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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2024年10月30、31日開催分)

2024年12月24日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2024年12月18、19日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2024年10月30日(14:00から16:15)
 
10月31日( 9:00から11:41)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 植田和男 (総裁)
  • 氷見野良三(副総裁)
  • 内田眞一 ( 副総裁 )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 ( 審議委員 )
  • 野口 旭 ( 審議委員 )
  • 中川順子 ( 審議委員 )
  • 高田 創 ( 審議委員 )
  • 田村直樹 ( 審議委員 )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 寺岡光博 大臣官房総括審議官(30日)
  • 斎藤洋明 財務副大臣(31日)
  • 内閣府 林 幸宏 内閣府審議官(30日)
  • 赤澤亮正 経済財政政策担当大臣(31日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 高口博英
  • 理事 加藤 毅
  • 理事 清水誠一
  • 理事 諏訪園健司
  • 企画局長 正木一博
  • 企画局政策企画課長 長野哲平
  • 企画局政策調査課長 開発壮平(30日15:10から16:15)
  • 金融機構局長 鈴木公一郎
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 中村康治
  • 調査統計局経済調査課長 須合智広
  • 国際局長 近田 健
(事務局)
  • 政策委員会室長 播本慶子
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画役 丸尾優士
  • 企画局企画役 北原 潤
  • 企画局企画役 倉知善行

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節については、前回会合(9月19、20日)で決定された金融市場調節方針(注)に従って運営し、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、0.225から0.228%のレンジで推移した。

この間、長期国債の買入れについては、2024年9月は月間5.3兆円程度の買入れを行った。2024年10月は、2024年7月の会合で決定された減額計画に沿って、月間の買入れ額を4,000億円程度減額し、月間4.9兆円程度の買入れを行った。CP・社債等の買入れについては、2024年3月の会合で決定された資産買入れ方針に沿って、運営した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、翌日物金利のうち、無担保コールレートは0.25%程度で推移した。GCレポレートは、多少の振れを伴いつつも、概ね無担保コールレート並みの水準で推移した。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分低下した。

わが国の株価(TOPIX)は、小幅に上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、米国金利に連れつつ、小幅に上昇した。国債市場の流動性指標をみると、多くの指標で8月に一時的に悪化した水準からの改善方向の動きが続いている。為替相場をみると、円の対ドル相場は、米国の金利上昇等を受けて、円安方向の動きとなった。円の対ユーロ相場も、円安方向の動きとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、総じてみれば緩やかに成長している。米国経済は、FRBによる既往の利上げの影響を受けつつも、個人消費を中心に緩やかに成長している。欧州経済は、一部に弱さを残しつつも、下げ止まっている。中国経済は、政策面の下支えはあるものの、不動産市場や労働市場の調整による下押しが続くもとで、改善ペースが鈍化している。中国以外の新興国・資源国経済は、IT関連財を中心に輸出が持ち直すもとで、総じてみれば緩やかに改善している。

先行きの海外経済は、緩やかな成長が続くと考えられる。先行きの見通しを巡っては、各国中央銀行の既往の利上げの影響のほか、中国経済の動向や地政学的緊張の展開などについて、不確実性が高い。

海外の金融市場をみると、米国の長期金利は、市場予想比堅調な経済指標を受けて、大幅に上昇した。欧州の長期金利も、米国金利に連れつつ、小幅に上昇した。米国の株価は、市場予想比堅調な経済指標を受けて、小幅に上昇した。欧州の株価は、期間を通じてみれば横ばいとなった。この間、新興国通貨は米国経済の堅調さを映じたドル高を背景に、幅広い国で下落した。原油価格は期間を通じてみれば概ね横ばいとなった。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きについては、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。

輸出は、横ばい圏内の動きとなっている。先行きは、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくと見込まれる。

鉱工業生産は、横ばい圏内の動きとなっている。先行きは、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくと見込まれる。

企業収益は、改善している。業況感は良好な水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は、緩やかな増加傾向にある。先行きの設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、増加傾向を続けると予想される。

