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金融政策決定会合における主な意見
(2020年1月20、21日開催分)1

2020年1月29日
日本銀行

1.金融経済情勢に関する意見

経済情勢

  • わが国の景気は、海外経済の減速や自然災害などの影響から輸出・生産や企業マインド面に弱めの動きがみられるものの、基調としては緩やかに拡大している。
  • 世界経済は、本年半ばにかけて回復基調を辿る蓋然性が高まりつつあると感じている。
  • 海外経済を巡るリスクは引き続き高い状態ながら、ITサイクルが好転するなど一部に回復の動きも出始めているもとで、わが国経済は引き続き堅調な内需により緩やかな拡大が持続している。
  • 先行きのわが国の景気は、当面、海外経済の減速の影響が残るものの、国内需要への波及は限定的となり、景気の拡大基調が続くとみられる。
  • わが国の内需の基調はしっかりとしており、先行き、経済対策の効果が加わることも踏まえると、わが国景気は緩やかな拡大基調を続けると考えられる。
  • わが国の景気は、基調としては緩やかに拡大している。先行きは、潜在成長率並みの成長が見込まれる。ただし、海外経済の減速の影響等に注意が必要である。
  • 政府の経済対策は、金融政策とのポリシーミックスにより、中期的に景気の拡大基調を支えるプラスの効果を持つと見込まれる。もっとも、引き続き、消費税率引き上げの影響などリスクに注意が必要であり、当面は丁寧に点検を続けるべきである。
  • わが国の経済・物価動向を巡っては、米中経済貿易協定の締結や英国のEU離脱問題の進展など、海外経済の不透明要因が幾分改善したものの、昨年10月以降の国内経済指標は芳しくなく、全体として楽観できない情勢が続いている。
  • 内外経済のリスクは依然として高く、消費税率引き上げで消費性向が下がらないか、経済が伸び悩む中で金融市況の好調が続くか、製造業と非製造業のデカップリングが続くか、短期インフレ予想の弱含みが中長期に反映しないか、慎重な見極めが必要である。
  • 消費税率引き上げ後の消費関連指標をみると、民間消費の回復の足取りは弱い。家計のマインド指標は改善しているが、改善の勢いは14年度の消費税率引き上げ時と比べて鈍い。
  • 企業の利益水準が高い中で、中高年層の希望・早期退職が増加している。利益水準が高く、雇用環境が良い局面では、企業は退職金を積み増しやすく、労働者は新しい仕事を見つけやすいため、希望・早期退職が増えるのは合理的である。より必要なところに労働力が移動することにより、日本全体では生産性が高まると考えられる。
  • 日本ではルーティンタスクを担う就業者のシェアが欧米と比較して相対的に大きいとの試算もある。AIやRPAの活用が進む中、職のミスマッチ解消や平均賃金の上昇を抑制している可能性もある。

物価

  • 消費者物価の前年比は、当面、既往の原油価格の下落の影響などを受けつつも、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
  • プラスの需給ギャップは、現在の物価を高めると同時に、それが適合的に予想物価上昇率を高める二次的効果をもたらすため、需給ギャップの物価への影響は、プラス幅にその継続期間をかけた「面積」で評価することが適当である。
  • 物価は、生産性上昇による物価抑制効果等から上昇しづらい状況が続いているが、デフレに逆戻りしないという意味の頑健性は強まっている。雇用や設備投資など実体経済指標を確認しつつ、プラスの需給ギャップを維持することで、粘り強く物価上昇率の加速を待つことが重要である。
  • 所得から支出への好循環が物価上昇を支えているが、この好循環を維持するためには、賃上げの継続とこれを支える企業収益の改善が必要である。
  • プラスの需給ギャップを起点に物価・予想物価上昇率が高まるメカニズムは作動しているが、そのスピードは遅い。物価形成のメカニズムについては、引き続き、内外の研究成果も踏まえ、検討を深める必要がある。

2.金融政策運営に関する意見

  • 「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れは一段と高まってはおらず、現状の金融市場調節方針と資産買入れ方針を維持することが適当である。
  • 息長く経済の好循環を支えて、「物価安定の目標」の実現に資するべく、現在の金融政策運営方針を粘り強く継続すべきである。
  • 物価のモメンタムが損なわれる惧れについて、注意が必要な状況は続いており、金融政策は緩和方向を意識して運営していくことが適切である。
  • 日本は世界的金融危機後の先進国で例外的にインフレ率の引き上げに成功したが、いわゆる「日本化」と呼ばれる、低成長、低インフレ、低金利が長期間続く長期停滞からの脱却はまだ道半ばであり、デフレ再発リスクにはなお注意が必要である。引き続き経済・物価の下振れリスクが高い現在、リスクシナリオの一環として次なる景気後退への備えを考えておくべきであり、政府の財政政策および成長政策との連携強化が一層重要になる。
  • 強力な金融緩和政策を始めてから、かなりの時間が経過してきたことを踏まえると、累積的な効果と副作用を計りながら、政策の持続性を高める努力を不断にしていくことが、益々重要となっている。
  • 金融システムは全体として安定性を維持しているが、構造問題や低金利環境の影響が累積し続けていることを踏まえ、地域金融機関の状況や経営上の取組みを注視すべきである。
  • 金利低下は、預金超過主体である家計の利子所得を減らすという議論があるが、一方で、借り入れ超過主体である企業にはプラスであるほか、家計にとっても雇用・所得環境の改善を通じてプラスである。結局は、経済全体で稼働率が適正になるかどうかが重要である。低金利のもとで、雇用が拡大し、家計所得も企業収益も増大しており、現在の政策は効果を発揮している。
  • 預金の伸びは貸出の伸びより1%程度高い傾向が続き、企業の借入から預金を差し引いた残高は過去10年間で2割程度減少している。こうした状況では、金利水準がさらに低下しても、経済・物価にもたらされる効果が限定的となる可能性がある。
  • 口座手数料については、社会インフラである決済システムのフリーライドを防ぎつつ、さらにその機能を向上させていく必要性が改めて認識されるもとで、提供するサービスの内容とこれに対する適正な対価としての手数料をどのようにバランスさせていくかという視点での課題である。こうした課題と金融政策の効果・副作用の議論とは、区別して考えた方が良いと思われる。
  • マイナス金利が恒常化する場合の副作用として、家計や企業が先行きにより慎重な見方を持つことでインフレ予想が低下する可能性を指摘する声もある。
  • 欧米では、「日本化」として低成長・低インフレの長期化への懸念のもと、経済政策についての議論が活発化している。低成長・低インフレが長期化しているわが国においても、財政政策や成長戦略も踏まえ、金融政策のレビューを行う必要があるのではないか。

3.政府の意見

財務省

  • 先般閣議決定した経済対策の実行等のため、約4.5兆円規模の令和元年度補正予算を国会に提出した。令和2年度予算についても、国会に提出した。一般会計歳入歳出総額は約102.7兆円であり、経済再生と財政健全化を両立する予算としている。経済・財政運営に万全を期するため、一日も早い成立に向けて取り組む。
  • 引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

内閣府

  • 17日に公表した中長期試算の成長実現ケースでは、名目GDPは2022年度中に600兆円に達し、プライマリーバランスの黒字化時期は2027年度と見込まれ、着実な歳出改革を進めることにより、2025年度のPB黒字化目標の実現が視野に入る姿となった。引き続き、成長戦略と同時に歳出改革等の取組を着実に進める。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて金融緩和を着実に推進していくことを期待する。

以上


  1. 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。 本文に戻る