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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2023年12月18、19日開催分)

2024年1月26日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2024年1月22、23日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2023年12月18日(14:00から16:04)
 
12月19日( 9:00から11:42)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 植田和男 (総裁)
  • 氷見野良三(副総裁)
  • 内田眞一 ( 副総裁 )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 ( 審議委員 )
  • 野口 旭 ( 審議委員 )
  • 中川順子 ( 審議委員 )
  • 高田 創 ( 審議委員 )
  • 田村直樹 ( 審議委員 )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 坂本 基 大臣官房総括審議官
  • 内閣府 井上裕之 内閣府審議官(18日)
  • 茂呂賢吾 大臣官房審議官(経済財政運営担当)(19日9:00から10:38)
  • 新藤義孝 経済財政政策担当大臣(19日10:39から11:42)
(執行部からの報告者)
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 理事 清水誠一
  • 企画局長 正木一博
  • 企画局政策企画課長 長野哲平
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 調査統計局参事役 福永一郎(18日15:26から16:04)
  • 調査統計局経済調査課長 永幡 崇
  • 国際局長 神山一成
(事務局)
  • 政策委員会室長 倉本勝也
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画役 北原 潤
  • 企画局企画役 倉知善行

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節の運営としては、前回会合(10月30、31日)で決定された金融市場調節方針(注)および長短金利操作の運用方針に従って、国債買入れ等を行った。この間、機動的なオペ運営として、債券市場における金利動向や需給動向などを踏まえ、臨時の国債買入れや、定例の国債買入れの減額を実施した。こうした運営のもと、長期金利は金融市場調節方針と整合的に推移したほか、イールドカーブの形状は、引き続き総じてスムーズとなっている。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは-0.027から-0.008%程度、GCレポレートは-0.270から-0.077%程度で推移した。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分上昇した。

わが国の株価(TOPIX)は、上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、前回会合直後に0.9%台半ばとなったあと、米国の長期金利の大幅低下に連れて、0.6%台まで低下した。なお、国債市場の流動性指標をみると、多くの指標で、本年夏場から秋口にかけて改善したあと、足もとでは、改善の動きに一服感がみられている。債券市場サーベイにおける市場の機能度判断DIは、前回調査対比マイナス幅が縮小した。為替相場をみると、米国の長期金利の大幅低下に伴い日米金利差が縮小するもとで、円の対ドル相場は、円高方向の動きとなった。円の対ユーロ相場も、円高方向の動きとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、回復ペースが鈍化している。米国経済は、FRBによる利上げの影響を受けつつも、個人消費を中心に底堅く推移している。欧州経済は、ECBによる利上げ等の影響が続くもとで、緩やかな減速が続いている。中国経済は、外需の減速や不動産市場の調整の影響などから、緩やかな減速傾向が続いているものの、個人消費など一部には持ち直しの動きがみられる。中国以外の新興国・資源国経済は、輸出に持ち直しの動きがみられており、総じてみれば緩やかに改善している。

先行きの海外経済は、当面、回復ペースが鈍化した状態が続くとみられる。その後は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、緩やかに成長していくと考えられる。先行きの見通しを巡っては、各国中央銀行の既往の利上げの影響のほか、中国経済の動向や地政学的緊張の展開などについて、不確実性がきわめて高い。

海外の金融市場をみると、米欧の長期金利は、金融引き締めの長期化や米国債の需給悪化に対する懸念が後退するもとで、米国主導で大幅に低下し、株価は、長期金利の大幅低下を受けて、大幅に上昇した。この間、新興国通貨は、米国長期金利の低下を受けて、幅広い国で上昇した。原油価格は、産油国による協調減産の拡大が見送られたことなどを受けて、下落した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、緩やかに回復している。先行きについては、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果などにも支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる。

輸出や生産は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっており、先行きも、当面は同様の動きが続くとみられる。その後は、海外経済が国・地域ごとにばらつきを伴いつつ緩やかに成長していくもとで、増加基調に復していくと考えられる。

企業収益や業況感は、改善している。こうしたもとで、設備投資は、緩やかな増加傾向にある。先行きの設備投資は、企業収益が改善していくもとで、緩和的な金融環境などを背景に、増加傾向を続けると予想される。

