政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2024年1月22、23日開催分)
2024年3月25日
日本銀行
本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2024年3月18、19日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。
開催要領
- 1.開催日時:
- 2024年1月22日(14:00から16:17)
- 1月23日( 9:00から12:02)
- 2.場所:
- 日本銀行本店
- 3.出席委員:
- 議長 植田和男 (総裁)
- 氷見野良三(副総裁)
- 内田眞一 ( 副総裁 )
- 安達誠司 (審議委員)
- 中村豊明 ( 審議委員 )
- 野口 旭 ( 審議委員 )
- 中川順子 ( 審議委員 )
- 高田 創 ( 審議委員 )
- 田村直樹 ( 審議委員 )
- 4.政府からの出席者:
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- 財務省 坂本 基 大臣官房総括審議官(22日)
- 赤澤亮正 財務副大臣(23日)
- 内閣府 井上裕之 内閣府審議官(22日)
- 井林辰憲 内閣府副大臣(23日)
- (執行部からの報告者)
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- 理事 清水季子
- 理事 貝塚正彰
- 理事 高口博英
- 理事 清水誠一
- 企画局長 正木一博
- 企画局審議役 飯島浩太(22日15:13から16:17)
- 企画局政策企画課長 長野哲平
- 企画局政策調査課長 開発壮平(22日15:13から16:17)
- 金融機構局長 中村康治
- 金融市場局長 藤田研二
- 調査統計局長 大谷 聡
- 調査統計局経済調査課長 永幡 崇
- 国際局長 神山一成
- (事務局)
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- 政策委員会室長 倉本勝也
- 政策委員会室企画役 木下尊生
- 企画局企画調整課長 土川 顕(22日15:13から16:17)
- 企画局企画役 安藤雅俊
- 企画局企画役 丸尾優士
- 企画局企画役 北原 潤
1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節の運営としては、前回会合(12月18、19日)で決定された金融市場調節方針(注)および長短金利操作の運用方針に従って、国債買入れ等を行った。この間、機動的なオペ運営として、債券市場における金利動向や需給動向などを踏まえ、定例の国債買入れの減額などを実施した。こうした運営のもと、長期金利は金融市場調節方針と整合的に推移したほか、イールドカーブの形状は、引き続き総じてスムーズとなっている。
前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。
2.金融・為替市場動向
短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは-0.039から-0.009%程度、GCレポレートは-0.207から-0.087%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、横ばい圏内で推移した。
わが国の株価(TOPIX)は、為替円安や新NISA制度の開始に伴う株式市場への資金流入期待などを背景に、海外勢を中心とした追随買いを巻き込みながら上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、0.555から0.665%程度と小幅に低下した。国債市場の流動性指標をみると、昨年12月中は、悪化したものの、1月入り後の状況が確認できる長期国債先物の値幅・出来高比率をみると、改善方向に動いている。為替相場をみると、日米金利差が意識されるもとで、円の対ドル相場は、円安方向の動きとなった。円の対ユーロ相場も、円安方向の動きとなった。
3.海外金融経済情勢
海外経済は、回復ペースが鈍化している。米国経済は、FRBによる利上げの影響を受けつつも、個人消費を中心に底堅く推移している。欧州経済は、ECBによる利上げ等の影響が続くもとで、緩やかな減速が続いている。中国経済は、外需の減速や不動産市場の調整の影響などから、緩やかな減速傾向が続いているものの、個人消費など一部には持ち直しの動きがみられる。中国以外の新興国・資源国経済は、輸出に持ち直しの動きがみられており、総じてみれば緩やかに改善している。
先行きの海外経済は、当面、回復ペースが鈍化した状態が続くとみられる。その後は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、緩やかに成長していくと考えられる。先行きの見通しを巡っては、各国中央銀行の既往の利上げの影響のほか、中国経済の動向や地政学的緊張の展開などについて、不確実性がきわめて高い。
海外の金融市場をみると、米国では、長期金利は、上昇し、株価は、概ね横ばいで推移した。欧州の長期金利も、域内での活発な起債などを受けて、上昇した。欧州株価は、概ね横ばいで推移した。この間、新興国通貨、原油価格は、概ね横ばい圏内で推移した。
4.国内金融経済情勢
(1)実体経済
わが国の景気は、緩やかに回復している。先行きについては、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果などにも支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる。この間、令和6年能登半島地震の影響についてみると、地震発生後は、現地工場で年初の生産停止期間を延長するといった動きもみられたが、その後、生産再開に向けた動きが進んでいる。今後、地元の観光業等に及ぼす影響や、家計・企業のマインドへの影響などについて、確認していく必要がある。
輸出や生産は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、横ばい圏内の動きとなっており、先行きも、当面は同様の動きが続くとみられる。その後は、海外経済が国・地域ごとにばらつきを伴いつつ緩やかに成長していくもとで、増加基調に復していくと考えられる。
