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証券化市場フォーラム・報告書(要旨)

2004年 4月22日
証券化市場フォーラム事務局
日本銀行金融市場局

日本銀行から

 報告書の全文は、こちら (mpo0404c.pdf 864KB) から入手できます。

I.フォーラム開催の経緯

 証券化商品は、裏付資産の分散効果を通じてリスクを削減し、リスク許容度に応じて多様な投資家を呼び込むことが可能になるという特性を有している。このような特性を有する証券化商品の市場が健全に発展していけば、金融面からわが国経済を支えていく仕組みが強化されることになる。

 こうした問題意識を背景に、日本銀行は、幅広い市場関係者の参加を得て「証券化市場フォーラム」を開催した。フォーラムでは、証券化市場の発展を図るために、原資産の組成から、証券の発行、流通に至る一連の取引の流れを、市場横断的な視点から総合的に検討し、具体的な課題や解決の方向性について議論を行った。本フォーラムは、昨年11月に初回会合を開催した後、分科会やワーキング・グループによる検討を重ね、4月の最終会合を経て、報告書をとりまとめた。

II.証券化市場の可能性と課題

 証券化を活用することによって、企業・家計は新たな資金調達チャネルを得るほか、投資家もリスク選好に応じたポートフォリオをより柔軟に構築することが可能となる。また、証券化市場の活性化は、貸出を含む金融取引について「リスクに見合ったリターン」の実現に寄与し、新しいビジネスや金融先端分野の発展と相俟って、わが国の金融機関を活性化させることにも貢献しよう。さらに、金融機関の貸出を補完するかたちで信用仲介チャネルが複線化していけば、金融システムのリスク耐性を高めることも展望される。

 このように証券化市場の発展の意義は大きいが、その本格的な発展に向けて克服すべき課題はなお少なくない。この点は、わが国の証券化市場が90年代後半以降に着実に成長をみているものの、発行市場が依然小さい上に、流通市場の取引も限定的なものに止まっていることにも現れている。

III.具体的な課題と解決の方向性

1.各裏付資産に共通の課題

(1) 証券化商品の価格評価をより的確かつ効率的に行い得るための環境整備

 証券化商品の価格評価の円滑化に向けた課題の一つが情報開示の充実である。具体的には、次のような構想が示された。まず、発行の事実が公表されない案件が増えていることへの対応として、中立な立場の公的セクターが、証券化商品の個別銘柄の概要が分かるリストを作成することである。また、個別証券の価格情報や適切な価格評価を行うための情報の入手が困難であることへの対応として、情報の標準開示項目や推奨フォーマットを作成することである。

 もう一つの課題は、裏付資産プールのリスクを定量的に評価する分析ツールの一層の洗練である。この点に関しては、多数分散プール型CLOに関する分析を通じて、裏付資産プールに組み入れる債権の選別を行う適格要件の判別力向上のためには、スコアリング・モデルなどによる複数財務指標の組み合せが有効であることや、裏付資産に関するパフォーマンス・データによる事後的検証が有用であることが確認された。

(2) 証券化商品の組成・売買にかかるコストを引き下げるための環境整備

 証券化商品にかかる様々なコストの引き下げに向けては三つの課題が認識された。第一に、金銭債権の譲渡に関するコストの引き下げである。これについては、a.売掛債権の存否確認が困難であったり、原債務者の抗弁により金銭債権の元利払いが滞る場合がある、b.譲渡禁止特約が付される場合が多い、c.対抗要件取得の事務コストが大きい、といった課題が指摘された。そうした課題への対応としては、債権譲渡による資金調達が一般化し、債権者の風評リスクが生じないようにすることの重要性が確認された。その上で、a.譲渡に適した原債権を組成したり、債権プールの毀損データに基づく信用補完を導入する、b.情宣活動や譲渡禁止特約の部分的解除に公的セクターが率先して対応する、c.債権譲渡登記にかかる先登記検索などのオンライン化を図る、といった対応策が議論された。

 二つ目の課題であるSPVの使い勝手の向上については、単一SPCによる複数回の証券発行を可能とするよう、裏付資産と証券を各々紐付けるために、SPC破綻の際の責任財産限定特約の取扱いを明確化したり、裏付資産への担保権設定を円滑化するといった対応が議論された。また、信託受益権の流動性を向上させるために、譲渡事務を改善するほか、私法上の有価証券性を付与したり、特定目的信託の配当にかかる源泉徴収を見直すことが必要ではないか、といった議論があった。