個人消費は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にある。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、4から6月に一部自動車メーカーの生産・出荷が再開されるもとで増加したあと、7から8月の4から6月対比も、サービス消費が基調としては緩やかに増加するもとで、猛暑効果による財の販売増加などもあって、小幅に増加した。企業からの聞き取り調査や高頻度データに基づくと、9月以降の個人消費は、物価上昇を受けた消費者の強い節約志向の影響を指摘する声は聞かれるものの、緩やかな増加基調にあるとみられる。消費者マインドは、下げ止まっている。先行きの個人消費は、当面、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加基調が続くと予想される。その後も、雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加を続けると考えられる。

雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い情報通信等を中心に、振れを伴いながらも緩やかな増加傾向にある。非正規雇用は、対面型サービス業などが増加傾向にある一方、労働需給が引き締まるもとで非自発的な理由による非正規雇用が減少傾向にあり、足もとでは横ばい圏内で推移している。一人当たり名目賃金は、春季労使交渉の結果や高水準の企業収益に支えられた賞与の増加を反映して、はっきりと増加している。先行きの雇用者所得は、名目賃金の伸び率上昇を反映して、はっきりとした増加を続けると考えられる。実質ベースでも、振れを伴いつつも、前年比プラス基調が定着していくと見込まれる。

物価面について、商品市況は、総じてみれば上昇している。国内企業物価(夏季電力調整後)の3か月前比は、既往の商品市況下落などを受けて伸び率を縮小し、小幅のプラスで推移している。企業向けサービス価格(除く国際運輸)の前年比は、人件費上昇等を背景に高めの伸びを続け、足もとでは2%台後半のプラスとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは2%台半ばとなっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価についてみると、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。なお、2025年度にかけては、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対して、政府による施策の反動が押し上げ方向で、このところの原油等の資源価格下落の影響などが押し下げ方向で、それぞれ作用すると見込まれる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、緩和した状態にある。

実質金利は、マイナスで推移している。企業の資金調達コストは、上昇しているが、総じてみればなお低水準で推移している。資金需要面をみると、経済活動の回復や企業買収の動きなどを背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、3%程度となっている。CP・社債計の発行残高の前年比は、3%台前半となっている。企業の資金繰りは、良好である。企業倒産は、このところ増勢が鈍化している。

この間、マネーストックの前年比は、1%台半ばとなっている。

(3)金融システム

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

大手行の収益は、貸出金利息を中心とする資金利益の増加や手数料収入などの非資金利益の増加などを背景に、堅調に推移している。この間、信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。

地域銀行の収益は、資金利益の増加などを背景に、堅調に推移している。この間、信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。

金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち11指標が、過熱でも停滞でもない状態となっており、株価等の3指標については、過熱方向にトレンドから乖離した状態となっている。金融ギャップは、ひと頃と比べてプラス幅が縮小した状態が続いている。株価や不動産価格の上昇ペースには引き続き留意が必要であるものの、全体としては金融活動に過熱感はみられない。ただし、金融活動が実体経済活動から大きく乖離することがないか、引き続き注視する必要がある。

2.金融政策の多角的レビューに関する執行部からの報告および委員会の検討の概要

1.執行部からの報告

2023年4月の金融政策決定会合における「金融政策の多角的レビュー」の実施決定以降、これまで、(1)内部での多くの関連分析、(2)家計・企業・金融機関へのアンケート調査やヒアリング、(3)政策委員会委員による金融経済懇談会等の意見交換、(4)国内外の有識者を招いたワークショップ等の開催など、多岐にわたる取り組みを実施してきた。また、金融政策決定会合においても、個別の論点について、議論を重ねてきた。

これらの取り組みを踏まえ、「金融政策の多角的レビュー」の最終公表物の取りまとめ方針および今後のスケジュールの案を作成した。

最終公表物では、最初に過去25年間の経済・物価・金融情勢と金融政策運営を振り返ったうえで、これらを踏まえて、やや長い目でみた金融政策運営への含意を整理することとしたい。また、多角的レビューの客観性や透明性を高める観点から、外部の有識者から、講評を受けることとしては如何かと考えている。

