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第2章 決済の道具4.その他の道具

電子マネー

ところで、最近「電子マネー」という言葉をよく耳にするようになってきました。電子マネーという言葉は、使う人によって指している内容が様々であり、例えば、預金の振替をインターネット経由で銀行に依頼できるようになったことをもって、「電子マネーの時代が到来」と書く新聞もあります。しかし、これは単に「銀行へのメッセージ(振替の依頼)が、銀行のロビーに積んである振替依頼用紙とか電話やファックスではなく、インターネットで送ることが出来るようになった」ということにすぎず、決済手段が依然として伝統的な預金であることに変わりはないわけです。

電子マネーとして重要なのは、おさつでも預金でもないのに、人々が「ああ、それが手に入るなら交換に応じてもよい」と思うような、「おさつ・コインや預金に代わる新しい決済手段」でしょう。例えば、カード型の電子マネーの場合、カードに埋め込まれた極小コンピューターに記録されている「100円」というデータが、決済手段としての預金やおさつの役割を果たします。決済に際しては、例えば、お金を払う人と受け取る人が、各人のカードを同じひとつの機械に差し込み、ボタンを操作する。これにより、払う人のカードに記録されていた「100円」というデータを消し去り、受取る人のカードに「100円」というデータを新たに記録する。これで「100円」が人から人へと移り、決済が行われたことになるわけです。

電子マネーでは、金額を示す電子データが、装置やインターネットを介して人から人へと移ることにより決済が行われることを示すイメージ図。

電子マネーは実験段階にあり、世界のどこでも本格的に使われるには至っていませんが、やがて「おかね」として人々に受け入れられていく可能性を秘めています。おかねの素材は動植物などから始まって、金属から紙へと変遷してきましたが、人々が受け入れれば、将来は紙から電子へと変わっていくかもしれないわけです。その場合にも、おかねには「いつでもどこでも必ず受け取ってもらえる」という、人々に共通の信念が必要であることに変わりはありません。

しかし一般に、今日考えられている電子マネーには「多額でも嵩張らない」「遠方への支払も容易」という、預金と極めてよく似た特徴があります。このため、仮に電子マネーがおかねとして使われるようになった場合、その仕組みにもよるわけですが、おかねとしての銀行預金――言い換えれば、銀行を中心に回っている今日の「おかね」のあり方――は大きな影響を受ける可能性があると考えられます。

おかねに似たもの

決済の道具についてのお話を終えるにあたり、おかねに一見よく似たものについて触れておくことにしましょう。まず、クレジットカードやデビットカードですが、これらが預金を動かすための指図(さしず)の手段であり、おさつや預金のような決済手段(おかね)そのものでないことは、すでに述べたとおりです。

それでは、テレホンカードのようなプリペイドカードはどうでしょうか。プリペイドカードには電子データの形で金額が記録されていて、カードを使うにつれて、記録された金額が減っていきます。これは先ほど見たカード型の電子マネーに似ているように見えなくもありません。しかし、プリペイドカードは、おさつや預金と違って利用目的が限定されており、「いつでもどこでも必ず受け取ってもらえる」おかねとは言い難いのです。例えば、会社がテレホンカードで月給を払うとか、商店で代金をテレホンカードで払うことはふつう出来ないでしょう。

この意味でプリペイドカードは、利用目的が限定されたバスの回数券などと変わるところがないのです。実際、私たちはテレホンカードを買った段階で電話会社におかねを払ってしまっており、テレホンカードを使うときに払っているわけではありません。テレホンカードを使って電話をかけると、カードに記録されていた「おかねを払った証拠」が消されていくのです。この意味でもプリペイドカードは回数券に近く、おかねからは遠いと言えるわけです。