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日銀ネットのネットワークインフラの高度化について

2002年 1月25日
日本銀行

1.はじめに

 日本銀行当座勘定決済、国債決済のRTGSへの移行は、日銀ネット利用先(以下、「利用先」という)を始めとする関係者の周到な準備によって2001年初に円滑に実施されました。利用先の間の決済におけるシステミック・リスクが削減されたことによって、日銀ネットを用いた決済の安全性は大幅に改善されたところです。日本銀行としては、今後とも、その時々の技術革新の成果等を十分に活用しながら、日銀ネットの安全性および利便性向上に向けた努力を不断に続けていく所存です。

 今般、日本銀行は、ネットワーク技術や電文フォーマットの標準化などの進展に積極的に対応するとの観点から、日銀ネットの基盤であるネットワークインフラの高度化を図ることとしました。その内容として、(1) コンピュータ接続(以下、「CPU接続」1という)の改善、(2) 日銀ネット端末の改善、(3) 電文フォーマット選択の柔軟性確保(国際標準の採用)、の3点を考えています(具体的内容は下記2.~4.を参照)。

 こうした改善により、日銀ネットと利用先のシステムとの接続性向上を通じて、利用先における日銀ネットの一層の利便性の向上と決済事務の効率性の向上が図られるものと考えています。

  1. 利用先のコンピュータと日本銀行のコンピュータを直接回線で接続してデータの授受を行う方式のことであり、端末からデータを入力する必要がないことから、大量のデータ授受に適しています。

2.CPU接続の改善

  1. (1)日銀ネットにおいてはCPU接続の通信手順として、全銀協標準通信プロトコル(ベーシック手順)2を用いています。同プロトコルは、もともと全国銀行協会連合会が中心となって、企業と銀行との間でオンラインデータの交換を行う場合に使用することを目的として開発された日本独自の通信手順ですが、現在国際標準として広く利用されているインターネット・プロトコル(TCP/IP手順)3とは異なるものとなっています。

 また、現行CPU接続の電文送受信は、これがもともとネット受払額の算出を行う外為円決済システム4用に大量の電文を効率的に送受信することを目的に開発されたものであるため、ファイル伝送方式(複数の電文をファイルにまとめて一括して送受信する方式)により実現されています。また、伝送速度も9600bpsと、現在においてはさほど高速と言えるものではありません。このため、現行のCPU接続は、──現時点で支障が生じているわけではありませんが──、日銀ネットがRTGSへ移行し時限性が厳しく要求されるようになったことに照らしてみると、今後の日銀ネットの利用形態に必ずしも適合しているとは言い難い面があります。

  1. 2全銀システム(個人や企業が振込を依頼した場合などにおいて、金融機関同士の内国為替決済を行うためのシステムであり、東京銀行協会により運営されています)において、全銀センターと加盟金融機関との間の通信に使用されています。
  2. 3Transmission Control Protocol / Internet Protocol の略。インターネットの標準通信プロトコル。
  3. 4外為円決済システムは東京銀行協会が運営していますが、電文の送受信等に関し日銀が事務を受託しており、その電文は日銀ネット上で送受信されています。2001年1月の日銀ネットのRTGS化後、CPU接続によって送受信できる電文は、従来の外為円決済に関する電文から、日銀ネット当座勘定系・国債系関連の電文にまで拡大しました。
  1. (2)こうした点を改善するために、日本銀行としては、システム間の通信手順として、近年の国際標準となっているインターネット・プロトコル(TCP/IP手順)を採用することとしました。これは、扱いやすい標準技術の採用により、利用可能なハードウェアおよびソフトウェアの選択肢が広がるものと考えられます。

また、同様にCPU接続電文送受信をリアルタイム・トランザクション(電文を1本ずつリアルタイムで送受信する方式)化するために、通信インターフェースとしてCORBA5と呼ばれる国際標準仕様を採用し、電文送受信の方式をよりRTGSに適合的なものに改めます。さらに、CPU接続の伝送速度の向上6も同時に実現したいと考えています。

  1. 5Common Object Request Broker Architectureの略。オブジェクト技術の標準化団体であるOMG(Object Management Group)によって標準化された、異機種・異言語間通信インターフェースの標準仕様です。
  2. 6伝送速度については目下検討中ですが、現在のところ64kbps(現在の約7倍)以上のスピードとなる見通しです。
  1. (3)上記のCPU接続の改善については、2004年度(平成16年度)前半までに日銀ネット側の開発を完了させ、それ以降順次、新CPU接続方式の利用を希望する利用先との接続テストを開始することを目途としたいと考えています。なお、現行のCPU接続方式は、新CPU接続方式の提供開始後、少なくとも3年間は移行措置として並行して供用を続けることを考えています。