今後については、本日の議論を踏まえ、事務局案を作成し、12月の金融政策決定会合において改めて議論を行ったうえで、その「基本的見解」部分を議決することで如何かと考えている。そのうえで、同会合後、全文を対外公表することを展望している。

2.委員会の検討

委員は、執行部からの報告を踏まえ、公表物の編集方針や今後の取りまとめに向けたスケジュールについては、執行部案に沿って進めることが適当であるとの認識を共有した。また、委員は、今回の決定会合後の記者会見において、多角的レビューの取りまとめ方針と、次回12月の決定会合で多角的レビューを決定・公表する予定であることについて、対外的に説明することが適当であるとの認識を共有した。

そのうえで、委員は、多角的レビューを取りまとめていく際のポイントについて議論した。

1990年代後半以降、わが国がデフレに陥ったきっかけとして、何人かの委員は、バブル崩壊後の企業行動の変化等を指摘した。このうちの一人の委員は、資産価格の大幅下落や海外企業との競争激化、金融危機の経験といった様々な要因が、企業行動を大きく慎重化させたとの見解を示した。別のある委員は、企業が、業績が悪化するもとで、コストカットやサプライチェーンの海外展開および国内投資の抑制スタンスを強めたことも大きく影響したと述べた。

何人かの委員は、実際の物価上昇率がゼロ近傍で推移する期間が長引くもとで、賃金や物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が社会に定着したことが、デフレ・低インフレ環境からの脱却をより困難にしたとの認識を示した。このうちの一人の委員は、サービス価格の硬直性が高まったことが、とくに重要であると述べた。複数の委員は、多角的レビューの一環として行った大規模な企業アンケートや定量的な分析から、従来のマクロ中心の分析では捉えきれなかった企業の賃金・価格設定行動が明らかになったと指摘した。

こうした経済・物価情勢の評価を踏まえ、委員は、金融緩和が経済・物価に及ぼした影響について、議論した。2012年までの金融緩和について、ある委員は、ゼロ金利制約に直面するもとで十分な緩和効果を得られなかったものの、流動性の供給を通じて金融システムの安定性を維持したという点で大きな役割を果たしたと評価しているとの見解を示した。2013年以降の大規模な金融緩和について、何人かの委員は、しっかりと効果を発揮し、わが国がデフレではない状況を実現することに貢献したとの見解を示した。このうちの一人の委員は、大規模な金融緩和は、実質金利の低下を介して、経済・物価を刺激し、雇用は大幅に増加したと指摘した。別の一人の委員は、様々な定量的な分析によって大規模な金融緩和が経済・物価に及ぼした効果を確認できた意味は大きいと述べた。ある委員は、大規模な金融緩和は、名目金利の低下に加え、期待への働きかけという面でも、一定の効果を発揮したと述べた。一方、一人の委員は、2013年以降の金融緩和の個々の施策について、どれだけの効果があったかは定かではないと指摘した。また、この委員は、当初「2年で2%」という目標を示していたことについても検証するべきであるとの見解を示した。

そのうえで、何人かの委員は、大規模な金融緩和のもとでも、賃金・物価の上昇には想定以上に時間を要したと指摘した。このうちの一人の委員は、賃金や物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が社会に根付いてしまったことが、その背景にあると述べた。何人かの委員は、最近の家計や企業の期待形成や行動の変化には、コロナ禍後の輸入物価の大幅な上昇も重要な役割を果たしたと付け加えた。この間、複数の委員は、大規模な金融緩和の波及経路として、資産市場を介した経路が重要であったとの見解を示した。このうちの一人の委員は、大規模な金融緩和は、米欧中央銀行が大規模な資産買入れ等の非伝統的な金融政策を実施してきたというグローバルな状況も踏まえたうえで、評価する必要があると述べた。

委員は、大規模な金融緩和が金融市場や金融仲介機能、わが国経済の成長力等に及ぼしてきた影響についても議論した。複数の委員は、金融市場や金融仲介機能に及ぼした影響については、これまでの執行部の分析で効果と副作用の両面が明らかになってきており、これらについて中立的・客観的に記述していくことが適当であるとの認識を示した。大規模な金融緩和が、成長力等の経済の供給サイドに及ぼした影響について、複数の委員は、現時点で評価することは難しく、今後とも分析をしていく必要があるとの見解を示した。このうちの一人の委員は、金融緩和が生産性等に及ぼした影響など、結論が出ていない分野については、両論を併記すべきであると述べた。この点について、ある委員は、金融緩和がイノベーションを起こし成長を促進する効果はあまりみられなかったと付け加えた。

