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新しい法的枠組みに基づく国債振替決済制度への移行について

2002年 6月21日
日本銀行

目次

1.はじめに

本年 6月 5日、第 154回国会において「証券決済制度等の改革による証券市場の整備のための関係法律の整備等に関する法律」が成立したことにより、「社債等の振替に関する法律」(以下、「社債等振替法」といいます。)が2003年(平成15年) 1月 6日から施行されることとなりました1。社債等振替法は、社債や国債等を完全にペーパーレス化し、社債権や国債権等の権利を帳簿上の振替によって移転させること等を可能にする法律です。

これを受け、本日、日本銀行は、現在運営している国債振替決済制度(以下、「現行制度」といいます。)を、社債等振替法に基づく新しい国債振替決済制度(以下、「新制度」といいます。)に移行させる方針を決定しました。

具体的には、所要の準備が整うこと等を条件に、来年 1月27日を目途に、現行制度を廃止するとともに、新制度の運営を開始することを基本方針とし、これに必要な対応を進めていくこととしました。

以下では、こうした方針を採るに至った背景、新制度に移行する理由、現行制度からの主な変更点、今後の進め方等について、ご説明します。なお、現行制度の参加者、間接参加者および外国間接参加者(以下、「参加者等」といいます。)に対しては、別途、新制度における事務・システム処理の概要等をご連絡しています2

  1. 「証券決済制度等の改革による証券市場の整備のための関係法律の整備等に関する法律」により、「短期社債等の振替に関する法律」(平成13年法律第75号)が一部改正され、その題名も「社債等の振替に関する法律」に変更されました。これらについては金融庁のホームページ(外部サイトへのリンク)を参照して下さい。
  2. 「新しい国債振替決済制度への移行等について」(日本銀行業務局、本年 6月21日)によりご連絡しています。

2.背景

日本銀行では、1980年(昭和55年)に国債振替決済制度を創設し、20年以上にわたりこれを運営してきました3。国債振替決済制度は、創設当時、国債の発行、流通量の増大に伴い登録国債の名義変更等が著しく増加していたことを受けて、国債の流通、保管の円滑化・効率化を図り、もって国債流通市場の整備、育成に資する趣旨で創設したものです。

日本銀行では、同制度の創設後も、国債の決済が金融機関間の資金決済と極めて密接に結びついていること等に鑑み、様々な施策を講じて国債の決済システムの安全性と効率性の向上に努めてきました。

例えば、1990年(平成 2年)、日本銀行金融ネットワークシステム(以下、「日銀ネット」といいます。)によるオンラインでの振替請求等を実現したほか、1994年(平成 6年)には、資金との同時受渡(いわゆるデリバリー・バーサス・ペイメント<delivery versus payment、DVP>)のシステムを導入しました。さらに、2001年(平成13年)からは、システムの更なる高度化を行って、国債の即時グロス決済(いわゆるリアルタイム・グロス・セトルメント<real-time gross settlement、RTGS>)化、を実施しています。

こうした取り組みの結果、国債の決済システムは、既に国際標準4にほぼ合致したものとなっているほか、わが国の証券決済システムの中で最も安全性・効率性の高い仕組みとなっています。日本銀行としては、今後も市場参加者等の関係者の要請に応え、安全で効率的な国債決済システムの運営に努めていく必要があると考えています。

一方、国債以外の証券決済システムを含め、わが国全体の証券決済の現状をみた場合には、改善を要する点が多いことも事実です。そして、こうした点に早急に取り組むことが、近年、証券市場の金融仲介機能の重要性が増し、国際的な市場間競争が強まる中で、わが国証券市場の国際競争力を強化するなどの観点から、重要な課題として認識されるようになりました。

こうした認識を背景に、2000年(平成12年) 6月、金融審議会第一部会・証券決済システムの改革に関するワーキング・グループが取り纏めた報告書(「21世紀に向けた証券決済システム改革について」5)が公表されました。

同報告書は、わが国の証券決済システムの問題点の一つとして、証券決済の制度が証券の種類ごとに分立していることを挙げ、これに対する具体的方策として、「有価証券の種類や証券決済機関の担い手の如何にかかわらず、共通のルールの下で決済が行われるための統一的な証券決済法制を整備することが必要である」としています6。こうした提言により、統一的な証券決済法制を整備することが、わが国証券決済システムの改革の一つの柱とされるに至りました。

その後、まず昨年 6月にコマーシャル・ペーパーの完全なペーパーレス化を可能にする「短期社債等の振替に関する法律」が成立しました。そして、今国会で同法は改正され、社債等振替法として、短期社債(コマーシャル・ペーパー)の他に社債、国債、投資信託受益証券等をも対象とし、かつ、これらすべての証券について、券面を一切なくし、その権利の発生、移転、消滅を帳簿上の記録という同じルールによって行うことを可能にする法律となりました。

