政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2024年12月18、19日開催分)
2025年1月29日
日本銀行
本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2025年1月23、24日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。
開催要領
- 1.開催日時:
- 2024年12月18日(14:00から16:00)
- 12月19日( 9:00から11:45)
- 2.場所:
- 日本銀行本店
- 3.出席委員:
- 議長 植田和男 (総裁)
- 氷見野良三(副総裁)
- 内田眞一 ( 副総裁 )
- 安達誠司 (審議委員)
- 中村豊明 ( 審議委員 )
- 野口 旭 ( 審議委員 )
- 中川順子 ( 審議委員 )
- 高田 創 ( 審議委員 )
- 田村直樹 ( 審議委員 )
- 4.政府からの出席者:
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- 財務省 寺岡光博 大臣官房総括審議官(18日)
- 斎藤洋明 財務副大臣(19日)
- 内閣府 林 幸宏 内閣府審議官(18日)
- 瀬戸隆一 内閣府副大臣(19日)
- (執行部からの報告者)
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- 理事 高口博英(18日15:15~16:00)
- 理事 加藤 毅
- 理事 清水誠一
- 理事 諏訪園健司
- 企画局長 正木一博
- 企画局政策企画課長 長野哲平
- 企画局政策調査課長 開発壮平(18日15:15から16:00)
- 金融機構局長 鈴木公一郎(18日15:15~16:00)
- 金融市場局長 藤田研二
- 調査統計局長 中村康治
- 調査統計局経済調査課長 須合智広
- 国際局長 近田 健
- (事務局)
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- 政策委員会室長 播本慶子
- 政策委員会室企画役 木下尊生
- 企画局企画役 八木智之
- 企画局企画役 北原 潤
- 企画局企画役 西野孝佑
1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節については、前回会合(10月30、31日)で決定された金融市場調節方針(注)に従って運営し、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、0.227~0.232%のレンジで推移した。
この間、長期国債の買入れについては、2024年7月の会合で決定された減額計画に沿って、月間4.9兆円程度の買入れを行った。CP・社債等の買入れについては、2024年3月の会合で決定された資産買入れ方針に沿って、運営した。
2.金融・為替市場動向
短期金融市場では、翌日物金利のうち、無担保コールレートは0.25%程度で推移した。GCレポレートは、振れを伴いつつも、概ね無担保コールレート並みの水準で推移した。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、上昇した。
わが国の株価(TOPIX)は、米国株価の上昇に連れつつも、米国の次期政権の関税政策に対する懸念等が重石となり、概ね横ばいとなった。長期金利(10年物国債金利)は、日本銀行による利上げが意識されるもとで、小幅に上昇した。国債市場の流動性指標をみると、改善方向の動きが続いている。債券市場サーベイにおける市場の機能度判断DIは、マイナス幅が縮小し、2015年11月調査以来の水準まで改善している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、日米金利差の動きに連れて上下にやや大きめに振れる展開となったが、期間を通じてみれば概ね横ばいとなった。円の対ユーロ相場は、円高方向の動きとなった。
3.海外金融経済情勢
海外経済は、総じてみれば緩やかに成長している。米国経済は、個人消費を中心に堅調に成長している。欧州経済は、一部に弱さを残しつつも、下げ止まっている。中国経済は、政策面の下支えはあるものの、不動産市場や労働市場の調整による下押しが続くもとで、改善ペースが鈍化している。中国以外の新興国・資源国経済は、IT関連財を中心に輸出が持ち直すもとで、総じてみれば緩やかに改善している。
先行きの海外経済は、緩やかな成長が続くと考えられる。先行きの見通しを巡っては、各国の政策運営の帰趨のほか、中国経済の動向や地政学的緊張の展開などについて、不確実性が高い。
海外の金融市場をみると、米国の長期金利は、次期政権のもとでの財政政策運営を巡る思惑から振れる場面もみられたが、期間を通じてみると小幅に上昇した。欧州の長期金利は、域内の軟調な経済指標を受けて、欧州中央銀行の利下げを織り込む動きが一段と進展し、低下した。米国の株価は、次期政権のもとでの拡張的な財政政策や規制緩和に対する期待の高まり等を受けて、上昇した。この間、新興国通貨は、米国の次期政権の政策展開を巡る思惑を受けたドル高を背景に、幅広い国で下落した。原油価格は、横ばい圏内で推移した。