以上の大規模な金融緩和の効果と副作用を巡る議論を踏まえ、委員は、今後、多角的レビューを取りまとめていく際には、これらの効果と副作用を全体として評価する視点が重要であるとの認識を共有した。ある委員は、効果と副作用を全体として評価していく際には、客観性に十分に配慮する必要があると述べた。何人かの委員は、大規模な金融緩和は、一定の副作用はあったものの、経済・物価を押し上げる効果を発揮したと評価されると指摘した。このうちの一人の委員は、デフレ・低インフレ環境からの転換には、想定を大幅に超える時間やコストが必要となり、その中には副作用も含まれたと付け加えた。そのうえで、多くの委員は、本行のバランスシートの縮小に時間を要することなどを踏まえ、今後、副作用が遅れて顕在化する可能性がある点にも留意が必要であるとの見解を示した。このうちの一人の委員は、大規模な金融緩和の効果の評価も、先行き、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現するかで変化しうると付け加えた。

この間、ある委員は、幾つかの分析を通じて、賃金・物価が動きにくい経済では、相対価格調整を通じた資源配分機能が働かなくなる可能性があることが示されたと指摘したうえで、今後とも、金融政策はゼロ%ではなく2%の物価上昇を目指すことが重要であると述べた。この委員は、一旦非常に低いインフレが社会に定着すると、そうした状況から離脱することは容易ではないことは、金融政策運営上の教訓として受け継ぐ必要があるとの見解も示した。別の一人の委員は、2%の「物価安定の目標」のもとで金融政策を運営していくうえでは、その時々の物価上昇率の実績の数値よりも、物価変動の背後にあるメカニズムを把握することが重要であると指摘した。

3.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢の現状

国際金融資本市場について、委員は、市場センチメントはひと頃に比べて改善しているとの認識で一致した。その背景として、大方の委員は、米国において堅調な経済指標が相次いだことを指摘した。一人の委員は、米国経済の大幅な減速や、それを回避するための大幅な利下げによって、国際金融資本市場に大きな影響を及ぼすリスクは、前回会合時点対比でみれば低下したとの見解を示した。もっとも、この委員を含む多くの委員は、引き続き、国際金融資本市場の動向を注視していく必要があるとの認識を示した。複数の委員は、米国経済がソフトランディングしていくかどうか見極めにくい状況が続くもとで、今後の経済指標やFRBの金融政策運営に対する不透明感から、市場が変動しやすい展開が続く可能性があると指摘した。別の複数の委員は、最近の国際金融資本市場は、米国の大統領・議会選挙を巡る思惑で動いているところもあるとみられ、選挙後の市場動向を確認する必要があると述べた。

海外経済について、委員は、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。ある委員は、各国・地域の経済状況には、相応のばらつきがあるとの見解を示した。

米国経済について、委員は、FRBによる既往の利上げの影響を受けつつも、個人消費を中心に緩やかに成長しているとの認識で一致した。大方の委員は、前回会合以降の個人消費や雇用関連の指標がしっかりとしていたことなどを指摘したうえで、引き続き、ソフトランディングがメインシナリオとなると指摘した。このうちの一人の委員は、GDP統計の改定によって、家計貯蓄率が低下トレンドから横ばいに変化したことを指摘し、個人消費の持続性に期待が持てるとの見解を示した。別の一人の委員は、家計や企業のバランスシートは健全であり、金融環境も過度に引き締まっていないと述べた。この間、複数の委員は、新政権の政策運営が、経済・物価に及ぼす影響についても、注意が必要と指摘した。また、別の一人の委員は、米国の長期金利上昇が、今後もある程度持続するようなことがあれば、PERのようなバリュエーションの調整を起点として、株式や不動産等の資産価格が下落し、これが個人消費や設備投資等の実体経済に波及するといったように、米国経済を減速させるリスクがあるとの見方を示した。