企業収益や業況感は、改善している。こうしたもとで、設備投資は、緩やかな増加傾向にある。先行きの設備投資は、企業収益の改善や緩和的な金融環境などを背景に、増加傾向を続けると予想される。
個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかな増加を続けている。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、7から9月に猛暑による季節商材の販売押し上げもあって増加したあと、物価高の影響に加えて、天候要因等が重なったことから、10から11月は減少した。企業からの聞き取り調査や高頻度データに基づくと、12月以降の個人消費は、物価上昇を受けた消費者の強い節約志向は引き続き指摘されているものの、年末年始の宴会・旅行需要や初売りの堅調さもあって、緩やかな増加のメカニズムは崩れていないとみられる。消費者マインドも、足もと改善の動きがみられている。先行きの個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、行動制限下で積み上がった貯蓄にも支えられて、緩やかな増加を続けると予想される。
雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、振れを伴いながらも緩やかな増加傾向にある。非正規雇用は、経済活動が正常化するもとで、卸・小売や対面型サービス業などを中心に、緩やかに増加している。一人当たり名目賃金は、経済活動の回復と昨年の春季労使交渉の結果を反映して、緩やかに増加している。先行きの雇用者所得は、名目賃金の伸び率上昇を反映して、はっきりとした増加を続けると考えられる。実質ベースでも、マイナス幅は縮小傾向をたどり、次第にプラスに転化していくと見込まれる。
物価面について、商品市況は、横ばい圏内で推移している。国内企業物価の3か月前比は、昨年夏場の原油価格上昇の影響などから、足もとでは小幅のプラスとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策もあってエネルギー価格の寄与は大きめのマイナスとなっているものの、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰しつつも残るもとで、サービス価格の緩やかな上昇も受けて、足もとは2%台前半となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰するもとで、政府の経済対策の反動がみられることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられる。
(2)金融環境
わが国の金融環境は、緩和した状態にある。
資金需要面をみると、既往の原材料コスト高に起因した運転資金需要が高水準で推移する中、経済活動の回復や企業買収の動きなどを背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、3%台半ばとなっている。CP・社債計の発行残高の前年比は、1%台半ばとなっている。企業の資金繰りは、良好である。企業倒産は、増加している。
この間、マネタリーベースの前年比は、8%程度となっている。マネーストックの前年比は、2%台前半となっている。
(3)金融システム
わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。令和6年能登半島地震の影響についてみると、現地では、ATMの停止や営業を休止する店舗が生じているが、決済システムや決済ネットワーク、金融機関の資金繰りへの影響は生じていない。今後、復興に関連する資金の動きなどについて、確認していく必要がある。
大手行の収益は、貸出金利息や手数料収入の増加などを背景に、堅調に推移している。この間、信用コストは、総じてみれば低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。
地域銀行の収益は、投信解約益の剥落などから前年に比べて減少しているものの、貸出残高の増勢が続くもとで、堅調に推移している。この間、信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。
金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標が、過熱でも停滞でもない状態となっている。全体としては実物投資の過熱や資産価格の過度な上昇は観察されず、金融活動に過熱感はみられない。ただし、不動産市場については、一部の指標で強めの動きがみられている。金融活動が実体経済活動から大きく乖離することがないか、引き続き注視する必要がある。
2.金融政策の多角的レビューに関する執行部からの報告および委員会の検討の概要
1.執行部からの報告
金融政策の「多角的レビュー」の一環として、関係各局で連携して、過去25年間の非伝統的金融政策の効果・副作用を振り返る調査プロジェクトを実施している。
以下では、進行中の本調査プロジェクトのうち、企画局から、(1)過去25年間の金融政策を振り返るとともに、(2)非伝統的金融政策の効果と副作用に関する学界・中央銀行関係者の議論の整理や、経済・物価に及ぼした影響についての分析結果、(3)個別政策手段に関する議論と考慮すべき課題・論点について、報告する。なお、この間の非伝統的金融政策が、金融市場や金融機関の行動・金融システムに及ぼした影響については、別途、報告する。
- 過去25年間を、不良債権問題が経済の下押し要因となっていた1999年から2006年までの局面(1)、世界金融危機の影響を受けた2008年から2012年までの局面(2)、デフレ対応が強化された2013年以降の局面(3)の3つに分け、各局面における金融緩和の度合いを確認した。局面(1)や(2)では、期間を通してみれば、緩和度は高まる傾向にあったが、インフレ予想の低下に伴い実質金利が上昇するもとで緩和度が低下する時期もみられた。局面(3)では、インフレ予想の高まりや長短の名目金利の低下により、局面(1)や(2)と比べて、緩和度ははっきりと高まって推移した。
