このページの本文へ移動

政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2024年3月18、19日開催分)

2024年5月2日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2024年4月25、26日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2024年3月18日(14:00から16:22)
 
3月19日( 9:00から12:28)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 植田和男 (総裁)
  • 氷見野良三(副総裁)
  • 内田眞一 ( 副総裁 )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 ( 審議委員 )
  • 野口 旭 ( 審議委員 )
  • 中川順子 ( 審議委員 )
  • 高田 創 ( 審議委員 )
  • 田村直樹 ( 審議委員 )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 坂本 基 大臣官房総括審議官(18日)
  • 赤澤亮正 財務副大臣(19日)
  • 内閣府 井上裕之 内閣府審議官(18日)
  • 井林辰憲 内閣府副大臣(19日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 理事 高口博英(18日15:25から16:22)
  • 理事 清水誠一
  • 企画局長 正木一博
  • 企画局政策企画課長 長野哲平
  • 金融機構局参事役 今久保圭(18日15:25から16:22)
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 金融市場局総務課長 北村冨行(18日15:25から16:22)
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 調査統計局経済調査課長 永幡 崇
  • 国際局長 神山一成
(事務局)
  • 政策委員会室長 倉本勝也
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局審議役 飯島浩太(19日10:15から12:28)
  • 企画局企画調整課長 土川 顕(19日10:15から12:28)
  • 企画局企画役 長田充弘
  • 企画局企画役 倉知善行
  • 金融機構局長 中村康治(18日15:25から16:22)

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節の運営としては、前回会合(1月22、23日)で決定された金融市場調節方針(注)および長短金利操作の運用方針に従って、国債買入れ等を行った。こうした運営のもと、長期金利は金融市場調節方針と整合的に推移したほか、イールドカーブの形状は、引き続き総じてスムーズとなっている。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは-0.014から-0.005%程度、GCレポレートは-0.104から-0.059%程度で推移した。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、上昇した。

わが国の株価(TOPIX)は、米国株価の上昇や堅調な企業決算を受けて、上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、0.635から0.785%程度と小幅に上昇した。なお、国債市場の流動性指標をみると、多くの指標で、足もとで改善方向の動きがみられている。債券市場サーベイにおける市場の機能度判断DIは、前回調査対比マイナス幅を小幅に縮小した。為替相場をみると、円の対ドル相場および対ユーロ相場は、概ね横ばいとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、回復ペースが鈍化している。米国経済は、FRBによる利上げの影響を受けつつも、個人消費を中心に底堅く推移している。欧州経済は、ECBによる利上げ等の影響が続くもとで、緩やかな減速が続いている。中国経済は、外需の減速や不動産市場の調整の影響などから、緩やかな減速傾向が続いているものの、個人消費など一部には持ち直しの動きがみられる。中国以外の新興国・資源国経済は、輸出に持ち直しの動きがみられており、総じてみれば緩やかに改善している。

先行きの海外経済は、当面、回復ペースが鈍化した状態が続くとみられる。その後は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、緩やかに成長していくと考えられる。先行きの見通しを巡っては、各国中央銀行の既往の利上げの影響のほか、中国経済の動向や地政学的緊張の展開などについて、不確実性がきわめて高い。

海外の金融市場をみると、米欧の長期金利は、振れを伴いつつ、小幅に上昇した。米国の株価は、堅調な経済指標やハイテク関連の新技術の需要拡大に伴う成長期待から、上昇した。欧州の株価も、米国株価に連れて、上昇した。この間、新興国通貨は、総じてみれば横ばい圏内で推移した。原油価格は、中東における地政学的緊張の高まりを背景に上昇した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きについては、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果などにも支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる。

輸出は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、横ばい圏内の動きとなっている。先行きも、当面、同様の動きが続くとみられる。その後は、海外経済が国・地域ごとにばらつきを伴いつつ緩やかに成長していくもとで、増加基調に復していくと見込まれる。

鉱工業生産は、基調としては横ばい圏内の動きとなっているが、足もとでは、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響もあって減少している。この間、能登半島地震が生産に与える影響については、生産再開が進むもとで、現時点ではサプライチェーンへの深刻な影響などは回避されているが、引き続き注視していく必要がある。先行きの鉱工業生産は、当面、横ばい圏内で推移するとみられる。その後は、グローバルなIT関連財の持ち直しなど、内外需要の動向を反映し、増加基調に復していくと見込まれる。

企業収益は、改善している。こうしたもとで、設備投資は、緩やかな増加傾向にある。先行きの設備投資は、企業収益の改善や緩和的な金融環境などを背景に、増加傾向を続けると予想される。

個人消費は、物価上昇の影響に加え、一部メーカーの出荷停止による自動車販売の減少などがみられるものの、底堅く推移している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、7から9月に猛暑効果もあって増加した後、1月にかけて減少しているが、暖冬や一部メーカーの生産・出荷停止といった一時的な下押し要因を除いてみれば、物価上昇の影響を受けるもとでも、サービス消費を中心に底堅く推移している。企業からの聞き取り調査や高頻度データに基づくと、2月以降の個人消費は、物価上昇を受けた消費者の強い節約志向を指摘する声は引き続き聞かれるほか、自動車の減産による影響はみられるものの、底堅く推移しているとみられる。消費者マインドは、このところ改善が続いている。先行きの個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、行動制限下で積み上がった貯蓄にも支えられて、緩やかに増加していくと予想される。

雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い情報通信等を中心に、振れを伴いながらも緩やかな増加傾向にある。非正規雇用は、経済活動が正常化するもとで、卸・小売や対面型サービス業などを中心に、緩やかに増加している。一人当たり名目賃金は、経済活動の回復と昨年の春季労使交渉の結果を反映して、緩やかに増加している。春季労使交渉について、これまで明らかになった経営側からの回答をみると、2024年の定昇を含む賃上げ率は5%台前半、ベースアップ率は3%台後半と、昨年を大きく上回っている。また、本支店におけるヒアリング情報を踏まえると、ほとんどの支店の所管地域において、現時点で予測される平均的な企業の賃上げ率は、前年並みないしは前年を上回る可能性が高い模様である。また、規模の小さな企業からは、人材確保のため賃上げの必要性は認識しているが、実際の賃上げ率は、大企業の結果が出揃い世間相場を見極めたうえで決定したい、といった声も多く聞かれている。先行きの雇用者所得は、名目賃金の伸び率上昇を反映して、はっきりとした増加を続けると考えられる。実質ベースでも、マイナス幅は縮小傾向をたどり、次第にプラスに転化していくと見込まれる。

物価面について、商品市況は、総じてみれば横ばい圏内で推移している。国内企業物価の3か月前比は、昨年夏場以降の原油価格上昇の影響などから、足もとでは小幅のプラスとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策もあってエネルギー価格の寄与は大きめのマイナスとなっているものの、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰しつつも残るもとで、サービス価格の緩やかな上昇も受けて、足もとは2%程度となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰するもとで、政府による経済対策の反動がみられることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられる。その後は、これらの影響の剥落から、前年比のプラス幅は縮小すると予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、緩和した状態にある。

資金需要面をみると、経済活動の回復や企業買収の動きなどを背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、3%台半ばとなっている。CP・社債計の発行残高の前年比は、1%台半ばとなっている。企業の資金繰りは、良好である。企業倒産は、増加している。

この間、マネタリーベースの前年比は、2%台半ばとなっている。マネーストックの前年比は、2%台半ばとなっている。

2.金融政策の多角的レビューに関する執行部からの報告および委員会の検討の概要

1.非伝統的金融政策が金融市場に与えた影響

(1)執行部からの報告

金融政策の「多角的レビュー」の一環として、関係各局で連携して、過去25年間の非伝統的金融政策の効果・副作用を振り返る調査プロジェクトを実施している。

以下では、進行中の本調査プロジェクトのうち、まず、金融市場局から、非伝統的金融政策が金融市場に与えた影響として、(1)非伝統的金融政策が短期金融市場の機能度に与えた影響、(2)量的・質的金融緩和やイールドカーブ・コントロールが国債市場の機能度に及ぼした副作用についての分析結果、(3)為替レートの推移を振り返って非伝統的金融政策との関係で留意すべき論点について、報告する。

  • 過去25年間の短期金融市場の機能度を確認するため、量的緩和が実施された第一局面(2001から2006年)、補完当座預金制度が導入された第二局面(2008から2016年)、マイナス金利導入以降の第三局面(2016年から)の3つの局面に分け、各局面の動向を振り返った。第一局面では、金融機関間の取引インセンティブが低下したが、第二局面では、補完当座預金制度の導入に伴い付利先と非付利先との間での取引インセンティブが生じた。第三局面では、補完当座預金制度の三層構造のもとで裁定取引が活発化しており、短期金融市場は、足もと十分な機能度を維持していると評価できる。
  • 量的・質的金融緩和やイールドカーブ・コントロールによる国債市場の機能面での副作用は、(1)市場流動性の低下、(2)相対価格面の歪み、(3)円債の取引基盤の脆弱化の3つに整理できる。これらのうち、相対価格面の歪みは改善方向に向かっている。一方、市場流動性の低下は引き続き残っていくとみられる。また、脆弱化した円債の取引基盤については、市場参加者からは、再構築は可能との声も聞かれているが、完全な回復まで時間は相応にかかり得る、との指摘も聞かれる。これらが、中長期的にわが国の金融市場に与える影響について、引き続き丁寧な把握に努めていく必要がある。
  • 過去25年間の為替レートの推移を振り返ると、その時々の市場で注目されていた各種要因の影響を受けて、大きく変動してきた。この間に実施されてきた非伝統的金融政策は、将来の為替レートに関する予想経由で為替レートに一定程度影響を与えてきた可能性があるが、そうした予想形成は、その時々の世界経済や国際金融市場の動向次第で大きく変化してきたように窺われる。このように、非伝統的金融政策が為替レートに及ぼす影響には、きわめて大きな不確実性が存在する。

本調査プロジェクトの個別の分析については、ワーキングペーパー等で公表することを展望している。

(2)委員会の検討

委員は、執行部からの報告を踏まえ、非伝統的金融政策が金融市場に与えた影響について議論した。

短期金融市場に関して、ある委員は、量的緩和のもとでは市場機能が大きく低下した一方、その後の局面では、補完当座預金制度が金融緩和と短期金融市場の機能の維持を両立するうえで大きな効果があったと評価した。

国債市場について、何人かの委員は、大規模金融緩和が終了した場合にも、市場機能や流動性等の回復には時間がかかり得るとの認識を示した。複数の委員は、流動性等の回復過程においては、経済・物価情勢等の変化を受けて長期金利のボラティリティが高まりやすくなる可能性を指摘した。このうちの一人の委員は、こうした状況が長期にわたって継続する可能性も踏まえて、引き続き、丁寧にモニタリングしていくことが重要であると付け加えた。そうしたもとで、複数の委員は、イールドカーブ・コントロールの枠組みを終了する場合、その後の国債買入れの減額は、こうした点にも配慮しながら、進める必要があるとの見解を示した。このうちの一人の委員は、やや長い目でみれば、円債の取引体制の整備は進むと考えられるものの、そのもとでの市場参加者の取引行動は過去とは異なるものとなる可能性があるとの見方を述べた。また、別の委員は、海外投資家を含めた市場参加者との意見交換などの取り組みを進めていくことが必要であるとの見方を示した。