欧州経済について、委員は、一部に弱さを残しつつも、下げ止まっているとの認識を共有した。ある委員は、欧州経済の弱さの背景として、エネルギーコストの高止まりや、高い賃金上昇率によるコスト上昇、EVなどでの中国企業との競争激化などを指摘した。別の一人の委員は、欧州の中でもドイツ経済にとくに弱めの動きがみられると指摘したうえで、その背景として、地政学的な要因とともに、中国経済の改善ペース鈍化の影響を指摘した。

中国経済について、委員は、政策面の下支えはあるものの、不動産市場や労働市場の調整による下押しが続くもとで、改善ペースが鈍化しているとの見方を共有した。何人かの委員は、不動産部門の調整には時間を要する可能性が高く、当局による政策対応によって景気の急減速は避けられたとしても、当面、経済の力強い回復は期待しがたいとの見方を示した。このうちの一人の委員は、家計の節約志向が強まるもとで、成長は外需頼みとなっているが、このことが貿易摩擦を生む要因ともなっていると指摘した。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、IT関連財を中心に輸出が持ち直すもとで、総じてみれば緩やかに改善しているとの認識を共有した。ある委員は、ASEANでは、中国との競争激化の影響が懸念されるとの見方を示した。

わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。また、委員は、企業の資金調達コストは上昇しているが、総じてみればなお低水準で推移しているとの見方を共有した。この間、一人の委員は、国債先物取引におけるチーペスト銘柄の需給ひっ迫というイールドカーブ・コントロールの副作用によって、国債市場の流動性の低下や金利の歪みが懸念されると指摘したうえで、それを軽減するため、国債補完供給の減額措置をためらうことなく利用してもらえるよう、引き続き促していくことが重要であると指摘した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しているとの認識を共有した。一人の委員は、個人消費の伸びは依然としてやや弱めながらも、生産、雇用、所得などは緩やかに伸びており、ほぼ想定通りの動きとなっていると付け加えた。ある委員は、企業・家計のマインドに関連して、中小企業の経営者からは、経営に影響が大きいのは金利よりも為替とする声が聞かれるほか、家計についても、各種のアンケート調査では円安の修正を歓迎しているようにみえると述べた。

輸出について、委員は、横ばい圏内の動きとなっているとの認識で一致した。

鉱工業生産について、委員は、横ばい圏内の動きとなっているとの見方を共有した。

設備投資について、委員は、企業収益が改善し、業況感は良好な水準を維持するもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識で一致した。

個人消費について、委員は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にあるとの認識で一致した。複数の委員は、今春以降の所定内給与の増加に加え、夏季賞与の増加もあって、所得面から個人消費が支えられてきているとの見解を示した。このうちの一人の委員は、6、7月の毎月勤労統計において実質賃金の前年比がプラスとなったことを指摘したうえで、消費者マインドも下げ止まっていると付け加えた。この間、一人の委員は、Eコマースの情報捕捉には限界があるほか、コロナ禍以降の消費者の行動変容の影響を統計で捉えることも容易ではないと指摘した。そのうえで、この委員は、企業の購買データを用いた価格戦略の高度化なども踏まえると、個人消費の情勢を判断するにあたり、マクロ統計に対する目線を上げすぎず、コロナ禍以前とは異なる基準で評価することが適切であるとの見解を示した。

雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。

物価面について、委員は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、足もとは2%台半ばとなっているとの認識で一致した。何人かの委員は、賃金上昇の影響が、物価面にも表れてきていると指摘した。そのうえで、このうちの複数の委員は、10月の東京都区部の消費者物価は、米の値上がりと、その影響により外食が上振れているが、それ以外は、サービス価格の改定の動きを含めて、ほぼ見通し通りと評価できるとの見解を示した。また、一人の委員は、今年の前半に進んでいた急速かつ一方的な円安が、7月末以降に、一旦反転したことで、輸入価格上昇が抑制されつつあり、その影響が企業物価や消費者物価にも徐々に波及しつつあるようにみえると指摘した。