4.国内金融経済情勢
(1)実体経済
わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きについては、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。
輸出は、横ばい圏内の動きとなっている。先行きは、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくと見込まれる。
鉱工業生産は、横ばい圏内の動きとなっている。先行きは、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくと見込まれる。
企業収益は、改善傾向にある。業況感は良好な水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は、緩やかな増加傾向にある。先行きの設備投資は、企業収益が改善傾向を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、増加傾向を続けると予想される。
個人消費は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にある。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、7~9月に、サービス消費が基調として緩やかに増加するもとで、猛暑効果や自然災害に備えた財の販売増加などもあって増加したあと、10月の7~9月対比は、猛暑効果や備蓄需要の反動減に加え、残暑による秋冬物衣料の販売不調もあって、非耐久財を中心に減少した。企業からの聞き取り調査や高頻度データに基づくと、11月以降の個人消費も、物価上昇を受けた消費者の強い節約志向の影響を指摘する声は聞かれるものの、緩やかな増加基調にあるとみられる。消費者マインドは、横ばい圏内の動きとなっている。先行きの個人消費は、当面、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加基調が続くと予想される。その後も、雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加を続けると考えられる。
雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い情報通信等を中心に、振れを伴いながらも緩やかな増加傾向にある。非正規雇用は、対面型サービス業などが増加傾向にある一方、労働需給が引き締まるもとで非自発的な理由による非正規雇用が減少傾向にあり、足もとでは横ばい圏内で推移している。一人当たり名目賃金は、春季労使交渉の結果などを反映して、はっきりと増加している。先行きの雇用者所得は、名目賃金の伸び率上昇を反映して、はっきりとした増加を続けると考えられる。実質ベースでも、振れを伴いつつも、前年比プラス基調が定着していくと見込まれる。
物価面について、商品市況は、総じてみれば小幅に下落している。国内企業物価の3か月前比は、米類の価格上昇に加え、円安の影響や政府による電気・ガス代の負担緩和策縮小もあって、プラス幅を拡大している。企業向けサービス価格(除く国際運輸)の前年比は、人件費上昇等を背景に高めの伸びを続け、足もとでは3%程度のプラスとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは2%台前半となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価についてみると、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。なお、来年度にかけては、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対して、政府による施策の反動が押し上げ方向で、既往の原油等の資源価格下落の影響などが押し下げ方向で、それぞれ作用すると見込まれる。
(2)金融環境
わが国の金融環境は、緩和した状態にある。
実質金利は、マイナスで推移している。企業の資金調達コストは、上昇しているが、総じてみればなお低水準で推移している。資金需要面をみると、経済活動の回復や企業買収の動きなどを背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、3%台前半となっている。CP・社債計の発行残高の前年比は、2%台後半となっている。企業の資金繰りは、良好である。企業倒産は、このところ増勢が鈍化している。
この間、マネーストックの前年比は、1%台前半となっている。
2.金融政策の多角的レビュー
1.執行部からの報告
2024年10月の金融政策決定会合における議論を踏まえ、「金融政策の多角的レビュー」の取りまとめ案を作成した。最初に、本日、議決頂く「基本的見解」の内容について、報告する。
