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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2025年3月18、19日開催分)

2025年5月8日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2025年4月30日、5月1日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2025年3月18日(14:00から15:42)
 
3月19日( 9:00から11:18)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 植田和男 (総裁)
  • 氷見野良三(副総裁)
  • 内田眞一 ( 副総裁 )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 ( 審議委員 )
  • 野口 旭 ( 審議委員 )
  • 中川順子 ( 審議委員 )
  • 高田 創 ( 審議委員 )
  • 田村直樹 ( 審議委員 )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 寺岡光博 大臣官房総括審議官(18日)
  • 斎藤洋明 財務副大臣(19日)
  • 内閣府 林 幸宏 内閣府審議官(18日)
  • 瀬戸隆一 内閣府副大臣(19日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 加藤 毅
  • 理事 清水誠一
  • 理事 神山一成
  • 理事 諏訪園健司
  • 企画局長 奥野聡雄
  • 企画局政策企画課長 長野哲平
  • 金融機構局長 鈴木公一郎
  • 金融市場局長 峯岸 誠
  • 調査統計局長 中村康治
  • 調査統計局経済調査課長 須合智広
  • 国際局長 近田 健
(事務局)
  • 政策委員会室長 播本慶子
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画役 八木智之
  • 企画局企画役 西野孝佑

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節については、前回会合(1月23、24日)で決定された金融市場調節方針(注)に従って運営し、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、0.476から0.485%のレンジで推移した。

この間、長期国債の買入れについては、2024年7月の会合で決定された減額計画に沿って、月間4.5兆円程度の買入れを行った。CP・社債等の買入れについては、2024年3月の会合で決定された資産買入れ方針に沿って、1月オファー分をもって買入れを終了した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、翌日物金利のうち、無担保コールレートは、0.5%程度で推移した。GCレポレートは、振れを伴いつつも、総じてみれば無担保コールレート並みの水準で推移した。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなった。

わが国の株価(TOPIX)は、堅調な企業業績が好感されたものの、各国の通商政策等の動きに対する懸念が重石となり、概ね横ばいとなった。長期金利(10年物国債金利)は、総じて堅調な経済指標やそれを受けた先行きの金融政策運営に対する見方の変化などを背景に、上昇した。国債市場の流動性指標をみると、ひと頃に比べると総じて改善した状態が続いている。債券市場サーベイにおける市場の機能度判断DIは、マイナス幅が縮小し、2015年11月調査と同じ水準まで改善している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、日米金利差が縮小するもとで、円高方向の動きとなった。円の対ユーロ相場は、概ね横ばいとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、総じてみれば緩やかに成長している。米国経済は、一部に弱めの動きもみられるが、堅調な成長を維持している。欧州経済は、製造業を中心に弱めの動きがみられている。中国経済は、政策面の下支えはあるものの、不動産市場や労働市場の調整による下押しが続くもとで、改善ペースは鈍化傾向にある。中国以外の新興国・資源国経済は、総じてみれば緩やかに改善している。

先行きの海外経済は、緩やかな成長が続くと考えられる。先行きの見通しを巡っては、各国の通商政策等の動きやその影響のほか、中国経済の動向や地政学的緊張の展開などについて、不確実性が高い。

海外の金融市場をみると、米国の長期金利は、国債需給悪化に対する警戒感が幾分後退したことや、FRBの利下げ織り込みが進展したことから、大幅に低下した。欧州の長期金利は、防衛支出増額を巡る動きなどから国債需給悪化に対する警戒感が高まり、大幅に上昇した。米国の株価は、経済指標の市場予想比下振れや通商政策等を巡る不確実性の高まりなどを受けて、下落した。欧州の株価は、米国株対比での割安感が意識される中、企業業績の市場予想比上振れ等から、上昇した。この間、新興国通貨は、米国経済の下振れ懸念を受けた米国金利低下・ドル安を背景に上昇した。原油価格は、下落した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きについては、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。

輸出は、横ばい圏内の動きとなっている。先行きは、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくと見込まれる。

