱めの動きとなっているものの、経済活動の再開が進展するもとで内需の改善が続いており、総じてみれば回復している。

海外の金融市場をみると、米国の長期金利は大幅に低下した一方、欧州の長期金利は上昇した。米欧の株価は、米金利の低下や、欧州における今冬のエネルギー供給問題に対する懸念の後退などを受けて、上昇した。新興国通貨は、米金利の低下などを背景にドル需要が減少するもとで、全般に上昇した。この間、原油価格は下落した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。先行きについては、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。

輸出や生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加している。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、車載向け半導体の世界的な需給逼迫が総じてみれば徐々に緩和するもとで、緩やかな増加基調にある。資本財は、半導体製造装置等の受注に減速感は窺われるものの、高水準の受注残に支えられて、増加基調を辿っている。一方、情報関連は、自動車関連の需要は堅調であるものの、スマートフォンやパソコン向けの半導体等電子部品で調整圧力が強まっており、全体として弱めの動きとなっている。先行きの輸出や生産は、海外経済減速の影響を受けつつも、供給制約の緩和と自動車や資本財における高水準の受注残に支えられて、増加基調を辿るとみられる。

企業収益は全体として高水準で推移している。業況感は横ばいとなっている。12月短観の業況判断DIを業種別にみると、製造業は、原材料コスト高やIT需要減少の影響を受けつつも、供給制約の影響が緩和傾向にあることや価格転嫁の進捗などから、概ね横ばいの動きとなった。非製造業は、感染抑制と経済活動の両立が進展し、価格転嫁も進む中で、改善を続けた。ただし、先行きの業況感は、製造業では海外経済の減速懸念、非製造業では物価高や感染再拡大の影響への懸念から、悪化している。

設備投資は、緩やかに増加している。製造業は、デジタル関連投資等を中心に増加基調を辿っている。非製造業も物流施設投資や都市再開発案件が進む中で、全体として増加している。先行きの設備投資は、企業収益が資源高等の影響を受けつつも全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境や供給制約の緩和を背景に、増加を続けると予想される。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)および建築着工(民間非居住用)の工事費予定額は、いずれも、振れを伴いつつも、増加している。12月短観の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース、金融機関を含む全産業全規模)をみると、2022年度は、供給制約の影響が緩和し、感染症下で先送りされてきた案件の実行が進むことに加え、デジタル化向けの情報関連投資、脱炭素化などの環境対応投資も増加することから、前年比+14.7%の大幅な増加計画が維持されている。

個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、7から9月は感染再拡大の影響を受けつつも概ね横ばいを維持したあと、10月の7から9月対比は、サービス消費を中心に増加している。形態別にみると、耐久財消費は、供給制約の緩和を主因に持ち直している。非耐久財消費は、外出の増加を背景に、衣料品を中心に増加している。サービス消費は、全国旅行支援の開始による後押しもあって、増加している。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、11月以降の個人消費動向を窺うと、感染抑制と消費活動の両立が進展するもとで、全国旅行支援による押し上げもあって、緩やかな増加を続けているとみられる。10月以降の食料品価格等の上昇を受けても、現時点では、家計の消費行動に全体としては大きな変化はみられていないが、企業からは、割安な商品やセール実施店舗へのシフトが進んでいるとの指摘が増加している。個人消費関連のマインド指標をみると、消費者態度指数は、物価上昇が意識されるもとで、一段と悪化している。先行きの個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、感染抑制と消費活動の両立が一段と進み、雇用環境も改善していくもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられたペントアップ需要の顕在化が進むことから、増加を続けると予想される。

雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善している。労働力調査の就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、緩やかな増加傾向を辿っている。非正規雇用は、対面型サービス業や医療・福祉を中心に緩やかな増加傾向を辿っている。12月短観の雇用人員判断DIをみると、「不足」超幅の拡大が続いて感染症前のボトムにかなり近い水準となっており、先行きも人手不足感が一段と強まる予想となっている。一人当たり名目賃金は、経済活動全体の持ち直しを反映して、緩やかに増加している。先行きの雇用者所得は、名目ベースでは、景気の回復に伴って増加を続けると考えられる。ただし、実質ベースでは、物価上昇を反映して当面の前年比はマイナスで推移すると見込まれる。