個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかな増加を続けている。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、10月までは、月々の振れを伴いつつも増加傾向にある。企業からの聞き取り調査や高頻度データに基づくと、11月以降の個人消費は、所得環境が改善する中で、ペントアップ需要にも支えられ、緩やかな増加傾向を続けているとみられるものの、物価上昇を受けた節約志向の強まりを指摘する声は徐々に増加している。消費者マインドは、物価高の影響を受けて、改善の動きは一服しているものの、ひと頃と比べると改善した状態が続いている。先行きの個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、行動制限下で積み上がった貯蓄にも支えられて、緩やかな増加を続けると予想される。

雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、振れを伴いながらも緩やかに増加している。非正規雇用は、経済活動が正常化するもとで、卸・小売や対面型サービス業などを中心に緩やかな増加傾向にある。一人当たり名目賃金は、経済活動の回復と春季労使交渉の結果を反映して、緩やかに増加している。先行きの雇用者所得は、名目賃金の伸び率上昇を反映して、はっきりとした増加を続けると考えられる。実質ベースでも、物価上昇率の低下もあって、マイナス幅は縮小傾向をたどり、次第にプラスに転化していくと見込まれる。

物価面について、商品市況は、原油価格が下落している一方、それ以外の商品は総じて横ばい圏内で推移している。国内企業物価の3か月前比は、既往の資源高の影響が徐々に和らぐ中、ゼロ%程度で推移している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小しているものの、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もとは3%程度となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が残ることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられる。その後は、これらの影響の剥落から、前年比のプラス幅は縮小すると予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、緩和した状態にある。

資金需要面をみると、既往の原材料コスト高に起因した運転資金需要が高水準で推移する中、経済活動の回復や企業買収の動きなどを背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、3%台前半となっている。CP・社債計の発行残高の前年比は、2%程度となっている。企業の資金繰りは、良好である。企業倒産は、増加している。

この間、マネタリーベースの前年比は、9%程度となっている。マネーストックの前年比は、2%台前半となっている。

2.金融政策の多角的レビューに関する執行部からの報告および委員会の検討の概要

1.執行部からの報告

金融政策の「多角的レビュー」の一環として、調査統計局では、過去25年の経済・物価情勢を振り返る調査プロジェクトを実施している。

本調査プロジェクトでは、これまでのところ、(1)過去の議論や先行研究を整理するとともに、(2)1990年代後半以降のわが国の経済・物価について、グローバル化の影響、生産性の低迷、交易条件の悪化、人々や社会の物価観(ノルム)といった様々な観点から分析を実施している。以下では、進行中の本調査プロジェクトにおける、現時点での分析結果の概要を報告する。

  • 生産性等について、(1)わが国貿易部門の生産性は、米欧と比べると、グローバル化の恩恵を必ずしも十分に受けてこなかった可能性がある。こうしたもと、(2)わが国貿易部門の競争力が海外対比で相対的に低下したことは、わが国の交易条件の悪化要因になったとみられ、家計所得・消費にもマイナスに作用した。この間、(3)いわゆる「ゾンビ企業」について、近年はその比率が低水準で推移しており、わが国経済の成長を大きく阻害している可能性は低いとみられる。
  • 物価・賃金について、(1)物価・賃金が上がりにくいとの見方は、企業の価格改定コスト(メニューコスト)が高まるもとで次第に社会に定着し、低インフレ環境の長期化により強まったと考えられる。この間、(2)企業は、厳しい競争環境のもとで価格マークアップが縮小する中で、賃金抑制により収益を確保してきたとみられる。また、(3)グローバル化が進展するもとで、海外要因は、足もとの期間を除けば、わが国の消費者物価を継続的に下押しする方向に作用してきた可能性が高い。更に、(4)成長期待と予想物価上昇率の乖離やフィリップス曲線のフラット化が観察されるなど、経済と物価の関係が弱まっていることが窺われる。
  • なお、ここ1から2年は、物価上昇率が高めとなるもとで、長らく続いた物価が上がりにくい状況には変化の兆しが窺われる。具体的には、企業の価格改定頻度が足もと急速に上昇しており、値上げ経験の蓄積を通じて物価が上がりにくいとの見方が解消に向かう可能性がある。また、過去25年間の大半の期間において観察された海外からのコスト低下圧力が、コスト上昇圧力に転じている。ただし、これらの変化の持続性については、今後とも注視していく必要がある。