「基本的見解」では、まず、1990年代後半以降のわが国の経済・物価・金融情勢を整理した。その後、この間の金融政策運営について、(1)2010年代初頭までの金融政策運営、(2)2013年以降の大規模な金融緩和の経済・物価への影響、(3)大規模な金融緩和の市場機能や金融仲介機能、成長力等への影響を整理したうえで、大規模な金融緩和の効果と副作用について、全体として評価している。具体的には、レビューで実施した諸分析や委員の議論を踏まえ、「大規模な金融緩和について効果と副作用を評価すると、金融市場や金融機関収益などの面で一定の副作用はあったものの、現時点においては、全体としてみれば、わが国経済に対してプラスの影響をもたらしたと考えられる。ただし、今後、なお低下した状態にある国債市場の機能度の回復が進まない、あるいは大規模な金融緩和の副作用が遅れて顕在化するなど、マイナスの影響が大きくなる可能性には留意が必要である」と記述した。
先行きの金融政策運営への含意については、4つのポイントを記載している。
1つ目は、非伝統的な金融政策運営の考え方である。非伝統的な金融政策手段は、経済・物価を押し上げる効果を発揮したこと、ただし、その定量的な効果は、短期金利の操作に比べて不確実であり、同手段を大規模かつ長期間にわたって継続する場合には、副作用をもたらしうること、今後、非伝統的な金融政策手段を用いる必要が生じた場合には、その時点の経済・物価・金融情勢のもとで、ベネフィットとコストを比較衡量していくことが重要であること、などを記述している。
2つ目は、2%の「物価安定の目標」についてである。非伝統的な金融政策手段は、短期金利操作の完全な代替手段になりえないことを踏まえると、ゼロ金利制約に直面しないように、景気悪化時に実質金利を引き下げる余地を確保する必要があること、消費者物価指数にはバイアスがあること、主要先進国の多くは物価目標を2%に設定していること、金融政策運営にあたって、物価上昇率の実績だけでなく、物価の基調を捉えていくことが重要であること、などを指摘したうえで、引き続き、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、金融政策を運営していくことが適切であると整理している。また、レビューで実施したアンケート等にも言及し、デフレ・低インフレ環境下では、個々の品目の価格や賃金が動きにくかったことが資源配分の歪みや企業の前向きな投資の抑制につながっていた可能性があることも指摘している。
3つ目は、財政政策と金融政策の関係、4つ目は、個々の政策手段を巡る論点を整理している。現時点においては、将来の政策運営を考えるうえで特定の手段を除外するべきではないが、今後、各手段の採用を検討する際には、留意点等を勘案し、可能な限り副作用を抑制しながら効果を発揮できるよう、制度設計していく必要があることなどを指摘している。
取りまとめ案では、「基本的見解」の後に、「背景説明」、「補論」で、基本的見解の背景となる分析をまとめている。また、その後には、レビューの原案に対する金融経済の専門家8名による「有識者講評」を掲載する構成としている。
2.委員会の検討
委員は、執行部による取りまとめ案は、これまでの委員会での議論に沿ったものであり、これを「金融政策の多角的レビュー」として決定したうえで会合終了後に公表することが適当であるとの認識で一致した。何人かの委員は、今回のレビューは様々な視点から1990年代後半以降の経済・物価・金融情勢や政策運営を分析したものであり、やや長い目でみた政策の在り方を考えるうえで、材料を提供するものになったとの認識を示した。このうちの一人の委員は、レビューでは、非伝統的な手段のベネフィットとコストが確認されたほか、ゼロ金利制約を避けるためプラスの物価上昇率を安定して実現することの重要性を改めて示す結果となったと指摘した。これに関連し、ある委員は、2.0%という数値に拘るのではなく、その背後にあるメカニズムが、「物価安定の目標」と整合しているかをみていくことが望ましいとの見方を示した。また、この委員は、経済の供給サイドに対する副作用について明確な結論が得られていないうえ、今後、副作用が遅れて顕在化するなど、マイナスの影響が大きくなる可能性があることから、最終的に大規模な金融緩和がプラスの影響をもたらしたといえるかどうかは、現時点では分からないとの見方を示した。この間、複数の委員は、レビューの結果について、今後、様々な場を活用して、対外的に丁寧な情報発信をしていくことが重要であるとの見解を示した。
そのうえで、何人かの委員は、今回のレビュー結果も踏まえつつ、今後、幾つかの点について、更に分析を深めていく必要もあると指摘した。このうちの一人の委員は、現在は金融政策の正常化の過程にあることを踏まえると、有識者から示された視点──デフレのコスト、家計への影響、財政とマネーフロー等──も意識しつつ、大規模な金融緩和の影響について、引き続き分析をしていく必要があると述べた。別の一人の委員は、個別の政策手段の効果・副作用の詳細などについて、更に理解を深めていく必要があると指摘した。また、この委員は、金融緩和の長期化が問題をもたらすことはないのか、例えば、過度な円安の進展や都心住宅価格の高騰などが経済や国民生活に与える影響なども、丁寧にフォローしていく必要があると述べた。ある委員は、有識者講評で指摘された経済構造の変化と金融政策の効果との関係は今後の重要な論点であると指摘した。