物価面をみると、商品市況は下落している。国内企業物価の3か月前比は、既往の国際商品市況の動向や為替相場の動きを反映して、高めの伸びを続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%台半ばとなっている。予想物価上昇率は上昇している。短期的なインフレ予想は、上昇している。中長期的なインフレ予想も、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、経済活動の持ち直しや原材料コストの上昇を受けた運転資金需要の高まりから、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、発行スプレッドは拡大しているが、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ3%程度、6%程度となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、一部に厳しさが残っているものの、経済の持ち直しに伴い中小企業も含めて改善傾向が続いている。もっとも、内外の金融資本市場のボラティリティの高まりなどを背景に、わが国の債券市場の機能度が低下している。こうした状態が続く場合、企業の起債など、金融環境に悪影響を及ぼす惧れがある点には留意が必要である。

この間、マネタリーベースは、コロナオペの残高が減少したことから、前年比マイナスとなっている。マネーストックの前年比は、3%台前半のプラスとなっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢

国際金融資本市場について、委員は、米国における物価指標の伸び率鈍化がポジティブな材料となっているものの、米欧中央銀行による金融引き締めを巡る不確実性や世界経済の減速が意識されるもとで、市場センチメントはなお慎重化した状態が続いているとの見方を共有した。

海外経済について、委員は、回復ペースが鈍化しているとの認識で一致した。先行きについて、委員は、供給制約の影響は和らいでいくものの、世界的なインフレ圧力や各国中央銀行による利上げに加えて、ウクライナ情勢や中国における感染再拡大の影響を受けて、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速していくとの見方で一致した。海外経済に関するリスクについて、委員は、世界的なインフレ圧力、各国中央銀行の利上げの継続、ウクライナ情勢の帰趨、中国での感染動向や不動産市場の情勢など、当面、不確実性は大きいとの認識を共有した。ある委員は、米国の金融引き締めについて、効果が表れるまでにはラグがあるため、これまで累積された効果の程度によっては、米国だけでなく、世界経済に影響を与える可能性もあると述べた。

地域別にみると、米国経済について、委員は、物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、減速傾向が続いているとの認識を共有した。複数の委員は、利上げの効果により、米国経済の減速を示すデータが出てきており、ソフトランディングを見込む市場参加者が増えていると述べた。何人かの委員は、米国の物価上昇率の伸びが鈍化している点を指摘した。もっとも、これについて、何人かの委員は、財やエネルギーの価格上昇率は低下しているものの、米国では労働市場の逼迫が続く中で、賃金上昇率やサービス価格の上昇率は高止まりしており、高インフレの抑制には相応の時間を要する可能性が高いとの認識を示した。この点に関し、一人の委員は、米国経済がソフトランディングできるかハードランディングするかの議論はまだ決着がついていないと述べた。

欧州経済について、委員は、緩やかに回復しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、減速の動きがみられるとの見方を共有した。何人かの委員は、欧州では物価上昇率が高止まりしており、ECBが大幅な利上げを継続する中で、景気の減速が続く可能性が高いとの見方を示した。複数の委員は、欧州経済が景気後退局面入りする可能性が高いと指摘した。他方、一人の委員は、懸念されていたエネルギー供給不安は軽減されており、経済持ち直しの期待もあると述べた。

中国経済について、委員は、感染再拡大の影響を受けて、減速しているとの認識で一致した。ある委員は、中国では、これまでの厳格なゼロコロナ政策により、個人消費が弱めになっていると述べた。複数の委員は、当局がゼロコロナ政策の緩和や不動産市場の梃入れ策などを進めているものの、現状では感染者数の増加や不動産市場の低迷などにより経済活動が下押しされていると指摘した。この間、ある委員は、不動産市場の低迷や若年層の高失業率の長期化により、潜在成長率の低下が懸念されると述べた。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、一部に弱さがみられるが、総じてみれば持ち直しているとの認識を共有した。ある委員は、資源国か否かで影響が異なるものの、世界的なIT関連財の在庫調整を受けて、新興国の生産・輸出に影響がみられると指摘した。また、別のある委員は、ドル高の影響は一服したものの、世界的なインフレを受けた各国中央銀行の利上げにより、新興国の債務負担が増加することには留意が必要であると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直しているとの見方を共有した。何人かの委員は、海外経済は減速感が強まっているものの、わが国経済は、コロナ禍で抑制されてきた設備投資や個人消費の増加にも支えられて、持ち直しの動きが続いているとの見解を示した。