この間、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの見方で一致した。

2.経済・物価情勢の展望

2024年10月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、わが国経済について、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続ける、との認識を共有した。

わが国の輸出について、委員は、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくとの見方で一致した。

鉱工業生産について、委員は、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくとの見方を共有した。

設備投資について、委員は、企業収益が改善傾向をたどるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、増加傾向を続けるとの見方で一致した。一人の委員は、需要が供給を下回る状況が続くもとでは、設備投資計画が先送りされる可能性があるとの見解を示した。

個人消費について、委員は、当面、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加基調が続くとの見方で一致した。また、その後についても、雇用者所得の改善が続くもとで、個人消費は緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。一人の委員は、今後は、実質賃金の上昇基調の定着により、個人消費の拡大基調がより明確になることが見込まれるとの見解を示した。この点に関連し、ある委員は、将来不安が家計の節約志向につながっており、これを払拭するためには、物価上昇を上回る賃金上昇が定着する必要があると指摘した。

雇用者所得について、委員は、名目賃金の伸び率上昇を反映して、はっきりとした増加を続けるとの見方を共有した。複数の委員は、人手不足のもと、中小企業も含めて賃上げの必要性が当然視される状況になっているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、大企業の一部からは、既に高めの賃上げの実施方針が示されているほか、中小企業についても、賃上げは難しいとの声は引き続きあるが、この時期としては賃上げに前向きな声が多くなっていると指摘した。こうしたもと、何人かの委員は、来年の春季労使交渉における賃上げ率は高い水準が続くと見込まれると指摘した。このうちの一人の委員は、過去3年間の消費者物価の上昇幅に一般労働者の所定内給与の上昇幅は追い付いていないと指摘したうえで、来年の春季労使交渉でもしっかりとした賃上げが実現する必要があるとの認識を示した。ある委員は、支店長会議では、中小企業は業績が厳しい中で人材係留目的の防衛的賃上げを行っているとの声も多く聞かれ、賃上げの持続性には懸念があると指摘した。そのうえで、この委員は、相応の時間がかかるが、持続可能な前向きな賃上げを実施できるよう、中小企業自身も生産性を高めるための一回り大きくなる事業構造改革に取り組むことが鍵になると述べた。この間、一人の委員は、人手不足による賃上げが賃金と物価の好循環をもたらすことが期待されるが、短期的には、労働供給の制約が、収益性の低い事業分野からの撤退に伴う事業縮小などを通じて、経済の成長を減速させるリスクもあると指摘した。

こうした議論を経て、委員は、中心的な成長率の見通しは、7月の展望レポート時点と比べると、概ね不変であり、先行きの景気展開に対する基本的な見方に変化はないとの認識を共有した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比について、今年度に2%台半ばとなったあと、2025年度および2026年度は、概ね2%程度で推移するとの見方で一致した。また、委員は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率について、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとの見方を共有した。2025年度にかけては、政府による施策の反動が前年比に押し上げ方向で、このところの原油等の資源価格下落の影響などが押し下げ方向で、それぞれ作用するとの認識も共有した。

一人の委員は、先行き物価が見通しに沿って推移していくか点検していく際、(1)賃金上昇が個人消費の拡大を通じて、需要面から物価を支えるか、(2)企業が、賃金の上昇を販売価格に転嫁するという供給側の経路が円滑に機能しているか、という両面をみていく必要があると指摘した。ある委員は、本年初から夏前にかけて進展した為替円安の一服や原油価格の下落を受けて物価の上振れリスクは低下しているが、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が変化しているもと、物価が上昇していく傾向は続くとの見方を示した。別の一人の委員は、今後の日米の財政政策の展開とそのもとでの為替相場の動向について、物価への影響を懸念しているとの見解を示した。この間、一人の委員は、従来のパターンでは輸入物価から消費者物価への波及がピークを迎えるのは概ね半年後と指摘したうえで、2年前にピークを付けた輸入物価上昇の消費者物価上昇率への影響は、遠くない先に出尽くす可能性があると指摘した。そうした認識を踏まえ、この委員は、観察される物価上昇率のどの程度が基調的なものなのか、よくみていくタイミングになってきていると付け加えた。