この間、一人の委員は、金融仲介活動などの面で、大規模な金融緩和の副作用が遅れて顕在化する可能性には留意が必要とのレビューの結論も踏まえると、今後、金融機構局の担当理事および局長が、展望レポートを決定する年4回の会合以外の決定会合にも出席することが望ましいとの見解を示した。そのうえで、この委員は、政策委員会の問題意識を共有することは、金融機関モニタリングにも資すると述べた。別の一人の委員は、金融機構局の出席は、金利の上昇が金融システムに及ぼす影響をみていくうえでも有益と指摘した。これらの議論を踏まえ、委員は、金融システムの動向に一層目配りする観点から、今後、毎回の金融政策決定会合に金融機構局の出席を求めることが適当との認識で一致した。
3.採決
以上の議論を踏まえ、議長から、「金融政策の多角的レビュー」の「基本的見解」の議案が提出され、採決に付された。
採決の結果、全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。
3.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要
1.経済・物価情勢
国際金融資本市場について、委員は、市場センチメントは秋口以降、改善傾向を辿っているものの、米国の次期政権の政策運営を巡る不確実性が意識されているとの見方を共有した。
海外経済について、委員は、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。複数の委員は、国・地域の経済状況に大きなばらつきがある中で、引き続き金融政策の方向性にも違いがみられると指摘した。
米国経済について、委員は、個人消費を中心に堅調に成長しているとの認識で一致した。先行きについて、委員は、この間に公表された経済指標等も踏まえると、引き続き、ソフトランディングがメインシナリオとなるとの認識を共有した。何人かの委員は、夏場に懸念された労働市場が急速に悪化するリスクは後退しており、個人消費に支えられた経済成長の持続が確認されてきていると指摘した。もっとも、多くの委員は、米国の次期政権の政策運営を巡る不確実性は高く、その経済・物価への影響を注視していく必要があるとの認識を示した。複数の委員は、次期政権の政策運営が米国の経済・物価に及ぼす影響は、採用される具体策によるところが大きく、現時点では見極め難いと指摘した。別の一人の委員は、政策運営やそれも受けた経済情勢に関する不確実性が高いもとで、指標発表等で市場が大きく変動する可能性に引き続き留意が必要と付け加えた。また、複数の委員は、米国の次期政権の政策運営は、米国の経済・物価情勢のみならず、世界経済や国際金融資本市場にも大きな影響を及ぼし得るものであるとの認識を示した。この間、何人かの委員は、米国の次期政権が採用を検討しているとされる政策は、米国のインフレを高める方向に作用しうるとの見方を示した。このうちの一人の委員は、財政面からの下支えが期待されることから、ソフトランディングというより、むしろ早い時期に経済が再加速することも想定されると述べた。別の一人の委員は、米国経済の不確実性は、8月に比べれば焦点が下方リスクから上方リスクにシフトしていると指摘した。
欧州経済について、委員は、一部に弱さを残しつつも、下げ止まっているとの認識を共有した。複数の委員は、欧州中央銀行の利下げが下支えとなる一方、ドイツ・フランスでは政治情勢を巡る不透明感の高まりが経済の重石となっているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、米国の次期政権の通商政策は欧州経済にも大きな影響を与え得ると指摘した。
中国経済について、委員は、政策面の下支えはあるものの、不動産市場や労働市場の調整による下押しが続くもとで、改善ペースが鈍化しているとの見方を共有した。先行きについて、複数の委員は、財政支出や金融緩和が引き続き下支えに作用すると見込まれるものの、不動産市場や労働市場の調整圧力は継続する可能性が高いと指摘した。そのうえで、これらの委員は、過剰供給能力を背景とした貿易摩擦の拡大も懸念されると付け加えた。
中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、IT関連財を中心に輸出が持ち直すもとで、総じてみれば緩やかに改善しているとの認識を共有した。
以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。
わが国の景気について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しているとの見方を共有した。委員は、前回会合以降の経済動向は、10月の「展望レポート」の見通しに概ね沿ったものとの認識で一致した。
景気の先行きについて、委員は、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けるとの認識を共有した。
輸出・鉱工業生産について、委員は、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。一人の委員は、トレンドが明確に上向かない背景として、労働力不足から企業が生産拠点を海外に移転している可能性や電気自動車の世界的な普及に伴い他国にシェアを奪われている可能性などを指摘した。
設備投資について、委員は、企業収益は改善傾向にあり、業況感は良好な水準を維持するもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識で一致した。ある委員は、短観における企業の設備投資計画は高めの増加を維持しており、企業収益が設備投資に向かう前向きの循環に変化はないと指摘した。
雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。ある委員は、最近になって、これまで以上に幅広い層で非労働力人口が減少していると指摘したうえで、労働需給の一段の引き締まりを示唆しているとの見解を示した。また、多くの委員は、人手不足が強まるもと、企業業績が改善傾向を続けていることもあって、今後とも名目賃金は高めの伸びを続けることが見込まれるとの見方を示した。このうちの一人の委員は、人手不足が強まる中、収益水準の高い大企業が先導するかたちで、来年の春季労使交渉でも相応に高い賃上げが実現する可能性が高まってきたとの見方を示した。別の一人の委員は、賃上げを収益の還元策ではなく人手確保のための手段・前提であるとする企業行動のパラダイムシフトが起きていると指摘したうえで、来年の春季労使交渉では2%の物価上昇と整合的なしっかりとした賃上げが期待できると述べた。ある委員は、政府の施策もあって価格転嫁の動きが広がっていると指摘したうえで、最低賃金の引き上げとも相まって、幅広い先で賃上げが続くことが期待されるとの見解を示した。この間、何人かの委員は、メインシナリオとしては賃上げの継続が想定されるものの、現時点では、実際に来年も高い賃上げが継続するかについて十分な情報が得られておらず、不確実性が高いと指摘した。この点に関連し、一人の委員は、中小企業の中には、マクロでみた収益環境改善の恩恵を受けていない一方、最低賃金やパート賃金の大きめの上昇から強い賃上げ圧力に直面している先もみられると述べた。そのうえで、この委員は、企業規模などの属性別に物価上昇や賃上げの影響は異なっており、企業間のばらつきが大きい点には留意が必要との見方を示した。ある委員は、中小企業の賃上げには収益の拡大を伴わない防衛的なものもみられ設備投資との両立が難しい状況が窺われると指摘したうえで、企業は賃金の持続的な向上に向け、稼ぐ力の向上努力を続ける必要があり、地域金融機関にも中小企業が生産性向上に必要な一回り大きくなる構造改革の伴走支援強化を期待していると付け加えた。
個人消費について、委員は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にあるとの認識で一致した。先行きについても、委員は、当面、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加基調が続くとの見方を共有した。一人の委員は、消費者の値上げに対する姿勢は未だに厳しいとみられることから、個人消費増加の持続性を評価するにあたっては、家計のマインドセットの変化を見極めることが重要であると指摘した。別の一人の委員は、物価上昇の見通しが更に強まれば、堅調さを維持している個人消費が下振れるリスクが大きくなるとしたうえで、様々な物価・予想物価の指標を用いつつ、物価上昇が個人消費に及ぼす影響を評価する必要があると述べた。また、ある委員は、中小企業では防衛的賃上げが多いとみられることから、その従業員は賃上げの持続性に漠たる不安を抱えており、根強い節約志向の背景となっていると指摘した。
物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは2%台前半となっているとの認識で一致した。ある委員は、消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)の季節調整済前月比は、6月以降、明確に加速し、均してみると年率3%台半ばの上昇が継続していると指摘した。この点に関連し、複数の委員は、原材料費・人件費を価格転嫁する動きは概ね想定通りであるものの、米価格の高騰が、このところの物価を押し上げていると指摘した。ある委員は、購入頻度の高い米価格の上昇は、数字以上に強い影響を家計の心理に及ぼしている可能性があるとの見解を示した。
予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの評価で一致した。一人の委員は、企業の予想物価上昇率は、短観では既に2%超となっているほか、家計の予想物価上昇率について、変化の局面ではより幅をもってみる必要があることを踏まえると、既に2%に到達している可能性も考えられると指摘した。
物価の先行きについて、委員は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとの見方を共有した。一人の委員は、最近のデータは、物価の見通しが、現実の物価上昇率が2%に向けて緩やかに低下する一方、予想物価上昇率が2%に向けて徐々に高まっていくという「展望レポート」で想定してきた道筋を辿っていることを示しており、見通し実現の確度は高まっているとの認識を示した。別の一人の委員は、企業は賃金上昇等のコストを十分に転嫁することに躊躇せざるをえない状況にあり、賃金上昇の価格転嫁を通じてサービス価格がしっかりと上昇するまでには、時間を要すると述べた。そのうえで、この委員は、現時点では、賃金が上振れるリスクより下振れるリスクをより注視していると付け加えた。これに対して、ある委員は、2022年に原材料価格の上昇を価格転嫁する動きが急激に広がったときのように、足もとでは、人件費や物流費の上昇を転嫁する動きが急速に広がりつつある可能性があるとの見方を示した。別の委員は、金融緩和の度合いが強い状況が続くもとで、基調的な物価上昇率が非線形的に加速する可能性はあり、その兆候がないか、丁寧に分析していくことが肝要であると指摘した。