景気の先行きについて、委員は、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられるとの見解で一致した。また、その後の景気展開について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方を共有した。ある委員は、わが国経済は、賃金引上げモメンタムの強まりや、「人への投資」、DX投資の活発化等により、潜在成長率を上回る成長が期待されるため、来春の賃金改定や各種投資の動向を注視していると述べた。この委員は、わが国経済の持続的成長には、輸出競争力向上、事業承継を契機とした経営リソースの強化やスタートアップの支援策等による中小企業の生産性向上や、エネルギー自給率の向上による資源高等に対する耐性の強化、脱炭素化への対応が必要であると付け加えた。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しているとの認識で一致した。この点について、ある委員は、先行き、海外経済の減速が本格化すると見込まれるため、輸出などに変調が生じないか注意する必要があると指摘した。

設備投資について、委員は、企業収益が全体として高水準で推移しているもとで、緩やかに増加しているとの認識を共有した。ある委員は、高水準の企業収益を受けて設備投資の増加が続いており、企業部門の前向きの循環は維持されているとの見方を示したうえで、このことは12月短観において設備投資計画が明確な増加を示していることにも表れていると述べた。複数の委員は、緩和的な金融環境が、実質金利の低下を通じて設備投資の増加に好影響を与えているとの見方を示した。

個人消費について、委員は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しているとの見方で一致した。複数の委員は、サービス需要について、全国旅行支援などの政府の需要喚起策の影響もあって、飲食・宿泊を中心に改善しているとの見解を述べた。

雇用・所得環境について、委員は、全体として緩やかに改善しているとの見方で一致した。また、委員は、先行きの名目雇用者所得は、景気の回復に伴って増加を続けるとの認識を共有した。来年の春季労使交渉について、ある委員は、賃上げにかなり前向きな政労使のスタンス、総じて好調な企業収益、お互いに支えあう傾向の強いわが国の労使関係などを踏まえると、高めの賃上げが実現する可能性が相応にあるとの認識を示した。また、別のある委員は、労働組合に物価上昇を踏まえた賃上げを求める動きがみられるほか、労働需給が引き締まる中で企業側にも前向きに応じる姿勢がみられており、このことは、持続的な物価の押し上げにつながり得ると指摘した。一方、ある委員は、足もとのコスト高が業績圧迫要因となっている点は、持続的な賃金上昇にとってマイナスに働き得るとの見方を示した。この委員は、賃上げの持続性は企業の成長力によるため、2%の「物価安定の目標」には、企業の「稼ぐ力」を強化する供給サイドの変革も重要であると述べたうえで、そうした経済・賃金構造の変革のバロメーターとして、一般サービスの物価上昇率に注目していると付け加えた。また、一人の委員は、マクロ的にみれば賃金上昇の気運は高まっていると思うが、賃金上昇率は、企業間、あるいは年齢層など属性が異なる労働者間でも異なってくるとみられるため、多面的に賃金動向を捉える努力が必要であると述べた。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%台半ばとなっているとの見方で一致した。先行きについて、委員は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくとの認識を共有した。

ある委員は、消費者物価上昇率は、輸入物価の上昇圧力が減衰することや、電気料金に関する政府の支援策なども踏まえると、年明け以降、プラス幅を縮小していくと考えられるとの見方を示した。この委員は、実際、原油価格を含むコモディティ価格はピーク時から下落に転じており、輸入物価の前年比プラス幅は、11月にはっきりと縮小していると付け加えた。別のある委員は、消費者物価上昇率はコスト・プッシュ圧力の一巡後に2%を下回るとみているとの認識を示した。そのうえで、この委員は、その後再び2%に伸びを高め、それが継続するためには、名目賃金が十分に上昇し、サービスを中心とした消費者物価の粘着的な部分の伸びが高まることが必要であるとの見解を示した。この間、ある委員は、企業の価格転嫁の動きが広がっており、これが物価上昇率の底上げに寄与する可能性や、企業業績の底上げを通じて前向きな循環につながる可能性があると述べた。また、複数の委員は、海外の物価情勢や、サプライチェーンの見直しの状況、わが国企業の価格転嫁の動向などを踏まえると、緩やかな物価上昇圧力が続く可能性があるとの見方を示した。このうち一人の委員は、財だけではなく、サービス価格も次第に上昇率を高めているほか、刈込平均値や加重中央値も伸び率を一段と高めており、物価上昇のモメンタムが強くなってきている可能性があるとの見方を示した。

