政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2023年6月15、16日開催分)
2023年8月2日
日本銀行
本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2023年7月27、28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。
開催要領
- 1.開催日時:
- 2023年6月15日(14:00から16:03)
- 6月16日( 9:00から11:40)
- 2.場所:
- 日本銀行本店
- 3.出席委員:
- 議長 植田和男 (総裁)
- 氷見野良三(副総裁)
- 内田眞一 ( 副総裁 )
- 安達誠司 (審議委員)
- 中村豊明 ( 審議委員 )
- 野口 旭 ( 審議委員 )
- 中川順子 ( 審議委員 )
- 高田 創 ( 審議委員 )
- 田村直樹 ( 審議委員 )
- 4.政府からの出席者:
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- 財務省 奥 達雄 大臣官房総括審議官(15日)
- 秋野公造 財務副大臣(16日)
- 内閣府 茂呂賢吾 大臣官房審議官(経済財政運営担当)(15日)
- 藤丸 敏 内閣府副大臣(16日)
- (執行部からの報告者)
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- 理事 清水季子
- 理事 貝塚正彰
- 理事 清水誠一
- 企画局長 中村康治
- 企画局審議役 上條俊昭(15日14:55から16:03)
- 企画局政策企画課長 中嶋基晴
- 金融市場局長 藤田研二
- 調査統計局長 大谷 聡
- 調査統計局経済調査課長 長野哲平
- 国際局長 神山一成
- (事務局)
-
- 政策委員会室長 倉本勝也
- 政策委員会室企画役 木下尊生
- 企画局企画調整課長 土川 顕(15日14:55から16:03)
- 企画局企画役 丸尾優士
- 企画局企画役 長田充弘
- 企画局企画役 倉知善行
1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節は、前回会合(4月27、28日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。また、前回会合で決定された長短金利操作の運用方針に従って、10年物国債を対象とする0.5%の利回りでの固定利回り方式による国債買入れ(指値オペ)を毎営業日実施した。このほか、チーペスト銘柄を対象とする指値オペを毎営業日実施した。これらの金融市場調節のもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移している。前回会合以降のイールドカーブをみると、引き続き総じてスムーズな形状となっている。
前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。
2.金融・為替市場動向
短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは-0.079から-0.023%程度、GCレポレートは-0.224から-0.088%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。
わが国の株価(TOPIX)は、大幅に上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。なお、国債市場の流動性指標をみると、多くの指標で、昨年前半に比べれば総じて悪化した状態が続いているものの、昨年末から本年3月中旬頃にかけてみられた悪化局面との対比では、改善方向の動きとなっている。債券市場サーベイにおける市場の機能度判断DIは、前回調査対比マイナス幅が縮小した。為替相場をみると、円の対ドル相場は、日米金利差の拡大などを背景に、円安方向の動きとなった。この間、円の対ユーロ相場も、円安方向の動きとなった。
3.海外金融経済情勢
海外経済は、回復ペースが鈍化している。米国経済は、個人消費に底堅さもみられるが、物価上昇やFRBによる利上げの継続を受けて、減速傾向が続いている。欧州経済は、ひと頃と比べてエネルギー供給懸念は緩和しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、緩やかに減速している。中国経済は、IT関連の調整や外需の減速などの影響を受けつつも、経済活動の正常化が進むもとで、持ち直している。中国以外の新興国・資源国経済は、内需の緩やかな改善が続いているものの、IT関連財を中心に輸出が減速しており、総じてみれば改善ペースが鈍化している。
先行きの海外経済は、世界的なインフレ圧力が残存し、各国中央銀行による利上げが続く中、ウクライナ情勢も重石となり、当面、回復ペースが鈍化した状態が続くとみられる。その後は、インフレ圧力が次第に減衰し、中国における経済活動の正常化も進むもとで、徐々に持ち直していくと考えられる。先行きの見通しを巡っては、世界的なインフレ圧力のほか、ウクライナ情勢の帰趨や中国経済の動向について、不確実性がきわめて高い。
海外の金融市場をみると、米国の長期金利は、堅調な経済指標等を受けて上昇し、米国株価も、ハイテク関連銘柄を中心に上昇した。一方、欧州では、長期金利、株価とも、概ね横ばいとなった。この間、新興国通貨は、米国金利が上昇するもとで、多くの国で下落した。原油価格は、中国の経済指標の下振れなどを受けて、下落した。
4.国内金融経済情勢
(1)実体経済
わが国の景気は、既往の資源高の影響などを受けつつも、持ち直している。先行きについては、今年度半ば頃にかけては、既往の資源高や海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかに回復していくとみられる。