経済・物価の見通しのリスク要因として、委員は、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高いとの認識で一致した。また、委員は、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。そのうえで、委員は、特に、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があるとの認識を共有した。この間、何人かの委員は、本年前半の為替円安や原油価格上昇が進んだ局面と比べると、足もとでは、輸入物価上昇を受けた物価上振れリスクは後退した状況にあると指摘した。この点に関連し、一人の委員は、米国の次期政権の政策運営が為替市場に及ぼしうる影響について、インフレ率上昇、金利高、ドル高というルートが考えられる一方、輸出産業重視のためにドル安を志向する可能性もあり、留意が必要との見方を示した。別の一人の委員は、為替相場はひと頃に比べてかなり円安の水準が続いており、為替相場のミスアラインメントが拡大すると、調整時のショックが大きくなりかねないと指摘した。
2.金融面の動向
わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。また、委員は、企業の資金調達コストは、上昇しているが、総じてみればなお低水準で推移しているという評価を共有した。一人の委員は、地域金融機関において地域の資金需要の伸びが限られるもとで不動産向けの貸出が増加している点について、引き続き丁寧にみていく必要があるとの見解を示した。
4.金融政策運営に関する委員会の検討の概要
以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。
まず、当面の金融政策運営の考え方について、委員は、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくということが基本となるとの認識で一致した。多くの委員は、経済・物価は、従来の見通しに沿って推移していると指摘した。ある委員は、物価上昇が3年程度継続していることや、輸入物価が上昇すれば、それが基調的な物価上昇率を押し上げる可能性もあることを踏まえると、過度に緩和が継続するとの期待を高めるべきではなく、適宜のタイミングで金融緩和の度合いを調整していくことが必要であるとの見解を示した。一人の委員は、一部にみられる日本銀行が財務を懸念して政策金利の引き上げができないとの見方を払拭するためにも、現実的なスケジュールでの利上げによる本行財務の影響は限定的であり、健全性が保たれることを示していく必要があると指摘した。
そのうえで、委員は、具体的に金融緩和の度合いを調整するタイミングについては、様々なデータや情報を丹念に点検したうえで、判断する必要があるとの認識を共有した。複数の委員は、金融緩和の度合いを調整する際には、その必要性や根拠を分かりやすく説明することが望ましいと指摘した。
こうした考え方のもとで、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す」という方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。
これらの委員は、(1)賃金と物価の好循環の強まりを確認するという視点から、来年の春季労使交渉に向けたモメンタムなど今後の賃金の動向についてもう少し情報が必要であるほか、(2)現時点では、米国をはじめとする海外経済の先行きは引き続き不透明であり、米国の次期政権の経済政策を巡る不確実性も大きい状況が続いている、との認識を共有した。また、何人かの委員は、現時点では、物価の上振れリスク等は相応に抑制されており、利上げを急ぐ理由とはならないとの見解を示した。このうちの一人の委員は、輸入物価は落ち着いており、円キャリー取引が積み上がる状況でもないほか、内生的にも、この3年間の賃金の上昇は物価上昇に追い付いておらず、高めの賃上げが実現することが望まれる状況にあると指摘した。更に、この委員は、利上げ判断の焦点は、国内面では、賃金・サービス価格・個人消費の動き、海外では米国の経済と政策運営、そのもとでの金融資本市場の動向であると指摘したうえで、賃金では春季労使交渉に向けた動きを、米国では新政権発足を確認したいと述べた。複数の委員は、春季労使交渉に向けたモメンタムについて、新年行事における経営者の発言や支店長会議での報告などを通じて、確認していく必要があるとの見解を示した。別の一人の委員は、米価格の高騰や粘着性が比較的高いと考えられるサービス価格の上昇等によって、足もとの物価の実勢は強めとなっているが、予想物価上昇率は安定して推移しており、今後、物価が加速度的に上昇していく状況にはないと指摘した。そのうえで、この委員は、米国の次期政権の経済政策に加え、国内における税制・財政を巡る議論の行方についても大きな不確実性があり、リスクマネジメントという観点から、今回は現状維持とすることが適切との見解を示した。ある委員は、(1)大・中堅企業や比較的規模の大きい中小企業の労働分配率が低下を続け明るい兆しがみえる一方、依然多くの中小企業の稼ぐ力の改善は力強さに欠ける、(2)海外経済についても欧州・中国の回復の遅れや米国の経済政策などを巡る不確実性が高いほか、海外企業との競争激化も懸念される、と指摘したうえで、経済改善の進捗をデータで確認する必要があるため、当面は現状の金融政策を維持することが適当であるとの認識を示した。