また、委員は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、基調的な物価上昇圧力は高まっていくとの認識を共有した。一人の委員は、物価の動向を点検するにあたっては、関連する様々な指標をみて基調を見極めるとともに、政府による総合経済対策の消費者物価に対する影響も勘案する必要があると述べた。この点に関し、別の一人の委員は、当面、供給要因の変動や政府の対策の効果などから、物価上昇率の変動が大きくなる可能性が高いと述べ、物価形成のメカニズムに即した基調判断が従来以上に重要になるとの見方を示した。この間、ある委員は、わが国の消費者物価は、個別品目の価格上昇率の分布、および、生鮮食品とエネルギーを除く指数の水準でみて、デフレ期以前の状態に近づきつつあり、これはデフレに戻ることのない状況の実現に向けた動きと考えられるとの見方を示した。これに対し、別の一人の委員は、物価は上昇し、インフレ予想も上昇しているが、足もとのサービス価格の上昇は原材料コスト高の影響によるところが大きく、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するにはまだ距離があると指摘した。

経済・物価見通しのリスク要因について、委員は、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症の動向やその影響など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いとの認識で一致した。ある委員は、米国におけるサービス価格や賃金の上昇率の高止まりを受けたインフレ率の動向、中国における感染再拡大の影響など、海外経済・物価動向を巡るリスクは大きいと指摘した。また、ある委員は、国内の感染第8波の飲食業などへの影響や、中国における感染症の帰趨など、内外の感染症の動向やその影響には引き続き目配りが必要であると述べた。そのうえで、委員は、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの見方で一致した。複数の委員は、原材料コスト高などを背景に資金需要は増加しているが、CPの発行環境は良好であるほか、金融機関の貸出態度も緩和した状態が続いており、全体として、企業は必要な資金を低いコストで調達できていると述べた。そのうえで、これらの委員は、債券市場の機能度が低下する中で、社債金利のスプレッドは拡大しており、発行金額・件数面を含めれば、社債の良好な発行環境は維持されているとみられるが、注意を要する状況にあると指摘した。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方について議論を行った。委員は、現行の金融緩和を継続することにより、賃金の上昇を伴うかたちで「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成することが重要であるとの見解で一致した。複数の委員は、現在は、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するうえで重要な局面であると指摘した。このうち一人の委員は、「物価安定の目標」を達成するうえでは、中長期のインフレ予想が2%にアンカーされることや名目賃金が相応に上昇することが必要であるが、現状、それにはなお距離があるため、金融緩和の継続が必要であると述べた。また、ある委員は、企業業績は全体として高水準であり、労働需給はタイトで賃金上昇の動きがみられるなど、好循環の兆しが出てきているが、「物価安定の目標」が達成されたとは考えていないため、当面の金融政策に関しては、金融緩和の維持が適当であるとの見方を示した。この間、一人の委員は、2%の「物価安定の目標」について、目標値を含めて点検・検証が必要との議論があるが、目標値の修正は、目標を曖昧にし、金融政策の対応を不十分なものにする惧れがあるため、適当でないとの見解を示した。これに対して、別の一人の委員は、消費者物価指数上昇率で表現した数字をどこまで厳密なものとして扱うべきか、議論の余地があるのではないかと述べた。一人の委員は、中央銀行の物価目標としては消費者物価指数を採用するのが適当であり、海外の中央銀行も同様であると指摘した。また、ある委員は、現時点では、金融緩和の継続が適当であるが、いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していくことが必要であると述べた。別のある委員は、低金利の長期継続を前提とした資金運用・調達が続いてきただけに、将来の出口局面では、金利上昇に伴うリスクの所在や市場参加者の備えの確認が必要になると考えられるとの見方を示した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節上の様々な工夫により、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが形成されているとの認識を共有した。ある委員は、本年春先以降、海外金利が急上昇し、わが国の金利にも強い上昇圧力が生じた局面でも、イールドカーブ・コントロールによって金利の低位安定が維持されたとの評価を述べた。この委員は、海外金利の上昇という外生的な要因で国内金利が大きく上昇していた場合には、わが国経済への大きな下押し圧力となっていた可能性があると付け加えた。複数の委員は、物価上昇率の実績値や予想インフレ率が上昇する一方、イールドカーブ・コントロールによって名目金利が低位で安定しているため、実質金利の低下を通じ、金融緩和効果は強まっているとの見方を示した。

