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金融政策決定会合における主な意見
(2019年10月30、31日開催分)1

2019年11月11日
日本銀行

1.金融経済情勢に関する意見

経済情勢

  • 先行きのわが国の景気は、当面、海外経済の減速の影響が続くものの、国内需要への波及は限定的となり、景気の拡大基調が続くとみられる。
  • わが国の景気は拡大基調を維持できると考えているが、これは、これまでのところ、内需が底堅く、海外経済の減速の影響の波及は限定的と見込まれることにある。
  • 海外経済の減速が続いており、先行きの不確実性も高いが、わが国経済は堅調な内需により緩やかな拡大を維持しており、外需下振れの影響は限定的である。
  • わが国の景気は、基調としては緩やかに拡大している。先行きは、潜在成長率並みの成長が見込まれる。ただし、海外経済の減速や消費税率の引き上げの影響等に注意が必要である。
  • 米中通商協議の進展や英国のEU離脱交渉の展開から、目先の不確実性が緩む場面もみられるが、より長い目でみた不確実性の高い情勢は続いており、世界経済の回復は、前回の見通し対比後ずれしてきている。
  • 国内経済は、10月に入ってからも東京都心を含め天候不順が続いており、生産・物流はもとより観光・小売なども含めて、少なからず経済活動に影響を与えていると感じている。
  • 失業率は2.2%まで低下したが、名目賃金の伸びは減速している。賃金と雇用者数の積である雇用者所得の伸びも、今年度は昨年度と比べて鈍化している。労働需給に変調がないか懸念される。
  • 消費を巡っては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要と反動減の影響、税率引き上げ前の消費の増加基調が前回と比べ緩慢とみられること、家計所得の増加テンポが緩慢な中で消費者マインドの悪化が顕著に進んでいること、および相次ぐ自然災害の影響、が気掛かりである。
  • 世界の投資家が少しでも利回りの高い債券を買い増すことで、世界的な低金利のスパイラルが起きていると考えられ、今後も金利の低下傾向が続く可能性がある。

物価

  • 消費者物価の前年比は、当面、原油価格の下落の影響などを受けつつも、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
  • 物価は、堅調な設備投資に伴う生産性向上による物価抑制効果等により、上昇率の加速には時間を要すると見込まれる。外需の変動に対するわが国経済の頑健性が強まる中、物価も変動しにくい構造に変化している。
  • 「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まる状況ではないものの、引き続き、注意が必要な情勢にある。
  • 海外経済の下振れリスクは引き続き大きく、このリスクが顕在化した場合には、わが国の物価にも相応の影響が及びうる状況にあるため、物価のモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まってはいないが、注意が必要な状況は続いている。
  • プラスの需給ギャップが物価上昇を支えているが、プラス幅は縮小している。経済の下振れリスクの顕在化によりプラス幅が一段と縮小するリスクに留意が必要である。
  • 内外経済のリスクと不確実性の高まりを受けて、製造業を中心に景況感が慎重化し、消費者のセンチメントも後退しており、物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる惧れは相応にある。
  • 長短金利操作の導入以降、デフレに陥らないという意味では物価のモメンタムは維持されているが、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムが維持されているとは言えない。

2.金融政策運営に関する意見

  • 「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れは一段と高まってはおらず、現状の金融市場調節方針と資産買入れ方針を維持することが適当である。
  • 物価上昇のモメンタムは損なわれておらず、現行の緩和政策を維持すべきだが、引き続き世界経済の動向を丹念に点検することは重要であり、フォワードガイダンスの見直し等で姿勢を示すことは考えられる。引き続き、金融システム面の副作用にも留意しつつ政策運営を行っていくべきである。
  • 「物価安定の目標」の実現になお時間がかかることを踏まえると、強力な金融緩和の継続方針を強く発信すべきである。
  • フォワードガイダンスについては、これまでの情報発信との連続性の観点から物価のモメンタムと関連付けるとともに、政策金利の下方バイアスがあるものにすることで、緩和方向をより意識して政策運営を行っているというスタンスを明確にすることが適当である。
  • フォワードガイダンスでは、物価上昇率の低下を容認しないスタンスが示されていること、内容が具体的であること、具体的な条件にもとづいて行動することが約束されていること、の3つが満たされていることが望ましい。
  • 現状、物価のモメンタムは維持されていると評価しているが、家計や企業の予想物価上昇率は盤石とは言えず、今後もより注意を要する情勢であると認識している。モメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加の緩和策を講じることが必要だと考えている。
  • 下方リスクの厚い現在、追加緩和の要否を引き続き検討すべきである。海外経済の影響を受けやすく、予想インフレ率が物価安定の目標にアンカーされておらず、現実の物価上昇率と目標の距離が大きい日本こそ、予防的金融緩和論が一番妥当するのではないか。また、リスクシナリオの一環として、次なる景気後退に備えることを真剣に考えておくべきであり、その際には、金融政策での対応もさることながら、財政政策やその他の政策において、政府との連携強化が一層重要になる。
  • 金融政策は、銀行経営ではなく、経済全体との関係で考えるべきである。「量的・質的金融緩和」導入後の数年間、銀行の当期純利益は、主として債券・株式売却益の増加や信用コストの低下により増加した。利益の増加もあって、銀行によっては職員数を増加させるところもあったが、これらの要因による利益の増加は、人を増やして増えるものでもない。採用した人材でどのように利益を上げるのかが重要なのではないか。
  • 長期金利が現状程度で長期間継続する場合、国民ニーズが高い終身保険や年金保険などの商品の提供を維持することが困難となり、生命保険業界としての社会的使命を果たせなくなる可能性がある。また、年金や投資信託は、円債運用において、金利が0.1%低下すると数百億円の収益減になる可能性があるほか、マイナス金利適用残高の約半分を占める信託銀行の残高は年金や投資信託からの受託財産であり、その分のマイナス金利は実質的に年金や投資信託が負担していると言える。

3.政府の意見

財務省

  • 提案の事項は、「物価安定の目標」の達成に向け、強力な金融緩和を継続する姿勢を示すものと受け止めており、本会合で適切に判断頂きたい。金融政策運営の状況等について、引き続き丁寧かつ積極的な説明に努めて頂きたい。
  • 台風被害を受け、予備費使用を決定した。被災地復旧に向け諸対策を進める。消費税率引上げについて、現時点で2014年のような大きな駆け込み需要は見られない。
  • 引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

内閣府

  • 現時点では、消費税率引上げによる影響は前回に比べそれほど大きくないのではないかとみている。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向け、金融緩和を着実に推進していくことを期待する。
  • 今回のフォワードガイダンスの変更は、モメンタムが損なわれる惧れがある場合の対応を明確化するため提案されたものと認識しており、趣旨について対外的に丁寧に説明いただくことが重要と考える。

以上


  1. 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。 本文に戻る