この間、一人の委員は、ビハインドザカーブに陥るリスクは限定的だが、基調的な物価上昇率は着実に底上げされていると指摘したうえで、利上げを判断する局面は近いが、現段階では、米国経済の不確実性が一巡するのを今しばらく注視する辛抱強さも必要であると述べた。別の一人の委員は、経済・物価は、本年3月時点の見通しに沿って推移しており、海外経済を巡る不確実性は引き続き高いものの、金融緩和の度合いを調整することができる状況であるとの認識を示した。そのうえで、この委員は、12月は市場参加者の取引やリスクテイクが低調になり市場が急激に変化しやすいほか、7月の利上げの影響をもう少し見極める必要もあることから、今回の会合では現状維持が適切との見方を示した。
一方、一人の委員は、今回の決定会合で、政策金利を0.5%程度に引き上げることが望ましいとの見解を示した。この委員は、(1)経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいることを踏まえると、データやヒアリング情報に基づいてフォワードルッキングに、金融緩和の度合いを適時・段階的に調整していくことが、物価の安定を通じた国民経済の健全な発展に資する、(2)物価の上振れリスクが顕在化した際に急速に金利を引き上げ、経済に大きなショックを与えることを避けるためにも、現時点で、金融政策のアクセルを少しだけ緩め、必要な場合に急ブレーキを避けつつ減速できるようにするべきである、と指摘した。
委員は、先行きの金融政策運営に関連して、中立金利と金融政策運営の関係についても議論を行った。ある委員は、中立金利に近づいていけば、経済・物価の反応を慎重に見極めるために利上げのペースを落とす必要があるとの見方を示したうえで、中立金利からまだ距離がある現時点では、適時のタイミングで利上げを行っていくことが望ましいとの見方を示した。一方、一人の委員は、経済・物価が見通しに沿って推移しているもとでは、金融緩和の度合いを調整するタイミングは、目標達成時点に予想される金利水準からみた利上げペースに加え、それぞれの時点での上下双方のリスク要因の評価にも依存するとの見解を示した。別の委員は、経済構造が変化しつつある局面で、過去の長く続いたデフレ期を多く含む経済・物価の実績から推計した中立金利を用いて、利上げの時期を決める議論には違和感があると指摘した。この点に関連し、一人の委員は、今次利上げ局面での米国経済の動向をみても、企業の財務状況が貯蓄超過方向へ大きく変化しているもとで、政策金利の変更が経済に及ぼす影響が変化している可能性も考慮する必要があるとの認識を示した。また、別の一人の委員は、実質金利と自然利子率の関係について、多くのモデルでは、実質金利がきわめて低い水準にあるにもかかわらず、経済・物価に加速感がみられないことから、自然利子率を低めに推計しているが、実際には、予想物価上昇率はサーベイ等が示すほどには高まっておらず、実質金利が見かけほど低くない可能性もあり、その場合には、自然利子率はさほど低下していないとの見方もできる、と述べた。そのうえで、この委員は、こうした解釈の違いにより、やや長い目でみた金融政策運営への含意は異なりうるとの見解を示した。
5.政府からの出席者の発言
財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- 政府は、経済対策・令和6年度補正予算の政策の迅速かつ適切な執行を通じて、賃金上昇が物価上昇を安定的に上回る経済を実現し、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行を進める。
- 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。その上で、情報発信を含め、しっかりと金融資本市場とコミュニケーションを図っていただきたい。
また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- わが国経済は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復していると認識している。ただし、海外景気の下振れリスク等の不確実性に十分注意が必要である。
- 政府は、経済対策・補正予算を迅速かつ着実に実行し、日本経済がコストカット型から成長型経済に移行できるよう万全を期す。
- 日本銀行には、引き続き政府と緊密に連携し、十分な意思疎通を図りながら、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。
6.採決
1.金融市場調節方針
以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出された。