多くの委員は、10年ゾーンにおける価格形成に歪みが生じており、年限間の金利の相対関係や現物と先物の裁定といった点で、債券市場の機能度が低下していると指摘した。委員は、本年春先以降、海外の金融資本市場のボラティリティが高まり、わが国の債券市場もその影響を強く受けるもとで機能度が低下しているとの認識を共有した。この点に関し、複数の委員は、11月の債券市場サーベイで機能度判断DIがさらに悪化していると指摘し、その背景として、10年金利の指標性の低下や、ボラティリティの拡大、ヘッジ機能の低下などを挙げた。このうち一人の委員は、社債発行時に金利目線が定まらず、投資家の購入意欲の低下やスプレッドの上乗せを招いているという指摘も聞かれていると述べた。こうした議論を経て、委員は、債券市場の機能度が低下した状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼし、金融緩和の効果の波及を阻害する惧れがあるとの見方で一致した。

多くの委員は、市場機能の低下に対応する観点から、イールドカーブ・コントロールの運用を見直し、より円滑なイールドカーブの形成を促すことが考えられるのではないか、との意見を述べた。ある委員は、イールドカーブを全体として低位に安定させるべく、全年限で国債購入額を増額したうえで、状況に応じて機動的な買入れを実施することが適当であると述べたうえで、このことは、金融緩和の持続性強化につながるとの見方を示した。別のある委員は、幅広い年限での積極的な国債買入れを通じて、現状の緩和スタンスを維持することが適当であると述べた。さらに別のある委員は、持続的な賃金上昇に必要な経済・賃金構造変革の動きを後押しするうえでは、金利水準を低く抑えることが重要であり、そのために、イールドカーブ・コントロールの持続性を強化することが必要であるとの意見を述べた。これに関して、複数の委員は、長期金利の変動幅を拡大した場合でも、インフレ予想の上昇もあって、実質金利の低下を通じた強力な緩和効果が続くとの認識を示した。この間、ある委員は、社債の買入れについても工夫の余地があるのではないか、との問題提起を行った。

以上のような委員の意見を受けて、議長は、執行部に対し、委員から指摘があった市場機能の低下を踏まえて、どのような対応が考えられるか説明するよう指示した。

執行部は、次のとおり説明を行った。

  • まず、イールドカーブ・コントロールの運用について、以下の取扱いとすることが考えられる。
    • 国債買入れ額を大幅に増額しつつ、買入れ予定で示す月間の買入れ額を現在の7.3兆円から9兆円程度としたうえで、長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大する。
    • 10年物国債金利について0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。
    • 金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額のさらなる増額や指値オペを実施する。
  • また、社債買入れについて、以下の取扱いとすることが考えられる。
    • 社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。

執行部の説明に対し、委員は、長短金利操作の運用について、国債買入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を「±0.5%程度」に拡大する措置は適当であるとの見解で一致した。一人の委員は、現在のイールドカーブの形状や、過去の年限間のスプレッド等を考えると、「±0.5%程度」という変動幅が妥当と考えられるとの認識を示した。ある委員は、イールドカーブ・コントロールの運用見直しは市場機能の改善に資すると述べたうえで、マーケットがどこに、どのように落ち着き、市場機能がどれだけ改善するのか、謙虚にみていくことが大切であるとの見方を示した。この間、何人かの委員は、長期金利の変動幅の拡大は、世界的な物価上昇圧力が高いもとで、金融緩和をより持続可能なものとする対応であり、金融緩和からの出口に向けた変更ではないことを明確に説明する必要があると指摘した。