輸出や生産は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっており、先行き、今年度半ば頃にかけても、同様の動きが続くとみられる。その後は、海外経済が持ち直していくもとで、増加基調に復していくと予想される。
企業収益は、全体として高水準で推移している。設備投資は、緩やかに増加している。先行きの設備投資は、企業収益が全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境などを背景に、増加を続けると予想される。
個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかに増加している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、1から3月に増加したあと、4月の1から3月対比は減少している。企業からの聞き取り調査や高頻度データに基づくと、5月以降の個人消費は、春季労使交渉等も踏まえて所得環境の改善が明確化しつつある中で、感染症の「5類」移行の影響にも支えられ、緩やかな増加を続けているとみられる。先行きも、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、行動制限下で積み上がった貯蓄にも支えられて、緩やかな増加を続けると予想される。
雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、緩やかに増加している。非正規雇用は、対面型サービス業や医療・福祉を中心に、均してみれば緩やかな増加傾向にある。一人当たり名目賃金は、経済活動全体の持ち直しを反映して、緩やかに増加している。本年の春季労使交渉について、これまでに明らかになった経営側からの回答状況をみると、定昇を含む賃上げ率は3%台後半と、前年の2%程度から大きく上昇し、1993年以来の水準となっている。先行きの雇用者所得は、名目賃金の伸び率上昇を反映して、増加を続けると考えられる。実質ベースでは、今年度半ばにかけて物価上昇率が低下し、名目雇用者所得も改善していくもとで徐々にプラスに転化していくと見込まれる。
物価面について、商品市況は、総じてみれば幾分下落している。国内企業物価の3か月前比は、既往の資源高や為替円安の影響が徐々に和らぐもとで、再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き下げの影響もあって、下落している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小しているものの、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もとは3%台半ばとなっている。予想物価上昇率は、上昇したあと、このところ横ばいとなっている。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。
(2)金融環境
わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。
資金需要面をみると、経済活動の持ち直しや既往の原材料コスト高を背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、需給環境に改善の動きがみられる中で、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、3%台後半となっている。CP・社債計の発行残高の前年比は、プラス幅を縮小し、1%台後半となっている。企業倒産は、このところ増加しているものの、なお低水準で推移している。企業の資金繰りは、一部に厳しさが残っているものの、経済活動の持ち直しに支えられて、全体として改善した状態にある。
この間、マネタリーベースは、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)の残高の減少による影響が減衰していることから、前年比マイナス幅は縮小している。マネーストックの前年比は、2%台後半のプラスとなっている。
2.「補完当座預金制度基本要領」の一部改正等
1.執行部からの説明
コロナオペの新規実行は、予定通り本年3月に終了し、同6月末をもって、コロナオペにおける全ての貸付の返済が完了する。これに伴い、「補完当座預金制度基本要領」および「貸出促進付利制度基本要領」の一部改正を行うこととしたい。
2.委員会の検討・採決
採決の結果、上記案件について全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。
3.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要
1.経済・物価情勢
国際金融資本市場について、委員は、米欧の金融政策および金融部門を巡る不確実性や、世界経済の減速が引き続き意識されているものの、堅調な企業決算などを背景に、市場センチメントには改善の動きがみられているとの認識で一致した。
海外経済について、委員は、回復ペースが鈍化しているとの認識を共有した。一人の委員は、昨年来の金融引き締めが徐々に影響を及ぼすもとで先進国経済の減速傾向が強まっているほか、中国経済の持ち直しが鈍いとの見方を示した。この間、複数の委員は、多くの国・地域において、製造業が弱含んでいるものの、サービス業は堅調であると指摘した。
米国経済について、委員は、個人消費に底堅さもみられるが、物価上昇やFRBによる利上げの継続を受けて、減速傾向が続いているとの認識で一致した。何人かの委員は、労働需給の引き締まりが継続する中、物価上昇圧力は根強いとの見方を示した。一人の委員は、堅調な個人消費を支えてきた家計貯蓄の減少に伴って、先行き個人消費の伸びは鈍化していくのではないかと述べた。別の一人の委員は、利上げの影響からクレジット市場や金融機関の融資姿勢がタイト化しており、地方銀行による融資が多い商業用不動産市場を中心に信用収縮が生じないか、留意が必要であるとの見方を示した。