- 学界・中央銀行関係者の議論をみると、国内外で非伝統的金融政策の緩和効果を指摘する研究が多いが、効果の不確実性の大きさを指摘する研究も存在する。また、経済・物価・金融システム等に副作用をもたらし、それが金融政策の有効性を阻害する可能性についても指摘されている。
- 今回、新たに実施した反実仮想分析では、非伝統的金融政策には一定の緩和効果があり、とりわけ局面(3)では、デフレではない状況を作り出すことに寄与したことが示唆された。今後、インフレ予想の形成メカニズムなどについても理解を深め、総合的に分析していく。
- 非伝統的金融政策の緩和効果は、多岐にわたる政策手段を組み合わせることによってもたらされる。個々の手段の採用については、各手段の効果と金融市場・金融システムなどに及ぼしうる副作用のバランスを点検したうえで、判断していく必要がある。具体的な政策手段の在り方については、幅広い観点で進められている分析・サーベイを踏まえて、議論を深めていく。
本調査プロジェクトの個別の分析については、ワーキングペーパー等で公表することを展望しているほか、ワークショップの場などを活用して、有識者との意見交換を行っていく方針である。
2.委員会の検討
委員は、執行部からの報告を踏まえ、非伝統的金融政策の効果・副作用について議論した。
非伝統的金融政策の効果について、多くの委員は、今回新たに実施した反実仮想分析等も踏まえると、とくに2013年の量的・質的金融緩和導入以降、経済・物価をしっかりと押し上げる方向に作用したと考えられるとの見解を示した。このうちの一人の委員は、今回の分析結果は、過去のマクロ経済モデルを用いたシミュレーション結果と概ね整合的であり、頑健性があると付け加えた。別のある委員は、非伝統的金融政策の名目長期金利引き下げ効果は明らかだが、インフレ予想に及ぼした影響については、賃金・物価が上がりにくいとの見方が根強いもとで、不十分だった可能性があると指摘した。この点に関連して、複数の委員は、世界的なインフレや、わが国の労働市場の引き締まりなどの状況変化を受けて、時間を要したが、最近になってインフレ予想への影響が表れつつある点も考慮する必要があるとの認識を示した。別の一人の委員は、量的・質的金融緩和の導入によって金融政策のレジームが変わったと言えるのか、またそのことが政策効果を強めたのか、といったことも論点であると述べた。この間、ある委員は、家計や企業が貯蓄超過主体となる中、実質金利の限界的な低下のプラス効果は僅かなものに止まったと思っているが、実際どの程度の効果があったのか、分析・説明が必要であるとの見解を示した。また、別の一人の委員は、株式や為替市場を通じた金融政策の波及への言及や、マネタリーベースや期待を重視した政策への評価も必要との見解を示した。
何人かの委員は、非伝統的金融政策が長期にわたり実施されてきたもとで、その累積的な影響を評価する視点も重要との見解を示した。このうちの一人の委員は、長期にわたる緩和は、短期的な需要創出効果のみではなく、履歴効果等を通じ経済の成長力にプラスの影響を及ぼした可能性がある一方、金融システム等への構造的な副作用を通じて成長経路を引き下げた可能性もあると指摘した。また、複数の委員は、政策の効果と副作用の比較は、先行き正常化を進める過程で生じうるコストも勘案したうえで行う必要性があるとの見解を示した。このうちの一人の委員は、非伝統的金融政策の各施策をひとまとめにして評価するだけではなく、個々の施策について効果と副作用をみていくことが重要であると述べた。
副作用に関連して、何人かの委員は、非伝統的金融政策が、金融市場や金融機関にマイナスの影響を及ぼした面はあり、今後、この点について評価していくことも必要であると指摘した。このうちの一人の委員は、利ざやが圧迫されるもとで、銀行はモニタリングにコストのかかるリスクテイクに消極的となり、主として不動産関連融資が伸びる構造となったと指摘した。また、別の一人の委員は、非伝統的金融政策の継続が、生産性の低いビジネスや企業の温存や、財政赤字の拡大に影響したと考えられると述べた。これに対して、一人の委員は、低金利環境によって政府債務を拡大する余地が広がった可能性はあるが、その余地を使うか否かは政府・国会の判断であるほか、当時の経済・物価情勢下で積極的な財政政策が不要だったとは限らないと指摘した。ある委員は、仮に非伝統的金融政策を導入しなかった場合、経済活動はより低い水準で推移していたと想定され、そうした状況のもとでの方が、生産性上昇等による成長力の向上や財政状況の改善が進んだとは考えにくいとの見方を示した。
これらの議論を踏まえ、委員は、今後の執行部による追加的な分析・考察も踏まえつつ、非伝統的金融政策の効果・副作用について引き続き議論していくことが適当であるとの認識を共有した。
3.貸出増加支援資金供給の延長
1.執行部からの説明
貸出増加支援資金供給の利用残高は、増加を続けており、本資金供給は、引き続き、金融環境を緩和的なものとすることに貢献している。こうした状況を踏まえると、「貸出支援基金運営基本要領」の一部改正等を行い、本資金供給を1年間延長することが適当と考えられる。
2.委員会の検討・採決
採決の結果、上記案件について全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。
4.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要
1.経済・物価情勢の現状
国際金融資本市場について、委員は、世界経済の先行きを巡る不確実性が引き続き意識されているものの、市場センチメントは昨年秋頃に比べて改善した状態が続いているとの認識で一致した。一人の委員は、米国金利はこのところ上昇しているものの、市場は依然としてFRBの見通し以上に速いペースで米国の利下げが進むことを織り込んでいる点には注意が必要であると述べた。
海外経済について、委員は、回復ペースが鈍化しているとの認識を共有した。
米国経済について、委員は、FRBによる利上げの影響を受けつつも、個人消費を中心に底堅く推移しているとの認識で一致した。多くの委員は、物価等を巡る情勢の不透明さは残るものの、米国の経済指標は個人消費を中心に総じて底堅く、ソフトランディング期待が高まっていると指摘した。
欧州経済について、委員は、ECBによる利上げ等の影響が続くもとで、緩やかな減速が続いているとの認識を共有した。何人かの委員は、中国向け輸出の弱さなども、景気の減速要因となっているとの見方を示した。