鉱工業生産は、横ばい圏内の動きとなっている。先行きは、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくと見込まれる。

企業収益は、改善傾向にある。こうしたもとで、設備投資は、緩やかな増加傾向にある。先行きの設備投資は、企業収益が改善傾向を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、増加傾向を続けると予想される。

個人消費は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にある。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、1月の10から12月対比は、耐久財や飲食料品を中心に減少した。企業からの聞き取り調査や高頻度データに基づくと、2月以降の個人消費は、物価上昇を受けた消費者の強い節約志向の影響を指摘する声は聞かれるものの、緩やかな増加基調にあるとみられる。消費者マインドは、小幅に悪化している。先行きの個人消費は、当面、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加基調が続くと予想される。その後も、雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加を続けると考えられる。

雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い情報通信等を中心に、振れを伴いながらも緩やかな増加傾向にある。非正規雇用は、対面型サービス業などが増加傾向にある一方、労働需給が引き締まるもとで非自発的な理由による非正規雇用が減少傾向にあり、振れを伴いながらも横ばい圏内で推移している。一人当たり名目賃金は、はっきりと増加している。先行きの雇用者所得は、名目賃金の伸び率上昇を反映して、はっきりとした増加を続けると考えられる。実質ベースでも、振れを伴いつつも、前年比プラス基調が定着していくと見込まれる。

物価面について、商品市況は、総じてみれば小幅に下落している。国内企業物価(夏季電力料金調整後)の3か月前比は、電気・ガス代の負担緩和策が一時的に再開されたことから、プラス幅を縮小している。企業向けサービス価格(除く国際運輸)の前年比は、人件費上昇等を背景に高めの伸びを続け、足もとでは3%程度のプラスとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、政府によるエネルギー負担緩和策の縮小もあって、足もとは3%台前半となっている。また、米価格の上昇も消費者物価の前年比を押し上げる要因となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価についてみると、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。なお、来年度にかけては、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対して、米価格が高水準で推移すると見込まれることや政府による施策の反動が生じることが押し上げ方向で作用すると考えられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、緩和した状態にある。

実質金利は、マイナスで推移している。企業の資金調達コストは、上昇している。資金需要面をみると、経済活動の回復や企業買収の動きなどを背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、3%台半ばとなっている。CP・社債計の発行残高の前年比は、3%台半ばとなっている。企業の資金繰りは、良好である。企業倒産は、増勢が鈍化している。

この間、マネーストックの前年比は、1%台前半となっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢

国際金融資本市場について、委員は、各国の通商政策等の動きやその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性が高まるもとで、市場センチメントが慎重化しているとの見方を共有した。

海外経済について、委員は、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。先行きについても、委員は、緩やかな成長が続くとの見方で一致した。そのうえで、委員は、前回会合以降、関税政策を含めた米国新政権の政策運営や、それを受けた各国の対応を巡る不透明感が高まっているとの認識を共有した。多くの委員は、関税政策を巡っては、各国の貿易活動に大きな影響が及ぶ可能性があるほか、不確実性が高い状況が続くことが、国際金融資本市場や各国の企業・家計のコンフィデンスに影響を及ぼすことも考えられると指摘した。複数の委員は、関税政策の内外経済への具体的な影響は、4月初に発表される予定の米国相互関税の枠組み等が明らかになるまでは、見定めがたいとの認識を示した。この間、何人かの委員は、米国の政策がもたらしている世界的な安全保障環境の変化などは、長い目でみて、グローバル経済の構造に大きな影響を及ぼす可能性があると指摘した。

