金融政策決定会合における主な意見
(2020年6月15、16日開催分)1
2020年6月24日
日本銀行
1.金融経済情勢に関する意見
経済情勢
- わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響により、きわめて厳しい状態にある。先行き、経済活動が徐々に再開していくとみられるが、当面、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から、厳しい状態が続くと考えられる。
- わが国経済は、国内外における新型コロナウイルス感染症の影響により、きわめて厳しい状態にある。消費行動の変化が需要に及ぼす影響や、働き方の変化が雇用や賃金、生産性に及ぼす影響を注視している。
- わが国経済は、感染症による景気下押し圧力に直面しているが、足もとは底打ちが窺われる状況でもある。しかし、回復がどの程度の強さになるかは、依然不確実性が高い。当面は世界経済の動向も踏まえ、慎重に幅広い経済指標を点検することが肝要である。
- 新興国を中心に感染症拡大が続いており、グローバルにみればまだ収束の目処は立っていない。有効なワクチンや治療薬がない中では、わが国を含む世界経済への負の影響の長期化は避け難いと考えている。
- 労働市場の悪化が総需要を下押しする公算が高いこと、感染症のリスクに配慮する新しい生活様式のもとでは従来型サービスの稼働率が低下する可能性があることから、景気回復のテンポは緩慢になる可能性が高い。
- 経済の回復の遅れは、企業の財務悪化や金融資本市場の不安定化をもたらし、さらには金融システム不安に波及するリスクを内包しているため、その動向には十分注意を払う必要がある。
- 今後、経済活動が徐々に回復に向かっていく過程で、過剰となった設備の調整や企業・家計の行動の変化が目に見える形で顕在化してくると思われる。現下の状況が唐突かつ予期せぬ形で到来しただけに、前向きの変化が生じる可能性もある一方、経済への下押し圧力ともなり得る点には警戒が必要である。
- 金融市場では、先行きへの期待から、足もとの実体経済の厳しさと比べると高値となっており、資産価格に修正が生じないか、今後の市場動向を注視する必要がある。
物価
- 消費者物価の前年比は、当面、感染症や原油価格下落などの影響を受けてマイナスで推移するとみられる。その後は、景気が改善していくもとで、プラスに転じたあと、徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
- やや長い目でみた物価の動向については、現時点では、需要の急速な回復が期待しにくいもとで、予測可能な将来に、物価がモメンタムをもって2%に近接していく姿を予想することは難しい。
- 物価上昇につながる好循環を支えてきた雇用・所得環境に、弱めの動きがみられる。リスクシナリオとして、消費者物価の低迷が長引く場合、予想物価上昇率の適合的形成に及ぼす影響が懸念される。
- 現時点では企業倒産の急増や深刻な雇用調整は発生していないが、中小企業を中心に雇用や設備の余剰感に強まりがみられる。今後、感染症の第2波により景気回復が遅れれば、雇用や資本ストックの調整を通じて、物価の下落に波及するリスクには留意が必要である。
- 新型コロナウイルス感染症の深刻な影響が続いており、今後は流動性から支払能力へ課題がシフトする。感染症拡大の影響は、製造業からサービス業、大企業から中小企業・個人事業主まで広範囲に及んでおり、過去の危機でいわれた「too big to fail」というよりは「too many to fail」が懸念される。企業の倒産・休廃業の増加は、雇用、物価と金融に悪影響をもたらしかねず、再びデフレに陥らないように警戒すべきである。
2.金融政策運営に関する意見
- 引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFなどの積極的な買入れ、の3つの柱により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要である。
- 現在の3つの柱に基づく金融緩和は、様々な情勢変化に対応する余地が大きい柔軟な枠組みである。特別プログラムの総枠は、第2次補正予算による民間金融機関を通じた無利子・無担保融資の拡充などによって、約110兆円にまで大きく拡大している。
- 企業等の資金繰りには依然ストレスがかかっているが、間接・直接金融の双方で緩和的な資金調達環境が維持されている。3月以降の金融緩和措置は所期の効果を発揮している。
- 新型コロナ対応を企図した日本銀行の政策措置は概ね出揃ったと考えられることから、当面は、政策の効果を丁寧に確認・検証することが望ましい。
- 引き続き、企業の資金繰り支援により雇用を守ることが優先課題である。当面は、金融・財政の連携の下で決定された一連の大規模な政策対応の効果と、金融システムの機能を注視する必要がある。
- 現行の枠組みの下であらゆる手段を果断に講じて、企業の事業継続・雇用維持、および金融市場の安定維持に資することが、現在の危機対応としてだけでなく、その後の回復のためにも必要である。
- 国全体で経済成長を確保していくように促す雰囲気作りや、必要な支援を継続し、企業や家計の成長期待が大きく損われないようにしていくことが肝要である。
- 今後も、更なる政策対応の必要があれば、迅速に対応すべきである。その際、政府と中央銀行、および中央銀行間の緊密な情報交換や課題・認識の共有など、協力体制を堅持することが重要である。
- 予想物価上昇率が2%にアンカーされていないもとでデフレに陥ることは、「物価安定の目標」達成の重大な障害になりうるため、先を見越した追加緩和が現時点で必要である。
- 経済政策運営においては、まずはデフレが定着するリスクを最小限に抑制することが必要である。その後は、経済が、年率2%程度の物価上昇が持続可能となるような成長軌道に乗るまで、アベノミクスの3本の矢を最大限、継続して働かせることが求められる。
- 緊急支援から回復推進へと局面が徐々に移行する状況で、現在の金融政策の経済刺激効果を改めて検討すべきである。自然利子率、予想物価上昇率ともに下振れする可能性を踏まえながら、今後の物価動向に細心の注意を払うべきである。
- 感染症により「物価安定の目標」の達成が後ずれし、金融緩和の一層の長期化が想定される中、副作用のさらなる累積にも配意しながら、実体経済の悪化が金融システムの安定性に影響を及ぼすことがないよう、これまで以上に慎重に検討していく必要がある。
- 企業が利益を賃金や設備投資に振り向けずに内部留保として積みあげることがコロナ禍を乗り越えるための有効打として再評価されている。そうした内部留保至上主義が続く場合には、企業の投資スタンスが慎重化し、企業の資金需要に働きかける金融政策の効果は限定的となる可能性がある。
3.政府の意見
財務省
- 民間金融機関の無利子・無担保融資の拡充を含む令和2年度第2次補正予算を編成し、国会において成立した。
- こうした政府の取組や、無利子・無担保融資等を行う民間金融機関に対する資金供給制度等の日本銀行の取組が、企業の円滑な資金繰りの確保と金融市場の安定に一層効果的な役割を発揮すると考える。
- 日本銀行には、企業金融の円滑確保や金融市場の安定維持等に万全を期し、金融経済活動の下支えに貢献することを期待する。
内閣府
- 緊急事態宣言が発動されていた4月、5月を底に、今後は経済を成長軌道に戻していくことができるよう、しっかり経済を下支えしながら、感染拡大防止と社会経済活動の両立を図る。
- 6月12日、令和2年度第2次補正予算が成立した。一連の経済財政政策が直接的に実質GDPを下支え・押上げする効果は6.4%と見込んでいる。
- 日本銀行においては、事態の推移を注視して、引き続き、適切な金融政策運営を行っていただきたい。
以上
- 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。 本文に戻る