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金融政策決定会合における主な意見
(2023年6月15、16日開催分)1

2023年6月26日
日本銀行

1.金融経済情勢に関する意見

経済情勢

  • わが国経済は、既往の資源高の影響などを受けつつも、個人消費などが緩やかに増加する中で、持ち直している。先行きも緩やかに回復していくとみられるが、海外経済の動向などに注意が必要である。
  • 国内経済は、全体として底堅く推移している。企業の景況感は拡大・縮小の分岐点を上回っており、設備投資への前向きな姿勢が維持されている。
  • 4月以降、家計のマインド指標が大きく改善している背景には、経済活動の正常化のほか、高水準の賃上げの実現もある。足もとの株価上昇による影響も含め、企業や家計の前向きな動きの後押しに繋がるか注目している。
  • 日本型職務給導入への取り組みや来年の賃上げ交渉に向けた状況等を確認するほか、価格転嫁、M&A・事業売却の動向、中小企業の輸出拡大等の企業の稼ぐ力強化の進捗を把握することで、物価上昇に負けない賃金上昇実現の蓋然性の高まりを見極めていく必要がある。
  • 企業の稼ぐ力強化の取り組みから成長期待が高まりつつある。地域経済を牽引する企業の資金需要を掘り起こし支える地域銀行の役割に注目している。

物価

  • 消費者物価の上昇率は、今年度半ばにかけて低下していくとみているが、その後、再び上昇率が高まっていくかの不確実性はなお大きく、今後の賃上げの持続性などを見極めていく必要がある。
  • 年度替わり期の消費者物価の強さは、財が中心であり、賃金のサービス価格への波及が主因ではないが、今後、企業の価格設定行動に変化がみられるかどうか、注目している。
  • わが国の物価上昇は、引き続き海外要因が大きいが、消費者物価ではサービス価格の上昇ペースが目立つほか、GDPデフレーターも前年比2%に達するなど、国内要因が強まっている。
  • 原材料価格上昇は一服しているものの、企業の価格転嫁の動きは一段と強まっているほか、雇用・所得環境の改善やインバウンド需要の回復もあり、当面、物価上昇圧力の強い状況が続くと考えられる。
  • 輸入物価の下落が消費者物価に波及するまでのタイムラグを踏まえると、今年度半ばにかけて消費者物価の前年比のプラス幅が縮小するシナリオは引き続き妥当と考えられる。
  • 消費者物価上昇率は、既往の輸入価格上昇の転嫁が一巡した後、年度後半には2%を下回るとみている。もっとも、企業の価格設定スタンスが積極化してきていることを踏まえると、想定より上振れる可能性もある。
  • 企業行動に明らかな変化がみられ、値上げ・賃上げが企業戦略に組み込まれてきているほか、基調的なインフレ率を示す各種指標も、軒並み2%を超えてきている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、年度半ばにかけ低下していくものの、2%を下回らない可能性が高い。
  • 先行きの消費者物価は、上下双方向のリスクがある。上振れリスクとしては、企業の価格転嫁が想定以上に続く可能性が注目される。下振れリスクとしては、米国や中国など、世界経済が下振れた場合に、それがわが国の物価に及ぼす影響が注目される。
  • 物価については引き続き価格転嫁の動きがみられ、見通しが上振れる可能性もあるが、まだ持続性に懸念がある。
  • 物価の先行きの不確実性が高まっており、輸入インフレの減衰ペースや国内要因に基づくインフレの立ち上がりの時期と強さによって様々なパスが考えられる。物価上昇率が、先行き2%を下回ることなく、ゆっくりと2%に向かっていくパスを辿る可能性も出てきた。このほか、2%を超えた水準で高止まるリスクも無視できない。もっとも、2%を下回った後、そのまま戻らなくなるリスクも引き続き大きい。