また、委員は、社債等買入れについて、執行部が提案したとおり、社債の発行環境に十分配慮して運用することが適当であるとの見方を共有した。ある委員は、今回の措置の影響を含め、今後も市場の状況を丹念に点検していく必要があると述べた。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、以下のとおりとすることが適当であるとの見解で一致した。

「(1)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

短期金利:
日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:
10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

(2)(1)に関し、長短金利操作の運用として、10年物国債金利について金額を無制限とする0.5%の利回りでの固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)を、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。また、(1)の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施する。」

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくこと、ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

4.政府からの出席者の発言

以上の議論を踏まえ、政府からの出席者から、会議の一時中断の申し出があった。議長はこれを承諾した(10時51分中断、11時28分再開)。

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 本日、議論のあった内容は、「物価安定の目標」を実現する観点から、より持続的な金融緩和を実施するためのものと受け止めている。
  • 政府としては、先日、総合経済対策を策定し、同対策を実行するための補正予算も成立した。来年度予算は、現在、大詰めの作業を進めているところである。
  • 来年度の税制改正については、16日に与党において取りまとめられたところであり、与党税制改正大綱の内容を踏まえ、政府として適切に対応したい。
  • 日本銀行には、引き続き、政府との連携の下、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国の景気の先行きは、各種政策の効果もあって、持ち直していくことが期待される。ただし、世界的な金融引き締め等が続く中、海外景気の下振れがわが国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、供給面の制約、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある。
  • 政府としては、先般策定した総合経済対策および補正予算について、進捗管理を徹底し、迅速かつ着実に実行することで、経済対策の効果を最大限発揮させ、日本経済の再生につなげてまいる。
  • 今回議論のあった事項は、「物価安定の目標」を実現する観点から、より持続的な金融緩和を実施するためのものと受け止めている。その政策の趣旨について、対外的に丁寧に説明することが重要である。
  • 日本銀行には、引き続き、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分踏まえ、適切な金融政策運営を期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

    1. (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    2. (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. 1.に関し、長短金利操作の運用として、10年物国債金利について金額を無制限とする0.5%の利回りでの固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)を、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。また、1.の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施すること。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.議事要旨の承認

議事要旨(2022年10月27、28日開催分)が全員一致で承認され、12月23日に公表することとされた。

以上


  • (注) 「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2022年12月20日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図り、より円滑にイールドカーブ全体の形成を促していくため、長短金利操作の運用を一部見直すことを決定した。

    本年春先以降、海外の金融資本市場のボラティリティが高まっており、わが国の市場もその影響を強く受けている。債券市場では、各年限間の金利の相対関係や現物と先物の裁定などの面で、市場機能が低下している。国債金利は、社債や貸出等の金利の基準となるものであり、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼす惧れがある。日本銀行としては、今回の措置により、イールドカーブ・コントロールを起点とする金融緩和の効果が、企業金融などを通じて、より円滑に波及していくと考えており、この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることで、「物価安定の目標」の実現を目指していく考えである。

  2. 金融市場調節方針、資産買入れ方針については以下のとおりとする。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(全員一致)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]長短金利操作の運用

        国債買入れ額を大幅に増額しつつ1、長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大する。

        10年物国債金利について0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額のさらなる増額や指値オペを実施する。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。
  3. わが国の景気は、資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。海外経済は、回復ペースが鈍化している。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加している。企業収益は全体として高水準で推移しており、業況感は横ばいとなっている。こうしたもとで、設備投資は緩やかに増加している。雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善している。個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加している。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%台半ばとなっている。また、予想物価上昇率は上昇している。
  4. 先行きのわが国経済を展望すると、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみられる。
  5. リスク要因をみると、引き続き、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症の動向やその影響など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。
  6. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

以上


  1. 本日公表する「長期国債買入れ(利回り・価格入札方式)の四半期予定」では、従来の月間7.3兆円から9兆円程度に増額する。本文に戻る