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経済・物価情勢の展望 1(2004年 4月)

  1. これまでの「経済・物価の将来展望とリスク評価」「標準シナリオ」及び「リスク評価」については、それぞれ「経済・物価情勢の展望」「2004年度見通し」及び「上振れ・下振れ要因」に改めた。

2004年 4月28日
日本銀行

【基本的見解】2

(経済・物価情勢の「2004年度見通し」)

 わが国経済は、昨年後半以降、輸出の増加を起点に、生産、企業収益が拡大した。これが設備投資の増加につながり、個人消費もやや強めに推移する中で、景気は緩やかな回復を続けた。本年度も、前向きの循環が次第に強まるもとで、景気は回復を続けると予想される。前回(昨年10月)の「経済・物価の将来展望とリスク評価」において示された「標準シナリオ」と比べると、総じて上振れて推移していると考えられる。

 上記の見通しをやや詳しく述べると、海外経済は、米国や東アジアを中心に高めの成長を維持するとみられる。このため、輸出や生産は増勢を辿り、企業収益は、経費の節減や財務体質の強化等ともあいまって、増益基調を維持するとみられる。また、企業の有利子負債返済の動きはなお根強く続いているが、全体としては徐々に弱まってきている。こうした中で、設備投資は製造業を中心に増加傾向を続けると予想される。企業の人件費抑制姿勢は引き続き根強いとみられるが、生産活動や企業収益の増加の好影響は、雇用・所得面や資産価格の変化を通じて家計部門にも徐々に及んでいくと考えられる。このため、個人消費は緩やかな回復に向かうと想定される。

 国内企業物価は、内外商品市況高や国内需給の改善などを反映し、本年度は前年比若干のプラスとなる可能性が高い。消費者物価についてみると、以上のような景気回復を背景に、物価の基調に影響する需給ギャップは着実に縮小すると見込まれる。しかし、これまで下落幅縮小に寄与してきた医療費自己負担の引き上げや米価格の上昇をはじめとする一時的要因が剥落するほか、商品市況上昇が川下段階に及ぼす影響も、企業部門における生産性上昇等によってかなりの程度吸収されると見込まれる。このため、本年度の消費者物価指数は、基調的には依然小幅の下落が続くと予想される。

(上振れ・下振れ要因)

 以上述べた「2004年度見通し」には、以下のような上振れまたは下振れの要因がある。

 第1に、海外経済の動向である。米国や中国をはじめとするアジアの景気展開次第では、世界景気に上振れ・下振れいずれの可能性もある。また、地政学的なリスクや米国の「双子の赤字」等を巡る海外金融・為替市場の動向によっては、米国のみならず世界経済に悪影響を及ぼす懸念がある。

 第2に、国内金融・為替市場の動向である。市場は中長期的には実体経済の動向を反映して動くが、短期的には様々な要因によって変動する。株価、長期金利、為替相場の変化の程度と方向によっては、経済活動に対して上振れ・下振れいずれにも作用し得る。

 第3に、国内民間需要の動向である。成長予想の高まりなどにより、企業・家計の支出マインドが強まる場合には、設備投資や個人消費が「2004年度見通し」に比べ上振れることも考えられる。この点現在は、在庫の水準が低くなっており、最終需要の増加が生産の拡大につながり易い局面にあると考えられる。一方、企業の人件費抑制姿勢の強さ等によっては、企業部門における回復の家計部門への広がりが遅れ、「2004年度見通し」に比べ下振れの可能性もある。

 第4に、不良債権処理や金融システムの動向である。大手行を中心に不良債権残高が減少しているほか、地域金融機関においても不良債権処理は一定の進捗をみせている。金融システムに対する不安感は、株価の上昇もあって後退しており、これが最近の銀行券保有需要低下の1つの背景になっているとみられる。このように、金融システム面での問題が企業金融や実体経済に悪影響を及ぼす惧れは低くなっているが、潜在的な下振れ要因としては認識しておく必要がある。

(デフレ克服の展望と金融政策運営)

 経済の持続的な成長とデフレ克服を実現するためには、民間需要が拡大し成長予想が高まることが前提となる。そのためには、政府、日本銀行の政策努力とともに、経済活動の担い手である民間経済主体の取り組みが重要である。この点、これまで、民間企業は、経営戦略の明確化、コストの削減、財務体質の強化等により収益向上に取り組んでいる。また、金融機関における不良債権処理にも一定の進捗がみられている。政府も各種の規制緩和や金融・税制・歳出等の分野における改革を通じて、民間の経済活性化の努力を支援している。日本銀行も思い切った金融緩和を行っている。

 こうしたもとで、経済には前向きの循環が働き始めており、物価についても需給ギャップが着実に縮小を続けるもとで、前年比のマイナス幅は縮小してきている。今後、幅広い経済主体がこれまでのような取り組みを粘り強く続け、景気回復の動きがさらに確かなものとなっていけば、経済全体の需給バランスの改善が進み、デフレ克服の可能性が高まっていくと考えられる。

 日本銀行は、量的緩和政策の枠組みに基づいて極めて潤沢な資金供給を行っており、その結果、短期金利はほぼゼロ%で推移している。また、そうした政策を消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続することを約束している。

 こうした金融緩和の枠組みは、以下のルートを通じて、民間部門の前向きの経済活動を金融面から支援する役割を果たしている。第1に、量的に潤沢な資金供給は金融市場の安定や緩和的な企業金融環境の維持に貢献している。第2に、景気回復のもとで、前述のような約束を通じて先行きの金利予想の安定が維持され、経済活動における投資採算の改善をもたらす。そうした金利を通じる景気支援効果は、景気が回復し企業収益が改善する状況において、より強まっていくものと考えられる。

 日本銀行としては、引き続き量的緩和政策を堅持していくことにより、日本経済の持続的な成長とデフレ克服の実現に取り組んでいきたいと考えている。また、市場を通じる資金仲介の多様化・効率化を図り、金融緩和の波及メカニズムを強化する観点から、貸出債権の売買・証券化市場をはじめとするクレジット市場の整備に向けた市場参加者の取り組みも引き続き支援していく方針である。

  1. 24月28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。

以上

(参考)

  • 図
  1. 3「大勢見通し」は、各政策委員の見通しのうち最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものである。政策委員全員の見通しの幅は下表のとおりである。
  • 図

<参考>

背景説明を含む全文は 4月30日(金) 14時に公表の予定です。