欧州経済について、委員は、ひと頃と比べてエネルギー供給懸念は緩和しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、緩やかに減速しているとの認識を共有した。一人の委員は、欧州の物価上昇には落ち着きがみられると述べた。これに対し、複数の委員は、賃金上昇を受けた物価上昇圧力は根強いのではないかとの見方を示した。ある委員は、エネルギーなどの供給を巡る不確実性が高い状態が続いているほか、EU・英国間の関税の原産地規制が厳格化されていくことの影響にも注意が必要であると述べた。
中国経済について、委員は、IT関連の調整や外需の減速などの影響を受けつつも、経済活動の正常化が進むもとで、持ち直しているとの見方を共有した。もっとも、複数の委員は、若年層失業率の高止まりもあって、財消費を中心に個人消費の回復が鈍いとの認識を示した。このうち一人の委員は、消費者物価の低迷にも表れているような個人消費の弱さや成長期待の低下を懸念していると述べた。また、何人かの委員は、不動産市場の調整が、引き続き経済の下押しに作用しているとの見方を示した。
中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、内需の緩やかな改善が続いているものの、IT関連財を中心に輸出が減速しており、総じてみれば改善ペースが鈍化しているとの認識を共有した。
以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。
わが国の景気について、委員は、既往の資源高の影響などを受けつつも、持ち直しているとの認識で一致した。複数の委員は、海外経済減速の影響が輸出・生産面にみられる一方、感染症の「5類」移行の影響にも支えられて、サービス消費を中心に個人消費が緩やかに増加しているとの見方を示した。また、ある委員は、国内経済が全体として底堅く推移するもとで、企業の景況感は拡大・縮小の分岐点を上回っており、設備投資への前向きな姿勢が維持されていると述べた。
景気の先行きについて、委員は、今年度半ば頃にかけては、既往の資源高や海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかに回復していく、その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方を共有した。ある委員は、インバウンド需要やサービス消費の増加、供給制約の緩和、人手不足対応を企図した設備投資の増加などが、景気の回復を牽引していくとの見方を示した。この点について、別のある委員は、個人消費の増加の牽引役がペントアップ需要の顕在化から賃上げによる所得増加へと円滑にシフトしていくか、また、IT部門の調整がどういうペースで進捗するか、といった点を、実際のハードデータで確認していく必要があると述べた。この間、一人の委員は、日本経済の成長期待が高まりつつあるとの見方を示した。
輸出や生産について、委員は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。ある委員は、海外主要国において製造業の景況感が低迷する中で、輸出・生産面への下押し圧力が継続する可能性もあると指摘した。
設備投資について、委員は、企業収益が全体として高水準で推移するもとで、緩やかに増加しているとの認識で一致した。一人の委員は、企業の設備投資意欲の底堅さには、低水準の実質金利などの緩和的な金融環境や、高水準の企業収益が寄与しているとの見方を示した。別の委員は、地政学的リスクなどを背景とした生産拠点の国内回帰の動きも、設備投資の拡大を後押しすると見込まれると述べた。
個人消費について、委員は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかに増加しているとの認識で一致した。複数の委員は、日用品などの非耐久財消費で物価上昇が重石となる一方、サービス消費は増加しているとの認識を示した。別の複数の委員は、春先以降、消費者マインド指標が改善していると指摘した。その背景について、これらの委員は、経済活動の正常化に加え、高水準の賃上げの実現を受けた所得改善期待の高まりが寄与しているとの見方を示した。このうち一人の委員は、足もとの株価上昇による影響も含め、マインド指標の改善が企業や家計の前向きな動きの後押しにつながるか注目していると付け加えた。
雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。ある委員は、先週公表したさくらレポート別冊でも示されているとおり、地方も含めて人手不足感は強まっており、これに転職市場拡大といった労働市場流動化も加わって、労働需給の引き締まりと賃金上昇圧力の強まりがみられると述べた。複数の委員は、人手不足などを背景に、賃上げが持続的なものになっていくことが期待されると述べた。一人の委員は、日本型職務給導入への取り組みや来年の賃上げ交渉に向けた状況等を確認するほか、価格転嫁、M&A・事業売却の動向、中小企業の輸出拡大等の企業の稼ぐ力強化の進捗を把握することで、物価上昇に負けない賃金上昇実現の蓋然性の高まりを見極めていく必要があると述べた。