為替レートの動向について、複数の委員は、わが国では購買力平価からの乖離が目立つが、これは長期的なトレンドとしては、1990年代半ばにかけて国内製造業の高い生産性を反映して円高が進行した後、それらの海外生産シフト等を背景に円安方向への動きが緩やかに続いたことによるものではないかとの見解を示した。そのうえで、このうちの一人の委員は、この2年ほどは、購買力平価対比でかなりの円安が進んでいるが、これは、リーマン・ショック以降、市場参加者の間で、従来よりも内外金利差が意識されやすくなっていることを反映している可能性があるとの見方を示した。別の一人の委員は、大規模金融緩和前の2012年頃と現在とでは、為替や株価の水準は大きく異なっており、そのもとでの金融政策のトランスミッション・メカニズムや波及効果・副作用も異なる可能性があると指摘した。

これらの議論を踏まえ、委員は、今後の執行部による追加的な分析・考察も踏まえつつ、非伝統的金融政策が金融市場に与えた影響について引き続き議論していくことが適当であるとの認識を共有した。

2.過去25年の金融仲介活動の振り返り

(1)執行部からの報告

次に、進行中の本調査プロジェクトのうち、金融機構局から、過去25年間の金融仲介活動の振り返りとして、(1)過去25年間の金融仲介活動が経済活動に大きな調整をもたらし得る金融不均衡の蓄積に繋がっていなかったか点検するとともに、(2)金融システムからみた大規模金融緩和の効果と副作用に関する論点、(3)低金利貸出が企業財務に及ぼした影響について、報告する。

  • 金融循環を表す金融ギャップからは、低金利環境の中で、バブル期前後にみられたような大きな金融不均衡が蓄積した様子は観察されない。バブル崩壊後の金融循環の停滞局面も、2000年代半ばにかけて解消した。この間の金融仲介活動をみると、2000年代前半にかけて、バランスシート調整と不良債権処理を主因に企業向け貸出が減少したが、その後の企業向け与信と経済活動水準とのバランスは、概ね安定している。
  • 過去25年のほとんどの期間において、金融機関の貸出態度が緩和的となるもとで、貸出残高の増加が続いた。反実仮想分析からは、最近10年の貸出の増加には、低金利や景気改善の効果に加え、地価の安定を背景とした担保価値の改善効果も寄与していたことが示唆される。また、金融機関間の貸出競争の強まりも、利鞘縮小や貸出増加に繋がったと考えられる。
  • ただし、金利感応度の高い不動産関連の分野では、貸出残高が既往ピーク圏にある。増加した貸出の中には、債務者の収入減少や貸出金利の上昇に対する耐性が相対的に低い案件もみられる。また、企業や家計の借入期間が長期化し、金利リスクが増加している。変動金利による長期借入は、家計の金利リスクとなっている一方、企業の固定金利による長期借入は、金融機関の金利リスクの増加要因の1つとなっている。
  • 金融機関の収益力は、最近では反転上昇しているものの、歴史的にみると、低下した状態にある。その結果、地域金融機関を中心に、ストレス耐性が低下している先もある。また、金利が短期間のうちに大きく上昇した際には、保有有価証券の評価損が金融機関の金融仲介活動の制約になることが考えられる。
  • この間、借入を増やした企業の中には、収益力が改善し、財務の頑健性が増した先があった一方、収益力の低迷が続く先も常に一定の割合で存在した。

本調査プロジェクトの個別の分析については、金融システムレポート別冊やワーキングペーパーで公表することを展望している。また、関連する議論は、4月に公表予定の金融システムレポートにおいても取り上げる予定である。

(2)委員会の検討

委員は、執行部からの報告を踏まえ、非伝統的金融政策が金融機関の行動や金融システムに与えた影響について議論した。

大規模金融緩和による低金利環境が金融システムに及ぼした影響について、一人の委員は、金融機関による、投資の長期化や海外貸出・外債投資の拡大、リスクテイクの積極化が促されたと指摘した。また、この委員は、世界的に、低金利環境下での金融機関のリスクテイク行動が、不動産等の資産価格の押し上げに作用したとの見解を述べた。ある委員は、大規模金融緩和の結果として、金融機関の収益力が低下しているほか、その行動の変化もあって、一部の金融機関においてストレス耐性が低下していると指摘した。また、一人の委員は、海外投融資の拡大に伴い、わが国の金融システムが抱えるドル調達リスクが高まっているとの認識を示した。先行きについて、ある委員は、金利上昇局面において、一部の金融機関でのストレス耐性の低下に注意が必要であり、引き続き、丁寧にモニタリングしていくことが重要と指摘した。また、別の委員は、大規模金融緩和が終了した場合に、金融機関のポートフォリオ・リバランスがどのように進むか注視が必要と述べた。このほか、複数の委員は、金融政策が変化したとしても、厳しい競争環境のもとで、金融機関収益には構造的な下押し圧力がかかり続ける可能性もあると述べた。

この間、複数の委員は、2001年から2006年にかけての量的緩和について、バランスシート拡大は短期の資金供給が中心であり、長めの金利や実体経済に及ぼした影響は限られるとの分析も多いが、大量の流動性供給は金融機関の流動性に対する不安を払拭し、金融システムの安定を確保することに大きな効果を発揮したと指摘した。一人の委員は、こうした効果は、反実仮想分析では十分に捉えられていない可能性があると付け加えた。別の一人の委員は、リーマン・ショック後の局面でも、企業の資金調達環境はきわめて厳しく、当時の日本銀行の素早い対応の効果は大きかったとの見解を示した。

借入を増加させた企業における収益性等のばらつきが生じた背景について、一人の委員は、大企業において、リーマン・ショック後の構造改革の結果、借入の増加を伴う形で成長投資が進んだことを指摘した。他方、別の一人の委員は、政府による企業支援に加え、大規模金融緩和による低金利環境もあって、低収益の企業が借入を増加させつつ存続できたことを指摘した。

これらの議論を踏まえ、委員は、今後の執行部による追加的な分析・考察も踏まえつつ、非伝統的金融政策が金融機関の行動や金融システムに与えた影響について引き続き議論していくことが適当であるとの認識を共有した。