このことから分かるように、社債等振替法は、統一的な証券決済法制の整備を大きく前進させるものであり、今後の証券決済法制の中核に位置付けられる法律と考えられます。

また、社債等振替法においては、国債に関する特則として、利付国債の元本部分と利息部分を分離し両者を別々に流通させる、いわゆる「ストリップス債」の定義や取扱いが定められています。

このように、社債等振替法により、国債の振替決済制度に関する法的な枠組みが変化することとなるため、これへの対応を検討する必要が生じている訳です7

  1. 3国債振替決済制度については、「新しい日本銀行 その機能と業務」(日本銀行金融研究所編、第10章第 1節)参照。
  2. 4支払・決済システム委員会・証券監督者国際機構専門委員会報告書「証券決済システムのための勧告」(Committee on Payment and Settlement Systems, Technical Committee of the International Organization of Securities Commissions, "Recommendations for Securities Settlement Systems")(2001年, [原文1](外部サイトへのリンク); [原文2](外部サイトへのリンク);[日本銀行仮訳]および、グループ・オブ・サーティ「世界の証券市場における清算および決済システム」(The Group of Thirty, "Clearance and Settlement Systems in the World's Securities Markets")(1989年)参照。
  3. 5参照。(外部サイトへのリンク)
  4. 6同報告書は、現行の証券決済システムの問題点として、(a)証券決済制度の分立、(b)効率的決済の観点からみたペーパーレス化の遅れ、(c)電子化の遅れ、(d)DVPの未実現を指摘しています。また、これらの問題点を解決するための具体的方策として、(a)統一的な証券決済法制の整備、(b)STP(straight-through processing<約定から決済に至る作業が電子的に行われ、人手による加工を経ることなくシームレスに処理されること>)化、(c)DVPの実現等、(d)クロスボーダー取引の決済の円滑化を挙げています。
  5. 7なお、「証券決済制度等の改革による証券市場の整備のための関係法律の整備等に関する法律」により、「国債ニ関スル法律」が一部改正され、保有者が個人のみに限定され、その譲渡に制限が付される「個人向け国債」が導入される予定です。

3.新制度に移行する理由

日本銀行としては、上に述べた諸点を踏まえ、国債振替決済制度の今後のあり方を検討してきました。そうした検討の結果、冒頭述べたとおり、現行制度を、来年 1月27日を目途に、新制度に移行させる方針とすることが適当との判断に至りました。その理由をやや詳しく述べれば次のとおりです。

第一の理由は、新制度に移行することにより、国債証券(券面)が不要になり、保有・決済の効率化が図れるというメリットがあることです。

社債等振替法の下では、国債の発行、流通、償還のいずれの場面においても、券面が用いられることはありません。これに対して、現行制度においては、国債権者(権利者)からの請求があれば、それに応じて券面を出し入れすることとなっています。このため、振替決済制度の運営者や参加者等にとっては、こうした請求に備えて国債証券の保管等を行う態勢を維持するためのコストが発生しています。また、国債に関する国の事務を取り扱う日本銀行も、国債証券の作成・廃棄を行う態勢を維持しなければなりません。しかし、実際の国債保有状況をみると、現状、無記名国債の総発行残高の99%は国債振替決済制度によって保有されており、国債証券の保有は総発行残高の0.3%にすぎません。

こうした点を考えると、国債振替決済制度によって保有されている国債について券面をなくすことは、国債の発行・流通・保管に要するコストの削減、ひいては決済の効率化に資するものと思われます。

第二の理由は、振替決済の法律構成がより分かりやすくなるということです。

現行制度においては、国債証券(券面)の存在を前提として、日本銀行に寄託されている国債証券について、その寄託者である譲渡人が日本銀行に対して占有移転の指図を行い、譲受人が当該国債証券の占有を取得する、との構成により振替決済を行っています。また、当該法律構成は、民商法等の一般私法および日本銀行と参加者等との間の契約によって実現されています。

こうした法律構成は、これまで実務の要請に応えて十分に機能してきていますが、振替決済を直接対象にした法律に依拠する場合に比べると、海外などからみて必ずしも分かりやすいとは言えない面があるように窺われます。

この点、社債等振替法に基づく新制度に移行すれば、振替決済の法律構成は現行制度よりも分かりやすくなると考えられます。また、国債と社債等他の証券の振替決済が同じ法律構成で行われるようになることから、わが国証券決済システム全体の法的基盤について、これまでより国際的な理解が得られやすくなることも期待できると思われます。

第三の理由は、現行制度のシステム等を最大限活用することにより、市中金融機関等の負担を抑えつつ、かつ短期間で、社債等振替法に基づく新制度を実現できると考えられることです。