 三つ目の課題は、いわゆるサービサー・リスクの低減である。この点に関しては、サービサーが破綻した場合に、回収金がサービサー自身の資金と混同され、証券化商品の元利払いが遅延・減少するリスク(コミングリング・リスク)を低減することなどが取り上げられた。そうした問題への対応としては、SPV名義口座やサービサーの分別口座で回収金を管理することや、バックアップ・サービサーへの円滑な交替を実現するための枠組み作りなどが議論された。

2.個別の裏付資産に固有の課題

(1) 売掛債権(ABCP)

 売掛債権は、中堅・中小企業金融の活性化に向けて大きな期待が集まっている。その証券化において、原債権からの回収金が原債務者の抗弁等によって減少するリスクは、従来は、銀行が100%の信用補完を行うことで回避されてきた。しかし、銀行がリスク管理を精緻化している中で新たな対応の必要性が指摘されており、譲渡に適した原債権の導入や、コミングリング・リスクを抑制するためのSPV名義口座への回収金の直接入金、債権プールの毀損データに基づく適切なプライシングを通じた「ノン・サポート型」ABCPの導入などが議論された。

(2) 銀行貸出債権(CLO)

 銀行貸出債権の証券化は、最適ポートフォリオの実現や資本の有効活用、「リスクに見合ったリターン」を有する貸出の促進、といったメリットを金融機関にもたらすことが期待されている。CLOに随伴するリスクを抑制し、市場を活性化するためには、情報開示の充実や、分析ツールの一層の洗練が重要であることが確認された。また、クレジット・デフォルト・スワップが組み込まれたシンセティック型CLOの会計処理の明確化を求める意見もみられた。

(3) 住宅ローン債権(RMBS)

 住宅ローン債権は、残高の多さや、均質性、期間の長さ等からみて証券化に適しており、RMBSは、国債に匹敵する市場規模になることも展望される。住宅金融公庫の買取型スキームに関し、わが国市場の指標的商品(ベンチマーク商品)となることへの期待と同時に、その組成拡大のため、公庫の直接融資の圧縮を求める声があった。また、証券化に適応し易くする方向で民間金融機関の住宅ローンのスキームを見直す意義のほか、流通市場の活性化の観点から、CMOの機動的発行やレポ市場・先渡し市場の整備の必要性が認識された。

IV.日本銀行の取り組み

1.資産担保証券の買入れ基準見直し

 日本銀行は、フォーラムでの議論をも踏まえ、本年1月の政策委員会・金融政策決定会合において、資産担保証券の買入れ基準について、(1)中堅・中小企業関連債権比率要件、(2)正常先要件、(3)格付要件、(4)買入対象先の選定頻度、の4点について見直しを決定、実施に移した。これにより、同基準のもとで適格となった資産担保証券は着実に増加している。

2.「証券化市場の動向調査」の実施

 日本銀行は、国内に所在する特定資産を主たる裏付資産として発行される債券、信託受益権、CPを対象に、アレンジャー・スポンサー銀行、格付機関等から月次で任意に報告を受付け(ABCPなどはプログラム単位で半年毎)、集約を行うこととした。本調査は、フォーラムでの情報開示に関する問題提起とこうした取り組みへのフォーラム参加者の要望を受けて、様々な市場関係者と議論を重ね、実施することとしたものであり、今後、準備が整い次第、公表を開始する。日本銀行の関与は、市場の発展途上期において、市場取引の円滑化・効率化に資する情報インフラとしての機能を担うものであり、資産担保証券の買入れと同様に2005年度末までの時限的措置とし、その後は民間の組織の取り組みに委ねる方針である。

3.日本銀行の契約における譲渡禁止特約の部分的解除

 本フォーラムでの債権譲渡に伴うコストの引き下げに関する議論を踏まえ、日本銀行は、自らに対する売掛債権(日本銀行にとっての買入債務)等の譲渡禁止特約について、契約金額500万円以上のものを対象に、一定の条件の下で、SPCや適格機関投資家等への代金債権の譲渡を可能とするよう解除する予定である。こうした取り組みは、これまでに一部の中央官庁などでも開始されており、その広がりが期待される。

V.今後への期待

 報告書の中で提示した課題とその克服に向けた基本的方向性が、証券化市場の健全な発展に向けた道筋を示す道標となることを期待している。また、本フォーラムは、市場の発展を目指す上で不可欠な、幅広い市場参加者相互間の信頼と協力関係の基盤づくりに向けた役割を果たしたのではないかと考えている。

 日本銀行としては、そうした基盤に立脚した市場参加者による主体的な検討や取り組みの積み重ねを支援していきたいと考えており、そうした努力が、今後、証券化市場の更なる発展として結実していくことを願っている。

以上