中国経済について、委員は、外需の減速や不動産市場の調整の影響などから、緩やかな減速傾向が続いているものの、個人消費など一部には持ち直しの動きがみられるとの見方を共有した。何人かの委員 は、政府の政策対応の拡大もあって、足もとでは景気の減速傾向に歯止めがかかっているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、先行きも、政府が財政政策により経済を下支えする可能性が高いと付け加えた。そのうえで、複数の委員は、中国経済は、不動産市場を始めとした様々な構造的な問題を抱えており、その根本的な解決が重要であるとの考えを示した。
中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、輸出に持ち直しの動きがみられており、総じてみれば緩やかに改善しているとの認識を共有した。
わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。また、委員は、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているという見方を共有した。
以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。
わが国の景気について、委員は、緩やかに回復しているとの認識で一致した。
輸出や生産について、委員は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。ある委員は、IT関連の外需の底打ちはみられるものの、現時点ではその反発力は弱いと指摘した。一人の委員は、個別企業・業種に特有の事情によるところは大きいものの、企業の生産計画の下方修正が続いている点は気がかりであると述べた。
設備投資について、委員は、企業収益や業況感が改善するもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識で一致した。一人の委員は、投資の進捗が計画対比でやや遅れている背景として、海外経済の上下双方向の不確実性の高さもあって、多くの企業が投資を躊躇している可能性があるとの見方を示した。一方、ある委員は、既往の資材価格上昇が足もとで落ち着いてきたことを受けて、先延ばししていた設備投資計画を再開する動きもみられると指摘した。また、別の一人の委員は、低水準の実質金利や高水準の収益に支えられ、企業の業況感や投資意欲が改善している流れに変わりはないとの見方を示した。
個人消費について、委員は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかな増加を続けているとの認識で一致した。何人かの委員は、足もと公表されている個人消費の関連指標が、やや弱めである点を指摘した。ある委員は、物価上昇を受けた生活防衛的な行動が強まっているとの声も聞かれると指摘した。そのうえで、複数の委員は、足もとのヒアリング情報によるとサービス消費を中心に堅調であるほか、マインド指標には改善の動きもみられていると述べた。こうした動きの背景として、一人の委員は、物価が上昇する中でも、雇用・所得環境は緩やかに改善しているほか、政府による物価対策など諸施策の効果も表れているとの見解を示した。
雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。ある委員は、雇用者数の増加を受けて、名目雇用者所得は、賃金以上に増加していると指摘した。
物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策もあってエネルギー価格の寄与は大きめのマイナスとなっているものの、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰しつつも残るもとで、サービス価格の緩やかな上昇も受けて、足もとは2%台前半となっているとの認識で一致した。何人かの委員は、財価格の上昇率低下が次第に明確になってきている一方、賃金上昇率の高まりなどを受けて、サービス価格は緩やかに上昇していると指摘した。この間、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの見方で一致した。一人の委員は、物価上昇率が低下するもとでも、家計・企業・エコノミストの中長期の予想物価上昇率の上昇傾向は続いていると指摘したうえで、量的・質的金融緩和導入から10年が経過するもと、予想物価上昇率に明確な変化が表れてきたとの認識を示した。ある委員は、インフレ予想の指標に加え、トレンドインフレ率の各種の試算値も上昇してきていると指摘した。
2.経済・物価情勢の展望
2024年1月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、わが国経済について、当面、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果などにも支えられて、緩やかな回復を続ける、その後については、ペントアップ需要や経済対策の効果は和らいでいくものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが経済全体で徐々に強まっていく中で、潜在成長率を上回る成長を続ける、との認識を共有した。令和6年能登半島地震の影響について、多くの委員は、まずは被災地での生活インフラの復旧が進んでいくことが望まれるとしたうえで、今後、経済に及ぼす影響についても、丹念に調査・分析していく必要があるとの認識を示した。ある委員は、わが国のサプライチェーン全体が今回の地震で甚大な影響を受ける可能性は大きくはないとみられるが、家計・企業のマインドや観光業等への影響については確認に少し時間を要するため、注視していく必要があるとの見解を示した。別の一人の委員は、地震がマクロ経済に与える影響は限られる可能性が高いと述べた。
