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第3章 決済の方法3.預金を使う場合(2)間接的に銀行に指示する方法

これらは、様々なアクセス手段が開発されて「振替の指示」という指図手段が便利になってきたという話ですが、銀行預金という決済手段を動かすための指図手段は「振替の指示」に限りません。それ以外にも、小切手・手形、クレジットカード、デビットカードなど、預金の移動を指示する間接的な手段がいくつもあります(もちろん、正確に言えば、クレジットカードやデビットカードは、カードそのものが指図手段なのではなく、カードを商店に呈示することで指図手段が紙や電子データの形で作り出されるわけですが、ここでは少々雑にこういう言い方をしておきます)。預金をおかねとして用いる、これら様々な支払方法について簡単に調べてみることにしましょう。

小切手

まず小切手は、ある銀行に預金口座をもつ人が、その銀行に「この紙を持参した人が現れたら、私の預金残高を減らして、ここに書いた金額のお金をその人に渡すように」と指図する手段です。小切手を渡す人(債務者)は予め銀行から小切手用紙をもらっておき、ここに金額を書き込み、署名・捺印して、自分が支払う相手(債権者)に渡します。小切手で支払を受けた債権者が、債務者の口座が開かれている銀行に小切手を呈示すると、この銀行は、小切手に書かれた預金者の指図に従ってその口座からおかねを払出し、小切手の持参人に引き渡します。小切手を用いた支払はこうして完結します。

手形

手形(約束手形)も、銀行に持っていくとおかねに換えられるところは小切手に似ています。ただ、厳密に言いますと約束手形は、銀行に対する支払指図の手段というよりは、債権者に対して支払を約束する証文です。また、為替手形といって、自分が支払うことを約束するのではなくて、第三者に支払を指示する――この点で小切手と似ています――そういう手形もありますが、為替手形は支払の指示を受けるのが銀行に限らないところが小切手と異なります。いずれにせよ債権者は、「この紙を債務者の銀行に持っていけばおかねを受け取ることが出来るはず」と期待して、債務者から小切手や手形を受け取るのです。

支払う人(A)が受取る人に対し、「Aの口座から○○円を払い出せ」という銀行に対する指示を伝え、受取る人が銀行に指示を伝えて振替を受けるイメージ図。

クレジットカード

クレジットカードで支払う場合はどうでしょうか。クレジットカードの保有者はカードを商店に示すことで、「私はこの場であなたにおかねを渡しませんが、あとでクレジットカード会社が私の代わりに決済します。クレジットカード会社はこのことを了解しています」というメッセージを商店に伝えます。

その上でクレジットカードの保有者は、商店が用意した伝票にサインすることで、クレジットカード会社に「私は、この伝票にあるとおりの金額の買い物をしました。この商店に、私の代わりにおかねを払って下さい」というメッセージを作るのです。商店はこの伝票をクレジットカード会社に持ち込み、クレジットカード会社から代金を回収します。次にクレジットカード会社は、商店から回ってきた伝票を、カード保有者が預金口座を開いている銀行に持ち込み、伝票の金額をカード保有者の口座から自分の口座に振替えてもらう。これでクレジットカードを使った支払は完結するわけです。

デビットカード

デビットカードで支払う場合、預金者は自分の口座がある銀行の名前・口座番号が記録されているデビットカード(ATMから現金を引き出すときに使うキャッシュカードと兼用になっています)を商店に呈示し、買い物をした金額がその場で自分の銀行口座から引落とされることに同意します。

商店は直ちにこのメッセージをオンラインで預金者の銀行に伝え、預金者の預金残高を買い物の金額だけ減らします。預金残高が足りない場合、その情報がすぐにその場で商店に伝わり、商店はデビットカードでの支払を受けることを拒否することになります。預金者の預金を引落とした銀行は、後日この金額を、商店の口座がある銀行に支払い、商店の口座に入金してもらう。これで、デビットカードを用いた支払は完結することになります。

支払という言葉

これまで「支払」という言葉を何気なく使ってきましたが、この言葉は2つの異なる事柄を表わしています。ひとつは、おさつやコインという「決済手段」そのものを相手に引き渡すことです。この場合、支払が直ちに決済を意味することになります。

「支払」が表すもうひとつのことは、小切手やクレジットカードなどを用いて「指図手段」――預金の移動を銀行に指示する手段――を取引相手に引き渡すことです(実際、私たちは「クレジットカードで支払う」という言い方をすることがあります)。この場合、預金を相手の口座に移すこと=決済は後になって行われるわけで、相手におさつを渡した場合とは意味合いが異なるのですが、これも一般に「支払」と呼ばれているのです。

つまり、「支払」というのは決済手段または(自分の銀行に対する)指図手段を取引相手に渡すことを言い、このうち「決済手段」を渡す場合にはそれが「決済」を、「指図手段」を渡す場合には言わば「決済の予告」を意味することになるのです。