これは、現行制度と新制度には振替決済を行う仕組みであることなど多数の共通点がある上、現行制度のシステム・インフラが新制度でもほぼそのまま活用できるためです。従って、現行制度をベースとすることにより、法的枠組みの変更にもかかわらず、来年の早い時期から新制度を実現することが可能になります。

4.現行制度からの主な変更点

現行制度と新制度には、(a)国債権を口座に記録された残高で管理する点、(b)その移転が帳簿上の振替によって表される点、(c)振替決済機関と国債権者との間に銀行や証券会社等の仲介機関が介在する「階層構造」を採る点など、多数の共通点があります。従って、新制度に移行しても、振替決済制度(ブックエントリー・システム8)としての基本的な枠組みに変更はありません。

また、新制度においても、現行制度と同様、日銀ネットがそのシステム・インフラとなり、各種の請求等のオンライン処理や、DVP等の機能を活用できます。

以下では、現行制度から新制度への移行によって生じる変更のポイントを、既に述べた点を含めて、整理しておきます。

(1)振替決済の法律構成の変更

現行制度と新制度とでは、国債権という権利の帰属(誰のものであるか)が何によって決まるか、また、その権利がどのようにして移転するか、についての法律構成が異なります。

その違いは、要すれば、現行制度が国債証券という、国債権を表章している「紙=モノ」(有価証券)の存在を前提としているのに対し、新制度はそのような「紙=モノ」の存在を前提にしていない点にあると言えます。

このため、例えば、現行制度、新制度ともに帳簿上の口座への記帳や口座振替を行いますが、その意義は異なることになります。すなわち、現行制度では、帳簿上の口座の残高や口座振替自体に直接の法的効力はなく、これらが表している国債証券という「モノ」の占有やその引渡し(または交付)が、権利帰属の推定や権利移転の効力を発生させています。これに対し、新制度では、帳簿上の振替(口座簿の減額記録と増額記録)によって、国債権の移転の効力が直接発生することになります。

こうした法律構成の変更により、既に述べたように、国債証券という「紙」が、発行から償還に至るすべての過程で一切不要になります。また、これに伴い、国債登録制度との関係も変わります。具体的には、登録国債と国債証券とは引続き相互に転換可能であるものの、振替国債(新制度に基づく国債をいいます。以下同じです。)は国債証券に転換できないことから、振替国債を登録国債に転換することもできなくなります9。さらに、現行制度では、日本銀行に再寄託された国債証券を日本銀行名義で一括登録していますが、新制度では、振替国債について一括登録を行いません。

(2)振替機関・口座管理機関の義務等の変更

現行制度と新制度では、振替機関および口座管理機関(それぞれ現行制度における受寄機関および顧客口座を開設する参加者等に相当します。)の義務等の内容が異なることになります10

具体的には、新制度への移行に伴い、振替機関および口座管理機関には、主として以下の義務等が発生することになります。

(a)過大記録の消却

仮に、振替機関や口座管理機関が、何らかの原因で、口座簿に本来記録すべき金額を上回る記録を行い、かつその分の国債が譲渡された場合において、その譲受人がそれを善意取得したときは、振替決済制度内にある国債の総額が発行額を上回ってしまうことになります(これを「過大記録」といいます。)。

こうした過大記録が発生した場合、その原因となった記録を行った振替機関あるいは口座管理機関(以下、「過大記録機関」といいます。)は、社債等振替法上、過大になっている記録につき消却を行い、発行額に一致させる義務を負うこととなります11

(b)加入者に対し連帯保証責任を負う旨の契約締結

上記(a)の過大記録問題については、仮に過大記録機関が消却義務を果たさないまま元利払の期日が到来することも考えられます。この場合、当該過大記録機関は、過大記録分についての元利払や損害賠償の債務を負います。

社債等振替法は、過大記録機関の元利払・損害賠償債務について、当該過大記録機関の下位機関が、各々の直接の加入者に対して連帯保証することを求めています。

具体的には、各口座管理機関は、口座を開設している加入者のうち、機関投資家や国・地方公共団体等を除いた「一般投資家」に対して、上位機関の元利払・損害賠償債務を連帯保証する旨を、その者との契約の中で定めることが義務づけられています。

ただし、外国金融機関等(外国において他人の国債やこれに類する権利を管理する者で主務大臣が指定する者)が口座管理機関となっている場合には、この義務は課されません。

(c)加入者保護信託への負担金の支払

加入者保護信託とは、上記(b)の元利払・損害賠償債務を履行しないまま、口座管理機関等が倒産した場合に、当該口座管理機関等の加入者のうち一般投資家については、その損害を一定限度額まで補償する仕組みです。

この加入者保護信託に関して、振替機関・口座管理機関は、主務省令の定める基準に従い振替機関が定める算定方法により、加入者保護信託の信託財産となる金銭を、負担金として支払うことが義務づけられます。