3.日銀ネット端末の改善

  1. (1)1988年に稼働を開始した日銀ネットでは、コンピュータネットワークにアクセスする端末として独自仕様の専用端末が用いられています。これは、当時の最新技術の下で十分なセキュリティーを確保するためには、そうした対応が最善と考えられたためです。日銀ネット端末はその後レベルアップのための更新を行い、また端末価格の引下げ等コストパフォーマンスの向上にも努めてきました。一般的に専用端末や高機能のワークステーションについては、そのセキュリティや信頼性の高さからネットワーク端末として使用されるニーズは引続き根強く存在しますが、近年におけるパソコンの急速な信頼性向上と機能改善を背景に、パソコンがネットワーク端末として急速に浸透しつつあること等を勘案すると、専用端末である日銀ネット端末にもなお改善の余地が残されています。具体的には、現行の日銀ネット端末は、安全性や信頼性を特に強化した専用仕様の特注品であるほか、受注生産方式で供給されているということもあって、パソコンに比べれば高価であるほか、受注から納品まで約半年を要するなど、端末利用先にとってのコストパフォーマンスや使い勝手の面でなお改善する余地が残されているものと認識しています。
  2. (2)こうした点を考慮し、日本銀行では、日銀ネット端末として将来パソコンを使用可能とすることを展望しています。
  3. (3)こうした対応については、パソコンにより現行の専用端末が提供してきた高度の信頼性や機能を実現するには、多岐に亘る技術的検討を行なう必要が見込まれることもあり、改めて日銀ネット端末に対する信頼性や機能面でのニーズを見極めつつ、できるだけ早期に実現する方向で検討を進めていきます。なお、現行日銀ネット端末については、パソコンが使用可能となってからも当面の間は、利用可能とする方針です。

4.電文フォーマット選択の柔軟性確保(国際標準の採用)

  1. (1)標準化の潮流は、電文フォーマット(形式)の分野でも顕著に進みつつあります。決済指図に利用される電文のフォーマット(形式)についてみると、海外の主要な決済システムでは資金決済系についてはSWIFTフォーマット7の利用がほぼ確立し、証券決済系においてもISO150228に準拠したフォーマットの電文を用いる動きが既に広範化しています。こうした動向を考慮し、今般公表されたBIS支払・決済システム委員会(CPSS)と証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会による「証券決済システムのための勧告」9においても、ISO15022などを例示しつつ、決済システムが国際標準フォーマットに対応し、国際間決済の利便性向上に配慮することが推奨されるに至っています。
  1. 7SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)が運営するネットワークで使用されている電文フォーマット。
  2. 8証券市場の参加者間で送受信されるデータの作成について、国際標準化機構(ISO)により策定されたルール。SWIFTでは、このルールに基づいた証券系の電文フォーマット(MT500番台)を作成しています。
  3. 9本勧告については、日本銀行ホームページをご参照下さい
  1. (2)日銀ネットでは、現在、外為円決済システムで用いられている電文の一部がSWIFTフォーマットを基本としたものとなっている以外は、全て日銀ネット独自のフォーマットが使用されています。

日本銀行では、標準化に適切に対応するという観点から、日銀ネット当座勘定系に関しても、端末接続先を含む全利用先に対して、現行の独自フォーマットに加え、外為円決済システムと同様にSWIFTフォーマットを基本とした電文フォーマットを選択的に利用可能としていく方針です10

また、日銀ネット国債系では、利用先のニーズが特に高いとみられる国債の振替のための電文(「国債受渡(資金同時受渡)(譲渡人・払出先)」、「国債受渡(資金同時受渡)(払出先・記事付)」、「口座振替(払出先)」、「口座振替(払出先・記事付)」)に関し、2.で述べた新CPU接続方式の利用先に対して、現行の独自フォーマットに加え、ISO15022に準拠したフォーマットによる日銀ネットへの送信も選択可能とすることを検討しています。

  1. 10具体的には、外為円決済にかかる日銀ネット電文である「CUSTOMER TRANSFER」(業務処理区分コード25101)、「BANK TRANSFER」(同25102)のグロス決済分と同様の電文を当座勘定系に新設し、選択可能とする方向で検討しています。
  1. (3)これらのシステム上の対応については、実現可能なものから順次実施し、遅くとも2.に述べたCPU接続の改善と同時期までには行えるように今後さらに検討を進めていきます。

5.おわりに

 以上述べた日銀ネットのネットワークインフラの高度化は、わが国決済システム全体の基底に位置する日銀ネットの機能とその利便性を中長期的に大きく改善するとともに、利用先の決済事務やシステム対応に相応の影響を与えるものと考えられます。このため、日本銀行としては、利用先のご理解を得てこの改善計画を実効性あるものにしていくとの観点から、本日このペーパーを全ての日銀ネット利用先にお配りし、ご意見・ご提案を頂く機会を設けることとしました。日本銀行としては、今後とも検討の節目等の段階で、必要に応じて利用先等に対してご説明する機会を設けたり、適宜ご意見やご提案を頂く場を設けるなどしながら、利用先のニーズ等を踏まえて、フィージビィリティを見極めていきたいと考えています。

(1)ご意見・ご提案の期限、提出方法

 ご意見・ご提案がある場合には、金融機関等名およびご連絡先を明記して頂いた上で適宜の形式で書面にまとめ、2002年2月20日(必着)までに、書留で下記へ郵送願います(ご意見・ご提案がない場合は、日本銀行への連絡は不要です)。

送付先:〒103-8660 東京都中央区日本橋本石町2-1-1
日本銀行 信用機構室決済システム課

(2)頂いたご意見・ご提案の扱い

 寄せられたご意見・ご提案は十分に検討させて頂いたうえで、日本銀行の対応方針を取り纏めます。日本銀行の対応方針と、寄せられたご意見・ご提案を必要に応じて集約したペーパーを作成し、当ペーパーと同じ配付先にお届けします(寄せられた個別のご意見・ご提案についても開示させて頂くことがあります)。なお、そのペーパーは一般にも公表する予定です。

以上