わが国の輸出や生産について、委員は、当面、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けて横ばい圏内で推移したあと、海外経済が国・地域ごとにばらつきを伴いつつ緩やかに成長していくもとで、グローバルなIT関連財の持ち直しなどから、増加基調に復していくとの見方で一致した。また、サービス輸出であるインバウンド需要は、増加を続けるとの見方を共有した。一人の委員は、生産に関しては、当面、自動車関連の堅調さを中心とした展開が予想されるものの、来年度後半頃からは、欧米の利下げサイクルへの移行や中国での経済対策の本格化を背景に、回復基調を強めていくとの見方を示した。ある委員は、わが国の経済は、効率重視モデルから付加価値重視モデルへの転換が遅れており、低付加価値構造から抜け出せていないと指摘したうえで、新たな輸出産業の育成、中堅企業および比較的規模の大きな中小企業の成長、ユニコーン創出・強化に繋がるスタートアップの躍進が重要であるとの見解を示した。
設備投資について、委員は、企業収益が改善を続けるもとで、緩和的な金融環境が下支えとなる中、人手不足対応やデジタル関連の投資、成長分野・脱炭素化関連の研究開発投資、サプライチェーンの強靱化に向けた投資を含め、増加傾向を続けるとの見方で一致した。
個人消費について、委員は、当面、物価上昇の影響を受けつつも、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられたペントアップ需要の顕在化に加え、賃金上昇率の高まりなどを背景としたマインドの改善などに支えられて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。また、その後についても、ペントアップ需要の顕在化ペースの鈍化や政府の各種施策による下支え効果の減衰の影響を受けつつも、雇用者所得の増加に支えられて、個人消費は緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。ある委員は、個人消費は、緩やかかつ安定的な増加トレンドに移行しつつあるとの認識を示した。この間、一人の委員は、実質賃金のマイナス継続や貯蓄率の低下などを踏まえると、個人消費が伸び悩む恐れがあるとの見解を示した。
雇用者所得について、委員は、雇用は増加を続けるが、これまで女性や高齢者の労働参加が相応に進んできた中で、追加的な労働供給が見込みにくくなってくるため、その増加ペースは徐々に緩やかになっていくとの見方を共有した。もっとも、このことは、景気回復の過程で、労働需給の引き締まりを強める方向に作用し、そのもとで、賃金上昇率は、物価上昇も反映する形で基調的に高まっていくとみられることから、雇用者所得は増加を続けるとの見方を共有した。
こうした議論を経て、委員は、中心的な成長率の見通しは、昨年10月の展望レポート時点と比べると、2023年度が設備投資の実績の下振れ等を反映する形で幾分下振れ、2024年度は幾分上振れているが、先行きの景気展開に対する基本的な見方に変化はないとの認識を共有した。
続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比について、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰するもとで、政府による経済対策の反動がみられることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられる、その後、2025年度については、これらの影響の剥落から、前年比のプラス幅は縮小するとの見方で一致した。また、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、見通し期間終盤にかけて「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくとの見方を共有した。
委員は、こうした中心的な物価の見通しを、昨年10月の展望レポート時点と比べると、2024年度は、このところの原油価格下落の影響を主因に、下振れているとの認識を共有した。ある委員は、物価の基調の見方は、10月時点から変化していないと付け加えた。
そのうえで、委員は、こうした消費者物価の基調的な上昇率が「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていく見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっているとの見方を共有した。一人の委員は、不確実性はあるものの、「物価安定の目標」の実現が見通せる状況になってきたと述べた。また、ある委員は、前回会合以降のデータ等をみると、(1)中小企業も含めて賃上げに期待が持てる、(2)人件費上昇を受けてサービス価格も高い伸びを続けている、ことから賃金と物価の好循環実現の確度は更に着実に高まったと捉えられるとの見方を示した。これに対して、何人かの委員は、サービス価格の上昇等を踏まえると、賃金上昇に伴う物価上昇圧力は高まりつつあるとみられるが、「物価安定の目標」の実現が十分な確度をもって見通せる状況にまでは至っていないと指摘した。このうちの一人の委員は、賃金と物価の好循環が一段と強まっていくか、確認していく必要があると付け加えた。
委員は、賃金と物価の好循環の強まりを点検していくうえで、今年の春季労使交渉の動向が重要となるとの認識を共有した。多くの委員は、1月の支店長会議での報告や最近の労使の情報発信等を踏まえると、今年の春季労使交渉で相応の賃上げが実現する可能性は高まっているとの認識を示した。その背景として、何人かの委員は、労働需給や企業収益、暦年ベースの物価上昇率の実績といった賃金交渉に影響を及ぼす諸要因が、いずれも、昨年時点よりも改善している点を指摘した。ある委員は、労働分配率が大きく低下するもとで、企業経営者は、賃上げへの社会的要請の強まりを意識していると述べたうえで、政労使の間で賃上げに対する考え方の方向性が揃っているとの認識を示した。複数の委員は、人手不足感が強まるもとで、中小企業を含め人材を確保するために賃上げが必要との見方が強まっていると指摘した。別のある委員は、人口動態の変化もあり労働需給が構造的に引き締まるもとで、収益動向等から賃上げが難しい企業は、市場からの退出を余儀なくされる局面に入っていくとの見解を示した。こうした状況を踏まえ、何人かの委員は、今年の賃上げ率は、昨年を上回る可能性が高いのではないか、と述べた。ただし、このうちの一人の委員は、中小企業を中心に、賃上げ幅については同業他社の状況等を様子見している先も多く、どの程度の賃上げ率が実現するかは、なお不確実であると指摘した。