金融市場調節方針に関する議案(議長案)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。
記
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す。
これに対して、田村委員からは、経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいるとして、以下の議案が提出された。
金融市場調節方針に関する議案(田村委員案)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。
記
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す。
議長から提出された議案および田村委員から提出された議案が、田村委員案、議長案の順に採決に付された。
金融市場調節方針に関する議案(田村委員案)は、採決の結果、反対多数で否決された。
採決の結果
- 賛成:田村委員
- 反対:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員
金融市場調節方針に関する議案(議長案)は、採決の結果、賛成多数で決定された。
採決の結果
- 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員
- 反対:田村委員
2.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)
以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。
7.議事要旨の承認
議事要旨(2024年10月30、31日開催分)が全員一致で承認され、12月24日に公表することとされた。
以上
- (注)「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す。」本文に戻る
別紙
2024年12月19日
日本銀行
当面の金融政策運営について
- 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成8反対1)(注)。
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す。
- わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。海外経済は、総じてみれば緩やかに成長している。輸出や鉱工業生産は横ばい圏内の動きとなっている。企業収益は改善傾向にあり、業況感は良好な水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。雇用・所得環境は緩やかに改善している。個人消費は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にある。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは2%台前半となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。
先行きのわが国経済を展望すると、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。消費者物価(除く生鮮食品)については、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、その基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。なお、来年度にかけては、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対して、政府による施策の反動が押し上げ方向で、既往の原油等の資源価格下落の影響などが押し下げ方向で、それぞれ作用すると見込まれる。
リスク要因をみると、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。とくに、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある。
- 本会合では、2023年4月以降実施してきた「金融政策の多角的レビュー」を取りまとめた。「多角的レビュー」では、過去25年間のわが国の経済・物価・金融情勢について振り返ったうえで、非伝統的な金融政策運営の効果と副作用を点検し、先行きの金融政策運営への含意を整理した。日本銀行は、本レビューの結果も活用しつつ、引き続き、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく。
以上
- (注)賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員。反対:田村委員。田村委員は、経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいるとして、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するよう促すとする議案を提出し、反対多数で否決された。本文に戻る