米国経済について、委員は、一部で弱めの動きもみられるものの、堅調な成長を維持しているとの認識で一致した。何人かの委員は、関税政策を始めとする政策の不確実性から、企業・家計のマインド面で弱めの動きがみられるものの、ハードデータをみる限り雇用・所得環境を中心に現時点で大きな変調はみられないとの見方を示した。このうちの一人の委員は、ひと頃の高い成長ペースからは鈍化したものの、雇用情勢は引き続き底堅く、ソフトランディング路線を歩んでいると指摘した。先行きについて、委員は、中心的な見通しとしては堅調な成長が維持されると見込まれるが、政策運営を巡る不確実性とその影響には注意を要するとの見方を共有した。何人かの委員は、政策の不確実性が強く意識されるもとで、個人消費や設備投資のスタンスが慎重化する可能性があると指摘した。一人の委員は、米国新政権の政策は、個々の政策の程度や範囲、および組み合わせ次第で、経済・物価への影響は変わりうると指摘したうえで、関税・移民政策が相応の規模となれば、供給面から物価を上押す可能性があると述べた。そのうえで、この委員を含む複数の委員は、米国では、インフレリスクと景気後退リスクの両方が高まっているとの見解を示した。この点に関連し、一人の委員は、連邦政府職員の削減が、段階的な調整過程にある労働市場を下押しする可能性にも注意が必要と指摘した。この間、別のある委員は、関税引き上げは減税の財源になるため、これが今後の個人消費に与える影響についても併せて考える必要があると述べた。

欧州経済について、委員は、製造業を中心に弱めの動きがみられるとの認識を共有した。ある委員は、ドイツ・フランスの直近四半期の成長率がマイナスとなった点を指摘したうえで、エネルギー・賃金などのコスト上昇が産業競争力を低下させ、そのもとで設備稼働率も低下しているほか、米国の関税政策の影響なども経済活動の下押しに作用しているとの認識を示した。

中国経済について、委員は、政策面の下支えはあるものの、不動産市場や労働市場の調整による下押しが続くもとで、改善ペースは鈍化傾向にあるとの見方を共有した。ある委員は、不動産市場の回復には時間がかかると見込まれるほか、先行きについても、GDP成長率の名実逆転が2年続き、デフレ傾向が強い中、米国との貿易摩擦激化による輸出減少などから下振れリスクが高いと指摘した。この点に関し、別のある委員は、中国政府が打ち出している所得増加・景気刺激策、出生率引き上げに向けた優遇措置などの効果や国内外への影響もよくみていく必要があると述べた。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、総じてみれば緩やかに改善しているとの認識を共有した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しているとの見方を共有した。委員は、前回会合以降の経済動向は、1月の「展望レポート」の見通しに概ね沿ったものとの認識で一致した。

景気の先行きについて、委員は、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けるとの認識を共有した。

輸出・鉱工業生産について、委員は、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。

設備投資について、委員は、企業収益が改善傾向にあるもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識で一致した。ある委員は、設備用機械の受注残が積み上がっていることを踏まえると、人手不足による進捗の遅れはみられるものの、設備投資の需要自体は堅調とみられると指摘した。

雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。また、委員は、連合による春季労使交渉の第1回回答集計結果は、本年もしっかりとした賃上げが実施されるという1月会合時点の見方に沿ったものとの認識を共有した。そのうえで、何人かの委員は、現時点で明らかとなっている賃上げ率は、事前に想定していた範囲の中では、高めの水準となっていると述べた。また、何人かの委員は、大企業だけではなく、相対的に規模の小さい企業でも賃上げ率が高めとなっており、賃上げの裾野が広がっていることが窺われると指摘した。このうちのある委員は、今回の賃上げ率の前年からの上振れ幅が大企業よりも中小企業の方が大きいことを指摘したうえで、2022年以降の価格転嫁の進捗と同様に、賃上げについても、大企業が先行し、それを中小企業が追いかける展開となっていると付け加えた。こうした中、多くの委員は、賃金上昇の持続性が次第に高まっているとの認識を示した。複数の委員は、今後の毎月勤労統計等を確認していく必要はあるが、2%の「物価安定の目標」と整合的な賃金上昇が定着しつつあるとの認識を示した。この点に関し、一人の委員は、人手不足という構造的な変化が進むもと、労使双方で、物価上昇を賃金に反映する必要があるとの認識が広がってきていると付け加えた。複数の委員は、人手不足感が強いことに加え、企業収益が好調なことも、賃上げの背景にあると指摘した。この間、別のある委員は、人材のスキルや地域のミスマッチが拡大しており、企業間での賃金格差も広がっているとみられる点は丁寧にみていく必要があると述べた。また、一人の委員は、法人企業統計をみると、雇用の7割を占める中小企業では、賃金が増加する一方、設備投資は2年連続で減少していると指摘した。そのうえで、この委員は、中小企業では、労働分配率が高い中、防衛的賃上げと設備投資の両立は難しい状況が窺われるとの見方を示し、賃上げモメンタムの定着には、中小企業の生産性を向上させる設備投資ともう一回り大きくなる構造改革が鍵となると指摘した。