委員は、賃金上昇の物価への波及についても議論を行った。何人かの委員は、サービス価格が緩やかに上昇している点やヒアリング情報を踏まえると、賃金の価格転嫁は相応に進んでいるとの見解を示した。ある委員は、組合側の賃上げ要求が実現すれば、サービスなど粘着的な物価の上昇率は1980年代から1990年代前半の平均程度まで高まる可能性が高いと述べた。一方、複数の委員は、原材料価格の転嫁に比べると、賃金の価格転嫁が必ずしも容易でない業種や企業も多いと指摘した。そのうえで、これらの委員は、賃金上昇は企業努力による生産性改善で吸収するべきという考え方は根強く残っており、その変化を確認していくことが重要であると付け加えた。この点に関連し、一人の委員は、これまで賃金水準の目安となっていた大手企業で賃上げ率が高まれば、そうした先は、取引先企業が賃金上昇を納入価格に反映することをより認めやすくなるとの見解を示したうえで、大手企業のみならず取引先企業も含めた年収引上げの動きが活発化すれば、需要増加とともに物価も上昇する経済の順回転が生まれると期待されると述べた。別の一人の委員は、賃金上昇は企業努力で吸収すべきという考え方は、デフレないしゼロインフレ期のものであり、名目値が上がるときには適用できないという認識を社会に定着させ、価格改定の計算式に人件費を組み込むなどしていく必要があるとの見解を示した。ある委員は、2年以上にわたり物価上昇が続くもとで、企業からは名目成長が続くことの経営上のメリットを認識したとの声が聞かれており、企業の賃金・価格設定行動は明確に変わってきているようにみえると述べた。
次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について議論を行った。委員は、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高いとの認識で一致した。また、そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。
そのうえで、経済の主なリスク要因として、委員は、(1)海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向、(2)資源・穀物価格を中心とした輸入物価の動向、(3)企業や家計の中長期的な成長期待の3点を挙げた。
物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶほか、物価固有のリスク要因として、(1)企業の賃金・価格設定行動や、(2)今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及には注意が必要であるとの認識で一致した。
リスクバランスについて、委員は、経済・物価のいずれの見通しについても、概ね上下にバランスしているとの認識を共有した。もっとも、委員は、物価については、長期にわたる低成長やデフレの経験などから賃金・物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が社会に定着してきたことを踏まえると、賃金と物価の好循環が強まっていくか注視していくことが重要との見方で一致した。
5.金融政策運営に関する委員会の検討の概要
以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。
先行きの金融政策運営の基本的な考え方について、委員は、現時点では、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を十分な確度をもって見通せる状況には、なお至っておらず、イールドカーブ・コントロールのもとで、粘り強く金融緩和を継続することで、経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていく必要があるとの見解で一致した。そのうえで、委員は、消費者物価の基調的な上昇率が「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていく見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっており、この先、賃金と物価の好循環を確認し、目標の実現が見通せる状況に至れば、マイナス金利を含む大規模金融緩和策の継続の是非を検討していくことになるとの認識を共有した。そうした中、何人かの委員は、既往の輸入物価上昇の価格転嫁のピークアウトが明確になる中で、物価上昇率が2%を大幅に上回って推移するアップサイドリスクは小さくなっており、賃金情勢等を見極める時間の余裕はあるとの見解を示した。
この間、複数の委員は、年初の能登半島地震の影響が不透明要因となっているが、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を見通せる状況は近づいているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、今後、1から2か月程度、事態の進展をフォローし、仮にマクロ経済に与える影響が大きくないことが確認できたならば、金融政策の正常化に向けた検討が可能な状況に至ったと判断できる可能性が高いとの見方を示した。そのうえで、この委員は、経済・物価情勢に応じて、時間をかけながらゆっくりと正常化の道のりを進めていくためには、その第一歩であるマイナス金利の解除に、適切なタイミングで踏み切る必要があり、その判断が遅れた場合には、2%目標の実現を損なうリスクや急激な金融引き締めが必要となるリスクがあると付け加えた。また、ある委員は、先行き海外の金融政策が利下げに向かうことになれば、わが国の金融政策の自由度が低下することもありうるとの見方を示した。この委員は、現在は金融政策変更の千載一遇の状況にあるが、先行き政策修正のタイミングを逸し、現行の政策を継続することになった場合、海外を中心とする次の回復局面まで副作用が継続する点も考慮に入れた政策判断が必要であると述べた。一人の委員は、賃金上昇を伴う物価上昇を持続的なものにするには、コア事業強化による企業の稼ぐ力の向上と顧客満足度の向上のための人材価値を高める経営が必要であり、それらの進捗に注目したデータに基づいた判断が重要であるとの認識を示した。