3.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢

国際金融資本市場について、委員は、世界経済の先行きを巡る不確実性が引き続き意識されているものの、米国の堅調な経済指標や、多くの国での株価の上昇等を受けて、市場センチメントは改善しているとの認識で一致した。

海外経済について、委員は、回復ペースが鈍化しているとの認識を共有した。一人の委員は、先行き、グローバルなインフレ圧力が減衰を続けるもとで、緩やかな成長経路に復していくとの見方を示した。

米国経済について、委員は、FRBによる利上げの影響を受けつつも、個人消費を中心に底堅く推移しているとの認識で一致した。多くの委員は、個人消費が堅調に推移する中、インフレ率は低下傾向をたどっており、ソフトランディング期待が更に高まっていると指摘した。ただし、このうちの何人かの委員は、商業用不動産向け融資での信用コストの増加やクレジットカード延滞率の上昇などがみられる中、金融面のリスクには引き続き注意が必要であると付け加えた。

欧州経済について、委員は、ECBによる利上げ等の影響が続くもとで、緩やかな減速が続いているとの認識を共有した。ある委員は、先行きの景気の下振れ要因として、地政学的リスクの高まりを受けた設備投資の先送りや、商業用不動産市況の悪化などを介した金融引き締めの影響に注意が必要であると指摘した。

中国経済について、委員は、外需の減速や不動産市場の調整の影響などから、緩やかな減速傾向が続いているものの、個人消費など一部には持ち直しの動きがみられるとの見方を共有した。多くの委員は、不動産市場を始めとした様々な構造問題への政府の対応を巡って不確実性は大きいと指摘した。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、輸出に持ち直しの動きがみられており、総じてみれば緩やかに改善しているとの認識を共有した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しているとの認識で一致した。複数の委員は、個人消費や生産に弱めの動きがみられるものの、これには、一時的な要因が強く作用しているとの見方を示した。こうしたもとで、何人かの委員は、高水準の企業収益を背景とする企業の積極的な支出スタンスなどから、景気の改善基調は維持されていると指摘した。この間、一人の委員は、能登半島地震の影響について、生産再開が進んでいるほか、サプライチェーンの混乱も回避されているが、地元経済への影響には引き続き注視が必要と述べた。

景気の先行きについて、委員は、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる、その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続ける、との認識を共有した。ある委員は、春季労使交渉での予想を上回る賃上げや最近の株価上昇を受けて、先行きに対する期待が高まっており、わが国経済は歴史的な変曲点を迎えている可能性があるとの見方を述べた。

輸出について、委員は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。

鉱工業生産について、委員は、基調としては横ばい圏内の動きとなっているが、足もとでは、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響もあって減少しているとの認識を共有した。

設備投資について、委員は、企業収益が改善するもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識で一致した。ある委員は、人手不足などによる供給制約の影響もあって設備投資の実績は計画対比で伸び悩んでいるが、先行きの設備投資は、人手不足対応やデジタル関連、環境対応関連などの投資需要の堅調さを背景に、増加基調が続くとの見方を示した。また、複数の委員は、物価の緩やかな上昇が続くもとで、この間のバランスシート等の改善を背景に、企業の前向きな動きが加速する可能性があると指摘した。

個人消費について、委員は、物価上昇の影響に加え、一部メーカーの出荷停止による自動車販売の減少などがみられるものの、底堅く推移しているとの認識で一致した。多くの委員は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する中、先行きの名目賃金のさらなる改善や政府の経済対策の効果が見込まれることが、個人消費を下支えしているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、そうしたもとで、消費関連のマインド指標は改善傾向を示していると指摘した。ある委員は、賃上げの蓋然性が高いことを踏まえると、個人消費が失速するリスクは大きくないとの見解を示した。また、別の委員は、最近の株価上昇が資産効果を介して個人消費を相応に押し上げる可能性もあると指摘した。この間、一人の委員は、やや長い目でみた消費を巡る論点として、感染症流行を経て消費行動に生じた不可逆的な変化に加え、副業の普及やネット中古市場の拡大が及ぼす影響を挙げた。

雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策もあってエネルギー価格の寄与は大きめのマイナスとなっているものの、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰しつつも残るもとで、サービス価格の緩やかな上昇も受けて、足もとは2%程度となっているとの認識で一致した。この間、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの評価で一致した。ある委員は、先行きも、物価上昇率が2%前後で推移していくもとで、適合的な予想形成を通じて、予想物価上昇率の緩やかな上昇が続くとの見方を示した。

物価の先行きについて、委員は、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰するもとで、政府による経済対策の反動がみられることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられる、その後は、これらの影響の剥落から、前年比のプラス幅は縮小する、との見方で一致した。また、委員は、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくとの見方を共有した。複数の委員は、このところ輸入物価が下落から横ばいに転じていることを踏まえると、コストプッシュによる物価上昇圧力の減衰ペースは、次第に緩やかになっていくとの見方を示した。