本調査プロジェクトについては、現在本支店共同で取り組んでいる「1990年代半ば以降の企業行動等に関するアンケート調査」も活用しつつ、引き続き、進めていく考えである。個別の分析については、ワーキングペーパー等で公表することを展望しているほか、ワークショップの場などを活用して、有識者との意見交換を行っていく方針である。

2.委員会の検討

委員は、執行部からの報告を踏まえ、過去25年間の経済・物価情勢、とくに賃金・物価が上がりにくい状況が長期化した背景について議論した。

何人かの委員は、デフレ期に賃金・物価が上がりにくいとのノルムが社会に定着したことが、その後の低インフレの長期化に大きな影響を及ぼしたとの認識を示した。このうち一人の委員は、低インフレ環境が続くと見込まれるもとでは、価格転嫁が行いにくくなり、そのことが一段と物価が上がりにくいとの見方を強めた面があると述べた。別の一人の委員は、金融危機等の大きなショックに直面すると、そのことが企業や家計の行動や適合的期待形成に及ぼす影響は10年単位で長引くということではないか、との見解を述べた。この委員は、足もとでは、長期にわたり粘り強く金融緩和を続けてきたもとで、大幅なコスト上昇というショックが加わったことから、ようやく期待が変化する環境が整いつつあると付け加えた。ある委員は、物価が上がりにくいとのノルムが物価形成に、どのように、どの程度、影響を及ぼしたのか、より詳細に分析する必要があると指摘した。

何人かの委員は、わが国経済の成長力やグローバル環境の変化が、企業行動や物価に及ぼした影響について指摘した。このうちの一人の委員は、グローバル化や人口減少・円高など、企業を取り巻く環境が変化する中で、わが国企業の事業モデルの改革が遅れ、高度成長期に根付いた「労働生産性向上による賃金上昇は量産効果などの企業努力によって吸収するもの」という経営思想が残ったことで、コストカット型経営が定着し、イノベーションと賃金が停滞したとの見方を示した。別の一人の委員は、わが国企業は、従来から厳しい競争環境に晒されており、そうしたもとで生産効率を改善することで、高い国際競争力を確保してきたと指摘した。この委員は、1990年代に入り、こうしたわが国企業が強みとしてきたビジネスモデルが崩れたが、その背景には、急速な為替円高や金融政策が影響したのかどうか、という点にも関心があると述べた。また、一人の委員は、ここ数年のグローバルなインフレ環境の変化が、構造的なものなのか、コロナ禍からの回復過程での一時的なものなのかも重要であると述べた。この委員は、ノルムやグローバルな低インフレ環境が過去の低インフレに強く影響を及ぼしており、これらの構造的な要因が転換しつつあるということならば、今後、2%の「物価安定の目標」を実現し、定着させる蓋然性は従来よりも高いということになると指摘した。

この間、ある委員は、例えば、いわゆる「ゾンビ企業」とわが国経済の成長力の関係などを巡っては、様々な見方があり得ると指摘した。そのうえで、「多角的レビュー」の客観性・透明性を高める観点から、アンケート調査やヒアリング調査、ワークショップや公表物に関するパブリック・コメントなどを通じて、多様な知見を取り込んでいくことが重要であると述べた。別の委員も、低金利が「ゾンビ企業」の問題の一因であったかどうかについては、引き続き確認していく必要があると述べた。そのうえで、この委員は、低金利は幅広い企業に恩恵をもたらすものであり、仮に「ゾンビ企業」を延命させる面があったとしても、金利水準を引き上げるべきだったとはならない、と指摘し、他の様々な措置の影響を含めて、整理する必要があると付け加えた。

これらの議論を踏まえ、委員は、今後の執行部による追加的な分析・考察も踏まえつつ、低インフレ環境が継続してきた背景などについて引き続き議論していくことが適当であるとの認識を共有した。

3.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢

国際金融資本市場について、委員は、米欧の金融政策や世界経済の先行きを巡る不確実性が引き続き意識されているものの、米欧の長期金利の大幅低下を受けて、市場センチメントに改善の動きがみられているとの認識で一致した。ある委員は、米国での利下げについての市場の織り込みは、経済・物価情勢対比で、やや行き過ぎであるようにもみえるとの認識を示した。

海外経済について、委員は、回復ペースが鈍化しているとの認識を共有した。ある委員は、地政学的リスクに起因する不確実性はなお残るが、グローバルにインフレ圧力は緩和する方向にあるとの見解を示した。