個人消費について、委員は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にあるとの認識で一致した。先行きについても、委員は、当面、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加基調が続くとの見方を共有した。何人かの委員は、米や生鮮食品を含む食料品価格の上昇を受けて、マインド指標が幾分低下し、非耐久財で弱めの動きがみられると指摘した。そのうえで、何人かの委員は、企業のヒアリング情報や消費関連企業の収益の状況等を踏まえると、個人消費の増加基調は変化していないとみられ、先行きは、生鮮食品等の価格高騰の一服と賃金上昇の継続が消費の後押しに働くとの認識を示した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは3%台前半となっているとの認識で一致した。また、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの評価で一致した。そのうえで、何人かの委員は、足もとの物価上昇率は見通しの範囲内にあるものの、米を含む食料品価格の上昇から、幾分上振れて推移しているとの認識を示した。多くの委員は、こうした食料品価格の上昇は、天候など一時的な要因による部分が大きいが、供給力の持続的な低下や人件費・輸送費の上昇などが影響している面もあるほか、食料品価格の上昇が予想物価上昇率を押し上げ、基調的な物価上昇率に影響する可能性もあるとの見解を示した。このうちの一人の委員は、1月の総合ベースの消費者物価指数の上昇率の過半はエネルギー、生鮮食品、穀類によるものと指摘したうえで、生鮮食品、穀類の上昇は主に供給ショックと位置付けられるが、持続性がありうるため、予想物価上昇率などへの波及を注視すべきとの見方を示した。また、別の一人の委員は、企業の価格設定行動が変化するもと、これまで動きの鈍かったサプライチェーンの川下でも、コスト転嫁がされやすくなっていると指摘した。一方、ある委員は、賃金上昇の価格への転嫁は、企業向けサービスには明確に表れている一方、消費者向けサービスにおいては明確ではなく、個人消費が力強さを欠く中で企業が価格転嫁に慎重になっている可能性があると指摘した。

物価の先行きについて、委員は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくとの認識で一致した。そのうえで、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとの見方を共有した。ある委員は、春季労使交渉の集計結果などを踏まえると、物価は着実な上昇が見込まれる状況となっており、基調的な物価上昇率も2%に向けて順調に上昇している可能性が高いとの見方を示した。一人の委員は、企業の価格転嫁に伴う価格上昇圧力はしばらく継続するとの見解を示したうえで、民間調査によれば、2025年の食料品の価格改定の動きも再び勢いを増していると指摘した。この点に関連し、別のある委員は、4月の期初の値上げが、とくにサービスにおいてどの程度となるか見極めていく必要があると述べた。

経済・物価の見通しのリスク要因として、委員は、各国の通商政策等の動きやその影響を受けた海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高いとの認識で一致した。そのうえで、何人かの委員は、春季労使交渉での賃上げ率が高めとなっていることや、食料品価格が上昇していることが物価に及ぼす影響について注意する必要があると述べた。他方、何人かの委員は、このところ、関税政策を含めた米国新政権の政策運営を巡る不透明感が高まっているとしたうえで、今後発表される米国の政策やそれに対する各国の対応次第では、わが国の経済・物価にも影響が及びうることに十分注意する必要があるとの見方を示した。これに関連して、複数の委員は、関税の導入は、経済活動を下押す要因になると考えられる一方、物価に及ぼす影響については一概には判断しにくいと指摘した。