委員は、賃金と物価の好循環の強まりを見極める観点から、賃金・物価動向について点検を行った。まず、賃金面について、大方の委員は、今年の春季労使交渉では、ベースアップも含め、昨年に続きしっかりとした賃上げが実現する可能性が高まっているとの見方を共有した。委員は、連合の第一回集計結果における賃上げ率は、昨年をはっきりと上回る高い数字であるとの認識で一致した。この数字について、ある委員は、2%前後の物価上昇と1%程度の労働生産性の上昇を前提としても高い水準であり、過去の実質賃金減少を埋め合わせるには至らないものの、物価から賃金への波及メカニズムの持続性を示唆する結果であると指摘した。別の一人の委員は、経営者が賃上げへの社会的要請の高まりを強く意識する状況下、政労使の間で賃上げに対する考え方の方向性が揃っており、賃金が上がりにくいとのノルムが転換した可能性があるとの見方を示した。何人かの委員は、大企業による高い賃上げ率の背景には、高水準の収益に加え、設備投資などを通じた成長力の向上も影響しているとの見解を示した。また、大方の委員は、ばらつきはあるものの全体としてみれば、地域の中小企業を含め、幅広い企業で賃上げの動きが続いているとの評価を共有した。何人かの委員は、本支店における中小企業からのヒアリング情報や各種のアンケート調査などを踏まえると、全体として昨年対比でみても、賃上げに対して前向きな声が広がっていると指摘した。また、一人の委員は、中小企業における実際の賃上げ率については、大企業の動向を見極めたうえで決定するといった声も多く聞かれている、と付け加えた。複数の委員は、マクロのデータからみる限り、中小企業全体として収益面から賃上げが制約されることは考えにくいとの見解を示した。何人かの委員は、大企業の高水準の賃上げを受けて、人材係留などの観点から、中小企業においても賃上げの動きが広がることが期待されると述べた。一人の委員は、中小企業については、連合の集計結果だけでは賃上げ余力が高まる蓋然性は十分に確認できていないため、人件費上昇の価格転嫁の状況などを確認する必要があるとの見解を示した。

次に、委員は、賃金上昇の物価への波及についても議論を行った。多くの委員は、これまでの緩やかな賃金上昇も受けて、サービス価格の緩やかな上昇が続いているとの評価を共有した。複数の委員は、時系列分析に基づくと、賃金要因による物価の押し上げ幅が拡大していると指摘した。このうちの一人の委員は、賃金上昇率とサービス等の粘着的な物価の上昇率の関係は安定しており、先行き、今年の春季労使交渉の結果を反映する形で、粘着的な物価の上昇率は更に高まっていく可能性が高いとの見方を示した。別の複数の委員は、政府や経済団体による取り組みが、人件費上昇の価格転嫁への後押しとなっているとの見方を示した。ある委員は、中小企業の価格転嫁は容易ではないものの、経営者自らが価格交渉に関与する事例が増えてきていると述べた。一方、一人の委員は、サービス価格上昇の主因は、食材価格の上昇を背景とした外食の上昇などであり、賃上げによる人件費上昇の価格転嫁の影響はまだ中心的とはいえないと指摘した。

以上の議論を踏まえ、多くの委員は、最近のデータやヒアリング情報からは、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきているとの評価を共有した。そのうえで、多くの委員は、基調的な物価上昇率が、「展望レポート」の見通し期間終盤にかけて2%の「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくという見通しが実現する確度は、更に高まったとの判断を共有した。一人の委員は、今年の春季労使交渉における現時点の結果を踏まえると、賃金上昇に伴う物価上昇などにより、「物価安定の目標」の実現の見通しがある程度立ったと考えられ、目標の達成に向けて大きく前進したと述べた。ある委員は、高水準の企業収益のもとでは、春季労使交渉で示された高めの賃上げを受けても、サービス価格の上昇は緩やかなものとなることが見込まれると指摘したうえで、物価が、2%程度で推移しながら、賃金に支えられる望ましい形に移行していくことが展望できる状況となってきたとの見方を示した。別の一人の委員は、一時的な要因等によって、物価上昇率が2%を下回る局面もあり得るが、物価の背後にあるメカニズムは「物価安定の目標」と整合的な状況が続く可能性が高いと述べた。これに対して、一人の委員は、マイナスとなった貯蓄率が平均的な水準に回帰する過程で消費抑制の影響が強く出る可能性があり、物価上昇を上回る賃金上昇の持続は容易ではなく、まだ物価から賃金への好循環が全国レベルで強まっているとはいえないと指摘した。また、別の一人の委員は、賃金と物価の好循環の強まりを確認するためには、サービス価格の上昇や中小企業の価格転嫁の進展を慎重に見極める必要があると述べた。

経済・物価の見通しのリスク要因として、委員は、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高いとの認識で一致した。また、委員は、そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。また、委員は、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているという評価を共有した。ある委員は、実質金利が大幅なマイナスを続けているにもかかわらず、景気の回復ペースが緩やかな理由としては、自然利子率の低さや金融政策の効果の波及ラグなども考えられると述べた。この点に関連し、複数の委員は、成長期待が変化する兆しは窺われるが、これが自然利子率等に影響を及ぼすには時間を要すると指摘した。別の委員は、民間部門における貯蓄意欲が高いことが自然利子率を押し下げる方向に作用しているのではないか、との見方を示した。

4.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

先行きの金融政策運営の基本的な考え方として、多くの委員は、最近のデータやヒアリング情報からは、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきており、先行き、「展望レポート」の見通し期間終盤にかけて、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断することが適当であるとの評価を共有した。そのうえで、多くの委員は、これまでの「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みおよびマイナス金利政策といった大規模な金融緩和は、その役割を果たしたと考えられ、金融政策の枠組みの見直しを検討することが適当であるとの認識を共有した。一方、ある委員は、わが国では、米欧のような賃金インフレに陥るリスクは低く、中小企業の賃上げ分の価格転嫁が進むような産業構造への変化等を促し、それを確認する時間的余裕があると指摘した。また、この委員は、大企業に関係するETF買入れや貸出増加支援資金供給等以外の緩和策は、短観や支店長会議等で中小企業の賃上げ余力が高まる蓋然性を確認してから見直すことが適当との見方を示した。別の委員は、現時点で金融政策の枠組み全体を見直すと経済・物価情勢を反映しない形での政策変更期待が高まり、金融環境が引き締まる可能性があると述べたうえで、そうした場合には、好循環のモメンタムが損なわれることで、「物価安定の目標」の実現が遅れるリスクがあると指摘した。

