このページの本文へ移動

第8章 決済の工夫5.システムとシステムとの結びつき

結びつけることの意義と難点

話をもとに戻しましょう。おかねの決済システムは、DVPやPVPというかたちで証券や外国のおかねの決済システムと強く結びついています。これは、銀行間で毎日巨額のおかね・証券・外国為替が決済されていることと関係しています。ある銀行が突然証券や外国為替の引渡しを行えなくなり、取引相手の銀行が証券や外国為替をもらい損ねるようなことがありますと、それによる損失――おかねの払い損――は極めて大きいですから、そのことが第二、第三の決済不能を引き起こしかねないのです。損失が連鎖的に発生する可能性――システミック・リスク――を抑制するうえでDVPやPVPは不可欠な工夫です。

しかし、このようにいろいろな決済システムが互いに結びつくようになりますと、新たな問題も起こってきます。それは、DVPやPVPで結びついている2つの決済システムのうち、いずれか一方において決済不能やその連鎖が生じてしまうと、これがもう一方の決済システムにも波及してそこでも決済不能やその連鎖を発生させてしまうという問題です。DVPやPVPは「証券や外国為替がA銀行→B銀行と決済できない時は、B銀行→A銀行という代金決済を止める」という仕組みですから、証券決済システムや外国のおかねの決済システムで決済不能が発生すると、これが直ちに国内のおかねの決済システムにおける決済不能を引き起こしてしまうのです。

いろいろな決済システムが互いに結び付くことで生じる問題を示したイメージ図。証券決済システムにおける決済不能は、DVPのメカニズムを通じて、お金の決済システムに及ぶが、その場合、お金の決済システム内での決済不能が連鎖する心配がある。

難点の克服

そうした状況のもとでは、それぞれの決済システムの作りが十分に安全なものとなっていて、「たとえある銀行が決済不能に陥っても、その決済システムが予定していた決済は予定どおり完了させられる」ようになっていることがますます重要になってきます。システミック・リスク対策が不十分で、決済不能が内部で連鎖的に発生しやすい決済システムは、他の決済システムとDVPやPVPのメカニズムで結びついた場合、自らのシステムにおいてシステミック・リスクが現実のものとなる可能性を高めることになってしまいます。こうした問題を克服するためには、DVPやPVPで他のシステムと結びつくにあたってみずからのシステムについて即時グロス決済(RTGS)の仕組みを導入するとか、ネット決済を続けるにしても日中ファイナリティーのより高い形に改めること――例えば、決済未了の取引が積み上がらないよう、日中に何度もファイナリティーのある決済を行うこと――が必要となってきます。

なお、こうした事情はDVPやPVPという「セトルメント・システム同士の結びつき」だけではなく、事前整理された結果を決済するという「クリアリング・システムとセトルメント・システムの結びつき」についても当てはまります。クリアリング・システムの安全性が不十分であると、クリアリングの結果を決済するセトルメント・システムの場において決済不能が頻発しますから、セトルメント・システムの中で連鎖的に行われているおかねの決済には、当然困った影響が及ぶことになるのです。このように決済システムについては、その効率性とともに安全性が決定的に重要です。決済システムの安全性を維持・向上させて、決済の安定を確保するためにはどういうことが必要か、次にこの点について考えてみることにしましょう。

決済システムの結び付きを通じた混乱の波及を示すイメージ図。(1)お金のクリアリング・システムでの決済不能が、お金のセトルメント・システムに波及し、更に、証券のセトルメント・システムに波及する姿と、(2)証券のクリアリング・システムでの決済不能が、証券のセトルメント・システムに波及し、更にお金のセトルメント・システムに波及する姿が示されている。