米国経済について、委員は、FRBによる利上げの影響を受けつつも、個人消費を中心に底堅く推移しているとの認識で一致した。何人かの委員は、労働需給が幾分緩和する中、物価上昇率は徐々に鈍化していると指摘した。何人かの委員は、そうしたもとで個人消費は底堅く推移しており、米国経済がソフトランディングに向かう可能性は高まっているとの見方を示した。

欧州経済について、委員は、ECBによる利上げ等の影響が続くもとで、緩やかな減速が続いているとの認識を共有した。何人かの委員は、既往の利上げの影響や地政学的リスクの高まりなどを背景に、景気減速感が明確になってきていると指摘した。

中国経済について、委員は、外需の減速や不動産市場の調整の影響などから、緩やかな減速傾向が続いているものの、個人消費など一部には持ち直しの動きがみられるとの見方を共有した。何人かの委員は、不動産市場の低迷や米中対立などを背景に、やや長い目でみた成長モメンタムは低下していると指摘した。もっとも、このうちの一人の委員は、当面は、中国政府が財政政策により経済を下支えする可能性が高いとの見方を示した。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、輸出に持ち直しの動きがみられており、総じてみれば緩やかに改善しているとの認識を共有した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、緩やかに回復しているとの認識で一致した。複数の委員は、7から9月期のGDP統計等に弱さが窺われる点は気がかりだが、短観や決算データを含む様々な統計をみると、物価上昇の影響を受けつつも個人消費は増加しており、企業業績や設備投資計画も堅調であると指摘した。

景気の先行きについて、委員は、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続ける、その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続ける、との認識を共有した。

輸出や生産について、委員は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。

設備投資について、委員は、企業収益や業況感が改善するもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識で一致した。何人かの委員は、一致指標の一部などに弱めの動きはみられるが、短観の設備投資計画の強さなどを踏まえると、企業の積極的な設備投資スタンスは維持されているとの見解を示した。このうちの一人の委員は、大企業の好業績が、仕入れ価格の引き上げを通じて中小企業の収益に波及し、前向きの循環が強まっていくことを期待していると述べたうえで、スタートアップの成長や資金調達規模の拡大のほか、中堅・中小企業において、経営リソースの強化が進み自律性の高い企業へと成長していくことが重要であると付け加えた。

個人消費について、委員は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかな増加を続けているとの認識で一致した。何人かの委員は、実質所得の減少などから、家計の生活防衛的な動きが強まり、非耐久財などの一部に弱めの動きがみられているとの見解を示した。複数の委員は、来春の賃上げが実現するまでの間は、個人消費は、ペントアップ需要や行動制限下で積み上がった貯蓄によって支えられる形となり、勢いを欠く可能性があるとの見方を示した。もっとも、このうちの一人の委員は、先行きの所得増加への期待などから消費者マインドは持ちこたえており、個人消費が落ち込むことも考えにくいと指摘した。別の委員は、賃上げの動きが今後も継続し、所得面から個人消費を支えていけるかがポイントとなると指摘した。

雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。ある委員は、企業収益の改善を反映して、前年を上回る冬季賞与を期待していると述べた。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小しているものの、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もとは3%程度となっているとの認識で一致した。また、委員は、11月の東京都区部の消費者物価(速報)等をみると、既往の輸入物価上昇の価格転嫁の影響が徐々に和らいでいることが、次第に明確になってきているとの認識を共有した。何人かの委員は、食料品等の値上げ品目数が減少するなど、コストプッシュ圧力は一服する方向にあると指摘した。別のある委員は、価格が大幅に上昇している品目の数が減少しており、財などの伸縮的な物価の上昇率が、いったん減速する可能性は高まっているとの見解を示した。委員は、サービス価格等は、緩やかに上昇しているとの見方を共有した。一人の委員は、公共料金と家賃を除いてみたサービス価格は、高い伸びを続けていると指摘した。この間、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの評価で一致した。複数の委員は、短観などにおいて、中小企業を含め企業の価格設定スタンスに変化がみられることにも、予想物価上昇率の緩やかな上昇が窺われると指摘した。