物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小しているものの、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もとは3%台半ばとなっているとの評価で一致した。多くの委員は、足もとの物価上昇率をみると、4月の展望レポートにおける想定よりも幾分上振れ気味で推移しているとの認識を示した。複数の委員は、昨年の輸入物価上昇によるコストプッシュ圧力が大きかった分、価格転嫁の動きが長引いている可能性があると述べた。ある委員は、年度替わり期の消費者物価の強さは財が中心であり、賃金のサービス価格への波及が主因ではない点、物価上昇の主因は引き続きコストプッシュによるものとみられるが、今後、企業の価格設定行動に変化がみられてくるかどうか、注目していると述べた。複数の委員は、引き続き海外要因が大きいが、消費者物価ではサービス価格の上昇ペースが目立つなど、国内要因が強まっているとの見方を示した。何人かの委員は、一部の企業ではあるが、賃上げ原資を確保するために値上げを行う動きがみられていると指摘した。複数の委員は、企業が価格転嫁を進められている背景には、需要の底堅さも寄与しているとの見方を示した。この間、予想物価上昇率について、委員は、上昇したあと、このところ横ばいとなっているとの評価で一致した。ある委員は、足もとの物価の強さによって中長期のインフレ予想に大きな変化が生じている証拠はないが、イールドカーブ・コントロールの運営との関係でも重要な要素であり、今後の展開に注目していると述べた。
物価の先行きについて、委員は、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していく、その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、企業の価格・賃金設定行動などの変化を伴う形で中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、振れを伴いながらも、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとの見方を共有した。複数の委員は、輸入物価は下落しており、前年比マイナスとなっていると指摘した。一人の委員は、物価の先行きの不確実性が高まっており、先行きの物価について、輸入インフレの減衰ペースや国内要因に基づくインフレの立ち上がりの時期と強さによって様々なパスが考えられると述べたうえで、物価上昇率が、先行き2%を下回ることなく、ゆっくりと2%に向かっていくパスを辿る可能性が生じてきたほか、2%を超えた水準で高止まるリスクも無視できないとの認識を示した。そのうえで、この委員は、2%を下回ったあと、そのまま戻らなくなるリスクも引き続き大きいと付け加えた。こうした先行きの物価のパスについて、一人の委員は、消費者物価の上昇率は、今年度半ばにかけて低下していくとみているが、その後、再び上昇率が高まっていくかの不確実性はなお大きく、今後の賃上げの持続性などを見極めていく必要があると述べた。また、別の一人の委員は、消費者物価上昇率は、既往の輸入物価上昇の転嫁が一巡したあと、今年度後半には2%を下回るとの見方を示した。更に別の一人の委員は、引き続き価格転嫁がみられ、先行きの物価が上振れる可能性もあるが、持続性に懸念があるとの認識を示した。他方、ある委員は、原材料価格上昇は一服しているものの、企業の価格転嫁の動きは一段と強まっているほか、雇用・所得環境の改善やインバウンド需要の回復もあり、当面、物価上昇圧力の強い状況が続くとの見解を示した。別の複数の委員は、企業行動に変化がみられ、値上げや賃上げが企業の戦略に組み込まれてきていると指摘した。このうち一人の委員は、基調的なインフレ率を示す各種指標も軒並み2%を超えてきており、物価上昇率は、今年度半ばにかけ低下していくものの、2%を下回らない可能性が高いと述べた。この間、ある委員は、既に生じたコスト高を反映する形ではなく、将来のコスト変化を先取りする形での価格設定行動が広がっているとすれば、従来とは異なる動きであるとの見方を示した。そのうえで、この委員は、足もとが変曲点である可能性もあり、財・サービス別にみた物価の振る舞い、企業のマージン率や収益、家計の物価・賃金動向についての受け止め、値上げを受けた売れ行きの動向など、ミクロ・マクロの情報を幅広くみていくことで、物価上昇の性質を理解することがきわめて重要であるとの認識を示した。
経済・物価の見通しのリスク要因として、委員は、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いとの認識で一致した。また、そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。ある委員は、海外の物価上昇圧力が根強い中で、米欧の金融政策などを巡る不確実性は高く、海外経済の動向とグローバルな金融環境を注視する必要があるとの見方を示した。これに関連して複数の委員は、米国や中国などの海外経済の下振れが、わが国の経済や物価を押し下げるリスクに注意が必要であると指摘した。一方、多くの委員は、足もとの物価動向や企業行動にみられる変化の兆しを踏まえると、当面の物価上昇率が上振れるリスクがあると述べた。一人の委員は、高水準の企業収益を踏まえると、来年の春季労使交渉においても高水準の賃上げが続く可能性もあるとの見方を示した。
2.金融面の動向
わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。また、委員は、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているという見方を共有した。多くの委員は、イールドカーブの歪みが解消し、社債の発行環境にも長期ゾーンを中心に改善の動きがみられるなど、債券市場の機能度は改善しているとの評価を示した。一人の委員は、債券市場の機能が改善している背景には、海外金利の上昇一服の影響のほか、前回の決定会合で金融緩和に関する基本方針を明確化したことを含め、日本銀行の金融緩和姿勢に関する情報発信も寄与しているとの見方を示した。ただし、何人かの委員は、市場の流動性を示す指標や債券市場サーベイの結果などをみると、債券市場の機能度は改善しているとはいえ、水準としてはなお低いと付け加えた。この間、ある委員は、企業の稼ぐ力の強化の取り組みから成長期待が高まりつつあり、地域経済を牽引する企業の資金需要を掘り起こし支える地域銀行の役割に注目していると述べた。