また、委員は、関税政策の影響を含めた金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの見方を共有した。そのうえで、委員は、とくに、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があるとの認識を共有した。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。複数の委員は、このところ企業の資金調達コストは上昇しているが、現時点では、貸出の水準は堅調を維持しているほか、社債市場の発行環境も引き続き良好であるなど、金融環境面で大きな影響はみられていないと指摘した。このうちの一人の委員は、企業の期待リターン対比で現状の長期金利の水準はなお低く、企業の投資判断には大きな影響を及ぼしていないとの見方を示した。他方、複数の委員は、調達金利の上昇が小規模企業の資金繰りや投資判断に及ぼす影響についても、注意してみていく必要があるとの見方を示した。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す」という方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。

先行きの金融政策運営について、委員は、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくという基本的な考え方を共有した。そのうえで、具体的な金融政策運営については、予断をもたず、経済・物価見通しやリスク、見通しが実現する確度をアップデートしながら、適切に判断していく必要があるとの認識で一致した。

何人かの委員は、前回1月の会合で政策金利を引き上げた直後であることも踏まえると、現在は、政策効果に加え、各国の通商政策等の動きやその影響を丁寧にみていくことが可能な局面にあるとの認識を示した。ある委員は、1月までの政策金利変更の影響や、このところの長期金利の変動の影響を評価するためのデータは現時点では十分に揃っていないとしたうえで、経済活動への本格的波及とその影響の確認には時間が必要であると述べた。別のある委員は、当面、米国新政権の政策とその世界経済・国際金融資本市場への影響を注視しながら、国内的には0.5%という新しい金利水準の下での経済・物価の反応を見極めていくことが適当であると指摘した。そのうえで、この委員は、これらを踏まえて、次の政策金利の引き上げを判断すべきであるとの見解を示した。別の一人の委員は、米国の政策運営に起因する下方リスクは急速に高まっており、関税政策の今後の展開次第では、わが国の実体経済にまで大きな悪影響を及ぼす可能性が十分あると指摘した。そのうえで、この委員は、そうした可能性が高まった場合には、政策金利を引き上げるタイミングをより慎重に見極めることが必要となるとの見方を示した。この間、別のある委員は、変革速度の非常に速い中国企業との競争激化に加えて、米国の関税政策や供給網の分断などの不確実性の高まりから、わが国経済への下押しリスクが高まっていると評価したうえで、今後、中小企業の業績・投資、賃金・物価動向などへの影響を入念に確認する必要があることから、当面は現状の政策を維持することが適当であると述べた。

他方、ある委員は、不確実性が高まっているからといって常に慎重な政策対応が正当化されるわけではなく、今後の状況によっては、果断に対応することもありうるとの見解を述べた。別の一人の委員は、各国の通商政策等の影響から物価に上下双方向の不確実性がある時に、不確実だから現状維持、金融緩和を継続するということにはならないと指摘したうえで、次回会合では、(1)企業や家計のインフレ予想、(2)物価上振れリスクの顕在化、(3)賃上げの進展をしっかりと確認し、金融政策を判断していく必要があると述べた。この点に関連して、別の一人の委員は、米国経済は、減速を示す指標もあるが、雇用関連指標などは底堅いと指摘し、政策変更を急がないとのFRBの情報発信も踏まえると、日本銀行の政策の自由度は引き続き増した状況であるとの見方を示した。また、この委員は、資産価格上昇に伴う期待収益率向上から、市場参加者は、実質金利を消費者物価で捉える以上に低位に感じ、緩和効果がより強まっている可能性があると指摘したうえで、今後、来年度を視野に、過度な緩和継続期待の醸成による金融の過熱を避けることが必要になった場合には、金融緩和度合いの調整を機動的に行う必要があると述べた。