物価の先行きについて、委員は、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が残ることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられる、その後は、これらの影響の剥落から、前年比のプラス幅は縮小する、との見方で一致した。また、委員は、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくとの見方を共有した。この点に関連し、多くの委員は、こうした見通しが実現する確度は、少しずつ高まってきているとの認識を示した。何人かの委員は、賃金の上昇を起点として、賃金と物価の好循環が進展していくシナリオが期待できると指摘した。このうちの一人の委員は、賃金上昇や政府の対策の効果が顕在化するまで、経済、特に個人消費が堅調に推移するか注視していく必要があると述べた。別の委員は、基調的な物価上昇率や予想物価上昇率が高まっていくか見極めるうえで、本年度下期は重要な局面となると指摘した。

委員は、賃金と物価の好循環の強まりの見極めという観点から、賃金動向について議論した。何人かの委員は、2024年の春季労使交渉でしっかりとした賃上げが実現する可能性は高まっているとの見解を示した。このうちの一人の委員は、企業業績、労働需給、物価の実績といった賃金形成に影響を及ぼす諸要因は昨年の同時点より改善し、現時点の賃上げのモメンタムは昨年を上回っており、中小企業を含めて強い期待が持てると指摘した。別の一人の委員は、既往の輸入物価上昇が賃金設定行動に影響を及ぼしているほか、世の中の期待の高まりもあって、多くの企業が賃上げを行う方向に動いており、2024年の賃金上昇率は2023年を上回る可能性が高いと述べた。一方、何人かの委員は、特に地方の中小企業については、収益基盤の弱さなどから、しっかりとした賃上げが実現するか、不確実性が高いとの見方を示した。このうちの複数の委員は、収益や業況感が大幅に改善している業種でも、ベアの引き上げを避ける先がみられるなど、幅広い先で賃上げが実現するか、楽観はできないと述べた。これに対して、ある委員は、コロナ前の局面では、人手不足に対して、不採算サービスの削減や女性・高齢者の労働参加等によって企業は対応したが、最近では、こうした対応余地も縮小しており、企業は人手確保のため賃上げを行わざるを得ない環境にあると指摘した。この委員を含む複数の委員は、価格転嫁の進展もあって、企業収益が改善し労働分配率が低下していることも、賃上げを後押しすると付け加えた。

委員は、賃金上昇の物価への波及についても議論した。複数の委員は、企業の価格設定行動が変化するもと、人件費を価格に転嫁する動きが広がっており、粘着的なサービス価格も、高い伸びが続いているとの見解を示した。また、これらの委員は、価格交渉に関する政府による指針の策定といったサポートも、企業の価格設定に影響を及ぼしていると付け加えた。これに対して、何人かの委員は、賃金上昇のサービス価格への転嫁については、企業からは引き続き難しいという声が多く聞かれると指摘した。このうちの一人の委員は、統計上も、上昇が目立つのは宿泊費が中心であり、消費者物価全体へのサービスの寄与は1%程度にとどまると付け加えた。別の一人の委員は、価格設定を巡る既存の制度や慣行によって価格の引き上げが難しくなっている事例もみられており、そのことが賃金と物価の好循環を妨げることがないか注意が必要であると述べた。これらの点に関連し、ある委員は、コスト上昇を生産性向上で吸収することが製造業対比で難しいサービス業において、人件費の価格転嫁が進んでいくかに注目していく必要があると指摘した。この間、一人の委員は、人件費上昇は量産効果などの企業努力で吸収すべきとの高度成長期の考えが根強く、賃上げの価格転嫁には顧客満足度向上が必要なため、能力開発や人材・研究開発投資が重要との見解を示した。

経済・物価の見通しのリスク要因として、委員は、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高いとの認識で一致した。また、委員は、そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。ある委員は、海外経済を巡っては、引き続き米国の経済金融情勢に大きな関心を寄せていると述べた。別のある委員は、グローバル化の巻き戻しや地政学的リスクなど海外経済を巡る不確実性は高まっているとの認識を示した。複数の委員は、中国経済について、不動産セクターを巡る不確実性が高いと指摘した。このうちの一人の委員は、潜在成長率が高い中国ではマクロ経済政策による対応余地は大きいが、政府が長期的な社会の安定を優先しているように窺われるもとで、不動産セクター等への財政支援が不十分なものにとどまるリスクもあると付け加えた。ある委員は、わが国企業において、円高や海外経済減速に伴う操業度低下への対応としてコスト抑制策の強化が採られると、賃上げ・投資意欲が低下する可能性があると指摘したうえで、中小企業を含む業績計画や経営方針を注視していると述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。また、委員は、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているという見方を共有した。複数の委員は、債券市場の機能度等について、引き続き、改善する方向にあるとの認識を示した。こうしたもとで、ある委員は、社債市場は良好な発行環境を維持しているとの見解を述べた。ただし、別のある委員は、投資家の金利先高観が強まるもとで、社債市場では、長期での市場調達がやや難しい状況にあると述べた。