4.金融政策運営に関する委員会の検討の概要
以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。
先行きの金融政策運営の基本的な考え方について、委員は、経済・物価情勢を踏まえると、現行の金融緩和を継続することにより、賃金の上昇を伴う形で「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成することが重要であるとの見解で一致した。多くの委員は、高水準の賃上げや価格転嫁の継続といった、企業の賃金・価格設定行動にみられる変化の動きを、金融緩和を継続することにより支えていくことが適当であるとの認識を示した。このうち一人の委員は、企業の賃金・価格設定行動など、ようやく訪れた日本経済の変化の芽を、金融緩和を継続することで、大切に育てていくことが重要であると述べた。別の一人の委員も、本年の春季労使交渉では約30年振りの賃上げ率となっており、現在の金融緩和の継続を通じて、こうした賃上げのモメンタムを支え続けることが重要であるとの見解を示した。更に別の一人の委員は、中小企業の多くは、価格転嫁継続や輸出拡大等により、賃上げや投資への意欲を高めつつあり、これに水を差すような政策修正は時期尚早であるとの見方を示した。もう一人の委員は、「2%の持続的・安定的な物価上昇」の実現の可能性が高まりつつあるとみているが、待つことのコストは大きくないため、金融緩和全体については当面継続すべきであると述べた。
ある委員は、政策判断に際しては、足もとの物価上昇の性質を理解し、それが先行きの物価見通しにどのように影響するかを見極めたうえで、「2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスク」と「緩和の修正によって2%実現の機会を逸してしまうリスク」を比較衡量することが重要であると述べた。この委員を含む何人かの委員は、長い目でみた物価の下振れリスクが依然大きいもとで、拙速な政策転換を行うことで目標達成の機会を逸してしまうリスクの方が大きいとの見方を示した。ただし、このうち一人の委員は、わが国も、欧米のように、物価上昇の持続性を過小評価している可能性も否定できないため、十分に注意する必要があると付け加えた。ある委員は、副作用に留意しつつ、金融緩和を継続することが適切であると述べた。この委員は、緩和継続が政府や経済界の取り組みとも相俟って賃金・物価の好循環につながれば、財・サービス・労働市場における価格機能の改善が見込まれるとしたうえで、こうした好循環が一定の期間内に見込まれるのであれば、金融市場の価格機能などに及ぼす副作用を考慮しても、効果の方が上回っていると判断されると述べた。別のある委員も、一定の価格上昇が生じることで財市場における相対価格の調整を行いやすくし、マクロ経済全体としての市場機能を改善させる効果と、金融市場の機能に及ぼす副作用とを比較衡量していくことが重要であると指摘した。この間、一人の委員は、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現するためには、コストプッシュによる物価上昇ではなく、賃金上昇を伴う物価上昇が必要であるとの認識を示したうえで、今後賃上げの動きが強まり、物価上昇を上回る賃金上昇が実現することが望ましいと述べた。これを受けて、別の一人の委員は、どの程度の賃金上昇であれば経済・物価全体としてバランスするのか考えておく必要があると指摘した。
長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節上の様々な工夫により、金融市場調節方針に沿って、長期金利はゼロ%程度で推移しているとの認識で一致した。委員は、イールドカーブの歪みの解消が進んだことや市場機能がひと頃と比べて改善していることなどを踏まえると、イールドカーブ・コントロールの運用を現時点で見直す必要はないとの考えを共有した。この間、ある委員は、イールドカーブ・コントロールの運用にあたっては、出口観測が高まった際に金利が急上昇することを極力避ける必要があるとの見解を示した。また、別のある委員は、イールドカーブ・コントロールについては、将来の出口局面における急激な金利変動の回避、市場機能の改善、市場との対話の円滑化といった点を勘案すると、コストが大きいため、早い段階で、その扱いの見直しを検討すべきであると述べた。この委員を含む何人かの委員は、将来イールドカーブ・コントロールを見直す場合には、意図せぬ金融引き締め方向のアナウンスメント効果をもたらすリスクがある点には留意する必要があるとの見解を示した。一人の委員は、イールドカーブ・コントロールの枠組み自体による金利押し下げ効果と、大規模な国債買入れに伴う金利押し下げ効果(ストック効果)とは区別して考える必要があり、仮にイールドカーブ・コントロールを見直すとしても、オーバーシュート型コミットメントのもとで後者のストック効果は残り続けるという点はしっかりと説明していく必要があると述べた。
以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、長短金利操作に関し、その運用を含め、従来の方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。また、長期国債以外の資産の買入れに関しても、委員は、従来の方針を維持することが適当との意見で一致した。
先行きの金融政策運営方針について、委員は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく、との基本方針を共有した。そのうえで、委員は、「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。また、委員は、引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。ある委員は、物価面で変化の兆しがみられることも踏まえると、市場とのコミュニケーションにおいて、「政策は経済・物価情勢次第である」といういわば当然のことをしっかりと伝えていくことが益々重要になっているとの認識を示した。