委員は、今後、基調的な物価上昇率が高まっていった場合の政策運営について、どのような情報発信が適切かについて議論した。ある委員は、高水準の賃上げが実現し、「物価安定の目標」の実現が目前に迫りつつある段階にあることを踏まえると、今後は、こうした前提で情報発信する新たな局面に入るとの見方を示した。別のある委員は、次の利上げを行う局面では、基調的な物価上昇率が2%にかなり近づいていることも想定されることから、その際には、金融政策スタンスについての説明を、従来の緩和から中立へ転換させることを含めて検討していく必要があると述べた。この点に関連し、何人かの委員は、中立金利を巡る不確実性を踏まえると、政策金利を引き上げていく過程において、金融政策が緩和的かどうかの評価は次第に難しくなると指摘した。このうちの一人の委員は、中立金利の推計誤差を大きく減らす特効薬は存在しないが、引き続き推計の精度の引き上げ等に向けて努力していく必要があると述べた。何人かの委員は、中立金利や基調的な物価上昇率はいずれも厳密に観察することができないものであることを前提としたうえで、どのような情報発信が適切か考えていく必要があるとの見解を示した。

委員は、最近の長期金利の動向を踏まえたオペレーションの考え方や国債買入れの減額計画の中間評価についても議論した。委員は、長期金利は、経済・物価情勢に対する見方などを反映して、市場で自由に形成されることが基本であるとの見解で一致した。そのうえで、複数の委員は、通常の市場の動きとは異なるようなかたちで長期金利が上昇するといった例外的な状況においては、市場における安定的な金利形成を促す観点から機動的にオペを実施することになると指摘したうえで、現時点ではこうした状況にあるとはみていないが、今後の市場動向は丁寧にみていく必要があると述べた。また、複数の委員は、市場において円滑に長期金利が形成されるためには、日本銀行の情勢判断や政策運営に関する考え方を丁寧に説明していくことが重要との認識を示した。6月の金融政策決定会合で予定している国債買入れの減額計画の中間評価に関連して、一人の委員は、今のところは、既存の計画を大きく変更する必要性を感じないとの見方を示したうえで、現行計画で定めていない2026年4月以降の国債買入れに関しては、より長期的な視点から検討する必要があると指摘した。また、別の一人の委員は、中間評価において国債市場の動向や市場の機能度を点検する際には市場参加者の見方を伺うことになるが、そのプロセスでの市場との対話は、長期金利の安定という観点からも重要であると指摘した。この間、ある委員は、超長期債を含め年限別の需給や流動性の状況についても、丁寧にみていく必要があると述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 政府は、賃金・所得の増加を最重要課題とし、賃上げ環境の整備や成長分野における投資促進などにより、生産性や付加価値を高め、安定的に賃金・所得が増えていくメカニズムを構築していく。
  • 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。その上で、情報発信を含め、しっかりと金融資本市場とコミュニケーションを図っていただきたい。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 日本経済は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復していると認識している。ただし、足元の物価上昇が個人消費に与える影響や、米国の政策動向など世界経済を巡る不確実性等に十分注意が必要である。
  • 政府は、物価動向を注視して適切な対応を行うとともに、賃上げの流れを中小企業や地方経済に広げる政策を推進する。
  • 日本銀行には、政府と緊密に連携し、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

2.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.議事要旨の承認

議事要旨(2025年1月23、24日開催分)が全員一致で承認され、3月25日に公表することとされた。

以上


  • (注)「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す。」本文に戻る

別紙

2025年3月19日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

    無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す。

  2. わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。海外経済は、総じてみれば緩やかに成長している。輸出や鉱工業生産は横ばい圏内の動きとなっている。企業収益が改善傾向にあるもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。雇用・所得環境は緩やかに改善している。個人消費は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にある。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、政府によるエネルギー負担緩和策の縮小もあって、足もとは3%台前半となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。

    先行きのわが国経済を展望すると、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。消費者物価(除く生鮮食品)については、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、その基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。なお、来年度にかけては、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対して、米価格が高水準で推移すると見込まれることや政府による施策の反動が生じることが押し上げ方向で作用すると考えられる。

    リスク要因をみると、各国の通商政策等の動きやその影響を受けた海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。とくに、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある。

以上