4.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

先行きの金融政策運営の基本的な考え方について、委員は、現時点では、賃金の上昇を伴う形での「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を十分な確度をもって見通せる状況には、なお至っておらず、イールドカーブ・コントロールのもとで、粘り強く金融緩和を継続することで、経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていく必要があるとの見解で一致した。何人かの委員は、現時点では、「物価安定の目標」の実現の観点から、需要や賃金の動向を見極めることが肝要であるとの見解を示した。一人の委員は、人手不足を背景とする経済・賃金構造の変化を後押しするため、現在の金融緩和を継続するべきであると述べた。

多くの委員は、マイナス金利やイールドカーブ・コントロールの枠組みの解除を検討するためには、賃金と物価の好循環を確認し、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現が見通せるようになる必要があると改めて指摘した。何人かの委員は、その見極めは、労使交渉での賃上げ率や各種指標といった特定の数値で行うものではなく、総合的な判断が必要になるとの見解を示した。また、見極めていく時期について、委員は、今後の各会合で、その時々に得られる様々なデータや情報に基づいて、判断していくことになるとの認識で一致した。この点に関し、何人かの委員は、現時点では、急いで利上げをしないとビハインド・ザ・カーブに陥ってしまうという状況にはないと考えられるとしたうえで、来春の労使交渉の動向をみてから判断しても遅くはないと述べた。このうちの一人の委員は、これまで賃金上昇率が物価上昇率に追いついてこなかったことを考えると、2024年の賃上げが予想よりかなり上振れたとしても、そのことで、賃金と物価の循環が強まりすぎ、基調的な物価上昇率が2%を大きく上回ってしまうリスクは小さいとの見解を示した。別の一人の委員は、2021年時点の米国とは異なり、現在のわが国では物価への強い上昇圧力は落ち着きつつあり、じっくりと賃金・物価動向を見極めることが重要であると付け加えた。また、もう一人の委員は、前回会合でのイールドカーブ・コントロールの運用柔軟化により副作用が生じにくくなっていることも踏まえると、賃金と物価の好循環の強まりの見極めは、十分な余裕をもって行うことができるとの見方を示した。これに対して、別の何人かの委員は、出口を見据え、イールドカーブ・コントロールやマイナス金利政策について、その副作用や市場への影響も踏まえつつ、その在り方を検討していく必要があると指摘した。このうちの一人の委員は、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現の確度は更に高まってきており、金融正常化のタイミングは近づいていると指摘したうえで、慎重に確認を重ねた結果、物価高が消費の基調を壊し、目標の実現を損なうリスクを避けるためにも、タイミングを逃さず政策の修正を図るべきであると述べた。この委員は、物価が過度に上振れて、急激な金融引き締めが必要となるリスクは小さいが、そのリスクが顕在化した場合のコストは甚大であることも認識しておく必要があると付け加えた。

委員は、マイナス金利やイールドカーブ・コントロールの枠組みの解除を検討する際、どのような手段をどのような順序で用いるのが適当かについては、その時点での経済・物価・金融情勢を踏まえて判断していく必要があるとの認識を共有した。そのうえで、複数の委員は、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を見通せる状況に至ったあとも、長期金利の不安定化を避けるための緩やかな枠組みは残しておくことも考え得ると指摘した。一人の委員は、マイナス金利の解除は、プラス圏での短期金利の引き上げとは異なる面があると指摘したうえで、必ずしも2016年のマイナス金利導入時の逆の変化が起きるわけではないことも念頭に置きつつ、生じ得る影響を分析しておく必要があるとの見解を示した。この間、ある委員は、日本銀行は、多額の国債を保有し、市場の金利リスク量の多くを抱えるだけに、出口での政策運営能力への信認維持という観点からも、中央銀行のバランスシートや収益変化のメカニズムについて情報発信することが重要であると述べた。