また、委員は、4月の金融政策決定会合で実施を決定・公表した金融政策の多角的レビューについて議論を行った。委員は、多角的レビューのテーマについて、過去25年間に実施してきた各種の非伝統的金融政策手段の効果について、それぞれの時点における経済・物価情勢との相互関係の中で理解するとともに、副作用を含めて金融市場や金融システムに及ぼした影響についての分析が必要であるとの認識で一致した。更に、委員は、1990年代以降の経済のグローバル化やわが国の少子高齢化といった様々な環境変化が企業や家計の行動や賃金・物価形成メカニズムなどに及ぼした影響、およびその金融政策への含意などについても理解を深めることが重要であるとの認識を共有した。そのうえで、委員は、より具体的な分析のテーマについては、レビューを進める中で柔軟に考えていくことが良いとの見方で一致した。ある委員は、わが国は、1990年代以降、資産デフレに海外からの逆風も加わる中で、非伝統的金融政策のフロンティアに立ってきたことから、その効果と副作用を検証することには大きな意義があるとの見解を示した。
また、委員は、多角的レビューでは、多様な知見を取り入れつつ、客観性や透明性を高める観点から、日本銀行内での分析だけでなく、既存の調査・サーベイ等の活用のほか、本支店でのヒアリング調査、金融経済懇談会での意見交換、公表物に関するパブリック・コメントの実施、更には学者や専門家などを招いたワークショップの開催など、様々な取り組みを行っていくべきとの認識で一致した。一人の委員は、企業経営者、家計、市場参加者といった幅広い主体の意見を尋ねることが重要であるとの見解を示した。別の一人の委員は、企業の成長期待の低迷やそのもとでの支出行動の変化などについて、金融経済懇談会の場などで、企業経営者の考えも聞いてみたいと述べた。この間、複数の委員は、レビューを将来の政策運営に役立つものとするうえでは、政策のプラスの面とマイナスの面を整理するだけではなく、各政策に関する日本銀行としての評価を行っていくことが重要であるとの見解を示した。このうち一人の委員は、過去の金融政策を評価する際の判断基準は経済主体によっても異なり得ると述べたうえで、日本銀行は、あくまで中央銀行としての使命や目標に照らす形で評価を行っていくべきであると述べた。
このほか、レビューに関する情報発信について、一人の委員は、日本銀行のウェブサイトの中に多角的レビュー専用のページを設けたうえで、レビューに関する情報を順次掲載していくことが適当であると述べた。別の一人の委員は、金融政策運営の多角的レビューについては、外部の関心も高いことから、適時適切な形で情報発信を行うことが望ましいと述べた。更に別の一人の委員は、レビューの結果については、学者や専門家だけでなく、広く国民に理解されるように工夫することが重要であると述べた。
以上のレビューに関する議論を踏まえ、議長は、記者会見において、レビューのテーマや進め方に関する現在の考え方について紹介してはどうか、と述べた。委員は、これに対して賛意を示した。
5.政府からの出席者の発言
財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- 政府として、「新しい資本主義」の取り組みを更に加速することで、「成長と分配の好循環」を拡大させるとともに、引き続き、経済・財政一体改革を着実に推進し、新型コロナ対応から平時への移行を図る中で、歳出構造を平時に戻していくことで、経済再生と財政健全化の両立を図っていく。
- 日本銀行には、政府との密接な連携のもと、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。
また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- わが国の景気は、コロナ禍からの社会経済活動の正常化が進み、緩やかに回復している。ただし、海外景気の下振れがわが国の景気を下押しするリスクや、物価上昇、金融資本市場の変動等の影響に十分注意が必要である。
- 政府は、骨太方針2023を策定し、新しい資本主義の実現に向けた取り組みを加速する。
- 外生的な物価上昇から賃金と物価の好循環へつなげ、国内投資の持続的拡大を図ること等により成長と分配の好循環を目指す。こうした取り組みを通じ、デフレに後戻りしないとの認識を広く醸成しデフレ脱却につなげる。
- 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形で2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。
6.採決
1.金融市場調節方針
以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。
採決の結果、全員一致で決定された。
金融市場調節方針に関する議案(議長案)
- 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。
記
- (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
- (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
- 1.に関し、長短金利操作の運用として、長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10年物国債金利について金額を無制限とする0.5%の利回りでの固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)を、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。また、1.の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施すること。