多くの委員が金融政策の枠組みの見直しの検討が適当との見方を示したことを受けて、委員は、それぞれの政策手段等の見直しの方向性について議論を行った。

短期金利について、何人かの委員は、政策金利を無担保コールレート(オーバーナイト物)としたうえで、それを0から0.1%程度で推移するよう促すことが適当であるとの見解を示した。複数の委員は、こうした状況を実現するため、補完当座預金制度の三層構造を廃止したうえで、付利金利として0.1%を適用することが考えられると述べた。一人の委員は、こうしたもとでは、日本銀行の当座預金取引先である付利先とそうではない非付利先との間を中心に資金取引が行われることとなり、短期の市場金利が0から0.1%程度で推移することが期待されるほか、短期金融市場の機能は維持されるとの見方を示した。ある委員は、短期金利の上昇幅は0.1%程度にとどまるため、実体経済への影響は小さいと考えられると述べた。一方、一人の委員は、マイナス金利政策の解除を長短金利操作の廃止と同時に行うことは、長期金利を含む金融環境に非連続的な変化をもたらすリスクがあると懸念を示した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、多くの委員は、その枠組みを見直すことが適当であるとの見解を示した。これらの委員は、長期金利は金融市場において形成されることが基本となるとの見方を共有した。そのうえで、多くの委員は、長期国債の買入れについて、不連続な変化が生じないよう、当面、これまでと同程度の金額で買入れを継続するとともに、長期金利が急激に上昇する場合には、機動的に対応することが適当との認識を共有した。何人かの委員は、こうしたもとで、本行国債保有残高が高水準で推移するため、その緩和効果は引き続き作用するが、今後は、国債買入れは、能動的な金融政策手段としては用いないことが考えられると述べた。このうちの一人の委員は、国債の買入れは、長期金利の急変動を避けるという観点から行うこととし、その中で、市場の流動性を回復しつつ、できるだけ市場に金利形成を委ねていくことが大切であるとの見方を示した。別の委員は、これまでの市場機能に副作用を及ぼしてきた政策対応を見直し、市場が自律的に機能する局面への転換が必要であると述べた。ある委員は、長期国債の買入れの調整は、急激な市場変動を避ける観点から時間をかけて対応することが適当であり、その間に債券市場の参加者が拡大することを期待するとの見解を示した。実際の国債の買入れ額については、何人かの委員は、上下に多少の変動幅をもつ形で、調節部署が市場の状況に応じて柔軟に決めていくべきであると指摘した。このうちの一人の委員は、例えば上下に1から2兆円程度の幅をもって対応していくことが適当であるとの見解を示した。この間、何人かの委員は、将来的には、いずれかのタイミングで国債の買入れ額を減額し、国債保有残高も償還に伴い縮小させていくことが望ましいとの見解を示した。

長期国債以外の資産の買入れについて、大方の委員は、ETFやJ-REITは、大規模な金融緩和の一環として実施してきたものであり、先行き、「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至れば、新規の買入れを終了することが適当であるとの見解を示した。ある委員は、最近は買入れをほとんど実施していない点を踏まえると、買入れを終了しても、その影響は限られるとみられると付け加えた。また、一人の委員は、保有するETF等の取り扱いについては、時間をかけて、別途検討していく必要があると指摘した。CP・社債等の買入れについては、多くの委員は、現状、買入れが続いているため、不連続な変化を避けつつ、終了していくことが望ましいとの見方を示した。複数の委員は、買入れ額の段階的な減額という形で経過措置を設けることが適切との見解を示した。

貸出増加支援資金供給等について、何人かの委員は、今後も金融緩和効果を円滑に浸透させるために継続することが適当だが、貸付条件等については見直すことが適当であるとの認識を示した。ある委員は、現在の経済・物価情勢を踏まえると、0%の固定金利で4年間という貸付条件は、資金供給の利用を促すインセンティブとして大き過ぎるとの見方を示した。また、別の委員は、貸出増加額の2倍の資金供給を受けられる仕組みについては、終了することが望ましいと述べた。

この間、委員は、マネタリーベースの残高に関するオーバーシュート型コミットメントについては、その要件を充足したとの認識を共有した。ある委員は、生鮮食品を除く消費者物価の前年比が約2年にわたって2%を上回る中、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現が見通せる状況に至った時点で要件を充足したと判断できるとの見解を示した。

これらの議論を踏まえ、多くの委員は、今後の金融政策運営の枠組みについて、引き続き2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していくことが望ましいとの見方を共有した。そのうえで、委員は、大規模な金融緩和からの移行が金融市場に及ぼす影響について議論を行った。ある委員は、非伝統的政策手段の総動員から、短期金利の操作を主たる政策手段とする通常の枠組みに移行することは、短期的なショックを起こさずに十分可能であり、中長期的にはプラスの効果も期待できるとの見方を示した。別の一人の委員は、これまでに柔軟化されたイールドカーブ・コントロールの運営のもとで長期金利が安定して推移していることや、これまでの情報発信を踏まえると、今回の措置によって金融市場で大きな変動が起こる可能性は低いと述べた。また、別の委員は、大規模金融緩和を上手に手仕舞いしていくことが重要であり、そのためには、今回、金融正常化のスタートラインに立つことが適当と述べた。

先行きの金融政策運営について、委員は、経済・物価動向次第であるが、現在の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えられるとの認識を共有した。何人かの委員は、わが国では中長期的な予想物価上昇率が2%に向けて上昇していく過程にあり、今回の見直しも、米欧のような金融引き締め局面への転換とは異なると指摘した。何人かの委員は、金融緩和から急速な利上げに転換したとの誤解が広がることがないよう、丁寧な情報発信が重要との見方を示した。このうちの一人の委員は、今回の金融政策の枠組みの見直しが、金融引き締めへのレジーム転換ではなく、あくまで「物価安定の目標」の実現に向けた取り組みの一環である点を、各種コミュニケーションによって明確に伝えていくことが重要であると指摘した。この間、何人かの委員は、先行きの短期金利は、その時々の経済・物価情勢に応じて適切に設定していくことを、現時点では緩和的な金融環境が継続するとみていることとのバランスを取りながら、情報発信していくことが重要との見解を示した。別の委員は、経済・物価情勢に応じて、時間をかけてゆっくりと、しかし着実に金融正常化を進めることが適当であるとの見解を述べた。また、何人かの委員は、現時点では大きなリスクではないものの、経済主体の期待の非連続的な変化などによって、物価が上振れることもあり得ると指摘した。このうちの一人の委員は、今回の対応によって、こうしたリスクが顕在化した際も、より柔軟に対応しやすくなる面があると述べた。