委員は、こうした中心的な物価の見通しを、7月の展望レポート時点と比べると、2025年度が、このところの原油等の資源価格下落の影響などから幾分下振れているとの認識を共有した。

次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について議論を行った。委員は、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高いとの認識で一致した。また、そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。

そのうえで、経済の主なリスク要因として、委員は、(1)海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向、(2)資源・穀物価格を中心とした輸入物価の動向、(3)わが国を巡る様々な環境変化が企業や家計の中長期的な成長期待や潜在成長率に与える影響、の3点を挙げた。

物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶほか、物価固有のリスク要因として、(1)企業の賃金・価格設定行動や、(2)今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及には注意が必要であるとの見方で一致した。そのうえで、委員は、とくに、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があるとの認識を共有した。

リスクバランスについて、委員は、各委員が示したリスク評価を全体として評価すると、(1)経済の見通しについては、概ね上下にバランスしている、(2)物価の見通しについては、2025年度は上振れリスクの方が大きい、との認識を共有した。

4.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す」という方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。一人の委員は、内外における不確実性の高まりを踏まえると、金融政策をより慎重に運営していく必要があり、今回は現状維持が適切と指摘した。何人かの委員は、これまでの政策金利引き上げの経済・物価への影響も見極める必要があると指摘した。このうちの一人の委員は、過去30年間、0.5%を上回る政策金利を経験してこなかったわが国では、いわゆる「金利のある世界」への移行には、相応の不確実性があるため、政策金利引き上げの判断は時間をかけて慎重に行う必要があるとの見解を示した。この間、ある委員は、経済・物価が想定通り推移する場合、早ければ2025年度後半に1.0%の水準まで段階的に利上げしていくパスを前提とすれば、経済・物価の進捗を見守る時間が今回はあるとの認識を示した。

先行きの金融政策運営について、委員は、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくという基本的な考え方を共有した。一人の委員は、基調的な物価上昇率が見通しに沿って上昇していけば、実質金利が自然利子率を下回る状況を維持しつつ、緩やかに政策金利を引き上げていくことが望ましいとの見方を示した。この間、別の一人の委員は、「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げていく」というコアメッセージを、しっかりと発信していくことが、市場とのコミュニケーションという観点からも重要であるとの認識を示した。

委員は、米国をはじめとする海外経済や金融資本市場の動向が、金融政策運営に及ぼす影響について議論した。何人かの委員は、米国経済のハードランディングのリスクや、ソフトランディングのために大幅な利下げが必要となる可能性は、若干和らいできていると指摘した。このうちの一人の委員は、金融資本市場には、引き続き神経質な動きはみられるが、8月のような流動性が大幅に低下した不安定な状況ではないと述べた。別の一人の委員は、株式市場や為替市場は落ち着きを取り戻しているほか、ポジションの大きな偏りもみられていないとの見解を示した。

そのうえで、多くの委員は、引き続き、米国経済をはじめとする海外経済や金融資本市場の動向を注視していく必要もあると指摘した。何人かの委員は、米国大統領選挙の結果次第では市場が大きく変動する可能性があり、十分備えておく必要があると述べた。このうちの一人の委員は、最近の米国金利上昇やドル高の背景には、米国経済指標の改善だけでなく、大統領・議会選挙への思惑もあり、市場が安定に向かっていると評価してよいかは留保が必要と指摘し、もともと緩やかなペースの利上げを想定している中で、大統領選挙後の状況を含め、今後の展開をみることはできるとの認識を示した。別の一人の委員は、過去5回のわが国の利上げ局面では、米国の利下げ後に利下げに転じたと指摘したうえで、今次局面は、日米の金融機関や企業、家計にバランスシート調整圧力は生じていないなど、状況が異なるとの見解を示した。この委員は、こうした状況を踏まえると、一時的に米国経済の動向を確認した後、政策金利の引き上げを展望していくべきと指摘したうえで、日米の金融政策の方向性が逆となるもとで為替を中心に市場が大きく変動することも考えられる中、仮に日本銀行の利上げを契機にショックが生じた場合、長期的にみた金融緩和の調整に支障が生じる可能性がある点にも留意する必要があると付け加えた。ある委員は、米欧のインフレ率低下や、グローバル市場での価格競争の影響もあって、物価の上振れ懸念は後退しているとの認識を示したうえで、多くの経済データにより、企業業績、設備投資、個人消費、価格転嫁率、企業による事業構造改革の動向等の実態を評価し、賃金と物価の好循環の持続性に対する自信が強まるまで、当面、政策金利は現状を維持すべきであると述べた。この間、複数の委員は、今後の米国の新政権の政策運営が米国の物価動向や金融資本市場に及ぼす影響次第では、金融資本市場の変動を通じて、わが国の物価の上振れリスクとなる可能性もあるとの認識を示した。ある委員は、相対的にリスク許容度の大きくない金融機関が、金利の水準が投資目線に届かない期間が続く中で、収益確保のために長期国債への投資を進め、リスクが増加する可能性もあると指摘した。

