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金融政策決定会合における主な意見
(2018年3月8、9日開催分)1

2018年3月19日
日本銀行

I.金融経済情勢に関する意見

経済情勢

  • わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。先行きも、きわめて緩和的な金融環境と政府の既往の経済対策による下支えなどを背景に、景気の拡大が続くとみられる。
  • わが国の景気は、緩やかに拡大している。労働および資本の両面で逼迫感が増しつつあり、企業は製品の供給力拡充に取り組み始めている。こうした活発な需要が企業の変革を促す好循環が、長期にわたり持続することが重要である。
  • わが国の経済は、需要と供給の両面でバランス良く成長している。需要の拡大に伴い、過去長期にわたる需要不足とデフレのもとで定着した企業の非効率なビジネス・プロセスや投資抑制姿勢、非労働力人口の増加といったヒステリシス(履歴効果)が希薄化しつつある。
  • 「量的・質的金融緩和」は、物価だけでなく、生産や雇用など経済全般を改善させる政策である。構造失業率は、かつては3.5%程度と言われていたが、現実の失業率は低下を続け、足もと2.4%となるなど大きな成果を上げている。
  • 昨夏以降の家計消費の回復力が弱い点が気掛かりである。輸出増加の好影響が、賃金上昇を通じて家計部門にどの程度波及するか注視する必要がある。
  • 2月以降の国内外の金融市場の調整は、今のところ堅調な実体経済に大きな悪影響を及ぼしていないようだが、センチメントに与える影響は慎重にみていきたい。北朝鮮を巡る情勢も、引き続き地政学的リスクとして認識している。
  • 足もとの米国金利の上昇や日米の株価の下落、市場のボラティリティの上昇など、金融市場の変動が金融機関の財務状況に与える影響について、注意深く把握していく必要がある。
  • 足もとの円高・株安が長引けば、逆資産効果や家計・企業のバランスシート悪化により、設備投資や消費が抑制されるほか、輸出への悪影響により輸出産業の収益が悪化する。これらは賃金・物価の抑制につながるため、「物価安定の目標」の達成が遅れるリスクがある。

物価

  • 消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。
  • 新年度を控え、値上げのニュースが多く聞かれるなど、企業の価格設定スタンスに変化の兆しが窺われる。
  • 先行きの賃金・物価動向を占ううえで、春闘の結果に非常に注目している。
  • 先行きの物価動向を見通すうえでは、春闘後の賃金動向が、各企業の価格設定スタンスや値上げに対する消費者の許容度を、どの程度改善させていくかが重要なポイントとなる。
  • 企業の賃上げ率はここ数年2%程度で推移しているものの、昨年の実質賃金は前年比マイナスとなっている。賞与を含めた賃上げ率が、実質賃金を前年比プラスに押し上げられるかどうかを注視している。
  • 消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2%に向けて緩やかに上昇していくとみられる。しかし、値上げの動きは顕著ではなく、デフレマインドの払拭に時間がかかると見込まれる。
  • インフレ率上昇の勢いは、2%の「物価安定の目標」を早期に達成するに足るほど力強いものではない。

II.金融政策運営に関する意見

  • 2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があることを踏まえると、「物価安定の目標」に向けたモメンタムをしっかりと維持するために、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適当である。
  • きわめて緩和的な金融環境を維持すべく、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが必要との判断に変わりない。
  • 息長く経済の好循環を支えて「物価安定の目標」の実現に資するべく、現在の金融政策を継続するべきである。
  • デフレ脱却の意義について人々のコンセンサスを得つつ、「物価安定の目標」の実現を図るべきである。
  • 今後、2%に向けて物価が上昇し、潜在成長率が高まるもとでは、金融緩和政策の効果は強まることになる。そうした環境変化や副作用も考慮しながら、適切な政策運営について検討していくことが必要である。
  • 足もとの国債や社債、銀行貸出の動向をみると、経済・物価への影響という観点では、長期の実質金利の低下が及ぼす影響は想定よりも小さくなってきている可能性がある。こうした点も踏まえつつ、望ましいイールドカーブの形状について検証を進めていくことが重要である。
  • 「量的・質的金融緩和」の導入以降、経済はデフレではない状況を維持する状態に到達した。その過程で生じた好循環の勢いを、10年以上の幅広い国債金利の一段の引き下げとコミットメント強化による追加緩和によってさらに強め、デフレから完全に決別することが重要である。
  • ETFなどリスク性資産の買入れは、「物価安定の目標」を実現するための政策パッケージの一要素として行っているが、政策効果と考え得る副作用についてあらゆる角度から検討を続けるべきである。
  • 収益動向が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なものであるため、この先、低金利環境がさらに長期化すれば、先行き金融仲介が停滞するリスクがある。
  • 現在は、2%の実現までにはなお距離があり、金融緩和の度合いが次第に縮小していくという意味での「正常化」を具体的に検討する局面にはない。もっとも、将来、「正常化」をスムーズに進めるためにも、それがなお金融緩和の領域にあり、需給ギャップの縮小を狙った「金融引き締め」とはまったく別物であることが、市場参加者にきちんと理解されるよう説明していくことが必要である。
  • 「物価安定の目標」の達成が遅れるリスクが高まれば追加緩和が必要になるが、金融緩和の余地はそれほど大きくないため、デフレ脱却のためには財政政策の協力が必要になる。その際、プライマリー・バランスの黒字化は、経済・物価・金融状況を踏まえつつ、適切な定量的目標を定めて目指すことが望ましい。
  • 「量的・質的金融緩和」への反対意見の中には、心理学で認知的不協和と言われるものがある。これは、自分の認識と新しい事実が矛盾することを快く思わないことである。「量的・質的金融緩和」で経済は良くならないという自分の認識に対し、経済が改善しているという事実を認識したとき、その事実を否定、または、今は良くても将来必ず悪化すると主張して、不快感を軽減しようとしている。

III.政府の意見

財務省

  • 先般、平成30年度予算が衆議院で可決され、現在、参議院でご審議いただいている。
  • 本予算の早期成立が最大の経済対策と考えており、経済の好循環をより確かなものとし、持続的な経済成長を実現するべく、予算および関連法案の早期成立に向けて引き続き取り組む。
  • 日本銀行が、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

内閣府

  • 働き方改革関連法案については、裁量労働制の改正部分を全面削除するが、その他の部分については今国会の成立を目指す。
  • 専門的・技術的な外国人受け入れの制度の在り方について、具体的に検討を進め、方向性を示していく。
  • TPP11協定と関連国内法案を今国会に提出するべく準備を進める。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の「物価安定の目標」の実現に向け、着実に取り組むことを期待する。

以上


  1. 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。 本文に戻る