以上のような委員の意見を受けて、議長は、執行部に対し、金融政策の枠組みの具体的な見直し方法について、考えられる対応案を示すよう指示した。執行部は、委員の意見を踏まえ、以下を内容とする対応案を示した。

  • まず、短期金利の操作を主たる政策手段とする枠組みへの移行について、以下の取扱いとすることが考えられる。
    • 「金融市場調節方針」として、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を0から0.1%程度に設定する。

      この方針を実現するため、当座預金(除く所要準備額)に0.1%の付利金利を適用する。調節方針および付利金利は翌営業日(3月21日)から適用する。

      なお、2022年9月以降、金額無制限で実施してきた共通担保資金供給オペについては、今後は、金融市場の状況を踏まえ、適宜の金額で実施する。

    • 長期国債の買入れは、これまでと概ね同程度の金額で継続する。ただし、長期金利が急激に上昇する場合は、毎月の買入れ予定額にかかわらず、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施する。

      実際の買入れは、従来同様、ある程度の幅をもって予定額を示すこととし、市場の動向や国債需給などを踏まえて実施する。

    • ETFおよびJ-REITは、新規の買入れを終了する。
    • CP等および社債等は、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに終了する。
    • 貸出増加支援資金供給、被災地金融機関支援オペ、気候変動対応オペは、貸付利率0.1%、貸付期間1年で実施する。貸出増加支援資金供給の資金供給額は、貸出増加額と同額までとする。
  • また、先行きの政策運営等について、以下の記述を行うことが考えられる。
    • 引き続き2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて、適切に金融政策を運営する。
    • 現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている。

執行部の説明に対し、多くの委員は、執行部の示した対応案は適当であるとの見解を共有した。この間、ある委員は、今回の政策枠組みの見直しも踏まえつつ、過去四半世紀の金融政策の在り方を幅広く振り返ることが必要であり、現在行われている多角的レビューを将来の政策に活かしていくことも重要であると指摘した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、多くの委員は、以下のとおりとすることが適当であるとの見解を示した。

「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0から0.1%程度で推移するよう促す。」

長期国債の買入れに関して、大方の委員は、以下のとおりとすることが適当であるとの見解を示した。

「これまでと概ね同程度の金額で長期国債の買入れを継続する。長期金利が急激に上昇する場合には、毎月の買入れ予定額にかかわらず、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施する。」

これらに対し、ある委員は、主として大企業に関係するETF買入れ等の終了には賛成であるが、「物価安定の目標」の実現を確実にするために、マイナス金利政策および長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みについては、大企業の改革成果の波及を通じた中小企業の「稼ぐ力」と賃上げ余力の高まりを確認するまで継続すべきとの意見を述べた。別のある委員は、金融環境に不連続な変化をもたらすリスクを避ける観点から、長短金利操作とマイナス金利政策の同時撤廃は避けるべきであり、今回はマイナス金利政策を維持することが妥当であるとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れに関して、委員は、ETFおよびJ-REITについて、新規の買入れを終了することが適当であるとの認識を共有した。また、委員は、CP等および社債等について、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了することが適当であるとの認識を共有した。

貸出増加支援資金供給等の新規実行分の扱いに関して、委員は、貸出増加支援資金供給、被災地金融機関支援オペ、気候変動対応オペについては、貸付利率を0.1%、貸付期間を1年として実施すること、貸出増加支援資金供給については、貸出増加額と同額までの資金供給が受けられる仕組みとすること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の基本的な考え方について、委員は、引き続き2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営するとの考え方で一致した。また、委員は、現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続するとの見方で一致した。

5.政府からの出席者の発言

以上の議論を踏まえ、政府からの出席者から、会議の一時中断の申し出があった。議長はこれを承諾した(11時39分中断、12時00分再開)。

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 提案は、引き続き、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成を目指すためのものと受け止めている。
  • 賃上げ率、設備投資等の前向きな動きの一方、個人消費は力強さを欠いており、海外経済のリスクも認識している。
  • 日本銀行は、引き続き緩和的な金融環境を維持すると示されているところ、引き続き、政府との緊密な連携のもと、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて、適切に金融政策運営が行われることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国の景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している。先行きについても、高い賃上げの継続をはじめ、雇用・所得環境が改善するもとで、各種政策効果もあって、緩やかな回復が続くと見込んでいる。
  • 提案のあった事項は、賃金と物価の好循環の進展という前向きな動きを踏まえたものであり、その認識は政府も共有できる。
  • 経済の回復をより強固にし、民需主導の持続的成長を実現するため、日本銀行には、引き続き、金融面から経済をしっかり支えていただく必要がある。
  • 日本銀行には、政府と緊密に連携し、十分な意思疎通を図りながら、共同声明にある2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を行うことを期待する。

6.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0から0.1%程度で推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:中村委員、野口委員

中村委員は、主として大企業に関係するETF買入れ等の終了には賛成であるが、マイナス金利政策は業績回復が遅れている中小企業の賃上げ余力が高まる蓋然性を確認するまで継続すべきとして反対した。野口委員は、賃金と物価の好循環の強まりを慎重に見極めるとともに、金融環境に不連続な変化をもたらすリスクを避ける観点から、長短金利操作とマイナス金利政策の同時撤廃は避けるべきとして反対した。

2.長期国債の買入れ方針

議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、長期国債の買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

