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第4章 決済と信用2.決済の段階で生ずる信用

取りはぐれの心配と信用

次に、決済の段階における時間差、すなわち「物やサービスの引渡し」と「おかねの引渡し」との間の時間差から生じる信用について考えてみましょう。こういう時間差がありますと、「品物やサービスを渡したのにおかねがもらえない」とか、逆に「おかねを払ったのに品物やサービスが受け取れない」ということが起こり得ます。そのような「取りはぐれ」(品物やおかねをもらい損ねること)が起こりますと、決済してくれない相手に品物やおかねを渡してしまった人は、「渡し損」をしたことになってしまいます。言い方を換えますと、「相手から代金や品物を受け取るのを後回しにして、先に自分が品物やサービスを渡した」場合、自分は「相手が約束どおり代金や品物をよこすはずであり、自分は損をしないだろう」と信じてあげているわけです。

元本リスクのイメージ図。いま自分が相手に品物を渡し、あとで相手からおかねを受け取ることにしたが、それが受け取れない場合、代金まるまるを損してしまう。その可能性のことを「元本リスク」という。

この信用の大きさも、取引と決済との間に時間差がある場合と同じように、相手が代金や品物をよこさない場合に自分が損をする可能性のある金額で表わすことができます。相手に品物を渡してから代金をもらうまでの間に時間差があるとき、これはどのような大きさになるでしょうか。

この場合、相手が約束を破って代金を支払わないからといって、「裏切り返す」ということができません。裏切られた時には、既に自分は商品やおかねを手放してしまっていますから、自分には取引金額まるまるの損が生じてしまいます。すなわち、この場合、相手を信用している大きさは、代金の金額そのもの(あるいは品物の値段そのもの)で表わすことができるでしょう。

このように代金まるまるを損してしまう可能性のことを(言葉遣いは少々変なのですが)「元本リスク」とか「プリンシパル(principal)・リスク」と言います。決済の段階で、「取引相手から商品やおかねを受け取るより前に自分が代金や商品を渡す場合」に相手を信用している大きさは、元本リスクの大きさだということになります。ふつう、元本リスク(=取引額まるまる)は置換費用リスク(=別途調達するのに要する追加的コスト)に比べ大きいと考えられます。つまり、決済の段階における時間差(品物のやりとりと代金のやりとりとの間の時間差)に伴って生ずる信用は、取引と決済との間に時間差があることから生ずる信用に比べて、一般に大きいと言うことができるのです。

以上のことから、「取引」と「決済」との間に時間差がある時、あるいは「決済」の段階で「物やサービスの引渡し」と「おかねの引渡し」との間に時間差がある時、そこには「信用」が発生していることが分かります。このことは、相手が「約束を守る人だ」と信用できない場合には (1)そもそも品物やおかねをやりとりする約束を行うべきでないし、また約束をした場合には (2)品物とおかねをやりとりする段階で、品物やおかねの先渡しを避けるべきだ、ということを意味しています。実際、信用してよいかどうか分からない「行きずり」の客に品物を売る商店は、レジで商品と代金を「取りかえっこ」して、如何なる時間差も生じないようにしています。

置換費用リスクと元本リスクがある期間のイメージ図。前者は、売買の約束を行う時点から、相手からおかねや品物を受取る時点までの期間。後者は、相手に品物やおかねを渡す時点から、相手からおかねや品物を受取る時点までの期間。