委員は、やや長い目でみた政策運営についても議論を行った。複数の委員は、マイナス金利やイールドカーブ・コントロールの枠組みを解除したあとも、当面は大幅な金融緩和を継続していく可能性が高いとの見解を示した。このうちの一人の委員は、緩和度合いを幾分調整しつつ、緩和的な金融環境を持続していくことが重要であると指摘した。この点に関連し、一人の委員は、「『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する」という現在の政策運営方針は、一定の政策の修正を行っても目標の実現が見通せる場合には修正を許容するものであり、政策変更後に急速な金利引き上げ等を実施せねばならなくなるまで現在の政策を継続することを意味するわけではないと述べた。

これらの討議を踏まえ、委員は、今後の賃金・物価動向との関連を意識しながら、出口のタイミングやその後の適切な利上げのペース等について、引き続き議論を深めていくことが重要であるとの認識を共有した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合でさらに柔軟化した方針に従ってイールドカーブ・コントロールが運用されるもとで、長期金利は、金融市場調節方針と整合的に推移しているとの認識で一致した。一人の委員は、前回会合で決定した柔軟化について、長期金利が比較的安定して推移し、イールドカーブもスムーズとなっていることなどを踏まえると、所期の効果を達成していると評価した。ある委員は、この間実施された国債買入れ額の減額について、市場からは、流動性の回復に資するものと評価する声が多く聞かれると述べた。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、従来の方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。また、長短金利操作の運用に関して、委員は、従来の運用を維持することが適当であるとの認識を共有した。

長期国債以外の資産の買入れに関して、委員は、従来の方針を維持することが適当との意見で一致した。ある委員は、経済・物価情勢が改善傾向にあることを踏まえると、今後、長期国債以外の資産買入れの取り扱いについても、市場への影響にも配慮しつつ検討すべきであるとの見解を示した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく、との基本方針を共有した。そのうえで、委員は、「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。また、委員は、引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。

5.政府からの出席者の発言

内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済は、緩やかな回復基調にあり、新たなステージに移行する千載一遇のチャンスを迎えている。他方、賃金上昇が物価上昇に追い付いていないもとで、民需は力強さを欠いており、放置すれば、再びデフレに戻りかねない。また、供給面では、潜在成長率が0%台半ばの低水準にとどまっている。
  • 総合経済対策により、物価高から国民生活を守り、賃上げの流れを継続・拡大する。また、供給力強化を通じ潜在成長率を引き上げ、賃上げを持続的なものとする。フロンティア開拓、新技術の社会実装等により、人口減少下でも持続的に成長できる経済を構築する。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形での2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向け、適切な金融政策運営を行うことを期待する。

また、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 政府としては、先般、総合経済対策を実行するための補正予算が成立した。来年度予算は、現在、大詰め作業を進めているところである。
  • 来年度の税制改正については、14日に与党において税制改正大綱がとりまとめられたところ、政府としても適切に対応したい。
  • 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。

6.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

2.長短金利操作の運用

議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、長短金利操作の運用について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

長短金利操作の運用に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの長短金利操作の運用を下記のとおりとすること。

長期金利の上限は1.0%を目途とし、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)、共通担保資金供給オペレーションなどを実施する。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

3.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等は、約2兆円の残高を維持する。社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

4.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.議事要旨の承認

議事要旨(2023年10月30、31日開催分)が全員一致で承認され、12月22日に公表することとされた。

以上


  • (注)短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    • 長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。本文に戻る

別紙

2023年12月19日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする(全員一致)。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]長短金利操作の運用(全員一致)

        長期金利の上限は1.0%を目途とし、上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ1、共通担保資金供給オペなどを実施する。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等は、約2兆円の残高を維持する。社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。
  2. わが国の景気は、緩やかに回復している。海外経済は、回復ペースが鈍化している。そうした影響を受けつつも、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっている。企業収益や業況感は改善している。こうしたもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。雇用・所得環境は緩やかに改善している。個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかな増加を続けている。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小しているものの、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もとは3%程度となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。
  3. 先行きのわが国経済を展望すると、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が残ることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられる。その後は、これらの影響の剥落から、前年比のプラス幅は縮小すると予想される。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくと考えられる。
  4. リスク要因をみると、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。
  5. 日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく。

    「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。

以上


  1. 指値オペの利回りは、金利の実勢等を踏まえて、適宜決定する。本文に戻る