委員は、今後、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現が見通せる状況に至り、マイナス金利を含む大規模金融緩和策の継続の是非を検討する際、具体的に、どのような手段をどのような順序で用いるのが適当かについては、その時点での経済・物価・金融情勢を踏まえて判断していくことになるとの認識を共有した。そのうえで、委員は、目標の実現が現実味を帯びてきていることも踏まえると、これらの政策を変更する際の留意点やその後の政策運営について、基本的な考え方を整理しておくことが重要との見解で一致した。多くの委員は、現時点での経済・物価見通しを前提とすると、先行きマイナス金利の解除等を実施したとしても、緩和的な金融環境は維持される可能性が高いという認識を示した。一人の委員は、これまでのきわめて緩和的な金融政策を小幅に修正したとしても、そのことで緩和的な金融環境が変わるわけではないことを示していく必要があると述べた。この点に関連し、ある委員は、1937年の米国不況の際には僅かな金融政策の変更で経済主体の行動が大きく変化したというエピソードを紹介したうえで、今後、政策の修正を考えていくうえでは、それが政策レジームの再転換と解釈されないようにする必要があると指摘した。この間、ある委員は、どのような順序で政策変更を進めていくかはその時の経済・物価・金融情勢次第であるものの、副作用の大きいものから修正していくことが基本となるとの見方を示した。
マイナス金利の解除について、ある委員は、マイナス金利導入前の状態に戻すとすれば、当座預金への付利金利を+0.1%とし、無担保コールレートは0から+0.1%の範囲での推移を促すこととなると指摘した。一人の委員は、自然利子率や予想物価上昇率を巡る不確実性を踏まえると、最終的な金利水準の到達点やそれに至るまでの金利パスについてあらかじめ見極めることは難しく、その時々の経済・物価・金融情勢に応じて考えていかざるを得ないとの見方を示した。何人かの委員は、わが国の置かれた経済・物価情勢は、数年前に米欧が利上げ開始時点で直面していた環境とは大きく異なっており、わが国では、米欧のような急速な金融引き締めが求められているわけではないと指摘した。このうちの一人の委員は、海外の投資家等の中には、この点を巡る誤解もみられると付け加えた。
イールドカーブ・コントロールの枠組みについて、何人かの委員は、この枠組みを撤廃するにせよ何らかの形で維持するにせよ、国債買入れは継続していくことになるとの見方を示した。このうちの一人の委員は、その意味でイールドカーブ・コントロールとその後の国債買入れの運営は連続的なものであると指摘した。そのうえで、この委員は、変更の前後で不連続な形で金利が急激に上昇したりすることがないよう、コミュニケーション・オペレーションの両面で工夫する必要があると述べた。一人の委員は、その際、より市場機能を活かすよう、国債買入れの運営を見直していくことが必要との見解を示した。別の一人の委員は、わが国では国債市場における日本銀行のプレゼンスがきわめて大きいことも考慮に入れて、市場に大きな混乱が生じないようにしていく必要があると指摘した。この点に関連し、一人の委員は、イールドカーブ・コントロールを見直していく際、長期金利の急上昇を抑制する一定の措置を検討していく必要があると述べた。この間、ある委員は、オーバーシュート型コミットメントについても検討が必要であるとの見解を示した。
ETFとJ-REITの買入れについて、何人かの委員は、大規模緩和の一環として実施してきたものであり、2%目標の持続的・安定的な実現が見通せるようになれば、買入れをやめるのが適当であるとの認識を示した。このうちの一人の委員は、新規の買入れをやめる場合であっても、保有しているETFの取り扱いについては、時間をかけて検討していく必要があるとの認識を示した。
こうした議論を踏まえ、委員は、(1)先行き、「物価安定の目標」の実現が見通せる状況に至れば、マイナス金利を含む大規模な金融緩和策の継続の是非を検討していくこと、(2)その際、各種緩和策の修正を行うとしても、現時点での経済・物価見通しを前提とすれば、緩和的な金融環境は継続する可能性が高いこと、(3)各種緩和策を修正する際には、市場動向にも配慮し、政策変更の前後で不連続な動きが生じないようにしていくことについて、総裁記者会見等の場において、対外的に示していくことが重要であるとの見解で一致した。
長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合で決定した方針に従ってイールドカーブ・コントロールが運用されるもとで、長期金利は、金融市場調節方針と整合的に推移しているとの認識で一致した。
以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、従来の方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。また、長短金利操作の運用に関して、委員は、従来の運用を維持することが適当であるとの認識を共有した。
長期国債以外の資産の買入れに関して、委員は、従来の方針を維持することが適当との意見で一致した。
先行きの金融政策運営方針について、委員は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく、との基本方針を共有した。そのうえで、委員は、「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。また、委員は、引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。
6.政府からの出席者の発言
財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- 政府としては、令和6年度予算について、通常国会への提出に向け作業を進めている。本予算は、「物価に負けない賃上げの実現」に向けた取り組みの推進等、わが国が直面する構造的課題に的確に対応するものである。
- また「令和6年能登半島地震」の対応として、一般予備費について増額し、計1兆円とする決定をした。
- 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。
また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- 政府としては、能登半島地震の被災者の生活・なりわいの再建を始め、被災地の復旧・復興に切れ目なく対応していく。