委員は、先行きの金融政策運営に対する市場の見方と情報発信についても議論を行った。ある委員は、日本銀行の経済・物価見通しや金融政策運営の考え方との対比でみて、市場金利は低い可能性があると指摘した。そのうえで、この委員は、日本銀行の考え方について、より丁寧な説明に努めることが重要であるとの見方を示した。この点に関連し、複数の委員は、市場参加者の多くは、日本銀行の政策運営の考え方を理解したうえで、展望レポートの見通しに沿って基調的な物価上昇率が高まっていくかについて不確実性が大きいとみているのではないか、と指摘した。そのうえで、このうちの一人の委員は、日本銀行としては、今後、見通しの確度が高まっていくのか丁寧に点検しつつ、情報発信していくことが重要であるとの見解を示した。ある委員は、中立金利の水準に加え、金融政策の波及メカニズムについても不確実性が高いもとで、政策金利の中期的なパスについて自信をもって市場に示していくことは難しいと述べた。

以上のような委員の意見を受けて、議長は、執行部に対し、先行きの金融政策運営について、どのような記述が考えられるか、案を示すよう指示した。執行部からは、(1)金融政策運営については、先行きの経済・物価・金融情勢次第であるが、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、「展望レポート」の経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている、(2)そのうえで、米国をはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある、(3)日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく、と記述することが考えられると報告した。

執行部の説明に対し、委員は、執行部の示した案は適当であるとの見解を共有した。ある委員は、執行部案は、最近の国際金融資本市場や海外経済の動向を踏まえたものとなっているとの認識を示した。別の委員は、8月以降、市場動向やその背景にある米国経済の動向を見極めていく必要がある局面が続き、そのための「時間的な余裕」があると説明してきたが、米国経済の不透明感が低下する中で、時間的余裕という言葉で情報発信をしていく局面ではなくなりつつあると指摘した。こうした議論を踏まえ、委員は、今後は、毎回の会合で、その時点で利用可能な各種のデータ等に基づき、海外経済や市場動向を含めた様々なリスク要因や見通しの確度を点検していくことを伝えていくことが重要であるとの認識を共有した。

5.政府からの出席者の発言

内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復していると認識している。ただし、海外景気の下振れ等に十分注意が必要である。
  • 「経済あっての財政」との考え方に立ち、デフレ脱却最優先の経済財政運営を行い、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」の実現を図る。
  • 日本銀行には、引き続き政府と緊密に連携し、十分な意思疎通を図りながら、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。

また、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • デフレ脱却最優先の経済財政運営を行う方針であり、その第一歩として、10月4日に総理から経済対策の策定指示があり、策定作業を進めている。今後、総合的な経済対策を決定し、補正予算を提出する。
  • 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。その上で、情報発信を含め、しっかりと金融資本市場とコミュニケーションを図っていただきたい。

6.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

2.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、11月1日に公表することとされた。

8.議事要旨の承認

議事要旨(2024年9月19、20日開催分)が全員一致で承認され、11月6日に公表することとされた。

以上


  • (注)「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す。」本文に戻る

別紙

2024年10月31日
日本銀行

当面の金融政策運営について

日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す。

以上