長期国債の買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債の買入れについて、下記のとおりとすること。

これまでと概ね同程度の金額で長期国債の買入れを継続する。長期金利が急激に上昇する場合には、毎月の買入れ予定額にかかわらず、機動的に、買入れ額の増額や固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)、共通担保資金供給オペレーションなどを実施する。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:中村委員

中村委員は、金融市場調節方針と同様の理由で反対した。

3.長期国債以外の資産買入れ方針

議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、長期国債以外の資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

長期国債以外の資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、新規の買入れを終了する。
  2. CP等および社債等について、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了する。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

4.貸出増加支援資金供給等の新規実行分の扱い

議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、貸出増加を支援するための資金供給、被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション、気候変動対応を支援するための資金供給オペレーションについては、貸付利率を0.1%、貸付期間を1年として実施する、貸出増加を支援するための資金供給については、貸出増加額と同額までの資金供給が受けられる仕組みとすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

5.「補完当座預金制度基本要領」の一部改正等

議長から、金融政策の枠組みの見直しに伴い、「補完当座預金制度基本要領」の一部改正等に関する議案が提出され、採決に付された。採決の結果、賛成多数で決定され、会合終了後、速やかに公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:中村委員、野口委員

中村委員は、金融市場調節方針と長期国債の買入れ方針に反対したことを踏まえて、関連する部分の改正等に反対した。野口委員は、金融市場調節方針に反対したことを踏まえて、関連する部分の改正等に反対した。

6.対外公表文(「金融政策の枠組みの見直しについて」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「金融政策の枠組みの見直しについて」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.議事要旨の承認

議事要旨(2024年1月22、23日開催分)が全員一致で承認され、3月25日に公表することとされた。

以上


  • (注)短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    • 長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。本文に戻る

別紙

2024年3月19日
日本銀行

金融政策の枠組みの見直しについて

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、賃金と物価の好循環を確認し、先行き、「展望レポート」の見通し期間終盤にかけて、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した。これまでの「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みおよびマイナス金利政策は、その役割を果たしたと考えている。日本銀行は、引き続き2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営する1。現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている。

    以上を踏まえ、金融市場調節方針等については、以下のとおりとすることを決定した。

    1. (1)金融市場調節方針(賛成7反対2)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0から0.1%程度で推移するよう促す2

    2. (2)長期国債の買入れ(賛成8反対1)(注2)

      これまでと概ね同程度の金額3で長期国債の買入れを継続する。長期金利が急激に上昇する場合には、毎月の買入れ予定額にかかわらず、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施する。

    3. (3)長期国債以外の資産の買入れ(全員一致)
      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、新規の買入れを終了する。
      2. (2)CP等および社債等について、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了する。
    4. (4)貸出増加支援資金供給等の新規実行分の扱い(全員一致)

      貸出増加支援資金供給、被災地金融機関支援オペ、気候変動対応オペについては、貸付利率を0.1%、貸付期間を1年として実施する。貸出増加支援資金供給については、貸出増加額と同額までの資金供給が受けられる仕組みとする。

  2. わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している(別紙)。賃金を巡る環境を整理すると、企業収益は改善を続けており、労働需給は引き締まっている。こうしたもと、本年の春季労使交渉では、現時点の結果をみると、昨年に続きしっかりとした賃上げが実現する可能性は高く、本支店における企業からのヒアリング情報でも、幅広い企業で賃上げの動きが続いていることが窺われる。物価面では、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているが、これまでの緩やかな賃金上昇も受けて、サービス価格の緩やかな上昇が続いている。このように、最近のデータやヒアリング情報からは、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきており、先行き、見通し期間終盤にかけて、「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した。

以上


  • (注1)賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中川委員、高田委員、田村委員。反対:中村委員、野口委員。中村委員は、主として大企業に関係するETF買入れ等の終了には賛成であるが、マイナス金利政策は業績回復が遅れている中小企業の賃上げ余力が高まる蓋然性を確認するまで継続すべきとして反対した。野口委員は、賃金と物価の好循環の強まりを慎重に見極めるとともに、金融環境に不連続な変化をもたらすリスクを避ける観点から、長短金利操作とマイナス金利政策の同時撤廃は避けるべきとして反対した。本文に戻る
  • (注2)賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員。反対:中村委員。中村委員は、金融市場調節方針と同様の理由で反対した。本文に戻る

  1. マネタリーベースの残高に関するオーバーシュート型コミットメントについては、その要件を充足したものと判断する。本文に戻る
  2. この方針を実現するため、日本銀行当座預金(所要準備額相当部分を除く)に0.1%の付利金利を適用する。新たな金融市場調節方針および付利金利は、翌営業日(3月21日)から適用する。本文に戻る
  3. 足もとの長期国債の月間買入れ額は、6兆円程度となっている。実際の買入れは、従来同様、ある程度の幅をもって予定額を示すこととし、市場の動向や国債需給などを踏まえて実施していく。本文に戻る

(別紙)

経済・物価の現状と見通し

  1. わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。海外経済は、回復ペースが鈍化している。そうした影響を受けつつも、輸出は横ばい圏内の動きとなっている。鉱工業生産は、基調としては横ばい圏内の動きとなっているが、足もとでは、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響もあって減少している。企業収益が改善するもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。雇用・所得環境は緩やかに改善している。個人消費は、物価上昇の影響に加え、一部メーカーの出荷停止による自動車販売の減少などがみられるものの、底堅く推移している。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、政府の経済対策もあってエネルギー価格の寄与は大きめのマイナスとなっているものの、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰しつつも残るもとで、サービス価格の緩やかな上昇も受けて、足もとは2%程度となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。
  2. 先行きのわが国経済を展望すると、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰するもとで、政府による経済対策の反動がみられることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられる。その後は、これらの影響の剥落から、前年比のプラス幅は縮小すると予想される。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくと考えられる。
  3. リスク要因をみると、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。

以上