- 労務費転嫁の新しい指針や賃上げ税制の拡充、省力化投資支援など、あらゆる政策を総動員し、物価上昇を上回る賃上げの実現を目指す。
- 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形での2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向け、適切な金融政策運営を行うことを期待する。
7.採決
1.金融市場調節方針
以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。
採決の結果、全員一致で決定された。
金融市場調節方針に関する議案(議長案)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。
記
- 日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
- 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
採決の結果
- 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
- 反対:なし
2.長短金利操作の運用
議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、長短金利操作の運用について、以下の議案が提出され、採決に付された。
採決の結果、全員一致で決定された。
長短金利操作の運用に関する議案(議長案)
次回金融政策決定会合までの長短金利操作の運用を下記のとおりとすること。
記
長期金利の上限は1.0%を目途とし、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)、共通担保資金供給オペレーションなどを実施する。
採決の結果
- 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
- 反対:なし
3.資産買入れ方針
議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。
採決の結果、全員一致で決定された。
資産買入れ方針に関する議案(議長案)
長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。
記
- ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
- CP等は、約2兆円の残高を維持する。社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。
採決の結果
- 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
- 反対:なし
4.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)
以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。
8.「経済・物価情勢の展望」の検討
続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、1月24日に公表することとされた。
9.議事要旨の承認
議事要旨(2023年12月18、19日開催分)が全員一致で承認され、1月26日に公表することとされた。
以上
- (注)短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲マイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
- 長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。本文に戻る
別紙
2024年1月23日
日本銀行
当面の金融政策運営について
- 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
- (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)
- [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする(全員一致)。
- 短期金利:
- 日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
- 長期金利:
- 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
- [2]長短金利操作の運用(全員一致)
長期金利の上限は1.0%を目途とし、上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ1、共通担保資金供給オペなどを実施する。
- [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする(全員一致)。
- (2)資産買入れ方針(全員一致)
長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。
- [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
- [2]CP等は、約2兆円の残高を維持する。社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。
- (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)
- 日本銀行は、「貸出増加を支援するための資金供給」について、貸付実行期限を1年間延長することを決定した(全員一致)。
- 日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく。
「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。
以上
- 指値オペの利回りは、金利の実勢等を踏まえて、適宜決定する。本文に戻る