2.金融政策運営に関する意見

  • 先行きの物価見通しなどを踏まえると、現在の金融緩和を継続することが適当である。
  • 2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現するためには、コスト・プッシュによる物価上昇ではなく、賃金上昇を伴う物価上昇が必要である。
  • 企業の賃金・価格設定行動など、ようやく訪れた日本経済の変化の芽を、金融緩和を継続することで、大切に育てていくべきである。
  • 本年の春季労使交渉では約30年振りの賃上げ率となっている。2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現するためには、現在の金融緩和の継続を通じて、こうした賃上げのモメンタムを支え続けることが重要である。
  • 中小企業の多くは、価格転嫁継続や輸出拡大等により、賃上げや投資への意欲を高めつつあり、これに水を差すような政策修正は時期尚早である。
  • 物価の先行きの不確実性は高まっているが、中期的な下方リスクは依然大きいと考えられる。副作用に留意しつつ、金融緩和を続けることが適切である。
  • 拙速な政策転換によって目標達成の機会を逃すリスクは大きく、引き続き、粘り強く金融緩和を続けることが重要である。ただし、欧米のように、わが国も物価上昇の持続性を過小評価している可能性も否定できないため、十分に注意する必要がある。
  • イールドカーブの歪みの解消が進んだほか、市場機能に改善もみられており、イールドカーブ・コントロールの運用を見直す必要はないと考える。
  • 市場の機能度をみると、国内の社債市場については、改善傾向にある。例えば、エネルギー関連企業の社債の取引利回りは低下傾向にあり、投資家需要の回復に伴い、起債環境も改善している。
  • 債券市場の機能度は、一頃に比べれば改善したが、水準としては依然低い状態にある。
  • 足もとの物価の強さによって中長期のインフレ予想に大きな変化が生じている証拠はないが、イールドカーブ・コントロールの運営との関係でも重要な要素であり、今後の展開に注目している。
  • 「2%の持続的・安定的な物価上昇」の実現の可能性が高まりつつあるが、金融緩和全体については、待つことのコストは大きくないため、当面継続すべきである。ただし、そのツールであるイールドカーブ・コントロールについては、将来の出口局面における急激な金利変動の回避、市場機能の改善、市場との対話の円滑化といった点を勘案すると、コストが大きい。早い段階で、その扱いの見直しを検討すべきである。
  • 多角的レビューのテーマとしては、(1)これまでの政策の効果と副作用を経済・物価情勢との相互関係を意識しながら理解すること、(2)その背景として、1990年代以降の様々な環境変化のもとで、企業・家計の行動や賃金・物価形成メカニズムがどう変化したか、整理することが必要であり、これらの議論を進めながら追加・見直ししていくのが良い。
  • 多角的レビューでは、多様な知見を取り入れつつ、客観性や透明性を高める観点から、日本銀行内での分析だけでなく、既存の調査・サーベイ等の活用のほか、ヒアリング・意見交換、ワークショップの開催など、様々な取り組みを行っていくことが考えられる。
  • 金融政策運営の多角的レビューについては、外部の関心も高いことから、適時適切な形で情報発信を行うことが望ましい。

3.政府の意見

財務省

  • 政府として、「新しい資本主義」の取り組みを更に加速することで、「成長と分配の好循環」を拡大させるとともに、引き続き、経済・財政一体改革を着実に推進し、新型コロナ対応から平時への移行を図る中で、歳出構造を平時に戻していくことで、経済再生と財政健全化の両立を図っていく。
  • 日本銀行には、政府との密接な連携のもと、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。

内閣府

  • 政府は、骨太方針2023を策定し、新しい資本主義の実現に向けた取り組みを加速する。
  • 外生的な物価上昇から賃金と物価の好循環へつなげ、国内投資の持続的拡大を図ること等により成長と分配の好循環を目指す。こうした取り組みを通じ、デフレに後戻りしないとの認識を広く醸成しデフレ脱却につなげる。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形で2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。

以上


  1. 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。本文に戻る