採決の結果
- 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
- 反対:なし
2.資産買入れ方針
議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。
採決の結果、全員一致で決定された。
資産買入れ方針に関する議案(議長案)
長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。
記
- ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
- CP等は、約2兆円の残高を維持する。社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。
採決の結果
- 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
- 反対:なし
3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)
以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。
7.議事要旨の承認
議事要旨(2023年4月27、28日開催分)が全員一致で承認され、6月21日に公表することとされた。
以上
- (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る
別紙
2023年6月16日
日本銀行
当面の金融政策運営について
- 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
- (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(全員一致)
- [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
- 短期金利:
- 日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
- 長期金利:
- 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
- [2]長短金利操作の運用
長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10年物国債金利について0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施する。
- [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
- (2)資産買入れ方針(全員一致)
長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。
- [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
- [2]CP等は、約2兆円の残高を維持する。社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。
- (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(全員一致)
- わが国の景気は、既往の資源高の影響などを受けつつも、持ち直している。海外経済は、回復ペースが鈍化している。そうした影響を受けつつも、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっている。企業収益が全体として高水準で推移するもとで、設備投資は緩やかに増加している。雇用・所得環境は緩やかに改善している。個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかに増加している。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は緩やかに増加している。わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小しているものの、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もとは3%台半ばとなっている。予想物価上昇率は、上昇したあと、このところ横ばいとなっている。
- 先行きのわが国経済を展望すると、今年度半ば頃にかけては、既往の資源高や海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかに回復していくとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。ただし、成長ペースは次第に鈍化していく可能性が高い。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、企業の価格・賃金設定行動などの変化を伴う形で中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、振れを伴いながらも、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみられる。
- リスク要因をみると、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。
- 日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく。
「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。
以上