この負担金の取扱いについては、今後関係者間で具体的な検討が行われる予定です。

(3)その他

上記のほか、新制度への移行に伴い、次のような新しい事務を始める予定です。なお、これらについては、現行制度の参加者等に対して、別途、その概要をご連絡しています12

(a)ストリップス債の取扱い

財務省では、新制度への移行と同時に、利付国債の一部について元利分離(ストリップス化)を実現する予定です。

具体的には、財務大臣の指定する振替国債(利付国債)について、元利分離、元利統合および元本部分・利息部分各々の振替を行うことが可能となります。ストリップス債の保有者は法人に限定されます。日本銀行では、元利分離・元利統合の請求をオンラインで行えるようにする予定です。

(b)個人向け国債の取扱い

個人向け国債として、原則として個人間でのみ譲渡可能な変動利付国債が発行される予定です(最低の取引単位は、他の普通国債の 5万円より引き下げられ、 1万円となります。)。個人向け国債は、振替国債として発行され、一定の条件で中途換金が認められます。

(c)振替国債による供託

現在、国債を供託する場合には、国債証券が用いられていますが、新制度では振替国債を国債証券に転換することはできません。このため、社債等振替法上の振替国債の供託に関する規定に基づき、供託所と取引のある日本銀行代理店引受金融機関が、口座簿上の記録により、振替国債の供託事務を取り扱うことになります。

  1. 8ブックエントリー・システムとは、券面を動かすことなく、証券の権利を移転できるようにする記帳システム、のことを言います。
  2. 9なお、社債等振替法の施行後 5年以内の政令で定める日までに発行された国債(既発債を含む)であって財務大臣が指定したものについては、国債権者の申請により、同日以降も国債証券または登録国債から振替国債に転換することが可能です。
  3. 10現行制度において、日本銀行(受寄機関)と参加者等の義務等は、「国債振替決済制度に関する規程」等の日本銀行と参加者等との契約によって定められています。これに対し、新制度においては、振替機関と口座管理機関の義務等は、社債等振替法およびその政省令、振替機関の定める業務規程によって規定されます。
  4. 11過大記録機関は、その口座簿における当該銘柄の金額合計が、その直近上位機関における顧客口座の当該銘柄の金額を上回る額について、例えば同銘柄の国債を自ら調達し、その直近上位機関の顧客口座を増額させることにより、消却義務を履行することになります。
    なお、現行制度の下でも、仮に過大な記帳がなされた状態で当該国債が善意取得されたと認められることがあれば、過大記帳を行った参加者等が権利を失った顧客等に損害賠償責任を負うことになると考えられます。
  5. 12「新しい国債振替決済制度への移行等について」(日本銀行業務局、本年 6月21日)によりご連絡しています。

5.今後の進め方等

(1)移行に向けた準備の進め方

冒頭述べたとおり、日本銀行では、来年 1月27日を目途に、現行制度を廃止し、新制度の運営を開始することを基本方針とし、必要となる対応を進めていく考えです。

ただし、現行制度を廃止し新制度の運営を開始するためには、(a)社債等振替法の施行に必要な政省令が公布・施行され、それらに基づいて日本銀行が新制度の運営を行い得ることが確認できること、(b)日本銀行が、社債等振替法上の国債の振替業を営む者として、主務大臣の指定を受けることその他の社債等振替法および「日本銀行法」上の必要条件をみたすこと、(c)日本銀行および新制度に参加する市中金融機関等の準備が整うこと、が条件となります。

このため、日本銀行としては、新制度への移行に必要な準備を自ら進めるとともに、現行制度の参加者等に準備を進めて頂くためのご説明等を行っていきます。その上で、来年初を目途に、改めて新制度の開始についてご案内する予定です。

(2)移行時の取扱い

現行制度から新制度への移行にあたっては、現行制度により国債を保有している国債権者の方々に対して、各参加者等から、新制度への移行に同意されるか否かを別途確認する予定です。

日本銀行では、こうした手続を経て、新制度移行時までに国債権者から同意が得られた国債を、移行時に振替国債に転換します。他方、移行時までに国債権者の同意が得られなかった国債については、国債権者の請求に従い、国債証券または登録国債により返還し、その意思を確認できなかった国債については、新制度への移行後に、日本銀行から参加者等に対して国債証券を返還する方向で検討しています。

最後になりましたが、日本銀行としては、新制度への移行を円滑に実現し、今後も国債決済の安全性と効率性の向上に努めていく考えです。国債権者ならびに関係各位におかれましても、移行の趣旨をご理解頂き、必要な対応を進めて下さいますようお願い申し上げます。

本件に関する照会先

日本銀行信用機構室決済システム課

(電話番号<代表>:03-3279-1111)
坂本(内線2914)、武田(同2963)