決済・市場

ホーム > 決済・市場 > 決済システムの概要 > 第4章 決済と信用

第4章 決済と信用3.決済と金融

「おかねがない」とはどういうことか

さて、取引相手から信用されている人が品物を買った場合、決済を待ってもらえる可能性があるわけですが、そういう人は、いよいよ決済日がきたとき必ず手元におかねを持っているのでしょうか。あるいは、取引相手が決済を待ってくれなかった場合、この人はその場で直ちにおかねを払わねばなりませんが、そのときこの人は必ず手元におかねを持っているのでしょうか。そうとは限りません。

例えば、厚く信用されている財産家であっても、その日たまたま「おかね」というかたちの財産が底をついていることはありえます。高価な土地や建物をもつ優良商店であっても、メーカーから商品を仕入れるときには(=後日その商品を客に売って代金が入るまでの間は)「手元におかねがない」状態にあるかもしれません。しかし、このような信用されている人や商店は、「必ず返してくれるはず」と信じてもらえるので、よそから――例えば銀行から――容易におかねを借りることができるでしょう。このことから2つのことが分かります。

おかねを手に入れる2つのルートを示すイメージ図。一つは、別の人から、働いて得た賃金や何かを売った代金として手に入れるルート、もう一つは、銀行からおかねの融通を受けるルート。

ひとつは、「決済日におかねが払えない」ということが、単に「決済日に手元におかねがなかった」というだけでなく、「誰もおかねを貸してくれなかった」という事実も示している、ということです。これは、その人が人々から「信用できない人」と位置づけられたこと、言い換えれば、決済や信用の世界では一人前にやっていけなくなったこと、を意味しています。

ところが、おかねでなく、ある品物を約束の日までに用意できなかった、という場合ですと、いくら信用されている人であっても、よそから代わりの品物を借りてくるとか買ってくるということが出来ない場合がありえます。例えば、ある型式の自動車を注文されたのに期日までに完成させられなかったメーカーは、その型式の自動車を別のメーカーから買ってくるわけにいかないでしょう。しかし、おかねは自動車と違って「その場で」手に入れることができるものです。例えば、銀行にでかけていけば――銀行に信用してもらえる限り――直ちにおかねを貸してもらうことが可能です。「約束の日におかねを渡せない」というのと、「約束の日に品物を渡せない」ということとでは、信用されない度合いという点で深刻さがかなり異なるのです。

なぜ金融が必要か

もうひとつ分かることは、「決済と金融がたいへん密接な関係にある」ということです。金融――おかねの融通――が必要とされるのは、おかねを借りねばならない人がいるからです。人々がなぜおかねを借りるかと言いますと、おかねを誰かに渡さねばならないから、つまり決済せねばならないからなのです。決済の中身は、商店への代金の引渡しや、おかねを運用してくれる会社への払い込みなど、いろいろあり得るわけですが、いずれにせよ、決済が行われないのであれば金融は不要であり、金融は決済のために存在すると言ってよいのです。

ところで、決済のために金融が行われると、これがまた新たな決済を必要にします。決済に必要なおかねの融通は、貸すおかねが貸し手から借り手に渡って(=決済されて)初めて実行されたことになりますし、また、おかねを借りますと、約束の返済日にはおかねを返すという決済が必要になるのです。その際、返すおかねが手元になければ、再びおかねを借りて返すことになります。このように金融と決済は密接な関係をもつわけですが、ここで、「おかねの貸借の決済」を「品物の売買の決済」と比較してみておきましょう。

おかねの貸借は、いささか強引に品物の売買になぞらえて、「おかねの売買」とみることもできます。すなわち、例えば銀行から「今日から3ヶ月間おかねを借りる」という取引をした人は、銀行から今日おかねという「品物」を買って、その「代金」(銀行に返す元本の金額+銀行に支払う利息の金額)を3ヶ月後に支払う約束をした、とみることができるのです。取引相手が信用できない場合、品物(ここでは、銀行から借りるおかね)と代金(銀行に返す元本+利息)は時間差なしで交換されますが、この場合、品物の売り手(銀行)は買い手(借入れ人)を信用しており、「代金は後日払えばよい」と言ってくれているわけです。借金する人が信用できない場合、銀行は――駅の売店のように――商品(貸すおかね)と代金(返してもらうおかね+利息)のやりとりを同時にしようとするでしょう。しかし、それでは「借りたおかねをその場で返した」ことになってしまい、借りたことになりません。つまり、信用されない人は、品物の代金の後払いを許してもらえないのと同様、おかねも借りられないのです。

売るものが品物であれおかねであれ、代金の支払いを待ってあげることは相手を「信用してあげる」ことです。銀行がおかねを貸すことを「与信」――「信用供与」のこと――と呼びますが、これには、返済することを信じてあげる、あるいは――品物の売買になぞらえれば――相手を信用して「代金」(元本+利息)の支払を待ってあげるという意味が込められている、と理解することができるでしょう。

信用が必要となる2つの場合を示すイメージ図。一つは、買い手の手元におかねがなく、売り手が代金決済を猶予する場合。この場合、売り手が買い手に信用を供与している。もう一つは、買い手の手元におかねがなく、売り手が代金決済を猶予しない場合。この場合、銀行が買い手に貸付けを行う際に、信用を供与している。