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Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書(第4フェーズ)

2020年2月12日
日本銀行決済機構局

日本銀行と欧州中央銀行は、本日、分散型台帳技術に関する共同調査プロジェクト「プロジェクト・ステラ」の第4フェーズの調査結果を、報告書「分散型台帳環境における取引情報の秘匿とその管理の両立」(原題:Balancing confidentiality and auditability in a distributed ledger environment)として公表しました。

詳細につきましては、以下をご覧ください。

ステラ・フェーズ4の問題意識

ステーブルコインや中央銀行デジタル通貨など、分散型台帳技術(DLT)に基づくプラットフォームで使われうる、さまざまなデジタル決済手段の開発に対する関心が高まっている。DLTネットワークにおける取引では、参加主体が各自のDLTノードを運用し、これを通して取引情報を共有するため、プライバシの確保が課題となりうる。プライバシを確保するため、取引当事者ではない第三者の取引情報へのアクセスを制限する等の、いわゆる「プライバシ強化技術(privacy-enhancing technologies/techniques、以下PET)」が登場している。これと同時に、DLTに基づく決済システムを信頼されるかたちで運営するためには、取引の事後確認を行う第三者(「確認者」)を置くなどの仕組みが必要になる。

PETを用いて取引情報が秘匿化されると、確認者による取引確認が難しくなる。従って、フェーズ4では、分散型台帳環境において、いかにして取引情報の秘匿化と確認可能性を両立するかという問題に取り組む。この目的のため、概念整理と実機検証を通して、DLTに基づく金融市場インフラの取引をPETで秘匿化する方法とその確認可能性を確保する仕組みについて調査する。

主な結果

フェーズ4は、取引の秘匿化に用いるPETの基本的な特徴を説明し、秘匿化された取引が実効的に確認可能かを評価するための観点を提案する。これらは、取引情報の秘匿化に用いるPETを選択したり、取引確認プロセスを考案したりする際の出発点として参照できる。

PETの3分類

フェーズ4では、取引情報を秘匿化する手法のアプローチの違いに基づき、PETを3分類に整理している(図表A)。

  • 共有先制御型PETは、各参加者がネットワーク上の全取引の一部にしかアクセスできないようにする手法。
  • 非可読化型PETは、暗号化技術を用いることで、第三者が取引情報を解釈できないようにする手法。
  • 関係性隠匿型PETは、台帳に記録された送金者・受領者情報から、第三者が取引当事者を特定することを困難にする手法。

図表A:PETの3分類

  • 主体Aが主体Bへ100ユーロ送金する際に、第三者である主体Cから見える取引内容について、各分類ごとに示した図。各特徴の詳細は本文のとおり。

取引情報の確認可能性を評価するための3観点

フェーズ4では、各PETによって秘匿化された取引情報の確認可能性を評価するための3観点を提案している(図表B)。

  • 必要情報の取得の確実性:確認者は取引確認に必要な情報を確実に取得できるか。
  • 取得情報の信頼性:確認者は取得した情報を用いて、秘匿化された取引情報を確実に解釈できるか。
  • 取引確認プロセスの効率性:取引確認プロセスは実現可能な程度に効率的か。

図表B:取引確認の大まかな流れと3観点

  • 取引確認プロセスにおける取引情報の確認可能性を評価するための3観点を示した図。各観点の詳細は本文のとおり。

確認者が必要情報を参加者から取得し、取引情報を確認するプロセスが3つの観点をいずれも満たすよう行われれば、実効的な取引確認が可能になる。ネットワーク上に、必要情報を集中的に保管している、信用できる主体が存在する場合には、当該主体から情報提供を受けることが想定される。こうすることで、参加者からの協力がなくとも3観点を満たすことが可能になり、実効的な取引確認を実現しやすくなる。しかしながら、そうした主体は、ネットワークに単一障害点リスクをもたらしうる。

プロジェクト・ステラとは

日本銀行と欧州中央銀行は、2016年12月、共同調査プロジェクト「プロジェクト・ステラ」を開始した。本プロジェクトは、概念整理と実機検証を通して、DLTが金融市場インフラに対してもたらしうる潜在的な利点や課題を洗い出し、議論を促進することを目的としている1。本プロジェクトの研究成果として、これまで、3つの報告書——フェーズ1(DLTを用いた大口資金決済、2017年9月)2、フェーズ2(DLT環境における資金と証券のDVP決済、2018年3月)3、フェーズ3(DLT関連技術を用いることでクロスボーダー送金の安全性等を改善しうるかの検証、2019年6月)4 ——を公表している。

  1. プロジェクト・ステラは、中央銀行の既存の決済システムを置き換えたり、補完したりすることを意図したものではない。また、法律や規制上の観点は本プロジェクトの射程外である。
  2. Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書
  3. Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書(第2フェーズ)
  4. Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書(第3フェーズ)

照会先

決済機構局

E-mail : post.pr@boj.or.jp